ゲームで出会うおばあさんとおっさん
最初にガーッと世界観説明をしてしまっていますが、書きたいことと作品の方向性はこれで伝わると思うので...
どこか作品のあらすじとかに別で書きだした方がよかったりするのでしょうか??
さまざまな技術の進歩が目覚ましい、今より少し未来の世界。そこでは、高速通信技術の発達により、VRシステムの普及が格段に進んでいた。
とはいっても、未だに五感全てを接続するいわゆるフルダイブには至っておらず、ヘッドギアを装着して視覚と聴覚のみ仮想世界に委ねる形となっていた。
それでもその技術はまさしく人々の常識を変えつつあるレベルに達しており、さすがに義務教育となるレベルではないながら、家にいながら仮想オフィスに出社するサラリーマン、家にいながら仮想予備校に登校する受験生等は、決して珍しくはないところまで来ていた。
そんな中、VRを利用したゲームはまさに隆盛を極めており、様々なジャンルのゲームがVRとの融和を試みていく。そのひとつが、この「ガンズロックオンライン」であった。
自分でロボットを作成、カスタマイズし、操縦するアクションゲームであるこの作品は件のシステムと相性が極めて良く、ゲーム自体の完成度も高かったので発売時は大いに、世界的な話題となった。
しかし、複数人対複数人の対戦がメインであることと、完成度からくるハードルの高さ、VRゲーム特有の難しい基本操作等々が合わさり、発売日から1ヶ月ほどをピークに、プレイヤー数自体はそこまで増えることはなかった。
が、それでも、仮想世界の中で大きなロボットが駆動音と共に激しくぶつかり合い、時には半壊しながらも戦い続けるその様は世界中の男性諸氏の心を激しく掴んだ。
結果、実際にプレイするのではなく、他人のプレイを観戦するのがメインの人も多い一種のスポーツのようなゲームとして扱われていた
ガンズロックの販売、運営を手がける会社、ウェスタンカンパニーもその特殊な需要を理解しており、プロリーグの存在、また、トッププレイヤーたちに称号を与えたり、彼らの駆るロボットをプラモデルにして販売するといったことまで行っており、発売1周年を記念して開催された世界大会の中継には世界中から観戦者が集まるレベルの盛況ぶりだった。
そんなゲームで、己の力量を試さん、我こそは次のトップと息巻く新規プレイヤーは多く、またその過半数ががその難易度の高さに振り落とされていくのだった。
♪♪♪
「これからどうしたもんか...」
中田は途方に暮れつつ、自宅リビングのソファに座っていた。するとたまたま娘のしおりが通りかかった。
「お、パパじゃん」
「しおりか」
「なんかあったの?」
娘に突然心配され、ちょっと驚く。
「ん、まあちょっとね...」
「やっぱし」
「なんでそう思うんだ?」
「そこにいるのは珍しくないけど、その座り込んで考えるポーズはなんかあったときのイメージ」
言われて確認すると、確かに自分が深刻そうなポーズをとっていることに気がつく。
「そうか...」
「ま、あんま深刻に考えすぎないほうがいいよ?パパもわりと落ちこんじゃうタイプだもんね」
こちらの事情も聞かず、気楽に構えろと言う娘の能天気さに苦笑する。ただ、今の父親にはとてもありがたかったのも事実である。
「今度話聞いたげるよ、時間ある時にね」
「おう、頼むな、どら焼きと引き換えだ」
「いえすいえす、やったぜ」
したり顔を披露した後、しおりはさっさと自分の部屋に戻って行ってしまった。基本的に何か話すときは和菓子を囲って話すのがこの家族の習慣なのだ。
普段となんら変わらないいつもの会話は、彼女の指摘通り落ち込み気味の今の中田にはありがたかった。
中田一敏...彼もまた、「ガンズロック」の男の世界に魅入られた一人であった。昔からロボットアニメや漫画が好きであり、結婚して世帯を持ち、娘を立派に育て上げて尚、その道から離れることはなかった。
ゲームは発売された当初から熱心に遊んでいるものの、ゲームのメイン層である20代〜30代に比べるとやはり気持ちや体力の面で劣ること、会社勤めなのであまり多くのプレイ時間を確保できないこと。
なにより"良き"チームを見つけることが未だ出来ずにいた彼は、現状このゲームを心から楽しめているとはいえない状況だった。それでも、このゲームで、子どもの頃の夢だった自分だけのロボット、それを駆るエースパイロットを目指して遊び続けていた。
今回彼は、チーム戦での度重なる失敗を指摘され、結局所属していたチームは脱退してしまった。
元々ゆきずりの初心者がゲームを遊ぶために集まる寄せ集めのチームで、中田含め全員がお互いに大きな思い入れがある訳でもなかった。
共にゲームを遊び続けていれば、自然と絆が生まれるのではないか、入った当初は考えていたが、実際には遊ぶ時間のズレ、世代のズレ、そこからくる連携の差、仲間意識の差は、むしろ彼を仲間ハズレにしてしまっていた。それを薄々感じていたところで、今回の事件である。良い機会でもあった。
冷静さを取り戻してきた彼は、今度こそ、連携の取れるチームに所属しよう、それが出来ないならこのゲームとの距離を置こう、と考えるに至った。
♪♪♪
次の日、改めてログインした彼は初心者向けロビーに真っ先に入った。言わずもがな仲間を見つけるためである。ここは、チュートリアルを終えた初心者が最初に通される場所である為、常に一定の人で賑わっていた。
新人のチームへの勧誘、初めて遊ぶ友達との待ち合わせはもとより、初心者同士の対戦を望むものもここで希望者を募るのが慣習になっていた。
「さて、来てみたは良いものの、どういうプランで行くか...」
ただ勧誘されているものに入っていくだけでは前回所属したものと何も変わらない、自分から勧誘する側に回るのが手だろうか...そんなことを考えている時、事件は起きた。
音声通話申請が届いています
「ん、なんだ?」
突然の通話申請である。BBという見覚えのない名前だったが、どうやらこのロビーからだった。軽く辺りを見回すと明らかにキャラ作成を終えてすぐのような飾り気のない女性のアバターがこちらを見つめて立っていた。警戒しながら通話に応じる。
「もしもしー?これどうなったのかしら?つながった?もし?」
明らかに困惑した様子のおばあさんの声だった。
「えっ」
「あっ、声が聞こえたわ」
「...えーっと、はい繋がっています」
「あーよかった」
安心した様子の声が聞こえてくるが、今度は中田は混乱する。おばあさん?なんで?何かのいたずら?ガンズロックを?ゲーマーなのか?
「突然ごめんなさいね、なにがなんだか全然わからなくて、誰かに説明していただこうと思ったんだけど、なかなかお話しできるひとが捕まらなくて」
「な...るほど...」
とりあえず意思の疎通ができそうなことにに一旦ほっとする。そしてよく聞くと、落ち着いた印象の、しっかりした声であった。落ち着け、案外自分と同じくらいの年齢の女性かもしれない。自分も若いとは言えない年齢であることを思い出す。
「たしか、ゲームを開始して、色々説明を聞くと、ここに飛んでくるようにできているんです、説明がちんぷんかんぷんでした?」
「...実はですね、孫にこのゲームを少し遊ばせてあげようなんて思ってこの機械を貸していたら、ここにいてしまったって感じなんです、だからその説明?も身に覚えがないんです」
理屈は通る。孫の遊ぶゲームに危険はないかどうか心配になったおばあさんなのだろう、と話から中田は推測し、警戒を解いた。
「良かったわ、親切にありがとうございます」
移動の操作も若干おぼつかなかったおばあさんに一通りのロビー内での操作を説明する。
「お孫さんはおいくつくらい何ですか?」
「今度小学校の3年生になるんです」
「じゃあゲームで遊びたい盛りですね」
「そうなんですよ、もうずーーーっとやってるもんで、ちょっと心配になりまして」
「とはいえ、今時の子どもはゲームで友達とコミュニケーションを取ったりしますからね」
「そうなの、こないだも、友達と遊ぶからこれ買ってー!って、新しいソフトをねだられちゃって」
ゲームの中とは思えないくらい世間話に花が咲く。
「でも、なんだか申し訳ないわね、こんなに色々教えてもらってしまって」
「いえ、実は私も、一緒に遊ぶ人を探しているところでして」
「あら、そんな風にはみえなかったれど...」
そこまで話していたところで、ぴろん!と通知音がなる。中田の端末にメッセージが届いた音だった。
対戦希望:3on3
(3on3の対戦をしたいのですが、ちょうど二人足りない状況です、いかがですか?)
どうやら、二人でロビーに長いこといたので対戦希望だと思われていたらしい。
「どうかなさいました?」
「我々と対戦をしたいっていうお誘いが来たんですけど...」
孫のためにゲームの勉強に来たおばあちゃんに対戦をさせて良いものか、そもそも対戦ゲームにお年寄りを誘うのって倫理的に良いのか?
「あら、対戦ってことは、ロボットに乗るやつでしょう?私やりたかったのよ!」
「そ、そうなんですが...操縦は初めてですか?」
「いえ、ここに飛ばされる前はずっと乗ってたのよ?それとあんまり変わらないのでしょう?」
言われてみれば、ゲーム開始直後はギアの設定も兼ねて操縦のチュートリアルが入るのを思い出した、しかし、実戦となるとまた勝手は違うものだ。
(こちら、対戦が初めての方がいるのですがいいですか?)
念のため断りのメッセージを入れておく。数秒とたたずに返事は来た。
(こちらも初心者なので大丈夫です!お願いします!)
事前に了解がとれれば、波は立たないだろう。
「まあそういうことなら...わかりました、やりましょう」
「ええ、お願いします」
「我々二人が、向こうの方お一人と組む形になるみたいです、その人とは音声チャットが繋がりますが、構いませんか?」
「大丈夫ですよ」
淡々と、待ちきれない様子のおばあさんをみて、不安を感じながら対戦開始ボタンを押した。周りの視界が一気に暗くなる。いよいよ対戦が始まるのだ。