ふわっとしたチームの初陣
メニュー画面から対戦開始のボタンを押すと、オンライン上で対戦相手を探すマッチングが始まる。
ルールは3on3デスマッチ。このゲームでもポピュラーなルールだ。
三人組のチーム二つが同じマップに投下されて、先に三人全員が撃破されたチームが負け。単純で分かりやすい。
すぐさま対戦相手が見つかり、試合が成立。いよいよこのチームの初陣が始まるのだ。
画面が暗くなり、コックピットの視点に移る。
機体が空挺投下され、見慣れたマップが視界に広がる。
前回と同じブロークンシティである。
「えーと、私が先行して空から様子を探ってくるわね」
「お願いしまーす、そしたらBBさんがくれた情報を元にアタシがチャンバラします!!」
「俺は少し離れたところから戦況を見て、適宜火力支援します」
自然と事前の打ち合わせを復唱する。
「うん、完璧ね。じゃあ行ってくるわ」
おばあさんは満足そうに言って、機体を空に浮かべる。
...ちょっと負けフラグっぽく聞こえるような?
「アタシも敵のリス位置に向かって少しずつ先行します。タンクさんも来ますか?」
「先に見つかったら台無しだから、少し後ろにいるよ、撃ち合いが始まったらすぐ合流する」
この機体はノロいし、図体もデカいしで隠密には向いていない。
今回はBBさんが間違いなく索敵を行なってくれる訳なので、この一番火力があって一番ノロマな機体は最後に登場するほうがいいという判断だ。
「了解です!行ってきます!」
リョウさんの二刀流も姿勢を低くして前方に進んでいく。
それを見送って、少し後方から敵の出現位置へ前進する。
「リョウさん、見つかったわよ!このあたり!」
程なくBBさんから連絡が入る。と同時に、戦場マップにピンが打たれる。
「3機固まっていて、全部人型よ。大通りの方へ進んでるわ!」
完璧な状況提供だ。
「了解、こっちのタイミングで仕掛けます!!」
「オレも向かうけど、待たずに始めてて!!」
打ち合わせ通りの流れに感動しながら、指定の位置に向かおうと機体を走らせていると...。
唐突に大きな音が鳴り画面にWINの文字が浮かぶ。
勝ったらしい。どうやら、このチームの最初の戦いで、オレだけが相手チームの機体を一度も見ることもなく勝ってしまったようだった。
♪♪♪
その後、もう数試合遊んで様子を見ようという話になり、連続して試合を行うものの、その全てに勝利。
結果、初日の戦績は8戦8勝。全勝の勝率100%という結果となった。
ちなみに、おばあさんがくたびれちゃったので今日は終わりなのである。
「ふぅぅぅぅむ」
二振りの大ぶりな剣を地面に突き刺し、腕を組んで仁王立ちするリョウさんの機体。
場所は作戦会議をしていた、共用のトレーニングモード用訓練場。
結局、彼女はこの8試合全てで三機撃破を達成し、事実上このチームのワントップエースとなっていた。
最初の試合以降は、何度か敵を斬り伏せるその瞬間を目撃したが、とても鮮やかな剣術だった。
2本の剣を持っていることを活かして、片方の剣でぶった斬りながら、もう片方の剣を振りかぶる。
時には遠心力を利用して周囲の別の機体に一太刀ずつ。
セラさんから手解きを受けているというのも納得だった。
しかし、当の本人は少し不満そうに見えて...?
「なんか、アタシばっかり楽しんでるような気がします」
「そんなことないわよ、空からチャンバラを見ているの楽しいわ!」
BBさんが訂正する。
「時代劇はそれなりに見たつもりだけど、ロボットがやってるとまた迫力があるわねぇ」
おばあさんの意見はオレと全く同じようだった。本当にリョウさんは上手な剣術を使うのだ。
「もし、不意打ちが上手くいかなくて苦戦する時は、オレが飛び出してフォローに回るつもりではいるんすけど、リョウさん綺麗にやっつけちゃうんですもんね」
「いやでも聞いてください、事前に相手の機体の種類と場所がわかるのって、とんでもなく有利なんですよ」
リョウさんが熱弁する。
「セラ君にも、事前に相手の場所と機種がわかった時は可能な限り不意打ちの一撃で仕留めろと教わったんですが、おばあちゃんのおかげで常にそんな調子なので」
「てことは、たまたまBBさんのドラゴンとリョウさんの二刀流剣士型ってのは抜群に相性がいいってことですね」
確かに、これまでの経験から考えても、この二つが同じチームで対戦相手に来ることはなかった。まして、どちらか片方だけでも珍しいと感じるレベルだ。
このゲームは、対戦が始まってもお互いのチームの機体は公開されない。
それは、緊張感を持たせたまま戦闘中に機体の識別を行ってほしいという意図だと思っていた。(機体に乗せるセンサー周りに重要性を持たせたい理由もあるだろう。)
しかしそのシステムが、我々のチームにはとても大きなアドバンテージになっていた。
こういった珍しい機体の編成はそれだけで不意をつける。いきなり戦闘が始まってから珍しいチームだとわかっても咄嗟の対処は難しいだろう。
この連勝は確かにリョウさんのいう通り彼女の剣術がズバ抜けているだけではないのかも。
「作戦会議の時に、どこを目指すかって話をしてたじゃないですか。私たちのチームならもう少し上を目指すことも可能だと思います」
そこまで言って、暫し沈黙する。
「えええーと、アタシあんまりこのゲームのランクのシステム詳しくないんですけど、タンクさんご存知ですか?」
どうやら、具体的なランクの話をしようとしたものの、知識がないのでフリーズしたようだ。
「自分でそこまで高みに行ったことはないですが、知識としてあるものをお伝えすると...」
このゲームのランクマッチは、5段階に分かれている。
E.D.C.B.Aの五つだ。
それぞれである程度勝利を収めると、ランクアップ昇格戦に移行する。
そこでは、決められた試合数のうちに目標の勝利数を収めることが条件となる。達成すると即昇格。
とはいえ、この昇格戦がかなり鬼門であり、昇格先のランクの相手と戦うことになる。その上で勝利を収めることが目的となるので...
それまで仲良くゲームで遊んでいたチームが、昇格戦で格上相手にボコボコにされた結果、一気にチームの雰囲気が悪くなり、喧嘩別れという現象がよく報告されていた。
「今我々が戦っているのは最低のEランクなので、上を目指そうと思えばいくらでも上がれます」
「ランクが上がれば相応に強いヤツには当たるはずってことですね!」
先ほどからリョウさんの言葉を聞いていると、どうやら敵が弱くて味気なさを感じているのは間違いないらしい。
「じゃあ、とりあえず今の構成で行けるところまで行くことを目指してみましょうか!!」
「異議なし!!」
勢いよく拳を突き上げて答えるリョウさんの機体。
「BBさんも、今の説明でわかりましたかね?」
「たくさん勝つと強い方達と当たるようになるってことであってる?それで、とりあえずこのチームで強い方達と戦ってみるってことよね?」
「完璧です!」
流石だ。理屈は難しくないとはいえ今の説明で理解できるとは。
「同じ腕前の人と戦えるようになってるって、昔タンクさんに伺ったけど、そういうシステムだったのねー」
ということで、意気揚々と来週からの遊べる日取りを共有して、その日は別れた。
おそらく、この調子ならEランクならそこまで苦戦はしないだろう。となれば次はDランク昇格戦。
解散してみると、8連勝の喜びが体に湧き上がってきた。
別にこの連勝では、四脚はいざという時に備えていただけで、何もしていないと言えばそうなのだが。
チームリーダーとして、あのチームの結成に尽力した人間として、夢にまで見た息のあったチームでの連勝はこれまでの敗北すら肯定されるような心境だった。
となれば、次はリョウさんも言っていた通り、さらなる上位ランクでの戦闘を見据えて、機体を更に使いこなして、立派に司令塔を果たせるようにしなければ...。
これまでにないゲームへのモチベーションに燃えていた。