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おばあさんとおっさんのプロローグ

一匹の竜が空を泳ぐように飛んでいる、ゆっくりと登っていき、もはや地上が見えないようなところまで。


その中で、竜は自分の過去、これまでにあった様々なことに想いを馳せ、微睡むようにしながら、ただ一心に飛んでいた。


時には翼を大きく広げて動きを止め、飛んでいけるギリギリまで垂直上昇、それに飽きたらその場でぐるぐると回ってみたり。


目の覚めるような青空の中で孤独に、踊るように、遊ぶように飛ぶ竜は、どこまでも自由で、どこか寂しげだった。


♪♪♪


「ばあちゃん、こっちこっち!このあたり!」


「はぃはぃ、今行くから、あんまり慌てなさんな」


男の子が、おばあさんの前を駆けていく、先を急ぐ足取りは少し危なっかしい。ここはとある百貨店のおもちゃ売り場である。


「急がないと、なくなっちゃうかもしれないんだよ!」


「あれま、そんなに人気なのかい?すごいんだねぇー」


少しとぼけた返しをしつつ、おばあちゃんは男の子のあとを落ち着いた足取りで追っていた。


「こうき、慌てすぎて転ぶんじゃないよー!


背は小さいが、しゃんと伸びた背筋でゆったりしたトレンチコートを着こなしたおばあちゃんは、未だ落ち着かない孫に対して呼びかけた。


「あった!!こっち!ばあちゃん!!」


「はいはい、ちょっとは落ち着きなさいな」


こうき、と呼ばれたおとこのこは、おもちゃ売り場のゲームコーナーに着くと、すぐさま目当ての物を見つけた。


(こういう時のこどもの注意力ってのは、すえおそろしいものがあるね...、最近失くしたがまぐちもこの子に探してもらおうかしら)


おばあちゃんは素直に感心しつつ、声のする方へと向かう。


「それでいいのかい?」


「うん!何度も友達に見せてもらったから間違いないもん!」


「そうかい」


勇者が剣を振るう、ファンタジーなゲームのパッケージを軽く確認する。


「でもねこうき、おばあちゃんは今ちょっと怒ってる」


「え....?」


おばあちゃんの表情が真剣なものになり、ニコニコだったこうきの表情は一気に暗くなる。


タイミングがタイミングなので、最悪の想定が幼い頭を過ぎる。


「確かに、売り切れちゃうかもってゲームなら急ぐのもわかるけんどね、こういうたくさんお客さんがいるお店で、あんなに走ったら危ないでしょうに」


「う...うん、はい」


百貨店の中は、平日の昼間なので、まばらに人がいる状態だった。


「誰かにぶつかって怪我させちゃうかもしれないし、もしおばあちゃんとはぐれちゃったら、どうするつもりだい?」


「あ...」


「ちゃんと反省する?」


「もうしません」


「よし、いい子だね」


おばあちゃんはもとの笑顔に戻り、こうきの頭を軽く撫でた。ちゃんとダメなことはダメと嗜めるが、基本的に可愛い孫なのでバッチリ甘やかしていくのがこのおばあちゃんである。こうきもまんざらではなさそうだった。


「さて、お会計済ませたらご飯でも食べようか、美味しそうなお店あるか見てくるかい?」


「うん!あそこのハンバーグのとこがいいなー」


今度は足早ながらもしっかり歩いていく孫の姿を見て、あれくらいの男の子はせっかちなのが普通なのだろう、と思い直しつつ、手に持ったパッケージをレジへと運ぶ。


その途中、レジの近くにあった一つのゲームのパッケージがおばあちゃんの目に留まった。


カッコいいロボットがいくつか描かれた「ガンズロックオンライン」いうタイトルらしいゲームは、傍目から見たら、そのお年寄りとはとてもマッチしないゲームに見えた。しかし、その表紙のロボットの中の一体、いわゆるドラゴン型のロボットが空を飛んでいる姿に心を奪われたのだった。


おばあちゃん自身もなぜこんなに気になってしまったのかわからなかったが、それを手に取り、値段が定価より少しより安くなっていることを確認する。


(可愛い孫へのサプライズプレゼントってのいいかもね)


そう考え、二つのパッケージを手に改めてレジへ向かうのだった。


♪♪♪


人生は順風満帆だ、ただ一つの問題...ゲームが下手なこと以外は。


「いやー、流石にちょっとアレはね...」


「もうあの人のアレは注意とかで治るものじゃないんでしょう?」


「本人もマズいとは思ってるみたいだけど、クセになってて改善できないんならどう思ってても同じだよね」


ここは「ガンズロックオンライン」のゲーム内ロビーである。響き渡る陰口からも、険悪な雰囲気が感じられた。3人のプレイヤーキャラクターがチームメンバーの愚痴を言い合っている場面である


「せっかくみーくんが上達してきているところなのにね」


「ミロだけじゃない、みんな少しずつ上達は感じられるんだ」


「だからこそ余計に気になるんだよねー...」


そんなあからさまな仲間外れにされた悪口を、今、当の本人が聞いてしまっている状況であった。

ゲームのシステムで、自分のログイン状況を隠す方法があり、彼は今まさにそのシステムを使って遊んでいたが、結果としてこの場にいないから大丈夫、と判断したメンバーの陰口を直接聞いてしまうハメになってしまった。


「俺たちも結構さ、面倒見いい方だと思うんだけどね」


「もう結構くちすっぱくしてるもんねー」


「あんなん、それこそランク入り目指してるチームだったら即クビでしょ」


繰り出される言葉の矢面に立つ男、タンク...本名、中田一寿47歳男性(既婚)は、怒りと恥ずかしさと申し訳なさがないまぜになり顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべていた。ここ数年で一番パニックになった瞬間でもあった。


おそらくこれ以上、ここで聞いてもいても辛いだけだろう。そう判断した彼は、逃げるようにログアウトボタンを押し、ヘッドギアを脱いだ。

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