265日目~300日目。おわり!
265日目。
魔王に許可を貰って、魔王城に滞在させてもらう。
ついでに魔王の身体を調べさせてもらって、どういう状況なのかだけ把握させてもらった。
なるほど歪みね。これは酷かった。
いわばこの世界にありながら別世界の法則を体現する存在。存在そのものが魔界のような存在。
確かにこれは正しい法則で上書きでもして正さないと、世界を歪めるだろう。
然し、だからといって絶対的な悪でも、まして向かい合う正義でもない、全くの無実、運命の悪戯で巻き込まれただけの人間を倒すとか。俺にはありえない。身内にそんな事をさせたくも無い。
何か方法が有る筈。
266日目。
魔王城の図書室の閲覧許可を貰った。
魔王さんも魔術は使えるが、どっちかというと法則無視の魔法使いであるため、魔導書とかの理論面は弱く、図書室は諦めて以来滅多に利用しないのだとか。
然しここにいる俺はSFだろうがファンタジーだろうがドンと来いな頭でっかち男だ。任せろというのだ。
早速蔵書を調べてみたが、中々に面白い。
王国の図書館と違い、禁書焚書がざっくざく。
SAN値が下がりそうだ。
267日目。
新たに得た知識を使って、魔王を検査しなおしていく。
わかった事柄から再生して、色々と知識を組み合わせていく。
ふむ、何とか為らないでもないかも。ただ、圧倒的に時間が足りないのだが。暫く睡眠時間をけずらにゃ。
270日目。
ホムンクルスの研究中。
魔王の『歪み』は、肉体に起因する物であって、魂と精神自体は普通のもとの限りなく近い。違うとすれば、歪みを扱える程度に変化している、という事ぐらいか。
ならば勇者に倒され、魂が消し飛ぶ前に、別の肉体に精神と魂を移植すれば、なんて思ったのだが。
如何だろうかねぇ。
歪みだけを消し去るのは不可能っぽい。勿論移すのも。本当、呪われてる。
278日目。
ホムンクルス培養中。失敗したかもしれない。
何故か魔王のクローンは幼女になっていた。なんでさ?
しかも自意識持ち。自我がちゃんとあるのだ。なんてこった。がっでむ。
その上何処と無く俺に似ている。もしかしたら、俺の血が混ざってるかもしれない。実験中に怪我したからなぁ。もしかしたらソレが、魔王さんの血を上書きしてたのかも。
意志のある存在を乗っ取る事なんて、あの魔王がよしとする筈もない。俺だって認め辛い。
魔王の側近から廻ってきた情報だと、勇者の襲来が近いんじゃないかと噂されている。
くそう、麗火め。流石俺の妹仕事が早いってか、やるんじゃなかった露払い!!
282日目。
流石ホムンクルス。フラスコの小人は伊達じゃない。
フラスコの中にいながら世界を知るというホムンクルスだが、俺の作ったこいつはフラスコに縛られない。
それでいて俺より役立つというのだから、もう正直俺要らないんじゃね? なんて思うわけだ。
然し、投げ出すわけにも行くまい。
一応名前を与えてやった。メイシェン。この世界では珍しい響きだ。
ちょっと嬉しそうにしたメイシェンに驚いたが、頭を撫でてやると気持ち良さそうにしていた。
284日目。
魔王の側近の一人、狂乱の魔女が部屋に訪れた。
なんでも俺の計画を知って訪れたのだとか。
彼女の提案は、魔王のクローンを自分の腹で育てたいという話。
おいおいと思わないでもないが、まぁそれならかなり確実に出来なくも無い。
けどなぁ。代理母って、其処までの技術、俺には無いし。できっかねぇ。
って言ったら、何とかしろって脅された。
寧ろお前が魔王の子孕めばいいんじゃね? って聞き返してやったら、狂乱の魔女顔真っ赤にして照れていた。なんという。これを倒すとか俺には無理。ああくそう!!
290日目。
勇者一行が魔王の森に入ったという噂が流れている。
くそう、不味いぞ、間に合わなくなる。
291日目。
夢の中に少女が現れた。ついに俺も壊れ始めたかと焦ったが、どうにも様子が変だった。
手伝ってやる、とだけ少女は言って、そのまま俺は目を覚ましたのだが。
もしかしてあれ、ツァリだったのか? 星と運命の女神。今まで目だけだったから判別がつかない。
然し、何故か何処かメイシェンにも似ているような気が……。アルェ~?
まぁ、よくわからんが。激励されたっぽいので、頑張って研究を推し進める。
人工培養中の子供は、魔王の完全なるクローンホムンクルス。
その幼生だ。これが一般的な赤子に成長すれば、もう魔王さんの器としては完成なのだけれども。
間に合え間に合え間に合え!!
293日目。
勇者組の到着が遅れている。どうも、勇者パーティーは何故か森で足止めを喰らっているのだそうだ。
魔物たちはちょっかいをかけていないらしいから、本当にツァリがちょっかいを出しているのかも。
くそう、感謝するぜツァリ!!
おかげで、完成だっ!!
295日目。
ついに勇者達が魔王城へと到達した。
細工は流々、後は仕上げをごろうじろ、と言う話。
魔王さんは城の地下ダンジョンへ。城下町の住民は、危険を避けるためにシェルターに避難している。
さて、俺も仮面をつけて、前線に出るかね。
俺の仕事は勇者パーティーを分断して、魔王と勇者をサシに持ち込ませること。戦いそのものの回避は、残念ながら俺ではどうしようもない。世界の摂理を相手にするには、俺では修行不足だ。
本当は移魂にくっついていたいのだが、魔王たっての願いという事で、勇者の仲間を一人、足止めを引き受けることに。
勇者組は明日の夜明けと共に城に侵入する心算のようだ。
さぁ、正念場ですよ。
296日目。
ついに麗火が攻め込んできた。
魔王城の主要な通路以外は、勇者が進入して来ないように封鎖してある。
更に主な通路には、パーティーを分断するべくトラップがわんさか。俺監修なのだ。序盤のダンジョンで疲れていたあの連中に、回避しきれる筈もなかった。致命傷に至るようなトラップこそ無いものの、連中の体力は相当削れている筈である。妹相手になんという鬼畜な所業。でもこれも愛と己の信じる道がゆえに。別に妹の半泣き顔に萌えているとか言うわけではないのであしからず。
さて、俺の分担はエレインの足止めだ。
頑張るかね。
297日目。
エレインに正体がばれつつ、魔王の最期を見届けた。
即座に術式起動。魂と精神の転写開始。
俺の創造した真っ白なホムンクルスに、魂と精神が書き込まれていく。
霊的視覚からソレを確認して、最期にフラスコを開放する。
おぎゃぁ、という泣き声。どうやら……どうやら成功したらしいことを確認して。思わず息を吐いた。
完全に成功した、という自信はないが、少なくともこの赤ん坊は魔王の生まれ変わりだ。
何処からか現れた狂乱の魔女にその赤子を託す。どうもこの魔女、本当に励んで魔王の子を孕んだらしい。俺が嗾けといてなんだが、すげぇ。
この魔女、魔王とその子供を一緒に育てるのだ。頑張って欲しいものだ。
あと、なんか魔女さんに感謝の印とかいって頬にキスされた。キスされたら、なんか身体光った。
これって件の精霊の加護? え、魔女さん精霊? とか思って聞いたら、魔女さん闇の精霊らしい。
流石魔王の側近。並々為らない。
298日目。
麗火が愕然としていた。そりゃそうだ。自分が殺したのが、実は何の罪も無い異世界の、同郷の人間だった、なんていわれりゃ、そりゃ落ち込む。
出来れば殺すというプロセスを俺が代行してやりたかったが、残念ながら俺は勇者ではない。
魔王はちゃんと転生したって言っておいたが、気休めだなぁ。
頭をなでなでしておいた。元暗殺者が凄い目で睨んできたが、ニヤニヤを返しておいた。
因みに、帰りは俺が転移で送ってやった。
俺の魔力は無制限。転移距離も無制限。まさに神出鬼没。
その時点で既に日も暮れていた。城にあがるのは明日からにするそうだ。
何故か俺も城に連れて行かれるらしい。
299日目。
全てが終わった事で、勇者を召還できるらしい。つまり、麗火は元の世界に還れるのだ。
お兄いは如何するの? って問われて、如何しようか悩む。
何せ、俺は元の世界でどういう扱いになっているのか。多分死んでるんじゃないか?と思って聞いてみたら、意識不明の重体で病院にいるらしい。心臓を撃たれたと思ってたが、どうやら幸い直撃は避けていたらしい。
うぅむ、つまりここにいる俺は、別の身体に転写された精神と魂……? それって魔王に施した俺の施術?
なに、つまりツァリとおんなじことしたのか、俺。
まぁ、ソレは別として、この世界に愛着もあるんだよなぁ。
一年も過していなかったものの、割と気に入っているのだ。
問われて、明日までに答えを返すと約束した。
さて……。
300日。
結果、俺は還る事にした。
何、俺とて所詮は人の子よ。帰れると知れば、妙に家に帰りたくもなった。
それに、一度還る事にしたというだけで、この世界にはその内必ず還ってくる。
夢の中に、またツァリが現れたのだ。お前の力なら、世界だって渡れる、と。私の加護は伊達じゃないのよ! だって。
宜しい。信じた。
結局、俺は麗火と並んで魔方陣の真ん中に立った。
俺の作ったホムンクルス幼女のメイシェンはコーネに任せた。あいつならいい感じに面倒を見てくれるだろう。生活費は俺の貯蓄を丸々と。
武器防具の類も、一応コーネに預けておく。さすがに、ばあちゃんに貰った最初の魔銃だけは手放せなかったが。
さて、そろそろ召還が始まる。
なんだか機嫌の悪そうなエレインも、どうやら別れを惜しんでくれているらしい。判りにくいのは流石ツンデレ、としか言い様が無い。
さて、それじゃ最期に挨拶してくるか。
俺の異世界譚、これにて終わり!