1日目~30日目。
名前は社 仁。高校二年生の、青春真っ盛りな俺。
どうやら異世界に召喚されてしまったらしい。がっでむ。
正確に言うと、間違えて召喚されたのだとか。
正直やってられない思いではあるものの、墜落した森で、そこの管理人を名乗る魔女のばあちゃんに拾われた。
幸い言葉は通じた。何故だか知らないが。どうも保護してくれたらしい。ありがたい。
夕食にあったかいスープを貰った。
2日目。
あの生意気にも神を名乗った巨大な目玉、間違えて俺を召喚した挙句、お詫びとか言って魔力なるものをくれたらしいのだけれども、残念ながら俺は魔法なんて知らない。宝の持ち腐れである。
……なんて言ってたら、ばあちゃんが魔術を教えてくれるらしい。ラッキー。
魔法じゃなくて魔術なんだとか。如何違うのかは知らん。
因みに言葉は世界を超えた時に自動ですげ変わったのだとか。ようわからん。
3日目。
ちょっとずつ魔術を習っている。
といっても今習っているのは、体内に存在する魔力を、自分の思う通りに動かす、と言うものだ。
なんでもばあちゃん曰く、「お前の魔力はでかすぎる」とのこと。たかがマッチの火種をつけるのに、ポリタンクいっぱいのガソリンは不要、という事らしい。
4日目。
部屋にこもって魔術の練習ばっかりじゃ不健康だ、とのことで、今日は昼から野良仕事に出た。
ありゃ口実だな。まぁ、いいんだけど。
5日目。
筋肉痛。魔術の勉強。
6日目。
まだ身体が痛い。ばあちゃんに散々「情け無い」云々と文句を言われたが、何せ此方は現代人。野良仕事なんて人生で数回しかしたことが無いのだ。
まぁ、異世界に着たからにはそういうのも必要になるだろうし。
今日も魔術を勉強してから、野良仕事に精を出した。
7日目。
ある程度魔力の操作が安定してきたという事で、幾つか簡単な魔術を教えてもらえる事に。
折角なので、色々応用の利きそうな肉体強化の術を教えてもらう事にした。
術、といっても生来の肉体を循環する魔力の流れを、意図的に加速させる、というだけのものだ。
簡単に習得できたので、今日はそのまま一気に畑を耕した。気持ち良いぐらいのハイペースだった。
8日目。
筋肉痛。死ねる。
9日目。
筋肉痛はまだ酷い。
なんでも身体強化というのは、実際に肉体が強化されているわけではなく、魔力という霊質で身体能力をブーストさせている物なのだとか。
要するに、力は強くなってるけど、その分身体も疲れやすくなってる、という事。
道理でばあちゃんこの魔術使わないわけだ。
運動サボれるかとおもったんだけど。どうやら身体を動かすのは必須らしい。
10日目。
まだ筋肉痛が酷い。見かねたばあちゃんが治癒魔術を教えてくれた。
あっという間に筋肉痛が治った。最初からこれを使ってくれていれば早いのにと思う。
とりあえず暫く治癒魔術の練習。
13日目。
ちょっと間が開いた。治癒魔術は習得。
治癒魔術は回復力を高めるもので、無制限に回復したり出来るわけではないらしい。術の強度とか、魔力量とか、被術者の体力とか。血は補給できないし、肉体の欠損は補えなかったり、色々面倒らしい。
とりあえず俺は、魔力だけはずば抜けているので、よっぽどの大怪我以外は殆ど問題ない。
20日目。
サボりすぎた。
肉体強化と治癒魔術の連続で、肉体をとにかく苛め抜いてみた。
通常なら筋肉痛と自己治癒を長期間で繰り返して成長するところを、無理矢理に短期間で成長させたのだ。
「なんと頭の悪い方法を」とはばあちゃんの談。なにせ肉体強化も治癒も、割と燃費の悪い魔術なのだ。まさに大量の魔力のなせる技。ちょっとだけあの目玉に感謝。
21日目。
他にも魔術を教えてくれるらしい。強化系の魔術は、基本肉体強化の応用でいけるらしい。そっちは自習しとけとのこと。その程度なら出来るので、そこはおk。
いよいよ攻撃を教えてもらえるのかと思ったら、今度は防御の魔術を教えてくれるのだとか。
まぁ、喧嘩は好きじゃないし。どっちかっていうと防御の方が好きだし、いいさ。
22日目。
なんという事でしょう。自分でも驚いています。
どうも防御の魔術は適性が有ったみたいで、一日で殆ど習得できました。
なにせ殆ど魔力制御の応用でいけたし、あとは空間認識力にちょっと才能が要るかな、と言う程度。
俺は音感とか空間認識力とか、割と定評があるからねぇ。
23日目。
薪割りをしてたら、ゴブリンに襲われた。
持ってた手斧でゴブリンを倒したものの、グロにちょっと気が滅入る。
生き物を殺す感覚っていうのは、どうにも好きじゃない。
それでも、俺は生きていたい。敵対するなら、其処に容赦できるほど俺は強くない。
南無。
24日目。
ばあちゃんが「最後の試練じゃ!!」とか言って、新しい魔術を教えてくれた。
空を飛ぶ魔術。いや、俺まだ攻撃魔術習ってないんですけど?
とりあえず教わった通りにやってみたら、意外と簡単に習得できた。術自体よりも、魔力の消費がちょっと早いな、と思う程度。
感覚だけは良い方なのだ俺は。プールでAMBAC(Active Mass Balance Auto Control)とかやってたんだぞ。スカイダイビングだって経験あるし、こつをつかめば簡単だった。
ばあちゃんは何故かガックリしてたけど。
25日目。
魔法、というのは、魔力を使って力技で世界を捻じ曲げる方法で、世界の修正力とかいうのに簡単に修正されてしまうため、基本使う人間は少ないのだとか。使用方法は魔力に念じるだけとお手軽。
魔術というのが、システム化された魔法で、あんまり世界に逆らわないようになっているおかげで、ある程度魔力を持っていれば誰でも使えるのだとか。魔法よりも持続力もあるらしい。
その代わり術理を理解していなければ使う事は出来ないし、術を起動するのに式を通す為、時間とかも多少掛かってしまう。普通は魔導書とかで知識をカバーするらしいが、そこらへんは省略されたんで知らん。
今日の夕飯はシチュー。
26日目。
此処に来て重大な事に気付いた。魔術ばっかり習ってた所為で、この世界の事を全然知らない。
ばあちゃんも今日に至ってそのことに漸く気付いたらしく、今日はそういった知識を教えてもらう事になった。
この国で流通している貨幣は、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨の五種類。
金貨一枚は銀貨10枚で、銀貨一枚は銅貨100枚なのだとか。
小銀貨は銅貨十枚で、銅貨は小銅貨10枚なのだそうだ。
ばあちゃんの言う物価から推測するに、銅貨の価格が日本円の百円くらいに相当すると考えれば良い様だ。
つまり、小銅貨10円、銅貨百円、小銀貨一千円、銀貨一万円、金貨10万円といったところか。
この上にも色々貨幣は存在しているのだが、大体が王宮くらいでしか出回っていないので俺には関係ないらしい。
細かい計算は面倒くさいが、まぁ10進法らしいので、そのうち慣れると思う。
27日目。
ばあちゃんと俺が住んでるこの森は、イストーバという国の東に存在する森らしい。
イストーバは割りと大きな国で、国教は星と運命の女神ツァリを信仰しているらしい。運命の女神? もしこれが俺を引っ張り込んだ神だとするなら、女神ってかむしろ目神っぽいけど。
あんまりこういう事を考えてると、天罰当てられそうだしやめとこう。情け無いが俺は小市民なのだ。
とりあえず、その運命の女神を国教としているこの国のは、国王を頭に据えた王国制度。
対国外に軍をもち、騎士団は王直轄の特別な軍事力。治安維持に憲兵、法に則った裁判を行っているのだとか。弁護士と検察官も存在しているらしい。割と文明的だな、なんて感心した。
28日目。
そんなこんなでそろそろ一月が経過しようとしている。
流石にこれ以上ばあちゃんの家に居候しているのはなんだか悪くなってきた。
何せ俺も一応は男だ。割と喰うし、何気に相応の金はかかっている事だろう。幾ら野良仕事をしているとはいえ、こんなもので返せているとはとてもではないが思えない。
そろそろ、何か外に働きに行かないと。
ニートは不味い。凄くまずいのだ。
30日目。
ばあちゃんに相談してみたところ、この世界には冒険者ギルドなるものが存在しているらしい。
魔物退治から庭先の整備まで、様々な以来を冒険者に仲介する組織。それが、この近所の町にも支店を出しているのだとか。
「そこで登録して働けば、アンタならボチボチは稼げるんじゃないかね」とはばあちゃん談。
なんともご都合主義だとは思うものの、傭兵システムの利便性は、ゲームや物語なんかでわりと知っている。
腰の重い国や規律云々で機動力の低い軍に比べ、金を払って依頼をすれば、大抵誰かが受けてくれるという傭兵システムは、社会的システムの円滑化に一役買っているのだろうと思う。
まぁ、魔術も習ったし、多少は働けるだろう。頑張る。