コーラ
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薄暗い港町の片隅に、小さなコーラの自動販売機が置かれていた。
それは人通りの少ない場所にありながら、いつも新しい缶が補充されていた。
噂では、夜な夜な不思議な魚がこの自販機を訪れるという。
高校生の透は、街の伝説を信じないタイプだった。だが、ある夜、部活帰りにその自販機の前を通りかかったとき、ふと目に入った影に足を止めた。
そこには、鱗が月明かりに反射して輝く魚が宙を泳いでいた。
「……え?」
透は目を疑った。
魚は空中でひらひらと舞いながら、前足のようなものを使って器用にコーラのボタンを押していた。
ガコンという音とともに、缶が落ちてくる。
その魚は缶を拾い上げると、くるりと振り返り、透を見つめた。
「見てしまったのかい?」
低く澄んだ声が頭に響く。
透は思わず声を上げた。
「しゃ、喋った……!」
魚はため息をつくようにヒレを振った。
「まあいいさ。君に少し話をしよう」
魚は「セイレン」と名乗り、実は人間の願いを一つ叶える力を持っている存在だという。
ただし、条件がある。
願いを叶える代わりに「コーラを一緒に飲む」こと。
透は半信半疑だったが、その夜、セイレンと缶コーラを飲みながら話をすることにした。
魚と少年が並んで腰を下ろす奇妙な光景だったが、透は次第にセイレンの話に引き込まれていく。
「人は、欲しいものがたくさんあるだろう?でもその中で、本当に必要なものは一つか二つだ。それを見極められるかが試練だよ」
透は考えた。
自分が本当に欲しいものとは何か。
部活の成功か、家族の幸せか、あるいは誰にも言えない小さな夢か。
夜が更け、セイレンとの時間は終わりを告げる。
透は自分の願いをまだ言えないまま、セイレンは再び月明かりの下へと消えていった。
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