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三節の牙

廃工場の奥へと駆けていく品睿の背後で、鬼の咆哮と金属音が響いた。

それでも彼は振り返らなかった。愛兎があの場を託してくれたのだ、ならば己も応えるまで。拳に巻かれた手布を締め直しながら、品睿は鋼の決意とともに駆け抜ける。

工場の奥はかつての機械棟。巨大なコンベアラインが崩れかけの骨組みを晒し、スチームパイプが垂れ下がっている。

瓦礫の山と鉄屑の迷路のような空間を縫うようにして、鬼は素早く走っていた。


「逃げ足だけは速いな!」


品睿はそう呟くと、腰に差していた三節棍を素早く抜き放った。節と節が鎖で繋がれたそれは、振れば鞭となり、押し込めば棍となる万能の武具。

品睿は助走から跳躍し、降りかかる鉄骨の隙間をすり抜けながら、鬼に急接近していった。


「チッ、しつこい奴め!」


鬼が振り返り、地を蹴った。天井の梁を蹴り上げて跳躍し、品睿の頭上を取りながら、斜めに降下。長い腕を鞭のように伸ばし、品睿を真っ直ぐに薙ぎ払う。


「読めてる!」


品睿は地面に背を滑らせて回避し、そのまま回転しながら立ち上がると、三節棍を中段で固定しつつ振り抜いた。鋼の棍がしなる音とともに、鬼の脇腹を強打した。


「ぐっ……!」


さすがの鬼もたまらず吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。コンクリートが粉砕され、瓦礫が舞う。

だが、それでも倒れない。鬼は血を吐きながらも立ち上がり、眼をぎらつかせた。


「俺を……追ってきたのは失敗だったな」


「どうかな。お前、逃げるつもりだろ?」


品睿は軽く三節棍を回し、姿勢を低く構えた。鬼の肩がわずかに震えた瞬間、次の動きが始まった。

鬼が地面を砕きながら突進。その勢いは猛牛の如く、鉄の壁すら砕かんばかり。品睿は真正面から迎え撃つように走り出した。


「ハアッ!」


直前で跳躍し、空中で三節棍の鎖部分を自在に操る。

棍の一節を鬼の角に絡め取り、その勢いを利用して鬼の背中に飛び乗った。


「降りろォッ!!」


鬼が暴れるが、品睿は体勢を崩さず、背中の上で一回転。そのまま後方へ宙返りしながら棍のもう一端を振り下ろし、鬼の後頭部に強烈な一撃を叩き込んだ。


「ぐあっ!」


今度は確実に効いた。鬼は前のめりに倒れ込み、そのまま廃機材の山へと突っ込んでいった。

着地した品睿はすかさず棍を回し、足元を中心に円を描くように旋回させた。

鬼が瓦礫の中から飛び出すよりも早く、品睿は連撃を仕掛ける。第一撃、膝。第二撃、肩口。第三撃、脇腹。すべての攻撃が音速のように連なり、鬼の動きを封じ込めていく。

だが、鬼もやられてばかりではなかった。タイミングを計り、一撃を強引に受け流すと同時に、太い腕を振り抜いた。


「くそっ!」


品睿は防御に移行しきれず、腹に一発まともに喰らって吹き飛ばされた。壁に叩きつけられた衝撃で息が詰まる。


「……まだだ!」


立ち上がり、歯を食いしばる。額から血が流れ、口元にも赤い線が這っていた。だがその眼は燃えていた。


「終わらせてやるよ、ここでな!」


気合一閃、品睿は再び三節棍を手に駆けた。これまでとは違う。すべてを一撃に込めた、技の極致。


「疾風・連断掌ッ!!」


三節棍が旋風の如くうなり、鎖が風を裂き、鬼の体を包囲する。まるで目にも止まらぬ連撃が幾重にも繰り出され、鬼は防御も追いつかぬまま吹き飛ばされた。

最後の一撃は、跳躍からの垂直回転、頂点からの一点集中。


「喰らえッッ!!」


棍の三節が一つとなり、鬼の頭部へと正確無比に突き刺さるような勢いで叩きつけられた。


──轟音。


爆発にも似た衝撃が空間を揺らし、鉄骨の梁が震え、埃が舞い上がる。

沈黙。しばしののち、瓦礫の下に沈む鬼が身じろぎ一つせず、崩れた鉄板の隙間から赤い血がにじみ出た。

品睿は呼吸を整えながら、三節棍を肩に担いだ。


「……一匹目、制圧」


そして──もう一人の鬼と、愛兎の安否を思い、彼は踵を返した。



前作から間が空いてしまい、すみませんでした…

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