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ルイ

あれから数日が経った。

秀華には一応何かあった時のために連絡先を渡しておいたが、彼女からの連絡は未だない。

とくに問題はないという事だと思うので、喜ばしい事なのだが、それはそれで彼女との接点が絶たれてしまうので寂しいものがある。


「何ぼーっとしてるの?」


優心に話しかけてきたのは、幼なじみの雨望だ。

彼の顔を覗き込み、目が合うとにこっと笑った。


「ぼーっとしてるなんて珍しい。好きな人でも出来た?」


「………ああ、まぁな」


「えっ!!?嘘!?!?誰!?誰なの!?可愛い子!?」


「うっせーな。誰でもいいだろ」


「教えてくれてもいいじゃん〜〜〜」


雨望は優心の肩を揺らしながら言う。

そんな彼女に鬱陶しそうな目線を送るが、効果は無さそうだ。本当に面倒くさい奴である。

こうなったらこいつはテコでも動かないだろう。


「ねぇねぇ、どんな子なの!?可愛い系!?綺麗系!?」


「綺麗系だな。美人でスタイル抜群だ」


「うわ、気になる〜!今度会わせてね!絶対よ!」


会わせるわけがないだろ、というツッコミをするのも疲れたので、はいはい、と適当にあしらうことにした。


「あっ、そういえば聞いた?黎明学院のマドンナが帰って来たんだって!」


黎明学院というのは、秀華が通っている高校だ。名門校で、偏差値も高く倍率も高いため、有名だった。

そしてマドンナと呼ばれるのは、言わずもがな秀華のことだ。

容姿端麗な上に成績優秀で品行方正という完璧超人である彼女は、男女共に憧れの的であった。


「おめーはいつもどっから情報仕入れてやがんだ」


「だって可愛川秀華さんって人、すっごい綺麗なんだもん!憧れちゃうよね〜」


雨望はうっとりとした表情で言う。

確かに彼女は美人だが、優心にはそれ以上に可愛いと思う部分があった。

あの笑顔とか、仕草がとても可愛らしいのだ。

そんなことを考えているうちに授業開始のチャイムが鳴り、教師が入ってきたため会話は終わったのだが、授業中ずっと彼女のことを考えていたせいで全く集中できなかった。


(早く会いてぇな……)


秀華に会いたいという気持ちだけが募っていくばかりだった。






放課後になり、優心は急いで教室を出た。向かう先は、黎明学院だ。

思い立ったが吉日。秀華に会いに行くのだ。

校門に立って校舎から出てくる生徒たちを眺める。

しばらくすると、一際目立つ人物が歩いてくるのが見えた。


「秀華!」


声をかけると、彼女は一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔になった。


「言咲くん!?」


秀華は嬉しそうな声を上げると優心の元へ駆け寄ってきた。


「どうして、ここに?」


「お前に会いたかったから」


素直にそう言うと、秀華は少し照れたような表情を浮かべた後、嬉しそうに笑った。

その笑顔に胸が高鳴るのを感じた。やはり可愛いなと思う。


「あれから、なんともないか?」


「ええ。おかげさまで」


「綺麗な体だから大事にしねーとな。抱き寄せた腰も細かったし」


「………次セクハラしたら、グーで殴りますよ」


清楚系美少女で巷では有名な彼女だが、案外気が強く、ギロリと睨みつけてくる。

そんな姿も可愛らしいと思ってしまう自分は重症かもしれないな、と優心は思った。

それからしばらく他愛のない会話をしながら仲良く歩いていると、突然、後ろから声をかけられた。


「ユウ、秀華さん」


振り返ると、そこには愛兎と見知らぬ人物が立っていた。

愛兎の隣にいる人物は、身長が低く、長い黒髪が腰の下まである。

気が強そうな吊り目だが、顔立ちも整っており、美人という言葉がぴったり当てはまるような容姿をしている。


(……女?いや、男か?つーか誰だ?)


優心は首を傾げた。

秀華の方を見ると、彼女も同じような表情をしていることから考えても、知り合いでは無さそうだ。

そんなことを考えているうちに愛兎が口を開いた。


「大変なことが起きてね。白桜の遺体が見つからないんだ」


「……なんだって?」


秀華の証言の元、穴に放り込まれた犠牲者たちの遺体を回収したのだが、その中に白桜の遺体がなかったという。

女郎蜘蛛が拠点としていた廃墟をくまなく捜索したが、遺体はもちろん白桜へ繋がる手がかりすら見つからなかった。


「死体が歩くわけねーもんな……誰かが持ち去ったとか?」


「誰が?なんのためにです?」


「そんなの、わかんねーって」


優心は考えるが、答えは出ない。秀華も考え込んでいるようだが、やはり思いつかないようだ。


「おい、女。本当に女郎蜘蛛は、穴に死体捨てていたんだな?」


突然、愛兎の隣にいた人物が口を開いた。

口調からして男だろう。彼は鋭い目つきで秀華を睨んでいる。


「なんだよ、このチビ。それが人にものを聞く態度かよ?」


「黙れ。貴様には聞いていない」


「このやろ……!」


思わず優心は喧嘩腰になってしまいそうになるが、その前に愛兎が仲裁に入った。


「いけないよ、ルイ。そのような態度はやめろと言っただろう」


「知るか。こんなアホ面、どうだっていいだろ」


「誰がアホ面だ!!上等じゃねーか!!お望み通り泣かせてやらぁ!!!!」


「こらこら、ユウも挑発に乗らない。二人ともいい子だから、ここで喧嘩はしないでくれ」


今にも殴りかかりそうな優心を止め、愛兎が困ったように眉を下げる。

なんとか喧嘩は未遂に終わったが、空気は非常に悪い。


「すまないユウ、秀華さん。ルイにはきつく言っておくから、今回は許してもらえないだろうか」


「マナ兄が謝ることじゃねーだろ。そこのルイって奴がわりーんだからよ」


ルイの目元が少しピクリと動き、キツめの瞳がさらに細められた。


「馴れ馴れしく呼ぶな。(れい)と呼べ」


「は?ルイじゃねーの?」


黎品睿(れいびんるい)だ」


「変わった名前だな。中国人か?」


「台湾だ」


優心はふーんと興味なさげな反応を示した。

そんなことより、愛兎はこれからどうするつもりなのだろうか。

優心は、愛兎へ視線を戻す。


「……で、どうすんだ?このまま白桜を放っておくのか?」


優心の問いかけに愛兎は首を横に振った。


「もちろん放置するつもりはないよ。でも今は情報が足りないんだ。もう少し時間が欲しい」


「……なら、その間俺が探すわ」


「えっ、言咲くん!?」


驚いた声を上げる秀華に優心は笑いかける。


「心配すんなって。おめーの大事な弟分はちゃんと見つけてやるよ」


秀華は何か言いたげな表情をしていたが、結局何も言わずに口を閉じてしまった。

優心は秀華の頬を軽く撫でた後、愛兎に向き直った。


「どうせ、また妖怪が関わってんだろ?」


「その可能性は高いね」


「なら、尚更放っておけねーよな」


優心はニヤリと笑った。

妖怪が関わっているなら、自分が動くしかないだろう。秀華の大事なものは全て守ると決めたのだから。

そして何より、彼女を悲しませることは絶対にしたくないのだ。

愛兎はそんな優心を見て、小さくため息をついた後、仕方ないなとでも言いたげな表情で微笑んだ。


「いいかい?無理は絶対禁物だ。ちゃんと考えて行動するように」


「またガキ扱いして……わーってるよ!」


「何かあったら、すぐ私を呼ぶように。一人でなんとかしようなんて思うな」


「わかったわかった!……全く、口うるせー母ちゃんみたいだな」


「何か言ったか?」


「別に」


優心が素っ気なく答えると愛兎はまた困ったように笑うのだった。








「マナ。あいつ、例の?」


二人と別れた後、品睿は愛兎を見上げて言った。


「ああ、そうだよ」


「ふーん……ザコ妖怪倒していい気になってるんじゃないか?面倒事なる前にちゃんと見張っておけ。何かあっても、あんなヤツ助けんぞ」


「確かに頭より身体が先に動くタイプだけど、心配いらないさ。戦闘センスはいい方だし、秀華さんがストッパーになってくれる」


品睿は納得いかないような表情をしていたが、それ以上何も言わなかった。

愛兎も優心のことを心配していないわけではないが、彼には何か特別なものを感じるのだ。

彼なら大丈夫という確信があった。


「それに彼は、女郎蜘蛛に襲われた際に特殊な力を手に入れてね」


「なんだそれは?」


「なんでも、希死念慮を抱いている人がわかるらしいんだ。ザーとテレビの砂嵐のような耳鳴りがするらしい」


それを聞いた品睿の表情は変わらないばかりか、興味がなさそうだ。

だからなんだ?といった態度である。


「まったく役立たん力だな。死にたいヤツ知ったところでどうする?」


「すでに二人ほど、助けているようだよ」


「くだらん。死にたいヤツは死なせておけばいい。その後の人生、責任持てないなら無責任にも程がある」


「………逆に言ってしまえば、責任持てるなら救いになるんだ。死にたいと願うほど辛い環境にいる人にとってはね」


「だから、助けるのか?くだらん。オレはそんな力いらないな。自分の命もままならないヤツが他人の命背負えるわけないだろう」


品睿は吐き捨てるように言った。

彼はとても頭がいいし、強い心を持っているが、同時に他人に対して非常にシビアで冷たい面もあるのだ。

そんな彼が優心を気に入らないのは当然のことだろう。


「彼は確かに君の言う通りまだ弱いが、とても強い心を持っているよ」


「……なんだと?」


「そして君が思っているよりも善良だ。それは私が一番知っている」


「……」


愛兎がそう言うと、品睿はそれ以上何も言わなかった。しかし納得はしていないようだ。

品睿は愛兎を信頼しており、彼の言うことならばある程度聞くが、やはり気に入らないものは気に入らないらしい。

まぁ、仕方ないことだと割り切るしかないだろう。


「彼はきっと、いいヒーローになれる。私はそう信じているよ」


愛兎は優しく微笑んだ。

品睿は相変わらずの仏頂面で、それ以上は何も言わなかった。



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