究極の外部サービス連携
勇気が出ない。
私は将来有名な漫画家になりたいと思っており、少しでも自分の名前を世間に広めようとSNSをやっているのだが、中々まともな書き込みが出来ず、生存確認のように書き込みをしている。
将来有名になると常に思っている為、下手な書き込みが出来ないのである。
もしかしたら、有名になった後、昔の頃の無自覚に上げていたヤバい書き込みが拡散されて、炎上するかもしれない……。
もしかしたら、文章内にあるほんの些細な情報や、上げた画像等で身バレするかもしれない……。
そう思うと、どうしても書き込む手が止まる。
私は、SNSをやらない方が良い人間なのかもしれない。
でもやはり、SNSを日記代わりにして、沢山書き込みもしたいし、お洒落な画像も沢山上げたい。
毎回毎回書き込む度にきちんと文章や画像を確認して、慎重に書き込みをして行けばきっと大丈夫と思っても、炎上している未来を想像してしまう。
書き込む勇気が出ない。
今、SNSの設定を片っ端から確認している。
心配性な為、もしかしたら変な設定をしてしまっているのではと思ってしまったのである。
そして外部サービス連携に関する設定を確認した時、私は異変に気が付いた。
なんと、連携出来る外部サービスの中に、見たことの無い外部サービスがあったのである。
更に衝撃的な事に、その外部サービスの名前は、私の名前だったのである。
検索エンジンで調べてみたが、私の名前の外部サービス等ヒットしなかった。
ならば何故ここに私の名前があるのか……気味が悪かったが、内心気になった為、『連携する』と書かれているボタンをタップしてみた。
すると、突然画面が真っ黒になり、白い文字が表示された。
『端末・マウス・トラックパッドのどれかに利き手を触れたまま、一分間瞑想をして下さい』
私は文字の指示に従い、利き手でスマートフォンを持ったまま、一分間瞑想をした。
心の中で一分を測り、目を開けると、真っ黒だった画面が、私の大好きな色である黄色になっており、新しい白い文字が表示されていた。
『連携が完了致しました』
とても簡単で不思議な連携方法だ……と言うか、私は一体何と連携をしたのであろう? 私は私と全く同じ名前の外部サービスを利用していない……。
暫く待っても画面は変わらなかった為、適当な場所をタップしてみると、元の画面に戻った。
私の名前が書かれている部分には、『連携しております』と言う文字が表示されていた。
今日も今日とて書き込む勇気は出ない。
毎朝起きる度に『おはようございます!』と書き込んでそれで終わりになってしまう。
やはり、もうやめたほうが良いのであろうか。
今思っている事も、出来れば書き込みたい。
もう寝よう。
翌朝、寝起きの状態でSNSを見てみると、衝撃的な事が起きている事に気が付いた。
昨日寝る前に心の中で思った事が全て文章になり、私のアカウントでSNSに書き込まれていたのである。
正直、困惑しか無かった。
謎は二つ、私のアカウントで勝手に書き込みがされた事、そして口に出しておらず、心の中で思った事が文章になり、書き込まれた事である。
現時点でこの二つの謎を解く鍵は無い……と言うか、後者に至っては解きようが無いように思える……まさか、昨日行ったあの連携が何か関係しているのか?
あの時私は、私の利用しているSNSと、私の心を連携させた……とても信じられない事だが、そう考えれば、私の名前が表示されていた事や、不思議な連携方法も理解する事が出来る、少なくとも私には理解出来てしまう。
この考えに倣って言えば、私が心の中で書き込みたいと思った事が、全て私のSNSアカウントで書き込まれると言う事である。
何か……便利そうでとても便利では無い! これでは私がつい書き込みたいって思ったその瞬間、私の心の声が全て書き込まれてしまうでは無いか! 心の声がSNSに出てしまうのは危険極まりない! 今直ぐ連携を解除しよう!
私は設定で私との連携を解除しようとしたのだが、何故か連携を解除するボタンが反応せず、私とSNSとの連携は、解除する事が出来なかった。
私は直ぐに検索や、SNSのお問い合わせ窓口に連絡を入れる等をして、情報を収集した。
すると次第に衝撃的な事が分かって行った。
先ず、利用者の心とSNSを連携させる技術は、私が生まれるずっと前から存在しており、私が生まれるほんの少し前に、その技術は全世界のSNSに導入されたとの事らしい。
そして、利用者の心とSNSは、一度連携させると二度と解除する事が出来ないらしい。
理由は、人間の心はとても複雑で、一度外部から侵入すると、もう二度と取り除く事が出来ないからと言う事らしい……これに関しては一ミリも理解することが出来なかった。
あの時私は、私と全く同じ名前の外部サービスがあるのかと思い、検索エンジンで私の名前を検索してしまった為、利用者の心とSNSが連携出来ると言う情報が収集出来なかったのである。
利用者の心とSNSが連携出来る事が、既に全世界に広まり切っていた事も、検索した際に出てこなかった原因の一つであろう。
お問い合わせ窓口に連絡を入れて入手した対処法は、アカウントの削除だった。
しかし私のアカウントには、そこそこのフォロワーがいた為、アカウントの変更はしたくない。
私は、SNSに心の声が書き込まれてしまうかもしれないと言う恐怖に晒されながら生きて行かなければならなくなって行ってしまったのである。
どうして……どうして知らなかったのであろうか……利用者の心とSNSが連携出来るなんて事を……。
あれから暫く時は経ったが、今でもSNSは続けている。
最初は『絶対に書き込みたいって思わないように!』って感じで過剰に怯えていたのだが、気が付けばその怯えは無くなっており、気が付けば私が抱えていた『書き込む勇気が出ない』と言う巨大な悩みも無くなり、気軽に書き込みが出来るようになった。
理由は恐らく、書き込みをする気軽さが違うからであろう。
端末からだと書き込む為にボタンをタップしなければならない。
しかし私の心からだと、ほんの少しだけでも『SNSに書き込みたい』と思うだけで書き込みをする事が出来る。
悪く言えば、確認を一切せずに書き込みをしてしまう。
その為、前の私なら耐えられなかったであろうが、今の私は『あー書き込んじゃった! でもこれでスッキリしたし、後戻りも出来ないから良いや!』と思い、気にしていない。
端末のボタンが心の中の判断に変わるだけで、こんなにも楽に書き込みが出来るとは……もっと早く私の心と連携しておくべきであった。
コンビニで酒とつまみを買い、家に帰る途中、私の心で書き込みをする。
今日、彼氏にフラれた。
今日、彼氏に私が有名漫画家を目指している事を明かしたのだが、有名漫画家の彼氏と言う立場に耐えられる自信が無いと言い出し、フラれた。
せっかく出来た彼氏だったのに、Fの奴、根性無さ過ぎ! ふざけんな! よくもまあ私の乙女心弄んでくれたなあ? なあ? 皆もそう思うだろ? この世に私の元カレを生み出しやがって……馬鹿野郎! 書き込む!
はあ……スッキリした……って……あ……。
気が付いた頃にはもう遅かった……。
私は書き込みに夢中で横断歩道の信号を無視してしまい……車に衝突してしまったのである……。
今は深夜……ここは人通りが少ない……それに衝突した車も走り去って行ってしまった……これはマズい……。
誰か……助けて……車にぶつかった……助けて……助けてよ……ねえ……助けて……今……B町の交差点……誰か……救急車……助けて……助けて……書き込む……書き込む……書き込む……書き込む!
『自分の事しか考えられない自称漫画家が喚いてるよ』
『今まで散々好き勝手な事書き込んでおいて助けてとかw』
『本名晒しはマズいだろ……』
『一日に何度も不愉快な文章や他人の悪口書き込んでる奴に救急車なんか呼ぶかよ!』
『昔の頃のキャラの方が良かったよ。因果応報だよ』