プロローグその2
「あなたに何らかの罰則を? いいえ、あり得ませんから。
あなたの言うところのカプセル割り男——セダーという名前なのだけど、彼には二度とカプセルを渡しません。この処置が、彼ではなくあなたへの罰になるというのならば別ですけど」
絢爛豪華な城の謁見の間。玉座に座る彼女は、自分は女王ではないと言う。
また、いかにも女神風な衣装をまとい白い翼と後光を背にしていても、自分は女神などではなく、強いて言えばゲームマスターだと主張する。ゲームマスターとは何か? 本人にもよくわからんらしい。
「うーん、罰にはならんでしょうが、消え際のセダーとやらの見幕を思い出すに、何だか俺が依頼を失敗したみたいじゃないかってのが気になるんですよ」
ふよふよと浮いている俺は何の武器も防具も身につけていない。左肩のみ留める膝上丈のキトンは寝巻きとしてもいい感じかなと思う。
「首尾よく怪物を討伐したのに加えて、国を滅ぼしかねない召喚者たちを全員処理して後顧の憂いを断ったのだから、普通に考えれば失敗どころか大成功でしょう。
セダーが大騒ぎしたのは召喚者の少女に懸想していたため。妻帯者のくせに。
で、時を巻き戻して女神の愛し子を救ってくれとか五月蝿かったんで、この姿で顕現してよぉく言い聞かせましたよ。あれを愛し子に指名していた駄女神はもう更迭されていて、二度とこの世界と関わり合いになることはないって」
「ほう。あの場所には年端もいかない子どもたちもいたんですが。それなのに平気で怪物を召喚するのが愛し子ねぇ。愛し子も駄女神もロクなもんじゃない」
「未だに彼女たちに心酔のセダーもね。わたしと彼とのホットラインは断ち切りました。周囲にもそれを周知徹底したし、次にカプセルを割るのは彼ではないことは確か。……でもまた彼の同類にカプセルが渡る可能性がないとは言えないことを心苦しく思います。愚痴になりますが、加護だの特殊スキルだの、予想以上に前任者の残滓があちこちにこびりついているのが厄介です」
「俺としては、基本的にはカプセルを割った人物の指示に従うにしても、絶対服従ではないというルールさえ徹底してもらえれば文句は言いませんよ」
「ありがとうございます。では引き続き、この世界を堅牢にする作業に取り掛かりますね。お休みなさい」
そう。俺が暴れまわる時間が三分間に今のところ制限されているのは、この世界がぶっ壊れたりしないか様子見のためだそうだ。
かつて俺がいた世界は、強大な力を持つ魔王がいて、それを倒す勇者パーティーがいて、しばらくすると再び魔王が現れて——というのを繰り返していた世界だった。復活するたびに魔王は強くなり、対抗する勇者パーティーもより強くなっていって、世界を統べる神は少しずつ世界を修復し頑丈にしていった。
その頑丈さは数多ある世界の中でもトップクラスだそうで……そこの勇者であった俺を受け入れるために、ここの世界を強化してもらうというのは手間をかけさせて申し訳ない気もするが、女神またはゲームマスターによると、俺を弱体化させるのも忍びないし、他の世界からの亡命希望者にも結構強い者たちがいるし——という話らしい。
微睡みながら俺は、俺と、この世界のゲームマスターと、前に俺がいた世界の神との三者面談の記憶をなぞっていく。
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