別れ
痛みを負う場面があります。出来るだけふわっとさせましたが、苦手な方は避けるようにしてください。
戦は風聞とは違い、10カ月弱でログリー国が勝ちを治め終了。
戦中レント様が皇太子になることは、見送られていた。
戦争が終わり、国内の疲れが一段落したら即位式が行われる予定だ。
その前に国ために戦った兵士による、王宮への訪問がある。
私は王子側として、参加すると決まった。
王室側ではなく。
「どういう事よ、あなたそれでいいの!? 」
私にキムお姉様が詰め寄った。
王子側として参加すると知り、乗り込んできたのだ。
「タディ様のご活躍伺っています。お家で待ってなくていいんですか」
「今はエレンの話をしているの」
お姉様は左手を腰に当て、私に指を差している。
かなりご立腹の様子だ。
「私ではどうにもならないことの方が多いですから」
「それは分かってる」
「じゃあ、何故そこまでお怒りなのですか」
私は困ったなというように、首を傾げて尋ねる他なかった。
「ねぇ、エレン。私あなたが、どなたを思っているか知っているのよ」
「そんなにも分かりやすかったですか」
顔に手を当て確認してみた。
「いいえ、多分隠せていたわ」
「では、勘違いかもしれませんよ」
「それはない」
ずいっと更に指を突き出し、従姉は言葉を続ける。
「あなたが恋をした時に、いいえ、あなた達2人がお互いに恋に落ちた瞬間に私隣で見ていたもの」
「あなた、たち? 」
「そうエレン、あなたとアシュレイ様。鷹狩りのときよ。そうでしょう」
先ほどまでは、お怒りの表情をしていたお姉様。
何故か今は、泣きそうだ。
「何故、泣きそうなのですか」
「当たり前じゃない。あんなに見ているだけで、うっとりするような恋をしたのに。それなのに、それなのに」
お姉様声を上げて泣きじゃくり始める。
つられて私も声を上げて泣いた。
ひとしきり泣きわめいた私たち。
顔を見合わせ「えへへ」と照れたような態度を互いにとる。
私たちは並んで私室のソファにに座って話していた。
お姉様はの顔を両手で挟み、私と自分の額をコツンとぶつける。
「ねぇ、エレン。確かにどうにもできないことの方が多いわ。でもね、私見ちゃったもの」
「先ほど伺いました」
私はお姉様から頭を離す。
「とても悲しむでしょうね。凱旋のときあなたの隣に王子がいるのをご覧になって」
お姉様はこの一言がどうしても、言いたくて来たのだろう。
何も答えられず、私はただ項垂れる。
「あなたに怒っても仕方のない事だと、私だって分かってるのよ」
「ええ」
お姉様は私の頭を自分の方に寄せて、また話を始めた。
「なんて言えばいいのかな。そうね、レント様とエレンの結婚が生まれた時らの運命だとるすでしょう」
「ええ」
「でもね、エレンたちの恋は生まれる前からの宿命なの。それほど2人から強い思いを感じたの」
「それが事実でも、どうにも出来ないんです」
「例え話として聞いて。エレンが例え周囲を悲しませる選択しても、私はあなたが心で選んだことなら納得するつもりでいるわ」
お姉様は私から頭を離し手を取った。
「そうだ、私お客様なのよ。だからお茶を淹れて、おもてなしして頂戴」
私たちに流れる重苦しい空気を換えたかったのだろう。
お姉様が突然言い出した。
私室に2人きりで話す配慮のために、下がってもらっていた侍女たち。
彼女たちは部屋に入るのと同時に、お茶のワゴンも入って来た。
ルーイーが、丁寧に淹れてくれたお茶を2人で頂く。
「凱旋の際は、お姉様も見学に?」
「そうね、あなたの姿が見られるなら、行っても良いかな」
「嬉しいことを言って下さりますね」
一緒に出された水菓子を、私はつまんだ。
「お姉様少しは旦那様とゆっくりと過ごせそうですね」
「それが、そうでもないのよ」
「もう領地は戦線ではないのにですか」
「今回のディルディ国をもう少し行くとアゼル国があるでしょう」
「ええ次はアゼルと、という事ですか」
私は口に付けようとしていた茶碗を、置いて質問した。
真剣に耳を傾けるために。
「外交のために行くんですって。だから戦争の心配は大丈夫なはずよ」
「タディ様と何の関係が? 」
「彼はあちらの公用語も話せるとか、なんか色々よ」
「つまり、良く知らないんですね」
「そんなことないもの」
そう言って少しだけ頬を膨らませる。
「まさかと思いますが、タディ様の前でもそのような百面相はしていませんよね」
「百面相なんてしたことないわ」
そう言って次はワザとらしく頬を膨らませていた。
それから私たちは、お互いの近況を伝えたり噂話を楽しむのだった。
「それではまた、当日に会いましょう」と約束をして。
当日は、王宮内で式が行われた。
ある程度の武勲者のみが、訪問している。
うち一人にアシュレイ様がいた。
式の内容の全てが終わり、お開き直後レント王子がアシュレイ様を呼ぶ。
王子は私を連れて、彼の前に立つ。
「兄上おかえりなさいませ。あのさ、僕の昔のお願いのことなんだけど」
「お2人でどんなお約束をされたのですか」
異母とはいえ兄弟の2人の約束だ。
私は必要ないだろうと、あえて口を挟んだ。
「僕がね、兄上の剣の主になるっていうのをお願いしていたんだ」
「覚えています、王子」
「アゼルに付いて行くんだよね。いつ帰るか分からないと聞いたから」
「ええ」
酷く無機質な、声で簡単に相槌を打ち跪いた。
まだ室内に残っていた人々が何事だろうと囁き合っている。
アシュレイ様は鞘に納まったままの剣を、両手にし掲げるように渡そうとした。
「あ、待って兄上。僕じゃなくてさ妻になるエレンに渡して欲しいんだ」
「私ですか」
「うん、僕たちはこれから二人で一つになるわけだから、誓いは僕が受けて剣はエレンに渡してもらえたら最高だなって」
「そう思うよね」
と、太陽の様なと呼ばれた、眩しいほどの笑顔で私に言った。
眩しいというより、無邪気にすら見える。
無邪気な太陽のふりをして、私の心を乱していく。
王子の太陽の笑顔に対し、アシュレイ様は微笑し答えた。
「サガン嬢さえ良ければ、王子の提案通りに致しましょう」
私の心は、太陽に焼き尽くされた。
心とは真逆の笑顔を貼り付けた私は、剣を受け取る。
掟通りに、受け取った剣を肩にポンと打った。
剣を返すために、両手で持った私をアシュレイ様が制す。
立ち上がり、私を真摯に見つめこう言ったのだ。
「私の心は常に剣と共に。ですから、その剣はサガン嬢あなた様の傍に置いてやって下さい」
言い残して立ち去って行った。
レント様は彼の後ろ姿に声をかけるも、振り返ることは無かった。
私は表向き今まで通りの生活をしている。
冬になる前にアゼル国に到着するよう、外交団がログリー国を出ていても。
しかし流石にこの手紙を読んだ今、冷静ではいられない。
旦那様が護衛として同行している、従姉からの手紙。
「外交団はアゼル国に到着しました。しかし、残念ながら到着前にアシュレイ様は命を落とされてしまった」
事の顛末にも触れていたが、うまく読めず理解が出来なかった。
ふと外を見れば細い月が顔を出している。
冬支度に入りそびれた2葉が、月の光を背に風に吹枯れ落ちていく。
落葉は蝶々に見えた。
大切に預かった剣を持ち、鞘から刃を出す。
私は自分の心のあたりを、彼の心で貫いたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。