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足音 その1

 先日受け取った宮殿への招待主に、不安を覚えた。

 お父様に招待を受けたと伝えたら

「あ、うん。そういう事みたい」だなんて、ふわっとした答えのみ。

 私は盛大に首を振っておいた。大いにわざとらしく。


 その後「エレンはやっぱり、お転婆さんだねぇ」と、

 お母様にぼやいていたを聞いてしまった。

「旦那様、これでも大分ましになったんですよ」と、

 お母様の返答もなかなかの酷さで、返って笑ってしまう。

 

 

 私は大きく吸った息の後、吐く息にため息を追加する。

「私だって、お嬢様を送り出したくありません」

 ドレスを着るためにコルセットを絞め付けてくるルーイーが、とても不満気だ。

 流石に私の侍女歴が長いだけあり、ため息に気付かれたみたい。


「だからと言って、そんなに締め付けなくても。ねぇ、私が太ったという事かしら」

「お嬢様の体型に問題はありません。あのお方が、私は気に入らないのです」

「気に入りらないって」

 私は思わず苦笑する。


「私もあの方に、お会いしたくはないわ」

「でも太陽王子って大人気だそうですよ」

 私と王子の出会いを知らない侍女のハダには、楽しみのようだ。


「準備が終わり次第、お母様の部屋へご挨拶に参ります」

 これ以上、今夜の事を考えても仕方がない。

 話題と思考を変えることにしよう。


 従者と共に馬車で、宮殿へ向かう。

 そう言えば、ゆっくり街並みや人の行き来を眺めることも少なくなっていたと外を見つめる。

 宮殿までは距離は短いため、すぐ眺め終わってしまう。

 しかし、今日に限っては長く感じた。


「緊張でもしているのかしら、私」

 胸に手を当て、違和感をルーイーに訴える。

「ルーイー様とハダがコルセットを締めすぎたのではありませんか」

「ティラ教えてくれてありがとう。帰ったらお仕置きね」

「え~~~、私じゃなくてハダは護衛も出来る剛力ですから、きっと彼女のせいです」

「人のせいにしちゃ駄目よ。話をしたら少し楽になった気がするし、それに

 そろそろ着きそうね」


 馬車が宮殿に入ろうとしているのに気づき、全員侍女の顔に。

 彼女たちを見て私は心強く安心し、招かれるまま入ってった。


 案内されたサロンで、気分を楽にして待つことにする。

 茶葉を蒸らすほどの時間を待ち、レント様入室の声が掛かる。


「随分と待たせてしまって申し訳ない」

 口角を上げるような笑顔で、颯爽と入って来た王子に淑女礼を取る。

 私の挨拶を見た彼は、眩しいと言わしめる目を細めるような笑顔に変わり

「もっと気楽にして欲しいんだ」と、入って来た時のように、口角を上げ楽しそうに振る舞う。


「この前の兄上にも、同じ態度とったのかな。招待を持って行ってもらった時」

 王子は振り返る。

 アシュレイ様がいるのを確認するかのように。


「座ってよ」と、自ら私のために椅子を引く。

 手を取り、私と顔を合わせれるようにテーブルを挟んで、彼も座る。

「逃げも隠れもしませんよ」

 冗談めかして私が言うと「失礼」と、手を放してくれた。


「僕もすごく心配していたんだ。お見舞いに行きたかったんだけれど」

「お心遣い感謝します」

「すぐに動けなくて。兄も気にしているようだったからお見舞いと一緒に、招待をお願いして」


 王子はテーブルに置いている、組んだ手に力を込めて口を開いた。

「ずっと、謝りたくて。突き飛ばしたこと」

「水に流そうという事になったと思っておりました」

 わざと茶化したような表情を作り、私は答える。

「恥ずかしかったんだ。サガン嬢があまりにも」

「あまりにも? 」

「いや。あ、そうだ。辺境伯夫人とは仲が良いんだね」

「ええ、従姉同志で。姉のように思っているんです」

「じゃあ、僕と兄上の様な感じだね」

 後ろに控えているアシュレイ様を見上げ、軽く目を細め口角を上げた。

 アシュレイ様も護衛の雰囲気を、一瞬だけ解く。


「レント王子とアシュレイ様も仲が良いのですね」

 振り返っていた王子が、私を見て「そうなんだよ」と、微笑んだ。


「ところで、夫人とは名前で呼び合ってるんだよね」

「私はキムお姉様やお姉様と。従姉からはエレンと名前で呼ばれたり、あなたといった所でしょうか」

「じゃあ、僕もエレン嬢って呼ばせてもらうね」

「ええ」

 戸惑いを隠せているか心配になっている私に、ルーイーがコホンと咳込む真似をする。

 きっと隠せていないのだろう。

 王子の勢いに飲まれていたが、彼女の咳込みで気分が落ちく。

 お陰で胸の違和感が、息苦しさに変わった。


 眉かどこかを、ひそめていたらしい。

 アシュレイ様が気遣わし気に、私を見つめている。

 私の視線に気づいらしい王子は、アシュレイ様の話を始めた。

「兄はね、軍人だけど戦が無い時は普段僕の護衛をしてくれているんだ。

 話し相手にもなってくれるし、忌憚のない意見も言ってくれる」 

 ちらりとも振り返ることなく、目を細めた笑顔を添えて。


「まだあんまり詳しくは言えないけど、もうすぐ隣国と戦争になるかもしれない」

 急に重々しい雰囲気になり、私も姿勢を正そうとするも息が更に苦しくなる。


 ---酷く息が詰まる

「兄はね」

 ---苦しい

「戦線に行くんだ」

 ---息が出来ない


 私はそこで、意識を手放した。



 目を開けると、見知らぬ部屋で右往左往している侍女たちが目に入ってくる。

「どうしたの」

 声になっていないが、意識を取り戻したことに気づいたようだ。

 不安気に泣き出しそうな侍女たち対し、精一杯の笑顔を作る。

 一番近くにいたルーイーに、手を出すとしっかり握り返してくれた。

「私」と、言いながら身体を起こそうとすると

「お医者様からの診察をもう一度して頂きますから、このままで」

 更に強く手を握られ、そのまま横になっていることにした。


 医師に診てもらっていながら、思い出してみる。

 コルセットによる失神は、誰にでもあることなのに妙に大層だなと。

「脈など問題無いようですので、もうすこしお休みになれば動いても大丈夫でしょう」

 侍女にそのように言付けた医師は「お大事に」と私に言い部屋を出ていく。



 扉の向こうから、レント王子の声が聞こえる。

 私は自分の姿を見、ルーイーに甘えた声で聞いてみた。

「お会いしなくても良いわよね」

「もちろんです」

「流石、侍女の鏡ね。

 だって、こちらで夕食を取るかもと準備しておいてくれたのでしょう」

「はい、でも」

「でもでもだっては、いけません。と、私に教えたのはルーイーでしょ」


 私はもう一度、彼女の手を取り、わざとらしく小さな声で言った。

「やっぱり緊張していたのよ私。また突き飛ばされるんじゃないかって」

 クスクスしている私を見て、やっと安心したようだ。

「本当にご気分は軽くなったようですね」


 扉の向こうに控えている宮殿の従者に「化粧着ですから」と伝え、やんわりと男性陣は入るなと釘を刺す。

 唯一、刺されなかったレント王子が飛び込んできた。

 休んでいた私の手を取り、跪く。

 腕、引きちぎられるかと思うほどの勢いで。


 手を引き抜こうとするも、力強く反応されてしまい仕方なく口にした。

「腕、痛いです」

「あ、そうだね」

 相槌らしきものと共に、私の隣に座った。足を床に付けるように、横に腰掛けたのだ。


「本当に心配したんだ。気付け薬が効かないなんて滅多にないって聞いて、余計不安になって」 

 私の手を取ったまま更に続けた。

「エレン、もっと君を知りたい。教えて欲しい。それに僕の事も知ってほしい。だから次は僕が会いに行くから」

 何も答えずにいる私に、寂しそうな瞳をする。


 私の従者に「失礼をしたと」謝罪を伝え、彼は客室から出て行った。


   数日後医師に診てもらうと、心身疲労がある身にコルセットを締めすぎたからではないかとの事だった。

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