再会 その1
鷹狩りは王宮の、裏庭付属の森で行われた。
観戦用の為に、ガーデンテーブルやベンチが多く用意してあり、私はお姉様と腕を組み場所を選ぶ。
「あちらはどうかしら」
従姉の提案場所を見る。
テーブルの上に飲み物が沢山置いてあった。
「そうね、あの場所良さそう。
お姉様の旦那様が、休憩のふりをして飲み物をとりに来そうだもの」
「そんなんじゃないわ」
「不貞腐れた風を装っても、ただの惚気だと分かっています」
「相変わらず見かけは綺麗なのに、言うことはじゃじゃ馬ね」
「そのままお言葉をお返しします」
互いに戯れを言い、笑い合う。
「惚気を言いたいところだけれど、ちょっと無理かも。
あなたに言い寄ってくる紳士を、退治しなくちゃいけないかも」
くすくすと微笑みながら、組んでいた手を外し従姉は私をまじまじと眺めた。
「とにかく座りましょうよ」
私は近くの長椅子を指さし、並んで座る。
「昔から可愛らしかったけど、本当に綺麗になったのね」
「お姉様こそ」
「あら、ありがと」
私との話よりも、近くに場所を取る令嬢方に興味津々といった様子の従姉。
「あの方々は太陽王子の信者よ、きっと」
「王子ということはレント様のこと?というか、何その変な2つ名」
「ぷっ。変な名前って。あの方たちに聞かれたら怒られるわよ」
私がクスクス話すと、従姉に肘で突かれてしまう。
「窘めてる感出してますけど、明らかに笑っていますね」
「だってぇ、あなただって変だって。
ところで、ほら見て。あの白い出立の男性」
従姉が見た方向を、私も見た。
「太陽の様な華やかな金髪に、眩しい笑顔の王子様だからみたい。
ちなみに兄上は、月の軍神」
レント王子の近くにいる、黒衣の男性を視線で促される。
「見た目と言い、あだ名と言い何と言うか印象操作よね」
「印象操作って。どうせなら堅苦しい軍神ではなく、精霊とか柔らかくしたらいいのに」
「あら、久々にエレンのお花畑が聞けて嬉しいわ。
軍神というのは、以前の隣国とのいざこざの時に付いたみたい」
「お花畑って、確かに昔は妖精とか魔法とか大好きでしたけど」
「ふふ、今も嫌いじゃないはずよ。月の精霊だなんて表現。
ま、確かに綺麗よね。彼に似合ってる」
「軍神の兄上とは、アシュレイ様の事ですね」
私は黒い馬に跨った、漆黒の髪を持つ男性から目が離せなかった。
あまりにも美しかったから。
激しく見つめる私の視線は、アシュレイ様に気づかれたらしい。
時折、彼が気にする様子があったのだ。
目が合うと少しだけお互いを見つめ合い、視線をそらす。
何度か続きアシュレイ様は、見えなくなるまで馬で駆けて行く。
嫌な思いをさせたのかと思ったが、自分の狩りをしに行ったらしかった。
「馬に跨って狩りをする男性って素敵ね」
「ふふ、お姉様にとっての素敵な男性は一人きりでしょうけど」
2人で他愛もない話をながらも、私の目が探し続けていたアシュレイ様を見つけた。
見られる場所に戻ったと思ったら、王子が彼に近寄り声をかける。
「お嬢様方が騒ぎ出したわねぇ」
従姉が呆れとも、からかいとも取れる口調で言う。
王子やアシュレイ様が他の参加者と共に、こちらの方に向かってきたからだ。
「辺境伯夫人の大切な方がいらしたわ」
私は従姉に、羨望の気持ちを込めて言った。
「私に用というよりも、旦那様の後ろの方のために私がダシにされそう」
後ろというのはレント王子。
「エレンのせいで私、見知らぬお嬢様方に呪われるのね」
茶化し始めた従姉に、彼女の旦那様タディ辺境伯が近づいた。
「美しいご婦人2人に、ご挨拶したいという方達がいるんだ」
タディ様のために、腰を上げていた私たち。
彼は馬から降りながら、私たちに声をかけてきた。
「王子のレント様と、その兄上のアシュレイ様だ」
私たちはタディ様との簡単な挨拶の後に、下馬した2人を紹介された。
他のタディ様のご友人も、続けて紹介を受ける。
「私は休憩がてら、妻と王宮を散策しようと思いますので。失礼致します」
「えっ」というように、私と従姉は顔を見合わす。
従姉甲斐のないキムめと、私は彼女にしか分からない程度に肘で突いた。
タディ様の差し出している腕に、従姉は腕を絡めて散策に出かける。
先ほど紹介を受けたご友人も、解散していく。
どこか遠くで騒めきが聞こえたようだ。
傍にいた令嬢達だろうと、声が上がった場所を私は探さなかった。
「気を遣わせてしまったみたいだね、彼らに」
レント様が私に、目を細め笑いかけた。
これが、噂の太陽の笑顔でしょうか。
確かに眩しい程の笑顔で、無邪気にすら見える。
「お2人は仲がいいですから」
「ここで一緒に休ませてもらっていいかな」
構わないと答える前に、そそくさと自分の馬を従者に渡す。
「久しぶりにだね、サガン嬢。僕をそんなに警戒しなくて大丈夫だから」
「突撃の件でしたら、幼いころの話です」
「すぐ突撃を見破られちゃったしね。その現場にいた兄を紹介させて」
後ろに控えていたアシュレイ様が、私の前に立った。
そうだった、私たちは始めて紹介し合うだ。
淑女の礼を取り、挨拶をしようとするも
「正式な場じゃないから、そんなにかしこまらなくても。
それに僕たちだって、ちゃんと自己紹介してないよね」
少しだけ早口になり、深く目を細め笑いかけられ戸惑う。
「困らせているんじゃないかな」
仲裁に入ってくれた後に「軍属のアシュレイと申します」と、随分簡単な挨拶を受けた。
「ご挨拶ありがとうござ『武装した者が入口に!!』」
王宮従者たちの叫び声が聞こえる。
アシュレイ様に庇うように、素早く私は抱き寄せられた。
「王子、エレン様と共に『安全な場所に連れだしたらすぐに戻る』」
2人が話している間に、私は彼の腕の中から自分の護衛に引き渡された。
安全が確認されている場所へ向かい、無事お姉様と合流できたのだった。