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出会い その2

 宮殿に行った、後日の事。


 お父様から改めて宮殿に行き、レント王子と友人になるよう言われた。

「お友達になんて、なれそうにありません。

 それにどうして先に、お友達候補が王子様と教えてくれなかったの? 」

 勢いよくお父様に尋ねると、お母様が「まあまあ」と私を諫める。


「エレンには、そう言った方が楽しんでもらえると思ったんだ」

 お父様は私にそういった後、お母様に言い訳するようにこう続けた。

「だって従兄殿下は、思い通りにならないと静かに怒って怖いんだよ。

それに政局が変わればさ、また変わるから」とのこと。


 政局とお友達になることの関係は、私には分からないけれど。


 

 改めて私は、お母様とまた宮殿に行くことになった。

 私を突き飛ばしたレント様と、お友達になるために。


 宮殿に着いてしまったけれど、レント様と本当に仲良くできるかしら。

 月の精霊の方なら、もう一度お会いして仲良くなりたいな。

 噴水のあるお庭に、行けばいるのかしら。

 でも、道が分からないから行けないな。

 残念だけど、きっと会えない。


 ルーイーには、私がしょんぼりしてるように見えたみたい。

「今日のエレン様も、とっても可愛らしくていらっしゃいます。

レント王子もお嬢様のお姿をご覧になれば、先日の態度を後悔されるはずです」

 彼女は私の元気が無い理由を、間違えていそう。


「もし前回のようなことがあれば、倒すのではなくお逃げ下さい」

 ルーイーの勘違いを聞いていたら、ちょっとだけ元気になってきた。

 だって、私には味方が沢山いるんだもの。


 案内された先は前回と同様バルコニー。

「入口でも思ったけれど、今日は花が一斉に咲いていて綺麗ね。

前回来た時は、緑がとても印象的な時期だったと記憶しているのだけれど」

 お母様が私に声をかける。


「以前来た時から、思っていたより時間が経っていたのね」

 私たちに、初夏の風が触れた。

  

 宮殿の家令から「レント王子がいらっしゃいました」と声がかかる。

 お母様と一緒に席を立ち、ご挨拶をするために足を曲げるフリをする。

 だって、あの子が私を突き飛ばすために向かってきたら、逃げなきゃいけないもの。

 

 前回のように従者だと思われる人々と、一緒に歩いてきている姿が見えてきた。

 彼は私に気付いたみたい。

 どんどんと勢いよく向かってきたから、突き飛ばされる直前にひょいっと飛んで逃げた私。

 レント様はたたらを踏んだ。

 成功だ!!

 

 成功したことを心の中で喜んでいると、誰かが「ぷっ」と笑った声が聞こえた気がする。

 声のほうを見れば、漆黒の髪を持った小さな紳士。

 笑いをごまかすためか、笑った人物は向こうを見てる。

 それでも分かった。

 アシュレイ様だ。


 私がもじもじと、し始めたからかレント様は「なんて失礼なことをするんだ」と怒って去って行ってしまう。

 先に嫌な態度をとったのは、誰だったのかを忘れて。


 結局、前回と同じように終わったの。

 あんな失礼な方とは、私だってお友達になんてなりたくないから丁度いいわ。




 以来私は、10年近く宮殿へ赴くことは無かった。


 あの後すぐに当時の皇太子殿下の愛妾が他界したためだ。

 レント様のお父様に当たる方。

 殿下の愛妾が他界した際に知ったことがある。

 アシュレイ様は、お2人の間のお子だったという事。

 レント様と1歳違いの兄で、私とアシュレイ様は4つ違うということになる。

 

 ログリー国は、多神教が主である。

 お陰で私生児であっても修道院入りを免れ、アシュレイ様は王宮で暮らしている。

 王位継承権を持てないことを、条件として。

 私がお姿を拝見した際には、既に軍入りを明言していたと聞いた。


「喪に服されているアシュレイ様へ、お見舞いをお送りしたく思っています」

 母上に願い出たら、大変に驚いた表情をされてしまった。

「蝶々を逃がすために行った先に、いらした方ですよね」

「そうよ、よく覚えていたのね。でもアシュレイ様がエレンを分かるかしら」

「ご迷惑になるかもしれないなら、辞めておきます」

「お父様が近々お会いするでしょうから、伝えておいて頂きましょう」

 

 後日、父上から

「アシュレイ様が『お心遣いに感謝する』と、仰っていたよ」と報告を受けた。

「お悔やみを伝えてくれたこと、改めてありがとう」

「レント王子にも僕から、それっぽい事を伝えたから。一応」

「その件に関しても、お礼申し上げます。一応」

 私たちは、目を合わせうっかり笑ってしまった。

 不謹慎だとは少し思ったけれど。

 

 喪に服しているという事から始まり、地方で蜂起があった事、殿下が王位を継いだという事。

 年齢を重ねた今では、レント王子との「お友達」の話は流れたのだと考えている。

 年月が流れるごとに、アシュレイ様を月の精霊だと思ったことに対して可笑しさえ感じた。



 幼い時ほど月の精霊を見ただなんて、夢見がちではなくなったはずの私。

 マナーから始まり、周辺地域の公用語、歴史などを少しずつ学び現実を見るようになってきたからだろう。


「それでキタイ国方面の、公用語の先生はどうでした? 」

 私のマナー講師であり、基礎学習の先生の伯母のメイス侯爵夫人からの質問だ。

「そうですね、相性は悪くないと思います。それに教え方もわかりやすいですし。ただ…… 」

「ただ? 」

「文字が難解すぎて。先生はいずれ魅力が分かれば楽しくなると仰っていましたけど」

「それは、私ではどうにもできないわね」

 メイス夫人は朗らかに、私に笑顔を向け話を続ける。

「文字の云々は別として、エレンが思った通りになるといいわね」

「はい、色々『もう、いつまで私を放っておくのよ』」

 話を続けようとしていたら、私室に母が不満気な態度で入って来た。

「エレンばかりお姉様を独り占めしないでよ。私はいつだって、お姉様と沢山お話したいのに」

「スカリーってば相変わらずね」

 メイス夫人は「私に困った妹よね」と言いながらも嬉しそうに母を見る。


 母が乱入してくると、いつも3人でお茶会風をする流れだ。


 母の夫人に対する態度を見ていて、私はメイス夫人にお嬢様---私の従姉でもあるキム---の事を、尋ねてみた。

「キムお姉様のご機嫌いかが? 」

「辺境伯夫人として、良くやっているみたいよ。

 私の欲目もあるでしょうけど」

 夫人は笑って答え「あら、近々会えるはずよね」と言いながら母を見る。


「そろそろエレンに伝えるつもりだったのよ。本当よ、お姉様っ!!

 でね、エレン。春の鷹狩りにお父様が参加するの」

「どこの領地で鷹狩があるの? 」

 

 平民は勿論、貴族も狩りをして食料を賄っている。

 一昨年ほど前から、天候不良が続いていた為、更に行われ始めたのだ。


 しかし近々私たちの領地で開催されるとは、聞いていなかった。

 それで、どこで狩りがあるのか聞いたのだった。


「王宮でよ。

 お父様曰く、レント王子のお披露目会みたいな感じらしいわ」

「お披露目も何も、国民全員が知ってる存在ですよ、お母様」

「つまりスカリーが言いたいのは、皇太子への布石って事だと思いますよ」

「そう、それよ。流石お姉様」

「キムお姉様も、見学にいらっしゃる予定という事ね」

「そういうこと。エレンに会えるを楽しみにしてると、手紙で言っていたわ」

「私もお姉様に今までよりもっと、お手紙を差し上げようかしら」

「そうしてあげて」

 私と伯母は話を続けるために、母上を無視した。

 

「それでね」

 母親らしい口調になり、私に声をかけてきたた母。

 伯母を私に取られたのが悔しいらしく、話を勝手に戻し始める。

「エレンにとっては、鷹狩の後の夜会の方が重要なの」

 何が重要か私には一切の説明をせず、母は自分の姉とのおしゃべりを楽し見始めたのだった。

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