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【Web版】剣と魔法と学歴社会 〜前世ガリ勉だった俺は今世では風任せに生きる〜  作者: 西浦 真魚(West Inlet)


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59 体外魔法研究部(2)


「ひゃー!かっこいー!」


俺のテンションは爆上がりした。



これだよ、これがまさに俺がやりたかった魔法だ!

なんで俺には才能がないんだ!

もし俺に才能があれば、来る日も来る日もぶっ倒れるまで練習するのに!



「凄いな2人とも!

今ので消費魔力はどれくらいなんだ?

構えてから魔法が完成するまでの時間は何に依存するんだ?

射出後の速度は?

火球の大きさと温度は可変なのか?

途中で進路を変えられるのか?

掌からしか射出できないのか?

むしろ体から離れたところに炎を出現させる事は出来るのか?

連射に制限は?

なんでそんな不思議な事ができるんだ?」



俺はここぞとばかりに質問しまくった。


百聞は一見にしかず、小難しい魔法理論の数式をこねくり回していても、具体的なイメージが一向に湧いてこなかったからだ。


もし自分が使えたら徹底的に検証するのに、という中途半端な理論も多い。



俺のテンションを見て、クラスメイト達は困惑した顔を向けてきた。

こいつらにとっては当たり前の事なんだろう。



「……魔法理論に詳しいアレンに今更説明する事でもないと思うけど…

今ので消費魔力は俺が200、ライオは800くらいか?

簡単に言うと、魔力量が多いほど威力を上げやすい。

感覚としては身体強化と同じだな。


構築速度や、魔法を小さくして純度を上げるのは体外魔力循環の精度への依存が大きいな。


体からの繋がりを絶った状態で魔法の方向をコントロールしたり、性質変化を行うのはかなり難しい。

こちらも体外魔力循環の能力を問われる技能だが、理論上は可能、という程の意味で、労力と成果が見合わないので、普通はやらない」



なるほど…


やる気が起きなくて全然練習していなかったが、どうやら体外魔法の修練の肝は、索敵などにも応用が利く、体外魔力循環だな。


威力の最大値は、最終的には生まれ持った魔力量への依存が大きいので、コツコツ魔力圧縮をする以外どうしようもない。



リアド先輩と採取に行った時も必要性を感じたし、今度こそ着手するかな…



体外魔力循環は、魔力操作の応用と言えるので、自分にその才能がある事は、感覚的にも間違いない。



だが、弓の訓練やら探索者活動やら、やりたい事が山ほどある現状で、本腰を入れて訓練する気にどうもなれない。



……正直に言うと、誰よりも真摯に、徹底的に魔力循環を鍛錬する自信があり、かつ誰よりもその道を極める自信もある。


だが……俺にはその先がない。


もしも徹底的に魔力循環を鍛え上げたとして、俺には体外魔法を使うのは無理…

そう結論付けられた時に、俺は自分が折れずにいられるか分からないから、目を逸らしているのだ。


索敵に使えるから無駄にならない、なんて気休めにもならない。


何度も言うが、それは俺が使いたい魔法じゃないからだ。



だがいつまでも目を逸らしていられる話でもないな。



ゴドルフェンの課題をクリアして、師匠を紹介してもらい、それでもその道のりが遥か彼方にあると分かったら…


その時はきちんと索敵魔法を身につけよう。



俺は密かに、そう決断をした。



「どうしたんだ?

そんな怖い顔をして…」


「…何でもない。

それよりも他のみんなはどんな魔法が使えるんだ?

ぜひ見せてくれ!」





その後も俺は、皆の魔法は見せてもらっては大興奮し、気になる点を質問しまくった。



ジュエは、5千人に1人しか使えないと言われている、聖魔法の使い手だった。


怪我人がいなかったので癒しの魔法は見られなかったが、補助(バフ)魔法を見せてもらった。



ジュエの祈りにより、その髪色に似た金色の魔力が降り注ぐバフ魔法は、神秘的とすら言える美しさだった。


聖魔法は、また発動原理が特殊で、まだ解明されていない部分も多いが、その光に包まれると魔力操作がしやすくなり、かつ使用魔力量が抑えられる事で、結果的にパワーやスピード、スタミナが向上するようだ。


ジュエの歳でバフ魔法が使えるのは、とてもすごい事らしい。



アルは氷属性の魔法士だった。


氷属性は、おおよそ千人に1人出るか出ないかという貴重な属性で、二重属性(ダブル)として扱われる。


氷属性を持つ魔法士は、必ず水属性の性質変化の才能も併せ持つからだ。


魔力量も5千強と、俺の2倍以上あり、Aクラスの生徒の中でも多い方だ。



どんな魔法かと思ってワクワクと見ていたら、触れているものを凍らせるのが基本との事で、訓練所にある木の棒を1秒ほどかけて凍らせてみせてくれた。


水も氷も、あまり攻撃向きの魔法ではないらしい。


う〜ん…


アルがいると野営してもシャワーが浴びられ、取った獲物を氷漬けにして持って帰れるな、なんて考えたが、はっきり言って地味すぎる。


それは俺が求めている氷魔法じゃない。



俺が『アイス・ランス』は?

と聞くと、『なんだそれ?』と言われた。


俺が氷の槍を飛ばす、氷魔法の基本の技だと説明したら、槍ほどの鋭利さを出すのは難しいし、そもそも砕かれて終わりだろう、氷である必要性もない、と、あっさり否定された。


俺は、例のアイスクリーム開発で培った知識を駆使して、氷はマイナス70度まで冷やすと鋼鉄よりも硬くなる、という点を説明し、それを自在に出せる事の有用性を力説した。


そしてついでに、瞬時に地面を凍らせて相手を行動不能にする魔法など、前世のゲーム・ラノベ界隈で培った知識を駆使して、夢いっぱいの氷魔法のレシピを喋りまくった。



『どれもこれも、考えるだけで気が遠くなるような難易度だな…』



アルは俺が伝えた氷魔法がいかに非常識かを説明しようとしたが、俺は『出来ない言い訳を考える暇があったら、できる手法を考えろ!これは監督命令だ!』と、最初で最後の監督命令その2を発動してアルをけしかけた。



そして、最も俺を驚かせたのはドルだ。


ゴボウみたいな顔をした、どう見てもモブキャラのドルは、何と火、水、土、光の4重属性(クワッド)を持つ、超すごい男だった。


火は15人に1人、水は50人に1人、土は100人に1人、光属性に至っては4000人に1人もいないと言われる、貴重な属性だ。


これらを一人の人間が併せ持つ可能性は、多少は遺伝的要素があるとはいえ、基本的には単純な掛け算だから、ドルはその性質変化の才能だけで、おおよそ3億人に1人という、途轍もなく希少な才能を持つ男、という事になる。



だが、そのドルはあろう事か、こんな事を言った。


『まぁ、戦闘への応用力の高い火以外は、ほぼ鍛えてないけどな。

便利だから手を洗う水を出したり、外で座る土の小山を作ったり、夜に本を読むための光くらいは出せるようにしたけど。

俺は魔力量もアレンと同じぐらいの3千弱だし、色々と手を出しても、典型的な器用貧乏になるのは目に見えてるからな』



一体全体、何を言っているんだ、このゴボウは…


俺は意味がわからなすぎて、フラフラとよろめいた。



もし俺に、その内どれか1つでも才能があれば、たとえどんなに使いにくい属性でも、どうにか応用して世界一の魔法士を目指すのに。


『ドル…

魔法士たるもの、常に無限の可能性を追求する姿勢が大事だと、あの臨床魔法士中興の祖、スピール・ジャネイロも言っている…

俺もそうあるべきだと思う。

鬼の副長、ルドルフ・オースティンが小さくまとまろうとするな!

体外魔法研究部の鉄の掟第1条は、(魔法)士道不覚悟、即退部(クビ)だ!

少なくともこの部活動では、自分の持つ無限の可能性を追究しろ!

これは最後の監督命令だ』



俺は最初で最後の監督命令その3を発動して、鉄の掟の第1条を強引に決めた。



『…最後の監督命令は、あと何個あるんだ…?』





「よ、アレン。

生活費を稼ぐために探索者活動に注力するって話だったけど、もういいのか?」


鬼の副長、ドルも近づいてきた。


珍しく俺が顔を出した事で、他の部員たちがザワザワとこちらを見ている。



「はい!ドル副長にはご迷惑をおかけしました。

当面の生活に目処も立ちましたし、これから本格的にこっちにも顔を出すつもりです!

よろしくお願いします!」


俺のドルへの態度に部員達がざわめく。



「頼むから教室みたいに、普通に喋れよ…」


「それはダメです。

体外魔法研究部(ここ)では、俺よりも遥か高みにいるドル副長に敬意を払うのは当然の事です。

見たところ、部員達のドル副長への畏怖の気持ちが足りていないように思いますが…?」



俺がそう言って、アウトローな探索者活動で培った輩臭(やからしゅう)漂う視線で舐めるように部員達を見回すと、皆がごくりと唾を飲んだ。


「チンピラみたいだな…

俺には人に厳しくするのは無理だって…」


かぁ〜!俺はドルを物陰に呼んだ。


「人に厳しくする必要はないと言っただろう。

組織を厳しく鍛えろ。

難しく考える事はない。

ドルが普段やっている水準を、部に求めるだけでいい」


「俺が普段…?」


ドルは卒なく何でもこなすが、その水準は尋常ではない。


小器用、なんて言葉で片付けていいレベルを遥かに超えている事は、朝の坂道部の訓練進捗データを見ていても明らかだ。


こいつもまた、粒ぞろいと言われる今年の1年Aクラスにあって、突出した才能を持つ、紛う事なき天才だ。

顔はゴボウだけど。


「もっと自分に自信を持て!

目に見える数字だけが能力じゃない。

お前はある意味では、ライオ以上の天才だ」


創部の時は悪ノリしただけだったが、それから1ヶ月以上ドルと付き合ってきて、俺は本気のドルを見たくなっていた。


もっと自信を持つと、こいつは間違いなく化ける。

それが目に見えるだけに、勿体無くて仕方がない。


部活動を通して自信をつけたら、ドルなら間違いなく俺が見たい水準の魔法を、実現してくれるだろう。


「はぁ…

なんで俺に自信がないのに、アレンがそんなに自信満々なんだ?

…まぁやれるだけやってみるさ」


そう言ったドルは、ほんの少しだけ決意を目に宿していた。



俺とドルが皆のところに戻ると、アルが声をかけてきた。



「…大丈夫か、ドル?

アレンの思いつきに全部付き合ってたら身が持たないぞ…

ところでアレンは、騎士団の方は大丈夫なのか?」



アルが緩いことを言っているが、これはこれで重要だ。

厳しい人間ばかりだと、組織に魅力がなくなる。


そして、俺はゴドルフェンに紹介していてもらい、とある騎士団長に師匠になってもらい、週に何回かは騎士団に顔を出す事になった。


本来は3年の夏以降に、実習生として仮団員になる仕組みを前倒しした形だ。



流石は『王の懐刀』、ゴドルフェンだ。


そんな特別扱いを押し通すと、軋轢も多いだろうに…

持つべき者は、権力者の担任に限る。


「あぁ。

騎士団には、学業に支障ない範囲で顔を出す事になっているからな。

これまでサボってきたが、俺にとってはこの週に一度の、部の開催日は重要な学校生活の一部だ」


アルは嬉しそうに頷いた。


「それはよかった。

アレンが顔を出すなら部員たちも喜ぶよ。

アレンと活動したいって入ってきた奴らも多いからな。

ほら、あそこの三つ編みの女の子は、アレンの大ファンなんだってよ」


そう言ってアルが指差した方を見ると、可愛らしい三つ編みの、清楚そうな女の子は、顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。


か、かわゆい。

だが、ファンとか言われると、夢を壊しそうで話しかけにくいな。



「…それで、アレンは具体的に、何の研究をするんだ?」


アルは心配そうに聞いてきた。


俺が体外魔法を使えないと思っているから、心配しているのだろう。



くっくっく。



「俺の魔法士としての方向性は見えた。

皆よりも遥か後方にいるが、これから俺も、魔法士を目指してここで研鑽を積ませてもらおう」


その俺の自信に満ち溢れた言葉を聞いて、アルとドル、そして周りで聞いていた部員たちは静まり返った。




23/07/02

性質変化の才能の発現確率を調整しました。

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― 新着の感想 ―
老人になって死ぬ前にライター程度の火を一瞬出せて満面の笑みで死んでほしいw
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