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【Web版】剣と魔法と学歴社会 〜前世ガリ勉だった俺は今世では風任せに生きる〜  作者: 西浦 真魚(West Inlet)


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33 分け前と朝帰り



アレンが、ゆとり面接のプロフェッショナルに、丸裸にされた帰り道。




あれほど溌剌としていた先輩は、よろよろと歩きながら呟いた。



「疲れた…

今すぐ帰って寝たいけど…

今日の事を実家に報告しないと…」



「…すみません、先輩。

口を閉じようと思ってはいたのですが、サトワさんのあの目元の味わい深い皺を見ていると、何故か先輩の素晴らしさを伝えたくなりまして…

もしかして、精神操作系の魔法でしょうか…?」



俺は、今更ながら、気持ちよく先輩の素晴らしさを喋りまくって、『手応え抜群!』と感じるこの帰り道に、不採用の山を築いていた頃の自分に既視感を覚え、不安になって聞いた。



「…そんな魔法は聞いたこともないよ…

わざとふざけているんじゃないよね?」


先輩は、恨めしそうに俺を睨みながら、深々とため息をついた。


やはり精神操作系の魔法は無いらしい…



「まぁもう過ぎてしまった事は仕方がない。

それなりの騒動にはなるだろうけど、なるようになるしかならないからね…」


憂鬱そうな先輩に、俺は努めて明るく言った。


「でもサトワさんも、会長以外には話さないって言っていましたし、そもそもそれほど噂になるような話でしょうか?」



今日俺がした話をかいつまんで言うと、先輩とたまたま知り合って、採集に同行して、感銘を受けたから探索者登録に来ました、というだけの話だ。



「…だといいけどね。

昨日も言ったけど、アレンはもう少し、自分の影響力を認識した方がいいと思うよ。

それは裏を返せば、少なくとも会長には話す、という事さ。

1人に漏れたら、話が回るのにそう時間はかからないと思うよ。


…さて、僕は実家に立ち寄るから、ここで失礼するよ」


先輩はそう言って、乗合魔道車の停留所に立ち止まった。



変な空気になってしまったが、俺はこれだけは言わなくてはと思い、先輩に最敬礼(45°)のお辞儀をしながら、感謝の気持ちを伝えた。


「リアド先輩!

昨日からの1日は、先輩のおかげで、凄く楽しい時間を過ごせました!

本当にありがとうございました!」



先輩は、また深々とため息をついた後、何かを吹っ切ったように、カラッと笑って応えてくれた。


「あっはっは。

本当にその『お辞儀』は反則だね。

何だか色んなことを、まぁ仕方ないかと許したくなるよ。

…僕も、久々に採集を心から楽しませてもらったよ。

アレンのおかげさ。

明日からの早朝鍛錬はよろしく頼むよ?」


「もちろんです!」






売却した素材は、5000リアルにもなった。

日本円で50万円以上の金額だ。


内訳は、ツノウサギの毛皮が2500リアル。

先輩が見つけた光るキノコ、ポポル茸が1500リアル。

その他の素材を全て合わせて1000リアルだ。


これを、先輩と折半して、1人2500リアルの稼ぎだ。


全て先輩が同行してくれたお陰なので恐縮だが、今朝強く折半にすべきと釘をさされたので俺は甘んじて受けた。



ちなみに、中程で2つに折れたツノは、素材としてはやはり使えないようだったが、どこかの好事家に買い手がつくかもしれないという事で、一時的に預かってもらえる事になった。


あと、ツノウサギの後ろ足の肉も持ち帰っていたが、これはソーラへのお土産にするために、売らずに取っておく事にした。


急に泊まりで採集にいったので、無断で朝食をすっぽかしている。

これで少しでも機嫌を取らねば…



そして俺は無事、G級探索者となった。



当初は、王立学園生の慣例を破り、初っ端からC級探索者として登録する、などと言われ、慣例通りD級でいい、何ならG級ならなお良い、と主張したのだが、これは適切なランクを付けるための面談で、それが私の仕事と、応じてもらえなかった。



ただでさえ悪目立ちして、変な噂が立っているところに、また慣例破りなんてしたら、どんな噂が飛ぶか分からない。



俺がなおも粘ってたら、サトワは何を勘違いしたのか、『ではB級で登録できるように会長に掛け合う』なんて事を言い出したので、俺は、登録を取り止めると宣言して席を立とうとした。


慌てて『分かりました、ではD級で!』とサトワは言ったが、こういった交渉では負い目を持って先に譲歩した方の負けである。


俺は、『G級探索者以外は受け付けない』と宣言して、何を言われても頑として聞かず、無事G級の登録証(ライセンス)を獲得した。



協会の評価がGという事で、妙に炎上しているらしい噂に、少しは水をかけられるだろう。



ちなみに、登録証の素材は、装飾の紋様に違いはあるものの、ランクによらず全て紙だ。


その昔は、1番上のAランクがミスリルで、以下プラチナ、金、と素材の価値がどんどん下がって最後のGランクは木の板、なんて露骨な差をつけていたらしいが、経費削減とトラブル防止のために廃止になったらしい。



ロマンと経費どちらが大事なんですか?とサトワに質問してみたのだが、『両方大事です』とバッサリ切り捨てられた。



G級で登録させた事を恨んでいるらしい。



まぁこんなお偉いさんに、G級探索者が会う事は今後ないだろうから、どうでも良いけど。


ちなみに、前衛職認定などは特になかった。





寮へと帰ると、なぜかフェイとジュエとケイトとステラの仲良し四人組が、一般寮の入り口に立っていた。


俺は、『やぁ、こんにちは』と山道ですれ違う登山客のように、清々しい挨拶をして、真っ直ぐに寮の中に入ろうとしたところで、ニコニコと笑うフェイに手首を掴まれた。



「おはようアレン?

寮母さんに聞いたけど、昨日は帰ってなかったみたいだね?

自分で立ち上げた部活動を断りもなくサボって、朝帰りとはいったいどういうことかな?

そんな逃げるように、寮に入ろうとするなんて、何かやましい事があったと白状しているようなものだよ?」



顔は笑っているが、ゴゴゴゴという効果音が後ろに見えそうだ。


何を彼女ヅラしているんだこいつは?



「お前には関係ないだろう!

この手を離せ…力、強いな?!」


どんな身体強化の出力してるんだこいつ?

全然振り解けないぞ?



「…大方、泊まりで狩猟にでも行ってたんだろう。

その木刀にぶら下げているのは…ツノウサギの後脚か?」



桃色ツインテールのステラがつまらなそうに言った。



「分かるのか?」


この『肉』になった後脚を見て、すぐさまツノウサギだと見分けるとは、狩猟の経験があるという事だろうか。


俺は少しだけステラに興味を持った。



「僕は信じてたよ、アレン。

アレンが女遊びなんてするわけないって。

でもケイトが、王立学園実技試験首席のブランドを引っ提げて花街に行ったら、たちまちヒーロー扱いされて、年上の女にいいようにやり込められて、骨抜き間違いなし。

花街の寵児とよばれるのは時間の問題、なんて言うから、少しだけ心配になってね?」


フェイは俺の手を掴んだ手の力を緩めた。



「そうですね。ケイトさんが、

『この年頃の男子の頭にあるのはそういうことだけよ。

一度年上の技術に溺れたら、まず快楽の沼から抜けられないわ。

無尽蔵のスタミナに物を言わせて、気がついたら朝日の差す窓辺に小鳥が鳴くのは、むしろ当然といえるわね』

なんて、断定的に言うものですから、私もアレンさんのD(童貞)がどうなったのか心配で…

こうして、詳しくお話を聞こうとお待ちしておりました」


ジュエはくつくつと笑いながら補足した。



あなたそんなキャラだったっけ?


俺のDの事はネタにするの止めてくれない?

古傷(36歳童貞)が痛むから。



俺は紫色の髪をした、委員長風の眼鏡女子、ケイトをジロリと睨んだ。



「こほん。

ステラは勇猛で知られるアキレウス家の人間ですからね。

狩猟の経験も多いのでしょう。

アレンなら知っているのでは?」


ケイトは目を逸らして、話も逸らした。


アキレウス家…


王国北西部のダーレー山脈に、今より魔物が跋扈していた昔は、ダーレー山脈の守り人、と呼ばれていた狩猟民族だった一族だ。

この王国に掃いて捨てるほどいる子爵家だが、アキレウス家の勇猛さは有名と言えるだろう。



「ダーレーの守り人か。

なるほど納得だ」


「…そんな昔の呼び名を知っているのはお前ぐらいだぞ?

いったいどうしてそんなに詳しいんだ?」



「?

興味があるからに決まっているだろう?」


俺がステラの目を見て答えたら、ステラは途端に顔を真っ赤にして狼狽えた。


「ななな、それはどういう意味だ!」



「「きゃー!積極的ぃ!!」」


ジュエとケイトが体をくねらせて楽しそうに悲鳴を上げた。


「アレン?

僕の前で堂々と他の女を口説くなんて、流石に感心しないよ?」



フェイは緩めていた手を、骨がへし折れるかと思うほど再び強く握りしめた。



なんでそうなるんだ…





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― 新着の感想 ―
ちょ! ちゃんと否定しないと!
[気になる点] 経費削減って言っても流石に登録証が紙はないんじゃないかな・・・? 常に携帯しなきゃダメなものを濡らしたら終わりな物にしたら再発行が増えてかえって経費も人手もかかってしまいそうな気がし…
[良い点] 桃色ツインテステラちゃんの照れご馳走さまです(*´ω`*)
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