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229 エリア81(4)


いつもありがとうございます!


12月8日に書籍の二巻がカドカワBOOKS様より発売されました。


書籍版をご購入くださった皆様に、この場を借りてお礼申し上げます!

本当に応援ありがとうございます!


Web版をご覧になっている皆様にも買って良かったと思っていただけるように、これからも頑張ります┏︎○︎ペコッ


ご購入を迷っておられる方も、なにとぞ応援よろしくお願いいたします!!!




地底湖から飛び出した途轍もない大きさの蛙は、その見た目の重量感通りにズンッと地を震わせて降り立った。


姿形はシュタインフロッシュと同型だが、そのサイズは牛をも丸呑みにしそうなほどにでかく、先程パーリが相手をしていた個体とは比較にもならない。


その目はブルーとブラウンのオッドアイになっており、後を追うように次々とシュタインフロッシ(小ガエル)ュ達が上がってくる。


「ディオ!」


「ああ!」


すでに動き出していたイグニスが声を張り上げると、ディオは一直線に巨大ガエルへと走り出した。



「な、なんだありゃ……シュタインフロッシュにしてはでかすぎる。……あれじゃまるで……五百年前にドラグレイドに大災害を引き起こした、伝説のシュタインベルグ(石の山)――」


ブルが呆然とそのように呟いたところで、巨大ガエルと目が合って硬直していた石工が叫び声を上げた。


「ひ、ひぃ〜、化け物だぁーー!!」



地に降りてから悠然と喉を蠢かせていた巨大ガエルは、その声に反応するように喉を膨らませ、全長一メートルもありそうな水弾を途轍もない速度で撃ち出した。


それを見たイグニスが、一歩も動けない石工と水弾の間に間一髪のタイミングで飛び込む。


ドンッ!と重量感のある音を立てて水弾は弾け、左腕でガードの姿勢を取っていたイグニスは数メートルも吹き飛ばされ地を転がった。


「「大番頭!!!」」


石工達は、Aランク探索者でありブフウの絶対王者であるイグニスが地に転がるところなど、想像すらした事がない。


坑内はたちまちパニックに陥った。


「痛つつ……なんつう魔力密度だ」


イグニスはすぐさま立ち上がり、パニックを鎮めるべく声を張り上げた。


「ぼけっとするな! 全員即刻退避だ! どう見てもSランクの魔物……恐らくは伝説のシュタインベルグだ! 本来なら即座に王国騎士団に討伐依頼が出される魔物だぞ! 奴は俺とディオで止める! 護衛とパーリはサトワさんの指示で退避のサポートに動け! レンは全体の支援だ!」


「……!」


突如現れた巨大ガエルに反射的に足を向けていたパーリは、イグニスの指示を聞き足を止めた。


口を真一文字に引き結び、奥歯を噛み締める。


そんなパーリに、ディオが静かに背を向けたまま言葉を掛ける。


「奴を見て前に出られる心の強さは大したものだ。だが…………騎士の仕事とはなんだ? お前は何のために槍を振るってきた? 手強い魔物を倒して、己の強さを誇示するためか?」



パーリは迷いを晴らすように一つ頷いて(きびす)を返し、石工へと襲い掛かろうとしている手近なシュタインフロッシ(小ガエル)ュへと襲い掛かった。


それを確認したディオはイグニスへと声をかけた。


「ふんっ。あの目の色……ダブル属性持ちの変異種か……。二人でやれそうか、イグニス」


すでにイグニスとディオは予め申し合わせていたように、アレンの射線を通す形で獲物を挟むフォーメーションを組んでいる。



「……やってみにゃ分からんが……坑内(ここ)は条件が悪すぎる……。無理に討伐しようとは考えず、皆の退避を優先しよう――」


その言葉とは裏腹に、イグニスが前に出る。


シュタインベルグは先程よりも濃密な魔力を練り上げて、逃げ惑う石工達に向け、ぱかりと大口を開けた。


イグニスは魔法が射出される寸前に顎下へと潜り込み、両手を地についた体勢で顎を蹴り上げる。


シュタインベルグの顎が僅かに跳ね上げられ、軌道が逸れたミサイルのような水弾が壁へと当たり坑内を揺らした。


「万が一ここで大魔法でも使われて、柱が折れて坑内が崩れでもしたら――全滅するぞ……!」





パーリは自分の近くに居たシュタインフロッシ(小ガエル)ュを片付けた後、坑内に素早く目を走らせ、迷う事なく出口から逆の方向に向かった。


イグニスが即座に全体に明確な指示を出したことで、パニックに陥る事態は辛くも避けられた。とはいえ石工たちはもちろん、護衛の高ランク探索者たちの足も本能的に出口の方へと向かっていて、全体のバランスにまでは意識が向いていない。



自然、出口に遠い位置で仕事をしていた石工たちの護衛はいなくなり、湧き出てくるシュタインフロッシ(小ガエル)ュに道を塞がれて身動きが取れなくなっている。


パーリは、最も出口に遠い場所で仕事をしていた石工達を取り囲んでいたシュタインフロッシュに近づき、背後から串刺しにした。



「援護する! ついてこい!」


「た、助かった! 固有種さえ何とかしてくれたら、普通のシュタインフロッシュなら俺達でも何とかなる」


このエリア81で活動するベテランの石工たちは、ある程度戦闘技能も高い者が選ばれている。


幸いな事に、湖から上がってくるシュタインフロッシュは、全てが手強い固有種という訳ではなさそうだ。


概ね体長一メートルを超えている個体が、本来土色の体に緑みが掛かっている固有種のようだ。ここの湖の水の影響を受けて、後天的に変異するのだろう。


数で言うと全体の二割にも満たない、といったところだ。



――何のために槍を振るうのか?

――騎士とは何か?


ディオの言葉を反芻しながら、パーリは石工達を背に庇い、出口に向かって走った。


いつかアレンが指摘した通り、愚直なまでに基本に忠実な槍。


丁寧に構え、腰を落とし、敵を十分に引き付けてから槍を繰り出し、素早く戻す。


対人戦においてはその美しさ故に読み易いという欠点があるが、無論利点もある。


アベニール家が数百年の時を掛け、磨き抜いてきた型。筆舌に尽くしがたいほどの反復訓練によって、その理想型を身につけたパーリの槍の威力は、その豊富な魔力量も相まって尋常なレベルではない。


先程は心を乱して不覚を取ったが、実力的には固有種のシュタインフロッシュにも十分対応可能と言える。


槍を魔力ガードで塞がれても焦ることなく敵の反撃を捌き、二の槍、三の槍を繰り出す事で、固有種を確実に屠っていく。


パーリはちらりとアレンを見た。


アレンは先程までの弛緩した雰囲気を一変させ、パーリの動きに呼応するように全体の薄い所をフォローしている。


矢を節約するためか基本的にはダガーで対処しているようだが、時折坑内を跨ぐように長距離の矢を放ち、危機的な状況にある箇所をフォローしている。


この広大なエリア81内の状況を全て把握しているとしか思えない、途轍もない視野の広さだ。


近頃はその索敵能力の高さに注目が集まっているが、決してそれだけで成せる事ではないだろう。


この突如発生した切迫した状況下で、十全に力が出せる心。


『歳は関係ない。持っている者は、生まれながらに持っている』


ディオの言葉がパーリの脳裏を掠める。



パーリは再度、奥歯を噛み締めた。


本当は気がついていた。


アレンは生まれながらに持っている。


フェイ様のように、誰に笑われても、バカにされても、己の信念を貫き通す強い心を。


『自分の心を見つめられないと、お前は道半ばで死ぬだろう』


ディオのセリフがパーリの心をチクリと刺す。


本当はとっくに気が付いていた。


自分はフェイとアレン(あの二人)とは違うという事を。だがそれを認めるのは怖かった。


フェイ様の横に並び立ち、あのお方を支える資格を失ってしまいそうで。


――何のために槍を振るうのか?

――騎士とは何か?


ディオの言葉を反芻しながら、愚直に槍を振るう。


 ドラグーン家の情報部が調査したという、ディオ・リングアートの出自とその生き様については、実は父から近頃聞いていた。


 父はディオを手放しで絶賛した。羨ましいとも。


 確かに凄いと、騎士の鑑だと思った。


 だが一方で、父がどれ程の苦労をしてこの国に貢献してきたかを見てきた自分としては、心に薄暗い気持ちが生じたのも確かだ。


 さらに、自分はそのニックス・フォン・アベニールの子なんだと、下らないプライドで反発する気持ちがあった。



パーリはふと、つい先日までまるで見えなかった自分自身の心の動きを、はっきり認識できる自分に気がついた。


あの人(ディオ)の言葉は、不思議と凝り固まっていた自分の心の深奥を揺らす。


アレンに出会って以来、己を蝕むように濃度を増していた心の霧がほんの少し晴れたような感覚を、パーリは確かに感じ取っていた。



俺に足りていないもの。


そして、今はまだ霧の向こうにある、未来の自分。



『この二つ名には、パーリはいつかその『鋼鉄の意志』をもって、『山をも貫く』ほどすげぇ男になるって想いが込められてんだってよ!』


鋼鉄の意志で山をも貫く――


パーリはそのあまりに荒唐無稽な高すぎる理想に、つい笑みをこぼした。



アレン・ロヴェーヌよ――


お前は出来る(・・・)と…………俺にならそれが出来ると言うのだな?



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書籍第6巻が2025年8月8日カドカワBOOKS様より発売します。
応援宜しくお願いいたします!┏︎○︎ペコッ
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田辺狭介先生による剣学コミカライズも2025年8月8日書籍6巻と同日発売です!

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― 新着の感想 ―
反発は、言い換えれば意識しているからこそ生まれる。 意識さえしなければ、人は敵意すら持たない。 誰よりもアイツには負けたくない! その想いが正しい方向を向いた時、不断の努力は実を結ぶ。 荒削りの、しか…
[気になる点] パーリ君の、「自身の心の在り処」を見つける事の難しさはとてもよく分かる! 僕も不幸な学生生活を強いられていた時期、心の底から他人に興味が持てない状態で そんな自分を否定するために実る道…
[良い点] もう未来人の被害者枠まったなしだな ドリパくんの覚醒も近そう
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