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友達料金

「お腹が空いたわね」


 その一言で食堂へ移動することになった。

 私はニノさんの背中を追いかけながら周囲を見る。


 どこを見ても同じ景色。白い壁、白い天井。床は鼠色のカーペットで幅が2メートルくらい。壁には同じ模様のドアが等間隔である。


(……迷子になりそう)


 頭痛を感じ始めた頃、大きなドアの前に辿り着いた。そこへ繋がる廊下は他よりも幅が広く、ドアの上部には「食堂」というプレートがあった。


 どんな食堂なのだろう?

 少しだけ緊張しながら中に入る。


 そこはスーパーのフードコートのような場所だった。内側にはテーブル席や一人席があり、壁側にはカウンターがある。


(……人がいっぱい)


 とても馴染みのある景色。

 非日常から日常に戻ったような気分だ。


「ハル、アレルギーはある?」


 ニノさんの声。

 彼女は券売機の前に立っていた。


「特に無いです。何でも食べられます」

「何でも? ふーん、そうなの。その言葉、忘れないで頂戴ね」

「……どういう意味ですか?」

「さあ? そのうち分かるんじゃないかしら」


 彼女はクスクス笑いながら券売機を操作して、2枚の食券を発行した。


「あれ? 支払いどうやったんですか?」

「顔認証よ」

「すごい。未来感ありますね」

「ええ、組織は常に最先端の技術を取り入れているの」


 ニノさんは柔らかい笑みを浮かべて、私に食券を差し出した。


「とりあえず日替わり定食にしたわよ」

「ありがとうございます。いくらでした?」

「1Pだけれど、もちろん私の奢りよ。そもそもハルの所持金は0Pでしょう?」

「そうでした……最初のポイントって、いつ貰えます?」

「一週間後かしら? ハルの持つ資産が全てPに変換されるはずよ」

「……どうやって?」

「言ったでしょう? 組織は政府公認なの」


 私は言葉が出なくて、ごまかすようにして苦笑した。

 幸い私には家族も友人も居ないけれど、そうじゃない人の場合はどうなろうのだろう?


(……やめよう。考えない方が良さそう)


 私は思考を中断して、ニノさんに言った。


「すみません、ごちそうになります。ポイントが入ったら返しますので」

「奢りだと言ったでしょう? まあでも、そんなに気になるのなら友達料金だと思えばいいんじゃないかしら」

「……友達料金?」


 知らない単語に首を傾げる。


「あら、ひょっとしてハル、現世ではぼっちだったの?」


 彼女は急に無邪気な笑みを浮かべて言った。


「もしかして、私が初めての盟友(とも)ということになるのかしら?」

「……そんな感じです」

「ふーん? なら仕方がないわね。初めての盟友(とも)として、教えてあげる」


 彼女は「よく聞きなさい」と言いながら人差し指を立てて、


「友達料金とは、友達になることを申し込んだ方が定期的に支払わなければならないお金のことよ」


(なにそれ知らない)


「だからハル? 不用意に盟友(とも)を作ってはダメよ?」


 絶対に何かおかしい。

 でも、こんな笑顔を見せられたら何も言えない。


「ありがと、気を付けるね」

「いいのよ、これくらい。だって、盟友(とも)なのだから」


 彼女は満足そうに言って、カウンターへ向かった。その背中を追いかけて、気の良さそうな若い女性の店員さんから日替わり定食を受け取る。メニューは魚と米、みそしるにサラダという身体に良さそうな和食だった。


「ふふ、盟友(とも)と肩を並べて食事をする。悪くないわね」

「……そうですね」


 ニノさんは、空いているテーブル席を無視して、とても慣れた動きで一人席に座った。自然と私も隣に座ったから、肩を並べるという表現はピッタリだった。


「さて、何か聞きたいことはあるかしら? 何でもいいわよ」

「ええっと、色々ありますけど……」


 何から質問しようかなと考える。

 ステータスについては教えて貰えたけれど、この組織については、まだ分からないことだらけだ。


(……まあ、焦ることないよね)


 正しい順番で質問しなければダメとか、回数制限とか、そういうのは無いはずだ。

 私は軽く息を吐いて、ニノさんに目を向ける。と、そこで──


「おや、これは珍しい。ニノ、今日は二人なのかい?」


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