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純白の少女 4

「ハルは今日から公務員になるわよ」


 全く脈絡の無い言葉。

 私がぽかんとしていると、彼女は説明を始めた。


「要するに転職よ。前職については退職代行サービスがあるから安心しなさい。さて公務員という言葉で察していることかと思うけれど、組織は政府公認機関なの」


 彼女は指を二本立てて、


「初任給は200Pだったと記憶しているわよ」

「……ぴー?」

「こちら側で使えるポイントよ。私はもうずっとこっちに居るけれど、現世に戻る時は1Pあたり1000円くらいで交換できるらしいわよ」

「……なるほど?」

「あら? もしかして少ないとか思った? ふふ、安心しなさい。福利厚生として、家具・風呂・ニノ・そして各種家電付きの部屋が与えられるわよ」


 あまりピンと来ないけれど、生活には困らなそうかな?

 もちろん環境が激変することに対する戸惑いはある。でも……なんというか、割とあっさり受け入れている自分が居る。


 あの起伏の無い普通の生活を手に入れるためにそこそこ頑張ったはずなのに、それを手放すことに違和感を覚えられないことが、なんだか寂しく感じられた。


「福利厚生として、家具・風呂・ニノ・そして各種家電付きの部屋が与えられるわよ」


 ……なんでもう一回言ったのかな?

 不思議に思っていると、彼女は一歩近付いて私の目を見つめながら言った。


「家具・風呂・ニーノ。そして各種家電付きの部屋が与えられるわよ」

「……えっと、ニノさんと相部屋なんだよね?」


 ……あれ、私なにか間違えてる?


「一度しか言わないから忘れないで頂戴ね。私、メンタルが弱いの」

「……そう、なんですか?」

「そうわよ。だから今みたいにお茶目な発言をスルーされると、後で思い出して枕を濡らす可能性があることを心に刻んで頂けるかしら」

「……はい」


 彼女はコホンと大袈裟に言って、


「家具・風呂・ニノ、そして各種家電付きの部屋が与えられるわよ!」

「わー、すごい! ニノさんと一緒なんだね!」


 彼女は満足そうな表情を浮かべて胸を張った。

 まだ出会ってから数分だけど、やっぱり個性的な子だなと思った。


 * * *


「はぁ、疲れた。事務的な手続きって、どうしてこう面倒なのかしら」


 それから約三時間後、私はニノさんの部屋に居た。

 まあなんというか、彼女が言う通り面倒な手続きだった。


 どうやらステータスを持つ人は十万人に一人か二人くらいらしい。

 そして組織には明確な目的があり、それを達成するためにステータスを持つ人々を集めているそうだ。その一環として、ステータスが現れる条件を特定する研究があるらしい。だから私は、それはもう事細かに質問攻めされた。解答するか否かは「任意」だったけれど、強制力としては「歓迎会やるから来たい人だけ参加してね」みたいなものだった。


 質問攻めが終わったら健康診断と身体能力検査。

 測定されたり、採血されたり、走らされたりした。


「ハルは意外と体力があるのね。等級2の私が見ているだけで疲れてしまったのに、まだまだ余裕がありそうじゃない」

「あはは、疲れてる余裕が無いだけかもです」


 正直、途中から頭を空っぽにしていた。

 もちろん気になることは沢山あったけれど、考えても仕方のないことだと思った。


 これから生活が激変することは分かる。

 でも私は変わらない。私が大事にするのは、目先のことだけだ。


「これから私は何をすることになりますか?」

「今日は食事、入浴、睡眠。それだけよ。仕事は明日からね」

「……どんな仕事ですか?」

「調査よ」


 大きなベッドに突っ伏していたニノさんは身体を起こした。

 それからベッドの縁に座り、真剣な表情で私を見て言った。


「まず事務的な話をするわね」

「お願いします」

「等級1の者は、必ず等級2以上の者が面倒を見ることになっているわ。もちろん、ハルの面倒を見るのは私よ」

「よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね」


 彼女は微かに笑みを浮かべて言った。

 それを見て私は、あらためて綺麗な子だなと思った。


 真っ白な肌と紅い瞳。

 それを見ていると、これから非日常の世界が始まることを痛感させられる。


「さて、私の仕事は、簡単に言えばハルを等級2にすることよ」

「等級って、ステータス画面に出てくるアレのことですか?」

「その通りよ。基本的にはレベルを上げてボスを倒せば上がると思ってちょうだい」

「……レベル、ボス?」


(……やっぱり戦うのかな? それとも何かの比喩なのかな?)


「ハルの仕事は、死なないことよ」

「……えっと、この仕事って、死ぬことあるんですか?」

「ありありよ」

「……そう、なんですね」


 死の可能性について、彼女はあっさりと肯定した。

 ステータス画面を見た時から何となく想像してはいたけれど、それでも今の言葉を聞いて動揺してしまった。シンプルに、死ぬのは怖い。


「一応伝えておくけれど、等級1の間はいつでも普通の生活に戻れるわよ。もちろん厳しく監視されるけれど、そこは覚悟して頂戴ね」

「……等級が変わると、何か変わるんですか?」

「そうね。ではステータスの話をしましょうか」

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