純白の少女 3
結論から言えば、私は首を縦に振った。
その時の私は、まだステータスの意味も、これから起きることも、まるで理解していなかった。だけど……友という言葉の響きが、何だかとても魅力的に感じられた。
私は普通になりたい。
理由は、普通じゃなかったからだ。
皆が学校に通う頃、私は薄暗い場所に居た。
皆が友達と笑い合っている頃、私は自分と会話していた。
そのまま少し特殊な経緯で通信制の高校に入学し、社会人となった。
これまでの人生で友人と呼べる存在は一人も存在しない。
もちろん予感はした。
この誘いに頷けば、きっと私は非日常に誘われる。
普通を失うこと。友達を得ること。
ふたつを天秤に掛け、微かに緊張した様子の少女を見た時、ほんの微かに、天秤が傾いた。
「嬉しいわ。これからよろしくね、ハル」
「……えっと、はい。よろしく、おねがいします?」
私は何を言えばいいのか分からず、首を傾げながら返事をした。
彼女はしばらく私の姿を紅い瞳に映した後、さて、と声を出して別の場所を見た。
「封印を解くわね」
「……あ、はい、お願いします」
目だけ動かして見守る。
どうやら私はベッドのような台の上に寝かされており、手首と足首を何か黒い物で拘束されているようだ。彼女はその黒い拘束具を摑むと、当たり前のように引き抜いた。
(……なんか、すっごい嫌な音したけど大丈夫かな?)
その動きだけ見れば、落とした小銭を拾うような力の入れ具合だ。
しかし音がおかしい。バキッ、みたいな明らかに何か壊れた音が聞こえる。
そのまま彼女は四つの拘束具を取り外すと、無造作に部屋の隅に投げた。
(……メッチャ重たい音したけど気のせいかな?)
「これで起きられるかしら?」
「……あ、はい、大丈夫そうです」
私は自由になった手足に力を込めて身体を起こす。
そこで、ふと違和感を覚えた。
(……なんか、いつもより視界が広いような)
「狭くて湿っぽい部屋よね。さっさと移動しましょう」
いつの間にか出入口付近に立っていたニノさんが私を見て言った。
「えっと、どこに行きますか?」
「そうね……まずは手続きかしら。貴女が私の所有物……じゃなかった。盟友であることを周囲の有象無象にアピールするわよ」
よく分からないけれど、手続き的なことだろうか?
私は硬いベッドから降りて、彼女の背中を追いかけた。
部屋を出た先には、廊下があった。
ホテルの廊下を狭くしたような作りで、一定間隔でドアが見える。
距離はそれほど長くない。
十メートルくらい先に曲がり角が見える。
(……存在感、すごいな)
無言で歩くニノさんの後姿を見て、思った。
とにかく白い。着ている服こそ黒を基調としているものの、彼女自身が見える部分は、そこだけ真っ白なペンキで染められているかのように白い。
「ああそうだ、言い忘れてた」
曲がり角の手前、彼女は足を止めて言う。