小説投稿サイトの退会ボタンを押そうとしたらタイムパトロールのエルフ美少女に「退会しないで」とお願いされたので、交換条件で「付き合って」と言ってみた。
ジャンルは悩んだ末の「現実世界〔恋愛〕」ですが、異論は受け付けます(´;ω;`)
サブタイトル→未来からエルフ嫁がやって来た。
ヒロインの「マリエクラウド・北条」の絵が最後にありマス。
1
その女は突然クローゼットから現れた。
「早まっちゃダメーーーー!」
その時、俺はPCに向かってマウスを握り、【小説家になってやんよ】――いわゆる【やんよ】の退会ボタンをクリックする寸前だった。
退会理由?
そんなの、読まれないからにきまってるじゃん(涙)。
せっせと書いた小説が全然読まれない俺って、才能ないんだーー!
高校生で書籍化作家になるなんて、とうてい不可能な夢なんだーーッ!(号泣)
(俺は、この退会ボタンを、ぜったいに押す!)
そう強く決意し、退会ボタンをクリックしようとしたその時、その女が突然現れたのだ。
「右手をマウスからゆっくりと離して、両手を上げなさいッ!」
「俺のマウスは凶器か何かなのか? ていうか、アンタ誰なんだ、突然、俺の部屋に入ってきて――――!?」
2
少々自己紹介をさせてもらうと、俺は「高校在学中に書籍化作家デビュー」を目指す現役高校生小説家である。
――いや、だった。
過去形だ。
俺は、もう作家をやめるからな。
しかし、俺は今現在進行形で「小説投稿サイトを退会するな」と説得を受けているトコロだ……
「――――あなたの小説というより、あなたの小説に影響を受けた作家が書いた小説が重要なの――――」
信じられないことだが、俺の部屋に、俺の目の前にスーパー美少女がいる。
それも、俺が異世界転生モノ小説を書くときに妄想していた理想のエルフ美少女そのものなのだ。
耳が細長く尖っていて、透き通るような金髪、顔面偏差値はめちゃくちゃ高く、テレビで見てきたどの芸能人も顔面真っ青で「回れ右」するに違いない超美少女。
まあ、俺の理想とするエルフが金髪なのは、作者としての感性が古いと蔑まれても仕方がない。
「金髪エルフ娘は『もう古い』。時代は銀髪エルフ」
しかし、金髪エルフは俺の深層心理に刻み込まれてしまっているのだ。
幼い頃見たライトノベル(お色気要素アリ)によって――――。
……ソレ(俺の感性の古さ)はさておき。
俺は今、夢にまでみたファンタジー金髪エルフ美少女に「退会ボタンを押さないよう」説得を受けている。
……これは現実か? 頬をつねりたいが今は事情があってムリだ。
もちろん、俺の退会の意思は固い。
この女の説得などで、男が1度決めたコトをそう簡単に曲げるワケにはいかない。
だが、彼女の言葉を無視できない大きな問題が3つも発生していた。
1つ目は、この女が俺の部屋のクローゼットから突然現れたコトだ。
この女はずっとクローゼットに隠れていたのか?
泥棒するような人間には見えないが、実はそうなのか?
やはり、人は見かけによらないというのか?
悪い方の意味で――――
2つ目は、尖った耳だ。
その耳は本物なのか?
もし本物の耳なら本物のエルフ、つまり異世界人の可能性があるコトになる。
それともタダのコスプレなのか?
おしゃれコスプレ泥棒だというのか?
3つ目は、彼女が着ている未来的な衣装である。
未来を先取りしたかのようなコスプレ衣装が体にフィットし過ぎていて、あちらこちらの悩ましい女体曲線が純情男子高校生(=俺)の純情を弄び始めている。
「――――ねえさっきから、あなたちゃんと聞いてる!?」
「むぐぐ! むぐぐ、むぐぐ!」
「『むぐぐ』だけじゃ何言ってるか分かんないんですけど!?」
もう1つ問題があった。
最後に、俺が猿ぐつわされて縛られていることだ――。
3
「ヒドいよな、猿ぐつわしておいて『何言ってるか分かんない』って」
「世界の危機を回避する為に仕方なかったの、ごめんなさい」
猿ぐつわは外してもらえたが、両腕はまだ後ろ手に縛られていて身動きは取れない。
とりあえず、彼女の言いたいコトはだいぶ理解出来たと思う。
その衝撃の内容を簡単にまとめると、こうだ。
a.彼女は近未来(西暦2500年)の日本から来たタイムパトロール隊員。
b.将来、世界を致命的な危機が襲う。(致命的な危機の内容は極秘)
c.致命的な危機を回避できるたった1本のルートを発見した。(それが俺のいる世界線)
d.俺が小説投稿サイト【小説家になってやんよ】を1度でも退会すると、たった1本のルートも可能性が途絶えてしまう。
e.彼女は今、世界のピンチを救った。←イマココ
「……俺がソレを素直に信じるとでも?」
「そうね……クローゼットを見てみて」
そういえば、彼女は俺の部屋のクローゼットから出てきたんだった。
アンタ、いつから隠れていたんだ?
ま、まさか、随分前から隠れていたのか?
それはヤバいんだが。
彼女が現れる数時間前、俺はいったい何をしていた?
思春期の男子高校生をナメるなよ(?)。
彼女が俺の座っているキャスター付き椅子を、コロコロとクローゼットの中が確認できる位置に移動させる。
――な、なんじゃ、こりゃー!?
俺のクローゼットの中は近未来的なメカメカしい機械がぎっしりと詰まっていた。
「こ、これは?」
もしかして、ここにかけてあった俺の服は全滅か?
「もちろん、わたしの乗ってきた Time Machine よ」
「タイムマッシーン」の発音が妙によい。
しかし、俺の服が全然見当たらない。
やはり全滅なのか――――あっ、あそこの床に落ちている布切れは、俺の……?
こ、コイツ…………
「中も見てみて?」と言って自慢気にタイムマシーンのドアを開けて見せてくるこの女への怒りが、フツフツと沸いてくるのだった。
でも、おお。
タイムマシーンの中、機器とか未来っぽくてすげぇな……。
4
「ということは、やっぱり俺はこの先、書籍化やプロデビューができないということか?」
「そ、それは、そうなんだけど……」
畜生。
この女にハッキリと書籍化作家の夢を絶たれてしまった俺。
やっぱり【やんよ】退会は避けられないようだ……。
「じゃあ、やっぱり退会するしかないな」
「ち、違うの! あなたの小説は確かに書籍化しないわ。でも、あなたの小説に影響を受けた作家が書いた小説が、さらに世界を救う科学者たちにインスピレーションを与えるのよ! あなたの小説が1番の鍵なのッ」
「でも、俺の書いた作品は無名なままなんだろう?」
「それは違うわ。西暦2500年には、あなたの書いた作品は全て書籍化して、世界図書館に収蔵されると決定しているわ」
西暦2500年に書籍化かぁー……。
それ、俺に何かいいことってあるの?
「世界が救われて、俺に何かメリットあるの?」
思い付いた疑問をそのままぶつけてみる。
「め、メリット? そ、そうね。西暦2500年にはあなたの銅像を建てると約束するわ。それから、全世界の人があなたに感謝するでしょう。あなたの生まれた日も全世界の祝日にする。わたしに与えられた権限でそのくらいは約束できるわ」
おま、それを俺が喜ぶと本気で思ってんの?
「いやいや、全然嬉しくないんだが。例えば、今、報償金とかが貰えたりするとかはないの?」
「お金は……未来から金品を持ってきて渡すことはできないわ。未来から過去に影響を与えることは出来ないの」
「いやいや、矛盾! アンタの今していることと矛盾があるでしょ」
「今あなたと接触しているコト……今回のコレは超法規的措置により許されているわ。ソレ以外は通常の時間旅行法に従う必要があるの」
み、未来、使えねえ。
ていうか、「超法規的措置」って初めてリアルで聞けたわ。
それだけは得した。
「ふ、ふーん。じゃあ、だいぶ譲歩して、例えば俺の子孫も救われるとかあるの?」
「それは……あなたは恋愛とか結婚はしないから子どもが出来る事実はないはず……あ、これ言っちゃだめな情報だったカモ」
金髪エルフ美少女が急にあたふたと焦り始める……。
おい。
やっぱり世界滅ぼしてやろうか。
5
「ところで、アンタの耳が細長くて尖っているのは、やっぱりエルフだから?」
ちな、俺の腕はまだ後ろ手にされたままだ。
「どこまで話していいのかしら……そうよ。エルフの血が少し混じってるわ」
「す、すげえ。それは人種改良? それとも進化?」
「西暦2500年には異世界との往来、それから血の交流が一部解禁されてるの」
「へ、へえ。未来では異世界と繋がっちゃうんだ? そんなスゴすぎる情報、俺に話しちゃってもいいのか?」
「いい。あとで記憶消させてもらうつもり」
おい。
タイムパトロール隊員の過去人の扱い、ヒドイな。
「それにしても『この先俺は恋愛と結婚はしないし子孫もいない』って話を俺本人にするって、いくらなんでもアンタひどくない? 俺、これから生きていく自信が無くなったんだけど」
「ご、ごめんなさい。あとでその記憶も消させてもらうわ」
「ああ、モチロンそうしてくれ」
6
「じゃあ、さっさと俺の記憶を消して、アンタは未来に帰ってくれよ」
俺は半分キレぎみに、このf○ckin金髪エルフ美少女に言ってやった。
「待って。……わたしがここであなたの記憶を消して未来に帰るだけではダメみたい。あなたはこの後、【小説家になってやんよ】をまたすぐに退会しようとするという計算結果が出てるわ」
バレてしまってるか。
彼女の持っているタブレット端末のような機械に、俺の思惑は見抜かれてしまったようだ。
「とにかく、あなたが自発的に【やんよ】の退会を諦めるようになるまでは、わたしは未来に帰らない」
「勘弁してくれ……」
7
でも、よく考えたら女子(?)とこんなに話すの久しぶりだな。
1ヵ月前に握手会に行って以来(?)だ。
それに、状況が状況だからか、全然あがらず、対等(?)に喋れているし。
加えて、俺のよく行くメイドカフェの店員やそこら辺の地下アイドルなんか目じゃないくらいの美少女さんだし。
せっかくだからもう少し『お話』してもいいかな……。
「なあ、アンタの名前と歳は?」
「わたしの名前はマリエクラウド・北条、17歳よ」
17歳ってほぼ俺と同じ高校生くらいじゃね?
てことは、女子高生――JKじゃん。
「へぇ、カッコかわいい名前だね。それに17歳、俺の1つ年上センパイか。未来の世界は17歳でもう働くのか?」
「ふふふん。17歳で働けるのは、わたしが特別優秀という証。この歳でタイムパトロール隊員になれたのは、わたしが史上初なんだから」
おっ。
なんか得意げになると、カワイイ一面が出てくるな。
ドヤッた笑顔にドキッとした。
「なあ、でもどうして【やんよ】を退会したらいけないの? 俺が【やんよ】にサイト登録したのは、高校在学中に書籍化作家になる為だけ。それだけなんだ」
「……あなたの投稿した作品は確かに書籍化されない。でも、それだけが作品の良し悪しの全てではないわ。現に未来、あなたの投稿した作品に影響を受けた有力作家が何人も出現するのよ。これだって凄いことだと思わない?」
「ふーん……じゃあ、分かった。退会しないで、そのまんまにしておいてやるよ。もう投稿はしないけど」
「ま、待って! 投稿はこのまま続けて欲しいの。あなたが投稿すればするほど、世界が救われる可能性が上がっていくと計算結果が出ているわ!」
「お、おい。ふざけんなよ。書籍化しないって分かってるのに、俺に書き続けろだと!?」
もう俺、この女に全ギレしてもいいよね?
8
「分かった。いい交換条件思い付いた。これ以外認めないからな」
怒りで染まりかけた俺の脳ミソに、稲妻が落ちるかのように天啓が降ってきた。
「えっ、えっ。な、なに。どんな条件? ま、まさか――」
金髪エルフ美少女が、俺の視線から身を守るかのように両腕で自らの体を抱きしめながら、俺を軽蔑の目で見てくる。
ふん。そっちが俺を怒らせたからだかんな!
条件はコレだッ――――
「俺と付き合ってくれ」
金髪エルフ美少女は悩む素振りもなく即答した。
「えっ、無理 ごめんなさい」
9
こ、この女、即答かよ。
カワイイ顔して、ムカつくッ!
「アンタよく考えろよ。世界の未来がかかってるんだぞ。俺は世界の未来なんかどうでもいいと思ってる男なんだぞ」
もしかしたら、第三者から見たら俺って相当クズなんだろうか。
でも、こんなチャンス2度とないかもしれん。
だって俺、このままだと恋愛も結婚もノーチャンスらしいし!
「えっ、でも、お付き合いするってなったら、子ども出来ちゃうかも知れないじゃない。そしたら歴史に影響が出ちゃう」
えっ、そっちの心配?
俺がキモいとかじゃなくって?
「ちょっと待て。俺がそんな子作りとかすぐ出来そうな陽キャに見えるか? せいぜい、手をつないだりするくらいしか要求しねーから」
「そ、そうなんだ。ふーん。奥手クンなんだね」
「ああ。安心したか? 俺と付き合ってくれるか?」
「しょ、しょうがないわね。いいわよ。世界を救うためだもの」
ま、マジかぁー!?
俺の初カノがこんな金髪エルフ美少女!?!?
ライトノベル展開、キタコレ!!?!!?
10
最初に言っておく。
この章は激甘だから、読み飛ばすことをオススメするぜ……。
「ま、マリエクラウドさん、これからよろしくね」
「う、うん……」
お付き合いすることが決まった2人は、俺の部屋のベッドの上で、正座して向かい合っていた。
モジ
モジ
ドキ
ドキ
何とも言えない甘ったるい空気が2人の間を流れる。
こういう展開の時、どうしたらいいんだ?
……そうだ。
俺は現実の恋愛経験はゼロだけど、ラノベの恋愛モノ読書量なら学内トップ(なハズ)の漢。
恋愛小説だってモチロン何作も書いている(全て妄想)。
これまで読んできた&書いた恋愛小説のキャラたちよ。
俺に力を貸してくれッ。
「マ、マリエクラウドさんのコト、これから何て呼んだらいいかな?」
「あ、あなたの好きな呼び方でいいわよ」
「じゃ、じゃあ、マリピとかどう?」
「マリピ!? ぷっ……うん、かわいくていいかも」
お、いい感じの会話になってきたぞ。
そうだね、まずはお互いのヒミツの呼び名を決めたりするのがいいよね。
……ここで、自然にそっと手を握ってみたりして。
「あっ」
手を握られてピクッとなるマリピ。
うわっ。
なんてスベスベで柔らかいしっとりオテテなんだッ!?
「マリピは、これまで付き合ったことあるの?」
自然な会話を心がけるが、意識はほとんど右手に持ってかれてる俺。
――実は、後にマリピ本人から、この時の俺のセリフが「飲み屋のエロオヤジみたいでかなりキモかったけど我慢した」と告白されるのは別の話だ(涙)。
「えっ、ない。お付き合いは初めてよ」
「じゃ、じゃあ。俺が初彼氏ってこと?」
「う、うん。初彼ピ」
「初彼ピ」の響きにゾクッとした悦びを感じてしまう俺。
「マリピ」と最後の音がお揃い「初彼ピ」。
そして、顔を真っ赤にするマリピ。
おそらく俺も顔真っ赤っかである。
マリピ、めっちゃかわいいじゃん。
顔を赤く染めてテレる、17歳金髪エルフ美少女。
「マリピ、俺より年1つ上だけど、年上扱いされたい方?」
何気ない会話を装いながら、顔はマリピに近づけていく。
右手の指をマリピの指に絡ませていくのも忘れない。
ちな、ラノベ主人公テクニックだ。
「年上扱いは、イヤかな。今ぐらいの感じがいいな」
マリピの顔も俺の方に近づいてくる。
こ、これは……
イタズラっ子のように微笑むマリピと自然と目が合ってしまう。
それまで彼女の表情と様子を盗み見たり、部屋の隅を無意味に見てるだけだった俺の視線が、彼女の視線に絡め取られてしまった。
もう逃げられないと感じた。
俺はマリピに捕獲されてしまった……。
観念してマリピと視線を合わせていく。
すると、マリピの瞳がとても潤んでキラキラとしていることに気づいた。
半開きの唇もとてもぷるぷるとしていて柔らかそう。
は、犯罪級に美しいかも。
美し過ぎるタイムパトロール女子を目の前にして、不覚にも俺のノドが、ゴクッと音を鳴らしてしまう。
俺カッコ悪い(汗)。
「ど、どうする? チューする? チューしちゃう?」
「そういう情けない質問する彼ピには、不許可です」
挑発するようにマリピが不敵に微笑む。
くそっ!
そっちがその気なら、俺だって!
「マリピ」
「あっ……♡」
覚悟を決めた俺の雰囲気で察したのだろう、マリピの瞼が超長いまつげと共に閉じられていく。
俺の唇が未来から来た金髪エルフ美少女の唇にゆっくりと着地していく。
未来と過去が繋がった、超・歴史的瞬間だった。
(うわっ、やらけーーッ、溶けるーーーッ、次回作に活かそう……)
悲しいかな、俺はどこまでも小説家脳だった。
11
俺の部屋のクローゼットからマリピが現れて数年が過ぎた。
俺は「高校在学中に書籍化しそのままプロ作家デビュー」という夢をすっぱりあきらめ、現実路線を歩んでいた。
高校卒業後は地元の大学に実家から通い、大学卒業後は地元の大手企業に就職。
そして、俺は今日から念願のひとり暮らしを始める――――
「もう。ひとり暮らしって何よ。ふたり暮らし、でしょ?」
「ゴメンゴメン。ふたり暮らしでした、そーでした」
まだ親バレは出来ないからな、すまんマリピさん……。
俺の側には超絶金髪エルフ美少女のマリエクラウド・北条さん23歳がいる。
ふたり暮らしに選んだ部屋の最大の決め手は、大きめなクローゼットだ。
しかし、全然見た目変わんないな。
出会った頃のまんま、17歳美少女JK。
やっぱエルフの血が入ってるからか?
そういえば、あの後、マリピが俺の学校に転校してきたりするイベントもあったんだよな。
女子高校生姿のマリピは、ホントかわいかった……。
「まだ未来に帰らなくてもいいのか?」
「うん。今帰ったら、彼ピが【やんよ】退会して世界が滅ぶという計算結果がでているからね」
そ、そうなのか。
俺ももう流石に、退会しようとは思ってないつもりなんだけどな。
でも、マリピが未来に帰る日が1日でも遅いことを心の底より願っている。
12
それからまた数年後、俺とマリピは厳かなチャペルにいた。
「本当に、このまま俺と結婚式あげてもいいんだな?」
「うん。憧れだったもの。この時代の結婚式。白のウェディングドレス……」
マリピは未来人だから、俺と籍を入れることは出来ない。
だけど、結婚式だけなら挙げてもいいんじゃないか。
――――という俺の提案に、マリピは涙を流さんばかりに喜んでくれた。
今、目の前にウェディングドレス姿の金髪エルフ美少女マリピが、目を潤ませて、頬を染め、心の底から嬉しそうに微笑んでくれている。
「本当にキレイだ……マリピ。俺は永遠にマリピだけを愛する」
「もう。……わたしもよ、彼ピ。いや、今日からはシュキピに進化ね」
「なんだそれ」
俺とマリピは思わず笑った。
「マリピ……」
「シュキピ……」
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ふたりの為にカリヨンの鐘が3度鳴り響いた。
13
最近、仕事と新婚生活は共に順調で、趣味の執筆活動も筆のノリがいい。
心身共に充実している感がある。
――これ、やっぱりマリピの応援のお陰だな。
と、心の中でひとりノロケていると、【やんよ】の新着メッセージを知らせる赤文字が目に飛び込んでくる。
そのメッセージを開いた俺が見たものは――――
「お、お、お、おい。マリピ! 何か書籍化の打診が来てるんだけど、コレどうしたらいいんだ?」
ヤバいヤバい、ヤバいッ。
俺、もしか歴史を変えちまったんじゃ?
書籍化を断ればまだ大丈夫か?
――俺、まだマリピといれるよな??
「シュキピ、おめでとう! 歴史を変えたんだね。計算結果も……うん、大丈夫。書籍化の話、うけても大丈夫だよ」
「でもコレって、未来を変えたことになるんじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫。未来の力を使ったとしたら問題だけど、これは100%あなたの実力。シュキピの努力が運命の扉を開いたのよ。これであなたも書籍化作家の仲間入りね」
(でも、コイツの応援が無かったら、絶対ムリだったと思う……)
「だけど、仕事は辞めちゃだめよ。兼業プロ作家として、今の仕事も続けなさい。分かった?」
「ああ。もちろんだ」
「それにしても、ホント凄いわ。流石、わたしのシュキピね。今日はお祝いだからご馳走ね。あなたの好きなカニクリにしましょう!」
ルン♪ とキッチンに向かうマリピ。
でも、本当に俺が……書籍化作家の夢を……?
一度はあきらめた、書籍化作家に……??
とてつもない大きな歓びの波が俺を襲ってくる。
「やったーーーー!」
「もう、シュキピ! ご近所迷惑でしょー! 程ほどに喜びなさいッ」
14
「お、おい。赤ちゃん、出来ちゃったけど、これは歴史を変えちゃったのか」
かなり気をつけていたつもりだったが、マリピのお腹に新たな命が宿ってしまった。
「大丈夫よ。シュキピとの間にできた愛しい命。歴史に影響があっても絶対産むわ」
マリピとの間に子どもができたのは、正直かなり嬉しい。
でも、この子どもは世間に――いや、世界に許される子どもなんだろうか。
「だから、大丈夫だってば。ただ、この時代じゃなくて未来の子どもになると思うけど……それなら歴史に影響はほとんど出ないハズ……」
マリピが気になることを言った。
えっ、未来の子ども、だって……?
15
マリピがこの時間軸にやって来てから、もう15年になる。
俺31歳、マリピ32歳。
マリピも少しだけ大人な見た目になったかな。
女子大生、JDくらいだ。
ふたりの間にできたかわいい娘は3歳になった。
娘の名前は個人情報保護の観点からヒミツにさせてくれ。
今、娘はめっちゃかわいい時期。
ママに似て、めっちゃ美人さんなのだ。
もう少ししたら未来の保育園に通い始めることになるみたい。
「なあマリピ。マリピはいつまで俺の側にいてくれるんだ?」
「もちろん、『わたしが未来に帰ったら、あなたが退会して世界が滅ぶ』という計算結果が出なくなるまでは帰らないわ」
「そ、そうか。まだ大丈夫そうか?」
「大丈夫、大丈夫。わたしが未来に帰ったら、まだ世界が滅んじゃうみたい」
そう笑ってタブレット端末の計算結果を見せてくるマリピ。
――――なあ。
俺、見ちゃったんだよ。
おまえが、タブレット端末に『世界が滅ぶ』と書かれた計算結果のシールを貼り直しているのをさ……。
なあ。
きっといつまでも、俺の側にいてくれるよな……?
マリピ――――
16
その時は唐突にやって来た。
「シュキピ。わたしは未来に帰らねばなりません」
マリピが西暦2500年に帰らないといけないという決定が、タイムパトロール隊でされてしまった。
もちろん「帰らないで欲しい」と泣きつきたい気持ちでいっぱいだ。
でも、俺がそれをすれば、困るのはマリピだと分かっている。
「この子は、わたしがしっかり育てます」
「パパー、バイバイ! またね!」
すげーなー、俺の娘。
タイムワープの最年少記録を大幅更新だってよ。
ひとり残された部屋はもちろんのこと、空っぽのクローゼットがやたら広く感じる……。
その夜、俺はひとり寂しく泣いた。
17
1人になった俺は、しばらく脱け殻のようになってしまった。
だが、俺みたいな人間にも仕事や社会で求められる役目がある。
そしてありがたいことに、作家として次回作を期待されてもいた。
俺はゆっくりと立ち上がり、「生きる」ということを再開していった――――
「――さんって独身なんですよね。今度お食事でもご一緒しませんか?」
かつて「一生恋愛・結婚なし」と計算結果が出されていたはずの俺だが、ここ最近、妙齢の女性からご飯の誘いを受けることが増えた。
マリピと長い時間過ごしたことで男として磨かれたのだろうか。
それに、マリピと別れたことを誰にも言っていないのに、会社の女性陣にはどうも見抜かれているふしがある。
(ホント、女性ってスルドいよな……)
俺は、女性たちの勘の鋭さに驚きつつも、新たな恋人を作る気には一切ならなかった。
誰もマリピの見た目には敵わないから、ということではない。
中には本当に性格のいい娘もいて、その娘との未来を全く想像しなかったかというと、そうでもなかった。
でも、どうしてもマリピ以外の女性とそういう関係になる気が起きないのだった。
そんな俺が自然と打ち込んだモノ――――。
それは「小説」だった。
俺は、これまで以上、小説に、執筆活動に打ち込んだ。
既にプロの書籍化作家の地位を得てはいた俺だが、初心に帰って小説投稿サイト【やんよ】に再び新作を投稿し始めた。
自然と、マリピとの出会いから別れまでを物語に書きたいと思った。
タイトルもすぐに決まった。
「未来からエルフ嫁がやって来た」
物語の始まりはコミカルに、付き合うことになった場面では砂糖を吐きそうな甘々なおのろけシーン、そしてお色気シーンを盛り込んだ。
未来にマリピが帰ってしまう場面では、ハッピーエンドを望む読者から初めてのクレームも届いた。
そして、読者と討論を繰り広げながら、賛否両論ながらも、俺は長い物語を書き終えた。
最後、こう書いて物語を閉じさせてもらった。
「西暦2500年の未来、愛するマリピと娘にこの物語が届きますように」
この小説「未来からエルフ嫁がやって来た」は、出版社も見つかり、無事に書籍化された。
俺の作品の中でいちばん売れたワケではないが、俺の作品のファンの間では、いちばん記憶に残る異色作として一定の評価をいただいた。
18
ある夜、俺はPCに向かってマウスを握り、【小説家になってやんよ】――いわゆる【やんよ】の退会ボタンを正にクリックする寸前だった。
退会理由?
そんなの決まってるだろ?
嫁と娘が未来に帰ったからだよ(涙)。
もちろん、あくまでフリだ。
マリピと娘が生きている未来を守らないといけないんだ。
――でも。
でも、でも!!!!!!!!!!!
さみしいぃぃぃいいんだよ!!!!!!
マリピがいなくて、
そばにいてくれなくて、
俺はとっても!!!!!!
さみしいぃぃいんだっ!!!!!!!!
さみしぃぃいよ………………ッ
ッぅぇっ
俺は今、退会ボタンを押すフリを繰り返している。
俺は今、このボタンを押すなんて、とんでもない行為だと知っている。
誰かの命がかかっているような、そんなよっぽどの理由でない限り押すべきモノではないと。
どんなに読まれない作品だと思っても、近い将来、遠い未来、もしかしたら今この瞬間、ほんの僅かな読者数でも、その人たちにとってはかけがえのない作品になるかもしれない。
小説投稿サイトで「退会ボタンを押す」という行為は、そんな作品たちが持つ過去現在未来の読者を哀しませる行為であり、作品の可能性を閉ざしてしまう行為に違いないのだ。
だから、俺はぜったいに退会ボタンを押さない。
でも、君が現れるかもしれない、と思って、押すフリをする。
なんども。
何度も。
マリピ。
――――俺はまた、PCに向かってマウスを握り、【小説家になってやんよ】――いわゆる【やんよ】の退会ボタンをクリックするフリをする。
退会するする詐欺する理由?
そんなの、マリピが側にいないからにきまってるじゃん(号泣)。
そんな俺がまた何千回目、何万回目の退会ボタンを押すフリをした、その時だった。
その女は突然クローゼットから現れた。
「早まっちゃダメーーーー!」
「えっ、マリピ……? どうしてここに?」
「右手をマウスからゆっくりと離して、両手を上げなさいッ」
あの時と同じセリフのマリピの表情は、あの時と違って俺を愛おしそうに見つめてくれている。
「ど、どうして戻って、帰ってこれたんだ?」
「ふふっ。あなたの――シュキピの書いた新作『未来からエルフ嫁がやって来た』が西暦2500年で大ベストセラーになったからよ。それで世論がわたしを後押ししてくれたの。……おめでとう。シュキピは西暦2500年なら印税ガッポガッポで億万長者よ」
「ま、マリピ……」
しかし、久々に会うマリピに、俺は素直に抱きついたり喜びを表現したり出来なかった。
久々のマリピは超美少女すぎて、遠い世界の人間に見えてしまったのだ。
俺が内心、そう躊躇っていると、マリピが俺に向かって飛び込んでくる。
「シュキピッ!」
「ぐふぅっ!?」
俺のみぞおちに思いっきりマリピが頭から突っ込んできた衝撃で、俺は気を失いそうになりながら、久々のマリピの存在を、香りを匂いを、体温を、超細い腰のくびれを、引き締まった美尻を、髪の毛のサラサラの感触を味わった。
ここでようやく俺は、久々のマリピとの、妻との再会を喜べる精神状態になったのだと思う。
「マリピ。マリピ? マリピ。マリピー!? マリピーーーー!!?!!?」
「よしよし、もうシュキピはしょうがないなぁ」
「マリピ会いたかったよ、寂しかったよ、つらかったよぅぅ゛ぅ゛ぅ゛ー゛ー゛ー゛」
「はいはい、分かってますよ――――」
俺のワケの分からない感情の爆発を、マリピはただただ受けとめてくれていた。
「もう俺、ぜったいにマリピのこ゛と゛離さ゛ない゛か゛ら゛ーー!」
「そだね、そだね。あっ、そういえばシュキピにグッドニュースあるわよ」
「な゛に゛」
「今度の Time Machine は新型で、Time Tunnel を備えてるの」
「た゛、タ゛イ゛ム゛ト゛ン゛ネ゛ル゛? つ゛、つ゛ま゛り゛?」
「ふふふっ。常に西暦2500年と往き来できるようになったのよ! わたしと娘ちゃんだけね」
「や゛、や゛っ゛た゛ーーーー!!! マ゛リ゛ピ゛ーーーー!!!!」
俺はもう2度と、愛する妻と娘を離さないだろう。
~fin~
最後までお読みくださりありがとうございますにゃ。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がりますにゃ。
「まあまあ面白かったぜ」という方、
マリピとシュキピの2人を好きになってくださった方、
ぜひ応援のブクマと評価もお待ちしておりますにゃーん(=゜ω゜=)
・2022.8.27 「マリエクラウド・北条」のイラストを《有償依頼》で描いていただきますた。
◎タイムパトロール制服Ver.
た、谷間が……。
◎学校制服Ver.
お、おヘソが……。
◎ウェディングドレスVer.
お、大きい……。
イラスト作者:管澤捻さん
なろう→https://mypage.syosetu.com/941595/
みてみん→https://20147.mitemin.net/
管澤捻さん、めちゃんこカワイイエルフ嫁をありがとうございました――っ(///∇///)