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白い髪を紡いで  作者: 彩紡
第一章
7/13

第七話「眠れない夜に」

 リキの話によると、この森でテントを張って一晩過ごし、明日、この森を抜けて半日ほど歩いたところに海がある。その後は船に乗って青国へ向かう、といった予定だ。

 ここからは四人班で夕飯を作り、テントを張る。テントは男女分かれて二人ずつだ。

 シュウトとの会話は、みんな相変わらずぎこちない。「関わらないでくれ」と言われた言葉通り、必要最低限のことだけをやりとりしている。

 こうして夕飯も食べ終えて、男女で分かれてテントへ入った。

 マリは結んでいたポニーテールを解き、寝床の準備を始める。

「それにしてもあの人、なんであんなに壁あるのかな〜」

 シュウトの話題をだしたのはマリだった。コハクもずっと頭の中でシュウトのことをぐるぐると考えていた。

「うん…何か理由があるのかもしれないね」

「それならそうと、はっきり言ってくれればいいのに」

 口をツンツンに尖らせて、寝袋へ入るマリ。そうは言いながらも、明日こそはたくさん会話してやるんだからと心をメラメラ燃やしていた。

「じゃあおやすみ」

「うん、おやすみ」

 二人は明日に向けて早めにテントの灯りを小さくした。まだ他のテントでは、小声で話をしたり、自由な時間を過ごしている人も多い。そんなみんなを気にも止めず、マリはスースーと寝息を立てすぐに就寝した。

 その音も時間が経つにつれて次第に減っていき、夜も深まる頃には皆が寝静まる。

 会話の声が途切れた後も、コハクは一人頭が冴えてなかなか眠れない。何度も寝返りを打って寝ようとする。頭の中を真っ白にして考え事をなくそうとするが、その真っ白な頭の中に赤髪のシュウトが登場してコハクの目を覚ます。  

 あまりにも頭が冴えて寝られないコハクは、一度外の空気を吸おうとテントの外へでた。

 複数のテントが一つの場所に集結しており、それぞれのテントを灯す小さな灯りがぼんやりと輝く。

 コハクは自分用の手持ちランプを持ち、テント近くの木の下で腰を下ろす。昨日まで雨が降っていたのか、木の表面は少し湿っていて、それが背中に伝わりヒンヤリとしていた。

 風に揺れてカサカサと音を立てる木々の葉や、ぼんやりと灯るテントの光に包まれて段々とコハクの意識は遠くなっていく。

 とそのとき、どこからか小さな兎がピョンっとコハクの前に現れた。突然現れたその姿に、ヒャッと驚いたが、それが兎だと分かりホッと安心をする。

「兎さん、ごめんね。今日だけ場所を借してください」

 自分達は今場所を借りている身だと思ったコハクは、兎に対して深々と頭を下げる。

「あれ?怪我してる」

 よく見ると、真っ白な兎の足は赤く染まっており、滴る血が怪我をした直後を物語っていた。

 コハクは、怪我をしている兎を心配し、いざというときのために持っていた包帯をポケットから取り出そうとする。だがそうしているうちに兎は、ピョンっとまた森の奥へ帰っていく。

「あ、まって」

 怪我をしたままだと、傷が広がって歩けなくなる、せめて自分の持っている包帯で処置だけでもと、コハクは追いかける。

 追いつきそうで追いつけない兎に手を伸ばしながら、森の奥へ進んでいった。

 すると突然、兎の足が止まった。コハクはそれが足の痛みによるものだと考え、兎の側へ駆け寄る。だが、どこかおかしい。足だけでなく、身体全体を硬直させるように静止する兎に違和感を感じたその時。

「ヴゥゥゥゥ」

 前方から、犬よりもはるかに体の大きい動物がコハクたちをジッと見つめていた。兎から滴る血の匂いに反応して、どこかからやってきたのだろう。

 コハクは笛を取り出そうとポケットに手を入れる。しかし、ポケットに入らない大きめの笛は、カバンに取り付けたままだ。

 兎の身体が硬直しているように、コハクの身体もどんどんどんどんと固まっていく。自分が置かれている状況が、絶体絶命だと悟った時には既に遅かった。

 大きな動物が兎とコハクを目掛けて走り寄る。

 咄嗟にコハクは、恐怖で動かない身体を無理やり動かして兎の体を包むように覆いかぶさった。

「たすけて」

 声も恐怖に支配されているのか、思うように息が喉を通らない。もうだめかもしれない、そう思った時、紛れもなく誰かが木の上から登場した。

 ストンと地面に着地したその人に、大きな動物も少し驚いて怯んだが、分け目もふらず向かってきた。

「逃げて!」

 今度はしっかりとした大きな声が響く。自分に降りかかる恐怖よりも前方にいるその人に、その言葉を伝えなければならない。そんな思いが、コハクの中でしっかりと言葉となった。

 その人はというと、両手に持った、短刀よりは長めの刀でその動物の首を切り、足首を切る。迷いなく振り下ろされるその刀には無駄がない。勝ち目がないと判断したのか、その動物は森のさらに奥へ走り去っていった。

 走り去る姿を確認したものの、コハクは未だに動悸が止まらない。ドクドクという鼓動が、森中に響き渡るかのように、コハクの心臓は動いていた。

「大丈夫か?」

 救世主とも言えるその人が、コハクの止まらない鼓動を包むように話しかける。その人はコハクの横にしゃがみ込んだ。

 コハクはその穏やかで優しい声に聞き覚えがある。

(もしかして…)

 まだ力がこもっている身体をゆっくりと起こし、地面を向いていた頭を上げると、コハクの目とその人の目がしっかりと合う。

 コハクの救世主ともいえるその人は、赤い髪の少年だった。

「シュウト…くん?」

 とたん、怪我をしていた兎はピョンっと跳ねてまた森の奥へ向かう。

「あ、まって」

「もう追いかけるな」

 反射的に手を伸ばしていたが、少年の一言でふと我に返った。伸ばした手は小さく震えている。

「あのくらいの傷ならすぐ治る。それより自分の心配をしろ」

 コハクは勢いよく兎に覆い被さったからか、膝には痛々しい傷ができ、血が滴っていた。

「場所を変えるぞ」

「場所?」

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