第五話「二人の再会」
リキは門番と話をして、出国の手続きなどを進めている。
そこに少し俯いたマリが二人に話しかけた。
「シロト、コハクおはよう…」
「あ、マリちゃん…」
久々に顔を合わせる二人は、これまで感じたことのなかった気まずいという雰囲気をピリピリと感じていた。
「ほらコハク、言いたいことあるんだろ」
その気まずい雰囲気を和らげるように、シロトはコハクの背中を軽く押した。
「あ、あのマリちゃん。ずっと謝れなくてごめ…」
「コハクごめん!私、ついカッとなっちゃって…。彼が悪くないってこと、分かってたはずなのに。コハクは悪くないよ。ずっと話しかけられなくてごめん!」
マリはブンッと思いきり頭を下げ、長いポニーテールは地面につきそうだ。ずっと言えなかった気持ちを少し言葉にしただけで、もう塞き止めるものは消えていく。
「マ、マリちゃん…!違うの。私もあの時、マリちゃんの気持ち、もっと考えてから伝えるべきだった。ごめんね」
頭を下げるマリとコハク。二人はゆっくりと顔を上げ、ようやく目が合う。二人の表情は柔らかく、口元は緩み、やっと伝え合えた喜びにニコニコしている。
マリはずっと我慢していた何かをぶつけるように、さらに笑みを浮かべコハクに抱きつく。
コハクは少し照れながらも、瞳にはうるうるとした涙を溜めていた。抱き合う二人の周りには白いコスモスが咲いているような温かい雰囲気が流れている。
そこへ門番と話を終えたリキが話し出した。
「全員集まったようだな。今日から君たちにとって、初めての他国訪問の旅となる。国への移動は団体行動。決してはぐれないように」
他国訪問の目的地は青国。青国は、国の中では珍しく、壁で囲まれていない。海がその役目を果たしているのだ。白国とは友好的な関係を築いており、移動も一日半ほどで済むことから、長年新中人が初めて伺う他国として提携を結んでいる。
「国の外ではなにがあるか分からない。いざという時は、この笛を鳴らすんだ。」
国と国の間には人が住んでいることはなく、動物や生き物たちが伸び伸びと暮らしている。そのため、移動には細心の注意を払わないといけないことから、単独行動はくれぐれもしないようにとリキから伝えられる。
一人一つ配布された笛は、各々が首へかけたりカバンに取り付けたりしている。普段見るようなポケットサイズの笛とは違い、かなり大きくなっており、遠くまで響く作りとなっていた。
「それからもう一つ。今回の他国訪問では、四人一組の班を事前に伝えてあるはずだ」
「あ、それなんだけど、俺らの班だけ三人なんですけど」
シロトが手を挙げながら質問をする。今年の新中人は全員で十九人。四人一組にすると、一チームだけ三人となるのだ。
「それなら心配ない。シュウト、来てくれ」
「シュウト…って…赤髪の?」
リキのその言葉を合図に、木の後ろからシュウトと呼ばれた少年がこちらへ合流した。
真っ赤に染まった髪の毛が、中人式の時から少し伸びている。
「シロトの班には、シュウトが入ってもらう。彼も君らと同じ新中人だ。仲良くするんだぞ」
中人式同様に、コソコソざわざわといった話し声。あまりよく思っていない人が大半といった感じだ。
コハクは、シュウトを初めて見かけた時のことを思い出す。手を伸ばしても会えなかった彼に、再び出会うことができたというのに、その歓迎されていない空気に心を痛めた。
コハクの手をギュッと握るマリの手が少し濡れている。でも決してマリはシュウトのことを悪くいっていない。その姿に背中を押されたように、自然とその言葉を発す。
「よろしく、シュウトくん!」
そんな騒めきをねじ伏せるように発されたコハクの挨拶に、誰もが驚いた。と同時に騒めきは止まる。
そのタイミングを逃さないようにと、リキは続けて何点か注意事項や青国までの移動手段を確認していく。
その説明の間に、コハクは何度もシュウトを盗み見るが、シュウトはどこか上の空で、表情は無に近いほど動かなかった。
説明が終わり、ゴーっと大きな音を立てて、大きな門が開いていく。引率の大人二人と新中人が二十人。ワクワク、ドキドキ、モヤモヤ。各々が様々な気持ちを感じながらも、門の外へ歩きだす。他国訪問の旅が今、始まった。