突然の体調不良
───それは、唐突に始まりました。
(………あ、れ……?)
スラ犬となって、セルヴィスとのんびり暮らし始めてから4か月目のある日のこと。
伸ばした触手状の身体に急に力が入らなくなり、運んでいたコップを慌てて降ろしました。
なんでしょう?いつものように身体に力が入らない?
気分は別に悪くないのに、まるで身体だけ病気になったような感覚です。
「どうした?スライム。」
コップを床に降ろした私の様子に異変を感じたセルヴィスが私を持ち上げます。その顔は少し心配そうで。
「身体の調子でも悪いのか?」
「きゅう。(大丈夫、心配しないで。)」
心配をかけたくなくて、プルプルと体を左右に振って否定を伝えます。
きっと風邪でもひいたのでしょう、スライムが風邪をひくのか知りませんが。
そうです。きっと今日一日休めば大丈夫なはずです。
セルヴィスの手から降りようとする仕草に、私が降りたいのだと察したセルヴィスがそっと降ろしてくれました。怠い身体に鞭打ってセルヴィスの部屋へ、目指すは彼のベッドの枕元にある私専用の籠ベッド。
私の後を追ってきたセルヴィスも私の意図がわかったのでしょう。
「休むのか?」
「ピュイー。(ん、安静にしときます)」
もぞもぞと籠の中に潜って、さて寝よう、と思ったのですが。
てっきり出ていくと思っていたセルヴィスは、出ていくどころかベッドに腰掛けて私の身体を撫でさすっています。
はて、どうしたのでしょう。
コテリ、と首を傾げるように身体の上部を傾けてのボディーランゲージ。何度もやっているのでそれが私が疑問に思っている時の行動だと理解しているセルヴィスが微かに笑いました。
「傍についててやるから寝てろ。」
はい?
いや小さな子供じゃないんですから大丈夫ですよ?
必要ないと手を軽く押してみるのですが、セルヴィスは止めるどころか籠ベッドごと自分の膝に乗せてポンポンとあやされる始末。
何て事でしょう。膝抱っこも添い寝(?)も昔、私がセルヴィスにしてあげようとして拒否された事なのに、逆の立場ですが叶ってしまいました……!
た、たまには良いですよね。300歳以上の悪魔の私が子供だったセルヴィスに甘えるなんて出来ませんでしたが、今の私はセルヴィスのペットのスラ犬0歳!甘えちゃっても良いですよ。
転がり込んできた幸福な状況に、原因はわからないけど体調不良も悪くない!とその日は全力でセルヴィスに甘えることにしました。
まさかこの後、5日も治るどころかますます悪化していくだけだなんて思わないじゃないですか……。