小話:成長期とお肉のお話
本編がこれから少し動きますので、その前に平和な過去の日常話。
「セルヴィス~朝ですよ~!」
私の朝は、セルヴィスを起こすことから始まります。
「わかってるよ!子供じゃないんだから、いちいち起こさないでいいよ!」
うん、今日も元気そうですね。
扉を開けて顔を覗かせたら、素早くクッションが飛んできて顔に激突しました。クッションを除けると顔を赤くしたセルヴィスが投げた体勢のままこちらを睨んでいます。
私の可愛いセルヴィスと出会って、今年でもう3年です。グングン背が伸びて、昔は私のお腹ぐらいしかなかった身長も、今では私の肩ぐらい。
成長期ってやつですよ。どんどん肉を喰わせろ、魚を喰わせろと師匠が言っていたアレです!
セルヴィスの健やかな成長の為、栄養価の高い食材をどんどん食べさせなければ。
ふふふ、私は今日もセルヴィスの成長の為に頑張ります……!
「セルヴィス。今日は私はお肉を狩りに行ってきますので、畑の作業をお願いします。」
朝食を食べながらにこやかに告げると、何故かジーっとした目が返ってきました。
「……前から思ってたんだけど。いつも肉って何を狩ってるわけ?」
お肉、というのは、セルヴィスが気に入ってる「ある魔物のお肉」のことです。
お肉狩りはちょっと危険もありますから、今までは連れて行ったことがありません。簡単な狩りは出来るセルヴィスがお肉欲しさにそれに手を出そうとしても困りますので、何のお肉かも伏せているのです。
……でも最近のセルヴィスは随分と体力もついたし俊敏にもなりましたし、狩りに連れて行くぐらい良いでしょうか?
「気になりますか?少し危険ですので、手を出さないなら良いですよ?」
仏頂面で、それでも即座に頷いたセルヴィス。
なら今日はセルヴィスと一緒にお肉狩りですね!
ズ…ズゥゥゥウウウウゥン………ッ!!
轟音を立てながら大地を震わせ倒れこむ巨体。
完全に息の根が止まったのを確認して、ようやくフゥッと息をつきました。
うん、なかなかの大物です!
「セルヴィス―!!終わりましたよ。怪我はありませんか?」
「それはこっちの台詞だよ!?」
結界の中のセルヴィスから怒声が飛びました。……あれ?
「おっ前……っ!まさか、いつもこんなの狩ってるんじゃないよな!?」
「まさか!今日のはなかなかの大物ですよ?いつもはもう少し小さいです。」
こんなの、とセルヴィスが指したのは、今まさに倒したばかりの魔物。
ラガールと呼ばれるその魔物は体長5m程の大型魔物。高い木の葉っぱもなんなく食し、小型魔物も踏みつぶして食す大喰いな雑食性の魔物です。性格も割と獰猛でその体当たりは何本もの木を薙ぎ倒す程ですが、魔法は使えず知能もそこまで高くありません。
巨体ですのでお肉がたっぷり取れますし、時空魔法…つまり時間がない空間に収納しておけば何時でも新鮮なお肉が取り出せます。
何よりそのお肉は美味で栄養価が高い!!
成長期のセルヴィスにこれを食べさせずに何を食べさせるんですか!?
「これだけあれば、一月はもつでしょうか?褒めてくれてもいいですよ?」
「褒めないよ!むしろ何でこんなの狙うのさ!?危ないだろ!」
「ラガールは美味で栄養価が高いのですよ?セルヴィスの成長に大事なお肉を得る為なら、少しくらいの危険は危険のうちに入りません!」
「言い切るな!危険だから!絶対に危険だからっ!!二度とやるな!!」
「え、いやです。セルヴィスの好物ですし。」
反射的に答えたら、青筋立てたセルヴィスに攻撃されました。
グリグリとこめかみを抉らないで下さい、痛いです!
涙目で逃げようとするのですが、首根っこ押さえられて更に拳骨まで落とされる始末。批難しようと振り向くと、怒りと何か痛みを耐えるような表情で私を見ていて。
……あれ、これはもしや心配されているのでしょうか?
「……えぇと、もしや、心配をかけました、か?」
「───っ! そんな訳ないだろ!俺はただ、お前が他の魔物なんかにやられるのが我慢ならないだけだ!」
あ、違いました。復讐相手を横から取られるのが嫌なだけでしたね。うん勘違いでした。
それから。
今度は川に魚を捕り行くと、またまたセルヴィスに怒られました。
確かに私を飲み込める程に大きな口と牙を持った魚の魔物ですが、こちらも美味しくて栄養豊富なんですよ?何で怒られるんでしょうか。
もっと自分より小さい安全なのを狩れって、そんなお肉じゃセルヴィスの成長期を支えられません!
結局この『お肉問題』は長く言い争う問題となり、セルヴィスが自分で狩ると言い出して危ないからと私が却下し、解決策は結局見出せないまま。
でも美味しい『お肉』と『お魚』は、セルヴィスの成長に大いに役立ってくれたと思いますよ?