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お墓参り


(あぅー…、気持ちいいですー……。)


ただいま私は家の近くの湖にて、フヨフヨと水の中を漂っています。そう。生まれ変わって最初に目覚めた場所です。

あの時は警戒しつつ隠れつつローリングでコースアウトしたりもしましたし、なんだかんだとここから家まで2時間もかかったんですよねぇ。


今は水の魔法が使える事がわかっているのでそこまで警戒する必要もなく、スライムの足(?)でも20分もあれば行けるようになりました。

最も一人で来る事は滅多になく、大体セルヴィスが一緒に来てくれるのですが。


どういう訳か、スライムになってから時々無性にこの湖に来たくなる強い衝動が起こるんです。大体1週間に一度程でしょうか。初めは無暗に出かけると危険だと我慢してたのですが、2週間も経たないうちに引き寄せられるように無意識に湖に来て、気づけば水の中を漂っていました。


一応普通のスライムらしく、食べ物を身体に取りこんで溶かすと栄養分になるようなんですが、それだけでは駄目なようで。

恐らく私の身体は、定期的にこの湖に来て何かを摂取しないといけないのでしょう。それが何かはわかりませんが、湖の水に触れた後は異様に身体の調子が良いし、気分も晴れやかになります。


気づいてからは頻繁に湖に出かける私にセルヴィスも付き合って来てくれるようになり、今ではほぼ毎日の習慣になっています。



「ん、もういいのか?」


湖から上がってセルヴィスの所へ行くと、優しく撫でてくれました。

セルヴィスは湖から少しだけ離れた小さな花畑で、いつも私を待っています。

……こんな花畑、昔はありませんでした。


花畑の中央には木で作られた墓標───自惚れでなければ私の墓、なのでしょう。これで実はあの時の魔法使い共の墓だったりしたら泣いて家出しますよ?


最初に見た時は目を疑いました。

まさかセルヴィスが私の墓を作ってくれてたなんて。しかも花畑つき。

きっと仇として憎んだ相手でも何年も一緒に暮らした相手、情けで弔おうと考えてくれたのでしょう。感動で涙が出そうです……目さえあれば。


ただその、自分の墓を自分で見るというのは、いつも微妙に複雑な気分にはなりますが。




ここに来るとセルヴィスは、必ずこの墓を参ります。

今も私を膝の上に乗せ、優しく私を撫でながら何も言わずに墓標をジッと見ています。その顔はいつも固く、何を考えているのかわかりません。


───どうして、彼は人間の町に戻らないんでしょう。

もうここには誰もいないのに、彼が留まる理由なんてない筈です。

再会してからずっと考えていた私は、ある可能性に気づきました。


もしかして、髪と瞳の色で差別されるのを今も怖がっているのかもしれません。

彼は今や髪と瞳の色など霞む程の実力を身に着けているから大丈夫、と彼に何度も言いました。むしろ彼の今の美貌ならば女子が群がってモテモテですよ、とも。

しかし、幼い頃に植え付けられた差別への恐怖は全然取り除けていなかったのかも……。


もしもそうだったとしても、今の私は……、もう、彼に何も言ってあげられません。

彼のために今の私に出来る事は何なのでしょう。



ねぇセルヴィス?


今、あなたは何を考えているんですか?


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