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セルヴィスの罪


セルヴィスはリリアーナにひとつ、大きな嘘を吐いていた。



セルヴィスがここにいるのは、父の仇を討つため。最初こそ悪魔を心底憎み、殺そうとしていたセルヴィス。だが時が経ちリリアーナのことを知るたびに、その憎しみは戸惑いへと変わっていく。


セルヴィスの父の遺体は酷く損傷していた。セルヴィス自身は見ていないが、誰かが『喰い殺された』とも話していた。そして遺体発見の直前に翼をもった人影が飛び立ったという目撃情報から、犯人は悪魔かもしれないと言われた。

幼かったセルヴィスはその言葉に、安直に憎しみの矛先を悪魔へと向けた、が。



『かもしれない』だ。あくまで可能性。



そもそもリリアーナは狩りにおいて剣か魔法くらいしか使わない。それも効率重視で的確に急所を狙うので、獲物が酷く傷ついているなんて事はほぼない。無駄に獲物を甚振ることもない。そもそもあの華奢な体で肉食獣のように()()()()なんて出来るのか。

いくら幼くとも時が経てば矛盾に気づく。嫌な想像がどんどん現実味を帯びてくる。あえて気づかないフリを続けるにも限度があって。

ある日、それとなくセルヴィスは問いかけた。



「お前さ、なんで人間の真似して小さく切り分けるの?それだって悪魔らしく牙で食いちぎればいいじゃん。」


ちょうどかなりの厚みのある肉のブロックを焼き終わり、ナイフで切り分けようとしていたリリアーナは、言われた言葉にキョトンとした。

その頃には大分スムーズに話せるようになっていたリリアーナは「んー」と考えるそぶりを見せると。


徐に、その小さな口で肉のブロックに噛み付いた。


「!?」


ギョッとするセルヴィスを無視して肉を喰い千切ろうとするリリアーナ。犬歯を立てて一生懸命ぐぃーっと引っ張り、噛み千切ろうとし……、めちゃくちゃ時間をかけて、諦めた。顎が痛そうだ。圧倒的に肉のブロックの勝利であった。


「……このように犬歯こそありますが、悪魔は人間の姿に近く進化したので他のドラゴン族のように強力な力を持たないのです。人間より少しは腕力はありますけれど。細かな作業が出来るようになり、料理するようになった結果、顎の力は人間と大して変わりません。」


恰好良く牙で食いちぎる姿が見たかったのなら期待に沿えずごめんなさい、と謝るリリアーナの姿に、セルヴィスが抱いたのは安堵と罪悪感、そして────絶望と焦燥。

明らかにリリアーナが人間を喰い殺すのは不可能だ。動脈を噛みちぎれば殺すくらいは出来るだろうが、喰い殺すとか喰い荒らすとかいったことは出来そうにない。



つまり。 セルヴィスの父を殺したのはリリアーナじゃない。



リリアーナをもう恨まなくていいこと、冤罪をかけていたこと。何よりもここにいる理由を失ってしまったショックが大きかった。

彼女が何故セルヴィスをここに住まわせているのかは知らないが、化け物と蔑まれ、疎んじられることのないここでの生活は居心地が良い。子供が一人で生きていく不安もあった。それに何かと構ってくるリリアーナのことも、本心では嫌いじゃない。

でも真実を明かしてここに住み続けるなど、どうしてできよう。……セルヴィスは黙って憎むふりを続け、彼女の傍に居続けることを選んだ。


リリアーナのせいにして、リリアーナを犠牲にした。彼女に更なる不幸を呼ぶとも知らずに。

それがセルヴィスの犯した罪。



 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。



「リリアーナの墓を護るのが、オレに出来る唯一の贖罪なんだ。例えリリアーナの師匠だろうが、他の誰にも譲れない!!」


まったく悪くなかった彼女を自分勝手に犠牲にし続け、あげく死なせた。謝罪すらできなかったオレが彼女にできることなんて墓守くらいなんだ。甚振られようが殺されようが、譲るつもりは一切ない。


「贖罪、ねぇ? なんのことか知らないけど馬鹿な男だね。両手両足、一本ずつもぎ取られても、まだ同じ事が言えるかな?」


「好きにすればいい。」


目の前の優男にそんな怪力があるようには見えないけど、なにせリリアーナの師匠。彼女みたいに魔力で体を強化できるんだろう。

手や足ぐらい、くれてやる。


「ふーん。ほんと馬鹿。じゃ、遠慮なくもいじゃおうかな?」


「ゥグッ!!」


軽い口調で男にガツッと蹴られてうつ伏せにされる。倒れたオレの左腕をグイっとあげさせ、肩のところを踏まれ。軋むほどギリギリまで腕を引っ張られ関節に痛みが走る。

オレは次に襲い来るだろう激痛に耐えるために歯を食いしばった────







「なぁ~んちゃって♪」







……。


…………。


「…………は?」


「やぁねー、そんな事しないですよ? リリアーナに嫌われちゃいますから。」



ポイッと腕が放られた。


……。ちょっと? なんか、頭上から女の声で、女みたいな口調が聞こえるんだけど。

そんなわけないよな、そこに居るのはリリアーナの師匠だっていう男であって────。



「え?」



痛む肩を無視して顔をあげる。いるのは男じゃなく、女だった。

三つ編みに編んだ小麦色の髪。柔らかな金の瞳。狐の耳と9本の尻尾。全てはそのままに、性別だけが男から女に変わっている。


「ちょっと試させていただいたのですが、どうやら本気のようですね。安心しました。」


「…………誰。」


「あら。目の前で変化(へんげ)したのに、わかりませんか? リリアーナの師匠の梛ですよ。」


ちなみに性別は女です、と得意げに付け加える狐耳の女。

そういえば昔、師匠はよくコロコロと姿を変えるとリリアーナが言ってたな、と思い出す。



狐は人を化かすもの、とも言ってたね。こういう事かよ、リリアーナ……。



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