懐かしいあのコ
(……なんとか、倒すことができましたか。)
最早ピクリとも動かなくなった相手を遠くから確認し、安堵の溜息を───吐きたいところですが、口がないので無理でした。残念。
やれやれ、あの一角猛虎も予想だにしなかったでしょうね。まさか自分を殺した相手が、こーんな小さなスライムだなんて。
(知らずに逝けて良かったですね───……と、そんなこと考えてる場合じゃありません!)
『大丈夫でしたか、ユフィ!』
私が無茶なのを承知で戦いを挑んだ理由。大切な眷属の幼子、ユーフィード。
この広大な森の中でも、竜種は私と彼の一家しかいません。いわゆるご近所さん?
彼のご両親には私も小さい頃からお世話になっておりましたし、ユフィ―は眷属だからという以上に、タマゴ時代から見守ってきた私の弟のような大事な存在なのです。
風の竜と呼ばれる彼ら翠晶竜は、思慮深く争いを好まない竜族が多い中、特に穏やかな気質を持っています。蜥蜴のような水晶色の身体に透ける飛膜。大きさは成竜なら巨木程にもなりますが、ユフィ―はまだ子供なので人間の背丈ほどしかありません。
美しい水晶のような鱗が人間には人気だそうで、竜族の中でも比較的弱く流麗な外見から飼い慣らそうとする不遜な人間も過去にはいたようですね。
ああ、それにしても!
キュルルンとした大きな碧のお目々が、相変わらず愛らしいにも程があるんですから!こんなカワイイ子が一匹でうろつくだなんて。叱らなければなりませんね!
そう思ってカワイイ可愛いユフィ―の方を見ると、何故か呆然としたご様子。コテリ、と長い首を横に倒してます。
はて?どうしたので……、……あ。
『……そうでした。この姿じゃ私がリリアーナだとわかりませんよね。』
『……。………?───え、リリアーナ?』
んん?
落ち込んだ私の呟きにユフィ―が反応しましたよ?
……あれ、これってもしかして?
『ユフィ―?私の言ってる事がわかるんですか?』
『え、うん、スライムには友達がいるから。……いやそれより!今、リリアーナって言った!?』
何てこと!ユフィ―、あなた、凄いですね!?
。 ゜ 。 〇 。 ゜ 。
『───つまり。今の私は元悪魔、現在は水魔法が使えるだけ!の、へなちょこスライムなのです。』
『……普通なら信じられない話だけど。その状態でボクを助けに入って、しかも倒しちゃうあたり。確かにリリアーナお姉ちゃんなんだなぁ。スライム、スライムかぁ。……一角猛虎を倒すスライム……。』
ユフィ―が苦笑と呆れと複雑さをない交ぜにした視線でこちらを見てきます。そんな目で見ないで下さいな。
私のこれまでの事情を話すと、ユフィ―は割とあっさり受け入れてくれました。『スライムが一角猛虎に挑むとか、お姉ちゃんだってわかって逆に納得』ってどういう意味ですか。何か誤解してませんか?
『ユフィ―?私は決して戦いが好きな訳ではありませんよ?避けられる戦いならちゃんと避けます。』
『いやお姉ちゃんって割とすぐ……なんでもない。お姉ちゃんってさ、ボクら翠晶竜にはちょっと荷が重い強い魔物や、突然変異の魔物がボクらを襲わないよう見回りとかお掃除とか頻繁にしてくれてたじゃない。』
『それは必要な戦いですから!何かあってからでは遅いです。特にユフィ―はすっごくすっごく可愛いのですから、竜攫いにあっては大変です!』
『すっごい過保護なところ、変わらないねー。……、ホント、変わらない……、』
『? ……って、ユフィ―!?』
ボタボタ、と。
宝石のように綺麗なユフィ―の大きな瞳から、透き通った水滴がみるみるうちに溢れ。地面に次々と水晶に変異した涙が転がって散らばります。
突然どうしました!?
『…リリアーナお姉ちゃん、本当に帰ってきてくれたんだ……。』
急に体が浮きあがったと思ったら、目の前に水晶色の鱗。
どうやらカワイイお手手に持ち上げられて、ギュウっと胸元に抱き締められたようです。
『死んじゃったって聞いて、悲しかった……お姉ちゃんに、二度と会えないって……っ!』
『!』
『さみ、しくて……っ~~~~~~っっ」
ちょっと苦しいくらい、更にギュウっとしてくるユフィ―。今までは私がギュウってする側だったのに、とちょっと複雑ですが……、
『悲しませてごめんなさい。私の可愛いユフィ―。この通り、戻ってきましたよ。』
このコをこんなに悲しませていたなんて。
今はなくした腕の代わりに、身体の一部を伸ばした触覚で
頭には届かないので、涙で濡れた頬っぺたを優しく優しく撫で続けた。
ユフィ―が泣き止むまで、ずっと。
活動報告で「回復してきたから小説活動を再開する」とか言ったけど、あれは嘘デシタ。一歩進んで3歩下がる病状でございまする・・・ごめんなさいごめんなさいごめ(




