小話・初めてのお買い物
セルヴィスと出会って一月、警戒され攻撃される毎日を過ごしております。
なんとかご飯を食べさせようと四苦八苦したりと、殺伐した生活ながら一人で過ごしてた頃よりずっと楽しいですけどね。フフ。
でもそろそろなんとかしないといけない問題に直面しております。
あの子、着の身着のままでここに居る事になったので、これまで生活に必要な物は全部ありあわせの物で過ごしていたんですよ。幸い師匠の使っていた物が残っていましたし。
ただですね。服だけは新しい物を用意してあげたいんですよね。私の着てる魔物の皮を鞣して作った物なんて、セルヴィスの綺麗な肌を傷つけてしまいそうですし、何より可愛くありません!
あと靴とか、下着とか。
とにかくここは人間の町に行って、可愛い服を手に入れなければ!!
決意した私は魔石を適当な袋に詰め、人間の町に飛び立ったのです。
「セルヴィス。これ、あげる!」
「は?」
ある日。何か食べれるものをと家の中を探していると、とつぜん悪魔のやつが満面の笑みで近寄ってきてその手に抱えた巨大な包みを差し出してきた。
でかい。大人が1人、いや2人は入ってそうなくらいの大きい包み。
いや何なんだよコレ。
「町、行ってきた。魔石、交換、セルヴィス、の、服!」
やたら嬉しそうに弾む声。ドサッ!と床に包みが置かれ、ほどかれた中から───
服。
服、服、服。靴に下着、帽子に何故かリボン。
……山のように積まれたものが、雪崩を起こしてあふれ出す。しかも全部それなりに質が良さそうなものばっか。
「は?」
何だコレ。
……何だよこれ!?
「買い物、初めて!町、可愛い服、いっぱい!!セルヴィス、似合う、全部!服、靴、いろいろ!!」
「はぁ!?」
───待て。つまり、どういう事?
服が大量にこの場にある。で「魔石」と「交換」?
この仇の悪魔は、わざわざオレの服やらを買いに町に行って、これを魔石と交換で買ってきたってこと?
なんでコイツがそんな事するんだよ!?
オレはお前の命を狙ってるんだぞ!?
訊きたい事が山程あったけど、オレの頭は混乱してて。
結局聞いたのは別の事だった。
「ま、魔石って、そんなに持ってるのか?」
「ん。こっち、来て。」
手招きされて連れていかれたのは家の奥にある小さな小部屋だった。きっと物置だと思っていたし、ある意味それは正解ではあったけど。
「食料、魔物狩る、魔石手に入る。素材、集める。溜めてる、ここ。」
小さな小部屋には、とんでもない量の魔物の素材やら魔石やら、森で採れる様々な物が所せましと詰め込まれてた。この物置には悪魔が集めたものが詰め込まれてるわけか。
…子供のオレでも知ってる貴重な素材が山程あるんだけど。
魔石も見た事がない大きさの物が大量にある。
魔石は宝石のダイヤモンドと同じぐらいの大きさがあり、魔石の大きさは魔物の強さに比例する。砂粒のようなクズ魔石が採れる魔物ならオレでもなんとかなるけど、小粒のダイヤぐらいの魔石となると、中級ランクの実力がなければ逆にやられてしまう。
そしてここにある魔石は小さくても小粒サイズ、大半が高ランク冒険者が複数で狩れるかどうかの大粒ダイヤのサイズ…。
この悪魔はそんな強力な魔物を、容易く屠れるということだ。
……オレ、本当にこいつを倒せるんだろうか?
暗澹たる思いに陥りかけるオレに、悪魔が再び絶望の言葉を吐く。
「服、残り、玄関!」
「……あ?」
「だから、服。包み3つ、持ちきれない。玄関、置いてある!」
「…………。」
いやまてオイ。
3つ? 包みが3つ、だと?あの巨大な包みがあと2つあるって?
「~~~~おまっ、どんだけ買ってきやがったぁ!!?」
「う?魔石26個、持ってった。お店、人、いくらでも、持っていけ、て。親切!」
「アホか、26個だぁ!!?」
ぼったくられてんじゃねーか!!
こんな大粒の魔石が26個もあったら、店の商品ぜんぶ買えるぞ!?
こいつ…!金銭感覚がまったくないのかよ!?
「セルヴィス、成長期、大きくなる。また、買いに行く!」
握りこぶしつくってウキウキすんな!!
「お前は行くな!オレが自分で行く!!ぜ・っ・た・い・行くな!!」
「な、なんで!!?」
「いいから行くの禁止!!金輪際、きんしっ!!」
「そんな……っ!!」
たぶんこの時からだったんだと思う。オレがこの悪魔のことを、本気で憎めなくなったのは。
悪魔は……リリアーナのやつはこの時、オレが町に安全に行けるようにと、町に行くついでに家から町のすぐ傍までオレ専用の転移陣まで用意してたんだ。
オレが人の町に帰りたくなった時は生活費に小部屋の魔石や素材を持っていけとか、どんだけオレを甘やかしてるんだよ!
更に一月もすればリリアーナ側の事情だって子供ながらにわかってくる。さすがにそれでも憎めるわけがなかった。
まぁ……憎めなくなってからも色々と素直になれなくて、リリアーナの料理を食べるのに半年かかり。命を狙う───ふりをやめるのに、2年もかかったけど。
慕っている気持ちを最期まで伝えられずに後悔したのは、6年経ってからだった。