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セルヴィス視点2・突然の暴走


(まいったな…。)


幸い、冒険者ギルドで居場所を聞こうと思っていた相手(ディロック)とはそこで偶然に出会う事が出来た。けれど予想通りとはいえ収穫はなく、それどころかスライムがスライムじゃない可能性まで出てくるし。


……種族すら否定されたんじゃ、治療方法なんかますますわからないじゃないか。



一縷の望みをかけてギルドで情報を買おうと訪れると、ちょうどディロックのパーティが帰ってきた。

騒がしくふざけ合う姿は出会った頃のままで、オレの事も不自然に無視したり奇異の目で見たりもせず、ごく自然に接してくる。



気持ちの悪い白い髪と、不吉な赤い瞳。



この容姿が原因で人から避けられ、オレ自身も誰かと接するのは避けてきた。そんなオレを心配したのか、昔リリアーナが紹介してきたこのパーティ。

彼らはオレの容姿を微塵も気にしないし、当時は駆け出し冒険者だった彼らも知り合って10数年。彼らはもう一流の冒険者で、オレも彼らには変に身構えなくなった。


本音を言えば、例え彼らにでも他人の手を借りるのは極力避けたい。でも今はそんな事も言ってられない。

オレのつまらないプライドより、スライムの命。

彼らにもスライムの治療を手伝ってもらえるように頼むか。


そう考えて無意識にスライムの方を見たオレは……、スライムの異変を目の当たりにした。



 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。



「スライム!?」


籠の中に居たスライムはその透明な水色の身体を脈打つように大きく震わせている。

いや、それだけじゃない。スライムから強大な魔力が滲みだしてる。まるで強力な魔法を使う直前のような───!


「おい、セルヴィス?どうしたんだ?」


こちらの異変に気付き、ディロック達がこちらに近づいてくると同時に


「待て、こっちに来───っっぅあ!?」


「!!」


「うわあっ!?」


「きゃああ!!」


慌てて防御結界を張ろうとしたけど間に合わず、オレの体は巨大な水球に吹っ飛ばされて壁へと叩きつけられた。同時にディロック達の悲鳴も聞こえた。

ただ壁に叩きつけられた割には衝撃があまり───と、背後が壁じゃない事に気づく。


「無事か、セルヴィス。」


「! すまない、サイ。助かった。」


どうやら剣士のサイがオレを庇って、壁に激突するのを防いでくれたらしい。

慌てて退き、スライムの方を見て───言葉を失った。


「いったぁー。今の魔法、何?」


「リーダーが庇ってくれなければ大怪我するところです…。」


「庇ったんじゃなくてお前らが勝手に俺にぶつかって来たんだろ!まったく、一体なにが…………んなんじゃありゃああぁぁぁ!!??」


カルとクィンに潰されたディロックが無理やり体を起こし、直後、この場にいる全員の心を代弁するように叫んだ。


オレ達が吹っ飛んだその中心に、先程までいたはずのスライム。

両手に乗るサイズの可愛い水色のスライムがいた、その場所で。



大量の水が空中で渦巻き、生きているかのように何本もの触手状の水がそこから出ては入る。そしてその一本が猫獣人のリューラの身体を絡め捕っていた。




 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。



「スライムッッ!!」



嘘だろ…っ


さすがは冒険者ギルド。異常事態に止める間もなく戦士や魔法使いが水を召喚したモノ(それ)に攻撃をしかけたが、焦るオレの心配をよそに、戦士は全て水球で吹っ飛ばされ、魔法は全て弾かれた。それどころか透明な壁がドームのように出現していた為、一定距離から近づく事すら出来ないでいる。

さっきまで()()にはスライムがいた筈だ。今は大量の水に隠されて見えないが、直前にスライムから膨れ上がる巨大な魔力を感知した事から考えても、あの水を召喚し操っているのはスライム…、なんだろう。



「おぉおおおおいセルヴィス!!?()()、あのスライムがやってんのか!?あの途轍もねぇ水の魔法!!」


「魔法が当たりさえせず弾かれてます!あの結界、すごく強力な水の結界魔法です。私じゃあの魔法は破れません…っっていうか、なんでスライムが結界なんて張れるんです!?本当にスライムですか?」


「……自信はないけど、多分。うちのスライムだよ。」


慌てて迫ってきたディロックと顔を蒼褪めさせたクィン。曖昧な返答になったけど、オレだって目の前の事態が信じられない。

うちのスライムが水の魔法を操るのは目にした事があるけど、初級中の初級だったし【スライム】の枠の範囲内だ。けど今の状況は明らかに【スライム】の枠を超えてる。

元々持っていた実力なのか、暴走してるのか。一体何が起こってるかもわからない。



───けど!元々スライムは体調を崩していたんだ、こんなの負担にならない訳がない!スライムの為にも、早急に止めなければ!



「ディロック!スライムを止めるにも周りの冒険者が邪魔だ、どうにかしてくれっ」


「はぁ!?どうにかって、無茶いうなよ!つかセルヴィス、アレなんとかなるのか?」


「森の奥地に飛ばすアイテムがあるから、それを使う。けど結界ごと移動しようにもこのままじゃ周囲を巻き込む危険が高い!」


「~~~しゃーねぇ、やってやる!けどな、俺らも着いてくからな!?行先が森の奥地だろうが、こっちはリューラが捕まってんだ!」


サイ、クィン、カルの3人もオレを逃がすまいと言わんばかりに決意した顔で周囲を囲んでくる。

ディロック達もついて来るのか……まぁ仕方がない、か。


緊急脱出用に常に持ち歩いてるアイテムを取り出す。

深い緑色をした石のような魔道具は、一定範囲のものを転移させる力を持つ。材料に到底オレでは倒せない強力な魔物の素材を使った、リリアーナ謹製の貴重なアイテムだ。

こいつを使えばスライムを森の奥地、つまり家の近くまで強制的に飛ばすことが出来る。

家に戻れば人の町にはない、魔力を抑えたり動きを止めるといった強力な悪魔のアイテムもある。少なくともここよりは何とか出来る公算が高いし、駄目でも被害がこれ以上出る事もない。


アイテムを握りしめ、オレはスライムの周囲から人が退くのを待った。



 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。



「くそっ!一体アレは何なんだ!?近寄れやしねぇ!」


「増援を呼べ!高レベル魔法使いが数人がかりでやれば、あんな結界───」


冒険者たちが次々と結界へと攻撃を仕掛けていく。冒険者たちの本拠地ギルドでの騒ぎだ、面子丸つぶれの事態に皆が焦る。


「ちょぉーっと待ったぁ!!お前ら、あそこにゃウチのリューラが捕まってんだぞ!!下手に攻撃してリューラが怪我したらどうすんだ!!ここは俺らのパーティが何とかする!」


そこに建物中に響く声で割り込むディロック。何人かがそれに振り向いた。


「おい大丈夫なのか?確かにアンタのパーティは強いが……。」


「へーきへーき、裏技があるんでな!ただちぃーっと危険なんで、皆は離れててくれや。」


「アンタがそう言うなら…、気を付けろよ?」



よし!ディロックの奴、思ったよりギルドでは顔が広いらしいな。

奴の言葉で冒険者たちが逡巡しつつも一歩、二歩と下がる。もう少し離れたらアイテムを起動させれる。


「ちょっとリーダー!?早く助けてよぉ~~~!!!」


その時。

さっきのバカ声が聞こえたのか、リューラの悲鳴が聞こえてきた。


「リューラ!お前、身体は無事か!?」


「なんとかね!このスライム、あたしに害を与える気はないのか、ただ捕まえてるだけだよ。でも全っ然はなしてくれる気配はないけど!」


「そりゃ何より。もうちっと我慢しててくれよな!」


「出来れば早くねー!」


仲間の身が大丈夫そうだとわかり、少し余裕が出たらしい。オレの背後でカルとクィンが息を吐くのがわかる。サイも険しかった表情が少し緩んでいる。


「どうやら元気そうだね、あの猫女。」


「はい。スライムは何が目的なんでしょうね?とにかくリューラさんが溶かされてなくて良かったです。」


周りを見渡すとオレ達以外の人間は一定距離はなれて様子を伺っている。これだけ離れていれば、巻き込むこともないだろう。


「良し、範囲を絞ってアイテムで転移する。全員傍に集まってくれ!」


掌に乗った深緑の魔道具に魔力を込め、魔道具の転移魔法が展開する───





───直後。展開されかけた転移魔法が、切り裂かれたようにかき消える。




「え?」





「───オヤマァ。騒がシイと思ったら、ずいぶんと楽しソウなことになってマスネェ。」


「ギルドマスター!?」



声のした方を振り向くと、そこには。


ギルドを統括する妖艶な魔女が、階上から降りて来るところだった。



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