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王女との出会い

 暗がりから暗がりへ、路地の隙間を縫うように少女が走っている。何かから逃げるように、何度も向きを変え、人目につかぬように必死に走り抜けていく。


 風が強く、巻き上がった砂が少女の顔を強くたたく。


 必死に走る少女は、まだ幼い。あどけなさの残る顔は、小学部の生徒だと言っても通じるだろう。

 路地を抜けた先には大きな門と、平たい建物、そして大きな庭があった。中からは子供の声がひびいてくる。


少女はその建物を学校と判断し、門を乗り越えて侵入した。


学校ならば年齢的に違和感なく潜り込めるはずだからだ。そして追手は年齢から、学校に入ってくることは難しいだろう。


授業の時間なのか、外に人の姿は見えない。少女は身を隠すように、校庭にある木に沿って走り出した。


少女は後ろばかりを気にしていた。だから前にいた男にぶつかってしまった。


背が高い、少し大柄な男。特徴的なのは少女をにらみつける目。闇よりも深い黒色の目。

大人だが、教員にはとても見えない。殺し屋と言われたほうが現実味があるほどだ。


普段ならば謝って逃げだすだろう。それかもしかしたら大声をあげるかもしれない。だが少女は焦っていた。だから少女は見ず知らずの男に頼み込んだ。


「わ、私を匿ってください!」






わずか数秒で、少女は自分の言ったことを後悔していた。誰かに頼るとしても、こんなにも恐ろしい男に頼むことはない。


 ついてこいと男は言った。男は振り返ることなく前へ前へ歩いていく。

 少女は恐る恐るそのあとをついていった。暗がりにつれこまれ、ひどい目に遭わされるのではないかと恐ろしくなる。


少し歩くと、古びた建物に行き着いた。部屋がいくつかあり、扉の前にはそれぞれ表札がある。複数の住民が住む建物、学校の近くなので寮だろうか?


 男は階段を上がり、突き当りのドアを開けて入った。表札は表面が剥げていて読めない前の住民のものを変えていないのだろう。


「適当にくつろいでいろ」


 男はベッドに腰かけた。見れば部屋には椅子は一つしかない。部屋の中は殺風景で、本当に必要なものしか置いてないようだ。帰ってきて寝るだけの部屋なのかもしれない。

 襲われることはなさそうなので、少女は安心して肩の力を抜いた。


「えっと、その……」


「DDだ。好きに呼べ」


「え、ええと、DDさん。わ、私はゾフィです」


 男はDDと名乗り、少女はゾフィと名乗った。


「なにに追われてるのか知らんが、気にしなくていいぞ。どうせ俺のほうが強い」


 ゾフィは向かい合って初めて、DDがドラゴンであることに気が付いた。ドラゴンは人間に変身できるが、その溢れ出るパワーは隠しきれない。同じ姿をしていても、人間から見ればやはり違うのだ。


 そしてDDはドラゴンの中でもかなり強いほうだろう。ゾフィは強いドラゴンを何頭も見てきたので、強者とただの思い上がりの違いは分かる。おそらくDDは前者だろう。


「…………どうすれば、強くなれますか?」


 ゾフィはDDにそう聞いた。ゾフィは強くなりたかった。それも、今すぐに。


「人間の強さなんて、ドラゴンの前ではちっぽけだ。蟻同士で力を比べても意味がないぜ」


「……………………それでも、強く、強くなりたいんです。強くならなければならないんです」


 DDがゾフィをじっと見つめた。下から上へ、順にみていく。


「年の割に鍛えているな。だが実戦経験はない。傷跡が一つもないからな。基礎トレーニングばかりやってきたな」


「……模擬戦もやりましたが、皆私の体を気にかけた戦いをするもので」


「模擬戦に意味がないとは言わねぇが、実戦で勝つには実戦経験を積むしかないと思うぜ。人間の事はよくわからねぇが、俺の出会った強い奴らはみんな修羅場を潜り抜けていた。生きるか死ぬかの戦いで、生き抜いてきたやつが強者になるんだ」


 訓練だけで強くなれるとはゾフィも思っていない。だが地道に実践を重ねる時間はない。


「…………分かりました」


「……分かったというわりには、満足してない面だな。…………強くなりたい理由は知らないが、勝ちたい相手がいるだけなら技術を磨け、策を練ろ。技術と作戦だけが、弱者が強者に食らいつく手段だ」


 そう言うと、DDは窓から外を見た。その直後、階段を上る音が聞こえた。ゾフィを連れ戻しに来た追手だろうか。


 階段を上る音が二階で止まり、どたばたとこちらに走ってくる。


 足音が扉の前で止まり、扉がノックされる。そして返事をする間もなく、扉が開かれた。


「やっほー。追手だと思った、美少女ジャーナリストのジェーンちゃんでした。家にこんな幼い少女を連れ込んで、なにするつもりなの?それとももう何かしちゃった? 何かしちゃってたら犯罪だよ。もしかしてそういう趣味。神話に出てくる、貴族の娘を生贄にささげろーとか言っちゃうタイプのドラゴン?」


 ゾフィはただ困惑することしかできなかった。

 ただ一つ分かったことは、やってきたのは追手じゃないという事だけだった。


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