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対竜戦

 サードは粘ついた視線を感じていた。以前にも何度か感じたことのある視線だった。


 おそらくジェーンが授業をさぼって、探査魔法か何かでみているのだろう。サードは探査系統の魔法は得意でないので、逆探知も難しい。だが見られて困ることはないので、好きにさせることにした。


 それに、のぞき見している奴にかまっている暇はないのだ。これからDDの戦いが始まる。サードはライダーとして、その戦いを目に焼き付ける必要があった。


「いくぞ」


 アドルフがそう言って、コインを上にはじいた。重力に逆らって上に飛び上がり、ゆっくりと落ちる。


 コインが地面についたと同時、二頭のドラゴンが飛び立った。

 飛行能力では、DDに分があった。大きな翼を数度羽ばたかせると、それだけで雲よりも高く飛び立った。ガイはまだDDより50メートルほど下にいる。サードを乗せて飛んだ時よりもはるかに早い。


 墜落戦では高いほうが有利だ。地面に着く危険性が低くなるのはもちろん、上にいれば相手を叩き落とすことができる。上から下に叩き落とすように攻撃するのは、墜落戦の基本となる。


 DDはガイの頭上を取ると、急降下し、その勢いをのせて尻尾を叩き付けた。


 ガイは両腕でガードしたが、20メートルほど下方まで弾き飛ばされた。並のドラゴンなら、今の一撃で勝負はついていただろう。


「大口を叩くだけはありますね。私よりもはるかに強い」


「そんなこと言ってないでやるぞ。高度をあげろ」


 アドルフの命令で、ガイが高度を上げる。


 DDは悠々と二人を待っていた。


「降参ならいつでも受け付けているぜ。弱い者いじめは趣味じゃないんでな」


「調子に乗るなよ。ライダー戦は、一人では勝てないということを教えてやる」


 アドルフはDDに向かって右手をかざした。


「滲み出す呪殺の紋章、縛りあげよ悪夢の鉄鎖。落とせ、落とせ、落として呪え。呪印、異常魔法アンチステイタスマジック


 アドルフの手のひらから、黒いもやのようなものが現れ、DDへと迫っていく。おそらくは何らかの呪いだろう。サードならば対抗呪文で防げるが、ドラゴンであるDDには無理だろう。

 DDは持ち前の速度で、黒いもやから逃げるが、黒いもやはDDを執拗に追い続ける。


「ちんけな魔法だな。それがどうした」


 DDの速度なら追尾魔法などよけながら戦うのは容易だ。地上戦ならいざ知らず、360度自由に動ける空中戦では追尾するだけでは当たらない。


 ――追尾してくるのが一つだけならば


「重ねていでよ、呪印、異常魔法」


 アドルフの手のひらから再び黒いもやが湧きだした。


「さらに重ねて、呪い殺せ。呪印、異常魔法」


 三つめのもやで、ついにDDの動きが止まった。逃げるだけならともかく、かい潜って攻撃するのは困難だろう。


 DDはアドルフから距離を取った。


「少しだけ見直したぜ。やるじゃないか。魔力量は及第点だな」


「上から目線で話すな。叩き潰す。やれ、ガイ!」


 ガイが羽ばたき、DDとの距離を詰める。そして口から氷のブレスを吐き出した。


 DDは翼でガードするが、つららが数本突き刺さり、翼の一部が凍った。

 ドラゴンの能力は様々だが、ガイはブレスが得意なドラゴンのようだ。


 ガイは常にDDとの間に、黒いもやが来るように立ち回っている。追尾魔法を盾に、ブレスで削る算段だろう。


「作戦よし、連携よし。なんだ、思ったよりやるじゃないか」


「強がるのもそこまでだ。慢心しているのはお前だと教えてやる」


「かかか、いいぜ。ならば勝負だ。お前たちの策と連携、それが圧倒的な力を前に通じるか、試してみろ」


 DDはそういうと、真っ直ぐに突進した。途中にあるくろいもやを避けることもせず、ただ一直線にアドルフ達にせまる。


 DDは黒いもやの中を突っ切り、アドルフ達に向かって鋭い爪を振り下ろした。

 まさか正面から突っ込んでくるとは思わなかったのか、ガイの反応は遅れた。とっさに右前脚で防ぐが、体制が悪い。ガイは空中で姿勢を崩し、のけぞった。


  DDは尻尾で追撃するが、弱体化魔法の影響で動きが遅い。尻尾が届く前にガイは体勢を立て直し、ぎりぎりのところで尻尾をよけた。


 DDは顔をしかめ、アドルフは笑みを浮かべた。ガイはほっとしたような表情だ。


 DDが舌打ちを一つ。今の一撃を耐えられるとは思わなかったのだろう。


「どうだ、俺の魔法は」


「けっ、三つ重ねてこの程度なら、自慢にもならねぇぜ」


 ――対竜弱体化魔法。これがドラゴン単騎ではライダーに勝てないと言われる理由の一つだ。対竜魔法は人が竜に勝つために編み出した魔法だ。ドラゴンの皮膚は硬く、生半可な攻撃では通らない。正攻法ではかなわない人間がたどり着いた答えは、搦手だった。


 状態異常、能力低下、精神攻撃、呪い、さまざまな手段を用いて相手の弱体化を図る、それが人間のたどり着いた答えの一つだ。


「こういう魔法は、術者が倒れれば消えるのが相場だぜ」


 DDがアドルフを狙い、尻尾を振り回す。


 だがその攻撃はガイに受け止められ、アドルフにまでは届かない。


 対竜魔法が使えても、人間の戦闘能力はドラゴンに遠く及ばない。体の大きさは言わずもがな、なによりも移動速度の差が大きい。普通に戦っても、圧倒的な速度の差を前に、対竜魔法など使う間もなくやられてしまう。


 だから人はライダーとなって、ドラゴンに乗るのだ。ドラゴンに乗れば速度の差は解消される。


「ドラゴン単騎ではライダーに勝てないという事が理解できたか?」


「かかか、ライダー戦がめんどくせぇってことは何百年も前から知ってるぜ。だがお前らはめんどくせぇだけだな。個々の実力ってやつがな、足りてねぇよ」


「強がりも、度が過ぎると滑稽だぞ」


 アドルフはさらに呪文を唱え、黒いもやを生み出した。ライダーがいれば対竜魔法に対抗することもできるが、DD単騎ではそうもいかない。すでに能力低下をくらっているので、逃げる事すら困難だ。


 ガイは近づくことなく、ブレスでDDを攻撃する。圧倒的優位な状況でも危険を犯さない、堅実な戦い方だ。


 決定打はない。だがDDは何度も弱体化を受け、ブレスをよけられなくなっていた。


 勝負はついたように見える。だがサードは落ち着いていた。DDの目が黒く輝いていたからだ。敗色濃厚な男のする目ではない。さらに言えば虎視眈々とチャンスを狙っているようにも見えない。表情は余裕そのもので、追い詰められている雰囲気がまるでない。


 輝く目と緩んだ口元。DDはただ戦いを楽しんでいるようだ。


「ガイ、そろそろ決めろ」


 幾度もガイのブレスを受けたDDは、全身につららが突き刺さっている。だが墜落戦の敗北条件は地面に落ちる事のみ。氷のブレスではダメージは与えられても、とどめにはならない。


「まだ危険です。相手はまだあきらめていません。長期戦の方が確実です」


「うるさいな。さっさと決めろ。あの状態からの逆転は不可能だ」


「…………分かりました」


 ガイは空高く羽ばたいた。そして空に向かってブレスをはくと、そこに巨大な氷の塊ができた。そこにさらにブレスを吹きかけ、山のように大きな氷塊を作り上げた。


 ガイはその氷塊を持ち上げ、DDに向かって急降下した。圧倒的な質量で上から押しつぶすつもりなのだろう。今のDDではこの技を止めることも、避けることもできない。


 圧倒的な質量をもった氷塊が、ドラゴンの速度で降ってくる。威力は、速度と重さで決まる。圧倒的な速度で、圧倒的な重量がDDに叩き付けられ――砕け散ったのは氷塊のほうだった。


「よう、そっちから近づいて来てくれて助かったぜ」


 DDが圧倒的パワーで氷塊を貫き、その太い前足でガイの首元を握りしめていた。


 アドルフ達の敗因は二つ。一つは油断だ。ここまで慎重に戦っていたのに、最後の最後で安易な攻めを行ってしまったこと。


 そしてもう一つは、ただただ単純な個の力の不足だ。


 DDはガイの首根っこを掴んだまま急降下し、地面に叩き付けた。


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