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学園へ

 翌朝、サードはDDの部屋を訪ねた。トントンとノックをして、ドアを開ける。


 部屋の中は殺風景で、生活に必要なものが数点あるだけだ。部屋には鏡すらない。タンスとベッドと、そして男物の服がいくつか。それがサードが実家から運んできたものの全てだ。


 最低限の配慮として、個室を用意したが、それ以外には全くと言っていいほど金をかけていなかった。そもそも、かける金がないのだが。


「よう、こんな朝から何の用だ?」


 DDはベッドに腰かけていた。眠そうな様子は全くない。


「朝食ができたから呼びにきただけだ。それと、食べたら学園に行くからついて来てくれ」


「ライダーの養成学校だったか。時代の変化ってのは面白いな」


「そなたの時代にはなかったのか?」


「そもそも俺の知ってる学校は、金持ちだけが通うものだったからな」


 昔の教育は金持ちのためのものだった。教育の始まりは、貴族が優勝な人材を家庭教師に雇ったことから始まったからだ。その後、貴族同士が協力し合い、複数の家庭教師を雇い、集団で学ぶことを始めたことが学校の起源となった。


 庶民に教育が行き届くようになったのは、それからずっと先の事だ。現在からさかのぼると、四百年ほど前の事である。


「それを知ってるなら問題ない。上流階級の通う学校だから、大差はないだろう。学ぶのは私だから、そなたは広場にでも寝転がっていればいい。ドラゴンに乗る時だけ、そなたを呼ぼう」


「そりゃ楽でいいな。近くにいればいいんだな」


「近くにいて、問題を起こさなければいい。そなたが問題を起こすと、私が監督責任を問われる」


「問題を起こされた場合は?」


「自衛のためなら反撃は許可する」


 DDはおそらく、戦いたいのだろう。長い間、狭い牢屋に閉じ込められていれば運動もしたくなる。

 だからサードは戦うなとまでは言わなかった。だが最後に一つ、付け足した。


「自衛のためでも、殺しは禁止だぞ」


「かかか、俺のライダーは堅苦しいな」


 DDはそう言って笑った。

 





 学園に着いて早々、周囲の目がこちらを向いていることに気が付いた。理由は間違いなく、隣を歩くDDだろう。貴族や金持ちばかりのこの学校では、DDは異色の存在だ。悪人面に加えて、濁った眼とギラギラとした殺気が、見るものを怯えさせる。ドラゴンの傭兵を連れてきている生徒ならいるが、犯罪者を連れてきたのはサードが初だろう。


それに加えて、サードには今まで自分のドラゴンがいなかった。竜神祭の相方にどんなドラゴンを選ぶのか、注目されていたのだ。そんな時にこんなドラゴンをつれてくれば、目立ちもするだろう。


「なんだ、雑魚ばっかりじゃないか」


 DDが周りに聞こえないような小声で言った。言われた通り、問題は起こさないように気を付けているようだ。


「強い奴らはとっくに距離を取ってる。奥の建物から覗いているやつがいるだろ」


「屋上から覗いてる二人組か? 少しはできるようだが、この距離で気づかれる奴なんて雑魚だろ」


「人間の方はフロスト家の次男、アドルフ。六大貴族の一員だが、そなたの言う通り、大したことはない。隣にいるドラゴンが傭兵のガイ。従軍経験があって、実戦慣れしている。実力はかなりあるはずだ」


「ライダーが弱けりゃ意味ねーよ。最低でもお前ぐらいの強さはないとな」


「残念だが、ライダー単独での強さなら、私より上は二人しかいない。本気で戦いたいのなら、龍神祭を待ってくれ。どうしてもというなら、相手を用意してやらんでもないが」


「万全を期すなら、勘を取り戻すためにも強敵とは戦いたいが……今は構わん。それよりもお前、サードって名前そんなくだらない理由だったのか」


 サード、つまりは三番。サードはこの学園で三番目の実力者だ。


「あだ名なんてものは、他人が勝手につけるものだ。由来なんて私は知らん」


「それもそうか」


 話しながら建物のほうへ歩いていると、上空から何かが落ちてきた。

 砂埃が舞い上がり、視界が遮られる。サードは壁の魔法を唱え、砂埃を払った。

 地面を見ると、人型の鉄の塊が転がっていた。


「硬化魔法を使って飛び降りるのはやめろと言ったはずだが」


「いやーいやー、スクープと聞いては黙ってられなくてね。降りるより落ちるほうが早いでしょ」


 鉄色をした物体は、手足の先から肌に色が戻り、人間の姿になって立ち上がった。

 彼女の名はジェーン。人は彼女を歩く好奇心という。


「迷惑だ。それとスカートで飛び降りるな、見えるぞ」


「ごめんごめん。いやー分かってはいるんだけど、飛行系の呪文はどうも苦手でねぇ。ところでこのイケメンが噂のドラゴン? どんなドラゴン連れてくるかと思ったらすごいの連れてきたね。マフィア? 犯罪者? 早く紹介してよ。やっぱドラゴンって強さも大事だけど見た目も大事だよね。サードのドラゴンはちょっと怖すぎるけど顔の造形はいいんじゃないかな? これでドラゴン形態もかっこよかったらいうことないんだけどなぁ」


 矢継ぎ早に繰り出される言葉に押されそうになる。隣にいるDDも心なしか戸惑っているように見える。ここまで遠慮せずに、距離を詰めてくる人間と出会ったのは初めてだろう。


「こいつはDDだ。詳しいことは直接聞け」


「DD!! ‎ディヤルバウル‎刑務所の主ってほんとにいたんだ! 私絶対嘘だと思っていたよ。私はジェーン。新聞部の部長をやってるわ。これからよろしくね。さっそくだけど、サードとの関係について聞かせて頂戴。いつ、どこで知り合ったの?」


 ジェーンはDDに迫って質問を重ねた。どんどんと距離を詰めてくるのが、ジェーンという女だ。

 見た目は良いのだが、言動と行動が全てを台無しするタイプである。


「一か月前にこいつが刑務所まで訪ねてきた」


「おお、ということはやっぱり龍神祭の特例を利用して抜けだしてきたのね。目的は恩赦? それともお金? お金ってタイプじゃなさそうだし、大昔の竜みたいに生贄とか? でもサードってまずそうだよね。頭だけじゃなくて体までカチコチで固そうだよ」


「別の意味で食いごたえはありそうだがな。こういう意志の強い奴ほど、征服しがいがある」


 DDがサードのほうを向いた。


「ところで、恩赦ってのはなんだ?」


「ああ、言い忘れていたな。何か素晴らしい事、例えば偉大な研究を完成させたり、何十人もの人を救ったりしたものには恩赦が出て、罪が許される場合がある。成果で罪を相殺するわけだな。龍神祭で優勝して、恩赦がでるかどうかは前例がないからわからんが、可能性はあるだろう」


 サードはうろたえることなく答えたが、言い忘れていたというのは嘘だ。DDが自由になるリスクを考えて、サードは余計なことを言わないようにしていた。ただしこれは、調べればすぐにわかる事であるため、無理に隠し通そうとはしなかった。


「隠し事が多い奴だぜ」


「隠していたつもりはないが、仮に隠していたとしてもお互い様だろう」


「違ぇねぇな」


 DDが薄く笑う。サードも笑みで返した。


「なになに~、何の話? 熟練のパートナーみたいに、二人だけの世界に入らないでよ」


 ジェーンがすぐに会話に割り込んできた。彼女が歩く好奇心と言われる所以だ。ジェーンは好奇心に逆らわず、どんな時でも首を突っ込んでくる。


「秘密の話だ」


「仲がいいみたいな言い方をやめろ。俺たちは利害が一致しただけだぜ」


「でもいいコンビじゃん。二人とも気が強くてさ~、凸凹だけどうまくかみ合ってる感じ? うまい表現はできないけどさぁ、いいコンビだと私は思うよ。そもそもサードはさぁ、無条件の信頼とか無理じゃん。中等部からの付き合いの私にも秘密にすることあるしさぁ」


 ジェーンの言葉にも一理はある。サードはあまり人を信用することがない。貴族の娘として、大人たちの醜い駆け引きを何度も見てきたからだ。利害関係や契約となどのほうが、よっぽど信頼できる。


 相手がDDでなければ、いいコンビにもなれただろう。DDは信用するには危険すぎる。


「確かにそうかもしれん。だが一つだけ訂正させてもらうと、秘密を話さないのは、そなたの口が軽いからだ。他意はない」


「心外だなぁ。私は私が知りたいから聞いてるだけで、人に話したりはしないよ。おしゃべりなのはそうだけど、話していいことと悪いことぐらい分かってるよ~」


「金を積まれたらしゃべるだろう」


「金額によるけどね」


 ジェーンは悪びれもせずに言った。堂々と言うので、冗談なのか、本気で言っているのか分からない。


「ほう、こいつの弱みはいくらなんだ?」


「教えたら面白そうだからまけにまけて十ゴールド。っていいたいところだけど知らないんだよねぇ。残念。あ、でもお金には弱いから、札束でほっぺたをぺしぺし叩いてみると面白いかもよ」


「残念だが俺にも金はないんだ。面白そうだから、あればやってみたいんだが」


「私は面白くない」


「けけっ、そりゃやられる方は面白くないだろうさ。だからこそやりがいがある」


「ははは、いい性格してるね。堅物のサードのドラゴンとは思えないぐらい。私、気に入ったよ」


「だから刑務所にいたのさ」


 そう言われても、サードは肩をすくめるしかない。

 校内に鐘の音が鳴り響く。始業の合図だ。


「時間だな。実技の授業は二時間後だ。その時には向こうに見えるグラウンドに来てくれ。ジェーンはまじめに授業に出ろ」


「興味があったら行くよ~」


 信用のならない言葉だが、授業に出るかどうかは自由だ。

「単位は落とすなよ」


 だからサードはそれだけ言って、教室へ向かった。

 ジェーンはその場で手を振っていた。



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