異世界マンホール
昔から考えていたことを書き起こしてみました。
1000文字で書ききれない部分もありつつ…最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
pt評価頂けますと今後の勉強になりますので、お時間ありましたらぜひ宜しくお願い致します。
学校の帰り道に、空き地を見つけた。こんなところに空き地なんてあっただろうかと、中に入ってみると大きな穴を発見した。
恐る恐る穴に近づいて見ると、それがマンホールであることに気がつく。マンホールは何故か蓋が開いていて、僕は中が気になりそっと膝をついて中を覗き込んだ。
ードンッ。
後ろから誰かに背中を押され僕は穴の中に落ちた。
「うわーっ!」
暫くして目が醒めると、辺りは静寂に包まれ恐ろしいほどの暗闇が拡がっていた。
「誰かー助けてくれー!」
落ちたであろう穴に向かって叫んだが渾身の叫び声は少し反響し、やがて静寂に消えるだけだった。
暫くすると暗闇に目が慣れ、じっとしているのもなんだか恐ろしくなり壁伝いに少し歩いてみることにした。
幾分か歩くと壁に突き当たり、手で触れてみると梯子が掛かっていることに気がつく。上を見ると無数の小さな穴から僅かに光が射しており、外に出られるかもしれないと梯子に手をかけ登った。
登るってみるとどうやらマンホールのようで、かなり重たかったがなんとか蓋を開け外に出ることが出来た。
随分と歩いたような気もしたが辺りを見回すと見覚えのある景色でホッとしたのも束の間、すっかり日が暮れており僕は慌ててマンホールの蓋を閉め帰路に着いた。
「こらっ!こんな時間まで何してたの、心配したのよ!」
家に帰ると母が玄関に立っていて、こってり叱られ驚いた。後に帰宅した父と三人で食卓を囲み、風呂に入りその日はすぐに寝てしまった。
僕はマンホールのことを二人には話さなかった。
翌朝、登校するとクラスメイトが話しかけてきた。不思議な感覚だった。
そして僕はここが異世界であることを確信した。
元いた世界では僕を心配するような両親もいなければ、僕に挨拶をするようなクラスメイトもいないからだ。
同じ街、同じ顔をした両親とクラスメイト、だけど違う。そして僕も僕でない。それはゾッとするほど恐ろしく、不安定で、だけど僕が望んだ世界だった。
放課後、空き地へと向かう。やはり予想通りマンホールの蓋は開いたままだった。
「おーい、誰かそこにいるのか?引き上げてくれないか!」
僕は、近くにあった大きめの石を両手で持ち穴を覗き込む。
「バイバイ、僕。」
僕の声はマンホールの闇に落ち、そして静寂に消えていった。