悲惨な一日
眩しい…
僕は目を開けた。
どうやら部屋の窓から差し込む光で目が覚めたらしい。
「今何時だ?」
携帯で時間を確認すると、昼の12時を過ぎていた。
昨夜、アニメを遅くまで観ていたのが原因だろう。
とりあえずお腹が空いたな…
かなり遅めの朝ご飯を食べるとするか。
僕は部屋を出て階段を降りた。
「ねぇ、母さん?」
母親を呼んでみたが家の中から返答はない。
どうやら出掛けているようだ。
僕は両親と妹と四人で暮らしている。
僕は近所の高校に通い、父親は出版会社に勤め、母親は専業主婦、妹は近所の中学校に通っている。
部屋を出て階段を降り、リビングに入ると誰の姿もない。
恐らく僕以外は家にいないらしい。
その証拠に机には朝ご飯と思しき物と母親からのメモが置いてあった。
ーあなたが起きるの遅いから今日は三人でお買い物に行ってくるね。夕方には帰るからそれまでに部屋の掃除でもしておきなさい。ー
もちろん掃除はするわけないが、ご飯は有難く頂くとするか。
「いただきます。」
母親と食材に感謝の気持ちを述べて、ご飯を口に運ぼうとした時、リビングの窓にガリッと嫌な音がした。
僕は音の正体に目を向けると、窓の向こう側に真っ黒な猫がこちらを見ていた。
恐らく猫が網戸を引っ掻いた音だろう。
それにしても黒猫とは何か不吉な予感が…
そんな事を考えていると、もう一度ガリッと音がした。
「やめろ、やめろ。」
僕は急いで窓に向かった。
野良猫に網戸を壊されたら堪ったもんじゃない。
僕は仕返しのつもりで勢い良く窓を開けてやった。
だがどうだ、僕の考えとは裏腹に野良猫はビクともせずに僕を見上げた。
僕はその行動になぜか敗北感を味わった。
「お腹が空いたのか?」
もちろん僕の質問に答えるわけもない。
しょうがない…
僕はおかずの魚の骨を猫に差し出した。
すると野良猫は、少し警戒し匂いを嗅いだ後、勢い良く魚の骨を食べだした。
やっぱりお腹が空いていたのか。
僕はご飯を提供した代わりに食事中の猫に説教をしてやった。
「僕だってお腹が空いているんだ。僕の食事の邪魔をするなよ。食べ終わったらどっか行ってくれよな。」
僕は吐き捨てる様に言い、窓を閉めようとしたその時、野良猫がいきなり僕の足に噛み付いてきた。
「痛っ!!」
こいつめ僕が説教したからって噛み付いてきやがったのか。
野良猫は僕の足を噛み付いた後すぐに走って逃げて行った。
かなり本気で噛み付いたらしい。
その証拠に足からは少し血が流れていた。
「もぅ最悪だ!」
僕は怒りながら傷口を水でサッと流し、絆創膏を貼っておいた。
僕は今日で猫が嫌いになった。
人間の恩も分からず歯向かってくるとは。
僕は怒りを露わにしながら食卓についた。
食事を済ませた後、歯を磨くために洗面台に向かった。
洗面台につき、自分の歯ブラシに手をかけた時に視界が急に狭まっていく様に感じた。
「あれ?」
僕は目を擦ったり、顔を洗ったりしたが一向に治る気配がない。
そうこうしていると、段々目の前が暗くなってきた。
身体にも力が入らない。
そして、視界が真っ暗になると同時に僕は意識を失った。
意識を失ってからどれくらい経っただろうか…
目を開けると僕は母親に膝枕をされていた。
「やっと目が覚めたのね。」
微笑みながら母親は僕にそう言った。
僕はほんの少しだけ照れながら起き上がった。
すると帰宅していた妹がおかしな事を言い出した。
「お兄ちゃんどこ行ったんだろ。」
なにをふざけた事を言っているんだ。
すると母親も、
「どこか遊びにでも行ってるんじゃない?」
冗談が過ぎるぞ。
僕は少し怒りながら返答した。
「僕はさっきから此処にいるだろ!つまらない冗談はやめてくれ!」
すると母親が僕を見て信じられない発言をした。
「この猫ちゃんお腹が空いたみたい。」
だれが猫だって…?
僕は完全に揶揄われているみたいだ。
怒った僕は自分の部屋に向かった。
しかし、階段がうまく登れない。
手足の感覚にも違和感がある。
僕は近くにあった姿見で自分の姿を確認した。
「な、なんで…」
姿見を見るや否や僕は人生で最大の謎に出会った。
そう、僕は猫になっていた…