表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1:フェルドのゴブリン 退役軍人共済事務所の攻防

帝都マリォンから馬車で四日の距離にある港町フェルドの退役軍人共済事務所。地下の収蔵室には明後日の夕方に帰港する帰還兵達のために、数十万枚にも及ぶマリォン金貨が運び込まれている。

組合職員達が退勤し、数時間後の深夜。密室用の特別な灯籠でぼんやりと照らされた共済地下の収蔵室では、護衛のために集められた三人の傭兵達が不寝番をしていた。

「扉も箱も『八番錠改良型』、不寝番なんていらないと思うんですけどもねェ」

頑丈な革製の上下に身を包んだ髭面の若者が木箱をコツコツと叩く。スローワンという名の彼は元盗賊で、今は退役軍人共済の施錠と防犯の顧問を務めている。盗みと開錠の他、拳銃の使い手としても鳴らし、実際その腰や背中には単発、連射式問わず様々な拳銃が提げられている。

「そうでもない。金の誘惑には堪えがたいものがあるからな」

「お前らは金貨に興味がないかと思ってた」

「まさか。黄金は美しい。柔らかで優美、錆びることもない。悠久の時を生きる我々の友に相応しい金属だ。」

スローワンの質問に気取った口調で答える金髪碧眼の長身はフリアス。こちらも重武装だが、銃ばかりを身につけたスローワンとは対照的に大小様々な刀やナイフを帯びている。数世紀もの寿命を持ち、百年に一度、十数年の休暇を取っては異郷に渡っての狩りと戦いに明け暮れる狩猟民族シュハルの民の若者だ。

「なるほど、んじゃゼニは世界のみんなのお友達だ。」

「お前達が表面に出てる施した刻印には興味はない。爪が伸びる間に何度肖像が変わったか。」

「知らねっての」

「二人ともちょっと黙れ」

若い二人のやり取りを重く低い男の声がさえぎる。収蔵庫の真ん中で、簡素な椅子に腰掛けた五十手前の大男。軍人共済組合とは十数年来の知己の間柄の傭兵、ゴーザだ。両手持ちの斧を膝の上に乗せ、都市の夜警が着るような軽金属の胴当てに、さらに腰には分厚い刀と丸盾を装備している。

「何だよ?ぐっすり寝てる金貨ちゃんが起きて泣き出しちまうか?」

「そうじゃない。この音……なんだ?」

古参の傭兵の言葉に、若い二人も目を見合わせ、緊張を高める。ゴリゴリと、堅牢な何かを擦り合わせるような音が持続して響く。

「家鳴りか?」

「石造建築が鳴るかよ。こっちだ。」

三人が向かった先、西の壁面では少しずつ、だが確実に、その一部が収蔵庫の手前へずれて動いていた。程なくして男一人が中腰で通れる高さの坑道が口を開ける。倍の大きさに拡大すれば熟練の鉱夫の手にも思える精緻なトンネルからは、歪んだ鉄器や松明を持った灰色がかった緑の醜悪な影が次々と飛び出る。天井まで積まれた木箱の陰から様子をうかがう傭兵達の表情が憎しみと、嫌悪に歪む。

「ゴブリンだ」

「金貨の臭いを嗅ぎつけたか、クソめ」

地中から産まれた妖精のうちでも特に邪悪な一種であるゴブリン。産まれながらの習性で粗雑ながらも堅牢な坑道を掘り進め、差し当たった資源や貴重品を根こそぎ奪い使うでも、売るでもなく溜め込む山師と鉱夫の天敵だ。人間文明の工業化や他の地中種族との同盟により、鉱山での勢力争いに敗れて散り散りになった彼らは、どこかの山のちんけな洞窟で穴居人並みの粗末な暮らしを送るか、あるいはこうして、下水という名の既知の道から少し横道を掘れば一攫千金を狙える都市部の地下倉庫を狙う盗賊になり果てている。

「追い払え、やるぞ!」

「よっしゃ」

傭兵達はそれぞれ武器を構え、ゴブリン達が部屋中に散る前に隠れ場所から飛び出す。スローワンが両手に構えた短銃を発砲、轟音が地下室を揺らし、最前の二匹のゴブリンの頭の上半分が吹き飛ぶ。驚愕し、左右へと逃げ散ろうとしたゴブリンをフリアスの投げナイフが逃さず捉え、石壁へと縫い止める。

「なるほど十二匹。都会のゴブリンにしては大家族だ」

「今は引く六で六匹。一人二匹か」

「油断はよせ」

軽口をたたき合いながら乱戦の構えを取る三人の傭兵。最初の襲撃で倒されなかったゴブリン達も、一塊になって先ほどまで掘削と造成に用いていた粗末な矛斧や鍬を構える。野生生物の豪腕が持つ人間の道具ともなれば、防具はほとんど意味をなさない。不意打ちで半数まで減らせたことは三人にとって全く幸運だった。

三対六、合計十八の足の裏と乾いた石畳が擦り合い、殺傷までの距離をジワジワと詰める。ぶつかり合う二つの殺意は圧縮され、爆発寸前まで高まり


「これがワシのゴブリンじゃッ!見ろーーーッ!!!」


その時!緊迫する地下収蔵庫に中年男が大闖入!殺気にみなぎる両者の間に割って入るや身に纏うボロ着を脱衣また脱衣!産まれたままの姿に立ち戻るや中腰の姿勢で咆哮し、食物の末路である有機的な大長物を()本に分けて()()()っと排泄せしめた!

しかし、とぐろを巻いた実弾と共に大放出された常軌を逸したメタンガスが唖然呆然で立ち尽くすゴブリンたちの持っていた松明に、あるいはスローワンが撃ち込んだ銃痕の残渣に引火しすぐさま爆発!おがくずのように吹き飛びながら先ほどまでひしめき合っていた坑道へと駆け戻るゴブリン!傭兵達も崩落する天井のアーチを避けながら地上への階段へ殺到する!ただ一人、中年男だけは衝撃で舞い散る金貨と、自前でひり出した黄金にまみれ、哄笑とともに瓦礫の下へと消えた……


崩壊する組合の共済事務所から、傭兵達は命からがら脱出を果たした。知らせを受けて駆けつけたフェルドの退役軍人会と、有志の人々による夜を徹した必死の作業によりマリォン金貨の大半は回収され、過酷な戦地からの帰還兵達も無事年金を受けとり、故郷へ、あるいは新天地へと向かう事ができた。しかし、瓦礫の中からあの不思議な中年男の痕跡は見つからなかったという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ