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Journal.1 ~思ってたのといろいろ違う!~

作者の頭の中での脳内CVは天神子○音とミラ○アカリを足して2で割った感じだったりする←


、、、、、、え、1人に絞れって?

、、、じゃあ、音羽○r(殴


 風が、吹いた。

 最初にそう感じたのは、前髪と思しき軽やかな感触が額の上で踊る感覚があったからだ。

 続いて、柔らかく全身を包む、心地よい空気の圧力。

 そして…。

 バサバサバサバサとやかましく暴れ狂う、丈長の外套の裾。

(……?)

 バサバサバサバサとやかましく暴れ狂う、丈長の外套の裾。

(…―――!?!?)

 目を開けて、音源を思わず二度見し、それまで一瞬でも『心地よい』などと感じてしまったことを、まずは後悔した。

 落ちている。真っ逆さまに。それも、凄まじい速さで。

 慌てて首を巡らせる。まず視界に捉えたのは、蒼穹を流れる綿毛のような白い雲。

 しかし手を伸ばして届く距離ではない。届いたところでどうなるものでもないが。

 更に首を振り回し、次にその目に映ったのは緑色。

 それが地面に生える草木の色だと気付く前に、その思考は衝撃によって寸断された。




 浅いクレーターの中心で大の字に手足を投げ出し、帯の無い浴衣にも見える黒いローブを纏った少女が、仰向けになって大空を睨みつけている。

 浅いとはいえ、クレーターが出来るほどの衝突であったにも拘らず、彼女―――かつて〝鮎川言花〟だった華奢な美少女には、衣服も含めて傷一つ見受けられない。せいぜい、巻き上げられた土や砂を所々に被っている程度だった。

 環境やオブジェクトによる影響を受け付けない。それは、どうやら考えていた以上に優秀な加護だったようだ。よもや、落下中の空気摩擦や地形との衝突を経ても、無事どころか纏っている衣服までも無傷とは。

「…………」

 軽い溜息を1つ吐き、整った眉間にシワを寄せたまま立ち上がる。

 土埃を払おうと自身の身体を見渡して、不意にその視線がある一点で縫い止められた。寄せられていた眉根がみるみる離れていき、大きな瞳も見開かれる。

 そこには、風を受けては左右に揺れる、極彩色のカーペット―――色とりどりに咲き乱れる、花畑が広がっていた。

「―――わぁぁ…!」

 何処からか聞こえた、感嘆の声。その声は、花の絨毯に見惚れていた黒衣の少女を唐突に現実へと引き戻した。

 思わず、クレーターから周辺を見回してしまう。だが人の姿どころか、気配も無い。

 しかし、確かに聞こえた。そんなに大きな声ではなかったが、聞き紛うには、あまりにもよく通る澄んだ声だった。

 花が好きな自分が、花を愛でる最中にそれを聞き流せないほどに、美しい声だったのだ。

 一通り注意深く周囲に目を配ってみたが、やはり、それらしい人影は無い。

 ならば、それはそれで仕方無い。1人でゆっくりと花を愛でたいと思っているのかもしれない。それをわざわざ探し回るのも無粋というものだろう。

 気を変えて、一面の花園に向き直り、深く深呼吸をする。

 そこで、ふと思い出した。

 声といえば、もっと気になる相手がいる。

 そう。何を基準に評価したかは知らないが、『女神の美声』とまで言っていたのだ。

 先程の声の人物に張り合うわけではないが、ここはひとつ、挨拶代わりの喉自慢と言うのも悪くないだろう。

 そう考え、また深く息を吸う。

 口を開いて、喉を絞り―――

「…ぁぁあ~~あアアー!?」

 ―――伸びやかに吐き出された澄んだ美声は、途中から驚きに上ずった甲高い奇声となった。

 自らの喉から奏でられたソプラノは、紛れも無く。

 花畑を前に感嘆し、少女を陶酔から醒めさせたまさにその声そのものだったのだ。

「…………」

 開けたときとは違った理由で塞がらない口もそのままに、しばし硬直する。

 やがて…。

「…あ、は…あははっ」

 頬の上を一滴の涙が滑り落ちるのとほぼ同時に、急に膝から崩れ落ちた彼女は、両手を喉に添えると、まるで大切な宝物にそうするように撫でながら、声を上げて笑い始めた。

「声が…っ…私、私、喋れる…!フフっ、喋れる!あはは、喋れるよ!」

 次第に、その笑い声はしゃくりあげるような嗚咽に変わっていった。

「喋れる…グスッ…こんな、キレイな…っ声で…うぐ…!」

 幼少の頃に声を失い、それからの絶望に満ちた艱難の日々が次々と脳裏を駆け巡る。

 それを1つ残らず吐き出して、押し流して。喉元からは嗚咽が零れ、双眸からは止め処無く涙が溢れる。

 蒼く高い空の下で、そよぐ風と揺れる花々に包まれて。

 生まれ変わった鮎川言花は、生まれたばかりの赤ん坊のように、人知れずたった1人で泣き続けた。




「ふぅ…。さて、と…」

 あれから、一頻(ひとしき)り泣き続け、南中していた太陽が、遥か遠くに望む高い山脈の稜線に差し掛かる頃。一息をついた言花は、幅の広いローブの袖で顔を拭いながら、おもむろに立ち上がった。

「あー…、泣いた泣いた。うん、スッキリ♪」

 泣き腫らした顔のまま、それでも表情は晴れやかに両手を上げて背伸びをする。

(それにしても…)

 と、言花は自分の身体と花畑を交互に見遣り、そよ風に揺れる前髪を(いら)いながら、腕を組んで思案顔を浮かべた。

「『人生のニューゲーム』っていうくらいだから、てっきり赤ちゃんとして何処かで生まれてくるものかと思ってたけど…」

 周囲を見る限り、そこは彼女の知る病院や助産院とはかけ離れた光景が広がっている。医院によっては患者のストレスを和らげるために、庭や壁に工夫を凝らす場所もあるにはあるが…、一面を埋め尽くす花畑は、そんな『工夫』では収まらない規模であることは明白だ。何より、自分の身体が、赤ん坊と呼ぶには程遠い。

 視線の高さは、生前のそれと比べて少し低いくらいで、ほぼ変わらない。何処と無く見覚えのある白いブラウスが包む慎ましい膨らみも、悲しいかな生前よりも確かな存在感がある。そしてこれまた何処と無く見覚えのある、ミディの赤いフレアスカートから伸びる色白な脚と、やはり何処と無く見覚えのあるヒールの低めなレースアップブーツ。

 一通り全身を眺め終え、はたと気付く。

「……『何処と無く見覚え』ありすぎない?」

 思えば、黒いローブも何処と無く見覚えのある地味な意匠が施されている。

 クリア特典によって、所有物を引き継げるとは聞いていたが…。思い出せる範囲で、今の言花が着こなす服装を、生前の言花は所有していた覚えは無い。…しかし、見覚えはある。

 唯一、見覚えが…というより見慣れないものがあるとすれば……。

「何気無く触ってたけど、コレ…髪の毛だよね。私の…」

 視界の端で、指先に巻き付け遊んでいた細い糸状のもの。その色にかすかな違和感を覚えた。

 左右のサイドアップから片方の房を手に取り、それを目の前に持ってくる。

 夕焼けのせいだけではない、()()()()()()()()が、サラサラと風に吹かれて揺れた。

「……OMG(マジかよ)

 前の人生に於いて、言花は自分の髪を染めた覚えは無い。しかし、『もうひとり』の髪は、確かにこんな色に染めていた。

 前の人生に於いて、言花は現時点で着用している衣服を所有していた覚えは無い。しかし、『もうひとり』は、確かにこんな服を着ていた時期があった。

 ピンクの髪。シンプルなコーデに纏めた普段着。そして、万が一の襲撃に備えた魔法のローブ。


「…これ、『リラ』じゃん。大事なことだしもう一回。…これ『リラ』じゃん!」


 小学生の頃から長らく過ごした、『別の世界』。そこで暮らした、『もうひとりの自分』。

 前の言花の人生が幕を下ろすに先立ち、すでにサービスを終了していた、アクションMMORPG『バベル・オブ・エタニティ』に於ける、言花のメインPC、偉大なる魔法使い(アークウィザード)『リラ』。それが、今の言花の姿だった。

「…おーけい。落ち着こうか私。まだ慌てる時間じゃないよ」

 涼やかなソプラノを震わせて、言花―――リラは深く深呼吸を繰り返す。狼狽えるんじゃない。アークウィザードは狼狽えない。

「…まぁ、少なくとも『リラ』は自信を持って美少女って言えるキャラメイクだし、そこは素直に喜ぼう。…この髪じゃあ人前では悪目立ちしそうではあるけど」

 もう一度、深呼吸。そう。姿形など見た目は大した問題ではない。

 思い描いていた形とは大分違うが、要は子供の成長過程を省いただけ。生前に培った知識や経験を持ちながら、生前のしがらみから解放された人生を送ること。延いては充実したネット環境に囲まれて気兼ねなくゲームに没頭できることにこそ意味があるのだ。

(まぁ、こんなところでボヤいてても仕方ないし…。ひとまずホテルか何か探さなきゃ。グ○グル先生の出番かな)

「一度やってみたかったんだよねー。〝オッケー、グー○ル〟ってやつ。……あれ?」

 と、スマホを取り出すために右手をスカートのポケットに突っ込んだところで、大事な事を忘れていたと気付く。

「……そういえば…私、手ぶら?」

 慌てて周りを見渡すが、手荷物らしきものは見当たらない。

 強いて言うなら、ブラウスの上から、腰に緩く巻かれたベルトに固定されているホルスターと、そこに収まっている30センチ程の魔法の指揮棒(タクト)。そして、同じくベルトに括り付けられている、ダウジングで用いるペンデュラムのような何か。

「……まさかね。まっさかねー」

 物も技術も引き継げる。声無く語っていた、あの説明を思い出し、嫌な予感に端正な顔が引き攣る。

 まさかねー、と譫言(うわごと)のように呟きつつ、リラはベルトから引き抜いたペンデュラムを、眼前に掲げる。いつもモニター越しでそうしたように。


 その垂らしたペンデュラムが虚空に映し出したインベントリ画面は、紛れも無く、ゲームで飽きるほどに見てきたものと寸分違わぬ物だった。


「…………」

 思わず言葉を失い、その画面を凝視するリラ。

 HPポーション、高級HPポーション、最高級HPポーション…と、インベントリ内に在ることを示すスロットアイコンも、すべて『バベル・オブ・エタニティ』に存在していたもので間違いない。

「…ま、まだ!」

 放心しかけたリラだったが、なんとか踏み止まり、ページのタブを捲っていく。

 回復薬や毒薬、その素材などの消耗品。魔導書や剣、盾や銃といった装備品。チケットに換金素材にイベントアイテム。

 すべてのページを余さず確認し、その何処にも…スマホは無いことも確認した。してしまった。

 糸の切れた人形のように、リラはその場に膝を着く。

「なにこれぇ!え?引き継ぐってそっち!?もっとこう、前世の記憶で子供のうちから将来に向けての布石を整えて成り上がったり、前の人生で積み立てた物や経験で下積みスキップして社会的に無双したりするんじゃないの!?」

 頭を抱え、インベントリ画面が消えた中空に向かって嘆くリラ。少なくとも、この時点で〝キャラクター〟と〝アイテム〟が想像とは違ったものを引き継いでいることが判明した。加えて、現代科学で説明の付かないペンデュラムの挙動を見た限り、おそらく引き継いだ〝技能〟とやらも、試すまでもなく『リラ』のものだろう。

「『なろう』かよ!これでゲームとか端末どころかネットも電力も無い剣と魔法の国に転生しましたとか言ったらいよいよ死活問題だよ!……いやまぁ、インベントリの中身的に、持ち歩いてちゃ捕まりそうな物ばっかだから、剣と魔法の世界のほうが良いのかもしれないけどー…。はぁぁ……」

 深く長い溜息を吐く。だが、打ち拉がれていても、事態は何も変わらない。悪い予想を振り払うように頭を振り、拳を握りしめて立ち上がった。

「まだだよ…。あきらめるな私!ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、リアル魔法少女として勝ち組になれる可能性もあるんだから!何より…」

 拳を開き、右手をそっと喉に充てがう。

「何より…私はもう、喋れるんだから。…もう何もこわくない!」

 顔を上げる。その顔を茜色に染めている夕日が、ゆっくりと山の稜線の向こうに沈み行く。

 暗くなる前に寝床を確保するのは、もう手遅れだろう。スマホが無い以上、連絡手段も無ければナビゲーションも無い。

 しかしそれでも、彼女の顔は晴れ晴れとしていた。

「よし。まずは人から探そう!」

 意を決して、自らが立つクレーターから外へと…『第二の人生』の第一歩を踏み出す。

(この声さえあれば、もうコミュニケーションで困ることはきっと無い。人さえ見付かれば…まぁ、あとは女子力でどうとでもなるよね)

 二歩目以降は鼻歌も交えて軽やかに。瑠璃色に染まり始めた空に澄んだソプラノを奏でながら、アークウィザードの少女は花畑に踊り出して行った。


このあとで鬱展開があっても怒らないでね(震え

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