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~思ってたよりサツバツで~

主人公…ほぼ出せなかった

 黒く厚い、雲の下。

 昼間だというのに、遮蔽物など無いのに、太陽の存在を忘れてしまう程に薄暗い草原。

 …否。草原()()()というべきか。見渡せる範囲には、死体か死体と思しき全身鎧、ないしはその一部と瓦礫しか転がっていない。見るからに合戦後の焼け野原だ。

「ぐ…ぅ、う」

 そんな荒れ野に横たわっていた一組の甲冑から、くぐもった男性の呻き声が聞こえた。どうやら中の人物は辛うじて息を繋いでいるようで、鎧の隙間から血を滴らせ、震える両手で握る剣を支えに立ち上がろうとしている。

「はぁッ…はぁッ…バケモ、ん…どもが」

 途絶えそうな意識を手放すまいと、あえて声に出して騎士は毒突く。

「言うに事欠いて化け物とは。ひどい言い草だ」

 虫の息である騎士の誰にともない呟きに異議を唱えたのは、それとは対象的な怜悧な声だ。

「……ッ!」

 その声の主―――傷一つ無い荘厳な意匠のマントとフードに身を包む年壮の魔闘士を、騎士はヘルムのスリットの奥から檻の中の猛獣のごとく睨み付ける。身体を支えている剣の刃は欠け、(きっさき)に至っては砕けているが、それでも闘志が砕けてはいなかった。

「う…うぅ、ぉぉおおおおお!!」

 雄叫び。怒号で怖れを振り払い、矜持で痛みを押し退けて手負いの獅子は駆け出した。

「せェァアアア!!!」

 歩数にしておよそ7歩。その7歩を瞬時に詰め、最至近、必殺の間合いから渾身の力を以て折れた剣を横に薙ぐ。


 ブゥウン!と空気を切る音の後に、風圧で地面の砂塵が舞い上がった。


「脳筋め」

 身動(みじろ)ぎもせず、剣にも触れず、目深に被ったフードから覗く口の端を釣り上げる無傷の魔闘士。

 その厚手のマントの中から、装飾が光る手套を嵌めた手が伸び出し、使い込まれたプレートヘルムを鷲掴む。そのまま押さえ込まれるようにして、騎士は膝を着いた。

「くっ!?バ…カな…!この距離で、躱したのか…っ」

 先の斬撃に全霊を懸けた騎士には、再び剣を振りかぶる余力など無かった。

 剣を取り落とした両腕にどんなに力を込めても、頭を掴む魔手は払うどころか微動だにしない。

「躱してなどない。その必要さえ無い」

 ベコッ…、と不穏な音が鳴る。その音源は騎士のヘルムだ。見ると魔闘士の手套、その装飾の一部が淡く発光し、指は頑強なはずのヘルムにめり込み形を歪ませている。

「脳まで筋肉の考えない頭なら要らんよなぁ?」

「!ぐおおおッ、ぬぅおおおお…!」

 騎士はその意味するところを察し、気力も体力もすでに絞り尽くした全身の力という力をなお振り絞って抵抗を試みた。…が、顔を圧迫し始めたヘルムの変形は止まらない。脱ごうにも、凄まじい力で押さえ付けられ、それさえもままならない。

「『能無し』に相応しい死に様をくれてやる。せいぜいあの世で筋肉が通用することを祈れ」

「く…っそぉぉ…!」

(ここまで…か…!…許せ、アリッサ)

 全身の震えが妙に大きく感じる。霞む視界の端に、故郷で帰りを待つ家族の顔が浮かびかけ―――


「うわぁ、サツバツ…。今北産業とか言える状況じゃないんですけど」


 ―――聞こえたのは、死屍が累々とする戦場に不似合いな、涼やかな美声。死に瀕し、意識も朧げという状況で聞き流せないほどの。しかし、それに誰何(すいか)する前に、騎士は考えることができなくなった。


きっと主人公はギャグキャラだから

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