新しい季節へ
「それじゃあ行ってきます」
「ああ、気を付けて」
そう言っていつのまにか大きくなった少女を見送る。
彼女との付き合いはもう16年。
出会ったのは僕が2歳の時の桜の季節。
気づけば、彼女は高校生2年生になり僕は大学生になろうとしている。
時が経つのは速いものでたくさんのことが変わった。
身長、年齢、顔つき、声。
だけれど変わらぬものもある。
変えたくても変えられない気持ちがある。
駄目だとはわかっていた、けれど無視できるはずが無かった。
恋とはするのではなく、落ちるものだ。
そう初めて言った人は凄いと思う。
まさにその通りだ。
僕の中のにあるこの身を焦がすような禁断の果実は両手では持ちきれない程に大きくなっている。
このままだといつまでも常識と現実という檻の中で苦しめられる想いを変えられない。
だから僕は決断した。
この春、僕はここを発つつもりだ。
この思い出の地を。
ここより、自然が豊かで、雪が降る地へ。
両親以外の誰にも告げず。
たくさんのものを置き去りにして。
18年間過ごした家、育ててくれた両親、ばかをしていつも一緒に怒られた親友達、思い出の溢れたこの街。
そして、彼女への思いを。
禁断の果実を。
「もう行ってしまうのね」
寂しげな母の顔に少し胸が痛くなる。
「ああ、ごめん。母さん」
「いいのよ。貴方が本当にしたい事を見つけてきなさい。それより言わなくて良かったの」
「ああ、あいつも僕も寂しがり屋だから」
「そうかもしれないわね。お互いその方がいいかもしれないわね」
ポツリと零れた母の言葉に少しドキッとした。
母は気づいていたのかもしれない僕の気持ちに。
「じゃあもう、行くよ」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます。母さんありがとう」
最後のお別れを告げ、電車に乗り込む。
彼女との17年目の春はもう来ない。
いくらか春を重ねれば変われるだろうか。
また彼女と笑って春を迎える日が来るだろうか。
新たな地で出会いがあるだろうか。
今より深い恋に落ちれるだろうか。
そう考えている内に出発のアナウンスがなる。
外には目を潤ませ見送ってくれる母の姿が見えた。
さあ、長い長い旅の始まりだ。
悩んでいても仕方がないもう後ろ振り返るな。
いつか変われるその時まで。
窓から空を見ると、雨雲達に囲まれていた太陽から微かな光が差し込まれていた。
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