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プロローグ『I・E・O』

はい、こんばんはご無沙汰しています。如月と申すものです。以前にもこちらにて書かせていただいていましたがこの度新しい作品を執筆しましたので新作として投稿させていただきました。今回はゲーム物になります。オンラインゲームです。(多分)VRゲームです。何処までをVRとして良いのかが怪しいのですが……

「急げ急げ!このままじゃ待ち合わせに遅れちゃうって!」


 都心から少しだけ離れた、しかし田舎と言う程未発達でもない街、海内町。紅葉もすっかり濃厚になった10月半ばなその街の駅近くの歩道を人に当たらないように気を付けながら小走りで駆けていく女性が一人。名前は源紗綾ミナモトサヤ。22歳の大学生で、今期の単位の半分以上は取得済み。そんな彼女が急いで向かっている場所は、駅から歩いて五分程度の場所にある『とあるゲーム』を遊ぶ為の専用施設だった。


「よし、これなら間に合いそう―――」


 ちらりと腕時計を確認し、時間内に目的地に到着出来るであろう事を確認した彼女は速度を落とし、息を落ち着かせながら通常の歩行速度で再度歩き始めた。しかしその時に建物の角から歩いてくる人の姿が見えたのだが、慌てていた紗綾にはその姿は見えていなかった。


「え。」


「あ。」


 そして気がついた頃には遅く。少し軽い音と衝撃と共に、紗綾の体に人の重みがもたれかかってきた。


「ご、ごめんなさい!!」


 咄嗟に頭を下げながら紗綾は自分にもたれかかる様に転んだ少女の肩を抱き体勢を整えた。


「怪我とか、大丈夫?」


「……ん。」


 相手の少女も少し困惑している様で、目をぱちくりさせながら小さく頷いていた。


「そっか、良かった。じゃあ、私はこれで。ほんとごめんね!」


 少女に手を振り、紗綾はその場を去った。そんな紗綾の後ろ姿を、少女は唯々無表情にじっと見ていた。




「えぇええええ……」


 施設に到着するなり、紗綾は大きなため息を吐いた。施設に到着してから自分の携帯電話を確認し、そこに入っているメッセージを見てみたのだが、この日約束をしていた友人達が運悪く全員用事が出来たらしい。


「急ぎ損じゃん……はあぁ……まぁ、一人でやっておこうかな。どこか野良募集してるかな……」


 そうぶつぶつと呟きながら施設の受付である女性に声を掛けた。


「すみません、今日は席開いてますか?」


「はい、今日は後2席開いてますよ。」


 紗綾の手短な質問に女性は直ぐに応えてくれた。それを聞いた紗綾はにやりと笑い直ぐに宣言した。


「じゃあその席の一つ、私が貰います!」




 とある時代から、ゲーム業界にいつの間にか発生し、そして定着、気が付けばそれは世界に当たり前に溶け込んでいた物。それはハンティングゲーム。一般的には狩りゲーと略される事が多いゲームジャンルだ。プレイヤーキャラクターを操作し、大型のモンスターを一人、または複数人のプレイヤーで討伐するというゲームジャンルで、大体のゲームが最大4人まで同時にプレイ可能になっている。そして紗綾が今、始めようとしているゲームもまた4人で行う事の出来るハンティングゲームだ。


「では、ご利用プランは三時間パックで。お支払いはゲーム内通貨『Doドゥール』でよろしいですか?」


「はい、それでお願いします。」


 受付を済ませ、紗綾は女性から一つの鍵を受け取った。


「お客様の使用する『イレイザーエッグ』は2階右手の部屋にあります、213でございます。」


「ありがとう。」


 鍵を確認して、紗綾は近くの階段を上り始めた。


 『イレイザーエッグ』とは、これから紗綾のしようとしているゲームに使用するゲームハードで、卵型の超大型ハードだ。人がその中に入り、その内部全域がゲーム画面として表示される。そして自分の両手に専用のコントローラーを取り付け、そのコントローラーでキャラクターを操作して遊ぶと言う形の操作方法だ。


「二階の……お、此処か。」


 自分が貰った鍵に書かれている数字と照らし合わせ、その卵型ゲームハードの側面にある鍵穴に差し込み、鍵を捻った。するとイレイザーエッグの中央部分から『プシュッ』とまるで炭酸飲料のフタを開けた時の様な音が鳴り、上半分が自動的に持ち上がって卵が開き始めた。


「何度見ても、燃えるねぇ……」


 その光景にワクワクしながら、紗綾は完全に開き切るのを待った。


「……よし、じゃあ行こうか。」


 弾んだ声で卵の中に足を踏み入れ、そのまま内部に設置されている専用の椅子に腰かけた。そして椅子の側面に配置されているハードの開閉スイッチを押し、今度は卵を完全に閉じさせる。


「たまには一人って言うのも悪くない、か。」


 卵が完全に締まり切り、目の前にテンプレートの文字列が流れ始めた。


「流石にこの辺りはもうずっと見てきてるからね、スキップスキップっと。」


 見慣れた文章を飛ばし、ログイン画面に到達した所で自分の携帯電話をポケットから取り出し、手慣れた手つきでこのゲームにログインする用のコードを呼び出した。


「次は虹彩認証っと。」


 画面に出る範囲に自分の目を映し、その状態で瞬きせずに一秒ほど停止。すると正面の画面に『Welcome back サイケ』と文字が表示された。サイケ、と言うのは紗綾のキャラクターネームだ。


「さぁ、行こうか……I・E・O!!」


 紗綾がサービス開始から二年間、暇を見つけてはプレイしているこのゲームの名は『イリュージョン・イレイザー・オンライン』略してI・E・O。 




 イリュージョン・イレイザー・オンライン、略してI・E・O。それは現在国内で最も遊ばれているハンティングゲームで、世界的にも有名になっている程のゲームだ。プレイヤーはまず人間、獣人、機人、森人、山人の五種類から種族を選びアバターを作成する事になる。次にプレイヤーは20種類の武器の内、自分の好きな武器を選ぶ事が出来る。武器は重い物、扱いが難しい物、魔法適性が必要な物など様々存在し、それぞれに適したキャラクターステータスも存在する。プレイヤーキャラクターにはレベルがあり、そのレベルに応じてステータスにポイントを振り分ける事が出来る。それにより重い物を扱える様になったり、扱いの難しい武器を扱える様になったりとどのステータスを育てるかで大きく扱いが変わってくる。その多様性がウケて今では国内外にユーザーが多数存在するゲームである。


「……あちゃぁ。今は野良募集してないや。」


 I・E・Oにログインし、最初に様々なプレイヤーが集まるオンライン集会所に向かってパーティーメンバー募集の掲示板を見たが、残念ながら紗綾のステータスと募集要項が合うものは無かった。


「うーん、私はヒーラーでもサポーターでもタンクでも無いからなぁ。火力担当だから一番募集枠が競争率高いんだよねぇ。」


 3時間の内既に30分は経過している。しかし一向に火力の募集枠は空きそうにない。紗綾はため息を吐きながらキャラクターを操作して集会所内の椅子にキャラクターを座らせた。


「はぁあ、今日はついてないな。」


 再びため息を吐き、そしてふと画面の端に気になるものを見つけた。


「ん……?」


 その気になるものは、どうやらプレイヤーの様であったが、どうにも動きがおかしい。あっちにウロウロ、こっちにウロウロと落ち着かない様子だ。それだけならば割とよく見る光景でもあるのだが、何故か紗綾はその光景に違和感を覚えた。


「落ち着かないだけ?……いや、多分あれは。」


 キャラクターを立ち上がらせて、紗綾はそのプレイヤーに近づいた。


「こんにちは。どうかした?」


「……?」


 紗綾がボイスチャットモードを周囲チャットモードに切り替えてその少女の姿をしたプレイヤーに声を掛けた。するとそのプレイヤーはぴたりと動きを止めて、そのまま紗綾の方へと振り返った。その少女アバターは人間で、淡い青色のストレートロングヘア―の似合う、紗綾のアバターよりも少しだけ背の低い美少女だった。因みに紗綾のアバターは獣人で、白髪のポニーテールの犬耳少女だ。


「……」


 そして、何かを話しているのだろう事が動きで分かるのだが、相手の声は紗綾には届いていない。ここで紗綾は相手がこのゲームの初心者であると確信した。


「あーっと、ボイスチャットを切り替えたかったら、画面の右下に見える吹き出しのマークにポインタを合わせて、ボイスチャットモードを切り替えると良いよ。」


 紗綾がそう教えると再びその少女は動きを止め、しばらくしてから再びキャラクターがキョロキョロと動き始めた。


「大丈夫?」


「……ん。」


 漸く声が聞こえて紗綾はほっとした。聞こえた、とは言ってもほんの短い、まるで吐息の様な声だったのだが。


「このゲーム初心者?」


「……そう。」


 相手は緊張しているのか、短い言葉しか話そうとしない。だが声色を聞くにどうやらキャラクターの外見に違わない少女の様だった。


「そっかそっか。あのさ、もし良かったら私が色々このゲームの事教えようか?」


「……いい、の?」


 紗綾の提案を聞き、相手の少女の声が少しだけ弾んだ様な気がした紗綾だが、もしかしたら気のせいかもしれないとも思った。


「良いよ良いよ。私、このゲーム大好きだからさ。新しい人が少しでもこのゲームの事好きになってくれたらって思うんだ。そうしたらこのコンテンツがもっと盛り上がって色んな人が来るでしょ?」


 嬉しそうに紗綾がそう説明すると目の前の少女アバターが頷いた。


「お、早速モーション覚えたんだ。凄いね。」


「……お話聞きながら、適当に弄ってたら見つけた。」


 少女アバターが頷いたり首を振ったりと、今度は動きが騒がしくなり始め、その動きに紗綾は少し笑ってしまった。


「ふふふ、あははっ。」


「……どうしたの?」


 抑揚のない声で少女からそんな問いが返ってきた。それを聞いて紗綾は悪い事をしたかと内心思いながら謝った。


「ごめんごめん。昔の自分を思い出してたんだ。」


「……?」


 少女の疑問を代弁するかのようにアバターが首を傾げる。早くもモーションを使いこなしている様だ。


「昔の私もそうやってモーション連発して遊んだり、チャット切り替えが分からずに困惑してたりしたからさ。懐かしいなって。」


「……そう。」


 紗綾の話に興味があるのかないのかあまり分からない様子で少女が反応を返す。それを聞いて紗綾は話が脱線していた事に気が付いた。


「あぁごめん、話がそれちゃったね。じゃあ、ゲームの事について色々な所を周りながら教えるよ。先ずパーティー組んで貰って良い?そうしたらチャットモードをパーティーチャットに切り替えられるからさ。」


 紗綾が目の前の少女にポインタを合わせ、手慣れた手つきでパーティー申請を飛ばした。すると少女は少しの間固まって、しばらくしてからパーティー申請を承認した。


「よし、じゃあ先ずはパーティーチャットに切り替えだね。さっきと同じ要領で吹き出しのアイコンを見て、今度はパーティーチャットに合わせるの。出来る?」


「……出来た。」


 紗綾の説明を聞きながら既に操作していたのであろう、説明が終わる同時に少女がそう返事をした。


「わ、飲み込み早い!じゃあ……えっと、そう言えば自己紹介まだだったね、まぁ、キャラクターネーム見たら分かるんだけど、私はサイケ。よろしくね。……えっと、貴方は……ラピスか。うん、よろしくラピス。」


「……よろしく。」


 改めて自己紹介を交わし、二人は一度集会所を出た。



「ここが武器屋、此処はお金を払えば完成品を売ってくれる店ね。で、その隣にあるのが生産屋。此処では武器の生産や、服の作成も出来るんだ。その代わりお金と、作成に必要な素材を持ってこないといけないんだけど。」


「お金と、素材……まだ、何にもない。」


 ラピスを連れて、色々見て回る事30分。最後に回ってきたのがここ、武器屋と生産屋だった。この場所は実際の所集会所のすぐ近くにあるので一番最初に教える事も出来たのだが、紗綾は敢えて最後に回る事にしていた。その方が集会所に入る流れを確保しやすく、直ぐに狩りに出かけたくなるかなと思ったからだ。


「大丈夫、最初は皆一緒。ここから始めていくんだよ。……あ、そうだ。ラピスは最初にどの武器を選んだの?」


 言葉と共に紗綾は自分の武器を背中に可視化させた。このゲームではオプションで狩りフィールド以外での武器の可視不可視を選択できるのである。


「私はこれ、槍。」


「槍……長い。」


 紗綾の出した武器はこのゲームに登場する近接武器の中で実質一番の攻撃距離を誇る武器種である槍だった。その中でもこの槍はかなり上位の敵素材から作成できる真っ青な槍『ブリューナク』だった。


「それで、ラピスは何選んだ?」


「……それ、どうやるの?」


 ラピスが頭の上にクエスチョンマークを表示させて首を傾げた。それを見た紗綾は「あぁ。」と一人で納得して謝罪した。


「ごめん、それもそうだ。分かんないよね。えっと、オプションの、表示切替って所にあって……」


「……こう?」


 紗綾の教えで、ラピスの背中に武器が表示された。正確には腰付近、だが。


「んん。あぁ、銃か!おぉ、良いよねぇ銃。カッコいいよねぇ!」


「……うん。」


 紗綾がテンションを上げてそう語るとラピスも小さく同意の声を漏らした。


「そっかそっか。じゃあ私も何とか教えられそうかな。私のビルドはどっちかって言うと器用貧乏タイプだから極端に脳筋とかだと何も言えないんだよね。」


「……脳筋?」


 紗綾の言葉にラピスが不思議そうに声を上げた。それを聞いて紗綾はラピスがこの手のゲーム自体に慣れていない事に気が付いて再度謝罪をした。


「あぁごめん、この辺の話は追々していこうかなって。それよりも、そろそろ狩りに行ってみよう?」


「……うん。」


 紗綾の言葉にラピスが同意。二人は再び集会所に向かってクエストを探す事にしたのだった。




「さて、到着だね。」


 二人の最初のクエストとして選んだ場所は、比較的危険度の低い妖怪型イリュージョン退治のクエストだ。その名も『あの悪戯妖怪をなんとかして』と言うクエストだ。クエスト対象は複数の群れで存在している小型イリュージョン『ブラット』5匹の退治である。


「……ここが、狩りフィールド?」


 到着するなりラピスのアバターはぼーっと拠点で立ち尽くしていた。恐らくリアルのラピスがキョロキョロと辺りを見回しているのだろう。


「そう、此処は妖怪型が複数存在する場所。その名も『妖の域』ってね。」


「あやかしの……いき……」


 オウム返しの様に呟くラピスを見て紗綾は昔の初々しい気持ちを思い出しそうになった。


「今回の狩猟対象はブラットだからまぁ雑魚だね。直ぐに片が付くと思う。だから緊張しなくて良いからね。何かあったら守るしさ。」


「……ん。」


 安心させるようにそう話す紗綾に、ラピスは頷きモーションと短い言葉で返した。


「ちょっとこのクエスト特殊なイベントもあるんだけど……まぁ、起こらないか。1%程度の発生率だった筈だし。じゃ、行こう。」


「……ん。」


 二人は拠点を出てフィールドに本格的に足を踏み入れた。すると直ぐに視界に薄い紫色の瘴気の様なものが漂い始めた。


「これはただのエフェクトだけど、結構視界を遮るから厄介なんだよね。あ、こっちね。」


「……」


 瘴気に目を奪われたのか、ラピスがフラフラと左右にふらついている。それを見た紗綾は手を振るモーションでこちらを見えやすくして、先導していった。


「そこら辺は足元に毒沼とかもあるから気を付けて。……あ。」


「……あ。」


 言うや否や、ラピスの足が毒沼に嵌まり、毒の状態異常にかかってしまった。


「言うの遅かったか。はい、この毒消し飲んで。」


「……うん。」


 手早く紗綾が渡すコマンドにて毒消しを渡したお陰で殆どダメージを受けることなくラピスは回復した。


「言うのが遅かったね。ごめん。」


「……こ、っちこそ。ごめん……」


 自分が不用意に毒沼に入ったのを気にしているのかラピスの声が少し震えていた。それを聞いた紗綾は努めて明るい声で、気にさせない様に返事をした。


「大丈夫。誰もが通る道だから。私も最初は気が付かずに毒に入ってあわあわ言いながら毒で死にそうになってたんだから。」


 けらけらと笑いながらそう語る紗綾の声を聴き、ラピスは安心した様に返事をした。


「……そう。」


 その返事を聞いて紗綾の方も安心し、改めて先に進んでいった。





「いた、あれがブラットだ。」


「……あれが。」


 さっきの毒沼エリアから少し奥に行ったエリアにて、小型の鬼かゴブリンの様な姿の半透明な敵だった。


「あれがこのゲームの敵、『イリュージョン』だよ。その名の通り半透明な奴が多いんだ。……今はね。」


「……そう。」


 そう言うや否やラピスは腰の銃を片手に持ち、イリュージョンに向けて構えた。


「あ、ちょっとま―――」


 紗綾が制止するも間に合わず、ラピスは銃を発射。しかしその銃弾は敵に当たる所か敵の近くで弾が消滅してしまった。


「ここは射程外なんだよ。銃って言ってもこのゲームの銃は基本ハンドガンだからさ、そこまで射程が無いんだ。」


「……むぅ。」


 少し拗ねた様な声を出すラピスを、紗綾は少し可愛いと感じてしまった。


「ふふ、もう少し近づいたら当たるから。行くよ!」


 紗綾が先行して近づき、ブラットの群れの一匹に一撃を加える。そのブラットは奇妙な雄たけびを上げ消滅した。そしてその姿を見た他のブラットも紗綾を警戒する様に徐々に距離を詰めていくのが見えた。


「今だよ、ラピス!」


「……今度、こそ。」


 狙いを定め、銃を発射。このゲームにはターゲットのロック機能がある為銃に限らず、遠距離攻撃全般はそのロックさえしていれば少しずれようが勝手に狙いが付くので初心者にも安心の仕様となっている。だが、ラピスの銃の撃ち方を見て紗綾は少し違和感を覚えた。


「ん……?その動き方。」


 オートロックを使っていると普通はその場でぐるぐると敵を正面に捕らえながら向きを変える。だが、紗綾の目の前で発砲しているラピスの動きはどうもそうではない様で。狙いを付けて、発砲して、『明らかに自分で狙いを付けて』また発砲している。二年間このゲームで色々なプレイヤーと一緒に遊んだからこそ紗綾には分かった。


「ラピス、オートロック切ってるの?」


「……オー、ト?」


 紗綾の言葉にラピスは不思議そうに言葉を返した。これで紗綾は確信した、ラピスはオートロック無しで銃を使用し、しかも的確に命中させていると。


「ラピスって、ほんとにこのゲーム初心者なんだよね?」


「……ゲーム自体、初めて。」


 ラピスの衝撃の発言に紗綾は絶句した。初めてのゲームの筈なのに、銃を使用し、しかも的確に命中させていると言うこの天性のカンとも言える才能は紗綾にはどう足掻いても存在しない物だった。


「初めてのゲームでこの動き……とんでもない新人さんが来たものだ。」


「……?」


 そんな話をしながらも的確にラピスがブラットを撃ち抜いていき、気が付いたら目標の五体を討伐完了していた。しかし、画面に出たのはクエスト完了の文字ではなかった。


「……乱入?」


「え?げ!?うわぁ、まさかあんな低確率を引き当てるなんて……さっきの発言フラグだったかなぁ。」


 紗綾が後悔しながら槍を構え、それを見たラピスも釣られて銃を再び構えた。


「来るよ!」


 紗綾の言葉とほぼ同時に、空から一匹のイリュージョンが落ちてきた。しかしそのイリュージョンは半透明ではなく、ほぼ実態と呼べるほどに濃い色をしていて、イリュージョンと呼んでいいのかすら怪しい位だった。


「しかもこいつぅ!?ラピスって何か凄い運を持ってるのかも……」


「……そう、なの?」


 降ってきたイリュージョンは胴体が虎柄で白い翼が生え、頭が獅子、尻尾が蛇と言った姿のまるでキマイラの様な、しかしそうでもない姿をした奇妙な姿のイリュージョンだった。


「あいつはこのゲームの運営が作り出したレアモンスター。正式名称はキマイラなんだけど、微妙にキマイラっぽくない所為で別の名前で呼ばれる事がある奴だよ。」


「……別の、名前?」


 ラピスの質問に一拍間を置いて紗綾が神妙な声を出して答えた。


「あいつの胴体、虎柄でしょ?あそこが山羊だったらキマイラなんだけど、胴体が虎な物だから鵺っぽくもあるって話題になって。結果出来たあだ名が……『ぬえイラ』。」


「……ださ。」


 紗綾の言葉にとても辛辣な返事が聞こえてきてまるで自分がバカにされたかのように感じた紗綾は少し落ち込んでしまった。


「しょうがないじゃん!私が考えた訳じゃなくて攻略サイトにいつの間にかそんな俗名が出てたんだから。」


「……でも、ダサい。」


 どう足掻いても出てくる辛辣な言葉に紗綾はため息を吐いて、気を取り直した。


「まぁ何でもいいや、じゃああいつ倒すよ!あいつの素材は良い武器が作れるから、楽しみにしといてね!」


「……ん。」


 紗綾を先頭に、二人がぬえイラに突撃した。




「ラピス、下がって!」


 ぬえイラからの攻撃を紗綾の指示で後ろに下がるラピス。先程までラピスがいた所に尻尾が振り回されて、ラピスは既の所で躱す事に成功した。


「この後隙があるから、弱点の尻尾の付け根に撃ち込んで!」


「……ん!」


 紗綾の指示通り、ぬえイラの動きが少しの間制止し、紗綾の方をじっと見つめていた。その隙にラピスは接近、尻尾の付け根に向けて銃を構えて連続で発砲。弾丸は次々にぬえイラの弱点部位にヒット。ぬえイラの体が大きくぐらつき、妙な叫び声をあげた。


「怯んだ!チャンス!もう体力ほとんど残ってない筈だから、頑張ろう!」


 隙を見逃さずに紗綾が顔面に槍を突きこんだ。そしてぬえイラは更に妙な声を上げて一度飛び上がった。


「あ、ラピス!!大きく右に避けて!!」


「!!」


 紗綾の指示に従いラピスは大きく右に躱そうとするが間に合わず、敵の攻撃の衝撃波を受けてしまって身動きが取れなくなってしまった。


「ラピス!」


「うごけ、ない。」


 動けないラピスにぬえイラから追撃の前足パンチが飛んできて、ラピスの体が体力の9割と共に吹き飛んだ。


「ラピス!!まだ生きてる!?」


「なんとか、生きてる。」


 瀕死のラピスにさらに追撃を掛けるつもりなのか、ぬえイラがラピスの方を向いたまま獅子の口を大きく開けた。


「まずい!!させる、かぁぁぁぁ!!!」


 紗綾がショートカットキーから槍専用スキル『槍投擲』を発動。紗綾のアバター、サイケが手に持つブリューナクを思い切り振りかざし、ぬえイラに向けて投げた。


「きまれぇぇぇ!!」


 盛大な気合と共に放たれたブリューナクは見事にぬえイラの尻尾の付け根に直撃し、更にその体を貫通する様にヒット。そのままラピスの頭上を通り抜けていった。


「……すごい。」


 その槍投擲のダメージで、ぬえイラの体力は0になったらしくぬえイラの体が崩れ落ちるのと同時にクエスト完了の文字が出てきていた。


「良かった……守れた。」


 紗綾が安心した様に吐息を漏らし、気を緩めていると、ラピスのアバターが紗綾の方へとてとてと走ってきていた。


「無事?ラピス。」


「……ん。」


 ラピスの短い返事に紗綾は再び安堵し、小さく息を漏らした。しかしラピスは少し落ち着かない様子で紗綾の方をちらちらと見ていた。


「どうしたの?」


「さっきの、何?」


 今日一番の意志の強い声ではっきりと、ラピスがそう聞いてきたので紗綾は少し驚きながら「あぁ」と納得して説明を始めた。


「今のは槍専用の投擲スキル『槍投擲』って言ってね。自分が装備している槍を思い切り投げて貫通させる槍の必殺技みたいなものかな。」


「……投擲って、槍だけ?」


 いつの間にか紗綾の手元に戻って来ているブリューナクをじっと見つめながらラピスがそう聞いてきた。


「いや、このゲームには汎用の投擲スキルもあるよ。ただそれは槍の投擲とはちょっと違うステータスが必要になるから私は今此処で再現させてあげられないんだ、ごめんね。」


「……どのステータスが必要?」


 ラピスが興味津々に聞いてくるのでそのまま説明を続けようかと思った紗綾だが、ふと画面下に表示されているクエストからの強制帰還までの残り時間に気が付いた。


「あ、じゃあそれはクエストから帰ってぬえイラの装備見ながら説明するよ。」


「……ん、わかった。」


 そのラピスの返事が聞こえたとともに二人は狩りフィールドから強制離脱、少しの読み込みの後に集会所へと帰って来たのだった。



「投擲、教えて。」


 帰って来るなり第一声にそう聞いてくるラピスを見て、余程投擲をやってみたいのだろうと思った紗綾は吹き出しそうになるのを堪えながら説明を始めた。


「じゃあ、生産屋に向かいながら説明するね。えっと、投擲は汎用スキルだからどんな武器を装備してても使えるんだけど、使用する為にはとあるステータスが必要なんだ。ラピスはこのゲームに存在するステータスって覚えてる?」


「……あんまり。」


 ラピスの返事に「それもそうか」と一人納得した声で返した紗綾が、説明を続けた。


「えぇと、じゃあステータスの説明からやっていくね。先ずは体力。これはまぁ難しく考えなくても良いよ。HPって言うゲージに関係してて、さっきダメージ受けた時に減ったでしょ?この体力が高いとそのゲージの長さが長く変わるんだよ。」


「……」


 紗綾の説明をラピスは静かに聞いていた。反応が無いので紗綾は少し不安に思ったが構わずに説明を続けることにした。


「次に筋力ね。これもまぁ名前の通り、重い武器を装備するのに必要なステータス。例えば……あ、生産屋に着いたから丁度見ながら説明できるか。ちょっと生産屋の生産リスト開いてみて。」


「……色々、増えてる。」


 紗綾の指示通り生産リストを開いてみたラピスは少し驚いた様にそう呟いた。


「そこにある武器の内、ブラットの素材を使用した両手剣の『餓鬼剣』って言うのは筋力が必要な両手剣ジャンルの中でも特に重い、高い筋力ステータスが要求される武器なんだ。」


「……そう。」


「えぇと、じゃあ次に行くね。」


 ラピスの反応に段々不安が大きくなってきた紗綾は少し足早に説明をしようと考えた。


「頑強って言うのは相手から貰うダメージの軽減と、頑強の高い人だけが装備できる特殊防具、鎧を装備する為のステータスで、魔力って言うのが魔法を放つために必要なゲージ『MP』の量を決めるステータスで。」


「……」


 尚も反応の薄いラピスに紗綾はさらに不安が高まった。こんな事なら最初から投擲の部分だけ説明するべきだったかもしれないと若干の後悔も感じ始めていた。


「意志って言うのが魔法を放った時の威力に関係するもので、また魔法使い達が着る専用装備のローブを着る為に必要なステータスでもある。そして技術って言うのがラピスが装備してる銃や他の遠距離武器、あと特定の近接武器に必要なステータスなんだ。」


「技術……」


 技術の話で少しだけ興味を示してくれたラピスの声を聴いて紗綾は少しほっとした。そして紗綾は最後のステータスの説明に入った。


「そして、最後のステータスなんだけど、これが投擲に必要なステータスなんだ。その名も……『運』。」


「……うん?」


 その言葉に今一ピンとこないラピスがキャラクターに首を傾げさせながら聞き返した。


「そう、運。何故かはわからないんだけど、このゲームは運が高いとどんな重い武器や鎧でも投げる事が可能になるんだよね。」


「……運、運……」


 紗綾の言葉を聞き、ラピスが何度も運、運と呟き始めた。余程投擲がしたいのか、かなりの執着を見せている。


「そうだね、取り敢えず投擲をしたいなら運を上げられるだけ上げないといけないし、幸いにもラピスは運の高い人間種族だから投擲極振りキャラも出来なくもないかな。」


「・・・・・極振り?」


 時折出るゲーム用語がラピスは理解できない様で、その都度紗綾はしまったと後悔する。皆が皆知ってる訳では無いと、改めて痛感させられていた。


「えぇと、極振りって言うのはつまり、特定の事に特化したステータスの事で、この場合だと投擲に必要な運に極限までステータス割り振りを行っている、と言う事。」


「……分かった。わたし、それにする。」


「え?」


 紗綾が口を挟む暇もなく、ラピスがステータス割り振りを済ませた。紗綾からは見えていなかったが、恐る恐るステータス画面を見てみると明らかに運の数値が初期値ではなくなり、他のステータスは初期値のままだった。


「……どう?」


「……うん、バッチリ伸びてるね。」


 他人のステータスに文句なんて言うつもりはない。紗綾はそう思うが、果たしてこのまま運極振りと言う『このゲームで最も困難な茨の道』を初心者の彼女に進ませていいのか、と悩んでしまった。


「あー、うん。そうだ、じゃあ取り敢えずフレンド登録しようか。」


「……フレンド、登録?」


 案の定ラピスが首を傾げたので、紗綾はそれを見越して事前に操作を入力してラピスにフレンド登録を申請していた。


「今ラピスの方にフレンド登録承認の可否画面が出てると思う。もし私とフレンドになっても良いよって思ってくれてるなら承認の方を、嫌だって思ってるなら否認の方を押してみて。」


「……あ。」


 ラピスがボタンを押し、フレンド登録は無事承認……されず、否認されてしまった。


「え、あ、あぁ……そっかぁ……」


 紗綾の心の中に何とも言えない重い物がのしかかり、少し胸が締め付けられてしまった。


「……ごめん、間違えた。」


「間違い?……そっか、そっかぁ……ボタン押し間違えたんだ。」


 間違いだと分かった途端、紗綾の心の中は軽くなり、締め付けもすっかりなくなっていた。


「……あの、フレンド登録、の申請方法。教えて。」


「あぁ、そりゃあ自分で知ってる方が良いよね。えっと、先ずスタートメニューを開いて、右から二番目のフレンドってコマンドを押してみて。」


 自分でスタートメニューを開いて同じ様に動かしながらラピスに教えていく紗綾。ラピスもその指示に従って操作している様で、小さく「ん、ん。」と相槌を打っていた。


「で、そこにあるフレンド申請を選ぶと周囲のプレイヤーが出てくるよ、幸いここはパーティー組んでない場合は同じ場所に行けないって言う、オンライン集会所とはまた別の判定の場所だからこの方法で大丈夫だよ。」


「わかった、これでどう……?」


 少し楽しそうに聞こえるラピスの声と共に、ラピスからフレンド登録申請が画面に表示されて、紗綾はそれをすかさず承認し、二人は無事にフレンドとなった。


「よし、じゃあ改めてよろしく、ラピス。」


「……よろしく、サイケ。」


 二人でのみ出来る専用モーション、握手を交わしてから二人は再び狩りに向かった。

いかがでしたでしょうか。私は書いていてこんなゲームないかなぁと考えていました。武器種の多い狩りゲー。良いですね。実際にはバランス調整などが難しいのでしょうが。

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