議題1:女子制服におけるスカートの必要性
傾いた太陽の光が差し込む放課後の教室。未だ校舎内は騒がしく、あちこちで声がするなか、23HRとして宛がわれている教室は重々しい雰囲気に包まれていた。教室中央にはコの字型に並べられた机があり、椅子は全部で五つ。そのうち四つが埋まっている。
「さて、欠員はいるが、今日も今日とて会議を始めよう」
鈴の音のような透き通った声が教室に響く。その声の主、新藤越香はこの生徒会 (サークル)における生徒会長であり、この頭のおかしいサークルの発案者でもある。見た目以外を度外視した場合、癖のない長い黒髪に白磁のような白くきめ細やかな肌、少し切れ長な瞳は冷たい印象を与えるが、全体的に整った容姿故にクール系の美少女というのが、クラスでの評価だ。重ねるようだが、見た目以外を度外視した評価では、だ。
「早速だが、みんなにはこれを見てほしい」
会長は自分のカバンをごそごそと漁り、A4サイズの紙束を取り出して、他の三人に配る。
「よし、全員に回ったな。これが今日の議題だ。」
「……会長、もしかして配る紙を間違えてませんか?」
「いや、何も間違えていないぞ。今日の議題は『女子制服におけるスカートの必要性』についてだ。」
配られた冊子の表紙に燦然と輝くやたら可愛いフォントの議題名は、どうやら間違いではなかったようだ。
「……はぁ。まぁ前回よりはまともではありますが」
ちなみに、前回は『売れないAV女優を売り出す企画構成』であった。
「そうであろう。今回の議題は私が直々に考えたものだからな。」
「副会長。今、前回よりまともと言いましたね。それではまるで僕の発案議題に問題があったみたいじゃないですか。」
会長から見て遠くの方の左側の席、つまり俺の右斜め前の席に座る男が、腕を組みながら不満そうに言う。
こいつは火最蓮司、役職は一応書記で、この生徒会 (サークル)の汚点だ。会長と同じで、見た目以外を度外視した評価であれば、落ち着いた雰囲気ときりっとした眼から、線の細いクール系のイケメンという評価を多くの女子からもらっているらしい。知らないほうがいいこともあるってことだな。
「敢えて言ってやるよ。てめぇの発案は毎回問題しかねぇんだよ」
「悲しいことです。否定から入るのは新たな発見から遠ざかりますよ?」
「てめぇから見つかる発見なんざ虫の餌にもならねぇよ」
「おい二人とも、言い合いはその辺にしておけ。議論に入るぞ。それでは一ページ目を開いてくれ」
ぺらっ (配られた冊子を開く。)
太腿付近まであげられたスカートを履いた女子の下半身アップの写真
ぱたっ (配られた冊子を閉じる。)
「おい!これはダメだろう!」
「何がだ。」
「何がだじゃねぇよ!アホか!」
「安心しろ。これは私だ。」
がたんっ!
「こ、これ…新藤会長なん、ですか…」
横を見ると、配られた冊子を至近距離で凝視している女の子が、わなわな震えていた。名前は水瀬百合。役職は会計で、外見極振りの二人と違い、かなりまともな子。ただまぁ、今回みたいに時折変な言動と挙動をするため、この子の生態はよくわかっていない。
「うむ。それ故になんの心配もいらないぞ。」
「会長。」
「どうした火最少年」
「私は膝上ぐらいが好きです」
「知らねぇよ!」
「なるほど、それはすまなかった。次回はそれを考慮しよう」
「新藤会長!わ、私はもう少し短いほうが……」
「ふむふむ、貴重な意見感謝するぞ。雨宮少年は何か希望はあるか?」
「そもそもこんな写真張り付けるんじゃねぇ!仮にも年頃の女の子だろ!」
「それは承服しかねるな。やはり説明には図解があったほうが理解の助けになるだろう?」
「そういうことを言ってるんじゃなくてだな…。はぁ、会長に羞恥心を求めるほうが間違っていたか」
「それでは説明に戻るぞ。まず女の子は集団の中で生活をしていると、スカートの裾をあげるという行為を強要される。ちなみに、この図のスカートの丈は、私が昨日調査をした全二年女子の平均値にしてある。」
「無駄に凝ってるな!?」
「この図から分かるように、殆どの女子がスカートの裾をあげているのがわかるだろう。」
「全く、嘆かわしいことです。短いスカートのちらリズムに何の価値があるというのか…」
「お前長いほうが良いって言ってた理由それかよ!?」
「先ほどの火最少年の言にあるよう、スカートを履き、なおかつそれを短くすることで生じる問題というものがある。それでは次のページに進んでくれ。」
ぺらっ (冊子のページをめくる。)
机に置かれたフリルの付いた水色のパンツの写真
すぱぁんっ (冊子を床に叩きつける。)
「お前バカか!?バカなのか!?」
「何を言っている。ただのパンツだろう。」
「何を言っているって言いたいのは俺の方だ!こんなもん乗っけるんじゃねぇよ!」
「まったく、パンツぐらいショッピングモールとかでも普通に陳列されているだろう。それと同じだ。」
「新藤会長!こ、この、ぱ、ぱぱぱんつは、新藤会長のものですか!?」
顔を真っ赤にして声と鼻息を荒げる水瀬ちゃん。
「いや、これは母のものだ。」
すんっと大人しくなる水瀬ちゃん。
やはり彼女の生態はよくわからない
「流石に自分のものは恥ずかしいだろう。」
「なんかもう会長のアウトの基準が分からないです…」
「話を戻すぞ。この、スカートを短くすることで生じる問題というのは、下着が見えてしまうということもあげることができるが、これに関しては下に短パンを履くなどの完璧な対処法がある。」
「なるほど、たしかにそうすれば見えようがねぇもんな。」
「だが、どうあがいても完全に対処することができないことがある。次のページに進んでくれ。」
「次は変な写真はねぇだろうな?」
「そんなものあるわけないだろう」
ぺらっ (冊子のページをめくる。)
黒タイツだけを履いた後ろ姿の腰から膝あたりまでの写真
「ばかぁ!!何をもって変な写真がねぇって言ったよ!アホだろうお前!」
「か、かかかかかいかいかいちょう!こ、こ、ここここれは!」
「うむ、私の父が快く撮影に協力してくれてな。」
「………。」
「水瀬ちゃん!?目のハイライトが消えてるんだけど、大丈夫!?」
「会長の御父上はすらっとした綺麗な足をしていますね。」
「だろう?私も撮影をしているときにそれは思っていた。」
「水瀬ちゃん!?戻ってきて!!」
「………。」
「さて、どうあがいても完全に対処することができないことがあると言ったが、それはこの写真で一目瞭然だろう。」
「おっさんの足見せられて何がわかるっていうんだよ!」
「まったく、雨宮少年はまだまだだな。答えは、寒さだ。ある程度の寒さはタイツで軽減できるが、男子制服のズボンのように厚い布で完全に覆われているわけでもない。元々、男子よりも女子のほうが皮下脂肪の産生がしにくいため体が冷えやすいという性差に加え、冷えはホルモンバランスの乱れに繋がる。それ故に、体をつくる成長期にスカートを履くというのは、非常に合理的ではないのだ。」
「な、なんか、急に真面目な話になったな…。」
「何を言う雨宮少年。私はいつだって真面目だ。」
「それで会長、今回の議題は『女子制服におけるスカートの必要性』ということでしたが、会長はスカートに必要性を感じないという意見でよろしいですか?」
「うむ、私は動きやすいズボンがいい。」
「では、僕はその会長の意見に強く反対を主張します。」
「ほう、理由を聞こうか。」
「なに、簡単で明快なことです。スカートに需要があるからです。ああ、もちろん男子目線だけでなく、女子目線でもということですよ。」
「需要?女子の?まぁたしかに夏とかは涼しいかもしれないけど、ズボンにだって夏服用の生地が薄いやつだってあるぞ?」
「副会長、そういうことではありません。そもそも、本当に寒さだけを改善したければ、スカートの丈などあげる必要はありませんし、スカートの下にジャージでも履けばいいのです。」
「た、たしかに。」
「つまり、女子たちは自らの意思で寒さを我慢しているのです。そう、お洒落のために!」
「そうだったのか。二人もそうなのか?」
「私は迷わずズボンを取るぞ。ただ、ここのジャージは色が嫌いだから着たくない。」
「……。」
会長はお洒落なのかそうでないのか分からない回答を、水瀬ちゃんはまだ帰ってきてない。
ってかそんなに精神的ダメージ受けたのか!?
「だがしかし、必要性に関しては考慮が必要だということはわかった。それでは結論を出そう。」
議題:『女子制服におけるスカートの必要性』
結論:スカートとズボンを選択制にするべき