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この指とまれ

作者: ゆめ猫
掲載日:2018/03/07

 四季を彩る住宅街の公園は、雨が降らない限り子ども達の声が響き渡る。


――鬼ごっこするもん この指とまれ――


「なんだよ!また咲来たのかっ!」

「あたしもやりたい!」

「ころんで泣くだろう」

「ころばない!泣かない!」

「一回だけだぞ!」

「和ちゃん鬼だよ」

「わぁーい!和ちゃんこっちだよぉ〜」



    ♡    ♡    ♡



 和ちゃん、坂本和也(さかもとかずや)は隣に住む一つ年上の男の子。小さい頃から和ちゃんが大好きで、鬼になって追いかけられるのが嬉しかった。

 私は中原咲(なかはらさき)。和ちゃんが行った同じ高校に行きたくて、頑張って勉強もした。

 ただいま和ちゃんは高校三年生、私は高校二年生になった。

 和ちゃんはサッカー部のキャプテンで凄くモテる。私は黒縁メガネの読書好き。幼なじみだという接点だけで繋がっていた。



「中原さん、坂本君と幼なじみですよね。これ渡していただけませんか」


 知らない人がいつも和ちゃんに渡して欲しいと頼みに来る。

お人好しではないけど、断る事が出来なくて預かってしまう。


「あぁ、これで何回目だろう」


 もう数えきれない位渡してる。自分も好きなくせに一回も渡した事がない。


「和ちゃん、これ」

「またかよ!お前は郵便配達員か?」

「だって……」


 私だって辛いんだよぉ。下を向いた私の髪をクシャクシャとしてから、手紙を受け取った。


「ねぇ、それラブレターでしょ?」

「はっ、違うよ!」

「じゃあ、何?」

「アドレスや携帯番号や、写真なんかかな」

「可愛い子だったら電話するの?」

「可愛い子なんかいねぇ。目の前にいつもいるじゃないか、可愛い子!なぁ咲」


 和ちゃんはそう言いながら、私の頭をポンポンと叩いた。

和ちゃんの目を見ながら顔がだんだん赤くなっていく。


「お前、マジにすんなよ!じゃあな」


 そう言って歩いて行った。いつもそう。

私が好きな事も知らないで、和ちゃんはからかって楽しんでいる。



    ♡    ♡    ♡



 ある日和ちゃんがサッカーの練習で足を骨折した。


「和ちゃーん!」


 私は夕方急いで和ちゃんの家に行った。


「あら、咲ちゃんいらっしゃい」

「おばさん、お邪魔します」


 そのまま2階の階段をドカドカと上がり、和ちゃんの部屋に入った。


「お前、子どもじゃないんだから無断で人の部屋入るなよ」

「どう?大丈夫?」

「聞いてるのかよ!」

「痛む?」

「ギブスしたから痛くないよ」

「学校行ける?」

「行けるよ!あぁ、カバン持つもん この指とまれ」


 私は慌てて指にとまった。


「お、助かる。しかしお前大げさだなぁ」

「骨折だよ!大変な事だよ!もう心配で心配で」


 また和ちゃんは私の髪をクシャクシャした。



 次の日から学校の行き帰り、カバンを持って和ちゃんについて歩いた。すると変な噂がたったようだ。


「坂本君、この人は幼なじみじゃなく、彼女だって本当ですか?」

「坂本さん、本当に付き合ってるんですか?」


 下校途中カバンを持って和ちゃんと歩いていると、女子が沢山集まって尋ねてきた。


「あぁ、本当だ!な、咲」

「ぇ……」


「やっぱり本当だったんですねぇ」


 女子達はがっかりしてその場を去った。泣いている子もいた。


「こういうウソはいいよな。これでお前も郵便配達員しなくてすむぞ!」

「ひどい……」


 一瞬、私は喜んでしまったのだ。でも、ウソだなんて。カバンを持ったまま走った。涙が流れる。


「おい!咲ーー!」



 一人で先に走って和ちゃんの家の前まで来て、我にかえる。

 松葉づえでゆっくりとしか進めない和ちゃんを、置いてきてしまった事を後悔する。

でも、涙は見せられない。こうするしかなかったのだと自分に言い聞かせた。

 カバンを持って立っていると、ゆっくりと和ちゃんが歩いてきた。


「お前は全く」

「ごめんなさい、でも……」


 そのまま和ちゃんは何も言わず家に入った。

仕方なくカバンを玄関に置き立ち去った。



    ♡    ♡    ♡



 ある日のお昼休み、私は三年生の女子達にグラウンドの体育倉庫前に呼び出された。


「何でしょうか……」


 上級生に呼び出されるのはとっても怖い。

俯きがちに尋ねた私は肩を掴まれた。


「あんた、坂本君と付き合ってるって嘘だろ!」


 相手は五人もいる、本当に怖い。

黙っている私にもう一人が声をかけてきた。


「嘘に決まってるよな!ま、憧れか何かだろうが、あんたと坂本君は釣り合わない!」

「そうだよなぁ、メガネブスだもんな!」


 そう言ってみんなで笑っていた。

 肩を掴んでいた一人が揺さぶりながら聞いた。


「なに黙ってんだよ!さっさと答えろよ!」


 とても荒々しい声だった。私は萎縮してしまった。


「何を答えればいいのかな」


 そこに松葉づえをついた和ちゃんがゆっくりと歩いてきた。

 肩を掴んでいた人は思わず手を離し後ろに下がった。


「坂本君……」


 一人の女子がそう漏らし、皆困惑した表情だった。


「一人の下級生相手にみっともないぞ!」


 和ちゃんは少し声を荒げてそう言った。


「この子と付き合ってるなんて信じられないのよ」

「そうよ、それを確かめようとしただけだわ」


「前にも誰かに言ったけど、俺たちは付き合っている。咲は俺の――」

「幼なじみです!幼なじみというだけなんです!私は彼女ではありません!」

「咲……」


 私は上級生の女子に侮辱されたこと、脅されて怖い思いをしたこと、和ちゃんの嘘、全部が嫌になってそう叫んでしまった。


「やっぱり」


 一人の女子がそう言ったのを最後に、私は教室に走って戻った。

その後の和ちゃん達のことはわからない。走れない和ちゃんを不憫に思った。


 でも私の心の中には、和ちゃんと釣り合わないと言われた事が根深く残っていた。

釣り合わないし、私はブス、そんなこと自分でも分かっていた。それを指摘された事が悲しかった。



    ♡    ♡    ♡



 その後もカバン持ちは続けたが、女子達は私達を見かけては囁きあっていた。


「ホントどう見ても釣り合わないわ」

「なんか憧れから来た作り話だったみたいよ」

「坂本さん、可愛そう!」

「ずっと一緒にいたいから、カバン持ちしてるんだって」


 執拗に聞こえて来る声に、不愉快な思いをしたのは私だけではなかった。


「明日からリュックにするから」



 翌日の朝、和ちゃんが家にやって来た。


「何してんだよ!俺歩くの遅いから遅れるなよ」

「だって……、和ちゃんリュックでしょ?」

「カバン持ちはもういいよ。一緒に登校するもん この指とまれ」


 私は咄嗟に指にとまる。またゆっくりと、和ちゃんの横を歩いて登校した。


「坂本さん、ちょっといいですか?」


 声をかけてきたのは、私と同じクラスの田中晴樹(たなかはるき)君だった。同じ図書部員でもあって、結構話している人だ。


「田中君、おはよう!どうしたの?」

「坂本さんに用なんだ」

「なんだ?」

「幼なじみかも知れませんが、中原さんを振り回し過ぎてると思います。」

「そうか?だがそれがなんなんだ!お前には関係ないだろ」

「関係あります。……僕は中原さんが好きです。だから、振り回すのはやめてください。とばっちりを受けて可愛そうです」

「なるほどねぇ〜、だが断る」


 そう言って和ちゃんは、またゆっくり歩き出した。田中君はそれ以上何も言えなかったが、和ちゃんを睨んで立っていた。

 驚いたのは私だった。いきなりの告白。今までそんなこと言って来た事も無いし、感じたこともなかった。


「田中君、ありがとう。ごめんなさい」


 何故かお礼と謝罪をしたくなって言葉がでた。謝りは和ちゃんの態度に対してだったけど、告白された後にごめんなさいはいただけない。悪いけど、お断りしますみたいになってしまったのだ。

 田中君は案の定、下を向いて首を横に振った。



    ♡    ♡    ♡



 和ちゃんが夕飯後家にやって来た。


「まあ、足大変だわねー」

「はい、でも明日ギブス取れるんで」

「そう、良かった。咲ーーー!和ちゃんだよぉ〜」


「どうしたのぉ?」

「もうすぐサッカー部の引退試合なんだよ」

「え?知ってるけど……、和ちゃん出れるの?」

「明日ギブス外れるから出れるよ、てか、出る!」

「うん、無理しないでね」

「引退試合に応援に来るもん この指とまれ」

「ん〜、最後だから行く」


 私はそう言って指にとまった。



 引退試合の日。ギブスの取れた和ちゃんは黄色い声援を浴びながら頑張っていたが、やはり足が思うように動かないようでミスが多かった。

 相手側に先制点を入れられ、前半が終わった。


「よし!身体が温もった!本気出していくぞっ!」


 和ちゃんが大声で皆に叫ぶと、また黄色い声援があがった。

 本当に前半とは打って変わった良い動きをみんなはしていた。

 1点和ちゃんが決めると士気があがった。

 加えて1点をフォワードが決め試合は終わった。

 大きな歓声に応えるようにチームみんなは手を振った。

 晴々とした顔をしているみんなを見ていると、自然に涙が溢れた。

 これで和ちゃんのサッカーをしてる姿は最後だと思うと、余計に涙が溢れてポロポロと流れた。


「何泣いてんだよ」


 和ちゃんは頭をクシャクシャして、とてもいい笑顔で立っていた。


「和ーーー!!打ち上げ行くゾォ!!」

「俺、パスするわ」


 みんなに引っ張られながらも和ちゃんは断り続け私の所に走ってきた。


「なんで行かないの?」

「今日は咲と帰るんだ。さ、行くぞ」


 和ちゃんはそう言うとスタスタ歩き始めた。遅れずについて行く。


「またいつかサッカーしたいなぁ」


 呟くように青空を見上げながらそう言った。


「出来るよ、きっと」


 私も青空を見上げて祈るようにそう答えた。


「鬼ごっこするもん この指とまれ」

「ん?」


 とまったけど、なに?ここで?私が意味がわからず立ちすくんでいると「お前鬼な!」そう言って走って行った。


「待ってよう!運動部と文化部の違いあるでしょ!追いつけないって」


 ノロノロと走る私を楽しそうに見ながら和ちゃんは走っていく。


「たまには運動しろっ!」


 息を切らしながら走って家に着くと「よくやった!」そう言ってまた頭をクシャクシャした。



    ♡    ♡    ♡



 初冬になると三年生は大学受験で大変な時期になって来た。和ちゃんも志望校目指して頑張っている。

 今日は図書室の貸出当番だった。本を借りなくても、三年生はここで勉強する人は多い。

 私は図書室が好きだった。印字の匂い、シンとした空気、整理された書棚。日が当たらないように、少し薄暗い空間。

 ここにはいろんなストーリーが溢れている。深呼吸したくなるような晴れた日の牧場や、大好きな人を亡くした悲しみや、動物とのふれあいや、時代を超え一気にタイムスリップなんかも出来る。

 感動のクライマックスを、そっと小さな本たちは秘めながら、自己主張することなくひっそりと棚に並んでいる。

 私にとって本は人生の指針であり、親友であり、愛すべきもの。宝の山だった。



「今日は中原さんと二人でだね」

「あ、田中君。この間は……」

「その話はもういいよ」


 そう言うと田中君は私の前に立った。


「中原さん、メガネ外してみて」

「えっ……」

「僕は中原さんのメガネ好きだけどさっ。でも外した方が可愛くて好きな人もいるかもよ?」

「いいよ、私……可愛くないし」

「そう言わず、ほら」


 そう言うと、田中君は私のメガネを外して微笑んだ。


「やっぱりね!目がクリクリしてまつ毛が長い。メガネを取るとそれが強調されるんだ!」


 田中君はとても満足そうにそう言った。


「……返して」


 私は田中君からメガネを奪い取り、慌ててかけた。下着姿を見られる位、とても恥ずかしかった。


「坂本さんに見せた事ある?」

「子どもの頃はメガネしてなかったから……。でも最近はないよ」

「見せてごらんよ。好きなんだろう?坂本さんが」

「えっ……」

「頑張って!」


 そう言うと田中君は返された本を沢山持って、本棚に入って行った。

 何故か私は清々しい気持ちになった。田中君のいっぱいの優しさを、いただいたような気がしていた。




 家に帰って母を呼んだ。


「なあに、大きな声ねぇ」

「ただいま!私いい事思いついちゃったんだぁ〜。クリスマスに手編みのマフラーあげたい!それからその時にコンタクトレンズにしたい!」

「まぁ、誰にあげるの?」

「もちろん和ちゃん!」

「咲は小さい時から変わらないのね。一途なのはパパ似かしら」

「教えて!マフラーの編み方」

「クリスマスってすぐ来ちゃうけど、大丈夫?」

「うん、頑張る!」



 その日から不器用な私と母の編み物教室が始まった。母には言ってないけど、クリスマスに告白をするつもりだった。田中君にエールをもらったおかげかな。


「棒針は無理よ。かぎ針編みにしなさい」

「どれくらい編むの?」

「1m50cmあればいいわね」

「うへぇ、そんなに編むの?!」


 練習用の毛糸はボコボコに編まれ、穴も開いている。本当に不器用だと自分で思った。

 何とか形になり慣れて来た。毛糸屋さんにいきアイボリーの毛糸を買った。これからが本番。

 マフラーを選んだ私はバカだったのかと思うほど、ひたすら編んでいかなくてはならない。


「ママ、失敗してやり直してたらアイボリーが黒くなったよぉ」

「大丈夫よ。出来上がったら洗ってあげるから」


 普通の人の10倍時間がかかる。夜ベッドの中でくる日もくる日も編み物を頑張った。すべては告白をして前に進むために。



    ♡    ♡    ♡



 今日はクリスマス。コンタクトレンズも買って慣らしたし、マフラーも出来上がり可愛いラッピングもした。後は夕方の待ち合わせを待つだけだ。


「咲、おばあちゃんの所にケーキを持って行ってくれない?」

「いいよぉ〜。でも夕方までに帰るから夜ご飯は向こうで食べてあげられないけどいい?」

「うんうん、ケーキだけ運んであげて。あなたの顔を見たら喜ぶしね」


 雪がチラつく中、母の作ったケーキを持って電車に乗った。

祖母の家は電車で二駅先にある。



「おばあちゃーん、こんにちは!」

「おやおや、咲ちゃん。何だか女らしくなったね〜」


 おばあちゃんはコタツに入るように進めてくれ、温かいお茶を運んできた。


「そうだねー、今日はクリスマスだったね」

「そうだよぉ〜、はい、ママの手作りケーキ」

「毎年これが楽しみでね〜」


 そう言っておばあちゃんは大事そうに冷蔵庫に入れた。


「今夜はなに食べたい?」

「ごめんなさい、今日は約束があって……」

「あら、それは残念だね」


 そう言うとよもぎ餅を持ってきてくれた。


「こんなものしかないけど、お茶請けにお食べ」

「ありがとう!」

「本当にちょっと見ない間に女らしくなったよ、咲ちゃんは」

「そうかなぁ、自分ではわからないよ」

「そういうもんかも知れないねぇ。好きな人でも出来たかい?」

「えっ!」


 びっくりして、お餅を喉に詰めてしまった。


「図星だねー」


 そう言っておばあちゃんは笑った。


「どんな人だい?良い人ならいいねぇ」

「おばあちゃんの初恋はいつなの?」

「遠い遠い昔だよ、あれは中学時代だったかなぁ〜」

「早いね!告白した?付き合った?」

「お互いが好きだったんだよ。昔で言う相思相愛。でも告白は彼からで交際を申し込んだのも彼からだったよ。懐かしいねぇ」

「それがおじいちゃん?」

「残念ながら違うよ」

「そうなんだ。やっぱり男の人から告白されたいよねー」


 私は今日のことを考えて憂鬱になり、ゴロンと横になった。


「実はさぁ、おばあちゃん。今日の夕方ね、告白しようと思ってるんだぁ」

「そうかい、勝率はどれぐらいなんだい?」

「ん〜〜、わかんないから5分5分かな」

「わかんないのかい?相手の言葉や態度でわかるだろ?咲ちゃんを大切にしてるかとか、避けてるとか」

「大切にしてもらってるよ。幼なじみとしてね」

「それはどうかなぁ」


 おばあちゃんは含み笑いを浮かべて、言葉を噤んだ。


「でもでも、私の事を好きなんて考えられないんだぁ」

「じゃあ、今日はよぉく相手を観察する日にしたらどうかねぇ。タイミングが今って思ったなら、告白しなさい。まだって思ったらもう少し待ちなさいな」

「うん、私に分かるかなぁ〜」

「相手を観察して相手の出方を待つの。そんな時間も楽しいもんだよ」



 帰りの電車の中で、今までの和ちゃんの行動や言葉を思い返してみた。いつも和ちゃんに合わせて来たような気がするけど、からかわれたりウソつかれたり振り回されたり散々だ。

 なのにどこが好きなんだろう。考えれば考えるほど、分からなくなってきた。



 夕方になり、待ち合わせの公園にやって来た。雪がうっすらと積もる公園は、とても神秘的だった。


「よぉ!寒いのにこんな所になんだよ」


 少し機嫌が悪そうだ。そんなことなら分かる。観察観察、自分に言い聞かせた。

ベンチの雪を払い除けタオルをひいた。


「ごめんなさい、クリスマスだから」


 そう言って座ると、仕方なしに和ちゃんも座った。


「お前すぐ風邪ひくだろう?だから」

「和ちゃんはやっぱり優しいんだね」

「なんだよ気持ち悪いなぁ〜」


 そう言って照れていた。観察するといろんな事が見えて来るんだな。さすが、おばあちゃんだ。


「これ、クリスマスプレゼント」

「えっ……、俺用意してないぞ!」

「いいよ、初めから期待してないもん」


 和ちゃんは遠慮がちに受け取った。


「サンキュ!」

「開けて?」

「おぉ、って、えっ……」


 マフラーを出して広げ、すごく驚いていた。


「これって……」

「頑張って編んだんだぁ〜」

「すごいな!あぁ、あったけ〜」


 首に巻いて凄く嬉しそうにしている。こんな和ちゃんの顔初めて見たかも知れない。

 実は軽くあしらわれてしまうかと思っていた。予想に反した和ちゃんの横顔を見てると、何故か安堵と嬉しさで涙が溢れた。


「何泣いてんだよ!あったかいぞ!」


 そう言ってマフラーの半分を、私の首に巻いた。

 顔がくっつき和ちゃんの髪が触れる。吐息も聞こえて来るとドキドキしてきた。

 今なのかなぁ。今好きって言ってしまえばいいのかなぁ。


「あのね……、和ちゃん。私ねーー」

「よし!帰るか!これ以上いると風邪ひく」


 そう言ってマフラーを独り占めにして、ベンチから勢いよく立った。えっーーー!言えなかった……。

 意気消沈している私は、ベンチから立ち上がれない。せめてせめて、コンタクトレンズにした事だけでも伝えよう。ていうか、なぜ気づかないのかなあ。


「和ちゃん待って、私コンタクトにしたんだよ」

「うん、そうか」

「それだけ……?」

「可愛くなったって、言って欲しいのか?」

「いや、それは……」

「咲はメガネでもコンタクトでも、両方可愛いよ!いつも言ってるだろう」

「そんな言い方……、もっとなんか違う風なのを期待して……」


 私がボソボソ言ってる間に、和ちゃんはどんどん歩いて家に向かっていた。


「おい、帰らないのか?」

「もう少しここにいる」

「風邪ひくなよ!じゃ、ありがとう!」


 そう言うと帰ってしまった。冷たいのか優しいのか分かんないよ。おばあちゃんならどうしただろう。

 タイミングはあってたような気はするんだけど、まだだったのかなあ。

 涙の理由も聞かないし、人が話してるのに遮るし、もぉー嫌になっちゃった。


「きらいきらいきらいきらい和ちゃんなんか大きらい!」


でも、好き。



    ♡    ♡    ♡



 案の定風邪をひいてしまった。軽く落ち込む。


「まぁ、まだ熱高いわねぇ。マフラーも頑張ってたから、きっと疲れもあったのね。ゆっくり休んでなさい」


 母にそう言われると余計に落ち込む。



「よぉ!どうだ?」


 熱のせいで寝ていたみたいだ。寝起きの私の横に和ちゃんの顔があった。思わず布団をかぶる。


「受験控えてるから来ちゃダメだよ。伝染ったら大変じゃない」

「大丈夫!お前みたいにヤワじゃないよ。だけど、もう来れないかもな。勉強が間に合わないんだ」

「うん、わざわざありがとう」

「マフラーのお返しだ」


 和ちゃんの笑い声が聞こえる。布団をそっとめくり、目まで出してみた。


「咲、合格発表一緒に行ってくれないか?」

「ん?行っていいの?」

「うん、咲に恥ずかしいところ見られないように、頑張れるからな」

「指……」


 私がそう言うと、和ちゃんは黙ってこの指とまれをした。私も黙って指にとまった。


「一緒に行こうな」

「うん」

「その時はコンタクトにしてくれ。せっかく買ったんだろ?クリスマスだけじゃもったいない」

「うん」


 なんだか温かな和ちゃんの笑顔がそこにはあった。そうだった。私はこの癒しが好きなんだ。お兄ちゃんみたいな恋人みたいな、そんな優しさに包まれる空気が好き。




 合格発表の日、その日は春を思わせる暖かな風が吹き、柔らかな陽射しが注いでいた。

 二人とも緊張の面持ちで電車を乗り継ぎ、やっと大学についた。

 門をくぐると人だかりが出来ていたので、すぐに掲示板をみつける事が出来た。


「ここで待ってて」

「うん」


 和ちゃんの顔がこわばり、ゆっくりと歩いて行った。


「神様お願いします。和ちゃんが受かってますように」

 必死で目をつぶり手を合わせた。肩に手を置かれゆっくりと目を開けた。和ちゃんが笑ってない……、緊張が走った。


「せっかく来てくれたのにな……」

「ううん、そんなこといいよ」

「寒くないか?」


 出かける時と違って風が強くなり、お日様もなくなっていた。グレーの雲が空を占領し、また冬に引き戻した。


「少し寒いねぇ」


 私が言い終わる前に和ちゃんは指を立てた。


「俺の彼女になるもん この指とまれ」

「何よ急に?もうこんな時にからかわないでよ!」


 私は足をバタつかせて反論した。


「じゃ、言うな」


 和ちゃんは指を立てたまま、話し出した。


「俺は小さい頃から咲が好きだった。そう、今も変わらず咲が好きなんだ。俺シャイだからこうして面と向かって、想いを伝えられずに今日まで来た。クリスマスの日、咲が言いたかった言葉は分かった。でも、どうしても俺から言いたかったんだ。ごめんな」


 和ちゃんは時々俯き、頭をかきながら、本当に恥ずかしそうに話していた。


「大学受かったら、咲に告白しようって決めてたんだ」

「ん?受かったの?」

「受かった」

「何よ!そんな大事なことも騙して!」

「そう、それが俺。こんな俺でも付き合ってくれますか?」


 和ちゃんの指はそのまま。慌てて指にとまったら、冷たくなっていた。


「……はい」


 大学合格と思いがけない告白で、和ちゃんの指を掴みながら泣いた。そんな私を優しく引き寄せ抱きしめてくれた。


「咲、ありがとな。大事にするから。もう泣かさないから」


 私が頷くと顎に和ちゃんの冷たい指が優しく触れた。気がつくと唇が重なり、和ちゃんの優しさと温かさが乾いた心のスポンジを潤していった。




♪.:*:'゜☆.:*:'゜♪.:*:'☆.:*:・'♪.:*:・'゜END


最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます。お手数ですが、評価を正直にお願い致します。今後の執筆活動の参考にさせていただきます<(_ _)>

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