二話
始業式当日
今日は絶対にサキに謝ろう。
昨日からずっと緊張していた。
ついカッとなって怒ってしまった日のように、なかなか眠れなかった。
ただ謝るだけだ。
ただ、それだけだ。
いや、違う。
そんな軽い気持ちで謝ってはいけない。
そんなのは相手に失礼だ。
ちゃんと気持ちを込めて、謝らないと。
僕は、学校に着いた後も緊張していた。
「おい、お前何緊張してんだ?
たかが始業式だろ?気ぃ抜けよ。」
友人の紀伊が肩をバシッと叩きながら言う。
僕の現状を知らないで、よく言うぜ。
まぁ知らないのは当然か。
かと言って理由は言わないけど。
「これからのことを思うと緊張してしょうがねぇんだよ。」
嘘は言ってない。
理由なんてコイツにだけは絶対に言わない。
言ってなるものか。
あとでどれだけ弄られるか目に見えている。
「ほーん。
なぜ緊張してんのか詳しく教えて欲しいものだが、残念なことに時間切れ。
始業式の時間だ。」
そう言うと教室のドアを指差す。
すると担任が入ってきた。
「な?」
ドヤ顔でこちらを見る。
そんなことでドヤるなよ。
「テメェら、さっさと廊下並べ。
今日から高三だ。
下級生の見本になるような美しい整列で、体育館に行け。
分かったな?」
ギラリと目を光らせ、担任は言う。
担任は持ち上がりで高2と同じ人。
というか、相変わらず口悪いな。
よく辞めさせられないな。
「おい、返事はどうした。
聞こえないな。
分かったな?」
「「う、うっす。」」
全員威圧で怯んでる。
こんなんで、下級生に示しがつくのやら…。
体育館に入ると僕達以外誰も居なかった。
緊張感漂わせながら、どこぞの軍隊行進のように揃った整列で来たのに、見本になるどころか見せる下級生が居ないんですが?
「あ、悪りぃ。
お前ら今日から高三だったな。
上級生から順に会場入りするから下級生居なかったわ(笑)」
この野郎…ってクラス全員思っただろうな。
当然僕も思った。
さっき自分で『今日から高三だ』って言ったじゃねぇかよ!
「まぁ、こっから本番って事で。
下級生に示しがつくように美しい姿勢で座れよ?
ってことで担任はあっちだから。
じゃあな。」
くっそぅ。
鬼畜教師め…!
校長教頭絡みのストレスを僕達で解消してんじゃねぇだろうなぁ?
そんなことを考えていると、下級生がぞろぞろとやってきた。
まずは高二が。
それに続いて高一、中三と。
あの子は中二になっているはずだ。
もうすぐ中二が…きた!
担任にバレないようチラリと横目で見る。
しまった、何クラスか知らない。
まぁいい。
三クラスしかないから全部見てけば見つかるだろ。
まず、Aクラス…いない。
次、Bクラス…いない。
最後、Cクラス…あれ?いない?
見落としたか?
中二が座る方を見るがやはりいない。
今日は欠席か?
いや、あいつちっこいから隠れて見えないってのもあるか。
くっそ。
はやく終わってくれ。
モヤモヤが収まらないまま、始業式を終えた。
始業式を終え、教室に戻り担任を待つ。
早くHRを終え、中二の下駄箱に向かい出欠席を確認したい。
あれ、なんか女々しいな。
いや違う。
僕はこのモヤモヤを解消したいだけだ。
「さっきは緊張してたのに今度は苛立ってな。
生理か?」
コイツはなんで…ってか僕は男だ。
「あぁ、そうだな。」
まぁ、いちいち反応してやる必要もない。
僕はさっさと確認に行きたいんだ。
「なんか訳ありっぽいなぁ。
今でなくていいから後で聞かせろよ。」
そういうと足早に自分の席へと帰っていった。
チッ…。
いつも憎たらしいのになぁ。
勘の鋭いヤツめ。
「悪りぃ。
遅くなった。
今からHRを始める。
お前ら席につけ。」
やっとHRが始まったか。
おせぇよ。
何してたんだよ。
また上司に愚痴られてたのか?
結局HRが終わったのは十分後のことだった。
カバンも持たず僕は教室を飛び出す。
「あいつ…ホントどうしたんだ?」
紀伊はポツリと呟いた。
中二の下駄箱の前に着いた。
幸いまだ誰も帰っていない。
では確認しますか。
まずAクラス…全員出席、かつサキはいない。
全員出席か偉いな。
次、Bクラス…全員出席、かつサキはいない。
Bも偉いな。
ってことはサキはCクラスか。
では、Cクラスは…っと。
一人欠席で名前は『加納 咲』っと、これだ。
なるほど、サキは今日欠席か。
風邪でも引いたのだろう。
仕方ない。
また明日謝りに行こう。
さて確認も取れたし今日は帰るか。
明日こそはサキに謝ろう。
翌日、またサキは休みだった。
風邪が長引き休みだと思っていたが、それから三日経っても一週間経ってもサキは来なかった。
なぜサキが来ないままなのか彼女のクラスメートに尋ねたところ、彼女は始業式から無断で欠席中とのこと。
どういうことだ?
何かおかしい。
そういえば…うちの学校は特殊で、入学して最初の一年はいたって普通のクラス分けだが、二年生からは成績に応じて分けられる。
成績順にA、B、Cと。
そして以前からサキは、『二年生に上がったときAクラスじゃなかったら退学します。』と言っていた。
冗談だと思っていた。
でも、まさか。
冗談だろ?
そうだと言って欲しい。
でなきゃ謝れない。
あれから二日経過した。
やはり彼女は来ないまま。
授業後、サキとよく遊ぶというリナにサキについて尋ねた。
すると彼女は退学したと言った。
やはり、冗談なんかではなく本当だった。
僕は面と向かって謝る機会を失ってしまった。
あの日、その場ですぐに
『言い過ぎた。ごめん。』と言えばよかった。
たった一言、二言を僕は言えなかった。
すごく胸が痛い。
胸が苦しい。
後悔しても、もう遅い。
過ぎた時間は遡れない。
あの日にはもう戻れない。
まだ告白もしていない。
告白…?
ああ、そうか。
僕はサキが好きだったのか。
たしかにそうだな。
そこで僕は、彼女への『恋』と『失恋』を知った。