第7話。偶然と必然
やっとのおもいで森を抜けた。
道中漢方に使えそうな薬草を何本かありがたく頂いた。
本当ならば乾燥させ、白湯に入れ、薬を抽出したい所なのだが・・・その手立てが今はない。
仕方なくすり潰しても効果の出る物を少女の瞳に塗る事をしていたが、まだその瞳は開けないようだった。
一刻も早く街に着いて、瞳に私が受けたようなあの光を浴びさせなければ・・・
森を抜けた先は小さな村があった。
取り敢えずはそこで水を調達した後は、急いで街に向かうしかない。
「森は抜けたよ。村に着いた、一旦休憩した後また街に向けて歩こう」
「はい・・・ありがとうございます」
私のポケットには硬貨が数枚。
私は見た事もないがこの青年の記憶では知っている。
正直言って端金であるが、水程度なら買えるはず
これで飲み水と抽出に使う水の2つが手に入れば最高なのだが・・・
村に入ってすぐ道具屋に向かった。
村の中はあまり雰囲気が良い所ではない
荒くれ者が多く済むような土地である為、目を合わせずお店を探した
武器屋や道具屋、防具屋それ以外にも魔道屋と魔法屋が存在した
興味をそそられる・・・・・・・・・が此処は我慢をし、先ずは道具屋で水を調達しようと店主に聞いた所、水の値段はべらぼうに高かった。
「高杉では⁉︎」
「そう言われてもな?この辺りは見ての通り荒野水も無い。水は貴重なのさ?」
ちょっといけ好かない鼻の穴のでかい鼻に付くクソ親父・・・
人の足元を見て値段を提示してきやがった。
仕方なく今の有り金を全部出して、道中拾った武器や装備品を提示してなんとか水だけは確保できた。
追い剥ぎのような事をしていたのが幸いしたが・・・
私はその防具などは全て後で供養するために、頂いていたものだった・・・
少女の瞳を化膿させないためにはどうしても消毒能力と自己治癒能力が高い薬を飲ませる必要がある。
私は心の中で亡くなった人に懺悔を1人づつ10時間の祈りをこれから捧げる事を己に課した。
水は調達したので村を出ようとすると、村の出口の両端にガラの悪い男が2人佇んでいた。
私は何やら不安を抱えながら村の出口に差し掛かると肩を掴まれた。
「おう?にいちゃん。村に入ったら出るのは有料だぜ?」
「・・・?」
「そりゃぁなぁ?外は危険に満ちている。その中で安全を提供してるんだ。当然の事だろう?」
確かに妥当だが・・・不当でもあった。
べらぼうに高い水、更にほかの武具もほぼべらぼうに高い金額設定をされていた。
私はこれでも前世色々な職業を点々としていたため、鉄の良し悪しから骨董品の良し悪しまで目利きが効く。
この世界がどうなのかは知らないが、あまりにも全てが高いのは道理が通らない。
よほどこの国が貧しいとしか思えないが、此処で暮らしている人間はみんな肥えている。
そうなるとやはりボッタクリで不当であり、村に来る人間を騙しては金を揺すっているというのが妥当な所だろう。
「金は無い。先を急ぎたいのだが?」
「怖いもの知らずなにいちゃんだねぇ?金が無いのなら女を置いて行け。俺たちが売ってやるよ」
「それも無理だ。今出せるのはこの薬草だけだ」
「は?この雑草が薬草⁉︎笑わせるな!!!」
胸ぐらをつかまれて、今にも強烈な握り拳を食わされると思い、歯を噛み締めていると、後ろからあの・・・馬車に乗っていた黒いヤツがガラの悪い男に金を投げつけた。
「あ?なんだてメェ?」
「こりゃぁ豪華な荷馬車だ!」
黒いヤツは私の事と荷馬車、馬、そして自分の事を指差して最後に硬貨を指差した。
恐らく全部含めての料金ということなのだろう。
だがガラの悪い男達はそれでは満足せずに、集りを始めた。
黒いヤツは2倍の料金を提示したがそれでも満足せず、脅し恐喝を始めたが、黒いヤツは荷馬車に乗り込むと馬を歩かせ始めた。
黒いヤツは私を荷馬車の中に入るように指示すると、ガラの悪い男達はカトラスの様な武器を腰から抜くと私めがけて走り出した。
私は少女のお尻を強く掴むと、死に物狂いで走った。
荷馬車の扉は閉じているが構わない、そのままぶち破る覚悟で突撃すると、ぶつかる寸前に扉がひとりでに空いた。
私が顔から荷馬車の中へと飛び込むのと同時に、扉は閉じられ無音の世界へと変わったのだ。
荷馬車の中は真っ暗で全く何も見えない。
先ずは少女が背中にいることと安否の確認をしていると、光を帯びた球体が私の目の前に飛んできたーーーーー。
「初めまして。私はクロードフォーク・エルベンハイム・シュタイツ・ゲーテです。適当にクロードとお呼び下さい」
タキシードを見に纏い、長いマジシャンズハットを被り、顔には覆面をしているその男性は見るからに怪しさが漂っていたが、私には味方になってもらえる確信があった。
根拠は何1つ無いが、そう一目見て確信できたのだ・・・
「取り敢えず席にお座りになってください。お水は如何ですか?」
私は先ほど購入した水を取り出して少女に与えようとしたが、クロードがそれをやめさせた。
「あの村の水は飲ませないほうがよろしいですよ。不純物が多すぎます。私も買ってから気づきまして今荷馬車の後ろで浄化中です・・・。こちらを・・・毒など入っていないので」
クロードは優しく変わりの水を手渡してきた。
先ずは私が毒見に為に水を飲むとほのかなシナモンの香りが花を抜けた。
クロードの顔を見ると、不敵に仮面の奥で笑みを浮かべている気がした・・・。
まさかハメられた⁉︎
私が少女に水を与えずに硬直しているとクロードが口を開いた
「大丈夫ですよ。中々その水の匂いに気づく方はいらっしゃらないのですが・・・。浄化するにあたって私が使う薬で匂いが付いてしまうのです。かなり敏感な方で無いとお気づきになられない・・・のですがね」
「心配なら先ほどの村のお水もお返し致しますが・・・?」
「疑ってすまない。ありがたく使わせていただきます」
先ずは半分を少女に飲ませる。
だが少女はうまく水が飲めない様で殆どを口からこぼしてしまった。
瞳の痛みが激しくなっているのか表情もあった頃より大分、苦痛に歪んでいる。
水の残りに服で土を拭い取った根や葉をちぎったり、押しつぶしたりしながら、水の入った皮袋に浸し込んだ。
「・・・少しお話しをよろしいでしょうか?」
「はぃ・・・」
私も流石に何日も水を口にしていない為か喉が枯れ始めてしまい、声が掠れて出てこなくなっていた。
それに気づいたクロードは、新しい水を用意してくれた。
勿論シナモン臭が鼻を抜けた
「お話とは?」
「あなたのその根や葉の生薬の事です」
「これがお分かりで?」
「私も最近になって、毒草を薄めると薬になる事を発見したのですが未だ実用化出来ていないのです。あまりにもその薄める境目が狭すぎて私では毒にしか・・・」
「先ほど貴方が見えまして、それを提示していたのでもしや・・・と思いましてね。私と同じ考えの持ち主かと思いまして、お話を聞きたく・・・」
「・・・・・・」
「いえ、無理なら無理に話さず」
「あぁ、私もまだこの薬草の事については詳しくはまだ分かっては居ないのですが、数種類だけは恐らくですが、生薬のまま使うことが出来る事は分かっています」
私は青年つまり私自身が、持っていた風呂敷の中にたんまりと入った、薬草を広げて見せた。
クロードはまず薬草という意味が分からない様で、そこから説明が始まった。
更に私が見せた雑草は全てが毒草とクロードは言う
私の知識では毒草では無いのだが、葉やその実には猛毒が含まれているだけ
知識があれば全く怖くなく、むしろ薬として作用するものばかりだと思っていた。
クロードと知識を擦り合わせていくと若干の違いはあれども私の薬に関しての知識は、ほぼ通用するようで安心した。
だが慢心しないように先ずは実験を重ねることが重要だとも気づかされた。
もう1つ重要なことがわかった
この世界の人間には、この薬草は治癒魔法よりも遥かに高い治癒能力を持つ事が・・・。
「貴方は何者ですか?ここまでや・・・薬草の事について詳しい方は貴方以外には居ません!どこでこんな知識を⁉︎」
「それは長年の研究ですよ。少し失礼します。連れに薬をそろそろ飲ませたいので・・・」
「薬?先ほどの水ですね?それにはどんな効果が?」
「効能と言います。」
「効能・・・???」
「はい、この水には消毒能力が高い根と、免疫力の強化を図る葉がすり潰して入っています。消毒能力はそのまま目に掛けて使えるほど高いのですが、飲んでも然程実害は無いです。その代わり寒気や、震え、怠さなどが副作用として現れるのです」
「副作用・・・???」
「効能は効く能力と覚えて下さい、副作用は薬の効果とは別に働く、負の効果です。一時的なものなのであまり気にする事は無いです」
「なるほどなるほど・・・。私達は魔法に頼って生きていますが、治癒魔法にも限度がございます。貴方のお連れさんの瞳のような酷いものは治癒魔法でも治せません」
「⁉︎」
「今なんと!!!」
「大丈夫です。貴方の薬程の効果があれば治癒魔法で治せるほどには回復するでしょう」
「戦闘で死ぬ死者が未だ増えています。それをなんとか私はしたいのですが・・・実用化には・・・。そんな時に貴方にあって、これは本当に奇跡です!」
「クロードさん、この世に奇跡は無いです。全ては必然。クロードさんが強く願い、私が強く願い引きあったからこそ、出逢えたのです。」
「・・・なるほどです」
「貴方も・・・あの信仰者ですか・・・残念です」
私達はあの黒いヤツに扉から引きずり降ろされた。
クロードは唾を吐き捨てるように、仮面の奥から睨みを効かせてきた。
私には何を言っているのかさっぱりわからない。
だが今のクロードには何を言っても理解して貰えるはずなど無かった。
そのままクロードは荷馬車を走らせ街のある方角へと走り去って行った。