69次元 叛逆の楔 ト導よ牢籠に
今日は、今回は割かし良い具合に書けたと御満悦な-Sare-です。
最近は余次元に行っていない様な、と言う一抹の不安を覚えつつ今回もハチャメチャやります。
そして此も最近言った許りなのですが、やっと昔書きたかった話が書けたぞと言えるストーリーですね。
書いている当初は筆が乗るとどんどん長くなるので具体的な書き上げ具合が分かっていなかったのですが、案外スッキリ終わった感じです。
一寸読み終わった後微妙に嫌な感覚が残る様な話になっていたら良いなと思いつつ(最悪な予告)、目まぐるしく始まる今回も御楽しみいただけたらと思います!
皓を壊せと声がする。其は彼の塔の地下深くから
幽風に乗り、旻に広がり、世界に満ち、其は轟く
其でも未だ届かぬか、此の戒めの先より
応え、応えよ聞こえるのなら
俺様は此処に居る。此処から世界全てを睨め付けて
何時か俺様を踏み付けた彼の神の頭を踏み潰す其の時迄
・・・・・
「今日は本当に綺麗な月霄だな。」
―噫、嫌な予感しかしない新月だな。―
丗闇の軽口につい苦笑してしまう。本当に彼女は全て御見通しだ。
店の前でセレは一つ大きく伸びをした。幽風もない本当に静かな霄だ。
澄んだ漆黔の旻には細く一本の曦が差す。
彼が今宵の水鏡なのだろう。其の僅かな曦を浴びる丈で、自分の中で魔力が渦巻くのを感じる。
そして広がる闇が自分に付き添う様に流れて行く。曲がらず、真っ直ぐ一本の線となった水鏡が、まるで道標の様だ。
今宵は、誰も店を訪ねて来なかったな。
正確には此処数日か。あんなに来ていた霄の訪問者がパタリとだ。
恐らく未だ落龍の詠の関係で手が回せていないんだろう。
だったら・・・好機か。
魔力に懐いが反応してか疼くのを感じる。武者震いに近い感覚かも知れないな。
―・・・行くつもりか。―
「噫、邪魔だとは思っていたからな。・・・クルスティード尖塔を潰しに行くぞ。」
―本当に単身で乗り込むつもりか。―
「矢っ張り一柱の方が動き易いしな。其にやりたい事もあるし。」
―止めはせんが、我は手を貸さんぞ。―
「分かってるって。丗闇をテロリストにはしない。」
飽く迄自分の勝手だ。自分の目的の為に潰すのだから。
―・・・終に光の国に手を出すか。一度始めたらもう引っ込みは付かないぞ。―
「そんなの、もう既に始まっているだろう。遅かれ早かれだ。」
随分と丗闇は渋っているな。まぁ前も然う言っていたしな。
ライネス国を攻めると言うのは、大きな波乱を呼ぶ行いだ。丗を乱すのは間違いない。
でもだからって此の儘なあなあで済ませる気はない。何方かが滅ぶ迄終わらないって言うなら然うする迄だ。
クルスティード尖塔は一応一度入ってはいる。彼の時はアティスレイに導かれたけれども、上ろうとしたらしっかりガルダに止められてしまったからな。
彼処の兵自体は可也減らしていると思うが、只真直ぐ攻め込む事しか知らない、数で押して来る奴等だ。
其でも楪やルーズだとか、厄介な奴も度々送り込まれたんだ。気に入らない所なのは間違いない。
危険なのは分かっているが・・・だからこそ一柱で行きたいとは如何しても思えてしまう。抑が敵国だから全てに於いてリスクが高いのだ。
最悪潰せなくても良い。大きなダメージでも入れて再起不能にしてしまえたら良いのだから。
攻め過ぎず、一手を入れられれば戻る、帰る事を念頭に置いて動いてみようか。
今一度大きく波紋を広げると、セレはレリーシャ=ガーデンに向け飛び立った。
―・・・御前は彼の塔が如何言った所なのか分かってるのか。―
「ん、然うだな。ガルダからも色々聞いたが、警備と言うか治安維持が主な役割の所らしいな。だから軍みたいなのも置かれていたりするが。」
だからこそ先に落としたい所はある。そんな所が機能しなくなれば嫌でも国は傾く筈。
「只問題は・・・其処の長が中々曲者らしいな。滅茶苦茶に勁いとガルダに念を押されたな。」
確かもう真の姿に成ってる神で、凄く大きくて正義やらに厳しいとか・・・。
負ければ自分は即処刑されるだろう。そんな所だな。
―其丈分かっていても行くのだな。―
「ククッ、丗闇そんな渋らないでくれ。分かってる、分かってるよ。端から見たらなんて滑稽な襲撃だって。其でも、此以上引っ張るのもな。」
生き急ぐ訳ではないが、頃合いではあるのだ。そろそろ・・・此方も動かないと。
見えていない丈で此の世界は大きく動こうとしている。其の見えない波を乗り過ごしそうで。
分かる。此以上奴等に猶予を与えてはならないと。だから・・・行くんだ。
翼を翻して一気に凱風を受けて滑空する。其処から翼を畳んでスピードを付けて一気に下がる。
・・・?今何か波紋を掠めた気がしたが。
少し翼を傾けて留まるが、動きはない様だ。
―如何した。何か心配事があるなら戻る可きだぞ。―
「いや、只の魔力の揺らぎだろうし、心配してくれているのは丗闇じゃないか。」
―心配しているんじゃない!前面倒に巻き込まれたのに又繰り返しそうだから釘を刺している丈だ。―
そんな直ぐ怒らなくても・・・つい苦笑を漏らし乍らも翼を広げる。
もう直ぐ着きそうだな。すっかりゲートに世話になっているが。
「然うだな。もうあんな姿には成らない様善処しないと。」
―成った途端死が待っていると思え。―
「違いないな。噫恐ろしい恐ろしい。」
―・・・別に茶化している訳じゃないんだぞ。―
一寸不満げな丗闇の声だが仕方が無い。
笑いでもしないとこんな事出来ないんだ。適度に肩の力を抜かないと。
「・・・っ、」
波紋が捉えた影に思わず急ブレーキを掛ける。
いや、見間違いじゃなかったか。
「セレ、何処に行く気なんだ。」
然う声を掛けられ、止まってしまう。
傾いでいた翼を伸ばし、緩り降り立った。
「・・・ガルダ。」
振り返り、しっかりと其の姿を認める。
・・・間違いなくガルダだ。でも、如何して此処に、
思わぬ不意打ちに唾を呑み込む。
波紋は問題なく広げられていた筈、特に店の方は注意していたんだ。
ガルダが動けば、絶対に気付けた。然もこんなに尾行されていたら間違いなく。
其なのに如何して自分の後ろに居られる。
彼の背には、皓の翼がはためいていた。此処迄飛んで来たであろう事は想像に難くない。
そして此のタイミング、自分の行動に絶対の確信を持った上で斯うして姿を現した。
良くないな・・・焦っていた訳じゃなかったのに。
兎に角、質問には答えないと。彼とは然う向き合わないといけないんだ。
ガルダもじっと自分を見詰めていた。絶対に逃す気はないと其の目が語っている。
そんな自分を狙う目なのに、不思議と彼のは見詰め返すのが苦じゃない。皓くて優しくて、
・・・本当、とことん私は此の目に弱い。
「・・・レリーシャ=ガーデンだ。其処へ行くつもりだったが。」
嘘や誤魔化しは失礼だろう。彼だって検討がもう付いているから斯うして出て来た。
此が散歩だとかそんな可愛らしい外出ではないのはばれている。
「フェリナの所だよな。何で其処へ行くんだ?こんな霄に。」
「・・・・・。」
言いたくない、と言うのが一番の答えになりそうだが、流石に隠せないな。
大丈夫、言い難い丈だ。其の後の事について考えたら溜息の一つでも出そうだが、でも、
「ゲート、使う気だったんだろ。」
「・・・噫。」
堪え兼ねてか先に言われてしまった。此じゃあもう如何仕様もない。
彼の目は変わらずだ。より鋭くなったりしない辺り、全て予想通りなんだろう。
こんなのは、只の確認だ。
だったら、斯うして詰められて行く位なら、先に自分からばらす方が未だ誠意は伝わるだろうか。
「正しくはクルスティード尖塔、彼処に行くつもりだったんだ。」
流石に此処迄話すと彼は眉を寄せた。・・・余そんな丗闇みたいな渋面を作って欲しくないのに。
―ほぅ、然う言うなら我からも一つ物申してやろうか。―
あ、御免なさい。何でもないです。出しゃばりました。
「一柱で行くつもりだったんだな。御茶会って訳じゃないだろ。」
「噫、高くて目障りだからそろそろと思ってな。」
「当分は行くなよって言ったと思うけど・・・。」
小さく溜息を付かれるが、此許りは仕方がない。彼が喜ばないのは分かり切っている。
「もう頃合いも良いじゃないか。攻め落とすチャンスだと思うが。」
「矢っ張り落とさなきゃ駄目かセレ。」
「其は勿論。彼処の所為で死に掛けたりしたんだぞ。此の儘小競り合いを続けたら何時か絶対潰される。」
「っだったら・・・っ、いや、・・・良い。」
咄嗟にガルダは口を開いたが、直ぐ噤んでしまう。
彼を遮るつもりも抑え付けたい訳でもない。言えずに苦しそうな顔をする位なら言って欲しいけれども。
・・・私が言えた事じゃあないか。
「何だガルダ、遠慮する事はないだろう。」
「いや、良いよ。本当に・・・今言う可き事じゃないのは分かってるから。」
然う言って俯かれてしまった。・・・然う言う様子が一番堪えてしまう。
無くしたと思った罪悪感が芽を出す様な。うっかり死にたくなる嫌な心地だ。
「セレが言いたい事も分かってるつもりだけど、でも・・・。」
「私も、ガルダが言いたい事は分かっているつもりだよ。」
ガルダなら、自分が一柱で行こうとする理由も全て御見通しなんだろう。だからこそ、渋っているんだ。
自分なりに考えて取った行動だから、此が最善と判断してしまっているから。
其を如何取る可きか、自分の後悔の無い選択を。
「・・・はぁ、行くなって言うのは簡単だけど、前みたいな事は勘弁って言うのは俺も一緒なんだよ。」
互いに確かめる様に言葉を紡いで行く。
分かっているが、互いが取る手段が違うのだ。何処に重心を置いているのか。
拗れたくはない。其でも・・・譲れなくて。
「セレ、此処は互いに妥協しようぜ。此処で俺が無理矢理連れ帰ったって意味はないだろ?だから・・・俺も一緒に行く。」
「・・・え、」
思いもしない提案につい固まってしまう。
妥協だなんて、と思った所で此は・・・、
一緒に、クルスティード尖塔へ行くと言うのか。其が条件って事か?
・・・確かに手放しには喜べない。妥協と言うのは其の通りか。
其でもこんな、危険な事に変わりない選択を彼が選ぶなんて。
何か裏があるんじゃないかとつい疑ってしまう。如何しよう、疑いたくなんかないのに、自分に優しいとつい、
「セレ、フリーズしてるぞ。」
ガルダもたじたじになってしまい、そっと尋ねて来る。・・・いや、惚けている場合じゃない。
「クルスティード尖塔に・・・ガルダも行くのか?」
「然う言ってるじゃないか。」
苦笑されてしまう。面白くない様な変な心地だ。
でも彼がこんな状況で冗談を言う訳もないし、本気なのだろう。
だから余計、混乱するんだが。
「一緒に戦ってくれるって事で良いのか?」
「俺丈只付いて行って見てる丈ってのはおかしいだろ。」
そ、然うだけれども・・・。
如何しよう、変な事ばっかり言ってしまう。
しっかりしろ自分、こんな事で動揺していたら足を掬われてしまうぞ。
「一体如何言う風の吹き回しなんだ?てっきり前みたいに俺を倒してから進めみたいな、無理難題吹っ掛けて来るかと思ったが。」
「いや前も然うとは言ってないけど・・・。」
でも似た様な物だ。的確に自分の苦手なやり方を突いて来る。
「でもそんなやり方じゃあ納得はして貰えないだろ。俺だってセレが納得してくれる形でやりたいよ。無理矢理従わせたいとか、弱味握ったりとか、然う言うのしたくないだろ。」
「其は・・・勿論だ。」
「じゃあ俺も一緒に行く。俺が居るなら、セレだって捨て身な事は出来ないだろ。一緒に戦うから、俺の為にも選択を誤って欲しくないんだよ。」
「・・・・・。」
此がガルダなりの歩み寄りか。
然うだ。確かに彼と一緒なら、自分の最善は形を変えてしまう。
でも其は必ずしも、悪い事ではない気はした。
「・・・分かった。其じゃあ御願いしようか。私もプランを変えるから。」
「あ、然うしてくれると助かるな。如何するつもりなんだ?」
途端ガルダは破顔して頷いてくれた。
うん、此の歩み寄りは悪くない。此の妥協なら自分も出来る。
只一つ丈如何しても確認はしないといけない事があるな。確認と言うよりは・・・覚悟。
「其でガルダ、一つ丈先に聞かせてくれ。今回私がしようとしている事は・・・褒められた事じゃないだろう。御前に否定されるだろうし、嫌な懐いもさせると思う。其でも・・・付いて来てくれるか?」
「凄く嫌な聞き方するな。そんなの、気にするなって言いたい所だけど。」
小さく息を付き、ガルダは言葉を選んでいるみたいだった。
「でもセレがそんな事をするのは、セレの為にならないんじゃないかって俺は思うから内容次第、かな。」
飽く迄も自分の為か。ガルダらしい答えだけれども。
此はまぁ保険だ。今迄ガルダに見せなかった姿を、見せる可能性が出て来るから。
自分の事は如何想ってくれたって良い。只其で彼に傷付いて欲しくないんだ。
自分が害する側に回る事なんて、あって良い訳ないのだから。
「・・・分かった。有難う答えてくれて。其なら今回の目的を話そうか。塔其の物は、今回は潰さない。情報収集とか其の辺りに切り替えたいと思うんだ。」
「あ、然うなんだ。其なら良いと思うけど。」
明らかにガルダが安心するのが分かる。まぁ危険の少ない手段に切り替えたからな。此方は此方でやりたかった事だし、妥協としては丁度良いだろう。
「先あんな言い方するから、一体何するのかと思ったけど。」
「其でもやる事はやるぞ。私は彼処で会いたい奴が居るんだ。」
「え、会いたい奴・・・?クルスティード尖塔にか?」
不図ガルダの脳裏を過ったのは一柱の神。
楪・・・然う言えば最近会ってないけど、元気にしてるのかな。落龍の詠の事もあったし、大変だとは思うけど。
うーん、そっか。彼方で会ったら流石に戦わざるを得なくなるなぁ・・・出来れば其は止めたいけど。
「ソルニア・ソルレオだ。彼処の地下深くの牢に居るんじゃないかと思ってな。」
「あ、えっと其奴って確か、昔ライネス国で暴れたって言う・・・。」
予想外の名前に少し声が上擦ってしまう。聞き覚えはある名前だけど・・・。
「然うだ。Aや榔から聞いたが、其奴はクルスティード尖塔の長と戦って捕まったんだろう?じゃあ色々と知って然うだと思ってな。」
「な、成程・・・じゃあ其奴の脱獄を手助けしたりするのか。」
「脱獄、ククッ、ガルダも言う様になったな。」
ガルダにしては物騒な言葉だ。でも強ち間違いじゃあない。
「う、抑侵入とか襲撃とか他にも物騒な事随分して来たしさ。」
「まぁな。うん、脱獄させる、其で良いと思うぞ。」
「そっか。でもどんな奴か分からないぞ。出したからって仲間になるとも限らないし、メリットがそんなあるか如何か。」
「然うだな。其についてはまぁ・・・大丈夫だ。だから先ずは接触して、情報を聞き出そう。」
「分かった。其ならまぁ良いかな。見付からずに行けたら大丈夫そうだし。」
「噫、スマートな侵入を心掛けたいな。そして奴を出したら、一先ず此処迄逃げるって事で。」
「・・・分かった。其なら行こうぜセレ。」
然う言って頷く彼の眼差しを見て分かる。
屹度彼は・・・今回の真の目的迄は気付いていない。
情報収集こそが序での目的だと。
でも、今は言わなくて良いだろう。彼に其処迄強いたくはない。
「因みに気になっていたんだが、一体如何やって此処迄来たんだ?波紋に全く写らなかったが。」
「あ、噫其はその、一寸丗曦に協力して貰ったんだ。」
苦々しそうに彼は頭を掻いた。其にしても意外な協力者だ。
「丗曦に?一体如何して。」
「御前が何処かに行ってるのを気付いたみたいでさ。俺に付いて行く様言って来たんだよ。波紋は多分丗曦の術とかでカバーしたのかな。」
「そんな繊細な術も使えたのか・・・。」
自分の波紋は魔力に因る物。其に写らない様にしたと言う事は、其の波紋の波に同調して魔力を放ったか、若しくは波紋を相殺して馴染ませたのだろう。
彼の一瞬感じた揺らぎ、彼で気付ければ良かったけれども。
斯う言う事も出来ると言うのはしっかり肝に銘じていよう。目視でない分、此の手段を使われると目の前に堂々と居ても気付けない訳だ。
流石に然うなったら他の五感に頼るだろうが、一つの感覚丈に全て頼るのは危険だな。
「本当にセレは気付かなかったんだな。其は其で恐ろしい話だけど。」
「然うだな。注意して置かないと。でも然うか、丗曦がな・・・。」
そんな形で手助けをしてくれたと言う訳か、ちゃっかり見られていたんだな。
自分が霄に一柱で出て行くなんて・・・まぁ監視の対象にはなってしまうか。
まさか丗闇みたいな御目付け役が二柱になるなんて。自分より上位の神の分、対策は厳しいだろうし。
―そんなに監視されたいなら毎霄術で縛って捨て置いても良いんだぞ。―
せめて其処は放し飼いにして貰いたい。
別に年端も行かない子供とかじゃないんだから、其位の自由は欲しい所だ。
そして肝心の丗曦は黙みたいだけど・・・まぁ其以上は関わるつもりはないのかな。
取り敢えず気になったから動いてくれたとか・・・うん、そんな風に心持が変わったのは悪い事ではないと思う。
「分かった。其じゃあ長話したら折角の霄が終わってしまうし、早速行くか。」
事前にフェリナへ話は付けていたが、ガルダも来るとは伝えていなかったから驚くかもな。
二柱は翼を広げると、薫風を受けて舞い上がるのだった。
・・・・・
「ルラ、セレさん来まし・・・ルルっ⁉」
詠い乍ら吃驚するとは、中々特異な芸を見せてくれたフェリナは、勢い余って水中へ潜ってしまった。
「色々あってな。ガルダも一緒に行く事になったんだ。」
「そ、然うだったんですか・・・う、う、慣れない事なのでルル、慌ててしまいましたね。驚いてしまって御免なさいガルダさん。」
「いや、そんな事は全然。」
上体を起こし、祈る様にフェリナは手を合わせた。
実際今の彼女が行っているのは塔の長として重大な違反行為なのだろう。緊張しているのも頷ける。
抑斯う言った事を表立ってする様な神じゃないんだ。長になっている丈で、割かし平和主義な。
まぁ自分なんて邪神に手を貸していたら、然う擁護する事は厳しいだろうが。
大きなゲートを前に、少し息を整える。此処を潜ればライネス国だからな。気は抜けない。
“・・・ん、おぉ、今回はガルダも一緒なのか。”
ゲートの向こうから声がする。波紋を通せば一頭の狼の姿が浮かび上がった。
「あ、噫・・・まぁな。」
“然うか。二柱共クルスティード尖塔へ行くんだな。”
「然うだ。一寸予定とは変わったが、目的地は一緒だな。」
“今は・・・悪くない。彼処は今色々ごたついているみたいだからな。事件とかも起きて、兵が分散している。”
「事件?何かあったのか。」
榔は割合自分達の活動には積極的だ。表立って動けない分、情報を斯うして寄越してくれる事がある。
彼の期待にも応えてやりたい所だがな。
“然うだ。En078△▽大聖堂で、大賢者と呼ばれた神が二柱、暗殺されてな。警備に問題があったんじゃないかってクルスティード尖塔は結構駆り出されているみたいだ。”
「暗殺・・・穏やかじゃないな。其に大賢者って何だ?」
知らない情報が一気に来たな。有り難い話ではあるが。
こんな分かり易いチャンスが巡って来るとは。
“大賢者は、ライネス国を古くから支えていた神だ。今は二柱丈居たんだが。”
「其は結構な上役じゃないか。そんなのが殺されたと。」
ライネス国内に居れば少なくとも安全だと思ったが、然うでもないのだろうか。
抑暗殺って・・・自分達以外にもそんな行動を取っている者が居るのか。
不思議な感覚だが、知らない勢力と言うのは気になるな。
“上役と言ってももう城の管理を出ているから暗殺した所でとは思うが、其でもこんな事は初めてだったから其処其処話題にはなったんだ。”
「然うだったのか。因みに犯神は?是非とも気になるが。」
“ん、其は・・・分かっていないな。詳しい事は私も知らないんだ。”
榔は何処か伺う様な姿勢で此方を見遣るが・・・はて、自分は本当に見当が付かないと言うよりノータッチだからな。
其にしても犯神は逃げ切れているのかも知れないのか、ライネス国に入り込んで中々大胆じゃないか。非常に興味深いが。
「・・・然うか。分かった有難う。又何か続報でもあったら教えてくれ。」
“勿論だ。本当に君達が出てから此の国は色々と動き出している気がするな。まるで息を吹き返したみたいに。”
「息の根を止めようとしているの間違いじゃないか?」
“フフ、何の道妙な高揚感と言うか、私の血が騒ぐのを感じるんだ・・・。呪いが悍まっている様な。”
「ル、ルル!其は大丈夫ですの榔!」
何処か誇らしそうに胸を張る榔に向け、ぴったりとフェリナはゲートに近付いた。
“噫いや、大丈夫だフェルナーデ、只、私も何かしたい様な、そんな熱を感じるんだ。”
確かに今の彼は初めと比べて生き生きしている様に見える。
モフモフも・・・良い具合だ。時間が許せば幾らでも顔を埋めたいのに・・・。
「然う勢い込んでくれるのは嬉しいが、無理はしないようにな。御前達は普段通りにすると言うのも大切な事だぞ。」
大事な自分達の隠れ家なんだ。存分に頼りにしているのだから。
“分かってる、分かってはいるが・・・むむ。”
そわそわと榔は忙しなくゲートの前をうろうろと歩いていた。散歩でもしたら落ち着くかも知れないが、塔内じゃあ満足に走る事も出来ないだろう。
“・・・然うだ。折角だからガルダよ、戻って来たら少し丈話を聞かせてくれないか?”
「え、あ、俺丈、なのか・・・?まぁ良いけど。」
“噫、出来ればで良いから。・・・さ、ゲートを使うんだろう。二柱共気を付けてな。”
然う言うと榔は大きく一つ尾を振った。・・・其にセレが飛び付く形でゲートを潜ってしまったのは、まぁ御約束みたいな物だろう。
・・・・・
「あ・・・案外すんなり中に入れるもんだな。」
余り意味はないと分かりつつも、背を丸めてガルダは進む。
「ん、噫、前来た時に地理はある程度把握していたからな。」
二柱は早くもクルスティード尖塔、其の地下へ侵入していた。
クレイド§スフィアを出て直ぐ、セレは隠れる様に目的地へ進んだ訳だけれども、行き成り地面を掘り出した時は如何しようかと・・・。
唖然と只見守る形になってしまったガルダの前で、セレは地面に向けて零星を投下したのだ。
あっと言う間に音も無く穴は広がり、覗けば吸い込まれそうな立派な穴が口を開ける。
・・・今思い返しても余りに鮮やかな手口で有無を言わさず彼は付いて行く丈の形になっていた。
何て言うかやり慣れてる。一応、ライネス国の塔の一つだってのに。
然うして穴へ飛び込んだ二柱は、石造りの無骨な部屋へ到着したのだ。
格子も掛かっていたので一見で牢だって分かったけれども、こんなドンピシャで当てられるなんて。
格子もさっさとセレは零星で斬ると、ずんずんと通路を進み、現在に至る訳だ。
余りにも上手く行き過ぎて恐い。セレの様子からして兵は近くに居なさそうだし、一寸聞いても良いかな・・・。
「えっとセレ、一体如何したのか教えて貰っても良いか?」
「ん、噫、此の辺りには本当に誰も居ないな。質問は受け付けるぞ。ガルダは飛び入り参加だからな。」
彼女の浮かべる不敵な笑みについ安心してしまう。此処迄は彼女にとって予定調和なのだろう。
「地理とか、良く分かったなって思ってさ。前あんな余裕なかったと思ったのに。」
「噫、其はアティスレイの御蔭だな。前私を導いてくれたアティスレイが、地図みたいなのをイメージで遺してくれていたんだな。」
「地図・・・えっとそっか。地下にも其奴が捕まってたんだっけ。」
彼の瞳の化物を懐い出す。外にも中にもアティスレイが居るって変な感じだけど。
「然うだ。そして彼の時通った道筋は魔力の跡と言うか、形が残っていたんだ。其に此処に居たアティスレイの記憶も、少し丈流れ込んで来たな。」
妙な感覚だった。喰らった所で記憶は受け継がない物だろうに。
其とも彼はアティスレイだから為せる術だったのだろうか。存在が不安定で夢である彼奴の。
「記憶?其って若しかして其奴が此処に来た時のって事か?」
「噫、だから状況は分かり易かったよ。後は狙いを付けて一気に潜れば出られると言う訳だ。此処は上の塔の大きさと比べて異様に大きいしな。」
そんなに中に入っている訳でもないのに牢丈延々と続いているのだ。
無駄としか思えないが、如何してこんなに牢ばっかりあるのか。塔と言うより最早此は監獄だな。
でも御蔭で入り易かった。広過ぎる所為で隠れる所も大いにあるし、巡回も十分とは言えない。此の儘奥迄突っ切りたい所だ。
「後は念の為魔力達に声も掛けているから、妙な術や罠もある程度は防げている筈だ。」
「・・・用意周到だなセレ、まさかそんな準備してたなんて。」
「いや、未だ甘い所は多いぞ。他にも兵の巡回経路や時間、規模や予定とかも抑えたかったが・・・。」
流石に時間も手も足りなかったからな。余り探りを入れてもばれるだろうし。
だから其処は魔力達と補うしかないと諦めた。其の上で今回の作戦だ。
前皐牙達と行った次元、其処に居た龍のリンカーネアが使っていた力。
魔力の干渉と言う可きか、次元の魔力を歪めて他者の術を発動し難くしていたが、彼をヒントにさせて貰ったのだ。
能力として申し分ない効果だったからな。魔力達に頼んで似た状況を作れないか試したのだ。
結果は・・・上々と言った所か。流石に彼奴程広範囲をカバー出来なかったが、波紋の届く範囲内に其を敷く事が出来た。
此の御蔭で、大胆にも穴を開けて侵入したが警報の一つも鳴らない。魔力系の探知能力が失われているのだろう。
此の調子であれば、今後見付かっても連絡を入れたりだとかテレパシーは使えない筈、手早く始末して進めば。
通路を駆け抜け、頓下を目指す。
ガルダも警戒をして何度か見遣るが、問題はない。的確に兵の居ない道を選べている様だ。
此の様子なら、最奥迄行くのは然う難しい事ではなかったかも知れない。つい、セレ一柱でも問題なく終わらせていたんじゃあ、と思ってしまうが。
・・・いや駄目だ。セレはプランを変えるって言ったんだ。つまりは此以上の事をしようとした訳で。
其こそ塔を壊す様な。準備をしていたとは言え、単身でそんな事はさせられない。矢っ張り付いていないと一体どんな大事を起こすか分からないんだ。
然う考えを巡らせていると突然セレの足が止まった。
「セレ、如何したんだ。あ、若しかして見付け、」
「っガルダ下がれ。」
咄嗟に身を屈めたガルダの前にセレが立つ。
そして纏っていた零星を前方へ走らせた。
「ッギャァアアァアッ‼」
其丈で少し離れた先から声が響き渡る。つい背が震えてしまった。
い、今のは、然う顔を上げた所で見慣れない塊が目の前に転がっているのが目に入った。
其は・・・石竹色の、少し表面がぬるぬるしてそうな塊で、気味悪く見えてしまうが。
「矢張り魔力の影響を多少は自分も受けるか。でも此位ならば。」
じっとセレが見据えていた先の壁が変化する。
其処は只の石の壁の筈だった。だが其の石が歪み、動き出す。
「っな、か、隠れてたのか。」
ズルズルと其の壁が動き続けたかと思うと、立ち上がり更に歪んで行く。
まさか此・・・模様だ。壁に何か張り付いて擬態していたのか。
「殺気を感じて初めて気付くなんて。未だ未だ自分も甘いな。」
一つ息を付く。・・・が、問題はない。此の辺りに他の兵は居なかった。
普段の波紋であれば気付けた程度の擬態だが、流石に魔力を乱している今の環境では精度が下がるな。
「っぐぅう・・・本当に俺は、嫌な物ばっかり見ちまうな。」
然うして姿を現したのは、一柱の神だった。
灰色だった躯は塗り替わる様に鮮やかな水色へ転じる。全身滑らかな鱗に覆われ、ぎょろりと目が飛び出した。
手足は細長く、張り付いていた壁から順に離して行く。
此の姿は蜥蜴、否カメレオンに近いか。
一度身を震わせると目元の甲が逆立ち、警戒する様に揺れていた。
「・・・魔力は乱れているから応援は呼べない筈、此の儘始末するぞ。」
ちらとセレが視線を寄越し、零星を並べる。
相手は苦々しそうに口元を押さえていたけど、まさか此の塊って・・・。
嫌な答えに行き着き、思わずガルダは口元を押さえた。
まさか斬ったのか・・・奴の舌を。彼の一瞬で見えない乍らも攻撃を察知して。
「黙って行かせてくれれば御前には気付かなかったかも知れないのにな。」
ざわ、と流れる様に魔力が揺れる。獲物を前に舌舐りしている様な。
落ち着け、殺す事に全力になるな、今回は飽く迄も潜入が目的だ。
術は解かない様に。余り自分が集中してしまうと魔力達も流されてしまうからな。
「・・・、そんなのは俺の正義に反する。其に御前丈は逃しはしない。」
然う言う奴の目は・・・鋭かった。まるで何かの意志が宿る様に。
・・・?何だ此の黔い懐いは。
さっさと殺せば良いのに。其の懐いに惹かれる。此は精霊としての性だろうか。
・・・喰いたい、其の心が欲しくて。
実際、こんな状況でも奴は引いてはいなかった。
今の動きを見るに、別に出来る兵と言った様子じゃない。其でも臆せず自分の前に立てるのは一重に其の懐い故か。
何だ、御前の目には此の化物が如何写っている?
思わず疼く牙を押さえる。・・・早速狩ろうか。
「楪を殺しやがった化物めっ!」
—————っ、
無い筈の心臓が跳ねた気がした。
此の感覚、此の懐いは、
知っている。此の目も色も、私は・・・、
「・・・え、」
反射的にガルダは口を開いてしまった。
そして時が止まった様に其の先へ進めない。
あ・・・あ、此の、懐いは、
自分を中心に二つの懐いが駆け巡る。此の背徳感、焦りにも似た心地は苦しい筈なのに。
如何してか・・・笑みが、隠せない。
「其って・・・何だよ、何の話だよ。」
其の時になって初めて向こうもガルダの存在に気付いたのか顔を上げる。
途端其の眼光は又鋭くなった。
「何を・・・惚けた事を。俺は知ってる、見たんだ。御前達が彼奴を誑かして、そして・・・そして、容赦なく殺したじゃないか!」
「噫然うだ。私が殺したよ。」
「セ、セレ・・・、」
ガルダの目が縋る様な其に変わって自分の背に向けられる。
・・・話す事はないと、思っていたのにな。
「落龍の詠の時だな。私の邪魔をするから殺した迄の事。そんなの良くある事だろう。」
只の一柱の兵だ。明確な敵だった。
「邪魔だと・・・彼奴はずっと、御前達の所為で苦しんで、其の仕打ちが此かっ、」
「・・・随分御前は知っている様だな。一体何処迄知っているんだ。」
少し、興味を持ってしまった。此の懐いを良く見てみたいと。
強引に求めてしまっている。
分かっているのに。此を繰り返せば・・・彼を傷付ける事に屹度なるって。
「も、若しかして俺達と居たの・・・ばれてたのか。其で何かされたとか、」
僅かにガルダの声が震えた。段々と其の事実を理解しようと。
危うい奴だと思っていた。でもまさかもう彼奴は、
「噫然うとも。一緒に彼の化け物と戦っていたじゃないか。利用する丈してそして、」
「・・・まさか、御前が密告したのか。」
途端奴の背が伸び、一歩下がった。
先迄あんな鋭い目をしたのに、其が刹那濁ったのを見逃さない。
「御前が言ったのか?彼奴が私達と手を組んでいると、だから彼奴は拷問される羽目になったんじゃないか?」
「セレ、一体・・・何の話してんだよ。」
「っ仕方ないじゃないか!彼は重大な違反行為、赦される訳がない!でも彼奴なら・・・大丈夫だと。屹度真直ぐな奴だから、ちゃんと道を誤らずに戻って来てくれると信じて、」
「然う言訳をして奴を売ったんだな。」
何て言訳がましい。まるで責任を嫌う人間みたいじゃないか。
何て言い繕おうと御前のした事は変わらない。
でも其を悪とは言わないぞ。其が御前にとっての正義だったんだろう?信じていたからこそ、売ったのだろう?
・・・其の結果が、こんな未来になるなんて露知らず。
然うか。此が懐いの正体か。
噫何て冥くて深い、醜い心だ。
全て、私の所為にしたいんだろう?此の最低最悪な化物に押し付けたいんだろう?
だったら、然うすれば良い。全て吐き出して、そして・・・、
私と同じ所へ堕ちろ、喰らい、一つになる迄、
「御前が告げ口なんてしなかったら、彼奴はもう少し位長生き出来たかも知れないな。」
「っ煩い!殺した奴が、抑御前なんて居なかったらっ!」
噫懐い丈で動く奴は何程楽か。
其の衝撃の儘に全て呑まれ、失い、形すら曖昧になって。
策なんて、無かったのだろう。真直ぐ其奴は自分に向け飛び掛かる。
手にした刃は何て心許ないか。其の鋒を目で追うよりも先に。
自分の牙が、其奴の頸を捕らえた。
「あ・・・がぁあぁああっ!」
踠いた所で何も出来はしない。
其の懐いも血も肉も存在も全て、奪ってやる。
途端零星は絳黔く染まり、奴を取り巻いた。
抱く様に手を回す。其は獲物を逃さない為。
撫でる様に翼が傾ぐ。其は獲物に喰らい付く為。
然うだ。此の形こそが私が唯一与えられる物。
暴れる躯を無理矢理押さえる。そして一気に喰らい付いた。
仄かに甘い血を流し込み、肉の、其の内へ牙を立てる。
鱗があろうと関係ない。そんな物は零星が削ぎ落してくれる。
其の下の生々しい血の滴る其へ。遠慮なく喰らい付いた。
先迄喚いていた其が肉塊になる迄然う掛からなかった。大人しくなってくれて、じっくり味を確かめられる。
少し腥く思うのも、硬い筋を噛み千斬るのも、生きている証に思えて心地良い。
生きていると主張する其の躯は疎ましいが、其が今から自分の手で壊せると思えば。
神一柱平らげるのに大して時間は掛からない。
彼の黔い懐いも自分の中へ堕ちて行く。不思議な心地だ。如何仕様もなく醜い其が内側を満たして行く感覚。
ほう、と一つ息を付いた。喰らい残しはないか六つの目で確かめて。
神一柱にしては随分と腹持ちが良い気がする。矢張り懐いの悍さと言うのは大事なのかも知れない。
だが睨む目が未だ、喰える物があると自分を誘う。噫、未だ残っているじゃないか。此の懐いは、
視線を巡らし、上げた所で・・・ガルダの姿を捉えた。
忘れた訳じゃなかった。でも、此の懐いの正体に気付けなかった。
此は・・・食べてはいけない。此の懐いは、ガルダの物だ。
此以上彼から奪う事は赦されない。自分は然う迄して在りたくは、
何重にも自分の中で暗示を掛け、ようやっと解放される。
長く、深く息を付く。彼に此の目を見せない様に。
・・・大丈夫、彼が同行する時、決意しただろう?だから確認したんだろう?
こんな一面を隠す気はない。ばれるのは仕方が無いと。
だから・・・後は向き合う丈だ。
「何て事は無かったな。一応、ガルダも大丈夫だな。」
「・・・うん、大丈夫、だけど。」
彼の顔色は悪かった。何もされていないのは事実だろう。でも、自分が傷付けた。
そんな顔をさせない為に隠していたのに。否其なら抑彼奴を殺す可きじゃなった。
分かっていて、此の道を選んだのは自分なんだから。自分の事しか考えなかった結果なのだから。
「セレ、でもその・・・詳しく聞かせてくれないか。何があったんだ・・・。」
「楪の事だな。移動し乍らで良いなら話そうか。」
念の為より深く波紋を飛ばすが・・・もう本当に誰も居ない様だ。
本当はこんな所で話す可きじゃないのは分かっているが、こんな気持を抱えた儘ガルダも居たくないだろうし。
悩ませてしまう位なら、吐き出させた方が良い。
足を進めると、ガルダもそっと付いて来た。此の儘もっと奥、深い所へ行かないと。
「落龍の詠の時・・・って言ってたよな。何があったんだ?」
「噫、ガルダも入ったと思うが、彼の時此の塔に大きな穴があっただろう。彼は、真の姿に成った楪が開けた穴だったんだ。」
其処から掻い摘んで事実丈を伝えた。
非常にシンプルな話だ。塔の奴等に密告され、拷問された挙句、真の姿に成って自分に返り討ちに遭う。
たった其丈、背景を知った所で何も価値なんて無い様な話だ。
けれども自分は、言えなかった事があった。
話せたのは事実丈、だが其処に付随した懐いは・・・語れない。
如何して自分は彼奴を殺したか、其の真の意味を。
敵だったから、邪魔だったから、ある意味其は間違いじゃあないが。
本当に其の文字通りの意味であったなら、もっと上手くやれたじゃないか。・・・そんな声が耳奥でする。
然うだ。自分が彼奴を殺した理由はもっと別の所で・・・寧ろ、そんな理由は都合の良い隠れ蓑でしかない。
・・・最初から、殺す気だったのだから。
噫考えない様にしていたのに。途端にどす黔く凍える此の内のうねりは何だろう。
其こそが御前の正体だと、突き付けられる様で。
否定も、肯定も出来ない。妙な蟠りが未だ残っている。
「・・・分かったセレ、話してくれて有難な。」
ガルダは、終始無言で聞いていた。其の果てで吐き出された一言に、自然と安心する自分がいた。
此の黔い物は出さずに済みそうだと分かって、卑怯にも安堵しているのか。
ずっと波紋で背後の彼の事は見続けていたけれども、然う受け入れはしたのか足取りは元に戻っている。
一見であれば・・・問題なさそうな、そんな様子だけれども。
未だ下へ降りられるな。そろそろアティスレイが居た檻から下がるか。
「セレ、若しかして落龍の詠の時、腕無くしただろ。彼って・・・楪がやったのか?」
「如何して然う思うんだ。」
選りに選って、何故其処を聞く。
彼奴が唯一自分に刻んだ一撃、もう傷跡しか残っていないが。
「何となくだけど、相手が楪じゃない限り、彼処でセレがあんな大怪我する事ないと思って。」
「別に、彼奴はそんな勁くなかったぞ。」
「いや、然うじゃなくて、屹度セレなら・・・楪だって気付いて、でも殺さなきゃいけなくなって、其で・・・。」
「私が迷ったとでも言いたいのか。」
迷ったから、隙を突かれたと。一撃入れられたのではないかと。
其は・・・違う。自分をそんな舐められちゃあ困る。
彼の場でそんな迷うなんて日和ったら、其こそ生きて帰れなかった。常に速やかに決断しないと。
「・・・違うか?だって彼奴も迷ってたから。セレの事、本当は違うって、勘違いしてたんじゃないかって。」
其の通り、彼奴は迷ったから死んだんだ。
自分と彼奴の決定的な違いは其処だ。迷えば殺される。簡単な話じゃないか。
「噫然うだな。だから彼奴は私に殺されたんだ。其丈だろうガルダ。」
腕を失ったのは、迷った所為じゃない。
彼は罰だ。自分勝手な道を選んだ自分への。
私を止めようと踠いた、彼奴の一撃だったんだ。
でも、死んだら意味なんて無いじゃないか、死ねば、御前が刻んだ決死の一撃だって斯うして捻じ曲げられる。
自分の中丈に真実は収めて、懐いの無い事実丈を伝えて。
然うして醜く私は生き残って来たんだ。
「然う・・・だな。うん。」
一度も彼は自分を責める事なく然う頷いた。
屹度、彼だって気付いたんだろうか。其の奥の懐いは何となく。
でも其毎全て受け入れる。然う彼は貫くつもりなんだろう。
・・・自分なんかを選んだが為に、辛い丈って分かっているのに。
「・・・俺、何だ彼だ言って、余計な事しかしてないな。」
「っ、」
思わず立ち止まり、反射的に振り返ってしまう。
其の一言は・・・聞き逃せないと、奥に刺さる様で。
「如何して、如何してそんな事を言うんだガルダ。」
彼は一度目を瞬かせたけれども、苦笑を返した。
そんな、諦めた様な顔は・・・見たくない。
「屹度セレが此処に一柱で来ようとしたのも、俺の為なんだろ。俺に背負わせたりとかしない為に、前の戦いの時でも、もっと前でも、其こそ前世でも。俺もセレの為に頑張りたいって色々して、でも結局全部セレを苦しめちゃってるんじゃないかって、」
「そんな事・・・無いっ!」
つい声を荒げてしまって慌てて口元を隠した。
・・・自分が揺れて如何する。此処が何処か忘れたのか。
でも、其でも此は黙っている訳には行かないだろう。
違う。否定しないと。其の懐いは御前が抱いちゃいけない物だ。
つい舌舐りしそうな心、噫分かる。自分は苦い程味わったから。
此が・・・絶望だと。
未だ僅かにしかしない。でも此の鼻は、目は、敏感に感じ取ってしまう。
求めてしまいそうな色だ。其こそガルダのだったらどんなに。
でもいけない。其は手を出したら終わりの感情だ。
違うんだ。そんな物を抱かせる為に彼を誘ったんじゃない。
嫌だ。血肉丈じゃなく、そんな物迄欲したくなるなんて。
「違う、ガルダ丸っ切り違う。ガルダ、如何して私が此処に居るか、忘れないでくれ。御願いだから。」
じゃないと私は・・・如何なる。
私の存在は、何になるって言うんだ。
っ・・・本の些細な、小さな疑問を抱いた丈なのに。
分かる。自分の奥に・・・小さな罅が入ってしまう事が。
此は、表に出してはいけない。彼に丈は悟らせない様に。
其の代わり、言わないと。形にしないと。繋ぎ止める此の鎖を断ち斬らない様に。
「私はガルダの願いの為に居る。在る事を望んでくれたから、だから、私も其を叶えたい。同じ願いを・・・持っていたい。」
嘘偽りのない懐い、此は御前にしか向けられない。
如何すれば御前に伝わる。御前に此を残せるか。
「ガルダも分かっているだろう。存在するって如何言う事か。只在れば良いか、否そんな訳じゃない。そんなのは・・・形丈で、あってもなくても同じだ。だから御前が願ったのは、そんな形じゃないだろう。」
ガルダは僅かに目を見開いて、じっと自分丈を見ていた。
聞こえているなら、届くなら、如何かと願わずにはいられない。
此は、不器用な化物の詠なのだから。
「私は只ガルダにそんな顔をさせたくない。そんな事を考えさせたくない。懐って欲しくない、違うか?私丈か、然う懐っていたのは。だから私は行動した、選択した。其を・・・ガルダが否定しないでくれ。」
喉が熱くなる。慣れていないんだってはっきり分かる。
其でも言わないと。何度だって確かめ合って行かないと。
「セレ・・・有難う。」
つい、波紋が彼へと集う。
其の目を・・・私は知っていたから。
淡く済んだ、でも深くて冥い皓。
私は其の色を、忘れた事はない。
「別に礼を言われる事なんて。」
「俺に真剣に答えてくれてるってちゃんと分かったからさ。・・・有難う。」
然う言われてしまうと、何も言えなくなった。
彼の目を見詰める事も憚られる位。
本当私は・・・如何して、
彼が近付けば恐れ、離れれば引き留める様な真似をして。
噫面倒で、煩わしくて、だから私はこんなにも生きるのが苦手だ。
「然うだ。然うだよな。セレ大丈夫、俺も忘れてないよ。否定する気も勿論ない。御免な、一寸情けない事言っちゃったけど、もう大丈夫だから。」
「いや、又何時でも話し合えば良いだろう。私も、其の方が良い。確かめ合った方が安心するから。」
「うん、御免な。足止めちゃって。行こうセレ、俺も頑張るからさ。」
肩を叩かれ、小さく頷いた。
其の言葉なら、信じて良いだろう。屹度彼には正しく伝わったって。
だったら良かった。又其の笑顔を見られたなら。
「然うだな。もう少し降りる事になりそうだから、気を付けて行こうか。」
彼が今ので少しでも吐き出せたなら良かった。あんな物を抱えた儘こんな事に巻き込んだりはしたくなかったから。
波紋をより強く広げて、セレ達は奥へ誘う闇に足を進めるのだった。
・・・・・
暫く歩き続け、階段を下りた所で景色が大きく変わる。
今迄は只の石牢が続いていた丈なのに、長く廊下が伸びていた。
牢の代わりに壁が迫るとより息苦しさを感じるな・・・。
「此処丈、何か造りが違うな・・・?」
「噫着いたぞ。最下層だ。」
一応此処の直前の階段前には兵が居た。動く様子が無かったのでさっさと片付けたが、如何やら当たりみたいだな。
騒ぎにはなっていない。此処迄良い調子だ。恙無く来れている。
念の為、道中の牢は片っ端から見ていたが、目当てと思われる奴は入っていなかった。だから恐らくは・・・、
まぁもう既に此の世界から去んでいる可能性は否定出来ないが。
其だったら空振りになってしまうが・・・でもガルダと話が出来たから全くの無駄とは言えないだろう。寧ろ収穫があったと言う物だ。
屹度此の塔の中、敵の根城内と言う状況がガルダの彼の懐いを吐き出すのに必要だったのかも知れない。
石の廊下を進み、遂に行き止まりに差し掛かる。
其処には一つの扉丈が彳んでいた。
そっと触れると拒絶の、意志の様な物を感じる。
・・・此は術か。厄介な様だが、逆に此がある事が確信を生む。
此の先に・・・奴が居ると。
「セレ、如何だ?」
「何らかの術が掛かっているな。鍵は掛かって無さそうなのに開かないな。」
「封印系かもな・・・俺も見てみようか?」
ガルダも前へ出て取っ手を握ってみる。
すると僅かに魔力が過るのが見えた。・・・成程、此が術か。
「ん・・・結構しっかりした術だな。一つしか掛かってないみたいだけど、此何のタイプだろ。何らかの特定の動作と言うか、然う言うのをしたら開くっぽいけど。」
「入口の奴等を片付けたのは早計だったか。」
どうせ口を割らないと思ってさっさと殺してしまった。念の為消える前に持ち物検査はしたが、目ぼしい物はなったからな。
鍵とかカードキー其の程度に考えてしまっていた。然うだな、此処は次元の迫間なのだから自分の知らない鍵があっても不思議じゃあない。
「如何だろうな。多分此、長い事動いてなさそうだし、ずっと放置されてる術っぽいな。だから若しかしたら普段使ってるのが別にあると言うか、此方じゃない別の入口とかあるかも知れないけど。」
「成程、表に居たのは出て来る奴が居ないかチェックしていたに過ぎないと。」
波紋で中を見る事も出来ないし、さて如何しようか。
丗闇に頼ってみるって手もあるが・・・余り彼女を動かす可きじゃない。
彼女は此処を壊す事も乗る気じゃあないし、無理強いはしたくない。
であれば・・・壊すしかないが。
「分かった、有難うガルダ。じゃあ無で手っ取り早く壊そう。」
「う・・・まぁ然うだな。其が早いか。」
一番静かに実行出来る方法ではある。周りの魔力はすっかり歪められているので、ばれ難い筈だ。
動かない物相手ならやり易い。一応零星を一つ導にして、其処を起点に小さく無を発動させる。
此で扉毎術は壊れる筈。不思議な丸い穴が扉を刳り貫いて出来上がった。
「お・・・おぉ、結構すんなり開いたな。」
「噫、其に問題は此処からだしな。早速中に入ろうか。」
刳り貫いた穴から中へ入って行く。即座に波紋を広げて全てを知覚する。
其処は・・・余りにも広い大部屋だった。
一見では牢とは思えない。でも其の中心に確かに認める物がある。
「・・・っ、セレ、彼だな。」
ガルダが息を呑み、足を止める。そして自分の前に出てじっと身構えていた。
其処にあるのは幾重もの鎖、部屋中から伸ばされた其は、部屋の中心で絡まり合っていた。
楔も部屋中に打ってあり、此方は魔力の鎖と言う可きか、其が張り巡らされている。
此の部屋其の物が牢と言う訳だ。たった一柱を拘束する為の。
此の一つ一つから別の力を感じる。恐らく色んな次元や世界の魔術が埋め込まれているのだろう。
此の波紋の前では異様な魔力の塊として写る。
全てが集い、一つの大きな術を構築している様。まるで巨大な蛇か何かが塒を巻いて蹲っているかの様な。
楔一つ一つ、鎖一本一本が鱗として生きている。波打ち、曦を返す様に。
そんな七色の見えない蛇の様に見え、つい魅入ってしまう。
何処となく過る物、其は丗闇の封印だろうか。
彼女の封印は二回解いて来たけれども、其もこんな具合だった。
でも彼はちぐはぐで滅茶苦茶で、こんな風に整ってはいなかった。
此の中心に・・・奴は居るのだろう。
こんな雁字搦めにされて、息すら満足に出来ない様な心地で生かされた。
此処で何百年、否何千年か・・・そんな途方もない時間をずっと・・・。
波紋もより綿密に飛ばす。奴の真の姿を捉えようと。
・・・見付けた。
鎖の檻の中心へ・・・そして、
一つの目が、開かれた。
「・・・誰だ。御前等は、」
「っ・・・。」
低い声、其が鎖の中心からして。
其丈で、気圧されそうになる。此の声に逆らってはいけないと。
まるでアルマ・カルマの牢獄の長、セルフィカと相目見えた時みたいな感覚。
然うか、此が・・・畏怖の力か。
血の様に絳い瞳が、鎖の檻から覗いていた。
こんな所に繋がれて猶濁らず、鋭い敵意を孕んだ目だった。
見られている。自分達の存在を知覚したのか。
ちらとガルダが自分を見遣る。出方は任せると言う事なんだろう。
さぁ、後は如何話をするかだが。
「私は次元龍屋のセレ・ハクリューだ。此方は仲間のガルダリューだ。御前はソルニア・ソルレオで間違いないか?」
「・・・噫久しいな。そんな名で呼ばれるなんて。」
腹の底から凍える様な冷たい笑い声が響く。
姿ははっきりとはしない。だが其の声丈で圧倒的な存在感が伝わって来る。
・・・確かに此奴は大した神の様だな。此丈縛られていても未だ力が漏れているのか。
Aが褒めていたのも頷ける。異常に干渉力の勁い神だと言っていたしな。
「然うだ。俺様はソルニア・ソルレオ、此の国をぶっ壊す大罪神だ。」
「未だ其の意志は鈍っていない様だな。」
はったりの様には聞こえない。本気で然う願い、信じている奴の声だ。
其の真の目的は何であれ、斯うもはっきりライネス国を敵に回せる奴は然う居ない。
「御前等、聞かねぇ名だが此処の連中じゃあないな。何をしに来やがった。」
「御前と同じ目的で此処に居る。」
「ク・・・クク、ギャハハハハッ!然うか、遂に俺様の懐いが世界に届いたか!」
「世界に・・・?何の事なんだ。」
「何だぁ御前等、干渉力位は知ってるだろうが。俺様の其は丗を変えるのも容易な程なんだぜ⁉だから俺様はずっと此処で願っていたのさ。此の国を滅ぼす様にずっと世界に訴え続けて来た!」
激しく鎖を鳴らす音が響く。
其と絶え間ない笑い声。其が谺して此の牢を埋め尽くす。
ソルニア・・・一筋縄には行かない奴だろう事は想像に難くなかったが、中々強情な奴だな。
まぁ然うでなければ単身で攻め入ったりはしないか。其の豪気さは買うけれども。
只・・・先の言い方は少し気に入らないな。
「御前の干渉力の高さは認めるが、少なくとも此処へは私達の意志で来たんだ。決して御前の導きじゃあないぞ。」
「ククッ、然うかい。だがそんなのは此の際何方でも良いだろ。同じ目的ならやる事は一つだ!違うか?俺様の力が必要なんだろう⁉」
「セレ・・・、」
ちらとガルダが視線を寄越す。
少し心配そうな色だ。其の考えは最もだけれども。
でも、大丈夫だガルダ。自分だってちゃんと考えては来たのだから。
「噫、御前の力が必要だ。だから・・・協力して貰おう。」
「協力ぅ?勿体振りやがって。さっさと言ってみろ。」
絳の瞳が、真直ぐ自分達を捉える。まるで試す様に嗤っているみたいで。
例え上位の神だろうが自分は怯まない。正面から交渉してやる。
其の為の力が、此の精霊としての力なのだから。絶対の契約で同じ土台に立ってやる。
「御前と取引がしたいんだ。私達は今から御前を其処から出してやる。其の代りに御前の知っているライネス国の情報を吐いて貰おう。」
「ハッ其位なら幾らでも話してやるよ。何なら塔壊すのも手伝ってやろうか!」
おお、此は中々威勢が良いな。
「然うか、其は頼もしいな。じゃあ契約と言う形を取らせて貰っても良いか?」
「ハッ、精霊みたいな事言うな。何でも良いからさっさとしやがれ。」
あっさり同意してくれたのは有難い。此方の身の安全を護りたかったからな。
「分かった。じゃあソルニア、御前が此の国の情報を寄越す代わりに、私達は御前を外へ連れ出そう。」
宣言する。其丈で自分と奴に見えない鎖が繋がれる。
・・・良し、後は此を実行する丈だ。
「情報自体は皆で無事此処を出てからで構わない。私達は共同戦前を張ろうか。」
「噫良いぜ。じゃあ何でも良い。早く此の鎖を壊してくれ!一つでも壊せれば後は出られるんだ。」
一点の綻び、其が欲しいのか。其丈で此の牢獄を抜け出せるなんて流石だな。
「其だったら、一つ位直ぐ俺解除出来るぜ。良いか、セレ。」
「噫頼んだ。」
小さくガルダは頷くと、足元にあった楔へ手を伸ばす。
途端、楔に罅が走り、砕け散った。
「噫・・・やっと自由だぁ‼」
同時に響き渡る大声に大気と地が震える。
自分の波紋すら押し返す様な魔力の放流が起こり、渦となった魔力の刃が縦横無尽に放たれる。
魔力を乱しているのにこんなに動けるのか・・・此の辺りの力の差が激しいな。
余りの荒れ具合に巻き込まれて吹き飛ばされてしまいそうな程だ。
そんな力が荒れ狂う中、次々と鎖は千斬れて行った。
呆気なく千斬れ、ぼろぼろになり、魔力のうねりに掻き消されて行く。
此が・・・ソルニアの力、干渉力の為せる業か。
・・・っ、
身構えた一瞬、其の魔力の渦から飛び出した影が真直ぐ自分の元へ跳び掛かって来た。
其の姿を認める間もなく、頸元に衝撃が走る。
其を去なす事も出来ない儘、瞬きの間にセレは地面へ押し倒された。
「う・・・ぐ・・・っ、」
身を捩る事すら出来ない圧倒的な力。
頸元に手をやるが、より喉が潰され、息が出来なくなる。
「何だよ此の程度の連中か。」
嘲笑う様な声が降り、遅れて波紋が返って来た。
セレの目の前には大きな恐龍に似た神が居たのだ。
皓いラインの走った黔色の甲が波打ち、肉厚で鋭い爪が備わった手足、牙がぞろりと並んだ口は大きく、吐息が熱く掛かる。
此奴が・・・ソルニア、此の国ライネス国を滅ぼそうとした神。
頸が締まる。今、其奴は自分の目の前に居て、伸ばされた右手で遠慮なく頸を絞め付けていた。
骨迄折られそうな力で目が回る。見せ付けるかの様に開かれた口から覗く牙が迫る。
気を抜けば喰われそうな、そんな状況で。
でも、其でも怯みはしない。私は、御前なんかに屈しない。
此位強引な挨拶は予想していたのだから。其の為の契約だ。
「っセレ⁉此奴、」
ガルダも、まさか行き成り仕掛けて来るとは思っていなかった様で、遅れて振り返った。
だが、ソルニアは鼻を鳴らす丈だ。
「ハッ、ボケーッと立ってるからだよ。」
舌舐りする様な嗤い声が降る。力が・・・入らない。
でも、いや、だからこそ契約をしたんだ。其の意味は忘れさせないぞ。
自分を中心に、黔く渦を巻く零星達。
精霊の契約は絶対だ。破る事は赦されない。
自分が喰らった彼の精霊の様に、絶対の誓いを世界に立てたのだから。
自分の意識が陰り始めるのと裏腹に、零星はより曦を強める様で。
監視をする様にソルニアと自分の周りを旋回する。
此は警告だ。其以上一線を越えよう物なら、黙ってはいないと。
ガルダも、其の零星から放たれる魔力に唾を呑んで身構えた。
手を出してはいけないと本能的に分かったのかも知れない。
・・・噫大丈夫だガルダ。此の程度の事なら自分で切り開けなきゃ。
意識をソルニアに向ける。其の瞳を強く見返す。
自分だって干渉力じゃあ負けていない。懐いは決して御前に届かない筈がない。
此以上手を出してみろ。御前の首も吹き飛ぶぞ。
首丈じゃない。四肢も、肉片すら残さず、其の存在を否定してやるぞ。其で良いのか。
「ククッ、良い目してるじゃねぇか。悪くない。悪くない殺意だ。」
喉の奥で嗤うとソルニアはあっさりとセレの頸から手を離した。
「セレっ、大丈夫か⁉」
直ぐ様ガルダが駆け寄り、抱き起こされる。
思わず目を瞬かせてしまった。真剣其の物の彼のと搗ち合う。
じんわりと、彼の手の温かさを感じて、ついほうと息を付いた。
「あ、噫大丈夫だよガルダ。」
喉が痛くて満足に息は出来ないが、彼を見る丈で安心してしまうのだから単純だ。
声が少し嗄れてしまったが、直ぐ治るだろう。本当に単に絞められた丈なのだから。
「大袈裟な奴だなぁ。今のは挨拶だって。御前等の程度を知りたかったんだよ。」
「こんな方法じゃなくて良いだろ。出して貰った癖に。」
「まぁまぁ、出してくれた事は感謝してるぜ。此処迄来られた事も凄ぇと思ってるよ。だが、此の程度じゃあ背中は任せられねぇな。ま、安心しろよ、此処からは俺様が護ってやるぜ。」
「・・・噫、口丈じゃないって事を証明して貰いたいな。」
波紋で見るとがっつり頸に跡が残ってしまっている・・・。甲に塗れた手だったので猶更だろう。
頸なんて弱点の一つなので出していた尾が毛羽立ってしまっている・・・。整えるの大変なのに。
「ガルダも有難う。大丈夫だ。私は何ともないから。」
彼は困った様に歯噛みするが、小さく頷いてくれた。
此のソルニアの強情さと態度、一寸丗曦と似てるなぁと思いはしたが、言ったら絶対ガルダが苦い顔をするので心に留めて置こうか。
こんな心配してくれている彼に此以上負担を掛けたくないし、大丈夫だってちゃんと伝えないと。
「改めて、宜しく頼むぞ。契約分はきっちり働いて貰うからな。」
波紋を向けると如何も不思議な反応を返して来るな。
ソルニアの事しっかり見たいのだが、若しかしたら奴の力の干渉を受けているのかも知れない。
こんな事、然う然うないからな。特異な干渉力と言うのは伊達じゃあない。
鎖から解き放たれた彼は、自分達より一回り大きかった。
改めて見れば・・・恐龍、に似ているか?
何となく知識でしか知らないが、ティラノサウルスと言うか、ディロングに似ている様な・・・。
只、毛の代わりに彼は全身から水精を生やしていた。
透明な其は鬣の様に背に沿ったり、肩、肘等、鋭利に尖っている。
如何も其の水精が力を持っているのか、波紋と混ざる所があるんだよな・・・。一寸材質とかが気になる所だが。
そして伸ばされた尾は三又で、鞭の様に激しく地を擦っていた。
気合は十分な様だな。
「因みに、今回は成る可く騒ぎにならずに出たいんだ。もう変に暴れたりはしないでくれよ。」
ガルダとの約束と言うか、其は果たしたい。
今回の目的は此方だ。飽く迄潜入が主なのだから。
「ククッ、其は・・・出来ねぇ相談だな。」
不敵にソルニアが嗤った瞬間だった。
地が、大きく一気に罅割れたのだ。
大きな揺れが起こり、反射的にセレは翼を広げた。
「ガルダ、危ないぞ飛べっ!」
「っ何だ、何が起こって、」
急いでガルダも飛び立ち、事無きを得る。
其の間もどんどん罅は広がり、奴が繋がれていた地を中心に広がって行く。
轟音が響き渡り、壁迄罅が走った。此の儘じゃあ・・・、
そんな事態でもソルニアは其の罅の中心を見て嗤っている様だった。背負う水精も曦を放ち、激しく照らす。
「っ何してんだ。こんな騒動起こしたら、」
「俺様じゃねぇよ。奴の御出座しだ。」
―天に仇成す者達に、裁きを。―
背筋を言い様のない悪寒が駆け抜けた。
其は正視してはいけない。唯々諾々と受け止めねばならないと。
然う、植え付けられる様な声、否此は・・・福音か。
自分の内すら捻じ曲げる様な、そんな圧倒的な力が、彼の罅から溢れて来るっ、
其の音を知覚すると同時に、罅から一本の柱が突き出た。
其は・・・十字架か。二本の皓い釼を組んだ様な、そんな曦と罰の象徴。
其処から更に地面は盛り上がり、小高い丘の様に迫り出して行く。
此は・・・いけない。自分達は起こしてはならない者に目を付けられた。
遅過ぎる後悔にも似た苦い思いを呑み込む。もう、此は正面から受けるしかないのだから。
山の様に地面が盛り上がった所で、一気に其が爆発した様に弾け飛び、瓦礫が飛び散った。
今迄隠密行動していたのが全て台無しだ。地下だろうが御構いなく喧騒が響き渡る。
下手したら倒壊して生き埋めになりそうな勢いだ。其程迄の衝撃を以って遂に其は姿を現した。
其は・・・巨大な蠍に似た怪物だった。
全身を隙間なく覆う甲は輝いており、あんな瓦礫に当たろうが傷一つ付いていなかった。
両手の鋏は少し形状が異なっており、片方は鋭く尖った釼の様になっており、もう一方は盾の様に平べったくなっている。
そして其の背から頭の方に掛けて、彼の十字が掛かっていた。
噫分かる。其の姿を認めた丈で誰なのか。気配丈で、分かってしまう。
「御前は・・・クルスティード尖塔の長か。」
「然うさ。此奴はクルス、無駄に齢食った此処の長なんかやってる暇神だよ。」
「・・・っ、此奴が。」
選りに選って塔の長に見付かるなんて。抑此の出方、此奴はずっと地下に居たと言うのか。
其にしても此の見られていると言う感覚・・・まさか、
「っセレ、此奴はやばい。早く逃げないと。」
「御前等は然うしな!俺様は此奴に借りがあるんだよ!」
―・・・逃がしはしない。―
クルスが一回転すると長く伸びた尾が壁を打ち付け、一気に崩してしまう。
此奴、巨体の割に可也俊敏に動ける様だ。今の一撃すら目で捉えるのは厳しい。
扉も瓦礫で埋まってしまい、直ぐの脱出は厳しそうだ。・・・閉じ込められてしまったか。
「・・・斯うなったらやるしかないか。」
「セ、セレ・・・、」
「ガルダ、大丈夫だ。何も此処で落とさなくても良い。隙を見るぞ。」
然う言うと彼は大きく頷いてくれた。其のやり方に賛成はしてくれるらしい。
只問題は、そんな心持で奴を去なせるかだが。
―皆!もう良いぞ、此処からは・・・殺し合いだ。―
―分カッタ!皆解除、解散!―
魔力達の声が駆け巡る。先迄掛けていた魔力の歪みを正していく。
此処からは流石に此のハンデを背負った儘じゃあ太刀打ち出来ないだろう。力を出し惜しみは出来ない。
・・・だからこそ、彼の力も使わないといけないか。
即座に時空の穴から小瓶を一つ取り出し、中身を呷る。
其の中の絳い生命を・・・取り込む。
「・・・?セレ、」
「ガルダ、此処からは此の力を使うぞ。だから気を付けてくれ。」
「毒か、分かった然うだな。」
直ぐに察してくれたガルダは少し丈自分から離れた。
ガルダを獲物にする訳には行かないからな。此の牙は他の奴に向けないと。
だからと言ってクルスには直接ぶつけない。彼奴がやばい神であろう事は対峙して良く分かる。
あんな力を持ったソルニアを捕まえた本神でもあるんだ。そんな奴と正面からやり合おうとは思わない。
只でさえ此方の戦力は十分とは言えないし、抑此処はライネス国の塔の中だ。こんなフィールドで戦おうとするのが間違っている。
自分が先に注意す可きは、此の状況を悪化させ兼ねない奴の仲間についてだ。
血を呑んだ事ではっきりと躯に知覚させる。餌がある、喰らう時だと。
其は分かり易く躯に現れた。牙が伸び、零星は絳黔く瞬いて、尾が蛇の様に分かれて伸びて行く。
同時に、自らの吐息も荒く熱くなって行くのを自覚する。此の毒を、もっと振り撒かないと。
果たして目の前にいる二柱にも効くのかは分からないが、少なくとも此で増援は防げる筈。
こんな暴れてしまったんだ。兵が戻って来てもおかしくはない。逃げ道を確保する為にも入念に毒を染み込ませる。
感覚が鋭く、鋭利になって行く。魔力が戻った分、よりクリアに感じる。
ソルニアが勝手に戦いに行っているので、出来れば自分達は隠れたい所だ。此処で策も無しに奴と戦うのは無謀だ。
波紋を広げて・・・探れ、何処かに穴はないか。
クルスは確かに圧倒的な存在感と力を持っている。でも、だからこそ小回りは効かないだろう。
下手したら自分の塔すら壊し兼ねない。だから逃げ方に因っては出し抜ける筈。
分かっている。だって此奴は過去に一度、自分達を見逃している。
彼の時と同じ状況を作り出せ。
「オラオラオラオラッ!俺様を捕まえてみやがれ虫がよぉ!」
もう周囲の事等御構いなしに、ソルニアはクルスに向け焔やら冰を浴びせていた。
其の術一つ一つの魔力に震えそうになる。詠唱も無しに放っているのに何も威力が桁違いなのだ。
高位の術をあんな乱暴に惜し気なく使えるなんて、加えて術の属性も全て違うと来た。
此処迄来たら一種の曲芸の様でもある。確かに戦いのステータスが違うのだ。
長い間囚われていた筈なのに、其を感じさせない生命力・・・本物を前にしてAの言っていた事が良く分かる。
此奴は異常だ。其の干渉力は神の範疇を超えてすらいる。
只其でも相対するクルスも十分凄まじかった。
あんな一方的にソルニアが手を出しているのに、怯む様子はない。
いや、抑傷付いてすらいないのだ。彼の甲は見せ掛けじゃない。術に対して可也高い耐性を持っているのかも知れない。
そして只堪えている丈と思いきや、行き成り腕を振り上げたかと思えば、目にも止まらない突きを繰り出しているのだ。
遅れて波紋が其を伝えてくる位、圧倒的な力で術をも凌駕して来るか。
此奴等を放って置いたら其の儘塔を壊し兼ねない勢いだ。あんな広いと思っていた地下ですら手狭に感じて来た。
此では自分達が付け入る隙はない。手を出し兼ねてガルダと様子を見る。
無の一つでも放って様子を見たい所だったが、彼奴が暴れに暴れているからな・・・。
―・・・未だ、心は変わらずか。ではもう一度磔にする必要があろう。―
「ハッ、何年繋ごうと俺様は変わらねぇぞ!偉振ってる神なんて皆俺様が殺してやるっ!」
ソルニアが両手から曦の陰霖の様に術を放つと、クルスは飛び掛かる様に駆け出し、尾を振るった。
其の衝撃で又大きく地下は崩れ、瓦礫が落ちて来る。
「っガァアア、」
見えない尾に因る斬撃は此方に迄届いていたらしい、腕を大きく斬られて血が溢れてしまった。
「セレっ、大丈夫か⁉」
堪らずガルダも駆け寄るが、瓦礫が酷くて足元が覚束ない。生命力を上げつつ彼女の傍へ寄る。
「抜かったな、まさか私の甲より堅いか。」
此の甲を貫ける物なんて然うなかったので思い切り喰らってしまった・・・。
何とか斬り落とされはしなかったものの、がっつり骨迄右腕が斬られてしまっている。
直ぐ血が膜を作るので出血は抑えられるが、当分使い物にはならないな。
「セレ、如何する。此の儘じゃあ・・・。」
「噫、状況は良くない。でも、」
一点丈でも突破口があれば、抜け出せる筈だ。
波紋に集中する余り一撃貰ったが、未だ手はある。
「っぐ、やりやがったな虫螻めっ!」
見れば、先のクルスの一撃はソルニアも避けられなかった様で、彼は体勢を崩していた。
彼方なんてもっと酷い。胴を真っ二つにされ、腕も吹き飛んでいたのに、奴は嗤っていた。
其も然うだろう、威勢良く吼えている間にも彼は再生し、元の無傷な躯に戻っていたのだ。
ガルダ程じゃなくても、再生力も十分と・・・確かに化物だな、彼奴も。
でも先の一撃は、一つの好機を作ってくれている。
「ガルダ、合図が出たら行くぞ。」
彼が一つ頷いた所で大きな爆発が起こった。
其はソルニアが放った術の一つなのだろうが、其が此迄の比じゃなく大きく荒れ狂う。
「っ、何だぁ此、」
「御前も早く此方へ来いっ!」
術者である筈のソルニアも一瞬呆気に取られていたが、ちらとセレの方を見遣って舌打ちをした。
「俺様に指図とは良い度胸だ。茶々入れやがってよ。」
「此方の約束、忘れたとは言わせないぞ。」
瓦礫の隙間に出来た穴へガルダが入り込む。其を見遣ってソルニアも続いた。
―此の儘、逃がしはせん。罪は贖わなければっ!―
クルスが腕を振り上げたが、刹那固まる。
・・・気付いたか、察しが良いな。でも此の一瞬があれば、
直ぐ様セレも身を翻し、穴を潜って行った。
波紋で先は見えている。此の儘潜れば上の階へ行ける筈、そして塔の上部へと逃れれば、
「っぐぅ、」
遅れて衝撃が走る。此は・・・尾を斬られたか。
クルスも只見ている訳には行かないのだろう、的確に突きを繰り出して来る。
彼の刃の前では自分も無手と同じだ。二又の尾をあっさり斬られてしまい、上体が傾ぐ。
其でも、今は逃げないと、
―速ク速ク!追イ付イチャウヨ!―
―術アッテモ、突ッ込ンデ来ル!―
魔力の声が自分の背を押す。・・・本当、何て奴だ。
先迄のは見護ってくれていた魔力達に協力頂いたのだ。ソルニアの術を過反応させて目眩ましに使い、無を張って退路を作った。
無を前に流石に奴も止まったが、其でも時間稼ぎにもならないか。
「殿が追い付かれて如何すんだよっ!」
怒声が響いたかと思えば、背後で曦が瞬いた。
そして遅れて轟音と瓦礫が崩れる音が響き渡る。
「っ助かった。」
「ったく出来もしねぇ事、率先してやるんじゃねぇよ。」
ソルニアがちらと振り返ると鼻を鳴らす。
彼の術に助けられた様だ。自分が通って来た道は瓦礫で完全に塞がれていた。
其の瓦礫の山へ向け、曦の柱が何度か突き立てられる。
思わず生唾を呑むが彼の柱は恐らくクルスの爪、鋏なのだろう。もう数瞬遅れていたら串刺しになっていたか・・・。
でも此で目眩ましにはなった筈だ。後は少しでも早く塔を出る丈。
素早く波紋を広げて行く。此処は・・・地下牢の一つか。
未だ地上迄は程遠い。自分達の通った彼の出口迄導かないと。
―皆、道標を創ってくれるか。―
―任セテ!此ノ零星、借リテクネ!―
自分の意志から零星が離れて行き、遥か先へ流星の様に散って行く。
そして転々と散らばったと思えば星座の様に縷で繋がれた。
―セレ、此を辿って行けば良いのか⁉―
―噫、先私達が通った所へ出る。其処から一気に外へ行こう。―
結構ガルダは先の方へ行っているみたいだな。確かに波紋の先に掛かっている。
今は一つでも多く情報を得る為に広く薄く波紋を広げている。他の兵の姿もなさそうだ。
一応、毒が間に合ったと言う事か。早目に撒いていて良かった。
兵らしき影が全く見えない訳じゃあないが、余り大きな動きは見られない。自分の毒に当てられて自我を失い掛けているんだろう。
其なら此の儘自分達の障害にならない筈、其の儘大人しくして置いて貰おう。
「・・・此、御前が創った道か。」
「噫、其に続いてくれ。出口迄問題が無いか確認済みだから。」
「ヘッ、随分変わった力の使い方してんだな御前。」
薄く笑ったソルニアの目前で一瞬曦が走る。
っ此はまさか、
其の正体を察するより先にソルニアは行き成りセレに体当たりをし、一つの牢へ転がり込んだ。
途端地が割れる様に弾け、先への道が崩されてしまう。其処へ遅れて曦の刃が振るわれているのが見えた。
今のは・・・クルスの尾か。未だ完全には見失っていない様で、道を崩されたらしい。
何とか牢へソルニアに突き飛ばされたので、直接ダメージは無いが・・・。
「もう一寸優しく突き飛ばして欲しかったな。」
「真っ二つにされても生きてる位タフなら然うしてやるぜ。」
彼の全身は水精に飾られているのでぶつけられた丈でも結構な威力があった。
其に自分は軽いのであっさり吹き飛ばされてしまったのだ。勢い余って壁に頭を打ってしまった・・・。
「真っ二つならギリギリ死なないとは思うが・・・。」
「でも其を担いで行くのは俺様だろ。面倒増やすなよ。」
―セレ!大丈夫か?ルート変えるか?―
ガルダのテレパシーについ耳が動く。彼は今の攻撃に遭わなかった様で其の儘零星を追っていた。
―大丈夫だ。ガルダは其の儘行ってくれ。直ぐ追い付くから。―
彼が無事なら十分だ。道は幾らでもあるのだから、未だ合流は可能だ。
「よっしゃ此方から行くぞ!」
ソルニアは大きく息を吸うと、一本のブレスを吐き出した。
其は真直ぐ牢の壁を突き破り、太い曦となって何処迄も伸びて行く。
其の曦が収束する頃には何室もの牢をぶち抜いて大穴が開かれていた。
「中々豪快なやり方だな。」
道中居たであろう神も巻き添えを喰らっているな。容赦の無い奴だ。
「此方だろ、さっさと行くぞ。御前の御守り迄俺様はしないといけないんだから。」
ひらりとソルニアは穴を潜って行くので自分も翼を広げて飛び込んだ。
結構なサイズを開けてくれたので辛うじて飛べる。多少翼が瓦礫で傷付くが、そんなの構っていられない。
ソルニアは体力も相当タフな様で、脇目も振らずに走っている。あんな術を使った後なのに陰りはない。
此の圧倒的な力があれば何丈・・・。
屹度自分が目指したい頂も此の形だ。此の先を自分は行きたいんだ。
いや、行かなければ自分は終わる。壊されない為には矢っ張り、此丈の力が。
其の為には矢張り干渉力が鍵か。今回は良く良く見せて貰わないと。自分の想像を超えた力、其から自分は然う在りたいと願い、形にするのだから、
此の力が欲しいと、悍く自覚して、其の上で、
「おい、取り敢えずは御前の作戦に乗ってるけどよ。此の先の手筈は如何なってんだ。」
「恐らくだが、クルスは余り塔内を動けないんだろう?自分の所為で塔を壊し兼ねないから。だから一先ずは上を目指しつつ、速やかに塔から出る。」
前、落龍の詠の時も自分とガルダが此処で争っていたのを見ていた筈だ。同じ気配が漂っていたからな。
其でも見逃したのは、彼処が塔内だったからじゃあないのか。
地下は確かに彼奴が通れる程広く部屋を造っていたりはしたが、上は然うではない。
恐らく、此処クルスティード尖塔は此の地下がメインなんだ。だから上に迄彼奴は干渉出来ない。
地下で暴れている様に見えて、屹度彼でも本格的に倒壊しない様、奴も気を遣っているのだろう。だから先から細々としか手を打って来ない。
「成程、信仰だの曦だの、形丈大層大切にする此奴等ならあり然うな話だな。で、出た後は如何するんだ。派手に暴れて門を吹き飛ばしちまうか?」
「其じゃあずっと追われてしまうだろう。奴を完全に撒く為に、クレイド§スフィアへ向かう。」
「クレイド§スフィア?何たって彼処なんか、」
「彼処の長は協力者だ。此処から安全に出る為に手を借りるぞ。」
「何、協力者だと。仮にも光の塔だろうが。」
「・・・詳しくは後だ。余り大っぴらにする可き話じゃないしな。」
聞かれているなんて事はないだろうが、油断はならないからな。
可也走って来てはいる。そろそろ、塔を出られそうか・・・?
波紋で可能な限りクルスの動向を探るが、矢張り彼奴は此処へ余り来たがっていない風に見える。
あんな素早く動けるのに足は動いていないのだ。
尾の届く範囲から出られれば何とかなるか・・・?
まぁ今回逃げ切れた所で完全に奴に目を付けられただろうし、其の後の不安は残るが。
其でも前は地上に近い所迄来ていたか。塔の地下と言うより地中に居たのかも知れない。今はもっと今に集中した方が良い。
「っ左に避けろ!」
声が届いたか如何かの所で即座にソルニアは壁に向け跳び掛かる。
其丈で牢の壁は壊れ、新たな道が出来た。彼の水精の躯は伊達じゃあない。
そして遅れて曦を放つ刃が駆けて閃光が迸り、地が割れて行った。
先迄通って来た道がもう跡形もない・・・。間一髪だったか。
「・・・見えてんのか。」
「私は波紋で見ているんだ。此位距離があれば予備動作で何となくはな。」
先迄は奴のスピードに波紋が追い付けていなかった。
でも此丈あれば・・・尾を振り上げれば何となく斬撃の来る所は分かる。
只分かると言っても、矢っ張り早いな。避けるのが精一杯で、反撃なんて到底出来ない。
其でも、今は此で十分だ。奴への対抗手段は又考えれば良い。
今は只逃げないと、彼の尾の刃が届かない所迄。
無の一つでも置けばトラップにはなりそうだが・・・其を維持出来る程の余裕はないか。
此処迄来れば分かっては来る。彼の一撃は只尾を振り回して起こしているんじゃない。
尾に沿う様にして何か術が乗っている。だから見た目以上にリーチもあり、厄介な見えない攻撃となっている。
何となく背後を走る感覚から光なのではないかと焦るが、一体何だろうか・・・。
でも彼が何であれ、喰らえば終わりと言う事には変わりないだろう。であるなら逃げる丈だ。
何度か空振りを繰り返したからだろう。クルスの動きが少し鈍った気がする。
目視とは別の感覚で此方の動きを探っている様だが、逃げ切るなら今だ。
「ソルニア、上へ一気に飛べ。今なら行ける。」
「おう、ナビには従うぜ。」
足に力を込めたかと思えば一気にソルニアは上階へと跳び上がった。
もう彼にとって天井だとか壁はあってない物の様だ。体当たりで其の儘破壊して行く。
―皆も有難う。もう大丈夫だ。此処からは又乱すぞ。―
―ウ、ウン。ジャア零星、壊シチャウヨ!―
途端に導いてくれていた零星が砕けて散り散りになって行く。
今度は此を元に又魔力を狂わせる。直ぐに追っ手は付けない筈だ。
一応隣に上へ行ける横穴があったんだが、ソルニアが新たな道を作って行っていた。
瓦礫も収まって来たし、自分も此方を通るか。
「セレ、良かった。って尾が、」
翼を広げて飛び上がった所で直ぐガルダが待っていた。
塔の出口を見張っていたのだろう。自分の姿を認めて目元を和ませるも、直ぐ視線が揺れる。
・・・流石に尾なんて無くなったらばれるだろうな。此許りは仕方ないけれども。
「此位なら治る、今は逃げるぞ。」
「っ噫、榔の所へ行くんだよな。」
余り真直ぐに逃げる可きじゃあないだろうが、混乱している今はスピードを取った方が良いだろう。
「じゃあ今迄世話になった挨拶だぜ!」
口端を釣り上げて笑うと、不意にソルニアは塔の上部を見遣った。
そして目一杯のプレスを吐き出す。其こそ塔丸々一つ包み込むかの様な勢いで。
「っなんて奴だ。」
つい足を止めてしまいそうな程の大災害である。塔の大部分が崩れ、瓦礫と化してしまう。
全壊、とは行かないが十分だ。此なら嫌でも騒ぎになる。
念の為ともう少し念入りに毒を撒くが・・・此は落龍の詠以来の大混乱だな。
「っと、此丈やったら十分だろ、早く行こうぜ。」
鼻を一つ鳴らすとソルニアは満足そうに笑みを零すのだった。
・・・・・
「っ、其奴が件の、」
出迎えてくれた榔が思わず両前足を上げる。
彼の気配に気圧されたのだろう。只在る丈でも彼のは勁い、勁過ぎる。
「噫、ソルニア・ソルレオだ。何とか脱獄させたぞ。」
「ヘッ、本当に協力者なのか。此奴は凄ぇな。」
ちらと榔を見遣るとソルニアは腕を組んだ。榔も又窺う様に彼を見遣る。
「クルスティード尖塔で大分暴れた様だな。知らせは届いているが・・・。」
「俺達の事は?何か来てるか?」
「大丈夫そうだ。上手く逃げて来た様だな、未だ捜索中の筈だ。」
「いやーさっぱりしたぜ。やっと彼の塔も壊せたし、次はもっと派手にやりてぇな。」
出られた事が随分嬉しいらしく、彼は中々声が大きかった。燥いでいるのか尾も振られている。
「其じゃあゲートを使わせて貰おうか。只榔、話があるんだったか?」
「ん、噫出来ればガルダと話してみたかったが、流石に今は疲れただろう。又の機会でも構わないが。」
「えと、如何しようか。俺は別に大丈夫そうなら話位良いけど。」
「私も良いと思うぞ。ソルニアとも話したいと思っていた所だし。」
「あ、噫情報とかか。まぁ、良いぜ約束だし。」
「セレ一柱でも良いのか?」
「噫、分からない事は又ガルダにも聞こう。互いに有意義な機会じゃないか。」
「然うか。其なら甘えようか。此処には兵も来ない。安心してくれ。」
「分かった。じゃあセレ、後でな。」
「噫ソルニア、此処を通るぞ。」
「おぅ、変わった術だな。」
セレがゲートを潜ったのを見届け、直ぐ彼も其に続く。
出た先はレリーシャ=ガーデンだが、又もやフェリナを驚かせてしまった様で水中に潜ってしまう。
まぁ確かに、明らかにやばい力を持った奴が居るもんな。其の自己防衛は正しい。
「ルル、あ、あのセレ神さん、御帰りなさい。あの、後ろの方はルルル・・・。」
「噫、ソルニア・ソルレオだ。無事に連れ帰れたんだ。」
「凄いですわ。ルララ、古の神を呼び起こすなんて。後、ガルダさんは、」
「少し榔と話があってな。終わり次第戻って来る筈だ。今回も世話になったな。助かったぞ。」
然う言うとフェリナは薄く微笑んだ。小さく頷き道を開けてくれる。
「・・・此処って、」
「ん、レリーシャ=ガーデンだ。此処の長、フェリナも私達に協力してくれている。御蔭でライネス国にすんなり入れた訳だ。」
部屋を出て、塔から離れる為に少し羽搏く。
長居して見られたらいけないからな。此奴と話すのは此処じゃなくても出来る。
ソルニアも軽く跳んだ丈で湖を跳び越してしまう。翼が無くても問題ない様だ。
・・・少し離れたし、此処等で良いか。ガルダも持たないといけないしな。
波紋の端に塔を見遣りつつ、セレは目の前で伸びをするソルニアの背を眺めるのだった。
・・・・・
「話って何なんだ榔。」
セレ達がゲートを潜って行き、クレイド§スフィアにガルダと榔、二柱丈が残される。
たった二柱丈の筈なのに、其でも榔は何処か緊張している様な、窺う気配を見せた。
「・・・前、君がゲートを使った時の事なんだが。」
途端、少し丈ガルダの顔色が曇り、より榔は息を詰まらせた。
其でも矢張り気になる、何か其の裏がありそうで。
「余り詮索為可きでない事は分かっているんだ。只其でも前、君は一柱でゲートを使った。口外しないのは勿論だけれども、如何やら仲間にも其の事は話してないみたいだな。」
「まぁ・・・な。だから一柱で来たんだし。」
少し丈目を伏せる彼に榔は小さく頷いた。
「彼の時は何も聞かなかったが、君は恐らく大賢者のターミエルと胥伊を殺しに行ったんじゃないか?」
此は質問と言うより只の確認だ。
大賢者の二柱が暗殺されたと聞き、直ぐ様榔は気付いてしまったのだ。
間違いなく其処にガルダが関わっていると。
タイミングからしても間違いはない。寧ろ他に誰がそんな真似が出来る。
只其でも理解出来ない事があった。確かに大賢者は昔途轍もない存在だったけれども、今では隠居した様な存在だ。
其なのに何故、あんなリスクを負って迄殺したのか、其が如何も気になった。
「・・・噫、然うだぜ。此ばっかりは隠した所でだもんな。」
あっさりガルダは然う口を開いた。
事実だったが、でも其なら何て手際だろう。思わず唸ってしまう。
「然うか・・・良く出来たな。彼の二柱は塔から先ず出ない。中々難しかったと思うが。」
「榔、御前が聞きたい本題って多分別の所だろ。」
思わず榔の背が震える。其でも聞くのかと。
此以上聞いて、果たして自分は、
本能が目醒めて囁く。立ち止まる可きだと、でも、
然う逸らせるのは彼の目の所為か。
何度か会った彼と同じとは思えない冷たい瞳をしている様で。
顔を上げるのすら憚られる様な空気を何とか尾を振って榔は退けた。
「噫、手段じゃなくて理由だ、私が知りたいのは。如何して君は彼の二柱を手に掛けたんだ。」
セレにも隠している此の事実、恐らく此は彼の中の何かに関わるんじゃないか。
然う、思わずにはいられない。彼が彼女を遠ざける事は無いからだ。
先の其の何か・・・暴くのも憚られる様な溝を、感じてしまう。
溝と言うか、ちぐはぐさ、不自然な歪みが。
何か、底の見えない何かを彼丈、抱えている様な、そんな気がしてならないのだ。
「理由・・・然うだよな、うん。榔に丈ならまぁ話しても良いかな。」
「っ良いのか?」
てっきりもっと渋られると思ったら、案外すんなりと彼は口を開いた。
「噫、でも勿論セレ達にも、誰にも内緒にして貰いたい話だけど、其で良かったら。」
「噫、問題ない。私達丈の秘密だ。」
榔が答えるとガルダは小さく咲った。
其の笑みに何処か惹かれる様で、榔は思わず魅入ってしまう。
穏やかでいて、でも矢張り背を掛ける冷たい物があるそんな危うい目。
・・・噫然うだ、此の皓は遠く光る氷雪の様だ。
美しく導く様にある其の曦は、一度求めてしまえば極寒の最中へ永遠に其の命を閉じ込めてしまう。
「じゃあ・・・話そうか。うん、若しかしたら御前には・・・分かって貰えるかも知れないし。」
・・・・・
「何か俺様が知らない間に随分と世界は変わっちまったみたいだな。」
一つ息を付き、ソルにはぐるりと辺りを見渡した。
大きな旻を前に何度か彼は深呼吸を繰り返す。
「其でも矢っ張り外は良いな。自由になれて清々したぜ。」
「噫喜んで貰えたなら何よりだが。」
然うだな。屹度彼の思っている以上に世界は変わっている。不変と思われていた神の世界も目まぐるしく。
「・・・若しかしたら御前は黔日夢の次元も落龍の詠も知らないのか?」
「あ?何だ其。小難しそうな名前だな。」
おぉ、神にして此は中々珍しいんじゃないか?凄い世間知らずみたいな、そんなずれを感じる。
まぁ何方も自分の悪名な訳だけれども。教えた方が良いだろうな。
其丈本格的に此奴は封印されていた。厳重に繋がれていた証なのだから。
不憫と言う可きかは置いて置いてだがな。其丈の事を此奴は過去に仕出かしたんだし。
掻い摘んで二つの事件について説明すると、ソルニアは高く口笛を一つ吹いた。
「へぇ、其奴は其奴は!中々面白ぇ事が起こってたんだな。此の退屈だと思っていた神の世界でもそんな事が起きてた訳だ。噫其の何方も此の目で見届けられなかったのは悔やまれるな。」
「そんな見て良い物じゃなかっただろうが、まぁ大事件だったのは間違いないな。」
ソルニアは満足そうに頷き、口端を上げた。
「いや、其奴は本当凄ぇよ。然も其を何方も御前が関わってるだと?見所有るじゃねぇか。正直見直したぜ。」
見直してくれたのは、まぁ嬉しいけれども。
彼は一気に気を良くしたのかばんばんとセレの肩を叩く。
い、痛い、其方は右腕なのでそっとして欲しい所だ。一応斬られているからな。
「其にしても、案外すんなり信じるんだな。」
「噫寧ろ合点が行った所だ。何か斯う外の空気が変わったと言うか、世界が歪んだと思ってたんだが、成程、此は御前の意志か。」
「私の・・・意志。」
「噫、御前も相当な干渉力の持ち主だな。伝わって来るぜ。世界を変えるなんてのは伊達じゃねぇ。へへ、長生きした甲斐があるってもんだ。」
流石、と言う可きか。彼は世界の様子と言うか、然う言った物から察する事は出来たのか。
自分が魔力と話すのと近い所があるのかも知れないが、大雑把に見えて斯う言う繊細な感覚も鋭いと来た。
「成程な。御前は其方の力に優れてんのか。破壊と言うか、世界への干渉・・・へぇ、面白ぇ、御前となら有りかも知れねぇな。」
「ん、何だ。御前も何かやりたい事とか出来たのか?」
正直未だ彼は右も左も分からないだろう。そんな中で、でも其の目は曇っていない様だった。
良い目だ。生きていると訴える神の。矢張り彼は他の神とは少し違うらしい。
否、最早神としても異なる存在になりつつあるのかも知れない。ソルニアと言う一つの個として在るのかも知れないな。
噫、私の持っていない存在証明、其を此奴は有り余る程有している。
こんな神も居るのかと、つい感心せずには居られない。
「ククッ、まぁな。っと其より、ちゃんと御前との約束も果たしてやるか。誠意を持って答えてやるよ。俺様を出してくれた礼だぜ。」
「噫助かる。御前の知っているライネス国の事について、全て教えて欲しいんだ。御前が捕まる前の事や、間の事でも何でも良い。」
「貪欲だな。其を聞くって事は、未だ未だ暴れ足りねぇのか。」
「勿論だ。其の為の下準備として御前を出したんだから。」
「噫楽しくなって来たな。クク、良いぜ。もう終わった事だ。俺様が抑如何して彼の塔へ殴り込みに行ったか、其の話からしてやろうか。」
塔、確かに彼は榔の言った通り、初めからクルスティード尖塔を標的にしていたらしい。
然うだな、此丈の力があれば単身で攻め入ろうとも思うだろう。其丈謂わば此奴は無敵だったのだ。
「俺様達の一族については知ってんのか?」
「噫大体は。神に逆らったから神に力も存在も全て奪われた最弱の者にされたとかって。」
今の彼を見る限り全くそんな風には見えないけれども。
其でもそんな生き地獄みたいな所で此奴等は存在した。
「ククッ、噫其処丈聞いたら本当腸煮え繰り返りそうな心地だけどよ。まぁ事実は其の通りだ。」
一瞬彼は其迄見せていた笑みとは違う、何処か自虐めいた色を浮かべた。
屹度其の懐いは何千年経ても色褪せる事はないのだろう。
「だから俺様は其の神に復讐してやろうと思ったのさ。同じ目に遭わせてやろうと。其で勢いの儘乗り込んだものの、」
「其は・・・クルスが其の神だったのか。御前達を呪った。」
「其処なんだよ問題は。見ただろ彼奴の頑丈さを。何をしても効きやしない。其で俺様がばてちまった時に一気に封印されて彼の様だ。」
其は言ってしまえば此奴の油断だったのだろう。彼の神、クルスの力量を見誤ってしまっていた。
でも其は自分も同じだ。ガルダが散々やばい奴だと言っていた理由が良く分かる。
・・・落龍の詠の時に止めて貰わなかったら、私は死んでいたかもな。
「捕まっちまった後に彼奴に聞かされたぜ、本当の事。俺様を呪ったのは・・・彼奴じゃなかった。本当の仇はEn078△▽大聖堂の奴だって言うんだよ。」
「En078△▽大聖堂?然う言えば其処の奴等の話は殆ど聞かないな・・・。」
只榔も先言っていたな。其処の・・・大賢者だったか?其奴等が暗殺されたと。
そんな戦力とかある所ではなさそうだったし、マークを外していたが・・・何か彼処にはあるのか?
「其にしても同じ光の塔とは言え、其は間違え過ぎじゃないか?仇を誤るなんて。」
「だから勢いで行っちまったって言ったろ?ま、一応呪いに関しては彼の虫野郎も無関係じゃねぇらしいから、彼奴も復讐の対象ではあるがな。」
「ん、そんな塔同士の繋がりみたいなのがあるんだな。」
オンルイオ国では寧ろ敵対しているのではと思う位、鎮魂の卒塔婆と虚器惟神の楼閣の関係は悪かったらしいし、一寸意外だ。
ライネス国には榔の様なのも居る訳だし、不干渉なのかと思ったが繋がりがあると面倒だな。
「大した物じゃないと思うがな。何でも虫野郎が呪う可きだと言って、En078△▽大聖堂の奴が其を実行したらしい。気に喰わねぇ話だが。」
「其のEn078△▽大聖堂の方については何か知らないのか?」
彼処の長の事は良く知らないのだ。情報がさっぱりなんだな。
「其が俺様もまさか其方とは思ってなかったから全然知らねぇんだよ。彼の虫野郎も何度聞いても答えやしなかった。」
如何して其処迄頑なのか・・・何か知られてはまずい事でもあるのだろうか。
一寸今後はEn078△▽大聖堂も気に為可きかも知れない。うっかり自分もこんな呪いを受けたら笑えないからな。
「其にしても随分クルスと話したのか?御前は捕まっていたんだろう?」
此奴の縛られていた彼の牢獄を思い出す。
あんな雁字搦めにされて、仇の相手と話すのはどんな心地だろうか。
「噫、御前も彼奴に捕まらなくて本当良かったな。彼奴は拷問するのが大好きなんだよ。見ただろ?彼奴の背中に刺さってた十字架を。」
ソルニアの目がぎらついた。・・・彼処での日々を懐い出しているのだろうか。
「彼処に縛られて、彼奴の爪で何度も裂かれるんだよ。然も彼の十字架から聖の術を掛けてる所為でずっと躯は再生する。本当悪趣味な野郎だぜ。」
「成程、其はえげつないな・・・。」
ずっと回復され続け乍ら新たな痛みを与えられる訳か。
正に拷問する為の、彼の磔の十字架が彼奴の正体であり本体なのかも知れない。
嫌なタイプの正義だな。自分は其を振り翳し、只裁きを与える訳か。
・・・若しかしたら楪も同じ目に遭わされたのかもな。彼奴も拷問された様子が見られた。何かに怯えていたんだ。
裏切りだと思われて奴にずっと拷問されて裏の姿に成ってしまったのかも知れない・・・。
「彼奴は飽きもせずやるのが好きだからな。本当にねちっこく。だから御前達が来たタイミングで、彼奴も俺様に裁きだとか言って拷問する気だったんだろうよ。だから地下に潜んでたんだ。」
「成程な・・・分かった、彼奴には特に気を付けないとな。」
捕まってしまえば、逃げられる気はしないな。あんな力を持った奴の隙は突けそうにない。
其こそ、捕まる位なら死ぬ覚悟でいなければ太刀打ち出来ない相手かも知れない。
「後は・・・まぁ拷問中に彼奴が適当にした話ならあるけどよ。」
「噫、其でも良い。兎に角全て教えてくれ。」
彼の国を理解する為にも、もっと自分の中へ落とし込む為にも。
知って、其の上で奴に此の刃を打ち込むには如何しなければならないのか。
斬られてなくなってしまった尾の断面が痛む。
今は毒を抑えてはいるが、姿が少し変わり掛けていたので分かれた小さな尾が何本か残ってはいるが。
其でも大部分は斬られてしまったな・・・。蛇の数が一気に減ってしまった。
此の腕と尾の御返し位はしなくては。只でさえ面倒事を引き連れて来る塔なのだから。
「良いぜ。矢っ張り其の目の殺意は嫌いじゃねぇ。」
冥く沈むセレの瞳を見遣り、ソルには不適に笑うのだった。
・・・・・
「まさか・・・そんな事が、」
思わずふら付いてしまい、榔は腰を下ろした。
余りに彼にとってショッキングな話だったらしく、今の今迄座る事も憚られたのだ。
其でもまさか、こんな事が起きていたなんて。
いや、抑其を抱えた儘彼は一体、
つい上目遣いに彼の事を見遣ってしまう。
今の話に嘘偽りは無いだろう。根拠は彼の存在其の物なのだから。
噫、不思議だ。彼の事実を知ってしまえば、彼を見る目が何処か変わってしまう。
・・・彼は変わらず、然う在った丈なのに。
此は・・・畏怖?其とも尊敬か畏れか。
えも言えない感情が彼の中では渦巻いていた。・・・こんな気持は初めてだ。
何れにしても、彼には誠意を持って応えたいと。心の底から懐ってしまう。
「えと、如何だろう、此で納得は出来たか?」
「・・・あ、噫、勿論だ。只、何と言う可きか・・・。」
「無理はしなくて良いぜ。俺も、此を誰かに話したのは初めてなんだ。」
「っ、じゃあ君はずっと、」
思わず弾かれた様に榔はガルダに詰め寄ってしまう。
其でも彼の目は・・・何時も通りだった。
信じられないと言う懐いは終に尊敬に変わり、榔は自然と頭を垂れた。
「・・・君の事を、心から尊敬しようガルダ。君の懐いは悍く、私の胸を打つ。」
「そ、そんな大袈裟だって榔、俺は只・・・然う在った丈で。」
「でも諦めていないんだろう。ずっと・・・信じている。」
無言で彼は頷いた。其が全てだと言う様に。
だったら此以上何を求めるだろうか。
「・・・本当に有難う。私なんかに話してくれて。君も又、私にとっての希望だ。今は悍く、然う思う。」
同時に湧き上がる此の抗い難い衝動。無性に遠吼えをしたくて堪らない。
噫、神としてこんな心動かされる事が未だあったなんて。
「ガルダ、私は・・・真に君の助けになりたい。何か出来る事はないか。君の願いを、其の先を紡いでみたいと思うんだ。」
然う詰め寄ると、ガルダは目を幾らか瞬いて数歩下がった。余りの喰い付きに少し驚いてしまったらしい。
そんな彼はもう、先の様な目はしていなかったが、彼は確かに榔の中に刻まれていた。
「・・・然う、本当に君達の御蔭で此の国は動きつつあると感じるんだ。」
「御蔭・・・かは一寸厳しいけどさ。」
ガルダが苦笑すると、そっと榔は尾を振った。
「分かった。其なら、」
言い掛けた所で不意に、えも言えない悪寒が駆け巡った。其は相対していた彼の物ではないのは明白だ。
二柱して固まってしまう。此の感覚は一体、
何かもっと大きな、力の様な物を・・・感じる。
つい榔の背中の毛は逆立ち、瞠目してしまう。今は只此の焦りにも似た感覚をやり過ごそうと息を整える。
「・・・っ、悪い榔、俺帰るな。」
「然うだな。話してくれて有難う。気を付けて帰ってくれ。」
一つ頷くと足早にガルダはゲートを潜る。
其の背を、榔はじっと見送った。一柱の同胞の背を忘れない様に、焼き付ける様に。
・・・・・
「所で、御前は今後如何する気なんだ?」
情報収集も終え、セレとソルニアは一息付いた所だった。
今日は収穫も多かった。リスクを侵した甲斐はあったと言う物だ。
「あ、別に。流石に一寸休まなきゃいけねぇだろうが、一息付いたら又彼処を攻める気だぜ。」
「クルスティード尖塔をか?折角出られたのに。」
「出られたからだろ。彼の時は油断したが、俺様だって馬鹿じゃねぇ。策は幾らでもあるだろ。」
然う言い、ソルニアは不敵な笑みを零す。何処迄も己を信じている勁い曦が其処にはあった。
「然うか。だったら私も止めはしないが。其なら今私達は店をしているんだ。其処で暫く休んで行くか?隠れ蓑には申し分ないと思うぞ。」
「店?へぇ、御前等も色々やってんだな。じゃあ一寸御邪魔しても良いか。」
然う言った限、ふつりとソルニアは口を閉ざした。そしてじっとセレの事を見詰める。
「其より俺様は御前の事も興味あるな。御前こそ、彼の国を潰す気なのか?」
「・・・私の敵になるなら、だな。」
「ククッ、まるで被害者面みたいな良い理由付けてるじゃねぇか。」
「噫然うだな。でも私は争い自体が好きな訳じゃない。只平和に暮らすには敵は邪魔だ。其丈なんだ。」
「良いじゃねぇか。元々は御前が始めた喧嘩だろうに。其の傲慢さは悪くねぇ。」
手を叩き、心底おかしそうにソルニアは一頻り笑い声を上げた。
「なぁ、先も思ったが、御前は中々見所があると思ってるぜ。」
「然う認めて貰えたら私も嬉しいが、藪から棒に如何したんだ。」
こんな、丗を変え兼ねないとんでもない神相手に然う言われると少しむず痒い。
自分の力は其の頂に届くだろうか。
「・・・御前とだったら、組んでみても面白ぇかもなって思ったんだよ。」
「組む?・・・仲間になってくれるのか?」
「仲間、に違ぇねぇだろうが、一寸ずれちまうな。」
然う言ってソルニアはまるで獲物を狙うかの様にじっとセレの一挙一動を見詰めていた。
其丈で背に走る物がある・・・畏怖に近い感覚か。
「御前の事は、先の塔での一件で何となくは分かったぜ。俺様に下手に出ている様で其の実、油断ならねぇ力を持ってる。然うだろ。」
「・・・其は如何言う意味だ。」
ソルニアの背負う水精が瞬き、波紋と混ざり合う。
然うして歪ませる。まるで世界に今は自分と此奴しか居ないかの様に。
「俺様が出て直ぐ、御前は俺様の一撃を貰ってたが、彼、演技だろ。御前だったら避けられた筈だ。」
演技・・・一撃とは、彼の頸を掴まれた時の事か。
思わず首元に触れる。未だ跡が残り、僅かに疼く其処を。
「じゃあ如何して態々喰らう様な真似をしたか。其は・・・隣に居た彼奴の事、護る為じゃねぇのか。」
「護る?ガルダをか?」
「噫そんな名だったか。御前が下手に抵抗すりゃ、何されるか分かったもんじゃなかった。だから敢えて、自分丈喰らう様に動かなかったんだろ。」
「・・・・・。」
ばれていたか・・・だからこそ自分も一撃は貰う覚悟でいたからな。
でも果たして避けられた物かは、正直怪しい。分かっていて受けた、其丈なのだから。
「黙って事は間違ってねぇって事だろ。其位は分かるぜ。其の後の御前の動きを見るに、彼の虫野郎の攻撃も大体察していた。彼丈動けりゃ上等だ。」
「其が御前が仲間になるのと如何関係して来るんだ?」
「まぁ待てよ、其でだ。御前は俺様を出す為に色々手を焼いてくれていた。でも、連れは如何だ?何か役に立ったか?」
「ガルダは今回飛び入りで来てくれたんだ。私が無茶しない様に見張る役割があったんだぞ。」
「ククッ、彼処は無茶しなきゃ最悪生きて出られなかったけどな。」
口端を釣り上げ、ソルニアは笑みを深めた。
まるで値踏みする様に、全て沿って。
「もう、俺様の言いてぇ事位分かってるだろ。俺様は御前と組みたいんだ。其以外の仲間だの友達だの、そんな御負けは要らないぜ。」
「・・・私に店を出ろと言うのか。」
「噫、仲間想いは結構だけどよ。そんな温い事言ってると全滅しちまうぞ。俺様が見るに、御前一柱で初めから俺様を助けに来ていたら、そんな怪我しなかったと思うぜ。」
ちらと、千斬れてしまった尾を見られ、つい反射的に隠してしまう。
其でも奴の視線は離れない。其の痛みを、代償を刻むかの様に。
「ま、御前がどんな理由で彼奴と組んでるかとか。そんなのは知らねぇから俺様は好き勝手言ってる丈だがな。忠告とでも思ってくれよ。考え方に因っちゃあ、此以上あんな程度の奴を連れてちゃあ無駄死にするかも知れねぇ。其は嫌だろ?」
「・・・噫、其は最もだな。」
考え方か・・・確かに。ソルニアの言っている事は分かり易い、理に適った話だと思った。
結局は自分の所為でガルダを危険な目に遭わせた。
一緒に在りたいと願う事は、同時に一緒に傷付くと言う事で。
其の果ては彼の願いすらも破り兼ねない危険な道だ。
其を背負わせる位なら・・・他のもっと取る可き選択があるとソルニアは言っているのだろう。
確かに此奴の力があれば、もっとあっさり現状の問題は片付くかも知れない。
其こそ・・・ガルダを此以上苦しめずに済むかも知れない。
「ククッ、そんな直ぐ結論は出さずとも良いぜ。でも考えて置いてくれよ。俺様だって真剣に彼の国を潰してぇんだ。だから御前を選んだ。其の意味を少しは留めてくれると有難いぜ。」
「・・・噫然うだな。御前の話も最もだ。考えて置こう。」
ソルニアは何度も嬉しそうに頷いていた。
「まぁ何方にしろ、暫くは其方に世話になろうか。宿無しは勘弁だからな。」
「噫然うだな。帰って緩りしたら良い。ん・・・丁度此方歩の方へ来てるか?」
セレが耳を欹て、遠く見遣るとソルニアもつい視線を追った。
「来てるって何だよ。まさか店が動いてんのか?」
「噫其のまさかだ。屹度店を見たら驚くだろうな。」
ついセレは含み笑いを零し、ソルニアは鼻を鳴らした。
確かに此奴の居る様な店だ。普通じゃなさそうだが。
「ほら彼方の方だ。良く見れば御前も見えるんじゃないか?」
「ん、ん・・・何の辺なんだ?」
セレが指差した方向へ一歩進み、背を伸ばす。
「・・・あ、」
不意に、声は漏れた。
違和感を覚え、上げていた視線を下ろす。すると絳黔く零れる刃が見れる。
其の刃には、見覚えがあった、今し方、自分の視線を奪った・・・彼の手に。
だが其は今や遥か先を指すのではなく・・・自分の・・・胸元を、突き抜けていて、
其処迄現状を理解して、でもソルニアは、果たして自分の身に何が起こっているのか其自体の理解は出来なかった。
状況が追い付かない。まるで自分丈時が止まっていた様に、周りの時丈が有り得ない早さで巡っている。
いや、其より此は・・・此は一体、
「な・・・、何を、しやがる。」
何とか声を絞り出すも、其は信じられない位嗄れていた。
でも聞かずにはいられない。今自分の背後に居る筈の其奴へ問い掛けないと。
何故、御前が俺様を攻撃する。こんな背後から、胸元を一突き、
狙い澄ませたかの様な鋭い殺意が返事の代わりに伝わって来た。
まさか、まさか彼奴が宿していた殺意は・・・全て、俺様に向けて、だったのか。
そんな馬鹿な、そんな・・・おかしいじゃないか。
如何して俺様と此奴が敵対する。俺様達は同志の筈だ。其の為に御前は俺様を出したんだろう。
躯が急激に重くなり、まるで自分の物じゃない様に感じる。封印されていた彼の時よりもずっと、躯が重い。
其でも何とかソルニアは首丈巡らし、背後に居る筈の彼女を見遣った。
其処には、矢張りと言う可きか・・・セレが居た。
自分の背後ぴったりにそして・・・左腕を真直ぐ俺様へ伸ばしていて。
躊躇もなく、俺様の胸を・・・貫いている。
でも貫いていたのは刃丈じゃなく、奴の瞳も又、俺様を逃すまいと睨め付けていた。
じっとまるで獲物を見る様に。
おかしい、おかしいおかしい、そんな事、ある訳ないのに、
「・・・御前の、先の問いに対する私の答えだよ。」
薄く唇が開き、静かにセレは告げた。
其の頬は薄く上気している様で、瞳はより残虐な色を宿す。
「御前の先の問いは、謂わば彼だろう。弱い仲間は足手纏いだ。邪魔になるから斬り捨てろと。」
腕を貫いた儘、彼奴は軽く其を左右へ動かす。
肉を掻き分ける様な音が内側から響いて、其の度に力が抜けて行く。
動けない、縫い付けられたかの様に足が動かない。
其の内息も絶え絶えになって行く。視界もぶれて平衡感覚を失っていく。
一体、俺様に何をした。いやまさか此は、
口を開くももう殆ど声にならず、そんな俺様を見て彼奴は優しく咲っていた。
「私も御前の考えには賛成だよソルニア。だから、私も其を返すんだ。丁度、私も同じ事を考えていたんだよ。こんなに凄い力を持っているのに。私の欲して止まない干渉力、存在力、魔力、全て持っているのに如何してこんなにも低能なのかと。」
世界の音が失われて行くのを感じる。其の閉じて行く世界で、でも彼奴の声丈は響いた。
「だから、私が上手に使ってやろうソルニア、御前の力全て余す事なく喰らい尽くして、然うして全て壊してやるさ。」
失われたと思っていた彼奴の尾が伸び上がり、無数の蛇と化す。
其奴等が俺様を取り囲み、舌舐りをした。無機質な曦の灯らない目を向け、咲っていた。
「今回の目的は情報収集なんかじゃない。宝探しさ。御前と言う餌を見付ける為のな。」
其の言葉を最後に、
ずいと、彼奴の顔が近付き、俺様の首筋に、
牙を・・・突き立てたのだった。
噫、此の味だ。
一気に血を呑み込み、思わず息を付きそうになる。
ガルダの程じゃあないが、中々如何して此奴も美味いじゃないか。
一切身動きをしなくなった肉の塊へ牙を、刃を突き立てる。
念の為未だ左腕は貫いた儘、彼奴に喰らい付く。
此奴の魔力は、其の血肉に宿る干渉力は別格だ。
分かる、自分が満たされて行くのを。欠けていた存在が埋まって行くのを。
甲から生えた蛇達は、ソルニアの甲や水精を砕き、食べ易い様に肉を裂いてくれる。
何て喰い応えのある肉だ。此の儘残らず全て喰らってやろう。
Aに聞いた時から、御前しかいないと思ったんだ。私の存在を埋めるピースは御前丈と。
其は間違いじゃあなかった。こんなにも今の私は満たされている。
御前の唯一の弱点である、心臓を一瞬でも止める事、其を確実に実行するのに何丈準備をした事か。
フィロソフニア族の絶対の弱点、結局は御前も、其丈の力を持っていても此に抗えなかった。
其は、干渉力の使い方が下手だからだ。私ならもっと上手に使ってやれる。
己をそんな種族だとかに縛られず、もっと自由で、何者でもない化物に成ってやる。
此の一撃を決める為にも随分と御前の仲間達にも協力して貰ったんだ。
心臓とは何処なのか、其がどんな物なのか、何柱も何柱も手に掛け、確かめた。
其の上での此の一瞬、此のタイミング、全ては此の時の為の下準備だったんだ。
甘い肉を呑み込む。筋があっても問題ない。寧ろ噛む程味が出る様だ。
内臓も蕩ける様で、臓器一つ一つ特徴があって喰い飽きる事はない。
しつこい様な脂肪も、口の中で溶けてソースの様だ。肉に良く合う。
噫もう如何しようもない、こんな美味しそうに神を喰らうなんて。正真正銘の化物だと何度も植え付ける。
神も精霊も手当たり次第喰らって、何物でもない物へ私は成って行く。
此の血肉全てに満ちるが其の罪の証だ。無数に刻まれた証明だ。
ん・・・噫此が恐らく奴の心臓だな。
ようやっと引き抜いた左腕にぶら下がる其、貫かれたので破裂してしまって原型を留めていないが。
こんな分かり易い弱点を持っていて、御前こそ随分油断たな。
其が強者としての奢りか、外へ出られた喜びに麻痺していたか。
何にしても、迚も上手く行った。クルスに見付かったのは誤算だったが、其以外は計算通りだ。
此の力さえあれば、自分は・・・、
屑肉の様になった奴の心臓へ齧り付く。
其の甘さに溜息を付きつつ、自分の中の何かが、創り替わって行く感覚に目を閉じる。
まるで蛹から羽化する様に。でも其の羽化した何かも不確定な様で、其迄と全く異なる姿に、其の存在すら疑うだろう。
・・・自分は此処迄来たぞ。こんなにも変わり果てて、でも未だ此処に居る。
彼奴の存在全て全て喰らい尽くし、契約で繋がった枷が、其の魂迄も捕らえる。
私の存在をもう少し繋ぎ止められれば、此の不安定な力から脱却出来る。使い熟せる様になる筈だ。
然うしてやっと自分が踠いていた意味が見えて来る。其の先を見られるんだ。
粗方喰い終わった所で早くも自分の姿に歪が生じるのを感じた。
此奴の存在力が、自分を歪ませ、存在足らしめようと足掻く。
肩が僅かに痛んだ気がして、少し背を丸めると・・・透明の曦が走った。
血と共に吹き出した其は細く伸び、自ら曦を発する。
一瞬骨でも出たのかと焦ったが、良く見ると其は水精の様だった。
透明の、冷たい陰霖を集めて固めた様な、黔く血が伝い乍らも染まらない水精は透明に光って。
そんな物が両肩から突き出していた。そして其の水精の上部に文字の様な物が揺蕩い、螺旋を描いて行く。
此は・・・魔力の形だ。まるで本の虫みたいに、魔力に形が与えられて何か形成されている。
スペルとも言う可きか、一見では読み取れない其は時折瞬いたり、歪んだりを繰り返していた。
そして気付けば肘から突き出していた甲も其に置き換わり、膝にも光る物が過る。
随分刺々しくなったが、此は彼奴にも生えていた水精なのだろうか。
似ているが、構造は丸切り違う。此は波紋を広げてより詳細に、鋭敏に感じ取ってくれていた。
此が、望んで得ると言う事なんだろう。
自分がソルニアから獲得した物だ。自分の知らない物を見せてくれた形が、斯うして現れている。
矢張り、刺激は必要か。自分と言う個が知り、思考し、進化するには想像も付かない変化が大切なのだ。
然う言う意味でも可也収穫は大きかった。御蔭で前より自分が安定するのを感じる。
うん、矢っ張り此方の方が御前も役に立つじゃないか。
彼の儘仲間にして引き入れる気は更々なかった。大き過ぎる力は必ず周囲を歪ませる。
其はリスクが高過ぎたんだ。メリットを塗り潰してしまう位。
だから喰らった。彼奴の手綱を握れる様に。
斯うして喰らってしまえば、彼奴は随分と大人しくなった。此なら御し易い。
まぁ、其に御前は赦されざる愚行を犯した。だから此の結果は妥当だろう。
御前はガルダを貶した。蔑ろにしたんだ。御前何かが比べて良い存在じゃあなかったのに。
だから言わば此は御前自身が招いた物でもあるだろう。だったら、もう言う事は無いな。
「セレ、大丈夫か⁉」
遠くの声につい耳が動く。瞬時に蛇と化していた甲は元に戻り、そっと道を開ける様に一つに束ねられ、大人しくなった。
翼が傾ぎ、緩り振り返る。するとガルダがレリーシャ=ガーデンから飛び立ち、真直ぐ自分の前へやって来ていた。
「如何したガルダ。別に私は何も無いが。」
何だか随分息が上がっている様で、彼の胸は激しく上下していた。
其の中でまじまじとガルダは自分を見詰め、其の目がより大きく見開かれる。
「・・・、セ、セレ、ソルニアは・・・、」
「噫彼奴なら喰ったよ。」
あっけらかんに答えると、彼は息を詰まらせた様に硬直した。
そして緩りと瞬いて、一歩自分に詰め寄った。
「喰ったって・・・如何して、」
「如何しても何も、初めから其のつもりだったからな。」
話せば、屹度優しいガルダの事だ。僅かにでも其が素振りに出てしまっただろう。
彼奴だったら其丈で気付かれ兼ねない。だから無理に言う必要もないと話さなかったけれども。
「セレ、若しかして御前が最初に言ってた、見たくない物を見るとかって、此の事か。」
「噫然うだ。斯うする事は決まっていたからな。助けて置いて殺すなんて、一体如何御前の目に映るだろうと思ったんだ。」
「其で其の水精とかが喰った証なのか・・・、」
「然うだな。多分他にも。ガルダ、其より如何して急に此方へ来たんだ?何かあったとかじゃないのか?」
明らかに素っ飛んで来た感じだったからな。てっきり榔ともう少し話して来ると思いきや。
「何か予感と言うか、大きな力を感じたんだよ。クレイド§スフィア迄届いたから何事かと思って。」
「成程若しかしたら其は私の所為かもな。私の力と、ソルニアのが一つになったから。」
淡々と続けるセレに、思わずガルダは生唾を呑み込んだ。
何か違う。然うだ、此の感覚は、
確かに今斯うしてセレの前に立って良く分かる。彼の伝わって来た悪寒の出所は此処だ、と。
そして彼女を前にして此の気持を正しく理解する。
然うだ此は・・・彼の時にも感じた。
畏怖、だと。
此迄彼女に抱いたり、焦がれていた様な懐いとは一線を画する、そんな気持。
絶対の命名、明らかな上位存在。同じ神として見てはいけない様な。
そんな、曦にも似た感情が芽生える。
「・・・?ガルダ、如何した。何か、」
言い掛けてセレは不意に目を閉じた。
ガルダが此の力に気付いて来たと言う事は、其丈、力が漏れ出てしまっているのだろう。
其は良くない。恐らく今も其の力に当てられているし。
翼を仕舞う様に、意識を沈めて行く。
不必要に外に出す事はない。もう存在は証明されたのだから。
少しずつ肩だとかの水精が小さくなり始めた。
中へ収まって行く丈の様に見えて、其の儘空中へ溶け出す様に消えて行くのだ。
・・・うん、翼や尾と同じ様な具合だ。意識を向ければ何とか消す事は出来るらしい。
只がっつり飛び出していたから又オーバーコートが破けてしまったな・・・。
何気ちょくちょく補修して貰っているから何だか申し訳ない。
「・・・如何したガルダ、此で問題ないと思うが。」
「え、あ、噫、何時も通りのセレだと思うけど。」
「うん、其なら良かった。」
然う言って軽く微笑む彼女は何時も通りの笑顔を俺に向けてくれた。
其の笑顔は確かに何時も通りなんだろう。でも先の彼の感じは、
酷く・・・懐かしかった。
「ソルニアを喰った事で力加減が増していたんだな。御蔭で存在力が増している。其が先はだだ洩れになっていた様だ。」
普段、然う意識しないと存在を保つのも厳しかった。
其が・・・可也自然に近い形で問題なく動作出来る。
何となく手を握ったり、開いたりと繰り返す。・・・変な感じだ。前程悍く意識しなくても、存在する。
当たり前みたいに、此処に・・・居る。其はまるで赦されているみたいで。
そんな事有り得ない筈なのに。でも・・。嬉しい様な、変な心地だ。
若しかしたら酒とかも前より飲める様になったかもな。恐いので当分は飲まないけれど。
前みたいに存在がぶれる様な、意識が途切れる事は減っている気がする。
「・・・何だか、楽になった心地だ。息がし易くなった様な。」
「其は・・・良かったけど、でもまさか喰う気だったなんて。」
「情報と言っても彼奴はずっと地下に居ただろう?そんな奴が碌な情報持ってるとは思わなったし、持っていてももう随分古い物だから真偽は怪しいと思ってな。其に、勝手に暴れられても困る。」
「まぁ、確かに然うかも知れないけど。」
未だガルダは何処か戸惑っている風だった。まぁ其迄普通に話していた奴が行き成り死んだらそんな風にもなるのだろうか。
だから、一柱で行きたい気もあったけど、でも・・・、
不意に彼奴の言葉を思い出す。自分一柱でクルスティード尖塔に行けば、怪我なんてしなかったんじゃないかと。
事実其は・・・否定出来なかった。
でも果たして其で今と同じ成果を得られたか如何かは分からない。何がどんな因果に触れるのかは、過去を覗いている丈じゃあ分からないんだ。
だからソルニア、矢っ張り御前は間違っているよ、間違えたから今の御前は此の様なんだ。
「・・・うん、でも其でセレが元気になったなら良い事かな。」
「ん、ガルダ。言いたい事があるならちゃんと言った方が良いぞ。」
ガルダに否定される事前提で此方だって言っているんだ。
中途半端な肯定は何処か歪みを生みそうで、そんな事はしたくない。
誤っているなら、ちゃんと否定して欲しい。其の為に御前は居るんだろう。
「そりゃあやった事は素直に褒められた事じゃないけど、でも此でセレが一寸でも楽になれたなら、其は良かったと思ってさ。」
「・・・良かった、か。」
其は肯定の言葉じゃないか。其で、良いのだろうか。
自分でやって置いてって思われるだろうが、其でも。
「セレ、俺もずっと考えてたよ。今も、考えてるけど。でも俺の言う綺麗事ばっかりじゃあ駄目だって分かってる。其に時々俺が考えてる道は、多分選べないだろうって・・・分かってる。」
「ガルダ、其は何の事だ?」
思い当たる答えが無くて、直ぐ口を挟んでしまったが、彼はゆるゆると首を左右に振った。
「いや、今は・・・言う必要が無いよ。余計な選択肢だろうからさ。只俺は良いも悪いも含めて呑み込もうって、受け入れようって思って。」
「だから今回は一緒に来てくれたのか。」
「・・・うん、止める丈で、でも其じゃあ結局は何も変わらないのは俺も分かってる。寧ろ一緒に行って分かったよ。俺とセレの間にはこんなにも差があるって。」
差、其は何だか遠ざけられたかの様な心地になって、思わず息が詰まりそうになった。
・・・聞きたくない。ガルダの口から言われた其は思ったよりも苦しかった。
自分でした事の代償の筈なのに。如何して、しっかりと受け止めなきゃいけないのに。
苦しいだなんて思うのは傲慢だ、然うだろう。其は己の身可愛さ故の懐いで、彼の事些とも顧みていないじゃないか。
「・・・ガルダ、私は、」
「だからセレ、俺も改めて言うよ。セレの隣に居たい。一緒に戦うなら然うしたい。やりたい事があったら、一緒にする。だから此以上、一柱で遠くに行かないでくれ。」
「・・・・・。」
一緒、一緒か。然う・・・懐ってくれるのか。
こんなにも化物に変わり果てたって言うのに。其の上で、
・・・然うだな。ガルダに正しさを押し付けるのは、いけない。其じゃあ互いに苦しくなるのは分かっている。
彼を皓い儘で居させたい、黔い事は全て自分で背負おうとしたけれど、其はエゴだって気付いている。
自分が最初に正してくれと縛ってしまった。彼の時は其が少しでも彼にとっての免罪符になればと思ったけれど。
其の枷を彼が厭うなら、自分は解かないといけないんだ。
・・・願う事は、屹度互いに同じなのだから。
「・・・噫大丈夫だガルダ、ガルダが一緒に居てくれるなら、一緒に居る事を赦してくれるなら私は、屹度私の儘だから。」
自分の答えに、薄く彼は咲う。
其の水鏡に似た瞳に、自然と安堵する。此の新たに得た力より、ずっと其の皓は何時も安らぎをくれる。
此が、見護られていると言う事ならば、其に照らされた道を私は歩みたい。
そっと彼の手が自分の髪に触れた。撫でる様に其の手を擦り抜ける。
「・・・セレ、食べたばっかだから。要らないかも知れないけど。」
「いや、私も今丁度そんな気分だった。何処か適当に入ろうか。」
口の中に僅かに残る彼奴の味を忘れる様に。
負の証明として私は又彼に傷を刻むんだろう。
けれど、其は屹度今の自分には必要な物で。
何処か冷たい幽風に足を乗せて、二つの影は水鏡明かりを背に飛び立つのだった。
・・・・・
塔から解き放たれた獣は世界に吼える
皓を壊せと、其迄より高らかに
解かれた獣は、でも気付かない
新たな鎖が頸に掛かっている事に。其の鎖の先に居る化物に
憐れ喰われた獣は其でも吼える
道化の様に遠吼えしても、もう応う者はいないと気付く日迄
噫、結局殺しちゃった。そんな話でした(最悪な幕引きだ)。
前々から出したいなぁと思っていたソルニア君、実は彼の未来は色んなパターンが予想されていました。
其の何もがセレに利用されるおちなので、一応今回のは其の中では結構良心的な終わりです(ガルダ君が居たからね)。
大分セレのやり口も汚くなって来たし、個人的には迚もわっくわく書かせて貰いました。あースッキリした!
そしてぼちぼち光の国にも手を出して来た感じです。ガルダ君の出番も増えて来ました。今後も頑張って貰いたいですね。
そんな中、次回は多分結構長くなる予定です。長くなると言っても二つに分割する程度だとは思いますが、其でも出すのは一寸先になっちゃうかな・・・?と言う心地ですね。
次回は割と過激なストーリーになる予定なので、気長に御付き合い頂けたらと思います。
最後に今回は個人的に好きな誤字も出まして・・・折角なので此処に恥晒しと称して残して置きましょう。
「所で、御前は今後如何する気なんだ?」
女王収集も終え、セレとソルニアは一息付いた所だった。
粗最後の方なんですが、セレと生前ソルニアの御話ですね。
女王収集って何だか楽しそうです。寧ろ其をやりたいと強く願ってしまった・・・。
正しくは情報集でした。ふ、普通だ・・・。
「私はガルダの願いの為に居る。在る事を望んでくれたから、だから、私も其を叶えたい。同じ願いを・・・持っていない。」
嘘偽りのない懐い、此は御前にしか向けられない。
如何すれば御前に伝わる。御前に此を残せるか。
一寸分かり難いかも知れませんが、台詞のラストがとんでもない事になっちゃいました。
ガルダと誓い合う最後の大事なシーンですが、此のミスに気付いたのが投稿する直前だったのでもう吃驚です。
勿論正しくは「持っていたい。」ですが、ナチュラルに否定する冷酷セレさんに筆者の自分も吃驚しました。
次回もこんな愛す可き誤字に出会える御縁があります様にと願いつつ・・・又会える日迄皆さんも御元気で!




