68次元 皓き焔よ応う詠は誰への証か求めん次元Ⅱ
さぁやってまいりました後半戦。
因みに如何でも良いですが、此の前書を書いている本日、とある宗教の勧誘を受けましたので笑顔で「私が信仰しているのはセレ神丈なので…。」と対応させて頂きました。
其の御蔭か如何か、すんなり諦めて行きましたが、まさかあんな邪神を信仰しているとは露とも思わなかったでしょう…。
若しも彼の後セレ神って何だろうって検索されて身バレしたら、其は其で素敵なドラマが生まれそうですね。
然うです、自分の創作物を信仰している痛い作者は私だ!と声高々に宣言しようと思います。
皆さんも信仰の自由はありますので、若しも御気に召す子が居たら祈ってみる価値はあるかも知れませんよ?何処かで微笑んでくれる・・・かも知れません。
一方其の頃、セレとガルダはとある洞窟の入口で立ち往生していた。
と言うのも、此の洞窟の奥から次元の主導者の気配はするのだが、如何やら先客が居る様なのだ。
其が又随分と大柄で加えて何やら立て込んでいる様なので、斯うして二柱は入口に隠れて見護っていた訳である。
「セレ、彼如何する?突っ切るのは一寸きつそうだよな。」
「然うだな。話が通じる奴だと良いが。」
「そんな面倒なタイプの奴なのか?」
入口近くの岩に隠れ、何度かガルダは顔を覗かせる。
セレの波紋が大して使えない今、斯うした目視での情報が貴重になっているのだ。
今二柱の前に居るのは二頭の龍。其が向かい合って対峙している様に見えた。
一方はエルゾラスト、全長5mの嵒属性の龍で、甲殻類を思わせる外殻をしている。
海老に少し似ていると言う可きか、二本の鋏の様な手を持つが、片方は筒状の大砲に似た形をしており、もう片方は何か掬える様な椀の形になっているのだ。
そして胴の半分程が大きな扇状の尾の様になっており、菱形の胴と尾の間を一つの水精が繋いでいる。
此の龍は洞窟等を根城とする性質があり、岩を削っては地中の魔力を吸収して成長するのだ。基本は大人しい龍だが、摂取した魔力に因って特性が微妙に異なると言う。
だから恐らくは此の洞窟が此の龍の物だったんじゃないだろうか。其処へもう一頭が立ち入ったとか。
大人しい龍と言えど、自分のテリトリーに入られては黙って見過ごす事は出来ないだろう。其で揉めているのなら分からなくはない。
只如何して此の龍と揉めているのかが謎なんだよな・・・。
其の龍はランドール、4mの二足の龍で、聖属性になる。少し兎を思わせる顔付きで、垂れた二本の耳の先には丸い水精体が付いている。
両腕は大きく鋭利な爪を宿し、其が彼の主な武器だと察するのは容易だ。そして背には変わった薄い金属板の様な物が浮いており、彼が鰭の様に揺れて辺りの魔力等を感知しているのだ。
此方の龍は非常に温厚で、争いを好まない。懐い、を汲み取る力に長けているのだ。
そして懐いの籠った地や物を好み、護ろうとする性質を持っている。
其に因って良く城だとかの宝や、或いは城其の物を護るとして、兵達と一緒に居る事もあったりする然うだ。
基本護る事以外は無関心であり、護る事自体も本能で行っている側面が強い。だから共生とかとは少し違った形になるが、互いが干渉しないと言う形で共存するケースがある然うだ。
「如何なんだセレ、龍の事は分かったけど、彼何が起きてるんだ?」
「然うだな。エルゾラストの縄張りに彼奴、ランドールが入って来たんじゃないかと思うが、一体何の用だろうな。」
二頭を包む空気は余り宜しくはない。正に一触即発と言った所だ。
実際小競り合いはあった様で、近く岩だとかは割られた跡がある。互いに譲らないのだろう。
「まぁ一寸様子を見て事情を聞いてみるか。」
「事情ってセレ、そんなあっさり、」
「危ない龍達ではないし、大丈夫だろう。」
残念乍ら波紋を殆ど使えないので其以上の情報が入って来ないのだ。
若しかしたら洞窟の奥に何かあるのかも知れないが、見ている丈では判別出来ないな。
そっとセレが岩場から出て近付くと、両手を振り上げて威嚇していたエルゾラストが気付いた様だった。
―又侵入者!何の用、此処、俺の家!―
片言のテレパシーが届くが、如何やら可也御立腹な様だ。
背を向ける形になっていたランドールも気付き、ちらと振り返る。
彼の場合、何を考えているのか少し分かり難い表情をしている。何かしたい事があるのだろうが。
「邪魔して済まない二頭共。でも如何したんだ?一体何があったんだ。」
ずかずかと二頭の間へセレは近付くので慌ててガルダも駆け出した。
あんな巨大で素性も知れない相手に良く姿を晒せる。彼女は本当に龍を恐れないのだ。
―知らない、此奴行き成り家、やって来た!帰れ帰れ!―
「矢っ張り此処は御前の縄張りなんだな。其処へ入るのは良くないんじゃないかランドール。」
然うだと言わん許りにエルゾラストは大きく腕を上下に動かした。ランドールはセレの方を見詰め、何歩か近付いて来る。
そして彼も何か言いた気なのだろう、セレに身振り手振りで何かを訴えて来た。
「ファボ、ファルム。フシャールル。」
特徴的な鳴き声で、彼も必死な様だ。彼はテレパシーを持たないので何とか大仰に伝えようとしているみたいだった。
何を言っているのかガルダにはさっぱりだが、じっとセレは聞き入っている。
結構彼女は龍語に堪能だ。何度か頷いている様だったが。
「セレ、何て言っているんだ?」
「・・・如何仕様かガルダ、半分位しか分からない。」
「まぁ半分分かった丈でも凄いと思うけど。」
困った様子の彼女だが、彼で理解出来ているなら十分じゃないだろうか。
「取り敢えず此奴は、何か護っていた物があったらしいんだ。其を・・・取り戻そうとしている、みたいな。」
「成程、其を此奴が持っているとか?」
―知らない知らない!俺、何も持ってない!―
エルゾラストは手を打ち鳴らして一つ吼えた。ランドールも一歩下がるが、未だ去る気はないらしい。
「ランドール、如何したんだ。何かしたい事があるのか?」
「フシャルル、ファオー。」
何かは訴えてくれているんだけれども・・・。
じっと彼の言葉に耳を傾けるが・・・中々しっかりとしたイメージが伝わって来ない。
魔力の乱れだとかも関係あったりするのだろうか。何とももどかしい・・・。
「何かを護りたいって言うのは何となく分かるんだが・・・。」
「ファ、ブ、ファオォ。」
「ん・・・若しかして奥に何かあるとかか?如何だエルゾラスト、此の奥には何があるんだ?」
此の先へ行きたがっている感は何となく感じる、何か彼が求める物でもあるのだろうか。
―此の先、出口丈、何もない。―
「セレ、次元の主導者も彼方の方からするし、此の先の出口に何かあるんじゃないか?」
「然うだな。若しかしたら目的地と近いのかも知れないな。」
通路になっているからランドールは通りたいのかも知れない。其を塞がれたら確かに困るな。
「エルゾラスト、多分此奴は此処を通りたい丈だ。私達も出来れば通らせて欲しいんだが。」
然う言うとエルゾラストは何度かセレ達とランドールを交互に見遣った。
そして変わった形の触角だか突起を小さく動かす。
―・・・御前、通しても良いけど、彼奴、駄目。彼奴、失礼、勝手、入ろうとした!―
「然うか、出来れば折角だし通してあげて欲しいんだが。」
「セレは一発でOKなのにな。」
何となく彼女が通れるだろう事は予想していたけれども。
ランドールも困った様に鳴き声を上げている。
「此奴等を其の儘にして置くのもな。恐らくランドールも然う諦めないだろうし。」
事護るに関しては強情な所もある龍だからな・・・。
―駄目!御前、通さない!―
エルゾラストもすっかり意固地になっている嫌いがある。此は・・・困ったな。
「だったら強硬手段になるが良いんだな。」
「セレ、全部暴力で解決しようとしちゃ駄目だぞ。」
「でも其が一番手っ取り早いしな。」
此方は万全ではないにしても、此の場を口丈で鎮めるのは厳しいだろう。
―御前、如何して其奴、味方、する!―
「ん、味方じゃないぞ。どうせ私達が行った後御前達はやり合ってしまうのが目に見えているからな。其を止めたい丈だ。」
―物好きな奴、行き成り御節介。皆纏めて、やってやる!―
随分と怒らせたみたいで好戦的だ。彼には申し訳ないけれども無理矢理通らせて貰おう。
「来るか。行けるかガルダ。」
「俺は大丈夫だけど、セレの方こそ大丈夫か?」
術が使えないとなれば体術に限られてしまう。
可也厳しいだろうが、やれなくはないだろう。
「大丈夫だ。此方で行くぞ。」
晒全てを取っ払い、窮屈だった翼も尾も広げる。
相手は大物だが、其なら此方は小回りを利かせれば良い。
「っ然うだな。俺も一寸出して行くぜ。」
彼の背にも皓い翼が備わり、爪が異様に伸びて行く。
・・・生命力ってそんな使い方も出来るのか。自分は零星も出せないが、彼なら武器として十分だろう。
「フォオウ。」
セレ達を見て一つ頷くと、ランドールはエルゾラストに向け、爪を振るった。
其を腕を振り上げる事で易々と防がれてしまう。二つの甲と刃が交わって拮抗する。
其処へ向け、セレ達もエルゾラストへ飛び掛かった。彼が動きを止めてくれている内がチャンスだ。
奴に攻めるとすれば、胴の水精か、頭の突起、感覚器官だろう。彼処を狙えば多少のダメージでも大きく怯むかも知れない。
早速セレはエルゾラストの頭へ飛び乗ろうとしたが、其処で眩い閃光が走った。
っまさか此が、
其以上踏み込めずに下がると、目前で幾つか爆発が起こる。其の後も更に曦が走った。
其に因って地が抉れ、砂塵が舞う。ガルダも目元を拭って下がった。
「っ何だ此、」
「エルゾラストの砲撃だ。彼の手から撃って来たんだろう。」
「そんな事も出来るのか・・・。」
確かにランドールと組み付き乍らも、彼の手は時々此方へ向けられていた。
そして筒状の手の先が曦を放ち、弾丸となって放たれる。
「っがっつり攻撃出来る龍なのか。」
「気も立っているし、此処の風土が然うさせてしまったんだろうな。」
地面の様子からして生身で受けたら一溜りもない火力の様だ。彼で牽制されるとなると厳しい。
一応ランドールの能力である程度は抑えられそうだが、如何だろうか・・・。
―御前等、倒す!敵、敵!―
エルゾラストは無理矢理ランドールを突き飛ばすと、セレに向けもう片方の腕を叩き付けて来た。
あんな物で殴られでもしたら、全身の骨が砕けてしまう。何としても避けなければ。
羽搏いて一気に其の場を離れる。其処へ地を震わせて、ハンマーの様に腕が叩き付けられた。
そして直ぐ様曦の弾が弾ける。・・・飛ばずに避けていたら蹌踉めいて彼の餌食になっていたな。
魔力の無い戦い方でこんな苦戦をしてしまうなんて。
最近其方に許り割いていたのが裏目に出たな・・・波紋も弱い所為で、予備動作に気付き難い。
此処迄弱体化されると本当に相手の巨大さに圧倒される許りだろう。大きいと言うのは何かに付けて強みと言う訳だ。
自分も前暴走してしまった時は随分と巨大化していたしな・・・然う言う力の使い方も見直す可きだろうが。
零星さえあれば全て去なす事も、寧ろ相手を翻弄して拘束する事も容易だ。
では其の手段を断たれた今、如何此の場を制する可きか。
「ほら此方だ!」
ガルダがエルゾラストの瓊に爪を掛けた。
小さな引っ掻き傷が付き、エルゾラストの意識が逸れる。
―邪魔だ!っぐあ、―
足元のガルダに向け腕を振り上げた所でランドールに体当たりされ、上体がぐらついた。
「ファブ、フォルル!」
其処に向け、畳み掛ける様にランドールは爪を振るう。エルゾラストの腕に何本か引っ掻き傷が残るが、ダメージ迄は至っていない様だった。
そして反撃と許りに今度はランドールに向け、エルゾラストは弾を発射した。何とか避けようと下がるも、何発か脚を掠めて仕舞う。
「フォルルル・・・。」
「おい大丈夫か!」
蹌踉めいたランドールの傍へガルダが寄ると、追い打ちを掛ける様にエルゾラストは腕を打ち付けて来た。
擦れ違い様にガルダは羽搏いて辛うじて其を去なす。
皓い翼が目立つからだろう。エルゾラストはガルダを捕まえようと腕を上げた。
砲台が彼を捉えて放たれる。曦が散って天井へと刺さった。
其を何とか避けて行く彼の背にパラパラと土が降る。
エルゾラストが所構わず撃つので辺りはすっかり土埃に覆われてしまっていた。
其処へ狙い澄ませたかの様に背後からセレはエルゾラストの頭に飛び付いた。
突起にしがみ付き、爪で斬り付けてみる。
―っ放せ!其処嫌だ、触るな!―
一瞬遅れて気付いたエルゾラストは頭を振るが、其の程度では振り払う事は出来ない。
しっかりと二又の尾で突起に巻き付いているからだ。堅くはあるが、少しずつ傷は付いて行く。
―っぐう・・・。―
「如何だエルゾラスト。もう止めにしたらどうだ。」
―離れろ!嫌、嫌!―
エルゾラストは突然壁に向けて突進を繰り出した。
急ぎセレは尾を軸に身を翻す。虚しく壁に頭をぶつけたエルゾラストは一つ唸った。
一瞬離れたかと思えば又セレがしがみ付いているのだ。迷惑そうに頭を振る。
此奴、中々強情だな・・・そろそろ諦めて欲しいのに。
頭を触られるのが余程気持悪いのか、エルゾラストはガルダ達には御構いなく頭を振ったりと大忙しだ。
自分でも余り触りたくないのか、両手を使う事もしない。気を付けていれば乗り続ける事は容易い。
一応振り落とされない様に注意丈して・・・、
次の衝撃に備えてセレが身構えていると、突如エルゾラストはぴたりと動きを止めた。
そして何を思ったのか背を伸ばす様にして固まっている。
若しかして・・・やり過ぎてしまっただろうか。
一寸不安になって手を止めるも、エルゾラストは固まった儘だ。
「・・・?一体、如何しちゃったんだ?」
其の姿はガルダ達にも不審に写り、つい様子を窺う。
皆が見護る中でエルゾラストは大きく一つ身震いした。
―いけない、彼方、良くない力、ある。―
然うして洞窟の奥をじっと窺う様に首を伸ばした。若しかして何か居るのだろうか。波紋が殆ど使い物にならないのではっきりはしないが・・・。
「エルゾラスト、奥に何か居るのか?」
今目の前の自分達よりも注意を向けるなんて余っ程だ。
見るとランドールも同じ様に少し背伸びして奥を見ている様だった。
一体何を感じているんだろう・・・駄目だ。魔力の乱れの所為かはっきりしない。
―御前達、本当に此の先、行くのか?―
「ん、噫、次元の主導者の所へ行かないといけないからな。」
―次元の主導者・・・然うか。―
何だかすっかり大人しくなってしまった。・・・本当に殴り過ぎてしまったか?
―好い加減、御前降りろ。―
「お、じゃあ通してくれるのか?」
―本当に通りたい、未だ、然う思う?―
其は如何言う事だろうか。取り敢えず嫌がっているし、降りてみるか。
セレがエルゾラストから降りると、今一度彼は全身を震わせた。余程頭を触られるのが嫌らしい。
―此の先、良くない。危ない。行かない方、良い。―
まるで忠告してくれる様に両手を上げ下げしてエルゾラストは何度もテレパシーを伝えて来た。
すっかり戦意は削がれてしまった様子だ。そんな異常事態が起きているのだろうか。
「何か、起きてるのか・・・?」
「其なら猶更行かないと。其を止めるのが仕事かも知れないし。」
「然う・・・だよな、寧ろ早く行った方が良いか?」
―止める?彼、止めてくれる?―
「何か困っているなら聞くぞ。何が起きているか教えてくれないか?私達の仕事と関係あるかも知れないし。」
―彼方、良くない力、溢れてる。此の儘、良くない。全て、又燃える。―
「フォルルッ、フォッ!」
まるで同意する様に声高くランドールも鳴いた。
良くない力・・・黔日夢の次元の事だろうか。燃えてるだなんて、何か居るのではなく、何らかの事が起こっているのか?
「何だ、何があるんだ?向こうに良くない物があるのか?」
―良くは知らない。でも良くない物、火、危ない。―
「取り敢えず行ってみないと何とも言えないか・・・。確かめて来るから通してくれるか?」
―・・・御前も、彼の所、行く?―
エルゾラストが顔を向けると、ランドールは何度も頷いた。
然うなのか。ランドールも彼の力に何かを感じているんだろうか。
若しかしたら彼が護りたい物と何か関係があるのかも知れない。其で何とか此処を通ろうとしたとか・・・。
エルゾラストは悩む様に何度か手を揺らしていた。そして決意した様に一つ頷く。
―分かった。じゃあ通れ、彼危ない。止めて欲しい。―
「有難う。悪いな、攻撃してしまって。」
エルゾラストはセレに顔を近付けると、一つ鼻を鳴らした。
あんなに渋っていたのに通してくれるなんて、余っ程此の先は不味いのか。
「ブロォ、フフル。」
ランドールもエルゾラストとセレ達に一声鳴き、洞窟の先へ進んで行く。
怪我は・・・大丈夫然うだな。足取り軽く進んで行く。
「ガルダ、私達も行こう。若しかしたら目的地は同じかもな。」
「然うなのか・・・。気を付けて行こうな。」
危ないと言う事なら急いだ方が良さそうだ。折角翼も出しているので飛んで行こうか。
セレが羽搏くと慌ててガルダも其に倣う。あっと言う間に先を行ってしまったランドールの背も追い越して行く。
思っていた以上に広く大きい洞窟の様だ。すっかり視界は闇に覆われてしまう。
波紋だから一応見えるが、此、ガルダには厳しいな。
「ガルダ、大丈夫か?明かりでも創った方が良いんじゃないか?」
「こんな不安定な所で術は使わないよ。大丈夫、気を付けて飛ぶからさ。」
「然うか。確かに先よりきつくなってる気がするな。」
波紋の範囲も狭まっている気がする。まさか力って此の事なのだろうか。最悪目を潰して魔力に充てる可きかも知れないが。
此以上響くなら盲目に戻ってしまうし、然うなる位なら。
「フブル、フォォ。」
「ん、わっ、付いて来てんのか。」
思わずガルダの翼が大きく傾ぐ。彼の鳴き声がしたと思ったら、直ぐ後ろ迄ランドールも走って付いて来ていたのだ。
ガルダの翼が気になるのか鼻先を向けるが、其の息が掛かって少し擽ったい。
「御前と目的地は一緒かもしれないな。」
「フフ、フォォ。」
「次元の主導者を護っていたなら凄いけど・・・。」
一体其って何だろう。此の先で、何が待っているのか。
でも・・・其を奪われたか何かしたって、セレの通訳だと言っていたんだよな。其も引っ掛かる。
「こんなの連れて来たら皐牙は嘸吃驚するだろうな。」
「確かに、彼奴なら喜びそうだけど。皆如何してるかな・・・。」
「恐らく次元の主導者を目指してるのは一緒だと思うぞ。余っ程の事が無かったらな。前も似た様な事があったし。」
「そっか。後はせめて三柱一緒だと良いけど。」
話していると遂に小さな曦が奥から灯って来た。
出口なのだろう。やおらランドールの足も速くなる。
さて、後は彼の先で何が待っているか丈だが・・・。
・・・・・
「こんな奴如何すりゃ良いんだよ!」
「ちょ、音を上げるには早いですわカーディ神さん!」
「っても、やれる事なんて・・・。」
一方其の次元の主導者の元へと辿り着いていた三柱はと言うと、リンカーネアにすっかり苦戦を強いられていた。
頓リンカーネアは此方の術や技を反射して来る。加えて其を突破する丈の力が此方には無い。
術が制限されているのが厳しいのもある。其なのに相手はばんばん使えるし・・・。
皐牙は一つ大きな溜息を付いた。明らかに疲労の色が出ている。
オレだって此の焔を扱える自信はない。だから如何しても日和ってしまう。
御負けに彼の声がどんどん強くなっている気がして、オレにしか聞こえないのが不思議みてぇだ。
そしてオレにずっと・・・取り戻せって、彼は彼奴が持つ可きじゃないって、訴え掛けて・・・。
・・・くそ、まるで彼の日みたいに、オレを責めるな。
オレはあんな事、したくなんかなくって、
嫌だったのに、其なのにやれって、
—————殺せ。
・・・不意に心臓が跳ねた気がした。
止めろ、オレは、オレは殺したくなんか。
—————殺せ、其の焔で。
—————燃やし尽くせ、命を。
—————罪の証を、示さなければ我等は、
「止めろっつってんだろ!」
吼えると同時に眩い程の曦と焔が皐牙から放たれた。
其の輝きは焔ではなく、燃える零星其の物で、つい目を奪われそうになる。
―ほぅ、更に輝きが増しておるぞ。一体何で燃えておるのだ。―
「おい、大丈夫なのか。」
「っ・・・問題ねぇよ。」
ケルディはそんな皐牙に近付きたかったが、焔が激し過ぎて其も敵わない。
焔が彼を中心に周りに散ってしまっているのだ。此では如何仕様もない。
でも先から皐牙の様子が怪しい事には気付いていた。何か苛立っている様な、暴れてしまっている。
焔に呑まれなきゃ良いが・・・。狐火であるケルディは、種類が違えど焔の恐ろしさを良く知っていた。
特に彼の焔は危険だ。力が大き過ぎる。神の焔と言われる丈の事はある様だ。
村の風習も然る物乍ら、其を抱えた儘彼は立てるのか。
ケルディが心配そうに見遣る通り、皐牙はある景色と現実が混ざり掛けているのを自覚していた。
其は遠い昔の記憶、彼が神へと其の身を窶す根幹となった日。
此の場所、村の中心の広場で・・・其は起こった。
オレの前に、こんな龍じゃなくて彼奴が居て、
嬉しそうに両手を広げて、咲っていたんだ。
Ψ皐牙の力に成れるなら、そんなに嬉しい事はないよ。Ψ
彼の時と同じ声音で、耳元へ擦り寄って来る。
一緒だ。焔の声は変わらずにオレを彼の日へ閉じ込めようとする。
Ψさぁ皐牙、早くして?皐牙の焔は特に勁いんだから、早く抑えないと。Ψ
彼奴の腕に、彼の腕輪が掛かっていて、手を振る度に其は輝いて。
手を振る様子が、もう御別れを告げえるかの様で、オレは動けなかったんだ。
然う、オレの焔は・・・一寸激しいと言うか、一寸した感情の揺れで出て来てしまう事があった。
だから、其を鎮めるのは自分の役目だって、彼奴は幼い頃からオレに言ってて、
ようやっと其の時が来たって、其は嬉しそうで、
如何して咲っていられる。もう会えなくなるんだぞ。昨日迄出来ていた当たり前の事全て・・・無くなるんだぞ。
其で良いのかよ・・・御前にとって其の程度だったのか。
オレに殺される事の方が重要で、大切だって言いたいのか。
そんなの・・・オレは、如何すれば良いんだよ。
オレ丈我儘言ってるみたいで、でも当たり前の事の筈で。
オレは其の時になる迄、現実を理解していなかったんだ。
てっきりオレは、皆何事もなく此の儀式を終えていたからそんな物なんだと思って。
でも・・・そんな訳ないよな。仲間を殺して、平気な訳、無かったんだ。
然うやって咲える奴の方が、余っ程おかしいってオレは思うよ。
いざ其の時になったって、出来ない。此の焔で・・・殺すなんて。
出来る訳、ねぇだろ。
強く皐牙が目を閉じると、途端より激しく其の全身が燃え始めた。
皓い焔がまるで火柱の様に立ち昇る。
噫、彼の時もこんな風に燃えてしまったんだ。
オレは焔を鎮められなかった。所か彼の時、オレが激しく拒絶したから、焔は暴れた。
そして結局全てを呑み込んじまったんだ・・・。
火に舐められて景色が変わる。其の先でオレは・・・、
噫見える、見えてしまう。克ての景色が、彼の地獄が、
Ψ皐牙は優しいから仕方が無いよ。Ψ
仕方なくなんか・・・無い。
Ψ良いんだよ。皐牙が残ってくれれば、罪は消えない。Ψ
不意に弾かれた様に顔を上げた。
罪、其は・・・此の地全てで、オレの存在其の物で。
其の焔を抱いて、オレは又こんな所に何も変わっていない儘来てしまって。
Ψ其は違うよ皐牙。皐牙は其の儘で良いんだよ。君は罪の象徴なんだから。Ψ
罪の・・・象徴。
そんな物、背負いたくなかった。其は・・・矢っ張り我儘だったのか。
オレの在りたいと思った姿は、在りもしない幻想だったのか。
Ψはは、皐牙は変な事考えるね。違うよ、此で良いんだよ。Ψ
声に誘われる儘に焔は揺れる。オレを導こうと燃え上がる。
Ψ僕達は君に、罪を押し付けて楽になったんだから。Ψ
・・・?楽に・・・?
「カーディさん如何したんですの。何だか先程から様子が。」
近付こうとしたカレンの目の前で焔が弾ける。
此じゃあ近付けない。特に先から焔は随分と不規則で、まるで意思を持つ様に跳ねるのだ。
其の焔の様子からも、何らかの事が今の彼に起こっているのでは、と思えてならないが・・・。
「楽って・・・如何言う事だよ。」
譫言の様に皐牙は口を開く。
彼の目には何が写っているのか、でも其処には屹度カレン達は写っていない。
下手したら目の前の龍ですら・・・見えていないのかも知れない。
Ψ楽って、其の儘だよ。君一柱に全部押し付けた。Ψ
罪を、オレに押し付けた・・・?
Ψだから君丈が残ったんだ。君丈が焔を受け継いだ。だから、Ψ
焔が渦を巻き、道の様に伸びて示す。
Ψだから、より罪を重ねて、より焔を輝かせて。彼奴を燃やして、証を取り戻そう?Ψ
焔の先には・・・彼奴の腕輪が輝いていた。
くすんでいる筈なのに、焔に照らされて鮮明に。
然うだ。オレは取り戻さないと、彼奴に返さないと。
でも罪を・・・重ねる。其が焔の為になるのか。証が・・・そんなに、
Ψ如何したの皐牙、迷う事はないよ。早く彼奴を、Ψ
焔がオレの背を押す。そしてオレに侍らう様に連れ添う。
Ψさぁ燃やそう!其の為に君は居るんでしょう?Ψ
皐牙は全身を燃やした火の玉となってリンカーネアへ跳び掛かった。
全身燃え上がっているので其こそ零星の様に曦を照らしている。
そしてリンカーネアへ向け手を振るう。すると一際焔が上がり、腕を中心に流星の様に焔が尖る。
―おぅ、未だやる気があるのか。―
だが其の拳が届くか如何かの所で阻まれてしまう。見えない障壁の様な物で止められてしまうのだ。
尖った爪で削る様に壁を突くが、割れる様子はない。此の焔でも燃やせないのか。
―・・・矢張り美しい。汝が持って置くには勿体無い代物よ。是非とも私の物にしたいが。―
「此も奪う気なのかよ御前はっ!」
―より正しく使える者が持つ可きだと思わんか?そんな火を受け、神に迄成ったのだ。終わらせて欲しいのではないか。―
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!」
「其の通りですわ!」
リンカーネアの背後から、カレンの髪で出来た棘が刺さる。だが其も見えない壁に阻まれたらしく、虚しく散ってしまった。
「中々、隙が見付かりませんわ。」
―ふん、先の様な不意打ちはもう効かんぞ!―
「本当か確かめてみようか。」
リンカーネアは僅かに顔を上げた。丁度其の鼻先へ何かが乗る。
―ぬお、何をするっ。―
続けて小さな痛みがリンカーネアに走った。如何やら頭にある鰭を何枚か引き裂かれてしまった様だ。
痛みに頭を振ると視界を何かに覆われて冥くなる。
見えない、何をされた。一体此は、
手を伸ばし、振り払おうとした所で鼻先に痛みが走る。
其の際に地面に腕や腹をぶつけてしまうが、構わずに暴れ続ける。
然うして遂にはらりと視界を覆っていた其は無くなり、慌ててリンカーネアは辺りを見渡した。
すると其処には三つの目新しい影があったのだ。
「っ店主達遅ぇよ。今更来たのかよ!」
「まさかもうおっ始めているとは思ってなくてな。遅くなったな。」
「其にしても何が起こってるんだ・・・?」
―ぬぅ、御前達は此奴等の仲間か。―
先の一撃が効いたらしく、リンカーネアは様子を窺う様に少し下がる。
さて如何した物か。取り敢えず皐牙達と争っているのは見えたから一手入れてみたけれども。
龍と言えども此は見過ごせないからな。
不意打ちで翼で目眩まししたが、此で少しは仕切り直しに出来ただろうか。
「セレ神さん、ガルダさん待ってましたわ!只その・・・横の方は誰ですの?」
「っ?本当だ、かっけぇ!何だよ其奴!」
予想通りの反応につい二柱はほくそ笑みつつも頷き返す。
「彼はランドール、訳あって一緒に居た龍なんだが、御前の目的も此処なんだな。」
「ブロゥ、フフ。」
同意らしく、彼も大きく頷いている。と言う事は・・・。
「奴が次元の主導者を持っているんだ。如何にか返して貰いたいんだが。」
「っ!モフモフか!」
未だ言い掛けだったのにケルディが近付くや否やセレは直ぐ様彼に抱き付いた。
「噫ケルディ、今回は其方の姿に成ったんだな。」
「感想言ってないで此奴を引き剥がせ!」
セレに抱き付かれた瞬間、しまったとケルディの顔色は悪くなったが、最早如何仕様もない。
彼女に正面から抱き付かれ、其の豊かな胸毛に顔を埋めてしまう。
「噫・・・凄い、ケルディ・・・まさかこんな・・・モフモフを成長させられるなんて、良い、良いぞ。小さな時と又違って、此の包み込む様な・・・、」
すっかり堪能してしまう彼女にケルディは閉口してしまう。如何やら此の姿のケルディは熱いスキンシップは苦手な様だ。
「セレ、その、場面も場面だから後にしような。」
「後でも駄目だ!俺が我慢ならない。」
「ど、如何したんだケルディ、何時もちやほやされたら喜ぶのに。」
「ちやほやって、他の言い方あるだろ。兎に角、今の俺は嫌なんだよ。」
拒絶されてしまい、分かり易くセレのテンションが下がった。余程モフモフの塩対応がショックらしい。
「セレ、ケルディは姿が変わると性格も変わるんだよ。だから然う言う時もあるって事でさ。」
「然うだな。今後も親睦を深めて行ってよりモフらせて貰おう。」
「・・・本当に分かっているのか此奴。」
一柱決意を新たにするセレを見遣り、ケルディは溜息を付く。
今は其処じゃないのだ。もっとやる可き事があるので其方の問題を先に片付けて欲しいのに。
「其にしても一体何があったんだ?見れば皐牙も変わった術を使っているな。相手もリンカーネアだなんて大した龍じゃないか。」
波紋が使えなくなって来たので、此処に来てやっと状況が分かった程度なのだ。流石に争い合っている現状から、何があったのか理解するのは厳しい。
けれども此の大規模な魔力の乱れの中心にリンカーネアが居たと言うのは成程と思う所はある、こんな術に長けた龍なら此位の芸当はやってしまうだろう。
後は、何の為に其を行っているかだ。理由なくする様な龍じゃない。何か彼の探求心に触れる様な事があったんだろうが・・・。
其処で気になって来るのは皐牙の状態である。見慣れない皓い焔を纏っているが、不思議な感じがした。
只の灯魔術じゃない、特別な力を受けた焔だとは分かる。でも此は一体・・・。
エルゾラストの言っていた燃える、と言う言葉が如何も引っ掛かる・・・。
「セレ神さん!彼の龍が持っている次元の主導者はカーディ先輩のなんですの。でも其を返してくれないんですわ。」
「ん、其って彼の腕輪か・・・?でも皐牙のって、」
「・・・此処は元々オレの前世の次元なんだよ。」
苦々しそうに彼が言うと同時に焔が弾けた。まるで意思を持つ様に跳ねて広がる。
「前世の・・・っ、然うだったのか。」
ソルに続いて彼もか。何か誘発されたのかも知れないが・・・。
前世なんて、嫌で堪らないだろう。自分だって散々な目に遭ったんだ。
其にこんな何も無くなってしまった殺風景な次元・・・此処で皐牙が生まれ育ったとは考え難い。斯うなる前があったのだとしたら、
「如何やら此奴の焔を彼奴が欲しがってるみたいなんだよ。其でやり合ってたんだ。」
「焔・・・確かに見慣れない物だが・・・。」
こんな術も真面に使えない状況なのに使えていると言う事は、若しかしたら此の次元に起因する力なのだろうか。
其でリンカーネアが次元の主導者に干渉していたと言うなら分からなくもない。奴の興味の対象になってしまったか・・・。
術が得意な龍とあったので、会えれば手解きでもと思っていたが、こんな形になってしまうとは。
―ぬぅう・・・まさかセレ神とは、彼のセレ神か。―
「お、然うだゼ。世界ぶっ壊したやばい神なんだから引くなら今の内だぞ。」
「其の説明のされ方は何か癪だな・・・。」
悪名高いのは理解しているが、言い方って物があるだろう。
―ほおぅ!其は真か!私は是非とも会ってみたかったのだ。黔日夢の次元等前代未聞の事を起こしたとなると、嘸特殊な力を持っておろう。まさか汝とも相俟みえるとは!―
「お、おぉ喜ばれる気なんて無かったのに。」
リンカーネアは大きく身をくねらし、全身で喜びを表現していた。
自分としても彼の事件で喜ばれるのは嬉しくない。あんな物、起こす可きではなかったのだから。
でも其の悪名すら使えると言うなら、使う可きだろう。
「話なら聞くぞ。だから先ずは落ち着いてくれないか?私達は別に争いに来た訳じゃないだ。」
―うぬぬ・・・然うだが、―
リンカーネアは悩んでいるのか自身の手元とセレを何度も見遣る。
出来れば早く此の魔力の乱れを直して欲しいのだが、如何出るかだな。
―・・・欲しい。―
リンカーネアの瞳が、じっと自分を見据えた。
―話丈等、足りぬ。私は其方も欲しくなったぞ!―
言うや否やリンカーネアはセレに向け突進を繰り出した。
行き成り突っ込んで来るとは思っていなかったので一瞬反応が遅れるが、大きく下がる。
すると遅れてリンカーネアの顎門が閉じられた。
まさか此奴・・・自分を喰らう気か⁉
「っセレに何するんだ!」
急ぎガルダもリンカーネアの前に出る。
だが相手も大きな龍だ。正面から相対するのは厳しい。
「欲しいなんてそんな。如何言うつもりだリンカーネア。」
まさか執着を持たれ過ぎただろうか。話し合い位は出来る理性的な龍の筈なのに。
―今の汝なら、私の力の影響で術は使えぬ筈、手にするなら今しかないのだ!―
リンカーネアの目が・・・完全に獲物を求める其で。
一つ吼えると又彼はセレを追う様に突進して来た。
「此奴何丈欲張りなんだよ!」
皐牙も焔を投じるが、未だ見えない壁に阻まれてしまう。焔の不自然な揺らぎはセレの目にも留まった。
「セレ神さん、其の龍、何か妙な術を使ってますの!技だとか全部反射されますわ!」
「成程、其で苦戦していたのか。」
此の三柱であれば、此の龍にも引けを取らないと思ったが、中々厄介なタイプのリンカーネアみたいだな。
反射、其が此奴の編み出した術なのだろう。其を常に纏っているのだろうか。
大きく下がるセレに狙いを付けた儘リンカーネアも舞う様に飛ぶ。
其の間も皆焔やら向けてはいるが、効いてはいない様だった。
―ふん、小賢しいわ!―
更にリンカーネアが一つ吼えるとまるで見えない壁に弾かれた様に飛ばされてしまう。
此が反射、成程確かに此は、
「っぐぅ!」
衝撃を受け、セレの翼が傾いだ所でリンカーネアの突進を喰らってしまう。
正面からは避けていたので掠った位だが、其でも質量差があり過ぎて弾き出されてしまう。
「っお、おいセレ!」
地面へ叩き付けられそうになったのを何とかガルダが受け止めた。
「っ、助かったガルダ。」
「セレ、如何する此奴は不味いぞ・・・。」
「然うだな。此方の術が使えないとなると、」
彼の反射の力、少し無に近い所があるか。
彼を常時使われるとなると可也厄介だ。抑此方とステージが違い過ぎるのだ。
自分達は満足に術も使えないのに彼奴丈高等魔術なんて、此の差は厳しいぞ。
「・・・でも、其なら相手も同じステージへ落とせば良いな。」
「?セレ、其って・・・っ、」
ガルダも察したのか顔を上げる。其の視線の先には一頭の龍が居た。
「ランドール、頼めるな。」
「ブルオ!」
短く吼えるトランドールはリンカーネアに向け突進を繰り出した。
―ふん、大きい丈では何にもならんぞ。―
余裕然うに鼻を鳴らすリンカーネアの前で、ランドールも例の壁に阻まれてしまう。
爪を掛けるが、其の程度では破れない。
「おぉ!凄ぇ!でも、矢っ張りきついか・・・?」
「・・・いや、此の感じは、」
ケルディは鼻先を宙に向けた。何か・・・流れが、空気が変わる様な。
「良し、今だ攻めるぞガルダ!」
「っわ、分かった!」
一つ頷き返して二柱は一気にリンカーネアに向け飛び掛かる。
―一度に攻めに来た所で同じだぞ!―
リンカーネアが吼えるが、二柱は変わらず飛び込んで来る。流石に此処でリンカーネアも異変に気付いた様だった。
何故止まらない、其の儘此方へ来られるのか。
答えを出す前に二柱はリンカーネアの頭へ飛び乗り、先みたく目眩ましと打撃を御見舞いした。
―っ、ぐ、何故、何故だ私の術があると言うのにっ、―
「っ良し、皆も掛かれ!今なら攻めれるぞ。」
「フォォオ!ブル!」
「?何か分かんねーがじゃあ行くゼ!」
皐牙を包んでいた焔が散り、リンカーネアを取り囲んだ。
直接燃やしてしまっては殺し兼ねないので退路を断って圧を掛ける。
其の隙間を縫ってカレンの棘も投じられ、リンカーネアの背に刺さった。
「っ当たりましたわ!」
―ぐぅう・・・何故だ。此の術は完璧な筈なのに。―
「もう諦めて其返してくれよ。じゃないと本当に燃やしちまうぞ。」
皐牙の一言でリンカーネアはさっと辺りを見遣った。
自分を取り囲む焔、流石に彼を生身で受けては・・・。
―・・・分かった。今回は諦めよう。―
力なくリンカーネアは頭を垂れた。
自慢であり、頼りの綱であった術が正しく使えないとなれば、諦めるのも当然だろう。
其にしても今回って、次回もないがな・・・。
執着を持たれ過ぎると斯うなる事もあると言う事か。一寸肝に銘じていよう。欲しがるのも又、好意の一種だからな・・・。
「良かった。全く、一時は如何なるかと思ったぞ。」
「フフ、流石セレ神さんですわ!一体何をされたんですの?」
攻撃が入ったのが嬉しいらしく、カレンは何とも晴れ晴れとした顔をしていた。
―然うだ。一体どんな絡繰を使ったのだ。未だ私の知らない力。篤と教えて貰おうか!―
やり合ったと言うのにリンカーネアはケロッとしており、興味が先に立つのか詰め寄って来る。
「此奴、いけしゃあしゃあと・・・。」
「まぁでも、如何にかなったら良かったけど。」
ガルダとケルディは同時に一つ息を付いた。つい顔を見合わせて苦笑を漏らす。
やっと合流も果たせたのでじっくり話をしたい所だけれども。
「私は大した事をしていないよ。今回は運が味方してくれたな。」
「運、ですの・・・?」
―運如きで私の術は破れぬ筈だぞ。―
「いや、順を追って話すけれども、今回のはランドールの御蔭なんだ。」
「フォブル、フフォ。」
名を呼ばれ、一歩ランドールは前に出た。ケルディ達の視線が気になるのかちらちらと辺りを見渡している。
「初めて見る龍だが、何か力を持っているのか?」
「其の通りだケルディ、彼は実は力を相殺、無力化させると言った力を持っているんだ。」
「其を彼奴にぶつけてくれたんだよな。」
此処へ来る道中にセレが教えてくれていたんだ。だからエルゾラストと戦っていても大きな痛手を被らなかったのは、彼が力を使ってくれていたからだと。
彼が無かったら結構な大怪我をしていたかも知れない。其処は確かに運が良かった。
ランドールは護りたい性質を持っていても、いざと言う時戦う力を余り持っていない。其の代わりに宿したのが此の力なのだろう。
争う事の意味を無くさせる。其は此の龍の持つ稀有な能力として現れた訳だ。
―無力化と・・・私の反射を其の様に対処してしまうとは。一体其はどんな術なのだ。構成は、系統も出来れば・・・っ!―
「ブフル・・・。」
妙に元気になったリンカーネアに詰め寄られ、ランドールは困った様に鳴く。
如何やらリンカーネアの次なる興味が其方に移ってしまったらしい。彼の探求心に終わりはないのだ。
只でも此の儘じゃあランドールも困るだろう。彼の目的は別の所だ。其が達成されない内は気が気じゃないだろう。
実際彼はちらちらとリンカーネアの手元を見ている様だった。恐らくは・・・、
「リンカーネア、話すのも良いが、先に術を解いたり後始末をしてくれないか?其の後でなら緩り出来るからな。」
「然うですわ。其はカーディ神さんのなので早く返してあげて下さいまし!}
「ん、噫然うか。然う言えば然うとも言っていたか。」
ランドールの捜し物も同じ物の様だが、さて如何話を持って行くかだな。
―仕方がないか。私の術も未だ未だだった訳か。術は直ぐにでも解こう。―
一声リンカーネアが旻へ長く吼えると、其処を中心に魔力の乱れは戻って行った。
波紋が一気に広がり、息も楽になる。・・・結構負担になっていた様だ。
余長引くと血を飲んだりと補充も必要になっていただろうし、魔力関係の障害はダメージが大きいな。
そっとセレが息を付くのを見遣ってガルダも人知れず息を付く。彼にとってもセレの不調は心配の種だったのだ。
波紋も碌に使えなくても構わず挑んだりしてしまう辺り、守護神として目が離せないのだ。
魔力さえ元に戻れば、後は何て事はない。静かな次元に戻り、何処か落ち着いた風にも見える。
そしてリンカーネアはそっとセレに腕輪を手渡した。
「此が次元の主導者か・・・。」
何て事はない品の様なのに、此一つが次元の未来を左右してしまう。
「次元の主導者って結構装飾品になってる事あるんだな。頸飾りとか、御守りも見た事があるし・・・。」
「フォルルォ、ブフ。」
「ん・・・常に傍に在る。懐いが悍いからこそ次元の主導者足り得る、か。」
「そっか、然う言うのもあるのかもな。」
「・・・セレ神さん、龍語堪能ですわね。コチにはさっぱりですわ。」
―むむ、私も其方に訳して貰わねば先程の術について理解を深めるのは難しそうか・・・。―
「いや、そんなはっきり完全に分かっている訳じゃないから頼られても困るんだが。」
何となくそんな懐いが伝わって来る程度なので、精度は怪しいぞ。
ランドールは頷いている丈なので、概合ってはいるだろうけれども。
「其より、此、皐牙のだったか?其なら返す可きだが。」
ちらとランドールを見遣るが、大人しくはしている。
一先ずリンカーネアの手から取り戻せて満足したのかも知れない。
恐らくリンカーネアが何らかの術の研究やらで、ランドールの隙を突いて此を持って行っていたんだろうしな。
危害を加えたりしないのであれば、ある程度は扱いに寛容なのかも知れない。
其にしても、とやっと自由になった波紋で良く良く見てはいるが・・・皐牙の纏う焔が何とも激しい。戦闘は終わったので鎮めて欲しいのだが。
皐牙の元へ数歩近付いた所で、地を照らす焔が躍った。
うっかり火の粉が散りそうになり、つい下がってしまう。
此の焔、普通ではない。彼自身が纏っているのと違う力を感じる。
光、ではなさそうだけれども、見慣れない力につい尻込みしそうになる。
何だろうか此は。余所者を寄せ付けない様な拒絶の焔は。
否、拒絶と言うより、取り込まれる様な、全て燃やして跡形もなく燃やし尽くしてしまう様な。
不図、エルゾラストの言った燃えて無くなる、と言う言葉が脳裏を過った。
「皐牙、済まないが焔を少し抑えてくれるか?此じゃあ渡せないぞ。」
「あ、噫店主、わ、わりぃ・・・その、」
はっとして皐牙は顔を上げたが、其の目はまるで迷っているみたいに揺れていた。
今の今迄全く別の物でも見えていたかの様に、随分と挙動が怪しいが。
そして言葉とは裏腹、彼の焔は治まる所かより強まっている気がした。
焔の爆ぜる音が、自分達を分かつ様に鳴り響く。
「う・・・くそ、焔が、止まらねぇ、出し過ぎちまったのか・・・?」
―ほぅ!ではもう暫し其を観察させて貰おうか!―
未だ完全に諦めた訳ではなかったらしく、リンカーネアはずいと皐牙に近寄った。
そんな彼にも容赦なく火の粉は散る。
「っ見世物じゃねぇぞ。此はそんな生半可な火じゃねぇんだ。」
「如何したんだ。皐牙、抑えられないなんて、抑其は何なんだ。」
少し困った様な顔を彼は浮かべたが、焔に舐められて途端に揺れる。
力の暴走か?いや、其とは少し毛色が違う様だが・・・。
「・・・此の焔は危険だって先カーディさん言ってましたわ。確か・・・命を燃やしてしまうんですの。」
「罪の焔だとも言っていたな。皐牙の一族、前世と結び付いているんだ。」
Ψ皐牙、抑える必要はないよ。抑此は、君のじゃないんだから。Ψ
「っ・・・やべぇ、皆離れろっ!」
焔が爆発した様に弾けて広がる。
流石に此は危険か。大きく下がって様子を見るが、
皐牙自身は焼けたりしていない。だが顔色は悪い様に見える。力が勝手に溢れているのか。
―気を付けるのだな。彼に触れると只では済まないぞ。命を燃やすから一度点けば死ぬ迄火は消えん。―
「そんな物が・・・皐牙は大丈夫なのか。」
「・・・何とも言えないな。彼奴の詠だと龍も死んでいるからな。」
一同が身構える中で、皐牙は何とか焔から逃れようと身を捩っていた。
彼の時みたいにオレを燃やしはしないけれども、でも・・・苦しい。
自分の内側で暴れる様な、えも言えない痛みが駆け巡っている。
Ψ此の焔は、神様の焔だよ。だから皐牙が抑えようと思う事自体、罪なんだ。いけない事なんだよ。Ψ
・・・じゃあ如何しろって言うんだ。彼の腕輪はもう取り戻せたんだ。此で良いんじゃないのか。
Ψ焔に身を委ねなきゃ。彼の時と一緒だよ。君は只の器なんだから、勝手な事しちゃ駄目だよ。Ψ
器・・・罪の焔の受け皿。
でもオレは、其すら全う出来なくて。
Ψ・・・其にね。今は彼の腕輪の事なんて如何でも良いんだよ。Ψ
彼奴の声に思わず顔を上げる。
オレに沁み付いて離れない声が、オレを導こうとする。
Ψ今の君に必要なのはそんな物じゃない。・・・罪だよ。更なる焔を。全て燃やして糧にしないと。Ψ
目線の先、店主の手にある彼の腕輪、懐かしくて痛い、鈍い曦。
其を・・・否定しろってか。
其よりオレはこんな焔を選ばないと、背負わないといけないって御前はっ、
Ψさぁ皐牙、繰り返そう。彼の日を。罪を。今が其の良い機会だ。皆良く燃えそうでしょ?Ψ
まるで焔が翼の様にオレの背から放たれ、オレを包み込む。
克ての形を取り戻す様に、オレじゃない形をなぞって行く様な・・・。
「何だ彼は・・・龍、か?」
焔の形が不自然にうねり、広がる。
其の様は皓い龍の様だった。純皓の翼を広げて怒れる龍に。
長い首と尾を振り上げ、全身燃え盛っても猶焔を吐く。
其の姿に・・・不謹慎乍らも何処か目を奪われてしまっていた。
美しいと思ってしまったのだ。其の残酷な焔を。
焔の龍はまるで飛び立たん許りに翼を広げ、羽根の代わりに焔を散らせた。
其が一同を取り囲む様に灯される。余りの熱気に息が詰まりそうだ。
「っ不味い逃げ道を断たれたか。」
―ほぅ、先より大分操れているではないか。―
「感心してる場合ですの!ど、如何しますの。カ、カーディ先輩ー!」
カレンが手を振り声を掛けるも、まるで聞こえてはいない様だった。
何処か彼は虚ろな目で、焔の中心に彳む丈だ。
「・・・彼奴、先から声がするとか言っていたし、其の所為かもな。」
「声?何かあったのか。」
「幽霊の声がするとか。昔自分が殺してしまった仲間の声でもするとか言っていたが。」
何処か腑に落ちない様子で、歯切れ悪くケルディは言った。
幽霊・・・そんな物に惑わされているのだろうか。
声なんて自分達には聞こえない。でもそんなの、如何対処すれば良いんだ。
「皆、俺の傍を離れるなよ。俺の力なら多分対抗出来る筈だ。」
「っガルダ、其って如何するつもりだ。」
言うより先に彼は皐牙と対峙する様に一同の前に立つ。其の背に輝く翼が大きく広げられていた。
同じ皓でも全く異なる翼が広げられて共に曦を放ち、照らし合う。
「命を燃やすって事なら、俺は相当耐えられる筈だ。燃えても斬り離せば問題ない筈。」
「斬り離すって、そんなの駄目だガルダ。ガルダ一柱にそんな役はさせられない。」
其は結局、彼の再生力を利用して頓彼を殺させるって事だろう?
そんな事・・・させない。させられる筈がない。
「セレ、でも今は耐えないと。皐牙に手を出すのも、俺達がやられるのも不味いだろ。」
「然うだが・・・。分かった。私は無でサポートする。其で防げなかった分はガルダに頼ろう。」
魔力を操作されても発動し続けていた焔だ。だったら此方も規格外の力、無をぶつけるしかない。
「無って彼か・・・。そんな調整出来る代物なのか。」
「やるしかないだろう。大丈夫、此方が動かないなら焔丈を狙い易い筈だ。」
「セレ神さん!コチも何か手伝いますわ。只護られているなんて。」
「・・・然うだな。じゃあ彼の焔について聞いている事があったら教えてくれ。出来る事が見付かるかも知れないからな。」
話を聞き乍ら無の調整・・・厳しいだろうがやるしかない。
でないとガルダが・・・只護られて、目の前で彼が傷付くのを黙って見たくはない。
自分にだって出来る事はある。其の為に力を付けて来たんだろう?
「分かりましたわ。其でしたら。」
「噫、頼むぞ。」
魔力に集中しろ、もう波紋は使えるのだから。
焔丈を無に取り込み、此方には近付けさせない。だが深追いし過ぎて二次被害を出さない様に努める。
セレを中心に零星が飛び立ち、円を描いて巡る。少しずつ輪を広げて、ガルダの翼に沿って瞬き始めた。
後は此の軌跡をなぞって無をぶつければ、ある程度は操作出来る筈。
「・・・然うですわね。実は先、その、琴城さんと言う方と御会いしましたの。」
一つ一つ辿る様にカレンは話をしてくれた。
琴城の聞かせてくれた詠、そして断片的であるが皐牙のしてくれた最期の話。
そして補足としてリンカーネアも彼の焔について聞かせてくれた。
命を燃やす焔、其の特異性。
彼は只の魔術の類ではない。魔力を媒体としていないのだ。
命、其を焔へと変換する術である、と。
そして一度火が付けば後は自動的に術が構築、連鎖し、焔は拡大する。
魔力を伴う術とは全く系統の事なる力、其故に神の焔とされた物。
だが其は本来の神の焔とされた逸話の代物。
今自分達を前に燃え盛る其は、最早違う物ではないか、とリンカーネアは推測した様だった。
「・・・違うと言うのは如何言う事だ?」
話を整理しつつ、術にも集中する。
斯うしている間にも焔は迫り、此方へ飛び掛からん許りに燃え盛っていた。
気を抜けばやられる。いや、其以上に、ガルダに此以上身代わりになんてなって欲しくない。
焔を逃がすな、全て波紋で捉えろ。後は其処へ正確に無を投じる丈。
小さな無でも十分なので魔力消費は大した事ないが、問題は集中力か・・・。
只でさえ光魔術には抵抗がある。放つのに如何しても怯えてしまうのだ。
でもこんな事で調整を間違えてはいけない。只頓に焔を相殺しないと。
焔も又不定形な物だ。加えて此方目掛けて飛ぶ様は意思がある様で、動きを把握し難い。
此が、命を燃やす性質なんだろうが、本当に良く動く。
まるで火が付いた鼬が跳ね回っている様なのだ。目まぐるしく状況は変わり続ける。
其を的確に見抜いて消すのは難しい・・・全てに無を投じる事は残念乍ら出来ない。
其の自分が打ち漏らした分はガルダの躯へ燃え広がってしまう。瞬く間に火が付いてしまうのだ。
でも其を瞬時に彼は斬り離していた。火が付いた箇所から即座に。
余りにも早い対応だ。慣れているのだろうか。其にしても、
こんな、痛みを痛みと思わず使い捨てる様に命を削って行くなんて。
そんな戦い方、前世では勿論学んじゃあいない。だとしたら神に成ってから彼は・・・、
其以上考えると冥くなる一方だ。一度思考に蓋をして無を放ち続ける。
今は只、自分の為可き事を。一刻も早く此の現状を如何にかしなくては。
そんな自分達の攻防をリンカーネアはじっと見詰めていた。そして考え込む様に息を付く。
―只の、私の推測には過ぎぬぞ。只其でも此奴は焔を受け、そして死んだのだろう。其処で命が尽きたなら、焔はもう残っていないのが道理なのではないかとな。だから私は核を用いて焔を創り直そうとしたのだし・・・。―
「成程、つまり彼の焔は伝承とは違うと?」
―難しい所よ。性質は非常に似ておる。だが若しかしたら・・・只真似ている丈なのではと思ってな。―
「真似、ですの・・・?神の焔の真似事・・・。」
―口に出すとよりしっくり来るのではないか。私は其の様に見受けるぞ。―
「其って、つまりは如何変わって来るんだ?本物でないと言っても危険は危険だぞ。」
求め過ぎた龍の残酷で切ない物語、其を今一度自分の中で回想する。
其の情景を自分の中へ落とす様に。彼の物語を振り返る。
神から奪った焔、命を燃やして輝く零星。そして其の龍の亡骸から生まれたと言う皐牙達一族。
其を・・・皐牙は彼の焔で自分毎滅ぼした。正に彼の物語の様に。
―危険なのは間違いないが、であれば只物語をなぞる丈では見えぬだろう。屹度不自然な点や異なる所があるのではないか?―
「・・・不自然、なら一応あるか。」
一つ尾を振ってケルディは前に出た。
「何だケルディ、何処か違和感か?」
狐火である彼なら、焔について何か感じ取れるかも知れない。
「彼奴は霊の声がするって言ったが・・・。」
ちらと皐牙を見遣り、ケルディは鼻を鳴らして頷いた。
「・・・矢っ張り俺にはそんな気配感じなかったぞ。」
「う・・・ぐぅあああああっ‼」
突如苦しそうに皐牙は声を上げた。
其迄自分の事しか見えていない様で暴れていたが、其では焔は収まらない。
Ψ如何したの皐牙、早くしないと。もっと熱く、もっと火を燃やさないと。Ψ
「・・・っぐぅ、」
声が止まらない。彼奴がずっと責めて来る。
燃やせと、彼奴丈じゃなくて今の仲間達も然うしないとオレは、
罪を残せなくなってしまう。だから罪を残す為に又罪を重ねる、其の繰り返し・・・。
オレは何も変われない・・・そんな物なのか。
焔がオレを包む。オレの意志なんてもう関係なく暴れ回る。
嫌なのに、オレは燃やしたくなんか。
こんなに否定しているのに、如何してオレは何時も選べない。此の道しかないんだ。
未だ彼奴等は・・・大丈夫、だよな。
揺れる視界で見遣るも・・・意識迄もが揺れる。
彼奴等迄燃やしたら、其こそオレは、
何とか目を凝らしてみると、焔とは別の皓い輝きが掠めた。
彼は・・・家主の翼・・・?
噫そっか、家主は生命力が凄いんだっけ・・・。
そっか。其で皆を護ってくれて・・・。
オレの所為で、こんな事に。そんなつもりは一切ないのに。
焔が伸びるのを何とか止めようと意識するも、もうオレの事なんか関係なく蠢いている。
止まらない、止められないんだ。もう此の焔は、
Ψ皐牙、こんな物じゃないんだよ。本当はもっと凄いんだ。だって皐牙の焔だよ?こんな燻らせないで、もっともっと行きたいよ。Ψ
そんなに・・・御前は燃やしたいのか。
Ψうん、だって・・・綺麗だよ。Ψ
綺麗・・・こんな物が?
つい見渡してしまう。自分を取り囲む物を。
綺麗なのはどうせ物語の中丈じゃないか。オレはこんな物、美しいなんて思った事はない。
一度だって、ないんだ。だからオレは此奴を否定していたのに。
どんなに捨てようとしても燃え盛る、オレの中では絶対に消えない焔。
此の儘じゃあ本当にオレは・・・又、全て燃やしてしまう。
家主だって何時迄持つか分からねぇ。抑怪我なんてさせたくない。
焔が爆ぜ、まるで龍が吼える様に音が長く鳴り響く。
此奴は、全てを失った彼の龍なのか、其とも其の龍に燃やされた番の影か。
此奴も、未だにこんな物に縛られているのか。
只隣に居たかった丈なのに。神の焔を盗んだが為に呪われて。
噫御前達は如何思ってるんだろうな。其処から始まった焔が未だに残っている事を。
憐れむか、悲しむか、怒りか、其とも。
不図彼奴の最期を懐い出した。本当に、唐突に。
・・・其は若しかしたら重ねてしまったからかも知れない、彼の物語と。
番の龍は最期・・・咲っていたんだ。
其の焔の美しさに・・・いや、若しかしたら、
彼奴も・・・咲っていた。オレに燃やされて行く村を見て、本当に屈託なく。
気でも触れたんじゃないかって思わずにはいられなかった、そんな笑顔で。
・・・如何して、彼奴は彼の時、咲っていたんだろうか。
オレに燃やされたかった?終わらせて欲しかったのか?其が自分の使命だったから?
本当に・・・然う、だっただろうか。
Ψ皐牙?ねぇ早くしないと、君にはする可き事があるでしょう?其の為に戻ってくれたんでしょう?Ψ
オレに燃やされて猶此奴は傍に居る。オレを導く焔の一つとして。
其が、オレの在り方だと。
「皐牙!聞えたか!未だ声は聞こえるのか!」
「て、店主・・・?」
顔を上げるとじっと此方を見据えていた店主の目と搗ち合った。
つい竦みそうになる黔と銀の目。でも今は一つ閉じられた儘で、五つがオレを見詰めていた。
家主が翼を広げているので見え難いけれど、其を掻き分けて声を張っていた。
「声って・・・何だよ。聞えてっけど・・・。」
「此方の事じゃない!先から聞こえているらしい奴等の声だ!」
「噫其なら・・・今もずっと。」
抑此の声は、此の次元に着く前からあった物だ。
オレが燃やしてしまったから、オレが命を燃やして、魂丈残したから。
だから焔が出れば共に現れるんだ。
でも其が一体何だって言うんだ。店主は何を伝えようとしているんだ。
Ψ皐牙、そんなの聞く必要ないよ。僕みたいに燃やしてしまえば、じっくり何時でも聞けるんだから。Ψ
焔が、彼奴がオレを嗾ける。只燃やせとオレを。
「其の声は本当に、御前の知ってる奴の物か⁉」
「え・・・、」
其って・・・如何言う意味だ?
焔の痛みも忘れて、オレは其の言葉を反芻した。
此は間違いなく彼奴の物だ。其を否定する意味なんて。
Ψ然うだよ無意味だよ。僕はずっと皐牙と居た。此からも一緒に居るんだから。Ψ
焔と共にオレを包む声、見えなくても彼奴の姿が浮かぶ様で。
でもオレは・・・其の手を取れなかった。彼奴が焔の中からオレを誘い、掴もうとする手に自分のを重ねられない。
其は若しかしたら・・・気付いていたからかも知れない。認めていない丈で。
Ψ皐牙?何をそんなに躊躇っているの?彼の時は上手くやれたでしょ?同じだよ、皆に火を点けて燃やして、一緒に行こう?Ψ
「御前・・・誰だ。」
一つ唾を呑み、意を決して尋ねてみる。
少し躊躇ってしまうのは、矢っ張り認めるのが恐ろしかったから。
でも言わなければ、此の違和感は拭えなかった。
Ψ・・・?何を言ってるの皐牙。僕の事忘れたなんて有り得ないでしょう?僕は、Ψ
「忘れてねぇよ。忘れる訳ねぇ。だから、気付いたんだよ。」
焔が揺らぐ。先迄と違う意味が其処にある事には直ぐ気付いた。
彼の僅かな歪み、焔の輝きが揺れている事に。
「彼奴は、オレの嫌がる事なんて、絶対にしなかったんだ。皐牙はちゃんと自分で考えて動いているから、大丈夫だって何時も見護っていて。」
Ψそんなのが理由?おかしいよ。此は皐牙の為なんだよ。僕は君が本当に通る可き道を知ってる。だから其処へ導きたくて、Ψ
「違う、違うんだよっ・・・。」
声はオレから離れない。オレの傍で呪いの様に取り囲む。
でも抗わないと。此の一点の揺らぎを見詰めて行かないと。
「彼奴は、オレの事、本当に大事にしてくれて、だから何があっても彼の腕輪を蔑ろにする様な事はしなかったんだよ。オレは自分で立てるからって、傍に居て。」
然うだ。懐い出せ、本当の彼奴を。
何時も優しく微笑んでいて、オレの事丈、考えてくれて。
オレには勿体無い位の・・・本当に大切な奴で。
だから、殺したくなんてなかった。ずっと一緒に居たかったんだ。
Ψ・・・僕が偽物だって言うなら、皐牙、君は僕の何を知ってるの?僕の最期の言葉、ちゃんと憶えてるの?Ψ
連なる言葉に背が凍える様だけれども、でも堪える。
目を逸らしちゃ駄目だ。オレは、此奴と向き合わないといけない。
此の声が何処へ導こうとしているのか、彼奴でないなら其の先を、オレを選ぶ可きじゃない。
何故最期彼奴は咲っていたのか。・・・然うだよな。彼奴の事、本当にちゃんと分かっているなら、オレも理解出来た筈なんだ。
御前は、然う言う奴だって・・・咲い返さなくちゃいけなかったんだ。
オレが本当に認めていなかったのは・・・彼奴の最期だったんだ。
「憶えてる・・・憶えてるよ。」
彼の地獄の中で彼奴はオレに咲い掛けていた。
だって彼の景色こそが、彼奴にとって救いであると。
「“此で良かったんだよ。だって・・・全て燃えたって事は、此の全てが、皐牙にとって大切な物だったって証なんだから。”」
Ψ—————。Ψ
初めて、声が止んだ。
オレの声しか此処には無い。
然うだ・・・初めから、然うだったんだ。
彼奴はオレにとっての地獄に別の意味を見出した。
其が何より愛しいと思う程に・・・嬉しかったんだ。
彼の儀式は、自分にとって最も大切な物を燃やす事で成される。
其で選ばれたのが彼奴だった。彼奴を燃やして、オレは罪を残す筈だった。
でも、オレの焔は全てを、オレの全てを燃やし尽くしたんだ。
つまり其は、言い換えれば、彼の村の全てがオレにとって掛け替えのない物で。
一つなんて、選べる筈なかったんだ。
彼奴を含め、彼奴と過ごした時間、場所、記憶、其の全てが・・・オレの大切な物だったんだ。
其を・・・彼奴は理解したんだ。
燃える家々、人も全て区別なく燃え落ちる様を見て。
自分と一緒にオレ自身も燃やそうとした焔を見て、全てを悟った。
屹度、村の皆も同じだったのかも知れない。だから黙って逃げもせずに焼かれて。
噫然うだ。然うだよ。オレは・・・此の村が、此奴と過ごした全てが、大好きだったんだ。
焔とは別の熱い物が胸の奥に燃え広がる様で、思わずオレは声が出そうになるのを堪える。
今更過ぎる。こんな遠くに来て、初めて気付くなんて。
此が彼の日の地獄の正体、オレにとっての儀式の形。
Ψ・・・そっか、うん。皐牙は自分で気付いたんだね。認めてくれたんだね。Ψ
無言で頷くオレを、焔は包む。でももう痛みは無くて、温かく感じた。
でも同時にオレの中で燻る物はある。気付けたなら如何する可きか、分かっていたから。
「だから・・・もう消えろ。御前は彼奴の偽物だ。其以上彼奴を勝手に汚すなよ。」
オレに罪を押し付けたとか、楽になったとか勝手な事を言いやがって。
まるっきり違う。彼奴がそんな事言う訳なかったんだ。
罪を残したいのも燃やしたいのも、全部全部此の焔の勝手な懐い、性質だ。
だって・・・此処にはオレしか居ない。其をオレはもっと早く認める可きだったんだ。
居もしない魂を信じて、勝手に彼奴の姿を見て。
でも違う、全てオレだ。焔に意思があると言うなら、其は・・・オレのだったんだ。
オレの心が見せた幻、見えていなかったから居もしない物を見ていたに過ぎないんだ。
Ψ分かった。君が然う言うなら従うよ。其の通り、僕は君自身だから。でも、でもね、幻覚でも偽りでも、僕は君の事、大好きだったよ。Ψ
「・・・そんな事、分かってるって。」
今更言わなくても初めから分かっている。其が御前なんだから。
Ψうん、だから皐牙の為にしていたのは本当だよ。独りなんだって気付いたら・・・寂しいからね。だからせめて影丈でもって思ったんだよ。でも、其の役も今回限りだ。Ψ
焔の揺らぎが落ち着いて行く。同時に彼奴の声も、遠退いて行く様で。
又・・・静かになる。オレ丈残して。
Ψフフ、落ち込まないでよ皐牙、此で僕の役目は終わるけれども、でも、偽物だって気付いてくれたのは嬉しかったから。Ψ
「お、落ち込んでなんかねぇよ!」
オレが声を荒げると、まるで咲う様に焔は揺れた。
もう、先迄の激しさはない。幾分穏やかになって来た。
「でも、オレの意志って・・・こんなはっきり彼奴の真似しなくても。御蔭ですっかり騙されてた訳だ。まるっきりオレと違うし・・・。」
Ψそりゃあ厳密には僕は君でもないからね。Ψ
「・・・え、じゃあ御前、本当は誰なんだ・・・?」
思わず顔を上げる。目に映るのは皓い焔丈だが、でも其処に宿る物はある。
Ψ先言ったじゃないか。元々此は、誰の焔かって・・・ね。Ψ
其の言葉を最後に、焔は消えて行った。先迄あんなに燃え盛っていたのに、跡形もなく消え去る。
後にはもう、空っぽの街だった物丈・・・残されていた。
「お・・・終わった、のか?」
静かになった皐牙を見遣り、そろそろとガルダは翼を下げた。
もう、痛みはない。何とか自分の身一つで済んだらしい。其にしても、
「セレ!俺が護るって言ったのに勝手に目潰しただろ!」
「っえぇ⁉行き成り如何したんだガルダ、」
ぐるんと彼が振り向いて行き成り怒鳴られたので驚いてしまう。
何だ、一体如何したんだ。何が彼の中に触れたんだ。
思わず背が伸びる彼女へずんずんガルダは歩み寄る。
「目って・・・?あ、本当ですわ!セレ神さん目如何しましたの!」
不自然に左下の目丈が閉じられている。何とも器用なウインクの様になっているが、此は然うではないだろう。
「如何って、潰して魔力に戻したんだが。」
「潰しっ⁉な、何て事してるんですの!六つもあるからってやって良い事じゃないでわ!」
「ほらセレ、新神に言われてるじゃないか。何でそんな事したんだよ。」
二柱に詰め寄られ、そろそろとセレは下がった。
おかしい、こんな筈じゃあ、此処は無事に片付いて良かったねって互いに讃え合う所だろう?
如何して自分丈責められているんだ?納得出来ない。
「・・・相変わらずだな。ま、もう一回叱られるんだな。」
「そ、そんなケルディ・・・。」
モフモフにも見捨てられ、いよいよ後が無くなる。取り敢えずはちゃんと答えるか。
「何でって、普通に無を使うのにもっと魔力が欲しかったからだ。あんな緻密な操作、ずっと続けるのは厳しかったからな。」
無を使うのは如何しても神経を使う。少し誤ればガルダに牙を剥き兼ねなかったんだ。
だから慎重に慎重を重ねて目を潰したんじゃないか。此で可也安定して無を発動出来た。
ガルダを全くの無傷には出来なかったけれども・・・其でも可也善戦はしたと自負している。無理なく可能な限りでやっていたのに。
―ふむ、流石よ。あんな術を使い熟せるとは、中々良い物を見させて貰ったぞ。―
「お、然うかリンカーネア。魔導の龍に然う褒められると嬉しいな。」
「ほら其処話を逸らさない。」
直ぐガルダに注意されてしまう。ぬぅ・・・喜んだって良いじゃないか。
「抑セレ神さんの目って・・・潰したら魔力が上がるんですの?普通は逆のイメージですけど。」
「噫、私の此は目じゃなくて魔力の結晶体だからな。割れば魔力に戻るから力が増すんだ。」
「だからって無暗に使っちゃ駄目だってセレ。其も遣り過ぎたら前みたいに小っちゃくなっちゃったり、体調不良になったりするだろ?身を削ってるんだから極力駄目だって。」
「ん・・・何も四つ共潰したんじゃないんだ。一つ丈だから良いだろう。暫くすれば治るんだし。」
「だから、其の目一つを使うの自体も早過ぎたんだよ。もっと大事にしてくれ。」
文句を重ねられ、不機嫌然うにセレは口を尖らせた。中々此を分からせるのは難しい。
「まぁ褒められた事じゃないな。御前は捨て身過ぎる所がる。」
「ぐ、ケルディ迄言うか。」
「然う言う事だって。俺はずっと回復し続けるから良いけど、セレは然うじゃないんだから。」
「そんなの、私だって言いたい事があるぞ。ガルダも其の生命力に頼り過ぎだ。痛い事には変わりないんだから、あんな庇う様な真似は止してくれ。」
「いや、此は俺丈の力だし、其と此は話が違うだろセレ。」
「一緒じゃないか。私だってガルダが傷付いたら嫌だぞ。然うなる位なら私は力を使う。私の力は然う言う為にある筈だ。出来る事があるからやる丈なんだ。」
「・・・何だか、何方も何方ですわね。」
「然うだな。互いに同じ事を言い合っていたら平行線だな。」
「ほら、セレが頑固だからあんな事言われてるぞ。」
「ガルダだって分からず屋だから話が進まないんだろう。」
暫く二柱はじっと見詰め合っていたが、ふいと視線を外した。一応話は付いたらしい。
中々此ばっかりは難しい。折り合いが付かないのだ。
兎に角やる事はやらないと。ほったらかしにしてしまっていた皐牙の傍へ行ってみる。
彼は惚けた様にぼーっとしていた。未だ現実感が無い様だ。
でも焔が落ち着いたと言う事は、もう危険はなさそうだが。
「皐牙、もう大丈夫か?問題なさそうなら此を返すが。」
「あ、噫、皆わりぃ、力、暴走させちまって・・・。」
「・・・落ち付いたみたいだな。」
「御蔭様で。もう声はしねぇよ。全部、オレが見てた幻みてぇだ。」
ほぅと皐牙は息を付いた。手を握ったり開いたりするが、もう焔は出ない。
そしてそっと手を伸ばしてセレから腕輪を受け取った。
懐かしい・・・随分色褪せちまったけど・・・彼の時の儘だ。
「まさか、此丈残ってたなんてな。」
大事な物だったのに。いや若しかしたら彼奴が残してくれたとか・・・。
此の次元を残そうとか、そんな事は何も考えちゃいなかったと思うけど・・・うん、大切にしてくれていたから、だから此丈は敢えて残したのかも知れない。
「フォルル・・・ブフッ。」
遠慮勝ちにランドールも近寄って来た。腕輪に鼻先を寄せる。
「何だよ。御前も此が欲しいってか?」
「皐牙、ランドールは懐いの籠った物を護る龍なんだ。だから若しかしたら今迄其を護っていたのは此奴かもな。」
―ふむ、其でか。随分離れた所に隠されてはいたから探すのに苦労したぞ。―
「態々取って来なくて良かったのに。余計な御世話ですわ。」
―何を言う。此の地で生まれた焔を探る為には必要な事だったのだ。―
全く凝りてはない様で、寧ろリンカーネアは正当化させる気みたいだ。
そんな彼に向け、ランドールは怒った様に鼻を鳴らした。
「そっか・・・然うだよな。此次元の主導者なんだし、オレが持ってちゃいけねぇな・・・護ってくれるってなら御前に渡しても良いゼ。」
「フォオ、フブ、フルル。」
皐牙から腕輪を受け取り、ランドールは何度も頷いて腕輪に頬擦りしていた。
余程恋しかった様だ。大事に持って其の大きな手の中に包み込む。
「何か・・・すっげぇ喜ばれてるな。」
正直もうぼろぼろで大した価値も無いだろうに、と言うかオレが適当に作った奴だから何かその、恥ずかしいな。
まさかこんな見ず知らずの龍に好かれていたとも知らなかったので複雑な気持だけど、まぁでも護ってくれるってなら助かるな。
「其丈、懐いが籠っていたんだな。彼奴にとっては宝に等しいんだ。」
「ふーん・・・懐い、か。」
何も残っていないと思っていたのに、此の焔でも燃やせない物はあったんだな。
―して、焔は如何なったのだ。まさか完璧に操れる様になったのか!―
未だ興味津々とリンカーネアも詰め寄って来る。
彼の所為で偉い目に遭ったので、複雑な気持だ。正直迷惑に近い。
「何だよ本当此奴・・・一応、扱える様にはなったと思うけどさ。」
「然うか。話は幾らか聞いたが、凄い焔ではあるみたいだな。今後、御前の助けになるかもな。」
力を得たとなれば、良い事だろう。其が望まれない力や忌む可き力かも知れないが。
力其の物に罪はないと、自分は思っているから。
只其処に在る丈、生じた丈で。結局は使う物次第なんだと。
「まさか、こんな形で使える様になるなんて思ってなかったけどな。ま、今後はガンガン使って行くゼ。もう此はオレの焔だからな。」
「自分の焔に出来たと言う事か?」
「然うだゼ。もう彼の龍とか神とかのとは違って、オレ丈の焔なんだ。」
―ほぅ、術式を変化させたのか!何と素晴しい、こんな形で新たな術を見られるとはっ!―
「喜ぶのは良いが、迷惑を掛けたのは確かだからちゃんと謝るんだぞ。」
セレに諭され、リンカーネアは顎を掻くと頷いた。
そして皐牙に向け、小さく頭を下げる。
「ま、まぁ良いけどよ。此処に来たのは全くの無駄だった訳じゃねぇし・・・。」
「もう声も聞こえないな。此の俺が霊に気付けないなんて妙だとは思ったが。」
ケルディが鼻先を寄せ、皐牙の手の甲を嗅いでいた。
・・・もう彼の焔の気配はない。異質な力の流れた焔も、確かに彼は己の物にしたらしい。
「いや其の通りだゼ。声なんて聞こえる訳なかったんだ。・・・はぁ、でも此ですっきりしたゼ。」
然う言って皐牙は咲った。さっぱりした、憑き物が落ちた顔で。
思わずセレは其の笑顔に、目を奪われてしまっていた。
神の過去なんて、前世なんて後ろ冥くて冷たい物許りだ。
況してや、最期を過ごした地なんて・・・碌な物じゃない。
自分だって、あんなどす黔い醜い蟠りを残した地だったから、自ら行く事なんてなかったのに。
皐牙は、今正に、自分が死んだ此の地で、自分を神として縛り付ける此の地で・・・咲っていて。
如何して・・・分からない。私には理解出来ない。
皐牙の過去もこんな形であれ、聞いてしまっているから猶の事。
決して、彼のが軽いなんて事もない。比べる事自体が烏滸がましいが、でも、
如何して・・・逃げずに受け入れられるのか。
皐牙も、ソルも皆・・・神として、否神と成っても前を見ていて。
眩しい様な、後ろ冥い様な、そんな心地が胸中を占めていた。
自分の終わらせ方と、彼等のは大きく違う。
其の差は何なのか。いや、違う事は大した問題じゃあないんだろう。
其より、何故其処が自分の中で引っ掛かったのか・・・其が問題なのではないかと。
・・・・・。
「所で家主は大丈夫か?わりぃオレ・・・全然手加減とか出来なくって。」
「え、噫大丈夫だって此位。俺の生命力は伊達じゃあないからさ。」
翼を閉じ、一つ息を付く彼は確かに全くの無傷の様だった。
彼の焔の恐ろしさを目の当たりにしている皐牙としては、信じられない様な光景だ。
「まじか・・・。家主も家主でやべぇ奴だったんだな。」
「ま、ガルダの生命力の高さは俺も保証する。多分一日中燃やしていても無事だったと思うぞ。」
「其って褒められてるのか喜んで良いのか微妙な評価じゃないか・・・?」
痛い事には変わりないので勘弁願いたい所だけれども。
でも此で皆を護れたなら、本当に・・・良かった。
「然う言えばセレ神さんも変わった術を使ってましたわ。無、と言うんですの?」
「噫、まぁざっくり言ったら何でも消してしまう術だな。」
「っ⁉其はとんでもない術ですわ!」
途端かっと彼女は目を見開いた。中々其の反応は新鮮で良いな。
「とんでもない分、扱い難いがな。私も上手く使えている訳じゃないから積極的には使わないが。」
「でも其で焔を消せたって事だろ?流石に無は燃やすとか、然う言う話じゃねぇもんな。」
焔と言う存在を否定して消してしまうんだ。其の儘では太刀打ち出来る様な力じゃない。
―うむ。可也珍しい術なのだぞ。其に何やら新たな試みでもされたか?従来の無とは少し違う動きをしていたが。―
リンカーネアの目が輝いているのをちらと見遣る。
恐らく零星の事だろうな。自分も彼が無いと無の誘導なんて出来ない。
御蔭で、魔力の消費は大きくなってしまうがな。中々調整が難しいのだ。
でも流石魔導の龍だ。無の事も知っているとあっては、寧ろ自分が教えて貰いたい所だけれども。
「然うですの・・・。此、手合わせした時には使っていなかった筈ですわ。まさかこんな力を隠し持っていたなんて。」
彼女からも何やら熱い視線を感じる・・・いや、無を使ったら流石に死んでいたからな?彼女は正面から攻め過ぎるのだ。
「隠していた訳じゃないが、危ないからな。余、真似して使おうとはしない方が良いぞ。」
多分真似したら事故を起こし兼ねないしな・・・。リスクが高過ぎるのだ。
「さ、もう皆疲れただろうし、帰ろうゼ。もう此処は大丈夫だろ。」
「噫次元の主導者も、ランドールが護ってくれるなら安心だな。」
「ル、ルルフォ、ウルム。」
力強くランドールは鳴き声を上げた。屹度又彼の腕輪は何処か安全な所へ持って行くつもりなんだろう。
「然うだな。オレの故郷と彼奴の大切な宝物、ちゃんと護ってくれよ。」
皐牙に対してもランドールは何度も頷いていた。
「えぇ、もう大丈夫ですわね。一時は如何なるかと思いましたが、無事解決して良かったですわ。」
「噫、皆良く頑張ってくれたな。」
バラバラな所に出てしまっていたが、其でも此処迄やり遂げた。良い連携だったと思う。
「リンカーネアも、此に懲りたらもう余り派手にはしないようにな。次元の核は一寸やり過ぎだぞ。」
下手したら本当に次元が壊れ兼ねないし、エルゾラストも迷惑がっていたんだ。
力があるからって暴れて良い道理はないからな。
―うむ・・・今回は余りに収穫があり過ぎて、やり過ぎたのは反省している。次はもっと慎重に行おう。―
「う、うーん、其で良いの・・・か?」
其でも焔の脅威が去ったなら、まぁ良しとしようか。
龍達に見送られ一同が去る中、皐牙は一度丈村だった其処を見渡した。
もう、何もない。声も色も見えない世界だ。もう燃える物も一つも無い。
其の代わり、全てオレの中に残っているから。絶対に忘れない。罪と、オレの証として。
そっと頬を撫でた薫風が、何処か懐かしく思えて、皐牙は笑みを返すと歩みを進めるのだった。
・・・・・
焔を背負い少年は行く
連れ添う影はもうなくても、照らす物があるのだから
多くの痛みと懐いと世界を見て少年は終に答えを返す
焔よ、御前の存在、其の意味こそ
オレの・・・存在証明であり、其の在り方が全てなのだ
さぁ焔渦巻く今回、如何だったでしょうか!
今回もずっと書きたいなぁと思っていた話だったので、丗に出せてほっと一息付いています。
皐牙君は何気結構頑張ってる可愛い子なので、今回のを発条に今後も頑張って貰いたいですね。
因みに次回の話は実はもう九割程書けています。余り長くなかったのと、自分のテンション爆上がりストーリーだったので早かったですね・・・。
流石に此以上貯め込むのはまずいと焦って急いで校正したと言う訳でしたが、本当に間に合って良かったです。
次回は・・・色々ハチャメチャなストーリーです。書きたい話達がどんどん消化されて行く、此の衝動を原動力に書き切りたいと思います!
其では又御縁がありましたら御会いしましょう!




