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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
95/140

68次元 皓き焔よ応う詠は誰への証か求めん次元Ⅰ

今日は、最近校正をさぼり勝ちになっている-Sare-でございます。

非常に宜しくない、けれども書いているスピード自体は維持しているのでユルしてくださいませ。

と言うのも、何だか今回どんなに校正しても終わらないなぁと思ったらまさかの上下に分かれちゃいました。

思ったよりも書き溜めていた様ですね。まぁ今回は大事な御話なので此位が丁度良い!

最近シリアス方面バカり触れている様な気がします、今回も例に漏れずなのだ。

何だか寂しい様な、達成感と相俟って不思議な心地です。風呂敷を畳み始めて何年か経ちますが、其でも淋しい気持ちが出て来ちゃいますね。

そんな今回は焔にマツわる御話。と言う事は・・・然う、彼の物語です。

焔は問う、偽りの影へ

己が役割、其の真価を問わんと

焔に宿るは罪か、命か、意志か

若き継承者よ、己が背負った其の意味を知れ

   ・・・・・

「ふ、二柱共仲良く、・・・うん、一緒に食べてね。」

穏やかな(アサ)の食卓を囲む三柱。

 スープを何度も冷まし乍らスーはちらちらと隣の席を見遣る。

 其処には獣と成ってしまった二匹、セレとガルダが同じ様にスープに口を付けていた。

 彼等がこんな姿に成って数日経つが、店の者が日替わりで世話をしていた。

 其の中で基本店に残っているのはスーなので、必然的に彼が一番面倒を見る事になる。最初は彼等にも怯えていたスーだが、大分馴染めて来た様だ。

 今では()うして同じ席で御飯を食べている。遊んだりも段々手馴れて来た。

 未だ恐い気持は変わらないが、其は未知である恐怖からか弱い存在だから放って置けないと言う恐怖に変わって行った。自分が護らないと、と責任を持つ様になったのだ。

 二匹もスーの言う事は良く聞いて、一緒に居る事が多くなった。彼の後を付いて家事だとかを見守ったり、時には邪魔をしている。 

 スープが飲める熱さに迄冷めたのを確認して改めてスーは二匹の事を見遣った。

 皓獣(ハクジュウ)事ガルダはもう美味しそうにスープを飲んでいる。器用にも彼はスプーンを扱えるので、小さな御手製の其で上品にもスープを召し上がっていた。

 一方黔獣(コクジュウ)セレは未だ熱かった様で大人しく立ち昇る湯気を見詰めていた。

「セレさんもう大丈夫だよ、此の熱さなら。」

「キュキュッ。」

尾を振り、小さく鳴き返すとセレもスープに口を付ける。

 味は気に入ったらしく、一度ペロリと口元を舐めると其からはスープに夢中になった。

「食べた後は洗濯して、後掃除と・・・、」

食べ乍ら今日のスケジュールを考えて置く。二柱が居ない分自分がしっかりしないといけない。

 大丈夫、二柱の為にも頑張るぞ、然う勢い込む。

「キャウ!」

其の決意を察したのか二匹も気持大き目の声で鳴いた。

「あ、有難う。僕、頑張・・・、」

其に応えようとスーが頷いた所ではたと違和感に気付いた。

 ・・・何か心做(ココロナ)し二匹が大きくなっている様な?

 一寸しかない位だった筈なのに、掌サイズ位ある気がする。

 若しかして成長した?こんなすくすく大きくなるのだろうか。

 つい瞬きをして二匹を見詰めるが・・・いや、見間違いじゃない。

 大きくなっている。二匹は今、スーの目の前でどんどん大きくなっているんだ!

 気付いた途端、其の変化はより顕著になり、瞬きの間に一回りずつ大きくなって行った。

 そして遂にはテーブル一杯になって・・・、

「うわぁあああぁ!」

悲鳴を上げてスーは椅子から転がり落ち、床に尻餅を付いてしまう。

「お、おい坊主大丈夫かよ⁉」

スーの悲鳴を聞き取ったのだろう、窓から皐牙が顔を覗かせた。

 如何やら外に迄聞こえる位の大声だった様だ。皐牙は状況を把握しようと急ぎ視線を動かす。

「え、お、おぉ・・・えっと、御帰り、ってか?」

「ん、只今・・・なのか?」

テーブルの上には元の姿へ戻った二柱が腰掛けていたのだ。二柱共何も理解出来ない現状に目を瞬かせる。

「ど、如何して俺達テーブルの上なんかに・・・?」

全く意味が解らない。取り敢えず此処から降りないと。

「オイ、其より下で転がっている奴助けてやれよ。」

「え、あ、スー⁉ど、如何した何があったんだ⁉」

慌てて二柱はテーブルから降りると、床に伸びていたスーを起こす。

 良く見ると皿だとかが散乱しているが、まるで襲われたかの様な惨状だ。

「あ・・・あ、も、元に戻った・・・。」

「戻った?何があったんだよスー。」

譫言(ウワゴト)を呟く彼の焦点は何だか怪しい。可也混乱してしまっている様だ。

 一応起こしてやって椅子に座らせる。其処で何度か息を吸わせた。

「大丈夫かスー?」

「あ・・・あ、ガ、ガルダしゃんっ!」

そしてまじまじとガルダの姿を見たかと思うと急に抱き付いて来た。ぎゅう、としっかりしがみ付いてしまう。

「・・・やっとか。」

「ん、丗闇じゃないか。珍しいな。」

扉を開け、ちらと彼女が顔を覗かせていた。顕現しているなんて珍しい。

「・・・後で二柱共部屋に来い。」

其丈言い残すと扉を閉められてしまう。一応其処は自分の部屋だけれども。

「・・・何だろう、俺凄く嫌な予感がするぞ。」

「奇遇だな、私もだ。」

と言う事は必然か、今直ぐ逃げ出したい気持に駆られるが・・・。

「二柱揃ってこってり絞られて来いよ。」

ニヤニヤと皐牙は何とも(ヒト)の悪い笑みを浮かべている。

 此奴・・・自分は関係無いからって、

「ねぇ君、やる気ないの。」

「あ、ヤベ。じゃあな店主、家主!」

外から飃の声がしたかと思ったら慌てて彼は顔を引っ込めて行った。

 ・・・?噫若しかしたら特訓でもしていたのだろうか。陽が出ている風に見えるが、(ヨル)の彼が出ているとは珍しい。然う言う次元が近くにあるのかも知れない。

 其より先ずは状況整理だけれども・・・。

「先に・・・片付け、かな。」

未だ固まってしまっているスーに尋ねると、小さく彼は頷き返すのだった。

   ・・・・・

「・・・此で少しは己の身の在り方を分かったか愚陋(グロウ)共め。」

其から一刻もしない内にセレとガルダ、二柱は揃って丗闇の前で正座をしていた。

 (アレ)から片付けつつスーに聞いたり、互いに確認し合って二柱は全て理解したのだ。

 そして気付いた途端、余りの失態に皿を割りそうな勢いでのたうち、(ツイ)で互いの生還を喜び合って、後に起こるであろう苦難(説教)に震え上がったりと忙しかった。

 時間を置き、僅かに残った記憶を辿る。すると確かに小さな獣に成って甲斐甲斐しく皆から世話をされた記憶が残っていたのだ。

 其にしてもまさか二柱一緒にあんな姿に成るなんて、もう皆にどんな顔をしたら良いか分からない二柱である。

 只其でも前の次元で具体的に何があったのか、其の記憶は定かではなかったので、其処は丗闇に聞くしかないと覚悟を決めたのだ。

 然うしていざ自分の部屋へ踏み込んだ訳だが、

 其処から先ず丗闇は言伝と言う事で、()の次元が如何なったか教えてくれた。

 (シカ)も結構しっかりとだ。突然呼ばれた形になっただろうに、しっかり丗闇は代わりを引き継いでくれていた。

 ガルダもまさか丗闇がこんな教えてくれるとは思っていなかったのだろう。目を瞬いて少し口を開けた(ママ)聞いていた。

 然うして所々は互いに話し合って、取り敢えず事情は把握していたのだが、

「そっか。ふぅ・・・蕾が無事だったのは良かったな。」

「噫面目ないな。まさか暴れてしまうなんて・・・蕾達に随分迷惑掛けたな。」

勢いの(ママ)次元を壊していたら・・・洒落にならない。

 そんな悲劇を起こさなくて本当に良かった。

「うん・・・でもそっか。彼奴本当に獅子だったんだな。まぁ(ツヨ)かったもんな。」

「しっかりと塔の奴等とやり合っていたな。(アレ)なら欲しがるのも納得だな。」

其にしても、変な事をされていなかったのなら良かった。行き成り攫われて弄られるなんて、トラウマも良い所だからな。

 こんな形ではあれ、一応無事に事が収まったのなら・・・良かった。

「でも矢っ張蕾を捕えたのって、彼奴、だったんだろうな。()のセレと戦っていた。」

「ルーズだったか。然うだろうな。不思議な力を持っていたけれども、(アレ)なら使い方に因っては簡単に蕾を捕えられただろうな。」

一方的なルールの押し付けを突然されたら、不利になるのは明白だ。

 自分だって随分な目に遭ったしな・・・あんな厄介な力だったとは。

 精霊としての力の一種だろうが、中々奥が深い。

「セレと同じ精霊、だったんだよな?確かに、俺も飛べなくなったし・・・。」

「然うでなくても魔力の扱いは優れていたな。私の零星(ホシ)も的確に避けられて中々厄介だったな。」

「うん・・・その、セレ、御免な。俺が余計な事しちゃって・・・俺の所為でセレは、」

懐い出したのか、ギュッと膝を握るガルダの手が強くなる。

 顔色も悪い。明らかに気負い過ぎているな・・・。

「ガルダ、何も謝る事はないだろう?ガルダの御蔭で彼奴に隙が出来たんじゃないか。(ムシ)ろ、暴走してしまって、手間掛けたな。ガルダ迄巻き込んでしまって申し訳ない。」

「そ、そんなの、(ソモソモ)セレは俺を助けようとした丈で、」

「・・・元々御前の算段では如何()の場を乗り切る気だったんだ。」

互いの問答が始まった所で、其迄黙りこくっていた丗闇が(オモムロ)に口を開いた。

 途端に小さな悲鳴を呑み込んで二柱の背が伸びる。

 然うだった。一番の迷惑を被った存在が目の前に居たんだった。先ずは此方に礼を尽くさないと。

「あ、噫、(オオムネ)其は達成出来たんだが、折角ガルダが来てくれたから、振り返る名目が出来たんだ。」

「振り返る・・・名目?」

「つまり、元から御前は自分の首や四肢を飛ばすつもりだったんだな。」

「まぁ・・・然うだな。然うでもしないと彼奴は隙なんて見せなかっただろうし。」

「えっと、其って・・・。」

何となく頭では理解出来たけれども呑み込めない・・・。

 其って何だ。つまりセレは最初から彼奴を倒すには五体満足じゃあ無理と判断したって事か。

 ルールを敢えて破って、頸を()がれようが死なない自信があったから、彼奴が勝ったと確信した其の隙に。

 殺す為に、自身すら死地へ追いやるなんて、

 そんなとんでもないやり方を()の時に決断したって言うのか。

「脳天撃たれても生きていたし、首を無くしても・・・まぁ()の時はアティスレイの御蔭だが、生きてはいただろう?だから此位なら死なないと信じる事にしたんだ。只、其でも急に意味もなく振り返ってルールを破りでもしたら警戒されるかも知れないだろう?」

相手に絶対死んだと油断させる事、其の一点を如何にか作りたかった。

「だから可也迷った振りをしたんだ。振り返ったら死ぬんだと彼奴に思わせる為にも、私だって気が気じゃなったよ。本当にガルダが落ちてしまったら如何しようかと・・・、早くルールを壊さないといけないからって・・・恐かったよ。」

つい苦笑してしまう。自分の首なんて如何でも良い。でもガルダの命は同じ天秤になんて掛けられない。

 まさか、助けに来てくれるなんて思っていなかった。其の考えがすっかり頭から離れていたんだ。

 ・・・前世で散々、思い知った筈なのに。

 だから嬉しく思った半面、()の時は・・・只々恐ろしかった。

 もうあんな懐いはしたくないのに。矢っ張り一柱じゃない戦いは苦手だ。

「其で、御前は目論見通り油断した彼奴等を殺したと。」

「噫、干渉力は大事だな。本当に只彼奴を殺す事丈考えて、只全力で喰らいに行ったんだが・・・。」

「全力なんて出すから暴走する。」

「うぅ・・・本当に面目ないな・・・。」

其は完全に想定外だったんだ。まさか・・・あんな事になるなんて。

「幾らかは憶えているのか。」

「何となく・・・だな。殺さなきゃいけないって、其ばっかり思っていて、でも・・・その、其の相手が誰か、良く分からなくなっていたな。其でも全て壊して行ったら問題ないかって。」

「問題は大ありだ半神前(ハンニンマエ)が。うっかりで黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の再来を起こそうとするな。」

「ぐ、其のレベルで暴れていたのか・・・。其はやり過ぎたな。」

確かに全部壊せば良いなんて、其こそ黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の時と同じ思考じゃないか。

 何も見えていなかった。一つの事丈に固執し、他全てを蔑ろにして破壊する。

 いけない、そんな事は。(ユル)される可きじゃない。

「セレ、もう本当に大丈夫なのか?何処か痛むとか、然う言うの。」

「ん、もう大丈夫だよ。もう何処も痛くない。ガルダの御蔭だな。」

じんわりと、懐い出す事は出来る。

 ()の、ぐちゃぐちゃになった感覚、意志の(ママ)に、懐いの(ママ)に崩れて。

 バラバラになりそうだから何とか留めようとして、でも自分を構成する物が理解出来なかった。

 何処迄が自分で、何なのか、如何在るのか、其の全てが曖昧になった。

 其の不安定さが気持悪く、絶え間なく苦痛丈、残っていたんだ。

 壊れる、壊される。残らない、消されてしまう。

 其の痛みが、全身を蝕んで苦しかった。

 けれども然うやって(モガ)いて行く中で、別の感覚が走ったんだ。

 壊すでも消すでもなく、(ホド)かれる感覚。

 元の形の在り方を懐い出して、取り戻す。其の様に誘う(ヒカリ)が。

 其丈は痛みを伴っていなくて、だから、其になら・・・委ねても良いと思ったんだ。

 然う、(イザナ)われた。其の(ヒカリ)に。私は包まれたかったんだ。

 (ヒカリ)なんてそんなの、(オゾマ)しくて恐ろしい物の筈なのに、其の(ヒカリ)丈は受け入れる事が出来た。

 其になら、照らされても良いと、温かいと・・・思ったんだ。

 噫、懐い出すのも不思議な感覚だ。恐らく、()の時は躯なんて無い感覚丈が頼りの状態だったから、懐い出すと言うよりは感覚が沁み付いている具合だ。

 ・・・自分の中に残っている此の(ヒカリ)が、恐らくは屹度、

 少し目を閉じて思い起こしていると、不図ガルダの視線を感じた。

 何処か心配そうに見ている気がするが、もう本当に何でもないんだ。そんな顔をしないで欲しい。

 ・・・まぁ此は、暴走させてしまった罰だと、思う可きなんだろうな。

「大丈夫だよ本当に。今は何ともないから。」

「だったら良かった・・・うん。」

「自分で理解出来ているなら話は早いか。もうあんな面倒も掛けない為にも、御前はもっと自覚を持たないといけないからな。」

「う・・・そ、其の通りだな。」

何も言えない。全く以て其の通りだ。自分の力を把握していないなんて、一種の災害だ。もう起こす訳には行かない。

 原因と言うか、其の辺りはしっかり頭に入れて置かないと。

「先ず、如何してあんなに干渉力が暴走したかは分かっているのか。」

「噫、(アレ)はシンプルに死に掛けたから、だな。本来なら死ぬ様な怪我だったけれども、干渉力で私は持たせようとした。・・・然うしたら、自分の許容出来る範囲を超えてしまったんだな。」

「でも今更だけどそんな事ってあるもんなのか?まぁ(ソモソモ)・・・干渉力で助かるってのも一寸(チョット)おかしな話だけれど。」

「其丈、此奴の干渉力が異常に高いと言う事だ。そして其を使い(コナ)せる器に成れていないから、アンバランスで良くおかしな事に巻き込まれる。」

溜息を付かれるけれども仕方ない。全く以て其の通りなのだから。

 早く、此の力も受け入れないといけないのに。

「今回は特に、()の機器を外した事も大きいだろう。今迄は(アレ)が御前の存在分の魔力や干渉力を残し、セーブしていた。だが其の管理が外れた今、御前は自分で其の感覚を掴まないといけない。」

「全部の全部を使ってはいけないって事だな。」

「噫、(ソモソモ)其の感覚を未だ掴めていないのも特異だがな・・・。本来の全力なんて使おうとして使える物じゃない。」

「然う、だよな。俺も結構意識するの大変だったし・・・。」

「でも、(ムシ)ろ皆は私が下手な其の自分を保つ分は問題なく出来ているんだろう?」

自分丈当たり前の事が出来ないと言うのは何だか悔しい。其をBDE‐01に頼らなきゃ出来なかったと言うのも。

「其の辺も含めて半神前(ハンニンマエ)なのだ。だから今回は、自覚した丈でも良しとする可きなんだろうが、下手したら()(ママ)真の姿に成ってしまっていたからな。」

「其が一番最悪なシナリオだったな・・・。うっかり成り掛けるなんて。」

「だから自覚しろと言っている。今回は其奴の御蔭で辛うじて助かったからな。」

「うん、俺も役に立てて良かったよ。」

「噫、矢っ張りガルダは凄いな。まさか(アレ)を鎮めてしまうなんて。」

「確かに。大した生命力だ。其は認めざるを得ん。」

「う・・・ま、まぁ其しか俺は無いし・・・。」

丗闇に迄然う言われて、何処か罰が悪そうに彼は頭を掻いた。

 こんな扱いに慣れていないのだ。まさか彼女に迄一目置かれる様な言い振りだ。

 ()の時は只必死だったから余り憶えていないけど、でも・・・其なら良かった。

「只、其の反動か御前も存在を保つのが厳しかった様だが、でも其は我が示した方法だ。別に御前を責める事はない。・・・彼処迄姿が変化するとは思わなかったが。」

御咎めは無いと言う事で明らかにガルダが肩の力を抜くのが分かった。

 セレを抑えられた丈でも十分だから、と言う事だろう。

 只、其にしてもと再び彼女の視線がセレへ注がれる。

「御前は力の割に自覚が無さ過ぎる。そして自己犠牲を用いて安易に解決しようとする節がある。自分の限界も理解していないのにリスクある選択(バカ)りする。責任も一柱で負えない癖に頼ろうともしない、そして・・・、」

噫此は始まったと、さっとセレの顔色が悪くなる。

 そして直ぐに耐えの姿勢に入る。もう慣れた物だ。此から始まる説教なんて。

 只慣れていないガルダは、空気が変わった気配を察しつつも、戸惑った様に丗闇を見ていた。

 ・・・折角彼は御咎め無しだった筈なのに申し訳ない。()うなっては同席して貰って共に堪えて貰おう。

「・・・おい、余所見する余裕があるのか。」

「っは、はい!」

波紋の筈なのに目敏くばれて低く注意される。

 其の後、丗闇の説教が終わる迄二柱は正座の(ママ)耐え忍ぶのだった。

   ・・・・・

「・・・・・。」

一刻丸々留まる事もなく話し続けていた丗闇は、ふつりと其の口を閉じた。

 そしてじっと座り続けて動かない二柱に目を遣る。

 其でも二柱は何も言わず動かず、じっと耐える丈だ。

 すると煙の様に唐突に丗闇の姿は掻き消えた。

 部屋を支配していた圧力から逃れ、二柱は揃って伸びをする。

「お・・・終わった、のか?」

「噫、丗闇はもうぐっすりだな。」

何日も表に出ていた事もあり、大分彼女も疲れていたのだろう。戻るなり眠ってしまった様だ。

 其を聞いていよいよガルダは安心し切ったらしく、足を投げ出していた。自分もベッドへ腰掛け直す。

「噫・・・丗闇って、喋る時はあんなに話せるんだな・・・。」

「でも一刻位だろう?今回は大分マイルドだったな。」

カラカラしている彼女を見て一つ息を付く。確かに此の様子だともう慣れっこの様だ。

「兎に角、此で丗闇も安心してくれたし、大手を振って動けるな。」

「まぁ然うだけど、もう無理はしちゃ駄目だからな。」

「おっと、今度はガルダからか?流石にもう缶詰は嫌だぞ。」

調子が戻った様で彼女は一気に御機嫌だ。早速ベッドにあるファフーの触り心地を確かめる様に撫でている。

「いや、俺ももう一寸(チョット)疲れたよ・・・。」

「然うだな、まぁ暫く休んでから次元には行こうか。」

「うん其が良いな。じゃあ又俺一緒に行っても良いか?」

「ククッ、ガルダは心配性だな。勿論構わない、一緒に行こうか。其にしても。」

ちらと窓を見遣る視線にガルダも気付く。何やら外が気になるらしい。

「・・・まぁ彼奴等は後からでも良いか。其じゃあガルダ、休憩がてらその・・・話して置こうか。」

「ん、何かあったか?」

首を傾げる彼に中々切り出し難い・・・でも話すと約束したしな。

「あったと言うより、ほら前行った次元で話すって言っていただろう?」

「あ、噫()の事か。えとうん、良かったら聞くけど。」

一瞬目を宙に浮かせたが直ぐ戻す。如何やらしっかり彼も憶えていた様だ。

(アレ)だよな、何か一寸(チョット)セレの元気がなかった様な感じでさ。何か困ってる事とかあったらと思ったんだけど。」

「ん、一応解決と言うか、片付きはしたんだ。只其の事が一寸(チョット)引っ掛かっていると言うか。」

いざ言うとなると本当に言い難い・・・如何も()う言うのは苦手だ。

 自分の話、だからだろうか。色々考えないといけないから。

 でも、話したいのは事実だ。其は間違いない筈だ。

「・・・うん、聞いて欲しいんだろうな。ガルダに。」

「何だセレ、良いよ。時間ならたっぷりあるし。」

穏やかに(ワラ)う彼につい口元が綻ぶ。

「まぁ実は少し前に・・・前世の、()の次元へ行ったんだ。」

「え、其って彼処か・・・?俺とセレが棲んでた。」

目を瞬かせて僅かに息を呑むのが分かった。少なからず彼も緊張してしまっているのかも知れない。

「噫まさか今更あんな所へ行く羽目になるとは思わなかったけれども。」

「然う。・・・だよな。好きで行く所じゃないだろうし、でも何で態々(ワザワザ)、」

「其が次元に引き摺り込まれたんだ。丁度此の部屋に居た時なんだが。」

「え、店からか?そりゃ余っ程と言うか、彼方の次元も不安定だったのかな・・・。」

時々他の店の者も同じ様な具合で次元へ行ってしまう事もあると聞く。

 此処が次元の迫間(ディローデン)だからこそなのだろうか。突然だと如何しても驚くな。

「まぁでも()の次元なら・・・なくはないか。結構壊れていたし。」

「ん、然うなのかガルダ。」

「ほら、色々ゴチャゴチャな所だっただろ?まぁ勿論然う言う次元もあるだろうけど、彼処迄張りぼてと言うか、色々混ざった様な次元って然うないし。」

「然うか。(アンマリ)考えた事もなかったが・・・。」

壊れた、か。成程、確かに不自然にバラバラと言うか、ちぐはぐな次元だったのは間違いない。

 何となく此処次元の迫間(ディローデン)みたいに、場所で余りにも変わり過ぎた嫌いは確かにあった。

 でも其が壊れていると・・・然う言う事もあったりするのか。

「其って・・・でも大丈夫だったかセレ、行き成りあんな所へ連れて行かれて。」

「噫、まぁ大事にはならなかったよ。只、私達が死んで二年後の世界だったが。」

「二年後?へぇ・・・。」

薄く目を閉じる彼に向け、掻い摘んで()の次元の話をした。

 主にはナレーの事になるが、彼奴の話は(ホトン)ど彼にはしていなかった。

 進んでする様な話じゃないし・・・(ソモソモ)嫌いな奴の話だ。

 ガルダも、()の世話になった魔導具専門店の店主の話は頷いて聞いていたが、ナレーの話になると一寸(チョット)難色を示した。

「其奴って確か・・・ギルドでセレと一緒だった奴だよな。」

「ん、噫良く憶えてたな。」

ギルドの話は・・・ガルダに(ホトン)どしてないな。

 まぁ暫く殺しをしていたのも黙っていたし。

「そりゃあ当然、結構俺()の話聞いた時衝撃だったからさ。余りにも生き方と言うか、違い過ぎてさ。」

「まぁ()の時はその、一番荒れていたと言うか・・・。」

生きるのに必死で結構無茶してたからな。生きていたのが不思議な位。

 確かに天使様として大切にされていたガルダからしたら可也ショッキングな話だっただろう。

 然うは言っても自分が其を顧みてやる(イトマ)も無かったし、()の頃は未だ其が自分にとっての常識だから割とあっさり話しはした気がする。

 言うのは気後れしたけれども、言ってしまえば、だ。

 只その・・・何と言うか、今振り返ると一寸(チョット)恥ずかしいと言うか、いや、()の時は必死だったのは勿論だが、其でも一寸(チョット)言い難い。荒れていたのは事実だからな。

 別に戦うのが好きと言う訳でもないし、殺伐が御好みなんて事もない。似合っているとも思われたくない。

 嫌な記憶(バカ)りなんだ。其こそ忘れてしまいたい程の。

 前世を懐い出したからこそこんな(クラ)くなってしまったんだし、()の最初の、記憶が無い頃なんて随分自分はのほほんとしていたなと思う。

 ・・・うん、矢っ張り進んでしたい話じゃないな。

 聞いても楽しい話じゃないしな、然う言うのは自分の中に留めたい物だ。

「でも其の時の奴に会ったって、其穏やかじゃないじゃないか。」

「然うだけれども、まぁでも彼奴はギルドでも変わり者だったからな。」

「えぇーっと・・・元教師なんだっけ。其で良く殺しなんてやれたな。」

記憶を辿る様に彼は目を閉じるが、思っていた以上に彼が憶えていて、思わず見詰めてしまう。

 そんな話したか?あっても一回位だろうに。

「・・・凄いなガルダ。良く憶えてるな。」

「え、いやほら、割とちらちらセレ、其奴の話してたよ。矢っ張教師丈あって色々教えて貰ったんだなって思ったし。」

「う・・・そ、そんなにか?割と彼奴自体は鈍臭(ドンクサ)くて私の足を引っ張ったりしてたが。」

そこそこ学はあったんだろうけれど、てんで其以外のスキルはさっぱりだ。

 懐い出してもむかつく様な仕事振りだったし・・・。

 まぁ若しかしたら見えていなかった丈で裏で結構頑張っていたのかも知れないが、其でもである。書類探しとか、隠蔽はそこそこやっただろうが・・・うーん。

 教えて貰った事も(ロク)な物じゃなかったと思うから、何とも言えないな。

 駄目だ。矢っ張り彼奴の事を懐い出すとモヤモヤする・・・。

「は、はは、でもセレ確かに()の時は凄かったもんな。色々、その知ってると言うか得意で。」

「其は褒められているのか?」

「処世術が豊富って事で。」

苦笑を返されてしまうが、まぁ然う言う事にして置こうか。

 多分今ガルダが考えてる内容は(ドレ)(ロク)な物じゃないけれどな。当初、中々価値観の擦り合わせに苦労したし。

 ・・・といけない、懐い出話に浸っていると話が逸れてしまう。

「話を戻すぞ。其で、彼奴の事なんだが・・・。」

()の道明るい話でないのは明らかだ。だから手短に、事実丈を伝えよう。

 然う決意して、少しずつセレは口を開いた。

   ・・・・・

「・・・そっか、そんな事があったのか。」

ガルダは暫く唸ってしまって色々と考えあぐねて仕舞っている様だった。

 淡々と話し過ぎた所為で余計、考えさせてしまったかも知れない。

「ガルダ、もう終わった事だからそんな深刻に受け止めなくて良いぞ。」

「其は分かってるけど、何だかそんな所で無理矢理解決させられたみたいな気がしてさ。」

「まぁ突然連れて行かれたのは事実だしな。」

元から行く気なんて更々(サラサラ)なかった。出来れば見たくもない次元だ。

「うん、だから・・・頑張ったなって思って。」

「別に。褒められる様な事はしてないぞ。」

「其でも嫌な事実に向き合ったのは間違いないだろ?」

「然う・・・だな。」

「じゃあ頑張ったんだよ。俺はそんな風に過去と言うか、向き合うのってしたくないし・・・。」

「其は誰でもだろう。無理矢理終わらせた事を掘り起こされて良い気はしない。」

ガルダは小さく頷いて目を伏せた。つい、其の目を見てしまう。

 (シロ)くて透ける様な、綺麗で儚い此の色を見ていると、不思議と安心出来た。

「でも蒸し返す訳じゃないけどさ。その、一個聞いても良いか?丗闇が・・・影武者って・・・。」

「ん、言葉の通りだが。」

「そ、そんな演技やってくれたのか?」

信じられないと(バカ)りに彼は一寸(チョット)詰め寄るが、其の反応は余りにも彼女に失礼だろう。

 今彼女が起きていたら又説教されてもおかしくない。

 まぁ・・・気持は分からなくもないけれども。

「噫、私の中へ戻る訳にも行かないし、渋々だがしてくれたぞ。」

「そんな融通利かせてくれる事もあるんだな・・・。」

「ククッ、丗闇は良い奴だぞ?そんな事言ったら又説教されるかもな。」

「いや、(ムシ)(アレ)喰らった後に良く良い奴って言えるな。」

「勿論(アレ)は叱られても仕方ないからな。まぁガルダは無意味に巻き込まれたが。」

つい思い出し笑いをしてしまう。今思えば完全に彼のは(トバッチ)りだな。

「然うだよ、何で俺も怒られたんだ・・・?」

今更乍ら彼も気になったらしい。此は中々面白い、あんなに怒られて其の原因を知らない(ママ)だったなんて。

 まぁ丗闇の圧に気圧されたから其の(ママ)動けなかった訳だけれども。

 自分が笑ってしまった事に彼も頭を掻いて苦笑する。

「屹度日頃の事も(マト)めて全部だったんだな。」

「うぅ、其は今じゃなくても良かっただろ。」

兎に角、とガルダは一つ咳払いをした。

「セレ、話してくれて有難な。然う言う事だったんだって知れて良かったよ。」

「ん、私こそ。ガルダに話したら一寸(チョット)楽になれるから良いな。」

「あれ、嫌じゃない・・・のか?」

「別に話し難くはまぁ思うが、聞いてくれるのは分かっているからな。ガルダは否定とかもしないし。」

「う、うん・・・その、有難う?」

「ククッ、そんな変な顔をしなくても良いじゃないか。」

矢っ張り、ガルダには話し易いな。あんな次元の話をしたのに互いに(ワラ)ってるなんて。

 胸に(シコリ)も残らない。こんな穏やかな心地だ。

 ・・・然う、だから私は、

「さ、もう随分話し込んだが、聞いてくれて有難うなガルダ。ガルダは休んでてくれ。私は一寸(チョット)、彼奴等に声でも掛けるか。」

「彼奴等・・・?まぁ分かった。然うさせて貰うな。」

改めて伸びをするガルダを他所に、セレは早速部屋を出て、其の(ママ)店からも出てしまう。

 彼女にはずっと見えていたのだ。店の前で何やら楽しそうな事が行われていたのを。

「ナゥロン!」

出て来たセレの姿に気付いてレインが頭を摺り寄せて来た。

「噫レイン、長い間世話になったな。」

随分と彼女が気に掛けてくれていた事は憶えている。

 撫でたいのだが、結構レインを撫でるのは難しかったりする。少しでも力が(ツヨ)いと凹んで変形してしまうので、力加減が重要だ。 

其でも喜んでくれているのかレインはされるが(ママ)で大人しくしてくれる。存分にモフらせて貰おう。

 だが不図刺す様な視線を感じ、大きく一歩下がる。

 すると足元で刃でも突き立てられたかの様に地面が(エグ)れ、砂塵が舞った。

 魔力の流れを感じる。相変わらず洗練された術だ。

「随分な挨拶だな。」

「ふーん、しっかり元気になっちゃったのか。」

手持無沙汰そうに(ツエ)に跨って飃が飛んで来た。

 レインが不満そうに膨らんでいるが、何の其のである。

「噫御蔭様で。皐牙と手合わせしていたのか?」

「そ、全然手応えないけどね。」

然う言って彼は顎で示すが、確かに少し離れた所で皐牙は大の字になって倒れていた。

 随分息が上がっているらしく、激しく胸が上下している。

「生きてるのか皐牙。」

「っあ、て、店主!な、何の用だよ!」

そっと彼の顔色を窺うが、大粒の汗を流して何とも暑苦しい。

 何度か息を詰まらせ乍らも、でも元気はある様で、彼の声は大きかった。

「頑張ってるなと思って見に来た丈だが。」

「ヘッ、何時か絶対ぎゃふんと言わせてやるから覚悟しろよ。」

「そんな為体(テイタラク)で良く吼えるね。」

(ツエ)を降り、飃は寝そべる皐牙の脇を軽く蹴った。渋々と皐牙は起き上がったが、目が座っている。

「クソ、先ずは御前だ!ゼッテー負けねぇからな二重野郎!」

「立派なのは口丈じゃん。付き合う此方の身にもなってよね。」

「飃、皐牙の特訓に付き合ってくれていたのか。」

「ん、まぁね。頼まれたら断る理由もないでしょ。」

「でも全部避けられるわ去なされるわでもー全っ然当たんねぇ!」

「猪みたいに(ヒタスラ)真直ぐなんだからそりゃ避けられるでしょ。」

(シカ)も何でもないかの様に鼻で笑われてしまう。

 確かに前自分も皐牙と手合わせ位はしたけど、直感と言うか全力で真直ぐだったからなぁ・・・。

 一応彼が走り込みだとか、色々術の練習をしているのは見ている。でも単純な魔力だとかは其で上がるだろうが、スキルは身に付かないだろう。

 だから其方の方面も補ってはやりたい物だが、彼も遂に師と言うか、手合わせの相手を探しているんだろう。

 実は時々飃が相手してやっていたのは知っていた。飃の気紛れだろうが、飃の完全試合で伸しているのを幾度か見た。

 一見(イジ)めなんじゃないかと思う位徹底的にやるんだが・・・其でも諦めずに彼も喰らい付いているのだ。

 努力家ではあるので何時か飃に一発、入れられたら良いが・・・彼奴も(ツヨ)いからな、気長に見よう。

「ま、まさか店主、今からオレとやるとか言わねぇよな?さ、流石に無理だゼ・・・。休憩せずのぶっ続けだったし・・・。」

確かに。丗闇の説教の前からしていたのだから大分だろう、御疲れ様だ。

「そんな無茶は言わないが、折角だし一緒に次元に行くか誘おうと思った迄だ。」

「お、其なら良いゼ。んじゃ一寸(チョット)準備して来るか。」

言うや否や皐牙は直ぐに起き上がっていそいそと店へ戻る。

「何だ元気じゃん。」

「ククッ、でも(アンマリ)(イジ)めてやるなよ。」

「良く言うよ。御預け僕だってずっと喰らってるのに。」

肩を(スク)め、一つ彼は息を付いた。

 何とも涼しい顔をしている。本当に勝負にならなかったんだろう。

「然う言えば今回は来なかったのか?」

「守護神諸共大チャンスだったけど、ガードが堅かったから出来なかったんだよ。」

「ん、其は残念だったな。今回は一体誰が助けてくれたんだ?」

「さぁ僕の知らない奴だよ。全く、あんなの居たなら教えてよ事前に。」

「知らない奴・・・?そんなの居たか?」

「居るでしょ。変な(ヒカリ)、結構(マト)わり付いて邪魔だったよ。妙に魔力は高いし、変な友達作らないでよ。」

「・・・然うか、分かった。」

(ニワカ)には信じ難いが、(ヒカリ)と言うとまさか・・・。

 何気先丗闇が説教がてら彼奴が出ていたと言ってくれたが、若しかしたら。

 ・・・後でガルダに聞いてみよう。彼奴にも世話になったみたいだし。

「飃は如何する?一緒に行くか?」

「ん・・・折角の御誘いだけど今回は休もうかな。一寸(チョット)僕も用事があるし。」

然う言うと飃も店へ戻ってしまった。屹度色々彼も試したい事があるんだろう。

 御手柔らかに頼みたい所だが、彼奴の事だから油断ならない。

 ユニークな武器、刀を持っていたし、(アレ)を使った斬新な手を思い付くかも知れない。

 流石にもう三度目に()の姿へ成ったら、本当に命が無いかも知れない。そんな事がない様、重々気を付けないとな。

「ね、ね、次元行くの?」

「ん、噫ケルディそんな所に居たのか。」

振り返るとレインの頭の上にちょこんとケルディが乗っていた。

 何てあざと可愛いモフモフだ。早速モフらせて貰おう。

 レインと同じ真黔(マックロ)だから紛れていたのだろうか。波紋を()うも掻い潜るとは流石だ。

 大人しくしているのでそっと頬の辺りから首元を撫でる。

 おぉ・・・此だ。此の手触り、艶は狐ならではか!

「如何だケルディ、御前も一緒に行くか?」

「うん!宜しくね!」

「コチも行きますわ!」

勢い良く店のドアが開かれ、仁王立ちでカレンがやって来た。

 非常に元気が良い。うん、彼女が居る丈で明るくなるな。

「カレン、世話になったな。」

「本当に()の姿から元に戻ったんですわね・・・。」

未だ疑っているのか頭から足迄じっくりと見られてしまう。

 別に(ヤマ)しい事だとかは何も無いが、むず痒い視線だ。

 そして出来れば()の事は・・・早急に忘れて頂きたい。新神(シンジン)()の醜態を晒した事は結構ダメージなのだから。

 たっぷり時間を掛けて何度も見直したカレンは一つ息を付いた。納得はしてくれたらしい。

「其にしても凄い変化ですわ。まるで小っちゃくて鼠みたいでしたけど。」

(アレ)は本当に一時的な物だから然う気にしないでくれ。」

全力で忘れて欲しい。(アレ)は戒めの姿なのだ。

「でももう完全復活なんでしょう?だったら何も問題ありませんわ。」

「噫然うだ。今の私は絶好調だからな。で、カレンも一緒に来てくれるのか?」

「えぇ勿論!折角ですからセレ神さんの雄姿、(トク)と見せて貰いますわ。」

胸を張って何とも元気一杯に宣言する。心做(ココロナ)し、髪の針だとかも少し立っている様な、元気の証なのだろう。

「雄姿か・・・。本当はそんな機会が無い方が望ましいけどな。」

こってり丗闇に絞られた後なので消極的になってしまう。BDE‐01が居ない分、自分で管理をしないといけないんだ。

 調子に乗って暴れでもしてみろ・・・うん、其の後の制裁が恐ろし過ぎる。

―・・・絶対に・・・馬鹿な出しゃばりをするなよ。―

「っ⁉」

「ど、如何しましたのセレ神さん!」

さっとまるで青ざめる様にセレの顔色が悪くなり、僅かに背も震えたので思わずカレンは一歩下がる。

「え、あ、い、いや何でも・・・無い。」

一瞬丗闇の声がしたが・・・いや、気配は寝ている。間違いない。

 ま、まさか寝言か⁉丗闇がそんな事言うのも驚きだが、油断も隙も無いのも衝撃である。

 こ、此は・・・絶対、絶対過ちを犯す可きじゃないっ!駄目だ、こんな寝ても警戒されているなんて余っ程だ。

 相当・・・彼女の怒りやら何やらを買ってしまったのだろう。・・・うん、今回は少なくとも大人しくしないと。

「ほ・・・本当に大丈夫ですの?未だ本調子じゃないとか。」

「い、いやそんな事はないけれども・・・然うだな。今回は余り、派手には動かない様にしようかなと。」

「あら、でも其も然うですわね。じゃあコチの活躍を見届けて欲しいですわ。」

「うん然うだな。其の方がずっと楽しそうだな。」

自分はもう術一つ放つのでさえ彼女の顔色を見ないといけないので無理は出来ない。

 まぁ寝言をうっかり言ってしまうなんて、相当疲れているのは事実なんだろう。だったら(ユック)り寝かせてあげよう。

「ん、あ、何だ御前も来るのか針鼠。」

「針鼠じゃあありませんわ!コチはカレンでしてよ!」

もう準備が出来たのか皐牙が顔を覗かせるが、カレンがガッチリ扉を塞いでいるので出られない様だ。

「いやでも鼠は鼠だろ、なぁ店主。」

「ん、容姿で兎や角言うのは私は感心しないが・・・。」

彼だって蜥蜴と呼ばわれると割と怒るんだが、自分の事はすっかり棚上げである。

「然うですわ!大体鼠だなんてそんな、」

―ん、何だ俺達が如何かしたのか?―

「へ・・・ぇ・・・?」

何処からか声がしたかと思いきや、皐牙の手には小さな火の玉が乗っていた。

 其の正体は、言う迄もなく火鼠なのだが・・・カレンは目を見開いて食い入る様に見ている。

 其の様子をニヤニヤと皐牙は見ているが、まさか此奴・・・。

「え・・・え、あ、貴方まさか、鼠、ですの?」

―ん、おぅ何時も暖炉に居るだろ。火鼠って知らねぇのか?―

首元を掻いて小首を傾げる。何とも愛らしい姿に自分はモフりたくて堪らなくなるが、

「キ、キャァアアァアアア⁉ね、鼠ですのぉ!」

大声で叫んだかと思うと其の場でぴょんぴょんとカレンは飛び跳ねた。

 ・・・情緒不安定なのだろうか。

 自分と全く異なる反応についドキッとしてしまう。何だ、一体何の悲鳴なんだ。

―何だよぅ俺見るなり乙女みてぇな声出しやがって。―

火鼠はピンと耳を立てると少し毛を膨らませた。

 噫凄い、あんなモフモフが、焔が膨らんで・・・っ。

 此方は謎の御預けを喰らっていると言うのにカレンはぶるぶる震え始めた。

 彼女の挙動が一々気になるが・・・何だ発作か?

「ヘヘッ矢っ張りな。アンタ、鼠苦手なんだろ。」

「そ、そそ、そんな事ありませんわ」

「何、然うだったのかカレン!」

衝撃の事実に驚く(バカ)りだ。こんなモフモフで愛らしいのに。

 口では否定しているが・・・確かに姿を見れば明らかだ。然うか、此の反応は拒絶反応だったのか・・・。

 分かってしまうと何だか悲しい・・・うん。

―まぁ姉さんその、普通そんな好いてる奴の方が珍しいからな?―

「そんな事ない、御前達だって立派で素敵なモフモフだぞ。」

「べ、別に嫌いって訳じゃなくってよ。只急に出て来たりするからその・・・吃驚させられるのが苦手って丈ですの。」

―お、何だ然うなのか?―

火鼠に向け、カレンは何度も頷き返す。

 目は会わせない様にしている気もするが・・・まぁ理由は然うらしい。

 まぁ、好き嫌いがあるのは仕方ない事だって分かってる。でも然うきっぱり否定しないでくれるのは良かった。

「フーン、何だ然うだったのかよ。前もビビってたからてっきり然うかと思ったのに。」

「皐牙、分かっててそんな事したら流石に駄目だぞ。」

此じゃあ火鼠も可哀相だ。其の為に今連れて来たんだろうし。

「あら、若しかして店の中を時々走ってたのって・・・。」

―ん、まぁ多分其は俺達だな。―

「あ・・・然うですのね。ふぅ、其が分かったらなら一寸(チョット)安心出来ますわ。」

―おぅ、ま、俺達も(アンマリ)驚かさない様気を付けるぞ。―

何だかすっかり和解した具合である。二柱は互いに頷き合う。

 一柱皐牙は一寸(チョット)面白くなさそうな顔をしているが、でも無事収まったのなら良かった。

「さ、遊んでないで準備出来たなら行くぞ。」

折角回復したのだからしっかり仕事に精を出さないと。

 皆も其には同意してくれたみたいで、勢い良く頷き合うのだった。

   ・・・・・

 辿り着いたのは渇いた大地が広がる次元だった。

 広がるは砂地で、所々(クロ)やら灰の模様が浮き出ている。後は(クロ)い柱の様な物が生えてはいるが・・・。

 何も無い、と言う可きか。そんな光景が広がっていた。一面そんな有様なのだ。

 何だろう、此の砂漠とも違う感じ。未だ彼処の方が生命と言うか然う言った気配が感じられたのに。

 此処では其は(ホトン)ど感じられなかった。

 只、其でも全くと言う訳ではない。だから何かしら何処かに居はするだろうが・・・。

「ん・・・と、わ、見事に何も無いな。」

キョロキョロと辺りを見渡すガルダだが、目ぼしい物も見えず視線を下げる。

「然うだな。(シカ)も私達しか居ないぞ。」

「え、えぇ⁉え、ほ、本当だ・・・。」

慌ててガルダも振り返ったが、確かにセレの姿しか見えない。

 どんなに目を凝らしても、他三柱の姿は影も形もなかった。

「え、えーっと此って・・・。」

(ハグ)れたと言うか、次元に分けられたな。」

「噫・・・まぁ偶にあるもんな。」

一寸(チョット)不安定な次元とか、(ソモソモ)の相性とか、色々理由はあるだろうけれども一緒に行ったからって違う所に出るのは間々(ママ)ある事だ。

「せめて三柱が一緒だと良いけど。」

「然うだな。・・・ん、一寸(チョット)テレパシーが通じ難くて確認が取れないが。」

「あ、ほんとだ。結構荒れてるのかな、此の次元。」

集中してみたけれども魔力が乱れているのか中々集まらない。

 テレパシーも送れないとなると、可也の影響だ。

 魔力自体が無い訳じゃなさそうだけど・・・何だろう此の乱れ、例えるなら何か大きな力が働いて、其に丸毎影響されているみたいな。然う言う力の流れを感じる。

「あ、じゃあセレ、波紋とか大丈夫なのか?一寸(チョット)やり難いだろ。」

彼女も小さく首を傾げて考えている様だったけれども、一つ頷いた。

「然う・・・だな。可也範囲が狭くなっている。目視と余り変わらないかもな。若しかしたら近くに皐牙達が居るかも知れないが・・・。」

「そっか、分かった。多分術も使い難いし、(アンマリ)無茶するなよ。」

「分かってる、流石にな。此処じゃあ零星(ホシ)を創るのがやっとだろうし、魔力達の声も(ホトン)ど聞こえないんだ。可也・・・荒れているな。」

「荒れてる・・・か。うーん・・・。何となく、彼方の方から其の感じはするんだけど。」

ちらと視線を上げると同じ様にセレも其の先を見詰めていた。

「噫、私も然う思う。只問題なのは彼方から次元の主導者(コマンダー)の気配がする事だな。」

「先に言われちゃったか・・・。」

言いたくなかったので濁していたけれども、然う、魔力が荒れている其の先から僅かに次元の主導者(コマンダー)の気配がする。

 けれども可也弱い。まるで途切れそうな・・・其の様子が(ニワカ)に不安を掻き立てる。

 彼処で何が起きているのか、一体何があるのか。

 ・・・考えたくもないけど。無視する訳には行かないよな。

「如何したガルダ、行かない訳には行かないだろう?」

小さく笑われてしまうけれども其の通りだ。危険だからって直ぐ引く訳には行かない。

「そんな心配しなくても大丈夫だろう。前だってガルダが止めてくれたし、一緒になら問題ないだろう。」

「え、えとそんな信頼してくれるのは嬉しいけど。」

何だかむず痒い、(シカ)(アレ)をもう一回しろって言われても俺出来る自信ないぞ。

 何よりもうあんな事させないで欲しい。心臓に悪過ぎる、然う言う信頼は要らないんだから。

「まぁ迷惑を掛ける様な真似はしない。只、安心感が違うなと思って。」

「う・・・うん、然うなのかな。」

何でもないかの様に彼女は(ワラ)うけれども・・・まぁ期待されてるなら頑張ろうか。

 セレの術やらが可也弱体化されてしまったのは事実だし、だとしたら其の分俺が頑張らないと。

「取り敢えずは彼方の、次元の主導者(コマンダー)の方へ行ってみるか。皐牙達も恐らくは其方へ向かうだろうし。」

「然うだな。一応気を付けて行こうぜ。」

二柱は頷き合うと、何もない荒野を歩き始めるのだった。

   ・・・・・

「さ、新しい次元に着きましたわ。ほらカーディ先輩起きてください!」

「え、あ・・・いや、起きてっけど。」

目元を(コス)って皐牙は小さく伸びをした。

「あ、あれ、セレ神さんとガルダさんが居ませんわ!」

はたと辺りを見遣ってカレンの声丈響く。到着早々元気な様だ。

「ボクなら此処に居るよ。」

「ッキャァアアアッ‼」

そんなカレンの頭からちょこんとケルディが顔を出す。如何やら髪の中に潜んでいた様だ。

 出て来るなり彼女は悲鳴を上げて其の場で飛び跳ねてしまう。

「狐でもビビんのかよ。」

「ち、違いますわ!こ、此は、」

「もう、仕方ないね。じゃあ一寸(チョット)かっこよくなっちゃうかな。」

少し胸を反らしてケルディは彼女の頭から飛び降りた。

(クロ)い影に視界を覆われ、一瞬彼女の背が伸びる。・・・如何やらケルディサイズでも吃驚してしまう様だ。

 其の様子を見て意地悪くケルディは小さく笑う。悪戯が成功した子供みたいだ。

 だがそんなケルディの躯を蒼い焔が包み込む。そして瞬きの後に其の焔の中から大きな狐が飛び出した。

「え、うわ如何したんだよ其の姿!」

「如何したも何も此も俺の姿の一つだ。」

「変身出来るってか!かっけぇ!」

もう其丈で皐牙は大興奮である。大きな狐へと変化した彼にキラキラした眼差しを向けていた。

 何気皐牙は此のケルディの姿を見るのは初めてだったのだ。揺れる六つの尾を見て息を付く。

 ケルディも純粋に(ハシャ)ぐ皐牙に気を良くしたのか胸を反らして得意然うだった。

「あら、そんな姿に成れるなら何時も然うだったら良いのに。」

「びびらされたからってそんな言い方しなくても良いだろ。」

「び、びびってないですわ!」

「・・・一応、彼方の姿の方が小回りが利くから楽なんだよ。其の気になったら他の姿にも成れるぞ。」

「マ、マジか!良いなぁ、店主とかローズとか皆変身出来て。」

「店主って、セレ神さんの(アレ)は変身って言うのは微妙なラインじゃなくて・・・?」

「何かオレも然う言う隠し技!みたいなのが欲しいんだよ。」

「おい喋るのも好い加減にして置け。二柱は如何した。俺達しか居ないぞ。」

「何気性格も変貌してますわね。」

「何だよかっこ付けかよ。元はあんなチビなのに。」

中々話が進まないので苛立った様にケルディの尾の焔が激しく散った。

「俺は先のチビとは違うんだって。だからかっこ付けも何も此が俺だ。」

「へーじゃあケルディⅡか。」

「Ⅱとか言うな!」

逸れ続ける会話に苛立ち、終わりと(バカ)りにケルディは小さく焔を吐いた。

「兎に角!今二柱が居ないぞ。分かってるのか。」

「そ、然うですわよ。コチ達しか居ませんわ。」

「え、店主なんて其の辺に・・・あ、」

其処で初めて皐牙もぐるりと辺りを見渡した。

 確かに今の今迄、二柱の事しか見ていなかった訳だけれども・・・。

 一面が乾いた砂の大地、所々に(クロ)っぽい模様が浮かび上がっている。

 幽かにあるのは(クロ)い棒の様な物が刺さっている丈で、そんな殺風景な景色の中だった。

 只其の棒か柱の様な物が点々と並んでいるので道の様な物が出来ている風に見えなくもない。

 でも其丈だ。目に入るのはそんな、残骸とも見える何かだった。

「ん、如何した。何かあったか。」

「いや、何もねぇけど、本当に居ねぇな。」

「若しかして置いて行かれたんですの?」

「単純に別の所へ出ちゃった丈じゃねぇの。」

「だろうな。そんな離れていないと思うが。」

「まぁ、そんな事があるんですのね。」

次元なんて(ホトン)ど行った事のないカレンなので、結構衝撃的な事なのだが、二柱の様子を見るに良くある事の様だ。

 次元とか(タマシイ)の話とかは感覚で知っている丈なので、不思議な物だけれども。

 良かった。此で一柱で別の所へ行ってしまっていたら慌てていた事だろう。

「あれ、若しかしてテレパシーも駄目とか?」

「噫術も少し使い難いな。」

「少し丈か?あーそっか。御前龍だもんな。」

何だか二柱丈で話が進んでしまっているのでカレンは大人しく聞く事にする。

 セレ神とは離れてしまったが、此処に居る先輩達の手腕を見せて貰おう。

「魔力が無いんですの?」

「無い訳じゃねぇと思うけど、何か違和感があるな。違和感と言うか、まぁその・・・。」

何とも煮え切らない様子の皐牙をケルディは小突いた。

「魔力が乱れてるんだ。俺はある程度使えるが、(アンマリ)無茶はするなよ。」

「分かりましたわ。所で、早速如何されますの?」

カレンは主に体術を使うので正直魔力には(ウト)い。

 でもテレパシーが使えないのは問題だ。確かに集中しようとしても軽い頭痛に(サイナ)まれて仕舞う。

 ()う言う時は如何やって合流す可きなんだろう・・・。

「とりま、次元の主導者(コマンダー)の所へ行ったら良いんじゃねぇの。」

「然うだな。何方に居るんだ。」

「ん、彼方。多分彼方の方向だ。」

「じゃあ行くか。」

其丈言ってあっさり二柱は歩き出してしまう。は、早い・・・。

「ま、待ってください。そんな適当で良いんですの・・・?」

「別に店主達も一緒だと思うゼ。どうせ他に目印もねぇし。」

次元の主導者(コマンダー)が居る所丈は分かってるし、向かって損はないだろう。」

「そ、然うですわね。分かりましたわ。」

何と言うか凄い。此が経験の差なのだろうか。

 然う思えば此の適当とも取れる出発も、少しは頼もしく見えなくもない。

「今回の次元の主導者(コマンダー)一寸(チョット)分かり難いですわね。」

「だな、何か消えたり付いたりしてるみたいで煮え切らねぇけど。」

「其って大丈夫なのか?もう此の次元が終わるとか・・・。」

「其を如何にかするのがオレ達だろ。大丈夫だろ。」

()う言う時は一寸(チョット)頼もしいですわね先輩。」

「当然!オレは何時でもカッコいいからな。」

元気丈はある様で、皐牙の声はやおら大きくなる。

 でも応えるのは幽風(カゼ)の音丈だ。此処には何も居ないのだろうか。

「其にしても静かですわね。土も(アンマリ)良い感じじゃないですし・・・。」

「土って・・・此、喰う気なのか?」

「一応食べられなくもないですが、少し躯に悪そうですわ。」

そっと足で掻く様に蹴るが、小さく砂塵が舞った。

 ・・・全く食指が動かない土だ。まるでもう死んでいるみたいな。

「まるで何かあったみたいな、土の栄養全部取られちゃった様な空っぽ具合ですわ。」

「そんなの分かるのか。だから此処には何も無いって事か。」

「然うかも知れませんわ。草木一本も無いなんて。」

「元々然う言う所かも知れねぇけどな。」

先導する様に皐牙が前を行くが、何度か辺りを見渡した。

 すると変わらない景色だと思われていたが、一つ目に付いた物がある。

 其は嵒・・・と言うより、洞穴の様だった。

 其の辺りにもごつごつした嵒が散見している。一寸(チョット)したスポットの様にも見えた。

「お、()の中か次元の主導者(コマンダー)は。」

「違いますわ、一寸(チョット)逸れてますの。でも少し見てみたい気もしますわ。」

そっと一同は窺う様に洞穴を見たが・・・何かが居ると言う訳ではないらしい。

 空っぽの穴を前にカレンは一つ息を付いた。

「誰も居ないですわね・・・一寸(チョット)がっかりですわ。」

「然う言えば御前は元々()う言う所に棲んでたんだったか?」

「えぇ、棲んでいたって言うより、土とか食べ進んで行ったら穴が出来た具合ですけど。」

試しに穴の中へと入るが・・・特に目ぼしい物はない様に思う。

 一応隅の方だとかに何やら我楽多(ガラクタ)らしき物はあるが・・・。

「ん・・・(ドレ)も古びているのか良く分からないですわ。」

「然うだな。脆いし、でも誰かが此処に居た証かもな。」

色の付いた石だろうが、そっとケルディが足先で(ツツ)くと其丈で割れてしまった。

 他にも幾つか石やらはあるが、我楽多(ガラクタ)(バカ)りで役に立ちそうもない。

「然うですわね。穴は直ぐ行き止まりですし、近くを歩いていたら何か分かるかも知れませんわ。」

何はともあれ、見付けられたのは嬉しい。他にも何か分かれば良いけれども。

「・・・?カーディさん、如何しましたの?」

何だかすっかり彼が静かになってしまっているのでそっとカレンは様子を見た。

皐牙は只じっと洞穴の入口に立っている丈だ。中に入ろうともしない。

「オ、オイ何か・・・声、しねぇか?」

薄く口を開けたかと思えば、呟く様に彼は応えた。

 今は目の前の洞穴よりも優先す可き事があるかの様に。

「声・・・?聞えませんけど。」

改めて耳を澄ますが、聞こえるのは幽風(カゼ)の音丈で気になる物じゃない。

「俺も聞こえねぇぞ。今もするのか?」

「・・・。気の所為か?いやでも・・・、」

皐牙は頭を振ったが、少し眉を(ヒソ)めてしまう。

「一体何処から聞こえるんですのカーディさん。」

若しかしたら彼に丈聞える何かかも知れない。然う言うのがあってもおかしくはないと思うけれども。

「何処・・・クソ、良く分かんねぇ。何か色んな所から声がするんだよ。」

「い、色んな所からですの・・・?」

思わず一歩引いてしまう。

 色んな所だなんてそんな、そんな言い方されてしまったら、

「まるで幽霊でも居るかの様な言い方だな。」

「ばっさり言っちゃうんですのねケルディさん・・・。」

「ゆ、幽霊⁉い、いや流石に其はねーだろ、う、うん。」

何だか声がガタガタしているとカレンは目を瞬かせた。此を見逃す彼女ではない。

「あら若しかして幽霊が恐いんですの先輩。」

「ち、違ぇし、そんなんじゃねぇし!」

「じゃあ何て言ってんのが聞こえんだよ。」

ぶっきらぼうにケルディに返され、皐牙は眉間の(シワ)を深くした。

 相変わらず二柱には何も聞こえないが、何か分かるのだろうか・・・。

「・・・何か・・・御帰りとか、待ってたよって・・・、」

「矢っ張幽霊じゃないか。」

「何でオレ丈にしか聞こえねぇんだよ!」

確かに随分彼にははっきり聞こえているらしい。でも然う言われてしまったら、

「えと・・・其はカーディさんが選ばれたって事じゃないですの?」

「え、選ばれたぁ・・・?」

きょとんとした表情を浮かべるが、段々と彼も其の言葉の意味を理解して来たらしい。

 次第に・・・其の躯は震え始めた。

「う、嘘だろ。選ばれたってオレ、何されるってんだよ。」

「そりゃあ幽霊だからあんな事やこんな事されるだろうが。」

一つ鼻を鳴らすと意地悪然うにケルディは嗤った。

 姿や性格は変われども、根っこの部分は同じらしい。良い玩具が見付かったと喜んでいる風だ。

「仕方ないですわね。カーディ先輩はコチが護ってあげますわ。」

「し、新神(シンジン)に護って貰う程零落れてねぇよ!」

「でも声・・・するんですのよね?」

「うぅ・・・何でオレ丈なんだよ・・・。」

本当に未だ声はしている様で随分と彼は弱気になってしまう。

 でも確かにこんな未知の所で自分にしか分からない異常が起きれば恐ろしく思うのは当然だろう。

「色んな所から声がする然うですけど、如何しますの?何かヒントになりそうな事とか分かりませんの?」

「然う・・・だよなぁ。一寸(チョット)待っててくれ。」

本当はもう此以上聞きたくない、全力で無視したいけれどもそんな事言ってられない。

 皐牙は目を閉じ、意識を集中させる事にした。

 すると・・・・矢っ張り聞こえて来る、はっきりとした声が。

 此は、人か何かか、此の次元に居る何者かの声だろうけれども。

 声の種類は複数だ。女子供、男や老人と、年齢だとか関係なく色んな声質が聞こえて来る。

 此・・・本当にオレ以外聞こえてねぇのか?

 (ニワカ)には信じられないが、二柱の様子に嘘はない様に感じられた。

 何故か自分にしか聞こえない声・・・不気味で仕方ないけれども。

Ψほら、皆君を待ってるよ。Ψ

不意にはっきりと聞こえた声にどきりとしてしまう。

 此の声は・・・あってはいけない。今は焔なんて使ってないのに。

Ψ此処も懐かしいけど、もっと行く可き所があるでしょ。Ψ

「っじゃあ本当に此処は・・・。」

呆然と洞穴内を見詰めてしまう。

 見間違いなんかじゃないのか。此処は・・・、

「?如何したんですのカーディ先輩。」

明らかに彼の顔付きが変わり、気遣う様にカレンは覗き込んだ。

 何かに酷く怯えている様な、段々に其の顔は青を通り越して白くなってしまう。

「・・・此処は、オレの・・・前世の次元だ。」

「っ、然うだったのか。じゃあ此処の事も分かるのか?」

「噫、オレ、此処・・・知ってる。」

まるで譫言(ウワゴト)の様に答える彼に、カレンは少し気後れしてしまう。

 神の前世、其は決して綺麗な、良い物なんかじゃない。

 後悔があるから神に成る。だとしたら此処は彼にとって余りにも辛いんじゃあ・・・。

「カーディさん、其なら戻った方が良いんじゃなくて?無理する事はないですわ。」

「然うも言えねぇだろ。オレが必要だから此の次元へ来ちゃったんだろうし・・・。」

其に若しかしたら、オレは()()に呼ばれているのかも知れない。

 然うなんだろ?オレに丈声が聞こえるのも。

Ψ然うだよ。皐牙は此処でしなきゃいけない事がある・・・忘れた訳じゃないでしょ?Ψ

「・・・・・。」

ぎゅっと一度強く目を閉じると、彼は何度か顔を叩いた。

「大丈夫だって、オレも覚悟は決めてる。逃げる訳には行かねぇよ。」

ケルディは黙って尾を振った。心配しているのか地面を擦る様に振られている。

「此処は、オレが棲んでた所に可也近いし、だから分かると思うゼ。」

「・・・良いんだな?」

「良いってば。やっと此処もはっきり懐い出せたゼ。此処はオレの遊び場だった所だ・・・。」

グリスだって前、自分の前世と向き合ったって言ってたんだ。

 じゃあオレだって、彼奴に出来てオレに出来ねぇ訳がねぇ!

 大丈夫・・・懐い出すのはそんなに辛くない。オレだって、成長したんだから。

Ψ然うだよ。皐牙は(ツヨ)いからね。Ψ

小さな棘が刺さったみたいに痛みが走るが、何とか其をやり過ごす。

「オレは此処で良く、友達と遊んでたんだよ。」

「然うでしたの。だから色々物があったんですのね。」

(ドレ)も大分古いけどな。直ぐ壊れちまったし。」

「あっ!何壊してんだよ!・・・まぁもう要らねぇけどさ。」

初めて洞穴内に入り、皐牙も早速ケルディの傍に落ちていた石の欠片を見付ける。

 懐かしい、けれども感傷に浸っている(イトマ)はない。

 確かに(ドレ)も可也古くなっていた。少し触る丈でもどんどん崩れてしまう。

「此は・・・全部燃えちまったからだろうな。」

まさか此処迄やられるとは思わなったけれども。然うだ、だからこんなにも景色が様変わりしていた。

「燃えたって火事でもあったんですの?」

「噫、随分な大火事だったんだろうな。だから蕭森(モリ)も全部なくなっちまってる。」

蕭森(モリ)?まさか先迄歩いていた所がか?」

ちらと振り返るも、只の荒野だ。克ての()の景色は、皐牙にしか分からない。

「然う、だゼ。だからまさかこんな事になってるとは思ってなかったな・・・。」

「でも、普通の火事とは違うみたいですわ。こんな、何もかもなくなってしまうなんて。」

燃えた後も、灰すら何一つ無いんだ。彼が故郷だと気付けなかった様に変わり果ててしまったと言うなら。

「だな、オレもまぁ其の火事で死んじまってるし。」

「そ、然うなんですの・・・。」

覚悟していると言う丈あってかとんでもない話がポンポンと彼の口から出て来る。

 聞いて良いのかも不安になる様な勢いだ。此処に居て良いのだろうか。

「別にもうずっと昔の事だゼ。今更気遣う事でもねぇよ。」

Ψ然う、もうずっと昔の事だよ。でも皐牙はちゃんと憶えてくれているよね。Ψ

「・・・・・。」

今回は偉く聞こえて来る・・・此の次元に来ちまった所為なのか。

 不図、胸を掠める物があった。屹度此は・・・、

 腕に痛みが走り、ついグローブを外す。

 其の下で見慣れた筈の腕は(シロ)い焔に包まれていた。

「え、ど、如何したんですのカーディさん!」

「何だ・・・妙な力を感じるが。」

思わず二柱は一歩下がってしまう。何となく其の焔に感じてしまう物があったのだ。

 焔は腕の全身を包んでいる訳ではなく、彼の腕を覆う甲、其の隙間から出ている様だった。

 吹き出す様に零れる焔に、つい皐牙は顔を(シカ)める。

「クソ、行き成り何だよ。又此使えってか。」

「大丈夫、ですの・・・?」

「いや、近付かない方が良いゼ。此奴は何をするか分からねぇからな。」

Ψフフ、そんな警戒する事もないでしょう?Ψ

声が、より(ツヨ)くなっている気がする。此処から・・・しているのか。

 此は早く如何にかしねぇと、面倒事を起こしてしまうかも知れない。

「早く、次元の主導者(コマンダー)の所行った方が良さそうだゼ。」

言うや否や皐牙は洞穴を出て早速足を向ける。

 偸閑(アカラサマ)に焦っている様子の彼に二柱も慌てて付いて行った。

 急だけれども仕方がない。此奴が・・・誘ってやがるんだから。

Ψさ、此方だよ。もう帰る時間なんだから。門限は守らなくちゃ。Ψ

先導する様にか焔は揺れる。導かなくてももう道は懐い出しているのに。

「村の中心の方か・・・っ。」

ちらつく影を振り切る様に皐牙は駆け出すのだった。

   ・・・・・

「おい、何処迄行く気なんだよ。」

暫く皐牙が走っていると直ぐ傍迄ケルディも駆けって来た。

 カレンも少し離れてはいるが何とか追い付こうと走っている。

「わ、悪い、村だよ。前オレが棲んでた村に行きてぇんだ。」

すっかり自分の事に集中してしまっていた。少し足を緩めつつも皐牙は走り続けている。

 走っていて、何となく景色に克ての面影があるのは見て取れた。

 全て燃えてしまったけれども、でも残影が辛うじて残り、オレを導く。

 噫分かる、此処は水車小屋、其で向こうに畑が広がっていて、

 余り、懐い出したくはないけれども如何しても重ねてしまう。

「村・・・?此の先にあったのか。」

「噫、多分・・・その、幽霊ってのも、」

「いや皐牙、先はああ言ったが俺は少し引っ掛かる所があるんだ。」

少し耳を下げてケルディは上目遣いに彼を見遣った。

「霊って、本当に居るか?其が御前には見えているのか?」

「見えるってか、聞こえるんだよ。間違いねぇ。」

「・・・然うか、でも警戒はしとけよ。」

「・・・?あ、噫。」

「ちょ、一寸(チョット)!もう待ってください!」

話していると全力でカレンが追い付いて来た。地響きが凄く、軽く蹌踉(ヨロ)めいてしまう。

「っと、な、何だよ御前重いのか⁉」

「直球で失礼な奴だな御前・・・。」

思わずケルディは半目になって見るが、彼女はさして気にしていない風だった。

 でも確かに彼女が近付く丈で地面が揺れて走り難くなっている・・・。

 下手したら地面も罅割(ヒビワ)れて行っている様だ。・・・否、割れている⁉

 ついちらとケルディが振り返ると、地面にはしっかりと彼女の刻んだ足跡が残っていた。

 ハイヒールの様になっている踵の跡が残されているのだ・・・其の質量たるや。

「もう速いですわ二柱共!何が起きてるのか説明を求めますわ!」

「言ってちゃっかり追い付いてるけどな。・・・っと、」

少し先で動く影を認めてブレーキを掛ける。ケルディも気付いた様で鼻先を向けていた。

「誰か居るぞ。いや(アレ)って・・・。」

「噫皆さんでしたか。」

何をするでもなく歩いていたのだろう其の影も此方を認めて振り返った。

 顔は見えないが、其のペストマスクは良く目立つ。該当するのは一柱しかいない。

「御前確か・・・吟遊何とかの、」

吟遊詩神(ギンユウシジン)の琴城です。今日は。」

「ん、噫御前だったのか。」

まさかこんな所で出会うなんて。一同が琴城の傍へ集まると、彼は(ウヤウヤ)しく御辞儀をした。

「御元気そうで何よりです。初めましての方も在られる様ですね。今日は。」

「俺はケルディだぞ。姿が変わってる丈だ。」

「其は其は失礼しました。見違える様な勇ましさですね。」

「皆さん知り合いなんですの・・・?えっとコチはカレン=KGNと申しますの。」

「噫、()のT&Tだっけ。()の会社の奴でさ。色々教えて貰ってるんだよ。」

「此方こそ、皆さんの活躍は聞き及んでおります。私の詠が役立つなら何よりです。」

穏やかに微笑む彼に少しカレンはドギマギしてしまう。こんな紳士的な神に会ったのは初めてだったのだ。

「T&Tからですの。まさかそんな所からも協力して貰ってるなんて。」

「そ、で此処に居るって事は一つ詠ってくれるのか?」

色んな次元に行く中で彼を見掛ける事は度々あった。まるで引き寄せられている様に良く会うのだ。

 然う次元が引き合わせているのかも知れないけれど、ヒントを貰えるのは有り難い。

「えぇ、私も丁度一曲詠いたいと思っていた時分です。聞いて貰えたら幸いですね。」

「吟、ですの・・・?でも其って、」

「此奴の詠は其の次元に因んだ物になるんだ。今回みたいに誰も居なくて話も(ロク)に聞けない時は助かるんだ。」

「然うだな、正に此の次元の攻略のヒントみたいでさ。ちゃんと聞いていた方が良いゼ。」

「其は又稀有な能力ですわね・・・。」

まさに自分達に打って付けな能力じゃないか。そんな事が出来る方が居るなんて。

 キラキラと羨望の眼差しを向けるカレンに、琴城は苦笑を漏らした。

「私の詠を高く買って貰えて何よりです。ですが、私は奏でる丈、如何進むかは皆さん次第ですよ。」

「然うですわね。では早速御願いしても?」

「勿論、是非聞いてください。此の地が伝えてくれた一つの物語を。」

琴城は適当な棒に背を掛けると、肩から竪琴を取り出した。

 そして(ユック)りと一音一音確かめる様に弾き始めるのだった。

   ・・・・・

 此の地に棲まうは(ツガイ)の龍

 一方はまるで(クロ)い焔の様な甲を全身に走らせた龍

 全身が(クロ)く濡れ、其の甲一枚一枚の(キッサキ)は真紅に染まり、新月に浮かび上がる様は息も付かない程美しかったのです

 そしてもう一方は小柄な、一見何処にでも居る龍の様でした

 だが一度焔を吐けば、蒼皓(アオジロ)く陽炎の様に灯る美しい焔を燃え上がらせる事が出来ました

 其の(シロ)い焔を、(ツガイ)の龍は何よりも愛していました

 そして同時に畏れを抱いてもいました

 余りにも美し過ぎるので、自分が傍に並んで見るのは不釣り合いなのではないかと思えて仕方が無かったです

 だから龍は自分も其の焔に見合える様にと美しき物を探しに尋ねました

 そして向かった先は(ソラ)に輝く(シロ)零星(ホシ)

 翼を広げて颯爽と羽搏(ハバタ)いた龍は其の零星(ホシ)の美しさに息を付きました

 其の零星(ホシ)(シロ)く燃え続けて(ヒカリ)を発していたのです。正に()(ツガイ)の龍と遜色ない程美しい(ヒカリ)

 龍は早速其の零星(ホシ)の神に尋ねました

 如何して此の零星(ホシ)はこんなにも美しいのか、と

 私の命を燃やしているからだ

 神は厳かに答えました

 其を聞き、龍は益々其の焔が欲しくなりました

 此が、命の輝きなのか

 堪らず龍は零星(ホシ)毎神を喰らいました

 其の輝きの全てを自分の物にしたかったのです

 そして試しに龍は()(ツガイ)の龍が然うした様に息を吹いてみました

 すると命の輝きの(ママ)()の美しい焔が出て来ました

 噫、此でやっと自分は()の龍の隣に居られる

 喜び勇んで龍は(ツガイ)の龍の所へ戻りました

 そして直ぐ様、其の(シロ)い焔を見て貰おうと息を吹いてみました

 笛の様な鳴き声に続いて、(シロ)い焔がまるで流星の様に(ホトバシ)りました

 けれども其の焔は、命を燃やして生み出された焔

 焔は目の前で微笑んでいた(ツガイ)の龍へ飛び掛かりました

 そしてあっと言う間に龍を灰すら残さず燃やし尽くしてしまいました

 龍が口を閉じた所で、焔は龍の生命力を火種に燃え広がってしまいました

 其の焔は此迄で一番美しくはありましたが、もう()(オモカゲ)は何一つ残っていませんでした

 噫、何て事をしてしまったのだろう

 独り残された龍は嘆きましたが、其の口からは焔が零れる丈

 もう其の焔は美しくも何ともありません。龍にとって、己が罪を見せ付ける楔の様に写りました

 もう全てに絶望した龍は、生きる意志を失い、其の場で息を引き取りました

 すると其の躯は、甲の一枚一枚迄もが燃え上がり、新たな形を与えました

 其は一つの民、()の神に似た姿をし、龍の甲を受け継ぎ、罪の焔を背負った者

 民は龍の焔の戒めを忘れない為にも、未だに其の焔を護り、受け継いで行っているのです

   ・・・・・

 後は只琴城は竪琴を鳴らし、次第に其の声音も小さくなって遂には途切れた。

 そして長く息を付き、一つ彼は御辞儀をする。

「・・・い、今のが詠だったんですの?」

「はい、如何(イカガ)だったでしょうか。」

ペストマスクの下で優しく目が丸められる。其の蒼に吸い込まれそうだ。

「素晴しかったですわ。あのコチ、()う言うのは初めて聞きましたけれど・・・良い物ですわね。」

「其の様に喜んで貰えたら。悲しい物語なのは相変わらずですが、何か響いたなら。」

「噫完璧だったゼ。まるで見て来たみたいでさ。凄いな。」

「其丈、忘れてはいけないと根強く残された物語だったのですね。」

「然う・・・だよな。」

皐牙の声が小さくなり、窺う様に琴城は彼を見遣っていた。だが何か思い出したのか一つ頭を振る。

「然う言えば皆さん何だか此方へ走って来られていましたが、此の先へ向かっているんですか?」

「然うだ。次元の主導者(コマンダー)の気配がする然うなんだが。」

「然うですか、確かに僅かですが私も感じます。只、此の先へ行くのは気を付けてくださいね。」 

「何かあるのか?」

彼の事だから先に此の辺りを見ているのかも知れない。ケルディの問いに神妙に彼は頷いた。

「はい、此の先で龍が陣取ってまして。力がある様だったので余り近付き過ぎない方が良いかと。」

「龍か・・・セレが居たら如何にかなりそうなんだが。」

「おや、セレ神さんも来られているんですか?」

「然うですの。でも此の次元に来た時に(ハグ)れてしまったみたいで・・・。」

「然う聞くって事は御前は会ってないんだな。」

「えぇ残念乍ら。此の次元は如何やら魔力が乱れているみたいですし、難しいですね。」

「うーん・・・出来れば合流してから動きてぇけど。」

そっと下げた腕は燃え続けている。まるで()の物語に応える様に。

 早く、早くしないといけないってオレを(ケシカ)けているみてぇだ。

「色々有難な。じゃオレ達は先行くか。」

「えぇ、旅の御武運を祈っております。」

「素敵な詠、有難う御座いますわ。」

各々挨拶を交わして擦れ違う様に皐牙達は足を進めた。

「・・・先の詠、(アレ)ってカーディさんも存じてますの?」

「噫、吃驚する位正確だゼ。すげぇな。あんな事分かっちまうなんて。」

「じゃあ御前の其の手は、」

ついとケルディは視線を落とす。未だ燃え盛っている皐牙の腕が気になるのだろう。

「然う、オレは先の詠の正に其の民なんだよ。ずっと寝物語に聞かされてた、聞き飽きちまった話だけど、今更改めて聞く事になるなんてな。」

「其じゃあ・・・其の焔は大丈夫ですの?灯の魔力の焔とは違う、別の、特別な焔なんですわよね。」

「オレは(ホトン)ど何ともねぇけどな。でもあぶねぇ焔なのは確かだゼ。実際此奴は・・・命を燃やす。」

「命、ですの・・・。」

「だから一度点いちまったら早々消えねぇし、相当苦しんであっと言う間に灰すら残さず燃やしちまう。オレも、制御出来てる訳じゃねぇし。」

一つ息を付いて皐牙は改めて其の焔を見詰めた。

 然う、此は命を燃やす。だから屹度・・・意志は残されちまったんだ。

 躯も命も尽きて、魂丈が。だから声がするんだろ?

 焔に意志なんかない。じゃあ此処にあるのは、

 肯定する様に焔は揺れる。(シロ)く揺れる陽炎の様に。

 こんな物の為に、全て失ったなんて馬鹿みたいな話じゃねぇか。

「皐牙、次元の主導者(コマンダー)の所、見当付いてるのか。」

「噫、多分村の中心、広場だとは思うんだよ。行き成り火なんて点いたし。」

「思い当たる事でもあるんだな。」

「一応、だな。オレの知ってる話を彼奴がしたって事は・・・無関係って訳には行かねぇだろ。オレと此の次元が関わってるって事だ。」

()の頃は神とか次元とか勿論知らなかったし、だから次元の主導者(コマンダー)が何なのかも、正直分かってはいない。

 全部燃えた訳だし・・・其なのに一体何が残ってるんだ?

 オレが神に成ってから前世の事なんて(チッ)とも気に掛けてなんかいなかったから知る由もなかったけど。

 でも()()()()があっても残ってる物なんて屹度(ロク)な物じゃあ・・・。

「皐牙、話したくないなら別に良いが、此処の村、だったか。其について聞いても良いか?」

「ん、噫其の(ママ)だよ。オレと同じ其の民だか一族が棲んでたんだよ。()の龍の諸々を受け継いでさ。」

「村って・・・でも今もう此処は、」

ちらと見渡しても渇いた大地が続く丈だ。生物の気配もない。

「噫、もう村なんてねぇよ。全部、燃えちまった。」

「燃えた・・・黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の所為とかか?」

「いや、黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)よりもっと前だゼ。(アレ)は・・・オレの所為なんだから。」

「え・・・、カーディさんの・・・?」

「・・・流石に此は話さなきゃ分かんねぇよな。」

大丈夫、話せる。オレはもう此の事実を受け入れているんだから。

 もうずっと昔の事になってしまったんだ。オレ丈が神になんか成って残ったんだ。

「オレの村では、ある仕来りと言うか、儀式があったんだよ。こんな最悪な焔なんか受け継いじまったから。」

焔は、民に等しく与えられてしまった罪だ。

 でも其は決して制御出来る様な物じゃない。神の焔、なのだから。

 何時迄も己の内に秘めている事は出来なかった。時に暴れて、周りの命と自身を燃やし尽くしてしまう。

 其を鎮める為の儀式・・・其は、己が焔で、幼馴染を焼き殺す事。

 身の毛もよだつ様な(オゾマ)しい儀式だ。でも、罪の証を残す為には必要だったんだ。

Ψ然う、仕方のない事だったんだよ。(アレ)は、初めから決まっていた事でしょ。其こそ僕達が生まれる前から。Ψ

・・・然う、決まっていた。然う言う運命だった。

 でもオレはそんなの・・・認めたくなくて。

Ψ辛いなら、全部全部、燃やせば良いよ。Ψ

不意に響いた声に思わず手を見遣る。

 此の焔丈は、残された。村も、民も龍も居なくなったのに。

「お、幼馴染を・・・殺す、ですの。」

外の者からしたら余りに信じられない話だろう。只じっと聞く訳には行かず、つい口を挟んでしまう。

「噫、()の物語を疑似的に再現させて焔を落ち着かせるってな。だからまぁ幼馴染でなくても大切な奴なら良かったから、やる奴に因っては親だったり、妹だったりはしたけど。」

でも例外は無い。村に居る誰もが、一度は通らないといけない道だった。

 罪を残す事こそが、彼等の存在目的だったから。まるで神に罰を与えられた龍の様に、其の本能に従うしかなった。

「良く、そんな儀式が続いた物だな。皆黙って焼かれたのか?」

「っケルディさん。」

カレンが居た村、KGNの一族では全く信じられない話だ。

 元々神の村でもあるから、彼方では生まれた仲間は迚も大切にされて来たのに。

 其を自らの手でだなんて、想像も出来ない。

 だってつまり其は、相手は殺される為に生まれたと言う事で、其の為丈に生かされた様な物じゃないか。

 そんなのまるで・・・呪いだ。

「噫、割と皆大人しかったゼ。オレも然う言うもんなんだって教えられて育った訳だし。」

あっけらかんと皐牙は言った。もう其が幼き日の彼の日常だったのだ。

「儀式だって何回も見て来てる訳だし、謂わば大人になる為の儀式みたいな感覚だったんだよ。」

儀式を経て焔を落ち着かせられる様になったら、其は乗り越えたのだと認められる。

 そんな、生きる為には必要な事だと思ったら、外の世界では全く違ったんだって知った時は驚いた物だけど。

 ・・・懐かしいな。神に成ってそんな常識全部引っ繰り返されちまったんだ。

「・・・其の儀式と、村が()うなったのは関係があるってか。」

(シカ)も其が・・・カーディさんの所為だなんて。」

もう明らかだ。事が起こったのは・・・皐牙の儀式の時だった。

 其処でオレは・・・、

「・・・一体、何を燃やしたんだ御前は。」

静かにケルディは問い掛けるが、皐牙の目はずっと前へ向けられていた。

 儀式の行われた広場の方へ、村の中心で全ては起こった。

「オレ・・・は、」

一つ息を吸う。矢っ張り・・・直ぐに言うのは恐ろしくて。

 罪の証の為に罪を残す。然うして存在した一族なんて。

「オレは・・・燃やせなかった。」

「え、あ・・・然う、ですの?」

身構えていた割にあっさりとした答えが返って来て、ついカレンはきょとんとしてしまう。

 だがケルディは薄く睨む様に彼を見ていた。其で終わりではないと気付いていたんだろう。

「オレは、幼馴染を殺す事なんて出来なくてさ。でも、其の所為で、」

「如何したんですの。そ、其の方が良いに決まってますわ。幼馴染を殺してしまうなんて、幾ら村の風習でも・・・、」

「でも、其の所為で、オレの焔は暴れちまったんだよ。其が村を全部燃やしちまった。」

Ψ無理に懐い出さなくて大丈夫だよ。まぁ、こんな場所じゃあ無理もないけど。Ψ

オレは、誰も、何も燃やしたくなんかなかったのに。

 憶えている、()の景色を。間違いなくオレから放たれた焔が全てを滅ぼした。

 オレが否定したばっかりに、焔は暴れてしまった。オレの我儘(ワガママ)で、

 そして結局・・・全部失った。友も家族も皆々燃やし尽くした。

 此が本当の罪とでも言うみたいに。()の龍みたいにオレは、全てを失った。

 いや、()の龍より酷い。結局オレは何も手に入れていないんだから。只失った丈で。

 此の目蓋の奥にしっかり焼き付いてしまっている。オレの腕から、甲の隙間から(ホトバシ)った焔の(シロ)さを。

 呆然と見上げる間もなく其が六花(ユキ)の様に降り注いで、そして、

 其処からは地獄だった。全ての音が、景色が、オレを責め立てたんだ。

 御前が臆病な所為で、御前が儀式に逆らった所為で。

 只罪を刻む丈の存在が、罪に抗ったりなんかしたから。

 其の身に余る焔を、受け継いでしまったから。

 全て等しく焼き尽くされる。命を火種に(シロ)く猛々しく。

 まるで意思を持つ様に焔は次々と獲物を求めて飛び散った。

 オレは、其の全てを見ていた。何も出来ず、只見ている事しか出来なかった。

 其は余りにも異様な光景で・・・今も、鮮明に懐い出せる。

 其の地獄は、静かだったんだ・・・焔の立てる音、肉の焼ける音、家の崩れる音、響いたのは其丈で。

 皆、まるで受け入れる様に、静かに燃えていたんだ。悲鳴一つ上げずに。

 如何して逃げない、如何して受け入れる。

 此の焔は、そんな生易しい物じゃあないって分かっているのに。

 克て同じ焔を以て同族を危めた一族は、運命に身を委ねていた。

 そしてオレの後ろで、彼奴は(ワラ)っていた。

 まるでオレの罪の全てを体現する様に、彼奴丈は未だ残っていて。

「噫・・・全部燃えちゃったね。」

命の消えた世界で、彼奴の声丈が響く。

「ね、皐牙、屹度此で良かったんだよ。だって・・・、」

彼奴が口を開いた所で、オレの視界は(シロ)一色に染め上げられた。

 そして切れ切れに見えた世界で、オレは一緒に燃えている彼奴を見た。

 嫌だ、如何して、オレは御前を殺したくなかったから。

 全身が焼け(タダ)れ、斬り刻まれる様に痛みが走る。

 余りの痛みに叫び声を上げるも、其は直ぐ焔に呑まれてしまう。

 こんな・・・苦しい物なのか、こんな痛みをオレは皆に。

 痛みにのたうつオレの目の前で、彼奴は微笑んだ(ママ)だった。

 幸せそうに、気でも狂ったのかと思う程。

 如何して、如何して御前はそんな(ワラ)っていられるんだよ。

「皐牙、——————。」

せめてと彼奴に手を伸ばした所で、

 彼奴の影が、形が揺れ、(クズオ)れて行く様を見乍ら、

 オレの意識も・・・無限の闇へ堕ちて行ったのだった。

「・・・そんな事があったのか。」

「まぁな。ずっと昔の事だし、もう何も思わねぇけど。」

「そ、そんな事ないですわ!」

背中を叩かれて思わず背が伸びる。

「って!何しやがる此の針鼠!」

「針鼠だなんて失礼ですわ!叩かれて当然の事を言ったからした迄ですわ!」

見ると何時もの快活とした目を今は釣り上げ、カレンは鼻息荒く口を尖らせていた。

「え、えぇ・・・何だ御前怒ってんのか?」

「当然ですわ。もう何も思わないなんてそんな悲しい事言わないで欲しいですわ。仲間が皆死に絶えたなんて・・・そんな辛い事、忘れられる訳ないですわ。」

如何しても、自分のと重ねてしまうんだ。光景は違えど、でも屹度懐いは同じだ。

 自分は、護れなかった。戦い続けて、そして・・・独りになってしまった。

 自分が愛した()の故郷は、もう何処にもないのだ。

「わりぃ、オレだって未だ、現実感ねぇんだよ。だから良く分かってないのかもな。」

「そ、然うですわね。コチこそ、無神経な事言って済みませんですわ。」

謝られはしたけれども、皐牙の胸中は何とも複雑だった。

 カレンの言っている事も分かる。何も感じないって事はないんだけれども。

 オレは、自分が神に成っても此処に戻る事はなかった。如何なってしまったか確かめずに懐い出に蓋をした。

 そして焔丈は使わない様にして・。・・でも使わざるを得ない状況ってのは如何しても出てしまう。

 其でオレは正しく・・・使えたと思う。此の焔を。

 だからもう(アレ)は過去の事だって・・・然う、呑み込もうとしたのに。

———其で本当に終われたと思ったのか?

 不意にドキリと胸が痛んだ。

 オレは・・・見ない様にした丈じゃないか。然う今更乍ら訴えるみたいで。

 焔に罪は無い。罪があるのはオレ達其の物。

 此の姿は只、然うあった丈、元は零星(ホシ)を輝かせた美しい(ヒカリ)だったのに。

 其を穢したのは・・・オレ達なんだ。

「・・・居るな。彼奴の事か。」

ケルディが鼻を向けた先、其処には大きな影が残されていた。

「・・・っ、此奴は確かに大物っぽいな。」

見上げる程大きな影、(アレ)が琴城の言っていた龍で間違いないだろう。

 其は全長8mもの大きな龍で、立ち上がってはいるが後ろ足はなく、煙の様に先が棚引いている。

 全体的に蒼く光る甲は堅牢そうで、存在感が無い様な下半身と比べて上半身は大柄でごつく、其の対比が不思議な現実感を植え付ける。

挿絵(By みてみん)

 龍は何かを持っている様に見えた。両手で左右から挟み込む様に持ってじっと其を見詰めている。

 だから近付いて来ている皐牙達には未だ気付いてはいない様だが・・・。

一寸(チョット)どんな奴か調べさせて貰おうゼ。」

スカウターを取り出すが、意外に苦労してしまう。時空の穴(バニティー)が中々開けないだ。

 此は本当に・・・まさか此処迄術が扱い難いなんて。

 腕の焔丈燃えているけど、此奴は魔力の乱れの影響を受けていない様だ。

「如何だ、面倒そうな奴じゃなきゃ良いが。」

「リンカーネア、えっと・・・魔導の龍、みたいだけど。」

一寸(チョット)分かり難いですわ。もう少し具体的な情報が欲しいですわね。」

「待ってくれよ。オレ、此どうも苦手でさ・・・えっと。」

魔力の乱れの所為か、中々情報が出ない。読み難いのも其の所為かもだけど。

 リンカーネア、属性は・・・特定出来ない?

 何だか随分変わった龍みたいだ・・・慎重に皐牙は続きを読み進めて行く。

 総じて非常に好奇心、探求心が強く、多くは其の対象を魔術へ向ける。

 其の為龍に因って異なる術を習得、或いは生み出す事もあり、個性が強い。

 又、別で知恵を授ける龍としても名が高く、己が術を他の者に伝授する姿が良く語られている。

 だが其の探究心は止め処なく、一度気になれば其の次元の者や物も巻き込んで調べようとする為、災害を起こしてしまう事もある。

「ふーん、物好きな龍って事は分かったけども。」

「其じゃあ今も何か調べ中だったりするんですの?随分勉強熱心な龍なんですわね。」

「そんな可愛い性格なら良いけどな。」

―む、何をか用か神々よ。―

流石に向こうも気付いたらしく、リンカーネアはついと顔を上げた。

 そして其の目は素早く一同を捉えたかと思えばある一点で止まる。

―ぬぬ、其はまさか神の焔か!―

「まぁ・・・然うだけども。」

皐牙の腕から燃え上がる(シロ)い焔に、彼の目が輝いた。

「・・・見せて気が済むなら良いけどよ。」

此の焔にそんな興味持たれるのは何か癪だけれども。

 腕を掲げるとずいとリンカーネアは顔を寄せて来た。

 随分と大柄なのでそんな急に近付かれると警戒してしまう。

 其の時、其奴の手にきらりと光る物があった。

「な・・・何で御前が其を持ってるんだ。」

―ぬ、此か・・・?―

繁々(シゲシゲ)と焔を見詰めていたリンカーネアは少し下がり、己の手を見る。

 其処には一つの腕輪が浮かんでいたのだ。

 くすんだ銀の腕輪だが、リンカーネアには余りにも小さい。皐牙達のサイズには合って然うだが・・・。

 腕輪の中心には一つの輝石が埋め込まれており、其が紅に輝いている。

 構造は至ってシンプルな、良くある腕輪の様でもあるが、何故か其を彼は大事そうに持っていた訳である。

(アレ)は・・・何ですの?若しかしてカーディさんのですの?何だか・・・一寸(チョット)不思議な力を感じる様な。」

「オレのってより・・・あげたんだよ。彼奴に。でも其を如何して、」

()の時、彼奴が腕にしていた筈なのに・・・一緒に、燃えた訳じゃなかったのか。

 其にしても、何だか変な感じがするな・・・()の腕輪、あんな妙な魔力してたか・・・?

 っまさか此の感じって・・・、

「ま、まさか(アレ)次元の主導者(コマンダー)か⁉」

「っ⁉何て物プレゼントしてたんだ御前はっ!」

「知らねぇよあん時は只綺麗な石だなって思って・・・、」

然うだ、(アレ)はオレの懐い出の中で一緒に燃えて、

 無くなった、全部全部、燃えちまった筈だろ。

Ψ然うだよ。僕にプレゼントしてくれたのに、彼奴が盗ったんだ。Ψ

「っ・・・。」

胸の奥で、小さな焔が弾けた気がした。

Ψ僕の宝物、折角皐牙がくれたのに。Ψ

 噫然うだ。(アレ)は、彼奴に返さなくっちゃ。

 御前なんかが持っていて良い物じゃねぇんだよ。

「其を・・・返しやがれっ!」

声を荒げた途端、皐牙を中心に(シロ)い焔が立ち昇った。

 突然の熱気に一同は思わず下がる。皐牙の全身は(シロ)い焔に包まれてしまっていた。

―おぉ、何と美しい。其でこそ神の火か!

「っカーディさん、大丈夫ですの!其の焔は、」

「・・・不味いな。魔力がどんどん乱れてやがる。」

鼻先を上げ、ケルディは小さく唸った。

 魔力は・・・此処を中心に乱れている。恐らく此の根源は、

「おい御前、早く其を此奴に返してやれ。もう見たから気が済んだだろう。」

―いや、本物を見てしまっては・・・益々(ワッチ)の物にしたくなったぞ。―

リンカーネアの瞳が怪しい輝きを放つ。まるで魅入られた様に焔に注がれた(ママ)

―良き焔だ。其でこそ(ワッチ)が得るに相応しい。何とか再現しようと次元の核に干渉していたが、其の成果はあった訳だ。―

「まさか魔力が乱れていたのは貴方の所為ですの!」

「みたいだな。御負けに次元の核に干渉だなんて恐ろしい事をしてやがる。」

―神の焔だぞ!そんな秘術の存在を確かめる為ならば此しき、何でもなかろう。此の地全て無に帰す等、(サゾ)かし美しかったろうか・・・。―

何処かうっとりと思いを馳せる様に彼は目を閉じた。

 余程、此の焔に惚れ込んでいると見える。そんなに美しいと御前は思うのか。

 こんな物が、美しいだなんて言えるのか。

「そんな言い方・・・(アンマリ)ですわ。()うなったら意地でも其の腕輪、返して貰いますわ!」

―ふむ、相容れぬなら仕方が無い。其の力、(ワッチ)の物にさせて貰うぞ。―

「ごちゃごちゃ(ウルセ)ぇよ!」

皐牙の髪が(シロ)く燃え上がり、(タテガミ)の様に背に灯る。

 口から焔は零れ、目はぎらついてリンカーネアを()め付けた。

 全身が燃えている所為で彼の姿も陽炎の様にぼやけて写るのに、其の瞳丈はまるで零星(ホシ)の様に影る事なく輝いていた。

 声が止まない。焔が溢れた所為で皆の声が聞こえてくる。

 オレが燃やしてしまった全て、姿を奪われ、魂丈が残されて。

 オレを(サイナ)む様にずっと・・・。

 命の無い此奴等は燃やせない。ずっとオレの焔の中で、()の日の夢を何度も見せやがる。

 くそ・・・だから使いたくなんかなかったのにっ、

 使った途端此じゃないか。オレは神に成っても変わってないって、時間丈過ぎても何にもならないって見せ付けて。

 変わっていない事を・・・責める様に、過去の清算を、求める様に。

 ・・・そんなの、如何すりゃ良いって言うんだよ。

「カーディ先輩は、その大丈夫ですの?」

「一応何とかやれっけど、扱えるかは分からねぇな・・・。」

「奴の狙いも其の焔なら無理に攻める事も無い。俺達がやるぞ。」

「分かりましたわ!一番手はコチに御任せですわ!」

早速カレンはリンカーネアに向け駆け出す。

 そして大仰に足を振るうと容赦なく彼に向けて踵落としを繰り出した。

―おぉ、元気な御嬢さんだな。―

だが其を大して動きもせず彼は受け止めてしまう。

「っ・・・何か妙な術を使ってますわね。」

(ワッチ)の秘術を(トク)と味わわせて見せようぞ。―

「だったら俺のも喰らいやがれ!」

ケルディが尾を振り上げると、其の先に灯っていた蒼い焔が四方へ飛び散った。

 そしてケルディと瓜二つな影が次々と姿を現す。

「おぉ、狐だらけじゃねぇか!」

「ハリー先輩の幻とも違う、不思議な感じですわね。」

―ふん、狐火の妖術等、()うに見ておるわ。其の程度で(ワッチ)を如何にか出来るとでも?―

動じないリンカーネアに向け、四方からケルディ達は焔を吐き出した。

 其は中心で混ざり合って大きな火柱へと姿を変える。

 やり過ぎだ、とつい声を掛けそうになるが、其の中心で踊る影は変わりがない様だった。

―生温い!そんな焔では(ワッチ)の心は動かんぞ!―

そして不意に焔は弾け飛び、無傷の(ママ)でリンカーネアは鼻を鳴らした。

―ふむ・・・一度神々の術も見てみたいと思い様子見したが、此の程度か?―

「・・・此方だって未だ様子見だ。御前だって只護っている丈だろう。」

―では見て貰おうか。(ワッチ)の編み出した秘術を!―

大きくリンカーネアが(ソラ)へ吼えると同時に彼を中心に衝撃波が走る。

 其を認めるや否や一気に一同は吹き飛ばされてしまった。

「っぐ、ダメージを其の(ママ)返してやがるのか、面倒だな・・・。」

「宙、とは少し違うのか。此じゃあ、」

迂闊には近付けないか。見慣れない技の様だけれども。

―ふむ、宙と同じだと思うでない。此には緻密な魔力操作が必要になるのだ。伝授したとて使い(コナ)せなかろう。―

「っくそ・・・。」

こんな奴に構ってる暇なんかないのに。

Ψ然うだよ皐牙、御願いだよ。僕の代わりに取り返して!Ψ

噫、オレは此奴に応えないと。せめて其位はしてやらねぇと。

Ψ大丈夫、その為の力なら貸してあげるから。僕達友達でしょ?Ψ

途端又激しく皐牙の全身を焔が駆け巡る。

 余りの熱気に息も吸えない様、音も全て焔に呑まれて、彼奴の声丈がオレを導く。

Ψ・・・うん、其の調子だよ。大丈夫、皐牙は(ツヨ)くなったから、此位扱えちゃうんだ。Ψ

口を開けば吐息の代わりに焔が溢れ、旻高(ソラタカ)く燃え上がった。

 何も無い筈の地に、焔が灯る。・・・まるで()の時みたいに。

 全部全部、燃えて行っちまう。

―おぉ・・・何と美しい。良いぞ其の(ママ)焼き尽くすが良いわ!―

目を細め、リンカーネアは満足そうに息を付くと、皐牙に向け刃を伸ばす。

「っ手前なんかにやられっかよ!」

其を去なし乍らも焔を吐く。だが奴は何かに護られているかの様に焔を退(シリゾ)けて行った。

 まるで焔の道の様に分けられ、虚しく燃え上がる。

「っ此方を完全無視とは良い度胸ですわ!」

「おい、下手に近付くな・・・おい!」

ケルディが目をやった時には既にカレンの姿はなく、慌てて彼は素早く周りに目を配った。

 ・・・居ない?てっきり焔に突っ込んだのかと思えば一体何処に。

 然う思うのも束の間、突如リンカーネアの真下の地面が盛り上がったかと思えば、氷柱の様に嵒が隆起し始めたのだ。

 流石に此は不意打ちの一撃だったらしく、大きくリンカーネアの上体が反る。諸に喰らった様で其の(ママ)地へ倒れた。

「術なんて力で突破しますわ!」

勢い良く岩から跳び出したのはカレンだった。其の髪は長く鋭く尖っており、何時の間にか手には大きな鑓を携えている。

「っまさか穴を掘ったのか!」

確かに良く良く見れば隣にぽっかりと穴が開いていた。彼女位なら楽々通れそうではあるが。

 こんな音も無く一気に潜れてしまうとは、意外な特技に思わずケルディは目を瞬いた。

「矢っ張り此処の土は不味いですわ・・・もう食べたくありませんでしたのに。」

掘ると言うより彼女は地面を食べ進める事で穴を作っていたのだ。

 あっと言う間に呑み込み、消化してしまうので、まさか食事後であるとは思えない。

 食べた事で一応元気が出て髪も針が出て来たが・・・一寸(チョット)勢いがない感じだ。

 其にしても一撃入れられたのは大きい、此の(ママ)生意気言えない様にしてやる。

―ぬぅ、小賢しい真似をしてからに・・・。―

リンカーネアが上体を起こそうとした所で、カレンが鑓を構えて突っ込んで来る。

 だが彼が一目向けた丈で何かに弾かれた様にカレンは後ろへ下がってしまった。

「っもう、厄介な術ですわ。」

―ふん、(ワッチ)の前に立った事後悔させてやるぞ。―

リンカーネアがカレンに吼えると、又しても何かに弾かれた様に彼女は吹き飛ばされてしまう。

 見えない壁、何て面倒な力なんだろう。

 (シカ)も此の(ママ)吹き飛ばされたら、

「っぶない!」

焔へ落下し掛けていた彼女に向け、ケルディが体当たりを喰らわせた。

 だが彼女は見た目以上に質量がある。全力でぶつかった筈なのに大して彼女は動かず、所かケルディを押し潰して突っ伏してしまった。

「ぎゃぁああ!ほ、骨がぁ!」

「ま、まぁ御免なさいケルディさん!」

辛うじて焔への直撃は免れたが、まるで殴られたかの様な衝撃を受け、ケルディは伸びてしまう。

 せ、背骨が・・・折れるかと思った、冗談抜きで・・・。

 直ぐには起きれそうもなく、四肢を投げてしまう。そんな彼を庇う様にカレンは立った。

「やってくれましたわね!」

「いや、今やったのは御前だけどな・・・。」

自分の焔の所為とは言え、然う突っ込まずにはいられない皐牙だった。

―束になった所で足を引っ張り合っている丈ではないか。其の程度ならば造作もないか。―

くそ・・・こんな舐められるなんて。

 こんな力もあるのに、此奴に届かないのか。

 歯噛みしつつ皐牙は、焔の奥で揺れるリンカーネアの影を()め付けるのだった。

   ・・・・・

前半戦終了、何というかうチームが二つある場合は分け易い分、全体的な分量が増えるんだなと学びました。

けれどもきちっと型に入った時は楽しいので、定期的に色んな視点を取り入れたい所。

今回はばっさりと本神ホンニンが認めちゃいますが、皐牙君ストーリーですね。

前からちょくちょく意味あり気な焔が出ていたのでそろそろ鬱陶しいなぁと思っていた頃合いでした(酷い)。

終わった世界でも案外物語は紡げる物ですね、後半も宜しく御願いします!

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