66次元 無限の旻へ響く遠吠えよ翼を抱きし次元Ⅱ
さぁ、まさか分割する事になるとは思っていなくて急遽此処を書かないと行けなくなった後半戦!
バトルがじわじわ多い回ですが、描写レベルをあげたいなぁと思う此の頃、一寸忙しいのも相俟ってか勢いが強過ぎる気もします…むむ。
まぁ其の辺りは追い追い見返してみようかな、兎に角描きたい物を書きたい!と言う事で暴れようぜ!GO!
(今回何だか全体的にテンション高いな…。)
「っよし、と。大丈夫か蕾。」
「う、うん俺は平気だけど。」
ガルダ達は目当ての島へ着くと直ぐ様隠れた。
此処からだと少し遠過ぎるのでセレ達の事ははっきり見えない。只追っ手の類は無い様だった。
「大丈夫かな、セレ・・・。」
「多分彼の程度じゃあ問題はないと思うけど。」
不意打ちをされたとは言え、彼女にも怪我はなかった。只攻撃に自分が気付けなかったのが悔やまれる。
其の辺りは・・・矢っ張りセレなんだよな。まさか彼処で襲われるとは思っていなかったから・・・。
応戦したいけれども蕾を残せばセレに叱られてしまうだろう。テレパシーが来る迄待った方が良い。
其に・・・只ならない気配を何となくガルダは感じていた。一体此は何処からだ?
見られている、何かに。まさかもう此の島に?
蕾はじっと旻を目を凝らして見ていたが、不意にくるりと背を向けた。そして蕭森の奥を見遣る。
「ガルダ、何か・・・居るよな?」
「噫、一寸下がってろよ。」
樹々が揺れている。彼の奥に何か居る様だが・・・。
身構えているとにゅっと長い首が樹々の間から覗いて見えた。
面長の、馬か蜥蜴を思わせる顔付き、そして続け様に長い金属質の手が伸ばされる。
まさかと思い慌ててガルダはスカウターを取り出し掛けてみた。其の間にも其は全身を晒し、近付いて来る。
全長8mもの大きな獣、後ろ足と前足の間に胴を一巡して大きな金属の鰭が立っている。
頭の左右には立派な角が生え、尾も堅牢そうな背骨に似た甲に覆われて何とも頑丈そうだ。
そして同時にスカウターにも反応があった、龍で間違いはない様だ。
其の名もライドゥル、雷属性の龍で・・・戦闘好きと書かれていた。
後は何か・・・有用な情報は、
「御前達見ない顔だな。こんな所へ何しに来たんだ?」
少し首を傾げ、ライドゥルは興味津々と許りに近寄って来た。
敵意は・・・今の所感じない。其は良いけれども。
「・・・此の子を家へ送り届けるんだ。直ぐ此の島も出るからさ。」
「ふーん、最近神共が賑やかに飛び回ってると思ったが若しかして関係あるのか?」
「えと・・・若しかして俺を捜してる奴等の事かな。」
「お、其は穏やかじゃないねぇ。」
此の反応は・・・若しかしたら又先のラットラー達みたいに協力してくれるかも知れない。
斯う言う龍達との交渉はセレが向いているんだけれども、仕方ない。
「良かったら一寸手を貸してくれないか?助けて欲しいんだ。」
「えぇ、ま、暇してたから聞いてやるけど、何なんだ?」
「先言った他の神の事だよ。ずっと追って来るから足止めしてくれたら嬉しいんだけど。」
好戦的な奴なら暴れる名目が出来たら嬉しいかも知れない。
巻き込むのは悪いけれども、彼も此の次元を好いているなら手伝ってくれる可能性はある。
「足止めか・・・其って暴れろって事か?」
途端ライドゥルの目が輝いた気がした。矢張り戦闘が御好みの様だ。
「噫然うなんだ。頼めるか?」
話せるとは言え大きな魔物みたいな物だ。近付かれると思わず尻込み然うになるけれども堪える。
協力を仰げたら大きいんだ。何とか手伝って貰えたら、
「・・・然うだな。悪くはなさそうだけど。」
然う言ってライドゥルは小さく唸ってしまう。そしてガルダの傍で鼻を鳴らした。
「只然うだな。協力するっつっても俺は勁い奴が良いな。だから軽く腕試ししてくれよ。」
「う、腕試し・・・?」
今そんな事をしている暇はないけれども・・・うーん。
「な、良いだろ?俺腕鈍ってるかもだしさ。」
「分かったよ。じゃあ一回丈な。」
何の道協力は欲しい。うん、さっさと終わらせてやれば良いんだ。
「良し!然う来なくっちゃな!じゃあ其処の坊主此方来な!」
「・・・え⁉」
見事に二柱の声がハモってしまう。此は一体・・・。
「ん?やってくれるんだろ?早く始めようぜ。」
「そ、然うだけど、え、俺とじゃなくてか?」
「俺がやりたいのは其方の坊主だって。何だか勁そうだしな。」
勁そう・・・そんな理由で弾かれちゃあ何だか悲しい。だって俺の方が此奴には弱く見えたと言う事になる。
子供でもある蕾よりも弱そうなんて・・・うーん、涕いても良いだろうか。
其に蕾は大事な護衛対象である、戦わせる訳には行かない。
加えて勁そうって言ったって・・・蕾は一応獅子に変身は出来るそうだけど彼は無理矢理変えられた姿だ。其で戦おうなんて・・・。
「わ、分かった。俺頑張るっ!」
「うん然う・・・えぇ⁉や、やるのか⁉」
グッと拳を握って蕾はしっかりライドゥルを見詰めていた。如何やら本気らしい。
「二柱ばっかり頑張って貰ったら悪いよ。だから俺も頑張る。」
「然う然う、其の意気だぜ坊主。」
ライドゥルは嬉しそうだが如何しよう、勿論蕾の言葉は嬉しいけど・・・。
「でも蕾、頑張るってのは彼の姿に成るつもりなんだろ・・・?嫌じゃないのか?」
「ううん、大丈夫だよ。其よりちゃんと勝って来るよ。」
「良いねぇ、ま、俺も怪我なんてさせねぇからさ。安心しろよ。」
其処迄言うなら・・・やらせてあげる可きだろうか。
二人共乗る気だし・・・仕方ない。
「分かったよ。呉々も気を付けて、頑張ってくれよ。」
「うん!見ててくれよガルダ!」
「良し!然うと決まったら此方来な坊主、一暴れしようぜ。」
誘う様に手を掻いてライドゥルは奥へ引っ込む。
付いて行くと本の少し丈開けた所へ出た。若しかしたら此処が彼の住処だったりするのかも知れない。
ライドゥルは何度か地面の匂を嗅ぎ、地を引っ掻いたりして整えている様だった。でも其も満足した様で大きく一つ頷く。
蕾も周りの樹々を見たり肩を回して準備運動を始めていた。
あんな大きな相手なのに、怯まず挑むなんて中々肝が座っている。
「良いぜ、掛かって来な坊主。」
「うん、行くよ!」
蕾は一度身を屈めるとライドゥルへ向け跳び掛かった。
途端に其の小柄な姿が転じる。全身に毛が生え、髪が伸びて首元迄一巡し、立派な鬣を形成する。
手足も逞しくなって鋭い爪を生やした。肩が盛り上がり、胴が伸びて牙が生え揃う。
数秒もしない内に蕾は巨大な獅子へと姿を変え、其の儘ライドゥルへ迫ったのだ。
「っ矢っ張りな!俺の見込んだ通りだぜ坊主。」
でもライドゥルとて彼の変化を前に動じない。寧ろ器用にも口笛を吹いて歓迎した。
そして跳び掛かる蕾に向け前足を上げて斬り掛かる。
其を身を翻して既で蕾は避け、一つ吼えた。
「ガゥウウゥッ‼」
完全に獣の吼え声である。思わず見ていたガルダの背が伸びてしまう程堂々とした声だ。
そんな彼に向けライドゥルは尾を撓らせて振るう、堅牢な甲を備えた其が地を打つ丈で地面が抉れた。
力も勁いのだろう、空気が裂かれて音を立てる。
其を蕾目掛けて叩き付けて来た。鬣を斬り付け、裂かれた毛が舞い上がる。
「蕾っ⁉」
思わずガルダが声を掛けるも、蕾は一つ唸ったのみで直ぐ様ライドゥルへ突進した。
しっかりと鬣に護られたのだろう、怯む事なく全力でライドゥルの胴へぶつかる。
「っぐぅう、やるな!」
大きく押されてライドゥルは蹌踉めいた。だが透かさず地を蹴り距離を取る。
そして又二頭の獣は正面から向かい合った。一撃目で様子を見る事にしたのだろう。
其にしても自分は蕾の事を過小評価していたとガルダは痛感していた。
しっかり戦えている、何より怯えず挑める事は然う出来ない物だ。
其に大物である筈のライドゥルを退けさせる突進なんて、可也の威力だった訳だろう。
ライドゥルの目は正しかったと言う可きか・・・其にしてもあんな強力な攻撃が出来るなんて・・・。
良く考えたら初対面で俺は襲われた訳だけど、彼は結構危なかったのかもな、生身の俺なら吹き飛ばされていただろう。
怪我も只じゃあ済まない、直ぐ治るにしても痛いのは嫌だ。
彼はしっかりと彼の躯の戦い方を心得ていたと言う訳か・・・凄い、戦闘センスは持っていた訳だ。
若しかしたら其の辺りも含めてクルスティード尖塔の奴等は彼を欲しがったのかも知れないけど。
噫然うだ俺も斯うしちゃいられない、ちゃんとセレに連絡を取らないと・・・。
其の間に対峙し合っていた二頭は遂に動きを見せた。
先に動いたのはライドゥルだった。頭を掲げたかと思うと角が蒼皓く輝き始めたのだ。
余りの眩しさに目を閉じそうになる。其の中で更に角は輝きを増し、激しく明滅する。
「まさか此、電気⁉」
蕾の髭が震える。空気が痺れた様に震えるのを感じ取ったのだ。
「御名答。」
僅かにライドゥルは笑うと、今度は蕾に向け突進した。
あんな角を突き立てられたら只では済まないだろう。離れていても痛い位帯電しているのだ。
思わず蕾は生唾を呑んだが、未だ下がる気はない。
大きく蕾が跳んで避けると直ぐ様ライドゥルも追う。
鋭い金属性の手足が激しくブレーキを掛けるのだ。辺りの嫩草を斬り付け乍ら駆け巡る。
只二頭が暴れ回るには少し此のフィールドは狭かった。蕾はちょこまかと走り回るので中々ライドゥルの角は命中しない。
もっと広い所であれば彼も追い付けただろうが、何度も向きを変えていては突進にスピードが乗らないのだろう。
其の隙を突き、蕾はライドゥルに向け横合いから突進を繰り出した。
「ッキャン⁉」
だが鼻が触れるか如何かの所で驚いて顔を上げてしまう。そんな彼の鼻先で僅かに火花が散った。
「俺の電撃を舐めるなよっ!」
然う言いライドゥルが一歩足を出すと背を一巡していた金属質な鰭から火花が散る。
如何やら其処からも電気を発する事が出来る様だ。怯んだ蕾に向けライドゥルは角を振る。
「っぐぅ、」
助走は無いので力は大して乗らないが、頑丈な角に因る突きである。軽く蕾は転げ飛ばされてしまう。
だが倒れる前に着地した蕾は次に樹々の間を走り始めた。
「ヘッ、未だ挑んでくれるとは嬉しいねぇ。」
ライドゥルの角が激しく雷を発する。
うっかり加減を間違えると蕭森を燃やしてしまうので気を付けないと。其でもバトルが楽しくて抑えられないのだ。
あんな風に樹々の間を走り回られちゃあ自分では奴を追えない。けれども其は向こうも同じ筈だ。
先から見るに爪や牙でしか攻撃手段を持たないなら今の自分に触れられない筈。
只其でも油断せずライドゥルが目で蕾を追っていると突然何かがライドゥルの目前へ飛び掛かった。
小さくて丸い其は礫の様で、思わずライドゥルは目を背ける。
すると今度は角から火花が爆ぜた。何か当たったのだろうが焦げた匂が混ざる。
此の匂いは・・・木の実だろうか、嗅ぎ覚えがある物に思わず鼻が動く。
そして続け様に前足や背、尾にも次々小さな痛みが走る。如何やら同じ木の実だろうが其が投げ付けられているのだ。
不意を突かれた位なので痛みが残る程じゃない。でも一体何処から投げているのだろうか。
くるりとライドゥルは身を捩るが・・・彼の獅子の姿が見えない。
おかしい、あんな巨体なら碧樹や嫩草の間になんて隠れられない筈、一体何処から。
「うおぉおぉおおっ‼」
何処からかした声に耳が動いた矢先、ライドゥルの背に重みが乗った。
何が起きたか分からず彼は跳び上がる。でも重さは変わらない、まるで背にしがみ付いている様な。
はっとして何とか少しライドゥルは首を回した。すると何時の間にか自分の背に彼の少年が乗っていたのだ。
てっきり獅子の姿で来る物と許り思っていたので面喰らったライドゥルは猶の事暴れるが其でも振り落とせない。
不味い、背なんて手も角も届かない。加えて鰭より前に乗っているので雷も当たらない。
此では埒が明かないと意を決してライドゥルは碧樹に向け突進した。
背を丸めてぶつかれば流石に離れるだろう、首を下げて狙いを付ける。
だが駆け出して直ぐに違和感が走った。少し背が軽くなった様な・・・?
然う感じたのも束の間、ライドゥルの前足は浮かび始めた。どんなに地を掻いても届かない。
そして首筋に痛みが走ったかと思うと彼は四足を宙へ投げ出していたのだ。
「な・・・何てこった。」
訳も分からず足掻くライドゥルだったが、其の一部始終をガルダはしっかり見ていた。
今彼の目の前では又獅子へと転じた蕾が、ライドゥルの首根っこを銜えて投げ飛ばしていたのだ。
後ろ足で何とか踏ん張り、ライドゥルの勢いも利用して投げ付けたのだ。
スローモーションの様に見えた其の一瞬は圧巻の一言で、瞬きすら出来ずに見詰めてしまう。
其の儘ライドゥル話す術もなく背から地面へ叩き付けられてしまった。
「此で如何だっ⁉」
蕾が旻に向け雄叫びを上げる。そしてしっかりと前足でライドゥルの胴を押し付けていた。
「ひ、ひゃあぁあ、み、見事だ坊主、御見それしたよ!」
両手で地面を掻き、ライドゥルは降参と許りに頷いた。
「勝った、やったぁ俺勝ったよガルダ!」
途端に蕾の姿は又小さな子供に戻り、ライドゥルの上で飛び跳ねた。
無邪気に喜ぶ様は完全に子供の其であり、龍を一頭倒した獅子とは到底思えない。
「す、凄いな蕾、圧勝だ!」
「へへっ、勝てたんだ、俺やったよ!」
何とも嬉しそうに顔を赤くさせて蕾はガルダの傍へ寄って来た。其の背を見遣ってライドゥルは一つ鼻を鳴らした。
「いやぁ流石だぜ坊主、本当勁いんだな!」
彼も満足そうに起き上がると蕾へ頭を摺り寄せた。
「二柱共怪我は無いか?大丈夫なのか?」
ポンポンと取り敢えず蕾の肩に触れてみる。一見無事そうだけれども。
思った以上に二頭は激しく戦っていたので途中から気が気じゃなかったんだ。雷迄使っていたし。
「うん、俺は何とも。」
「おぅ、此位如何って事ないだろ。」
「でも彼はやり過ぎだろ。」
少し凄むとライドゥルは苦笑いを浮かべた。まるで悪戯の様な笑顔だ。
「其は悪かったって。余りにも坊主が勁いからさ。試してみたくなったんだよ。」
「で、もう十分試せたんだろ?」
結構しっかり暴れたんだ。下手したらクルスティード尖塔の奴等にばれてしまう程、此で成果が無くちゃあ。
「噫勿論だぜ、任せてくれよ。他の神の奴等を見掛けたら遠慮なく打っ飛ばせば良いんだろ?」
「先の雷の角なら余裕だよ!」
蕾に褒められて気を良くしたのかライドゥルは胸を反らした。確かに彼の角の一撃なんて喰らったら神も一溜りもないだろう。
「じゃあ頼んだぜ。程々で良いからな。無理はしなくて良いから。」
「良いぜ。俺も坊主の御仲間を護りたいしな。家ってのは彼の島へ行くつもりなんだろ?」
「え、知ってるの⁉」
思わず蕾が喰い付くとライドゥルは首を傾げて彼を見た。
「何だぁ?てっきり然うだと許り・・・。だって俺御前と良く似た奴等を見たぜ?皆勁そうだったから手合わせしてみたかったんだよ。いやぁ楽しかったぜ。」
思い掛けず有力な情報が得られそうだ。如何やら彼は少し此の次元に詳しい様だった。
「其、具体的に何処の島か教えてくれるか?実は分からなくなって捜してたんだよ。」
蕾も何度も頷く。彼も仲間ではないかと感じ取っているのだろう。
「うん教えて!其処って大きな湖とか無かった?絳い蕭森でさ!」
「ん、然うだったのか・・・其は又難儀だなぁ。えっと彼処は確か・・・。」
然う言ってライドゥルは先ガルダ達と会った島の端へと歩き出した。そして下の方をじっと見詰める。
「えっと・・・俺直接行った事はないから詳しくは知らないけど、もっとずっと下の方の島だぜ。ほら、下の島の方が蕭森は絳くなるんだよ。」
彼が指で指示したが、確かに改めて見遣ると下の島程色が濃く見える。
てっきり目の錯覚かと思っていたが、実際に見ると確かに其の差ははっきりしていた。
「ほ、本当だ!じゃあもっと降りて行けば・・・。」
「噫其で向こうの・・・見えるか?彼の二つの島がくっ付いてる所、彼方の方で俺は見掛けたぜ。」
可也離れてはいるが、遥か下方で其らしき島が見えた。若しかしたら彼の近くに蕾の家があるのだろうか。
其に仲間と言っていたし、村みたいに小規模でも集まりがあれば探し易い。
蕾もじっと食い入る様に見詰めていた。そして何度も頷き目に焼き付ける。
「ガルダ、御願い。俺を彼処迄連れて行ってくれよ。若しかしたら・・・。」
「噫勿論だぜ。念の為他の島を移り乍ら近付いてみよう。」
其の途中でセレと合流出来れば十分だ。良し、具体的な目標があると助かる。
「有難う、御蔭で家へ帰れそうだよ!」
「そりゃあ良かったな。じゃ気を付けて行って来いよ。俺もしっかり暴れてやるからさ!」
前足を上げて立つ様は何とも頼もしい。彼の協力を得られて本当に良かった。
「噫頼んだぜ。じゃあ蕾、直ぐ行くぞ。」
直ぐ様蕾はガルダの背にしがみ付いた。もう行きたくて仕方ないんだろう。
其に応える様にガルダも一気に羽搏いて飛び上がった。
一応クルスティード尖塔の奴が居ないか十分見て近くの島へと降りて行く。
「其にしても蕾、先の本当に凄かったぜ。良く彼奴に勝てたな。」
「う、うん。何か斯う・・・躯が動いたと言うか。」
未だ矢張り恐いみたいで顔を強張らせてはいたが、蕾は頷いた。
「へぇ、ちゃんと獅子の姿も使い分けてたもんな。」
「うん・・・何でだろ、彼が本能って言うのかな・・・。」
蕾も未だはっきりしていないみたいで其の声は少し心細そうだった。
勝てはしたけれども、良く分からない力だ。其を使うのは如何しても抵抗があるかも知れない。
其でも獅子になって勇ましく戦ったかと思えば人の姿に戻って木の実を投げたりと割と臨機応変に戦っていた。彼は本能とかで片付けられる物なのだろうか。
「因みに記憶の方は未ださっぱりか?」
「然う・・・何だかモヤモヤしちゃうね。」
「屹度家へ帰ったら懐い出せるって。」
僅かに薫風を受けてガルダは島を降りて行った。
行先はセレにも伝えてある。此の儘一気に降りて探してみよう。
・・・・・
「ガルダ、此方だ!」
蕭森を抜け、崖の端で手を挙げるセレを見付けた。
やっとの合流にほっと息を付く。
セレとテレパシーを取りつつ幾つかの島を経由して来たのだ。其の最果てが此処だった。
丁度ライドゥルが教えてくれていた島だ。其の端へと辿り着く。
道中、セレは道標の代わりに零星を散らしてくれていた。自分達が通ると光って付いて来るのだ。
まさかこんな使い方も出来るのかと思ったけれども、然う言えば魔力もセレの一部なんだし、感覚を植え付ける事は出来るのかも知れない。
最初は敵かと蕾は驚いていたが、セレのだと分かると其からは無邪気に曦を追い始めた。
いざって時の護りにもなる強力な御護りだ。此を残したと言う事は・・・セレは幾らか戦い乍ら先へ行っていたのかも知れない。
「セレ、悪い待たせたな。大丈夫だったか?」
零星が残されていたとは言え、彼女に会う迄は矢張り何処か心配だった。
彼女は苦笑を漏らすと胸を反らした。
「心配される事は何も。此の通り無傷で全勝だ。」
「凄い、セレも戦ったんだね。俺も頑張ったんだよ。」
「噫ガルダも言っていたな。ライドゥルとやり合ったのか?」
実際彼女は元気そうだった。一柱の分、遠慮なく戦ったのかも知れない。
此方は道中特に問題なかったから、屹度先に行っていたセレが色々頑張ってくれたんだろう。
蕾は未だ彼の戦いの興奮が冷めやらぬ様で嬉しそうにセレに報告していた。
其の間に俺も周りを確認しようかな。
そっと島の端から辺りを見渡す。
ライドゥルが教えてくれた通り、此処迄下りて来るとぐっと樹々の色は濃くなった。
蕾も何だか懐かしい感じがすると喜んでいたのだ。間違いなく家は近いと。
後は他の手掛かり、湖とかになるんだけど・・・。
何とはなしに近くの島を見ていると何か光る物が見えた。
彼は・・・セレの零星じゃない、一体何だろう。
島の中心部周りか、何か光っている様な・・・。
「っ若しかして・・・。なぁ蕾、彼、彼見てくれよ!」
話し中で悪いけれども慌てて蕾の肩を小突く。
すると直ぐ様彼は顔を上げた。
「も、若しかして彼奴等⁉・・・ん、」
僅かに彼は跳び上がるもガルダの視線の先を追う。そして同じ輝きを見付けたみたいだった。
「彼って・・・水?まさか、湖⁉」
思わず声が上擦るが無理もない。やっと見付けた手掛かりだ。
「ん、良く見えたな。噫彼処に湖がある様なんだが・・・。」
セレも視線を向け、顎に手をやった。波紋では屹度もっとはっきり見えているのだろう。
「如何なんだセレ、何かあったか?」
先に辺りはもう確認しているだろう、彼女も頷き返した。
「其なんだが、もう少し落ち着いてから話そうかと思ったが、良いか。」
「うん、若しかして見付けてくれたのかセレ!」
すっかり蕾も其の気になって喜んでいる。段々と確信に近い物を得ているのかも知れない。
「噫、若しかしたら彼の島に、蕾の仲間が居るかもな。」
「っ!其なら早く教えてくれよ!早く行かなきゃ!」
「其だが一寸様子を見たくてな・・・私一柱が行く訳にも行かないし、其に。」
何だかセレの歯切れが悪い、何か悩んでいる様な・・・。
「何か問題があったのか?セレ。」
「・・・奴等が其処等中に控えている。蕾を送り届けた所で連れ戻されるのが見えているな。」
「そんな・・・、もうこんな所迄来ちゃったの。」
「と言うよりは若しかしたら仲間の所から無理矢理御前は連れ去られたんじゃないか?だから彼奴等も待っているんだ。」
「其って・・・蕾の仲間達の方は大丈夫なのか?」
其処等に居ると聞いては思わずガルダ達も声を潜めた。セレが直ぐ切り出さなかったのもそんな理由だった訳だ。
「何とも言えないな、先から動きが無いんだ。只の待ち伏せか其とも、」
「其だったら・・・俺も戦うよ!もう彼奴等なんか、恐くない!」
勢い込む彼を見遣って僅かにセレは口元で笑った。如何やら彼女も少し緊張しているのかも知れない。
「ライドゥルに勝ったなら十分だろうが、怪我なんてしたら事だ。手は借りるかも知れないが、任せては欲しいな。」
「お、俺に出来る事なら!」
「手を借りるって、セレ何か考えてるのか?」
「ん、シンプルな事しか考えていないよ。襲いに来たのなら追い返す丈だ。」
「じゃあ・・・戦うって事だよな。」
「噫、完全に諦めて貰う迄追い返す迄だ。自分達の方が勁い、若しくは面倒臭い奴だと思わせられたら勝ちだな。」
「うん・・・上手く行ったら俺に何をしたのかとかも聞けるかな。」
「然うだな、一柱捕まえて聞き出したい所だが。」
何だか物騒な話につい下がりそうになるけれども、此許りは仕方ないんだろう。
未だクルスティード尖塔の奴等は諦めていない、きっちり痛い目に遭わせて下がって貰わないと。
此の次元を護る為に・・・必要な事なんだ。
「じゃあ如何するんだ?片っ端から倒すつもりなのか?」
「話し合った所でだろうし、然うするつもりだが・・・然うだな。」
じっとセレは島の方を眺めていた。辺りを漂う零星が輪を描く。
「私が此処で派手に暴れて、奴等の注意を引こう。そしてガルダと蕾は其の間仲間を護りに行っては如何だ?」
「セレ、又そんな囮になる様な事して・・・。」
其は素直には賛同出来ない。彼女許り危険な目に遭っているじゃないか。
セレはセレで奴等に狙われる理由は十分にある。其を逆手になんて取りたくない。
勿論、蕾の仲間を護るのが大切だってのは分かるけれど・・・。
「然うだよセレ、先も戦って貰ったし、そんな危ない事ばっかり・・・。」
「然うか?私としては寧ろ楽な役で申し訳ない位だが、護る方が何かと大変で面倒だぞ。」
本気で彼女は然う思っているらしく、茶化す事なく真面目に頷いていた。
護る様な繊細な事より派手に暴れる方が御好きなのだろうか。う、うーん。
実際セレが戦うとなると此の零星達を撒いたり爆発させるのかも知れない、其はもう派手に。
其の様を軽く想像してみる・・・うん、分かり易い。
そして其処に自分達が居たなら、容易に巻き込まれそうだ。彼女は其を嫌っているんだろうが。
俺の悩む様に気付いてか一歩セレが近付く。口元が笑っている、まるで誘う様に。
「如何だガルダ、ガルダなら分かってくれると思うが。其の気になったらこんな島だってぶっ壊す位暴れられる。」
「え、えぇ、そんなまさか。ビームが出せる訳じゃああるまいし。」
「其が出来ちゃうんだよ、セレは。」
「え、本当⁉ビーム出せちゃうの⁉」
何とも新鮮な反応だ。今時其で驚いてくれる奴はいないからな。
「噫、だから心配要らない。其にガルダは護るのが専門だからな。」
「う・・・まぁ勿論頑張るけれども。」
「然う言えば俺未だガルダが戦ってるの見た事ないな・・・。」
「じゃあ良い機会だ。ガルダは勁いぞ。しっかり見せて貰え。」
何だか重圧だけれども、然う言われちゃあやるしかないじゃないか・・・。
「分かったよ。じゃあ其の作戦で二柱共良いんだな。」
力強く頷かれる・・・仕方ない。
「じゃあ良いけれども、でもセレも無理するなよ。その・・・色々あった後なんだし。」
「噫分かってる。先ずは蕾の仲間探しだろう?其も大変だから気を付けないと。」
「うん・・・。噫もっと何かはっきり懐い出せたら良いのにっ。」
未だもどかしい様で蕾は頭を抱えて一つ息を付いた。
「思い出すのは勝ってから緩り出来るだろう。間違っても戦いの間は迷うんじゃないぞ。」
「分かってるよ。ちゃんと集中するからさ。」
其の返事にセレは満足そうに頷いた。
「何だか彼奴と戦って一寸吹っ切れたみたいだな。良いんじゃないか?其じゃあガルダ達はこっそり彼の島へ行って貰おうか。」
「分かったよ。でも、本当気を付けろよセレ。」
「噫、大丈夫だって。ほら行った行った、確認が出来たら私も動くから。」
苦笑して手を振られてしまう。もう、彼女は本当に強情だ。
「じゃあ蕾、行くぞ。あんな奴等蹴散らしてやろうぜ。」
「うん、頼んだよ二柱共!」
蕾は早速ガルダの背に飛び付き、緩りと羽搏いて行く。
セレがテレパシーで波紋の情報を送ってくれるが・・・おぉ、中々情報量が多い。
何時もセレはこんな視点で見てるのか、何だか酔いそうだ。
普段の見えている景色の上からシートを重ねられている感覚、影が幾つか浮かび上がって来るのだ。
彼が・・・クルスティード尖塔の奴等って事だよな。旻には殆ど居ないが、蕭森の中に散らばっている様だ。
確かに動いていないけれども、此は向こうも警戒しているのかも知れない。事前に幾らかセレが動いているだろうし。
旻に誰も居ないのはセレが粗方落としたからじゃないだろうか。其位の事はやって然うである。
そして影の中に一つの塊がある、若しかしたら此は・・・、
早速其の影へ近付く様に島へ降りて行く。
真絳な蕭森の奥で光る物が見える。彼が湖なのだろう。
「・・・ガルダ、大丈夫なのか?」
「噫セレが敵の位置とか教えてくれるんだよ。此方に行けば大丈夫だ。」
「へぇ、凄いなそんな事も出来ちゃうんだ・・・。」
目をぱちくりさせ乍らも蕾も付いて来る。其の面持ちは緊張の為か強張りはしつつも、息は荒かった。
「何だか凄く懐かしい匂がする・・・っ、もう直ぐだよガルダ。」
「噫、多分此の先に、」
嫩草を掻き分けて行くと少し丈開けた所へ出た。
其処に居たであろう影が一斉に動く。
「た、ただい・・・わぁあああ‼」
「ラ、蕾っ⁉」
両手を広げて声を掛けた蕾目掛け、影達は一気に飛び掛かったのだった。
・・・・・
「ん・・・ちゃんと合流出来た様だな。」
島の端からあらん限り波紋を放って見ていたセレは一つ伸びをした。
向こうにガルダが居れば大丈夫だ。しっかりと彼等を護ってくれるだろう。
後は・・・敵を滅ぼす丈だ。
ガルダ達が来る迄暇だったから幾らか潰したが、未だ帰るつもりはないらしい。
だったら全滅させる迄、一柱残らず殺し尽くしてしまえば良い話だ。
派手に暴れたら出てくるだろう。自分が矛を収めた途端大人しくはなったが。
散らしていた零星を幾つか集める。此は事前に幾らか準備していた物だ。しっかり使って行こう。
そして零星を束ねて蕭森の方へと叩き付けた。
途端激しく爆発を起こし、曦が散る。其処を起点に縦横無尽に零星は走り始めた。
見える、聞こえる、然うだ。波紋で追い切れないのなら他の感覚に頼る可きだ。
此は恐怖の色、自分の攻撃に気付いた神が怯えて態勢を整えているのだろう。
噫此方の方が随分と分かり易い、零星をより思いの悍い方へ向かわせれば良い丈。
一柱も逃す気なんてない。此の辺りを漂っている自分に向けられている敵意、恐怖の全てを断つ。
流石に只襲われる訳ではないのだろう、反撃のつもりか此方に向け幾つか術が飛んで来た。
でもそんな物で止まらない、其毎全て喰らい尽くしてやる。
一応自分の位置は敢えて分かる様に晒している。闇雲に暴れられて被害を増やされたら困るからな。零星を自分を中心に走らせ、目立たせてはいる。
其処に向けての攻撃とあっては、防ぐ手立ては幾らでもあると言う物だ。
火の玉が迫って来たが其に零星を投じる。
でも只相打ちさせたんじゃあ勿体無い。道中でも試してはみたが、もう少し練習しようか。
投げた零星へ意識を集中させる。大丈夫、懐いを読む様に、見えない物に向けて投じれば良い。
彼を魔力だと思え、魔力を捉えろ。だったら・・・喰えるだろう?
途端零星は弾け、其の形状を変化させた。
其は宛ら蛇の頭の様、獲物を丸呑みにせんと許りに迫る。
上下二つに分かれ、恐れも知らずに火の玉へと突っ込んだ。
そして火の玉を丸毎包み込む、一回り大きくなったかと思えば、燃える事なく取り込んだ。
・・・行ける、此の方法だったら術を自分の魔力として分解、回収が出来そうだ。
他の零星達も同じ様に火の玉へ喰らい付き、我が物として行った。
―・・・成程、魔力其の物に術を解かせているのか。―
「噫、やっと一寸繊細な動きが出来る様になったよ。」
―一寸か・・・特異な術だとは思うが。―
然う言われると嬉しいな。自分の編み出した物が評価されるなら。
此は、自分が魔力に近しくなったから出来た芸当なのだろう。魔力を血として生きている自分の術。
近付き過ぎたからこそ弱点となった点もあるが、だったら其すら潰せる位強大になるしかない。
其でも未だ慣れていないのもあるだろうが、自分から離れた零星に此処迄させるのは不可能だ。其の感覚迄伝わる近くでなければ難しい。
其の分自分も相手の術に近付かなければいけないので、完璧には程遠いいのだ。使い方は見極めないと。
他に喰らい過ぎも考えないとな・・・分解は出来ているが、未だ完全に物に出来ているとは思えない。
例えば・・・光と闇の術を同時に喰らえば、無になってしまって危険を伴うだろう。然う言う事態は避けなければ。
其から考えると他にも術に何か仕込む方法はあるかも知れない。・・・うん、考えて置く事は大事だろう。
「因みに此、昔丗闇がしていた術を少し参考にしているんだぞ。」
―・・・ん、そんな変な物を披露した覚えはないが。―
「ほら闇の防壁みたいなのを張って私の力を防いでいたじゃないか。だから自分の周り丈別の方法で護るにしようと思ったんだ。」
―・・・其は参考にしたと言えるのか?―
「勿論、攻める丈じゃない手段を考えていたんだよ。」
もっと使い熟せるようになれば此の零星達を自分の周りに纏って確実な護りに出来そうだけれどな。其は練習だ。
さて、基本は雑魚許りか。念の為ガルダ達に向こうへ行って貰ったけれども問題はなかったか。
此の儘零星を走らせる丈で次々と神の首が飛んでしまう。成す術もなく刈られて行っているのだ。
一柱位はしっかり残さないといけないがな。聞きたい事はあるし・・・。
・・・ん、何だ。一つ妙な影があるか?
未だ神自体は居るらしくて増援は来ていたんだが、妙な力を感じる。
同族より近い様な此は・・・まさか精霊か。
魔力も強そうだし、彼奴丈は警戒為可きだろうか。
然う思う間にも其の精霊は此方へと近付いていた。別の島から飛び移って来ている。
零星を何とか避けている様だ。若しかしたら今回の一団のボスかも知れない。
だったら丁重に持て成してやらないとな、此丈部下をやられちゃあ向こうも手ぶらで戻れないだろう。
「・・・君が、セレ神だね。」
然うして遂に奴は自分の前へと降り立った。
「噫、御前が此の烏合の衆のボスか。」
「其の通り、まさかこんな形で相対するとはね。」
「然う言う割には随分堂々と来てくれたじゃないか。」
彼の零星達を潜り抜けて此処迄来たんだ。其丈で十分実力はある。
其の上で正面から来ると言う訳か。・・・何を企んでいる?
「まさか話し合いを御所望か?」
「ある意味然うとも言えるだろうね。」
此奴・・・油断ならないな。
精霊の類は本当に気を遣う。どんな力を持っているか分かった物じゃないからな。
「僕は君と対等に話したいんだ。だから自己紹介をしよう。僕はルーズ・アロだよ。」
然う言いつつルーズは警戒しているのか余り此方へ近付かない。
互いに腹の探り合いと言う訳か・・・。
だから自分もじっとルーズの動きにのみ集中した。零星達を自分の元へ集結させる。
まさか向こうとて無策で突っ込みはすまい。何か考えがあっての行動だ。
ルーズは精霊丈あってか中々特異な姿をしていた。其の不思議な姿を波紋でじっくりと観察する。
一見杖、と言う可きだろうか。一本の棒に鳥の頭が持ち手としてある様な形に見えた。
其の頭には一つの瓊があり、変わらぬ輝きを放っているが、其処から力でも漏れているのか、波紋では確認し難い。
そんな足も手も無い様な姿で浮かんでいるのだ。・・・本当に不思議な生物だな。
「対等か・・・。其は失礼したな。挨拶も無しに随分暴れてしまったか。」
フン、クルスティード尖塔の奴等が対等なんて笑わせる。
確実に裏か何かある・・・口車に丈は乗るなよ。
此方はもう手を出しているんだ、話し合いなんて有り得ない。抑そんな相手だと自分の事を思っていない筈。
向こうからしたら自分は任務を邪魔して来た野良だ。始末したいに決まっている。
「ふむ・・・然うだね。此方も随分やられてしまったけれども、其は君なりの理由があるんだと思うよ。其を聞きたいんだ。」
「理由を求められるか・・・別に私達の店の事位御前達は知っているんだろう?」
折角なら此方からも一寸聞いてみよう。何の程度奴等が理解しているのか。
互いに距離は取っている。魔力も変わりない・・・只の時間稼ぎとは思えないが。
「一応理解はしているよ。只、何故次元の主導者を連れ去るのかな。其の行為に意味がある様には見えないよ。」
「ん、然うか?至極当然だろうに。御前達の手から次元の主導者を護っているんじゃないか。」
「護る?君がかい?徒に連れ回して危険な目に遭わせている丈じゃなくて。」
「然う御前達が思っている間は話し合いなんて無理だな。」
互いに決め付けてしまっては猶の事。抑自分は話し合うつもりもない。
只滅ぼす丈。手なんて取れる訳がないのだから。
此奴が今負っている使命を捨てて動けるか?否、そんな事出来る訳がない。
「成程、つまり君は私達が彼に危害を加えていると、然う言う訳か。」
「事実彼奴は御前達の元から逃げようとしているじゃないか。其を助けて何が悪いんだ。」
「・・・君が、次元をこんな風にしたんでしょうに。」
小さく息を付き、じっとルーズは自分を見詰めた。
奴等からしたら自分は何処迄も勝手なのだろう。自分で壊して、都合良く助け、邪魔をして。
神とは思えない其の矛盾に溜息も出るだろうよ。
「彼が君のした事を知れば如何思うのか。此の次元は終わりつつある。其からの保護なのだから話し合えれば彼だって分かってくれるよ。」
「ククッ、確かに。初めから全て話せば理解は得られたかもな。でも私達は更に上の条件を提示するんだ。蕾も靡きはしないだろうよ。」
「上の条件?是非とも聞きたいね。」
「御前達がする事は飽く迄も蕾の保護、彼奴の仲間は見捨てる気なんだろう?」
でなければ蕾一人を連れ去るなんて真似はしない筈、仲間の位置が分かっていたのなら、其処から此奴等が引き離したんだ。
榔と同じ様な物だろう。最も優れた奴丈を奪って、自分達の手中に収める。
・・・神も人も、変わらないじゃないか。
「見捨てるんじゃあない、選別だよ。彼は選ばれたんだ。其とも何だい?君は全てを救わないといけないと非難するのかい?だったら此の島々に生きる全てを救わねば差別だろう。植物も魔生も虫も鳥も全て。」
「然うだな。だから私は其の全てを救う提案をするんじゃないか。」
「・・・・・。」
考え込む様にかルーズは黙って見詰めていた。・・・まるで見定める様に。
「私達は次元其の物を救う。・・・其で問題ないだろう?」
「・・・救う?君がまさか。」
流石に此には驚いてしまったらしい、少し丈杖の先端の様な足が揺れる。
「信じられないか?でも現に然うなっているだろう?」
「・・・成程、然うか。其が君達の考えか。」
・・・意外に話を聞く気があるのか、否定はしないらしい。
「所で、君は精霊として未だ若いのかな。何だか珍しいね、種族が斯うも乱れているなんて。」
「そんな風に見えるか?別に若いだとかは関係ないだろう?」
「うん然うだ。只純粋に珍しいと思った丈だよ。」
珍しい・・・同じ精霊ですら然う思うか。
自分からすれば別に成る様に成った、其の程度だがな。
干渉力の使い方、其丈の話だ。其に成ったと言っても未だ未だ力を付けたいし。
「其で、質問許りだが話す気があるなら教えてくれないか?御前達だって蕾を、次元の主導者を如何する気だったんだ。本当に只連れ去りたい丈か?」
「然うだよ。一寸した手違いがあった丈。まさか其処で邪魔されるとは。」
「其で、私達が次元を救うと言っても退く気はないんだな。」
「君こそ、意見を変える気はないでしょう?」
ほら、話し合う意味なんて無い。互いに譲れないのなら其迄だ。
「・・・然うか。分かったよ。此の儘じゃあ僕の可愛い部下が只散る丈だ・・・。だから此処は精霊同士、力比べと行こうじゃないか。」
「只殺し合いを言い換えた丈だろう。」
「ぶれないね君は。此は飽く迄も精霊同士としての力比べだ。」
何だろう、先から奴の言い方に何か違和感を覚えつつはある。
仲間を殺されたのに話し合いだの力比べだの、何が目的だ?
でも斯うして一対一で向き合っている今だからこそ分かる。此奴は可也の魔力を持っている。
魔力と言うよりは力?否畏怖に近い物。
此の自分が・・・恐れているとでも言うのだろうか。そんな馬鹿な、と笑い飛ばしてやりたいが緊張を解く事が出来ない。
狙いが読めない相手だなんて特に苦手だ。逆手に取る事も、否定も出来なくなる。
「力比べなんて、一体如何するつもりだ。」
「然うだね。じゃあルールを決めようか。」
ルーズの瞳の奥で、ぼぅと鬼火の様に曦が揺れた気がした。
・・・・・
「っ・・・、・・・?」
そろそろと蕾は頭を護る様に上げていた腕を下げる。
そして目を見開き、目の前の光景に固まってしまった。
彼の周りを、何頭もの黔い獅子が囲っていたのだ。
だが獅子達は襲って来る訳ではなく、蕾に近付いて見詰めていた。
其の息遣いが荒い。まるで喜んでいる様な、
「だ、大丈夫か蕾⁉」
ガルダも近付こうとすると直ぐ獅子達は蕾を取り囲んでしまい、彼に対して威嚇の唸り声を上げる。
何も屈強な獅子達だ。此では迂闊に近付けない。下手に刺激したら蕾に何をするか分かった物じゃないのだ。
「み、皆待って、ガルダは良い奴なんだよ!」
そんな恐ろし気な獅子達の背を躊躇もなく蕾は叩いた。すると尾を振って獅子は一歩下がる。
まさか、言う事を聞いているのか。でも此の群は一体、
如何する可きかガルダが悩んでいると、蕾は獅子達の間を擦り抜けて戻って来た。
「ガルダ、俺やっと懐い出したよ!」
「懐い出したって、ま、まさか此の獅子達の事か?」
大きく蕾は頷く。もう其の目に迷いは無い様だった。
「うん。・・・ガルダ、紹介するよ。俺の仲間達だ。」
然う蕾が言うと何頭かの獅子が小さく吼えた。中には蕾に其の大きな躯を擦り付けている者も居る。
ざっと見、二十頭近くは居る様だが、如何見ても一つの獅子の群にしか見えなかった。
一応変わっているとすれば、何頭かしっかりとした鬣が生えた者も居るので、雌雄混合の群の様である。中には随分小柄なのも居たので、子供かも知れない。
只、皆獅子なのだ。確かに蕾が変化した姿と良く似た、真黔で、鬣の一部が燃える様に絳い獅子達なのだが。
蕾の様な、其の・・・人間に良く似た姿じゃあないのだ。其ってつまりは・・・。
「えっと・・・よ、宜しく。」
取り敢えず挨拶。身一つで猛獣達の前に立つなんて震えてしまいそうだが何とか堪える。
すると獅子達は鼻を鳴らしたり尾を振ったりとまるで返事の様に返してくれた。
色々話をしてみたい所だけれども・・・、
其の考えが過った途端、背後から爆発音がした。
音が遠いので此処を狙った訳じゃない。だがスッとガルダの背が伸びた。
其よりも今はやる可き事がある。彼等は蕾の仲間である、其丈分かれば十分だ。
蕾も直ぐ様身を屈めた。其の表情は直ぐに引き締まる。
「・・・緩りしてる暇ないよな。」
「噫、先ずは此処から彼奴等を追い払わないと。」
「皆戦えるか?・・・御免な俺の所為で。」
蕾は傍に居た大きな獅子の首根っこに抱き付いた。其の頭を優しく獅子は舐める。
他の獅子も頭を押し付けたり、前足を上げたりしている。何とか蕾に応えようとしている様だ。
「蕾達は無理するなよ。俺とセレできっちり相手するからさ。」
先の爆発はセレの零星だ。先教えてくれた彼奴等の影を追う様に走るのを感じる。
魔力が渦を巻いて駆け抜けている様だ。でも前よりはっきりと其の残滓が読める様な・・・。
其丈、セレの力が増しているのだろうか。俺も直ぐ加勢しないと。
「噫、俺達の家で好き勝手させる訳には行かないよ。皆戦おう!」
其の一言で蕾の姿は大きな獅子へと転じた。でも斯うして見比べると彼の姿は他の獅子達より一回り大きく見える。
そして一声吼えると直ぐ様蕭森を突っ切る様に飛び込んだ。其の後を他の獅子達も追って行く。
自分が狙われている対象なのに自ら飛び込んで行くなんて。
慌ててガルダも後を追う。セレの教えてくれた情報は頭に叩き込んだ。取り敢えず蕾の周りの神達を蹴散らさないと。
蕾は持ち前の嗅覚からか真直ぐ走り去って行く。
ライドゥルと戦う際、一切怯みもしなかったが彼で彼は何か吹っ切れたのかも知れない。あんな群で突っ込まれたら、神と言えども奴等も溜まった物じゃないだろう。
初め逃げ惑っていた獅子とは思えない、彼の姿に相応しい勇ましさだ。
ガルダの足では到底追い付けず、獅子の群は直ぐ視界から消えてしまう。だが樹々の奥からくぐもった悲鳴が漏れた。まるで狩りの様に蕾達が仕留めて行っているのだろう。
其を聞き留めている内に近くの嫩草が揺れる。急ぎガルダは向きを変え、其の嫩草の中へ飛び込んだ。
「っぐ、こんな所迄、」
小柄な、熊に似た獣が押し倒される様に出て来た。気配で分かる、此奴はクルスティード尖塔の。
此奴を抑えている内にと、ガルダは自身の生命力を解き放った。
右腕が逞しい獣の其と化す。爪は鋭く尖り、汚れ一つない純皓の毛皮が光る。
躊躇なんてしない、其の間にもセレや皆は戦っているのだから、俺丈日和る訳には行かないんだ。
熊が大きく目を見開いて其の手を見遣る。自分を引き裂かんとする獣の刃を。
其の口が開かれ、何か発しようと喉を鳴らした隙に、
狙い通りガルダは其奴の喉笛を引き裂いた。血は極力浴びたくないので直ぐ避ける。
しっかりと突き立てられた爪に、毛皮は何の防御力も持たなかった。易々と頸は裂け、樹々とは又別の彩を添える。
死んでいる、一撃だ。目を逸らさずガルダはじっと其の胸が動かないのを確認した。
そして又直ぐに駆ける。未だ此処は奴等に囲まれている、手早く片付けないと。
奇襲である事を活かしてガルダは樹々を味方に次々と神を狩った。
セレの情報から流石に皆動いてはいるが、大体の位置は割れている。其処を狙うのは容易い。
セレ程スマートには出来なくても、俺には此の生命力がある。大抵の事じゃあ止まれない。
既に反撃として幾らか攻撃はされたけれども、直ぐ其の跡は消えて行った。怪我程度なら障害にもならない。
我武者羅に攻め続ける彼に、クルスティード尖塔の連中も恐れつつはあった。
只頓攻めて来るのだ。又敵の正体もはっきりしていない内に何処から現れる獣達に怯まない筈がない。
幾らか蹴散らしつつガルダも駆けっていると、遂に黔い凱風を捉える事が出来た。
燃える様に走る背は獅子だ、間違いない。
勇敢にも獅子は神の一柱に喰らい付き、投げ飛ばしていた。
随分高く放っているが、若しかしたら島から落としたのかも知れない。
他にも戦いの跡か其の爪や牙には血が散っていた。一見怪我は無い様である。
「蕾、大丈夫か!」
余りにも大きな背だ。直ぐに見分けが付いてガルダが近付くと、一つ喉を鳴らして獅子は身震いした。
「ガルダ、其方こそ。俺は大丈夫。大分善戦してるみたいだし。」
肩で息をしてはいたが、目は未だ燃えていた。彼の後ろに直ぐ他の獅子も何頭か集まる。
皆で連携して戦っているのだろう。目立った怪我は見当たらない。
「此の島は随分片付いたと思うけど・・・。」
蕾は鼻を上へ向け、島中の匂を集めていた。
血の匂が邪魔だが、他の知らない匂が幽風に乗っていないか確かめる。
他の獅子達も辺りを注意深く見たり、同じ様に匂を嗅ぎ回っていた。良く統率が取れているみたいだ。
「そっか。じゃあ俺、一寸セレの所見て来るよ。蕾達は引き続き此方を頼めるか?」
「勿論だよ。俺達は飛べないから・・・。頼んだよ。」
休憩は終わりと許りに蕾が一つ吼えると獅子達は顔を向ける。そして一つの大きな黔い凱風となって樹々の間を駆け抜けて行った。
・・・確かに、彼の戦い振りを見たらクルスティード尖塔の連中が蕾を欲しがるのも無理もないかも知れない。
けれども彼の怒れる獅子は中々に手強いと思う。太刀打ち出来ない神達を見ると偸閑だ。
でも、じゃあ一体クルスティード尖塔の奴等は如何やって最初蕾を捕まえたのだろうか。
今の彼を見るに、記憶を無くす前からあんな戦闘力、戦闘センスは持っていただろうし。不意打ちを狙ったのか、其とも・・・。
一つ嫌な予感が頭を掠め、ガルダは急ぎ羽搏いた。
島の事はもう全て蕾達に任せて良いだろう、多少目立ったってもう関係ない。
葉や枝が擦れて小さな傷を付けるが、構う事なくガルダは島から飛び立った。
すると直ぐ目の前を零星が駆ける。周りを散っていた星々はある一点へ集まって行った。
其は先セレと別れた島の端、崖になっている地点だ。
下の状況は勿論セレも周知している筈、未だ奴等を全滅出来ていないのに零星を、武器を集めていると言う事は何かあったのか。
其の予感を裏付ける様に大きな魔力を彼処から感じる。・・・何だ此は、
若しかしてセレの所に此奴等一団のボスが居るのかも知れない。加勢に行かないと。
零星達を引き連れてより翼に力を込める。然うしてやっとガルダは崖を飛び越した。
一気に視界が開ける。其処には、自分に背を向けて立っているセレと、そんな彼女と対峙する神が見えた。
加えて其の神の辺りにも何柱か他の神が居る様な・・・。
一見セレが崖へ追い詰められた様にも見えるが、目立った怪我は見えない。幾らか術が互いの間を駆け、爆ぜている様に見えるが。
「セレ!加勢に来たぞ!」
「っ⁉ガルダ、早く此処から下がれ!」
結構近付いた所でセレの肩が震え、慌てた様に声を張り上げる。
波紋があるだろうに気付いていなかったのか、其程集中しないといけない相手なのか。
確かにセレは何処か不自然な動きを見せた。一瞬振り返ろうとして、でも視線を前から外さない。
一瞬の隙も与えられない相手なのかと身構えた所で・・・突然力が抜けた。
力が抜けたと言うより、何だ此、身が重いくなった様な、
幾ら翼を広げた所で浮かび上がれない、薫風がある筈なのに乗る事が出来ない。
気付いた時には遅く、一気にガルダは墜落した。
落ち乍ら翼を広げた所で如何にもならない。動く筈なのに、飛べないのだ。
ま、不味い此の儘じゃあ・・・っ‼
翼が使えないならと我武者羅に手を伸ばす。此の儘落ちれば彼の無限の旻の中へ落ちてしまう。
何とか伸ばした手は届き、崖にぎりぎり掴まれた。右手丈掛かり、爪を立てて掴まる。
一気に全体重が掛かって腕が悲鳴を上げるが呑み込む。此を離したら本当に終わってしまう。
「ガ、ガルダ上がれるかっ。」
セレの焦った声が上からするが、其の姿は見えない。彼女も動けないんだろう。
「・・・っぐ・・・、一体何が、ま、待ってろセレ、」
まさか先一瞬見えたが、彼の神が何かしたのだろうか。
神、と言うには少し変わった気配がしたけれども・・・。
何とか起き上がろうと爪に力を込める。すると土が削れて小石がパラパラと落ちて来た。
「っ・・・あ、ぶな、」
如何やら随分脆いらしく、下手に動くと割れてしまうかも知れない。辛うじて爪が刺さっている丈の状態なのだ。
此じゃあ上がれない、只の御荷物になってしまう。
何とか、何とかしないと、
如何にか左手を動かすも、中々掴まれそうな所が見付からない。動いていると右手の感覚も痺れて来る・・・。
「君を助ける為に御仲間が来てくれたみたいだけど。其なのに君は助けてあげないのかな?」
声がする・・・まさか此は彼の神のだろうか。
何も言えないのかセレは黙ってしまっている。一体如何してしまったんだろうか。
「ほら、振り返って手を差し出せば良いんだよ。其丈の事、だのに其すらしてあげないだなんて。」
「・・・っ、減らず口を。ガルダ、待ってくれ。此奴を殺したら直ぐに、」
「助けるより其を優先するのか。然うして仲間を切り捨てて来たんだろう。通りで意地汚く生きて来られた訳だね。」
くそっ、俺の所為でセレが、屹度今セレは彼奴に何かされてるんだ。だから動けない丈なのに、
「っ、セレ、俺は・・・大丈夫だから、」
「其の様で大丈夫な訳ないだろう・・・っ、」
声丈で分かる。彼女が何程迷っているのか。
早く上がりたいのに、何か少しでも動いたら落ちてしまいそうで、頬を掠める幽風につい首を竦めてしまう。
「フフ、君はしっかりとルールを護ろうとしてくれているね。そんな物の所為で動けないか。」
「くっ、私の方が上ならこんなのに掛からないのにな。」
ルール?其の単語が頭に引っ掛かり見上げるも、相変わらず旻しか見えない。
「僕との戦いに於いて、振り返ってはいけない。飛んではいけない。此の二つのルールを誓って貰ってるんだ。破ったら即四肢と首が飛ぶだろうね。」
まるで見えない筈のガルダの疑問を的確にルーズは答える。
其の声は何処か嬉しそうだったが、そんな物にセレは縛られているのだろうか。
「一方的に叩き付けて来たルールの癖に良く然う言えるな。」
「只の口約束だと思うなら彼を助けてあげたら良いんじゃないか。・・・出来ないだろうけど。」
セレの声には確かに迷いがある様に感じた。前丈見て言う何時もの鋭さがない。背後を、俺を顧みる様な色。
「同じ精霊として分かっている筈だよ。明らかに僕の方が格上だって。そして此の僕の定めたルールは・・・しっかりと適応されていると。其の証拠に翼は使い物にならないでしょう。」
然う言う事か、やっと合点が行った。
俺が飛べなくなったのは此奴のルールとやらに縛られているからなのか。
魔術とは又別の力、でも屹度此が此奴の・・・精霊としての力。
ノロノロが使っていた様な古い呪いの一つなんだろうけれども、其がこんな形で発動してしまったのか。
と言う事はもう一つのルールの所為で、セレは動けない訳だ。俺を助けるには振り返る必要があるから。
若し振り返ってしまったら・・・本当に四肢が、首が飛んでしまうかも知れない。
実感はない、でも事実だとは思う。俺も緩りと身に染みて来た。
此の精霊の言っている事は本当だ。本当に・・・振り返ったら、
セレが動けないのは当然だ。振り返れば死んでしまうのだから。
加えて他にも向こうへ控えている兵が何もしていない訳がない。幾つもの魔力が渦巻いている、他の術も恐らく掛かっているな。
此は・・・宙だろうか。若しかしたら此の所為でセレの波紋も制限されているのかも知れない。
堂々とセレの前へ戦いを挑んだんだろうけど、其丈の事を遣って退ける自信があったんだ。こんな術に掛かるなんて。
其に今はっきりと言った、奴はセレより格上の精霊だって。だから彼女は苦戦しているのかも知れない。
単純な術のぶつけ合いにも気を遣っているんだとしたら、俺は完全に御荷物だ。
「未だやり合うのか・・・。良いよ、ルールを破っても。然うしたらもう此に縛られる事もない。一度限の約束なんだから。」
こんなに誘われて、セレが動けないなんて。
悔しい、こんな良い様にされて、俺は何も出来ないのか。
「・・・出来るさ。高がルール、其を禁じられている訳じゃない。」
「セ、セレッ、」
何だか嫌な予感がする。手を上げようにも矢張り左手が掛かる所が無い。
余計崖が削れて顔に虚しく降り掛かる。
「御前は勘違いをしているな。急に随分と私を試す様に話し始めたが、ガルダが神質にでもなったと思ってるのか?」
「別に然うは言ってないよ。只、僕のルールに随分苦労している様に見えたから助言した丈だよ。」
「苦労か。別にこんなの大した事ない、ガルダは加勢に来てくれたんだ。純粋に此方の戦力が増えた丈の事。」
「然う言うなら早く一緒に僕と戦い合えば良い。最も其処から上がって来られたらだけど。」
奴の言う通りだ、俺は・・・自力じゃあ上がれない。術を放とうにも今其の加減すら難しい。
掴まっている丈でやっとだ、息をする丈で爪が外れそうで冷汗が伝う。
今上から攻撃なんてされたら俺は・・・。
「・・・確か、ルールを破られたらこんな面倒な制約は無くなるんだったな。」
「同時に破った奴は死ぬだろうけれども。」
「・・・だったら簡単だ。」
セレの乾いた笑い声が聞こえた気がした。俺の直ぐ上にセレが、
セレ、待ってくれ、如何する気だ。こんなの、
「ガルダを見捨てる必要が何処にある、迷う自体が間違ってるだろう。」
幽風が止んだ。無音だ。今の俺には、彼女の声しか聞こえない。
「ガルダ・・・頼んだぞ。」
其の声にはっと見上げると、彼女と目が合った。
俺の掛かっていた右手に自分のを添えて、しっかりと俺の目を見て。
俺の腕を引っ張り上げようと力を込めた、其の瞬間に、
彼女の頸に、黔い線が走る。
其が何か理解する前に、俺を上げようとしてくれた力は無くなり、彼女の首は傾いだ。
不自然に前へ、そして緩りと離れて、
噫、俺は此の光景を見た事がある。まるでデジャビュの様に。
彼は夢、夢だった筈なのに。
彼女の首が、落ちる。黔い血が華の様に散って、彩る様に。
「・・・あっ、」
俺は只見ている事しか出来なかった、すっかり膠着してしまって、其で、
彼女の首が、落ちる。もう其の目は俺を捉えていない。俺の頬を掠める様に落ちて、其で、
堪らず俺は左腕で其を抱いた。途端に背を悪寒が駆け巡る。
手にした重みが確かで、気持悪い。
違う違う、此は彼女じゃなくて、
頭で否定したって、顔に降り掛かる血は止まらない。俺はすっかり彼女の血に濡れていた。
そして左腕の中には、眠る様に目を閉じているセレの首があった。
ある筈がない、そんな物、ある筈ないのに。
気持悪さに取り落としそうになるが、堪える。彼女を、落とす訳には行かない。
頭の中が滅茶苦茶だ。腕の其を彼女と認めないと叫びつつも、捨ててはいけない大切な物だと求めている。
全身が凍えて、何も分からない。
今崖に辛うじて掴まっている状態なのに、そんな危機感なんて吹き飛んでしまって。
息をするのも忘れてしまう位、俺は・・・俺は、
其の一瞬が永遠に続きそうだと感じた刹那・・・悲鳴が上がった。
上から、幾つもの悲鳴が上がったのだ。
噫、もう俺のぼやけた頭じゃあ何も考え付かなくて、でも一言丈反響する声があった。
然うだ、俺はセレに頼まれている。動け、動かないと。
其の声に押されて俺は翼を広げた。すると先迄全く働かなかった其は確かに旻を掴む。
飛べてしまえば此方の物だ。俺はしっかりと首を間違っても落とさない様に両手に抱いて一気に飛び上がった。
軽々と躯は浮かび上がり、崖の上へ。其処には、俺の想像も付かない惨状が広がっていた。
俺は真皓になってしまった頭で、でも何とか一つ考えていた。一つ、只一つ丈。
セレをこんな風にした彼奴を、殺さないといけないと。
屹度上がった先には・・・もう動かないセレが居て、彼奴が、彼の声の主が立っているんだろうと。
せめて頼られた分、俺は報いないと。彼女の意志を継がないと、然う思って飛んで来たのに。
すっかり俺の足は止まってしまった。理解が追い付かない。彼が一体何なのか、
・・・俺の目の前で、闇が踊っていた。
漆黔の焔を垂れ流し、猛り狂う化物が暴れていたのだ。
全身黔く染まった其を正しく理解は出来ない。只複数伸ばされた触手の様な物に何柱もの神が巻き付かれていた。
悲鳴は、其奴等が上げていた物だろう。然う思う間もなく其の全身から悲鳴の代わりに血を噴き出させて絶命していた。
ぞりぞりと音を立てて触手が這う。良く見るとまるで百足の足の様な物が生え揃っていた。
いや、足じゃない。彼は・・・牙、なのだろうか。
ぞろりと生えた其は、触手に縦に刻まれた口へ獲物を引き摺り込む。
あんな物で巻き付かれたら、全身を喰い千斬られ乍ら、巻き付かれた儘に喰らい尽くされてしまうだろう。
闇がまるで起き上がる様に上体を起こす。何処となく二足で立つ様に起き、触手を旻に地に広げる。
其の姿に何処か、既視感を覚えた。全て黔に包まれていると思いきや、流れる闇の中に目が留まる。
其は胴、と言う可きか。只の肉の塊とは思えない。此の闇の中心にまるで亀の甲羅の様に一点其はあった。
其処から宛ら手足の様に黔い触手が生えているのだ。
伸ばされた触手は集まる様にして姿を変える。まるで何かを探している様な。
獲物を次々と捕らえては喰らい付き暴れる傍で、不意に俺に近付く触手があった。
避けないといけない、彼に触れたら、
咄嗟に其の考えが頭を過ったが、直ぐに麻痺してしまう。其の儘俺は動けなかった。
只ぼさっと其の先を見詰める丈。
触手も動かない俺に興味はないのか、辺りを探る様に蠢いていた。
そして地に転がっていた黔い棒を銜えて引き摺って行く。
「っ其は、」
弾かれた様に俺は手を伸ばすが、既の所で触手は一気に其を呑み込んでしまった。
駄目だ、其は・・・セレの脚で、
急いで辺りを見渡す。すると方々に散っていたのだろう他の手足も、直ぐに触手に回収されてしまった。
せめて此の首は護らないと。理解出来ない頭の儘でも何とかガルダは腕に力を込めた。
触手は蠢き、重なり合って姿を変える。焔其の物が意思を持ち、何かを象る様に燃え広がる。
何処となく其の形は旻へ広げられた翼の様に見えた。次いで輪を描いて走る線は撓る尾の様で。
そんな黔い化物の周りを誘う様に零星が瞬いた。
噫彼は紛れもなくセレの零星、でも其の輝きもまるで石塊みたいになくなってしまう。
食べられているのだ。手当たり次第に触手に攫われて。
「っば、化物が・・・何だ此はっ!」
兵達も混乱していたのだろう、ぽつりぽつりと声が上がる。そして腰が抜けてしまったか下がる事しか出来ない。
もう彼丈しか残っていないのだろうか。たった数柱の神がすっかり恐れ慄いていた。
其の時、俺の目の前でごとりと何かが落ちて来た。如何やら化物の翼に引っ掛かっていた其が落ちたらしい。
其は鳥の頭の形をした樹の彫り物の様だった。付いていた瓊は罅割れている。
まるで杖の持ち手みたいな、一体此は・・・、
考えている間にも触手は伸ばされ、其を回収してあっさり呑み込んだ。其の闇に俺は目を離せなくなる。
セレは、セレは何処に行ったんだ。
全て全て、もう彼の黔に呑まれたのか。
・・・いや、
惚けた儘俺は其へと足を向ける。
触手が俺の腕を這うが、先みたいに喰らい付こうとはしなかった。只確かめる様に撫でる。
でも俺はぎゅっと腕に力を込めた。此を、奪われる訳には行かないから。
此は、返さないといけない物だから。
「・・・セレ、此、返すよ。」
途端闇が震えて溢れる。
只俺には降り掛からず、まるで道の様に中心が開いて俺を誘った。
まるで幾重もの翼の様に、そろそろと俺は其の中心へ足を向ける。
すると其処にはあった、闇の中心で浮かんでいる其が。
先もちらと見えたけど、間違いない。此はセレの胴だ。
四肢をも奪われて、血の代わりに溢れたのが此の闇なんだろう。
未だ死んでいない、然うだよな?未だ、此処に居るんだよな。
口が無いから応えられない丈、目が見えないから踠いている丈、でも此を返せば、
良く見れば闇の中で猶黔く渦巻く物がある。屹度彼は彼女の失われた四肢だ。
彼女は戻ろうとしている。だから此で、
「此処で、良いのかな・・・。」
そっと首を持ち直して闇の中へ納める。
胴の位置からして此の辺りで良いと思うけれども・・・。
此は化物なんかじゃない、セレだ。
俺が認めて、其の形に留めてあげなきゃ。
セレは死んじゃいない。今は干渉力が荒れている丈だ。
死にたくはないと、願ってくれた形なんだろう。何をしてでも在ろうとした結果なんだろう。
分かるよ。俺は認めるから。だから戻って来てくれ。
俺の願いが彼女の糧になるならと願う。
もう大丈夫だから。彼奴等は死んだ。御前の敵はもう居ないから。
今なら分かる。彼の時崖の上で何があったのか。セレは俺を助けようとして・・・ルールを破った。
其の結果こんなバラバラにされて、でも、其で死ななかった丈だ。
こんな姿になってでもまさか襲って来るなんてクルスティード尖塔の奴等は油断していたんだ。
だからルールが破られた瞬間、彼奴が勝利を確信した瞬間に纏めて殺したんだろう。
其の隙をずっとセレは窺っていた。だから俺に直ぐ殺すからと予め言っていたんだ。
だから・・・頼んだって。然う言う事だったんだよな、セレ。
暫くして浮かんでいた首は元の位置へ戻ろうとする。
四肢も集まって、何処となく元の形が浮かび上がる。斬られた所から未だ黔い焔か液体が溢れているけれども。
不図、セレの瞼が震えた。思わず息を詰めるとゆるゆる其は開かれる。
「セ、セレ、」
其の視線が緩り揺れて、未だはっきりとはしていない様だった。
大丈夫だ、此の儘行けばセレは屹度治る筈。
セレは頑張ってくれたんだ。残る奴はせめて俺が片付けないと。もう無理をさせちゃあいけない。
「・・・あ・・・が、っ・・・。」
僅かに口を開いて何か呟くけれども、其処に力はない。
でも喋れる丈十分だ。彼女は居ると実感出来る。
「大丈夫だからセレ、セレは・・・、」
「っ!何ぼさっとしているっ!」
突然響いた鋭い声につい背が伸びる。
はっとして見上げるとセレが振り上げていた触手を押さえ付ける様に丗闇が乗っていた。
「え、あ、セ、丗闇っ⁉」
「早く此奴を止めろ!間に合わなくなるぞ!」
牙を剥く丗闇は随分焦っている様で、僅かに冷汗を浮かべていた。
何を、止めるって何をだ。
其処でやっと俺は視界を広げた。彼女にしか向けていなかった其を、少し下がって確保する。
・・・如何して俺は、気付けなかったのだろうか。
見えていたのは本の一部丈だった。分かった気になって何も見えていなかったんだ。
収まりつつあると思っていたセレから噴き出された焔は、途方もなく大きくなっていた。
見上げる所か、下手したら此の島を覆うんじゃないかと思う程。
広げられた翼から伸ばされた触手が蠢き、焔を吐いてまるで樹の根の様に分かれて広がって行く。
もう一体如何なっているのか其の全貌を形容出来ない。大きな島の様に見えたかと思えば歪み、船の様になっては崩れて広がって行く。
此が・・・まさかセレだと言うのか。
如何して戻らない?いや戻れないのか?止められなくなってしまっているのだろうか。
口を開けて固まってしまう俺に丗闇は舌打ちをし、触手に向け何やら術を放っていた。
一瞬其に怯む様に下がるが、又絡み付く様に伸びて行く。
「丗闇!如何してセレを!」
「御前はっ、未だ此奴が正常だと思うのか!明らかな干渉力の暴走だ、此の儘行けば・・・破滅しかないぞ!」
「干渉力の暴走・・・。」
聞き慣れない言葉につい繰り返してしまうが、丗闇は手を止めずに触手へ術を叩き込んでいた。
「未だ分からんか。此奴が不安定な癖に死に掛けた儘力を使ったから制御出来なくなったんだ。下手したら真の姿に成ってしまうっ!」
真の姿・・・っ、其って終わりを意味しているじゃないか。
もう何時ものセレには戻れない、所か此の次元に閉じ込められてしまう。
そんな事になったら・・・駄目だ、セレを止めないとっ!
「丗闇!俺は如何したら良い!如何したらセレは、」
「っく・・・兎に角此奴を攻撃しろ、否、もう殺せ!真の姿に成り切る前なら助かるかも知れないっ。」
殺せ、其の重い言葉に俺は震えた。
殺さないといけない、セレを・・・俺が。
如何して、もう敵なんて居ないのに。セレは生きているのに。
もう戻れない、止められないのか。彼女を止めるには其しか、
「我の力では相性が悪いか・・・。早くしろ!光だったら覿面の筈、全力を叩き込め!」
丗闇に指示され躯が震えるが、直ぐには動けない。
如何しても同じ考えが頭の中でループしてしまう。
けれども然うしている間にもセレの姿は変わって行った。集まりつつあると思っていた躯は其の形自体を変容させつつあったのだ。
顔も胴も全て黔へ染まり乍ら鼻は伸び、目の位置は変わり、牙が飛び出し、髪は鬣の様に燃えて、
噫彼女が変わって行く。俺の目の前で、俺の知らない姿へと。
爪が伸び、枝分かれして行く。翼が捩じれて角を生やして行く。胴の中心に穴が開き、液体が溢れ出る。
まるで万華鏡でも見ているみたいに、形容し難い姿へと次々彼女は変わって行った。
此が・・・干渉力の暴走、辛うじて生き残ったセレの足掻きとなろうとしている。
セレが真の姿に成ってしまう、そんな事があったら、俺は・・・俺は、
丗闇はそんなセレを何とか止めようと術を掛け続けていた。
只彼女と言えども、此の方法で良いのかは判然としない、其の迷いの所為か精度が落ちているのを感じた。
取り敢えず此奴に貸していた闇と存在を一時的に回収したが、止まる様子はない。無理矢理自身の力で存在しようとしているのだ。
此の次元の在り方を壊して、自分の居場所を創ろうとしている。
其は本来あってはいけない事だ。明らかに此の世界に対する干渉だ。
全く・・・背のポンコツを取って直ぐにこんな派手な事をするとは。
恐らく今迄の此奴であれば、斯うなる前に彼のポンコツが魔力を操作して殺していた筈。
力を暴走させる位なら止まる。然う言う風に制御していただろう。
だが其の制御が無い今、奴の力は暴れに暴れている。
・・・恐らく、自分でも斯うなるとは思わなかっただろう。
慣れていない内に力を使い過ぎた。此が其の成れの果てだ。
自業自得と言うのは容易だが、此の儘奴が真の姿と成って暴れるのは危険を伴う。
先ず、此の次元は滅びるだろう。壊されてしまうのは時間の問題だ。
此奴の本質は破壊、自意識も曖昧な今では、只破壊の限りを尽くす丈だろう。
然うなれば、恐らく此奴は次元と共に滅ぶ・・・然う、思うのだが。
只、今迄の此奴を見る限り、其の断定は難しい気がしてならなかった。
此奴は鏡界を行き来なんて出来てしまう、魔力と話すなんて意味不明な事をやって退ける奴だ。
だから下手したら黔日夢の次元の再来なんてのを起こし兼ねないんじゃないかと思えなくもない。
未知であるのは恐ろしい、絶対を言える物が此奴には何もない。
若し今此奴を見捨ててそんな事態を招いてしまったら・・・我は如何すれば良い。
其の恐怖が我を焦らせる。丗を傷付け兼ねない可能性に知らず震える。
止めないといけない、此奴を。でも其処で別の問題も出て来てしまう。
其は、如何此奴を止めるかだ。
取り敢えず幾つか術をぶつけてみる。怯んではいるので全く効いていない訳ではないだろうが。
でも未だ変化自体は止まっていない、蠢いている。
今此処で奴を殺せば、次元の迫間へ戻るだろう。通常の神であれば・・・然うなる筈だ。
だが此奴は前に、余りにも高過ぎる干渉力の所為で次元の迫間へ戻っても怪我等の状態は引き継がれてしまっていた。
魂と魄で異なると言うのに、其すらリンクさせて作用していた。
となれば、此処で殺したとて次元の迫間で真の姿に成ってしまう可能性も出て来てしまう。
然うなってしまっては、甚大な被害は免れない。破滅を呼び起こしてしまう。
であればもう一方の手段が浮かび上がる・・・相殺だ。
奴の暴走している干渉力を、全て無くしてしまえば良い。然うすれば真の姿に成らず、事態を収拾出来るかも知れない。
でもそんな力如何やって、今ざっと見ている限りだと下手したら封印されている我と同等か、其以上の可能性がある。
そんな力を出して加減や調整を出来る筈もない。
加えて其でも御せなかった時は・・・。
考えていると手が止まりそうになる。何とか奴へ意識を傾けた。
兎に角今は少しでも力を抑えたいが・・・。
不意に視界の端で皓い曦が迸った。
・・・如何やら、やっと彼奴も動く様になったらしい。
セレを止める、セレを止めるには・・・殺さないといけない。
少しずつ意識して集中して、ガルダはじっと彼女を見据えた。
ゆるゆると其の影は大きくなり、島の上旻を陣取る形になる。
其の姿はどんどん伸びて、まるで蛇の様に見えなくもなかった。
形も得ているという事は、真の姿に近付きつつあるのかも知れない。
前世の最後でセレが変化した彼の龍の様な姿に何処となく似ている気がした。
セレに術を放つなんて・・・震えてしまう背を何とか堪える。・・・其でもやらないと。
羽搏き、少しでも彼女に近付いて意識を集中させる。丗闇がずっとそんな彼女の傍で懸命に抑えようとしているのが見えた。俺も何かやらないと。
―・・・手前何してんだ。―
突然掛けられた声についドキリとしてしまう。
今のは・・・セ、丗曦か、
起きていた、いや見ていたのか。どうせ興味もなく只傍観していたんだとは思うけれど。
―・・・彼は些と不味いんじゃないか。―
「っ・・・。」
丗曦もはっきり然う思ったのか、今のセレの状態は良くないと。
―蘞い姿だ。干渉力が暴走してやがるな。彼は相当苦しいぞ。―
「・・・だから御前もセレを殺せってか。」
―あ?放っていたら真の姿に成っちまうぞ。手前は其で満足かよ。―
そんな訳ない。俺はセレを助けたいんだ。
今のセレは苦しんでいるって・・・。そんなの可哀相じゃないか。
だから殺すって、殺して解放させるって・・・。
「そんなの、望んでる訳ないだろ。俺だってセレを止めたい。」
―ハッ、じゃあ彼奴を殺せる力位は貸してやるよ。―
途端ガルダを中心に凄まじい魔力が溢れ出た。
そして其自体が意思を持った様に術を構成し、セレに向け放たれる。
思わず大き過ぎる力の放流に丗闇も顔を上げた。そして力の出所がガルダと分かり、眉を寄せる。
気付いたのかも知れない。此の力の正体に。
まるで流星の様に輝いて術はセレを取り囲む。
彼は光だ。激しい、もう陽光なんて通り過ぎた力が流れている。
「ッギャァアアアアアァアア‼」
途端鋭い悲鳴が旻に響き渡った。
胸が締め付けられる、セレが、セレが苦しんでいるんだ。
光は彼女にとって毒だ、天敵だ。大きく躯が欠けて激しくのたうち始めた。
「セレッ・・・。」
聞いている丈で此方も死にそうだ・・・罪悪感が肌を刺す。
もう其の表情もはっきりとは分からないけれども、闇を垂れ流して旻へ吼えている様は明らかに苦痛を訴えていた。
―へぇ、此でも死なねぇか。前は此で十分だったのに。―
鼻を鳴らして、いっそ喜んでいる風に聞こえる其の声に、俺は怒りを覚える。
何が楽しい、何が面白いんだ。セレは・・・セレは、
丗曦の一撃は可也効いたらしく、セレは大きく歪に歪んだ姿へ変わってしまった。
あんな姿を見ちゃあ、二の足を踏んでしまう。此以上追い打ちを掛けるなんて。
「今のは彼奴の力か。」
丗闇も翼を広げ、俺に並んだ。彼女も一度様子を見る事にしたらしい。
「あ、噫・・・でもこんな。」
「癪だが、彼奴には有効らしいな。」
―じゃあ何ぼさっとしてんだよ。さっさと殺せば良いだろうが。―
僅かに目を見開き、丗闇はまじまじとガルダを見遣ると直ぐ何時もの渋面に戻った。
いや、何時もより大分悪意が籠って然うな・・・。
前殺し合った仲である。暴言ではあれど、声を掛けて来た事に驚いてしまったのだろう。
「随分乱暴なやり方だ。確かに我も殺せと言ったが、だが・・・。」
迷っている。明らかに彼女の目は揺れていた。
丗闇が躊躇うなんて、と僅かに其の表情がガルダの中で引っ掛かる。
「丗闇、何かあったのか?」
「・・・殺した所で、次元の迫間でもああ成らないとは限らない。我は其を危惧しているのだ。」
「其って、何も解決してないじゃないか!」
でも確かに前セレが小さな獣に成ってしまった時も、次元の迫間へ戻った所で治らなかった。
力が暴走した儘死ねば、生き返った形になる丈で、同じ事を繰り返してしまうかも知れない。
―じゃあ手遅れってか?何もしてねぇ奴等に好き勝手言われたかぁねぇな。―
「そんな・・・丗闇、何か、何かセレを助ける方法は、」
不意に視線を感じた。恐らく此は・・・。
前方から感じる其は矢張りセレの物らしく、蠢いていた触手達が此方を見ている様だった。
先の惨状を思い出し身構えるも・・・けれども、触手は揺れる丈で近寄っては来なかった。
警戒している・・・?其とも此は、
考えていると触手は縦に広げられた口を目一杯広げた。
うっかり引っ繰り返ってしまいそうな程広げられた其処から音、声が漏れる。
「ギ、ギャァア、ド・・・シ、テ、「イタ・・・イ、ギ、ギィ・・・「コワ、ギャ、コワサ・・・ギ「イヤ、トマラ・・・ヴゥ゛ゥウッ。」
何重もの音が重なって聞き取り難い。でも只の吼え声にしては意思を感じた。
訴えている、姿が変わりつつもセレは確かに居て。痛くて苦しくて俺に何かを。
セレは、未だ俺を理解しているんだ。だから手を出さない。其なのに俺は、やらないといけないのか。
「・・・まさか未だ意識が残っているのか。」
丗闇は軽く手を組み、じっと触手の先を見ていた。
けれど大人しくなった様に見えるのは此の辺りにある物丈で、他の翼や闇は手当たり次第に伸ばされては暴れている。
もう自分達の居た島は可也崩されてしまった。此の儘暴れられたら次元の主導者の居る所迄被害が広がってしまう。
でも意識が残っているのなら・・・何らかの手段は取れないか。
時間がない、手段を選んではいられないのに。
其でも未だ此奴が真の姿に成り切っていないのは自制をしているからか、何とか留めようとはしているのかも知れない。
然うしていると不意に何本かの触手がガルダ目掛けて飛び込んで来た。
既の所で二柱はばらばらに飛び分かれる。怪我はないが、空振った触手は又ガルダに向け飛び掛かって来た。
明らかに自分丈狙われている。如何して、
数は多いけれども一直線なので避けるのは容易だ。でもしつこく触手は自分を追って来る。
―もう意識なんてねぇんじゃないのか?早くしねぇと手前が死ぬぞ!―
「っでも・・・。」
「いや、若しかしたら此は意識があるからこそかも知れない。」
念の為構えてはいるが、丗闇の方へ触手が来る様子はない。意図的に彼奴を狙っている。
何となく此奴の狙いは分かる。散々見て来たからな。
「丗闇、如何言う事なんだっ⁉」
幾ら飛んでも触手は追って来る。所かどんどん数を増やしている様だ。
翼から散る羽根も、血も全てが渦を巻いて俺を囲おうとしている様な。
「恐らく、御前の其の生命力や信仰心に惹かれている。・・・御前を喰らえば抑えられると考えているんだろう。」
「俺を、喰えば・・・。」
然うか、確かにセレの魔力が荒れている時は何時もより激しく食べられていたけれども。
今も、其は有効なのだろうか。
彼女の意識を戻す為に、俺の力が使えるのか。
―まさか手前、態と喰われようだなんて考えちゃいねぇだろうな。吾は反対だぞ!あんな化物に喰われるなんざ。―
「我も喰わせてやるの自体は反対だな。」
近寄る触手を幾らか遠ざける。だが手を出した所で触手は彼奴のみを狙い続けていた。
「如何して・・・、俺なら直ぐ再生出来るし。」
「此奴を戻すにはそんな生半可な量では済まないだろう。其こそ喰い尽くされるぞ。加えて今の此奴に殺されたら恐らく、存在毎全て失う。」
「其って・・・本当の死って事か・・・?」
―もう次元の迫間にも戻れねぇってんだろ。吾が居るのに早死にする訳には行かねぇだろうが。―
存在を喰い潰される。然うか、セレの欠けた所が正に其だから・・・。
喰われたら・・・本当に終わってしまう。セレは助かるかも知れないけれど、俺は。
「・・・一応、未だ試していない手はある。」
丗闇の辺りを闇が覆い、近付く触手を撥ね除けた。
此奴は、只彼奴を殺す事しか考えていない。殆ど本能に近い状態だ。
此位なら去なせる。只抑え込むのが難しい丈で。
「其って何だ丗闇。」
丗闇が蹴散らしてくれた御蔭で俺を取り囲もうとしていた触手は撥ね除けられる。
一息付いているとじっと見詰める丗闇の目と搗ち合った。
「彼奴に意思があり、御前も未だ其の信仰心を失っていない。其を加味しても良いと考えるならだが。」
幾らか言い淀むのは未だ煮え切らないからか、一つ首を振って丗闇は続けた。
「御前の有りっ丈の生命力を奴にぶつけろ。殺すのでも、喰われるのでもなく、相殺だ。彼奴の干渉力全てを御前の生命力で受け止めろ。」
「相殺・・・其が出来たらセレは戻るのか?」
「飽く迄可能性の話だ。力さえなくなれば後は彼奴自身の力で抑え込めるかも知れない。其でも加減も難しい賭けの話だ。」
―おいまさかマジで其を考えてんのか?此奴にそんな力があると思ってんのかよ。彼の干渉力は尋常じゃねぇだろ。―
「頭の固い狗の戯れ等無視しろ。御前がやるか如何かだ。試すと言うなら我も手位は貸してやる。」
―だ、誰が狗だ手前、死にてぇのか!―
丗曦ががなるのを目を眇めて丗闇は聞き流す。
丗闇なりに真剣に考えての選択なんだろう。こんな確証もない手段、本当は選びたくもないが。
未だ彼奴は踠いているのだと言う意思は感じた。其を蔑ろにして迄彼の道を選べなかった。
「・・・やるよ。勿論。俺に出来る事なら!」
―マ、マジか・・・。此奴迄暴走しても知らねぇぞ・・・。―
「然うなったら二柱纏めて殺す。其丈だ。」
勢い込んで丗闇に詰め寄ると、一つ彼女は頷いた。目は鋭い儘だけれども、しっかりと俺を見据えて。
「ではさっさと力を解放しろ。何時もみたいな中途半端ではなく、全て使う気でいろ。幸い彼奴の力は先の一撃で多少は弱まっている。無理な話ではない筈だ。」
「・・・分かった。相殺、だよな。」
「然うだ。殺そうとするんじゃない。力をぶつけ、奴の干渉力を抑え込め。死に掛けてはいるだろうから奴自体にダメージは与えるな。」
力の全てを、果たしてそんな事をして俺の理性が持つのか。
自信は無くてもやらなきゃ、セレを殺す事なんて出来ない。俺を喰わせる事も同じく。
知っている、俺が死んだ後セレが如何なったか、前世で犯してしまった過ちを。
彼女が壊れたのは俺の所為、中途半端な神に成ったのも、黔日夢の次元が起きたのも。
全て、俺は繋がってしまう。だから俺は此の手を切ってはいけない。
二柱で戻らないといけないんだ。自己犠牲なんて簡単な道を選んじゃいけない。
大きく息を吸って、自分に集中する。
生命力を解放する。全て解き放つ。
・・・やっと、此の窮屈な躯に慣れて来たのに。
でも大丈夫、セレの声がするから。痛がっている、辛いと踠いているなら。
俺が助けられるなら、そんな嬉しい事はないのだから。
吐く息が熱くなり、牙が伸びて口を閉じていられなくなる。鼻が伸びて硬質化する。鋭く尖って鋒は曲がる。骨が音を立てて伸び、耐え切れなくなった腱が切れた傍から再生してより強靭となる。内臓が吐きそうな程熱くなる。其処から全身へ血が巡る、熱く滾った焔が荒れ狂う。其が流れる度に俺の姿は形を変えて行く。肩が盛り上がり、翼の羽根は全て生え変わる。髪が伸びて皓くなり、鬣の様に背に沿う。そして尾迄伸びて緩り棚引く。其処から尾羽の様に広がって曦を発する。目の作りが変わって景色が歪む。見えていなかった筈の魔力の形を捉え、鋭く視線が追う。全身に皓い毛か羽毛が生え揃って行く。早々に服は裂けたが、代わりに其に覆われる。手足も伸びて肥大化して行く。指の形が変わり、爪が伸びて自然と尖って行く。
あ・・・あ。俺が、俺でなくなる様な・・・。
姿丈じゃない、内側を巡る命の焔は俺と言う形すら変質させようとする。
全て全て皓く塗り替えて。
生命力は、命の暴力だ。
自分を生かす為に全力をぶつけるなら、他者は全て敵となる。己丈を信じて全て取り込まねば止まれない。
然うやって生存し続ける生命の業其の物なんだ。
そんな暴力的な命の声に包まれる。何の為か、意志も、自由も目的も全て其処へ集約されてしまう。
いけない、此に呑まれちゃあ・・・俺は、セレを助けられない。
俺自身も暴走する訳には、全ての鎖を引き千斬って暴れる獣と化してはいけない。
此の無限の生命力は其の為にある物じゃあない筈だ。
「キャオォオオォオッ‼」
何とか命の奔流から逃れようと吼える。
もう其の高く響く声は神の其じゃない。只懐いの儘に叫ぶ丈。
未だだ、未だ呑まれる訳には。此の力でセレの干渉力を止めなきゃ俺達は、
頭の端が痺れて来る。重く伸し掛かり、石になって行く様な。
止まるな、理性を手放すな。其の為に俺は、力を使うんじゃなくて。
只目の前で痛みにのたうつセレを見る。彼女に丈集中し、意識を・・・。
―・・・大丈夫よ、貴方なら。―
何処からか声がした。こんな理性と本能が綯い交ぜになった皓の世界で声が。
噫懐かしい。如何して其の声が今、俺の中からする。
―だって貴方には私の・・・、―
然うだ。忘れた訳じゃない。ちゃんと俺は憶えている。
彼女の事を、憶えている。だから大丈夫、其の声に俺は従う。
一気に頭の中がクリアになる。旻の様に透けて、息が楽になる。
・・・動かせる。自分の力を、躯を知覚する。
其の羽根一枚一枚迄繊細に。全て自分の物に。
巨大な皓の化生と成り果てたガルダはセレに向け飛び掛かった。
大きな闇と化し、只広がり続ける其へ突き進む。
「・・・っまさかあんな力を持っていたとは。」
思わず丗闇は自分の躯を抱く様にして、目を奪われていた。
彼奴には確かに特異な、異常とも取れる再生力を有しているとは思っていた。
でも此程か。まるで真の姿と相違ない様な。
てっきり並外れた光の魔力を有している故の影響かと思ったが違う。此は明らかに別の何かだ。
旻が震え、魔力が此の空間に満ち過ぎて荒れているのだ。
光と闇の正面からのぶつかり合い。下手すれば無を生み出し、全て消し去ってしまう様な有様だ。
でも奴は的確に漂う無駄な干渉力を其の生命力で包んで行った。
力としてのぶつけ合いではなく、全てを受け止める様に。
彼の姿は何だろうか。龍の様な、鳥の様な。少なくとも彼の人の姿とは違う異形の物。
「ヒュオォオォオオ‼」
応える様に、闇と化しつつあったセレが吼えた。
其の姿は少しずつ形を取りつつあった。蛇の様な、細長い胴が浮かび上がり、触手も纏まって行く。
恐らくガルダの強大な生命力を感じ取ったのだろう。まるで迎撃する様にうねり、集まる。
然うして象られた闇の形は、彼の前世の最後に変化した化物の姿と何処となく似ている気がした。
若しかしたら本質的に彼の姿と真の姿が似ているのかも知れない。牙も爪も朧げ乍らも浮かび上がる。
もう彼女の暴走に巻き込まれた島は無残にも壊されていた。彼の様子では島に僅かに残っていた神共も駆逐されてしまっただろう。
然うして広がり続ける闇の中心へ、皓い翼は飛び込む。
「・・・っぐぅ、先から何が起きてるんだ。」
仲間達を引き連れて蕾は息を付き、人身へ戻った。
肩で大きく息を吸う。もう十分島中は廻った。残党は居ないだろうけれども。
旻を見上げて知らず喉がひくつく。
旻には何時の間にか巨大な闇が広がっていた。彼が一体何か分からない。でも僅かに過る物がある様な。
仲間の獅子達も其の旻を見て不安そうに鳴き交わす。そんな彼等の背を軽く叩く。
闇の中に見え隠れするのは異形の姿。若しかして彼は生物なのだろうか。
こんなに離れていても肌を刺す気配、彼は良くない物だと頭の中で警鐘が鳴り響く。
「俺・・・何処かで彼、見た様な・・・。」
僅かに頭痛を覚えて頭を押さえる。然う彼奴等に捕まる前、此の島がもっと大きくて一つの島だった時に。
然うだ。其の時もあんな風に旻が冥くなって、現れた何かが、島をバラバラにしたんだ。
其の光景を懐い出して震えてしまう。彼の時は、只、見ている事しか出来なかったんだ。
そして今も・・・矢張り恐ろしい。
彼は逆らって如何にかなる物じゃない。もっと大きくて、抗い難い存在。
「・・・彼奴等、何かやったのか?あ、後ガルダ達は、」
旻と言ったらガルダとセレ、二柱が見てくれていた筈。二柱は無事だろうか。
逸る気持を抑えて視線をうろうろ動かしていると突如、旻の一点が輝いた。
闇に呑まれそうな中で煌々と輝く一点が。
序で其の輝きは爆発した。瞬きの間に大きくなり、あっと言う間に闇を押し返して行く。
一体何が起こっているのか、震える大気に怯みつつ、蕾は見続けていた。
集まって来た獅子達を抱いて、じっと旻を。
眩しくて見られた物じゃないが、でも良く良く見ると其の皓い輝きは一体の獣の様に見えなくもなかった。
巨大な翼を持った、鳥の様な、でも四足の皓き獣。
其の偉大な翼を前に、蕾はすっかり見惚れてしまった。恐ろしくも美しいと思う雄姿だった。
「・・・若しかして、ガルダ・・・?」
痺れた頭の儘、茫然と呟く。まるで彼の翼が自分を旻へ導いた其に似ていて。
皓い翼は闇を其の羽搏きで遠ざけていた。そして其の中心へと怯みもせず飛び込んで行く。
でも其の巨大な翼も次第に黔く変色し、砕け散って行った。
羽根一枚一枚が朽ちて行く様に。小さくなりつつある闇と一緒に。
居ても立ってもいられず、蕾は直ぐ様獅子の姿へと戻った。仲間達が彼を見詰め、指示を待つ。
そんな中、蕾は旻に向け、大きく長く遠吠えをした。彼へ届く様に四肢でしっかりと踏ん張って。
其の様を見て仲間達も直ぐ様同じ様に吼える。獅子達の合唱は大地を、島を震わせた。
然うして徐々に視界は曦と闇に全て包まれる。ぶつかり合った二つの影は小さくなり乍らも四方へ其の欠片を散らした。
もう目なんて開けていられず、ギュッと蕾は閉じてしまう。其の中で凱風の音丈が鳴り続けていた。
でも其は不意に止まり、そろそろと蕾は目を開けた。
すると・・・旻は何時もの蒼を取り戻していた。
まるで先迄の光景が全て夢だったみたいに静かで、当たり前の旻だ。
「お・・・終わったのか?」
呆然と息を付く。すると隣に居た獅子が高らかに一つ吼えるのだった。
・・・・・
「・・・・・。」
何も居なくなった澄み渡った旻の中で、じっと丗闇は目を中旻に向け凝らしていた。
おかしい、二つの力がぶつかり合い、互いが喰い潰す様にして混ざったと思ったら。
綺麗に力は消え失せた。其で全て整ったと思ったのだが。
二柱の姿が見当たらず、丗闇は腕を組んで考えていた。
まさか力の衝撃に耐え切れず吹き飛んだか?一緒に死滅してしまったのだろうか。
余波の事は頭から抜けていた・・・。力さえ失えば取り敢えずの問題は片せたと思ったのに。
死んだとなれば次元の迫間に戻っただろうが、一応真の姿に成り切った訳じゃない。力も抑え込めた様に思えたから成功はしたと思うが。
・・・少し戻り難い。斯うすれば元に戻ると彼奴に言ってしまった手前、此の結果だと。
一応可能性があると言った程度だ。でも妙な痼が残ってしまう。
・・・いや待て、死んで次元の迫間に戻ったなら、此処に我が残っているのはおかしくないか?
封印されている彼奴から然う離れる事は出来ない。一応次元を跨ぐ位なら出来なくもないかも知れないが、でも其の際は負荷が掛かる筈。
でも今は其を感じない・・・何故だ。
何となく嫌な予感が頭を掠め、彼女の渋面が酷くなる。
まさか・・・本当に死んだか?其で次元の迫間にも戻らず、我の封印が解けたとしたら。
・・・不味い、回収した力を奴に戻して存在を保たせようとした矢先が此では。
我の言葉を信じて彼奴も力を使ったと言うのに、其がこんな様だったら何て・・・。
―おい呆け神!ぼさっとしてる暇あったら来い!―
途端彼女の目が見る者の心臓を握り潰しそうな程冷たくなる。
聞きたくない声だ。如何して彼奴丈残っている。
此の声は彼の巫山戯た光の神の物だろう。でも一体何処から。
テレパシーを辿ると彼の二柱が衝突したであろう地点へ注がれる。
そして良く目を凝らすと・・・何か、見えた様な。
其が何か察し、急ぎ丗闇は翼を翻して一気に羽搏いた。
然うして手を伸ばし、其を手にする。うっかり握り潰さない様慎重に手に乗せる。
「・・・ま、まさか。」
僅かに目を見開いて口を開けてしまう。そんな彼女の手の中で小さな獣が二匹転がっていたのだ。
其は丁度黔と皓の、少し似た様な四足の獣で、特に其の黔い方の毛玉に丗闇は見覚えがあった。
・・・然う、前彼奴が力を使い過ぎた際に変化した姿だ。力が足りなくなったから所謂省エネ状態として彼の時は成っていたが。
然うか。先出していた力を全て奪ってしまったが為に、又此奴は自分を支える事も出来なくなり、此の様な畜生に成ってしまったのか。
幾ら暴走させたからって、自身の存在を保つ位は残して欲しい物だが、そんな余裕もなかったのだろう。有る丈使うのが此奴の常だ。
加えて今は彼のポンコツも居ないから全て全て、有りっ丈の力を使って・・・。
何て情けない。大きく溜息を付くが仕方ない。一応事態は収まったのだから重畳と言わざるを得ないのだろう。
一応放って置けば元の姿に戻れるし・・・此は辛抱か。
そして問題なのは・・・もう一方で。
見たくないと許りに目を薄めるが現実は如何仕様もない。受け止めないといけないのだ。
もう一匹の皓い獣は大きさはもう一方と同じ位の全長3㎝程で、全身真皓な毛に覆われていた。
翼の様な形をした耳と、其より小さい本物の翼が背に備わっている。
尾に沿う様にベールの様な物が二本棚引いており、胸元は豊かな毛に覆われていた。
くりくりとした大きな目をし座り込んではいるが、如何も其の前足を見るに、此方は後ろ足のみの二足で歩く様だ。
二匹共きょとんとして丗闇の顔を見詰める。こんな渋面で睨み付けても怯む様子もない。
まるでペアの様な二匹だが、つまりは此の皓いのは・・・。
―はぁ、全く。手前の所為でこんな形にされちまったんだからさっさと助けろよ。落ちる所だっただろうが。―
「別に御前が先に気付いたなら御前が助ければ良かっただろうが。」
テレパシー丈届いて来るが、如何やら彼奴は曦になって我の近くを漂っているらしい。
此奴に指示されるのは癪だ。其に別に我の所為と言う訳ではない。力を使い果たした此奴の所為なのだ。
然う、此の皓い獣は十中八九彼の男なのだろう。本当の全力を出し切ったか、生命力が底を突いてこんな姿に成り果ててしまった様だ。
其にしてもまさかこんな畜生に成り果てるとは、せめて人身に成るのかと思いきや。
真の姿ではない様なので一先ず問題はないだろう。此方も何れは戻る筈だ。
然うと決まれば面倒だが我が此奴等を連れて次元の迫間へ戻れば良いんだろうが・・・。
考えを巡らせていると何処からか遠吠えが一つ聞えた。
其は眼下の島。其の蕭森の中に黔々とした群が見える。
・・・流石に彼奴等を無視して帰る訳には行かないか。
本当に面倒臭い、何故我が次元に関わらないといけない。此奴等の世話をしないといけないんだ。
悪態を幾ら吐こうが仕方ない、どうせ我の傍で漂う此の曦は木偶坊だ。役に立つとは思えない。
大きく溜息を付いて丗闇は獅子の群へ向け降下した。
「あ、セレ・・・あれ、若しかして違うのかな・・・?」
降りて来る影に蕾は手を振るが、鼻が違和感を訴える。
此の匂、其に気配は何か違う様な、彼女は一体誰なのだろうか。
目付きは鋭く、髪だとか服もセレとは違う。何か怒らせてしまったのかとつい震えそうになる。
知らずさっと近くの獅子の背を掴んだ蕾の前へ丗闇は降り立った。
そんな彼女の手は不自然に前へ出してあるが、見ると小さな毛玉が二つ転がっている。
そして何故か其の毛玉から嗅ぎ覚えのある匂がしたのだ。
「あれ、も、若しかして此方がセレとガルダ・・・?」
「・・・然うだ。力を使い過ぎてこんな姿に成り果ててしまった。」
溜息を付く彼女を他所に、二匹はコロコロと手の中で自由に過ごしている。
「え、えぇ!二柱共こんな変身出来ちゃうんだ・・・。」
其にしても此は・・・何とも愛らしい姿に知らず目元が和んでしまう。隣に居た獅子も、彼等の姿を認めて母性でも擽られたのかペロリと一舐めした。
「其で・・・その、貴方は誰なの?」
何か一つ聞く丈でも怯えてしまう。何だか此の神に逆らっちゃいけない気がする。機嫌を損ねない様にしないと。
只蕾の質問に酷く彼女は面倒臭そうな顔をした。そして何度か言い淀んでしまう。
「・・・此奴の・・・姉だ。」
「あ、セレの御姉さんなのか。道理で!」
だからこんなに似ていたんだ。何時合流したのかは分からないけれど、然うだったら安心だ。
何故か彼女はより苦い顏をしているけれども・・・変な事は言っていない筈・・・。
兎にも角にも二柱が心配だ。まさかこんな小さく成ってしまうなんて。
「先は何が、あ、彼奴等はもう居ないよな?」
「・・・噫、最後の最後で随分抵抗されたが、もう一柱も残っていない筈だ。」
「よ、良かった・・・。」
じゃあ先の彼は彼奴等の攻撃だったんだ・・・。其を屹度二柱は全力で止めてくれたんだ。
「有難うガルダ、セレ。すっかり助かっちゃったな。」
声を掛けるも二匹は首を傾げて小さく鳴く丈だった。
「今の此奴等は知能が終わっている。話す丈無駄だ。」
「そ、然うなんだ・・・。その、大丈夫だよな?戻るよな?」
「噫暫くすれば戻る。問題ない。」
ほっと息を付く。其なら・・・良かった。
「其だったら戻る迄俺等の村に来てくれよ。せめて御礼をしたいんだ。」
「・・・いや、我等は行かないといけない所がある。あんな暴れたんだ。直ぐ発たないと。」
幾らか悩んで彼女は口を開く。
ずっと渋面だけど・・・皴とか大丈夫かな。
「行く所って、そんな直ぐか?そりゃ無理には止めないけど。」
「直ぐにだ。此奴等を元に戻すのにも必要な事だからな。」
「そっか・・・分かった。あ、じゃあ言伝、言伝丈頼むよ!」
今にも彼女が去りそうな雰囲気だったので慌てて蕾は呼び止める。
途端非常に面倒臭そうな目を向けられるが、一つ頷いて足を止めた。
「・・・仕方ないか。何だ言ってみろ。」
口調や雰囲気はおっかないけれども、律儀ではあるのかしっかり聞く気はあるらしい。
少し頭の中で整理しつつも、蕾は緩りと口を開いた。
「その、俺の記憶の事とかガルダ達心配してくれたからさ。ちゃんと言って置かなきゃと思って。俺・・・元々此処で仲間達と棲んでたんだ。只先みたいに大きな影が急に現れてさ。島もバラバラになっちゃって、如何しようか皆で話していたら彼奴等に襲われたんだ。」
「其で、捕まっていたと。」
一応外の情報はある程度丗闇も聞いていた。セレが勝手な事をしない様に聞き流す程度だったが。
然う言った話なら聞かないといけないだろう。改めて説明してやるのも面倒だが、此の次元へ又戻るのは厳しい。そんな二度手間を踏ませる位なら。
「噫、今思えば、俺が此の姿に変身出来るのが珍しいからってさ。俺丈捕まったんだ。其の時変な薬打たれて・・・多分彼で記憶が混乱してたんだよ。」
「自分が人間だと思っていたと言う訳か。」
淡々と丗闇は返すが、御蔭で蕾も話が整理出来て来た様だ。勢い込む様に頷いて続ける。
「噫然う、俺が目覚めた時記憶も無いから吃驚しちゃって、其で暴れたら獅子になんて成ったからてっきり何かされたのかと・・・。」
足元に居た子供であろう獅子が無邪気に一つ鳴く。其へ蕾も頷き返した。
「実は俺丈変わっていてさ。皆の話だと偶に俺みたいに此方の姿に変身出来るのが生まれるんだよ。で、其奴が村のリーダーになる仕来りでさ・・・。」
「成程、現人神の類か。獅子神の生まれ変りと言う奴か。」
似た伝承は色んな次元に残っている。異形へ変化出来る者は、神と通ずると言われているのだ。
此は神の真の姿になぞらえているのかは定かではないが、別段珍しい伝承でもない。
と言う事は此奴の言う村と言うのも、獅子の群を指すのだろう。無事在る可き所へ帰ったと言う訳だ。
今の話であれば、クルスティード尖塔の者が此奴を攫おうとしたのも理解出来る。そんな珍しい存在なら次元の迫間へ連れ帰り、残そうと思ったのだろう。
・・・干渉し過ぎである点は容認出来ないが・・・現に今此の次元は安定している。此の儘にして置いた方が丗にとっても良いだろう。
「へぇ、姉さん詳しいんだな・・・。でも然うなんだ。俺が皆を引っ張ってやらなきゃ、だから俺も頑張るよ!」
「・・・言伝は其位か。」
「うん・・・。頼んだよ。其と何時でも来てくれて良いからさ。歓迎するよ。俺一人じゃ如何仕様もなかったから・・・有難う。」
屈託なく咲う蕾に丗闇は背を向けた。もう十分だろう、さっさと帰って此からの事を考えないと。
羽搏くとふわりと丗闇の躯が浮かぶ。手の中の二匹はバランスを崩して転がっていた。
余りにもひ弱な其の姿に何度目か分からない溜息を付く。
背後に獅子達の見送る遠吠えを受け乍ら、丗闇の姿は掻き消えて行った。
・・・・・
虚空の闇に吼える獣は応う声を聞く
ならば再度吼えよう、此処迄導かんと
目が見えずとも声を聞け、足が震えても前を向け
声は次第に集うだろう、一つの猛る焔となりて
其の獣は、己が影と知れ
御疲れ様でした!屹度伝わったと思います、自分の趣味に特化したシチュエーションが!
最近何となく首飛ばすの好きになってるんですよね(危険思想&衝撃発言)。
前は一寸苦手~とか言っていた気がしますが、いやはや趣味とかも変わる物ですなぁ。
例のガルダが崖にぶら下がっていて、上からセレの首が落ちちゃうの、やってみたかったんですよ!
彼は何の時だろう…不図其の構図が沸いて、凄くぞわっと来て慌ててメモを取ったのをずっと温めていた訳ですな!
加えて化物化、うん、然う言う変化大好きよ!
と言う事で新年一発テンション爆発で書いていました、良い思いしました。
次も実は書けています、超短編だったので!(だから校正を急がせた訳だけれども。)
多分又来週に出せると思うので近い内に会えるかも知れませんね。
其では御縁がありましたら!




