66次元 無限の旻へ響く遠吠えよ翼を抱きし次元Ⅰ
今日は、御元気にされていたでしょうか…?
今回はモリモリ書いていたのに又校正を暫くさぼっちゃって、気付いたら結構溜まっていたのでゲームの合間に校正を何とか終わらせた次第です。
然もまさかの七万文字越え、吃驚、今読み返してもそんなに長い感じしないのに…?
何方かと言うとルビが多過ぎて超えているのかなって感じですね、本の一寸超えちゃいました、テヘ。
でも今回は兼ねてより書きたかったシーンが盛り込めたので結構満足。五年以上温めたネタですね。けれどもシチュエーション的に実現出来なくて難産でした。
然うは言っても割と何でもありな世界なので、シチュエーション位神の手でちょちょいのちょいですよ。と言う事でついに実現!ヤッタゼ!
と言う事で趣味モリモリな今回も御楽しみに!…あ、因みに例のシチュエーションは後編ですので悪しからず。
彼の吼えている獣は何者か
焔の様に駆け、嵐の様に荒れ狂う
獣は吼える、虚空の闇に
其は導く為か、虚勢故か、求めているのか
其の答えは獣のみが抱える物
・・・・・
「ま、待ってくれBDE‐01、今何て言ったんだ・・・?」
―ですから、アイはマスターから出て行きマス。―
「・・・っ⁉」
余りの衝撃に開いた口が塞がらないと許りにセレは声も出せなくなる。
理解出来ない、何故だ。本当に何故⁉
「えと・・・BDE‐01、其が一体何を意味するかは勿論、」
―愚かデスネマスター。だから出て行くんデスガ。―
「そんな、見捨てないでくれ頼む‼」
セレがBDE‐01へ飛び付くが、ホログラムなのであっさり透過する。虚しく彼女は床へ激突した。
余りの痛みに鼻を押さえる・・・鼻血は出ていないよな?
「セレ、何してるの?」
―発作デスヨ。無様デスネ。―
「行き成り死ねって言われたら発作も起こるぞ!」
此処はセレの部屋、本来なら最も安らげるであろう其処で、彼女は死の宣告をされていた。
Z1-Θが部屋に遊びに来たら行き成りBDE‐01も出て来たのである。珍しい事もあるんだなぁと思ったら・・・。
出て来るなり自分の生命維持装置を切るとか言って来た、そんなの笑えないから!
「何で急にそんな事を言い出したんだ。せめて順序を話してくれないか。」
セレの目の前でツンと彼女は澄ましている。辺りを飛び交う機械達が何やら音を立てた。
今更乍らホログラムって凄い、波紋でもしっかり彼女が居る様に写るのだから。
てっきり又背の本体が不調でも起こしたのかと身構えたら、余である。
―ハァ、マスターは口で言わないといけないから面倒デスネ。―
「僕はテレパシーで聞いたけどね。」
「何でZ1-Θに話して私に話してくれないんだ。」
そんなに信用無いか。一応自分宿主なんだけど。
自分の為に在れ、とは言わないけど、もう少し仲良くはして欲しい。
―仕方ないデスネ。アイはずっと見て来マシタ、マスター達の事を。そして此の最新機器であるZ1-Θの事を。―
・・・ん?何か引っ掛かる言い方をした気がするが、まぁ今は目を瞑ろうか。
―デスガ、此の子は余りにも幼いデス。其の力を発揮出来ているとは思えまセン。―
「まぁ私も、もっとZ1-Θは勁くなれると思うが。」
「然う?ヤッタ。」
実際初見の卵は勁かったからな・・・割と全力で殺しに来た。
今の彼も少し其の片鱗は覗かせるが、未だ経験は浅い。
プログラムで動いていた彼の時よりも、思考で動く今の彼が上回ったら凄いと思うが。
でも其が今の問題と如何関係するんだ?
―デスノデ、アイが教育を施す事にシマシタ!―
「宜しくね!」
「待て待て待て待てっ‼」
もっとじっくり聞こうとしたよ?でも無理だって。
分かる、言っている事は理解出来る。でも結論に直結しないんだよ。
如何しよう疲れる。BDE‐01と話す時は何時も体力を使うな、何だろう此。
「待ってくれ。分かる、分かってるんだ。私も良い案だとは思うぞ。BDE‐01が教えてくれたら。でも、」
―デハマスターの了解も得たので早速、―
「待て待て早まるな!抑私を殺すな!嫌だ、未だ死にたくない!」
―ほぅ、御前にしては中々ポジティブな事を言うな。―
感心してないで助けてください丗闇さん。
後正直には恐くて言えないけど、果たしてBDE‐01がちゃんと教育を出来るのかも将又疑問だ。
何て言うか彼の子・・・アグレッシブじゃないか。
「?BDE‐01が僕に教えたらセレが死ぬの?」
謎理論にZ1-Θも文字通り疑問符を浮かべる。
然うだな、然う並べられると理解は出来ないな。
―死にはしまセンヨ、死には。―
「ほら其処嘘を教えるな!」
ちゃんと彼にも因果関係を説明す可きだ。此は自分の死活問題なのだから。
流石にこんな所で腐って死にたくないよ、もう少し死に場所位は選ばせて欲しい。
―嘘じゃありまセンヨ。マスターもちゃんとアイの話を聞いてクダサイ、其の頭は飾りデスカ。―
「じゃあ安心して聞ける様にちゃんと一から説明してくれ。」
恐らく態と自分をおちょくっているのだろう。彼女の言葉選びには悪意がある。
Z1-Θに教える為に出ると言う事は、今みたいに表に出る事を指すんだろう。うん、其なら問題はない。
流石に自分だって少しは冷静になる。行き成り出て行くなんて突飛な事を流石のBDE‐01だって決断しない筈だ。
そんな事したら屹度生みの親であるフォードが悲しむぞ、本物のポンコツになってしまう。
―デハ具体的に。マスターの背にあるアイの本体BDE‐01を摘出してZ1-Θに移植シマス。―
「其、私が死んでるな確実に!」
本気か此のポンコツ!今はっきり言った、摘出って言った!
其に何勝手にZ1-Θを改造しようとしているんだ。完全な引越、明らかに自分の元から離れてしまっている。
ちゃんと話を聞いた所で何も変わらなかった。御前は一体何に成ろうとしているんだ。
「セレ、BDE‐01が無いと死んじゃうの?」
「噫、とんでもなく辛い死に方をするから其は控えて欲しいんだが。」
―だから死なないと言っているじゃないデスカマスター。―
呆れたと許りにBDE‐01は溜息を付くが、如何すれば此のポンコツは理解出来るんだろう。
欠けた丈で大変な目に遭ったんだ。摘出なんて死其の物だ。
「一寸おかしくなった丈で碌な事にならなかったんだから死ぬだろう。」
生命所かある種神格すら操られる時もある恐ろしい機器だ。其の重要性は自分も知っている。
思い出しても腐ったり理性が吹っ飛んだり・・・うぅ、矢っ張り碌でもない。
―愚かなマスターデスネ。まるでおかしくなったのがアイの所為みたいな言い振りデス。―
「いや、全面的に御前の所為だからな?」
―身の程を弁えず無茶許りするマスターの所為デスヨ。―
駄目だ、言えば言う程辛くなる。黙った方が良いかも知れない。
・・・いや、黙ったら殺されるんだった、抵抗しないと。
―何処迄独善的で独り善がりなマスターデショウ。少しは自力で生き永らえる様頑張ろうとは思わなかったのデスカ。―
厳しい事を言う。其が出来たらガルダを食べたりだとか苦労はしない。
「思っても如何仕様もない部分はあるだろう。」
―其処デスヨマスター。其の足らない頭で考えてクダサイ。マスターには勿体無い素敵な力、干渉力がアリマス。其の馬鹿みたいに高い其を駆使すれば、アイが無くても動ける筈デス。―
「そ、そんな物か・・・?」
俄には信じ難い。干渉力は使い勝手は良いが、其処迄の力を引き出せる物なのか。
然も筈って、絶対じゃないと矢っ張り嫌だぞ自分は。
何者かに壊されてしまった時分ならいざ知れず、自発的に出て行こうとする精神が理解出来ない。
―実はもう実験はしてみましたが、現在アイは殆ど稼働してイマセン。でも躯に不調は無いデス。バイタルはしっかりチェックしてマスノデ。―
「何恐ろしい事しれっとしてくれてるんだ・・・。」
実験に託けてさぼっているのではとつい思ってしまう。そんな残酷な事を勝手にしていたのか。
た、確かにおかしい所はないけれども・・・抑ずっと変化し続けているので同じ時はないが。
A丈じゃなかったんだ。まさか自分の背中で実験してた奴がいるとは。
フォードのマッドサイエンティストが移ったんじゃないだろうな・・・。
―御託は良いから事実をクダサイ。体調に変化はありマスカマスター。―
「・・・無い、けど。」
―じゃあ何も問題ないデスネ。―
じゃあじゃねぇぞ此の野郎。
静かに闘志を燃やして軽く睨むセレを一笑する様にBDE‐01は一つ頷く。
悔しい、こんなポンコツに良い様にされているなんて。
―抑主にアイは、マスターが上手に処理出来ていない魔力や存在を安定させて整理する為にあったので、其をマスターが自分で出来る様になれば何ら問題はないのデス。―
「知らずにそんな事が出来る様になってたのか・・・。」
其はまぁ、喜ばしい事だけれども。
―やっと一柱立ち出来る訳デスネ。本当に手が掛かるマスターデス。あ、でも未だ亡霊サンや鳩サンから餌を分けて貰ってるなら赤ちゃんデスネ、バブー。―
「グルルルルル・・・。」
―おい、まんまと奴に乗せられて如何する。―
思わず低い唸り声を発するセレに制止の声が掛かる。で、でもぉ・・・。
だって此奴、全力でおちょくって来るんだ。何だか前より貶しスキルが上がっている気がする。暇になった分其の勉強をしたのだろうか。
前は只貶す丈だったのに・・・うぅ、腹が立って来た。
今なら殴っても良いんじゃないだろうか。此のポンコツがいなくても自分は生きて行けるんだろう?
丁度良い、殴ったら其のAIも直るかも知れないし、良い機会だ。
―因みにアイの手に掛かれば何時でも其の調和を狂わせる事が出来るので、間違っても手を上げないでクダサイネ。マスターは感情で動く節があるので。―
歯が折れそうな程強く噛み締める。くぅ、此奴、絶対態とだ。
逆立った尾をピシリと振って、セレは息を付いた。
駄目だ。何とか冷静にならないと。自分はこんなAIに屈しないぞ。
―兎に角此で愚鈍なマスターにも理解出来たでショウ。然う言う事で・・・良いデスヨネ。―
何故自分が生命維持装置に脅されているか分からないが、頷くしかない。
「でも、一応心配だからそっとやってくれ。行き成り全部外すなよ。其にZ1-Θも、」
―ハイ、オーバーホール。―
BDE‐01が指を鳴らすと、電撃が走った様にセレの背が伸びる。
ま、まさか此奴っ!
頭は動くが、もう躯はピクリとも動かせず、目もチカチカする。波紋が荒れているのだ。
―よーし良し、良い子デスネ、よっと。―
そして動けないセレの背後へBDE‐01は歩み寄ると彼女の背に手を掛ける。
「ま、待ってくれBDE‐01、そ、其処丈はっ、っひぃい‼」
元々彼女はホログラムであり、実体はない。だからオーバーコート等の服なんて透過してしまう。
抑彼女が直に触っている訳ではないのだ。此は態と然う彼女が見せている丈、実際は背のBDE‐01が勝手に外れて行っているのだろう。
けれども其の感覚が堪え難かった。無遠慮に弱点の背を弄られる心地、まるで百足の様な虫が這う様に背を駆け、内側も弄られる様な。
一転して吐きそうになるが、未だ動けない。如何してノロノロより強力な金縛りが出来るんだ此奴はっ⁉
其処からは断続的にセレは悲鳴を上げて、遂にはベッドへ俯せに倒れてしまった。
―ハイ、やっと取れマシタ。フゥ、此でアイも奴隷から解放されマス。―
「あ・・・お・・・あっ・・・、」
―・・・生きてるのか。―
痙攣丈して動かなくなった彼女に流石の丗闇も心配になる。
丗闇もまさか行き成りBDE‐01毎取るとは思っていなかったのだ。こんな事で死んだら流石に居た堪れない。
完全に伸びてしまっている。此ではBDE‐01を失ったショックに因る物なのか、背中を触られた所為なのか判然としない。
―サァ後は此をZ1-Θへ移植する丈デス。―
BDE‐01の手には小さな黔曜石が乗っていた。
「ヤッタ!」
―・・・流石に奴が起きる迄は待たないか。―
喜々として二柱は盛り上がっているが、普通に重症である。
未だ返事もせず痙攣している丈だ。大丈夫とは少し思えない。
別に此奴を心配している訳ではない。只此の処遇は余だと思ったのは事実だ。
―亡霊サンは過保護デスネ。どうせしぶとく生きてマスヨ。―
言うや否や行き成りBDE‐01はセレの無防備な背中を思い切り叩いた。
「ッキャウッ‼」
途端仰け反ったが、又彼女は倒れてしまう。・・・此は少し見ていられない。
「キュムリ!」
するとセレの悲鳴を聞き取ったか、窓にレインがやって来た。そして器用にも窓の隙間から一部を侵入させ、鍵を開ける。
「キュ、キキ・・・。」
然うして窓を開け放つと、レインは直ぐ様セレの傍に寄って来た。心配そうにぐるぐると彼女の周りを回っている。
何とか長い躯を巻き付けて起こそうとしている様だった。
「・・・う・・・えと・・・レ、レイン、か・・・?」
「キュミィイ!」
嬉しそうに返事をしてくれたので何とかセレは手を動かした。
でも矢っ張り起き上がれない。何となく察したレインは器用に躯を畳んでセレを起こし、背を支えてくれる。
御蔭で何とかセレは上体を起こす事が出来た。レインが椅子みたいに背凭れになってくれたのだ。
「う・・・う・・・い、生き・・・てる。」
―・・・然うみたいだな。―
声に力が全く入らないが、生きている。BDE‐01が無いのに。
セレ自身も其の実感が沸いて来たみたいで、少し上体を動かした。
痺れた様な感覚が残るが、一応動かせる。
「大丈夫・・・なのか?」
信じられないけれども、波紋も元通りになって来た。
何処も腐ってはいない・・・問題はなさそうだ。
―ホラ何でもないじゃないデスカマスター。今迄甘くし過ぎてたんデスヨ。―
「い、いや甘えてた訳じゃないけど。」
―本当に何もないのか。―
「あ、噫・・・変な感覚だ。何と言うか・・・躯が軽い・・・?」
謎の浮遊感を覚える。痺れの所為丈じゃない気がする。
魔力酔いとも違う、何だろう此は。
「・・・又セレ変わった?」
「?Z1-Θ、何か、分かるか?」
首丈動かす、当分レインには椅子になって貰った方が良さそうだ。
「ウン、何か魔力が変わったよ。何此?ぼんやりしてるの。」
「ぼんやりって其・・・大丈夫か?」
―其がマスターの姿デスヨ。今迄アイが管理してイマシタ。無理矢理形にしていたのを取っ払ったのデス。御蔭でもう干渉力や魔力も好きに使えマスヨ。―
「じゃあ反対に今迄セーブしていたのか?」
―イエ、マスターのは自由奔放過ぎるんデス。だからアイがちゃんと形を与えてやったんデスヨ。じゃないと全部なくなってしまう所だったので。でももうアイの助けがなくても其の自由な形自体がマスターだと定義された、然う言う所デス。―
「・・・え、えーっと・・・、」
駄目だ、頭が全く回らない。
気遣う様にレインが顔を覗かせるのでそっと其の頭を撫でた。
屹度此は又存在だとかの定義の話だ。だから難しいのもあるけれど。
此では本当に愚鈍なマスターになってしまう、しっかり考えないと。
「其って・・・私の干渉力が高過ぎるから色々・・・精霊としてとかも変わってたのと関係があるのか?」
―其処からデスカ。一応関係はありマスガ。―
凄い見下されている。機械故に心の無い眼差しだ。
先迄は殴ろうかと言う気しかなかったが、あんな好き勝手された今は兎に角休みたい。
もう動きたくないです。恐い、背中恐い。
正直生きている実感を得るのに必死なので其方に割けるゆとりがないのだ。
―つまりは御前の魂其の物も、変容し易い形をしていると言う事だ。確固たる個を持つのではなく、変化する事こそが証、然う言う特異な魂を持っている。―
「成程・・・少し分かった気がするよ有難う丗闇。」
―亡霊サン優し過ぎまセンカ?―
―御前の説明が此奴に理解出来るとは思えん。AI共々手間の掛かる奴等だ。―
何だか苛立ってしまっている。屹度斯う迂遠なやり取りをしている自分達に業を煮やしていたのだろう。
でも実際魂の話は私にも良く分からないから、説明してくれるのは有り難いな。
「えっと、じゃあ自分が余り存在を保てていないと言うか、丗闇達に頼っている辺りの事だろうな。」
―其プラスアイも頑張ったって事デス。もっと労わってクダサイ。―
「まぁ其は事実だろうけど・・・じゃあ安定して来たって事か?」
―不安定であると言う安定だな。常に変わり続ける。其が御前だと干渉力が働き始めたのだ。―
少し丈分かった気がする・・・。つまりは其の変化自体が自分の定義となったのか。
干渉力の話は如何もな・・・。理解しても呑み込むのは難しい。
其にガルダを喰らったり、丗闇から力を貰っている状態を安定とは思いたくないけど。
―今楽になった気がするなら、アイの戒めが解かれた証拠デス。だから此からは自由に力を使えるでしょうが、アイの補助が無い今、加減を間違えれば匙加減一つで後戻り出来なくなりマス。―
思わず生唾を呑み込む・・・後戻り出来なくなる、其って、
「・・・前世で化物になったみたいに、変わり易いって事か。」
最後の最後に、まるで神の真の姿の様に自分は変化した。
彼が、然う言った力の成れの果てなら分からなくもない。
自分の望んだ姿、如何に目の前の物を壊すか、其を突き詰めた姿だった。
だからあんなにも使い易かった、思い通りに動けた。
―・・・然うだな。だから一層力の扱いは気を付ける事だ。御前は只でさえ不安定過ぎる。―
「分かった。まぁ其の分、変化し易くなったと思えば・・・うん、ちゃんと心得るよ。」
諸刃の剣だ。何処迄扱えるか見極めないと。
「・・・良し、有難う丗闇、レイン、もう大丈夫だ。」
「キュリ、リィム!」
嬉しそうに鳴いてレインは頭を摺り寄せて来る。何と愛らしいんだ。
―何故我迄・・・。―
「心配してくれたじゃないか。見ていてくれて有難うな。」
然う声を掛ける中、BDE‐01が凄いアピールして来る・・・。胸元を何度も叩いているのだ。
無いよ。御前に掛ける言葉なんて一つも無い、絶対だ!
「まぁ一応、私の方は大丈夫そうだけれど、Z1-Θを改造する前に良く教えてくれないか。」
何だか変な感じだ。ずっと背中にあったのに、いざ無くなっても生きてる・・・。
弱点が消えたのは良い事だろう。何よりもう良く分からない理由で理性を吹っ飛ばさなくて済むのは有り難い!
軽く地獄だったからな・・・うん、忘れよう。片鱗を思い出すな。
後はZ1-Θだ。BDE‐01が勝手に改造してポンコツが移っても困る。
Z1-Θ自身が己の事に詳しい訳でもないし、自分も知識で教えて貰った丈で状況は一緒だ。此処では何かあった時直せる者が居ないのだ。
―・・・何だかマスター酷い偏見を持っていまセンカ?アイの性能は完璧デス。マスターの記憶も管理していたのでZ1-Θのマニュアルは全て記録されてイマス。―
「あ、そっか。じゃあ修理とかも出来るのか。」
BDE‐01は元々自己修復機能もあるし、成程、相性は良いのかも知れない。
―ハイ、だから・・・良く考えたらもうマスターじゃないので型落ちと呼びマスカ元マスター。―
「型落ち・・・⁉」
何其の新しい名前、何か嫌だ。兎に角悪意丈感じる。
「じゃあマスターは良いからせめて名前で呼んでくれないか。」
―呼ぶ価値も無いデスヨ型落ち、自分の身の程を弁えてクダサイ。―
「・・・・・。」
本気で壊そうかな此のポンコツ。
知らない間に随分小さなチップになってるし、彼の石を割れば静かになるだろう。
「ネーネ、僕の話は?」
無邪気にZ1-Θがセレの前に転がって来た。
何となく声が弾んでいて楽しそうだ。こんなポンコツでも移植されたら嬉しいのだろうか・・・。
「Z1-Θ、本当に此奴が中に入って良いのか?滅茶苦茶目障りだぞ。」
何だか此の念の押し方、まるで丗曦がガルダにした様な風であるが、大事な事である。
「ウン、僕勁くなりたいし、友達欲しいよ。」
「友達は良く選んだ方が良いぞ。多けりゃ良い訳じゃない。」
―一番友達になる可きじゃない型落ちが言いマスカ。―
煩い、型落ちは止めろ。
「セレは良い友達だよ。一番最初の一番の友達なの。だから僕、BDE‐01とも仲良くするの。」
何と優しい卵だろうか、少し心配になる位である。そっと上部を軽く叩くとくるりと一回転した。
然うだな、寧ろBDE‐01がZ1-Θに感化されて柔らかくなるかも知れない、其を期待しよう。
「分かった。じゃあ一応其の上で、Z1-Θを如何するのか聞いても良いか?」
「ウン、僕も聞きたいっ!」
―Z1-Θが然う言うなら仕方ないデスネ。でもやり方は至ってシンプルデス。此のアイの核を、Z1-Θに取り込んで貰いマス。―
然う言ってBDE‐01は手の中で黔曜石を転がした。
「・・・本当にそんな小さくなったのか?」
俄には信じ難い。只の欠片にしか見えないのに。
―アイを舐めないでクダサイ。此は取り外し用形態デス。いざって時の為にこんな機能も用意されてイマス。―
成程、一応フォードも取り外す事を仮定して設計はしていたのか。
じゃあせめてもう少し背中に負担の掛からない設計をして欲しかったな・・・。
「ん、あれ、然う言えばBDE‐01って物、触れるのか?」
良く見たら持ってるな。自分の核とも言う可き本体を持っている。
服だとかを透過する筈なのに、ホログラムだろう?良く分からない。
―流石型落ち、想像力が低いデスネ。此は型落ちが認識し易い様に後ろの投影機から磁場を飛ばして浮かせている丈デスヨ。―
「成程、そんな事も出来るのか。面白いな。」
―面白くないのは型落ちの頭デスネ。―
御前は可愛くなさ過ぎだ。
まぁ一応、前々から然う言う事はしていたかもな・・・自分の零星に干渉してた時もあるし。
ホログラムにリアリティを持たせる為だろうが、何とも無駄な機能である。もうホログラム毎削除して欲しい。
―だから此の機能を応用して、アイが内側と外側、両方からZ1-Θを作り変え、拡張シマス。型落ちの時の様に増設させる訳デス。―
「するとZ1-Θは勁くなるのか。」
―勁くなるなんて何とも浅ましい聞き方デスネ。アイがするのは飽く迄サポートデス。Z1-Θの機体と意志の中継ぎを行いマス。―
「サポートか・・・確かに必要だろうな。」
Z1-Θ自体使い方が分からない機能とかもあるだろうし、其の幅が増えるのは良い事だ。
彼は自力で声を出したり、飛べる様になった。其丈でも目覚ましいが、もっと成長が見込めるかも知れない。
・・・自分の手に負えない進化をするかもな。其は其で楽しみだ。
「ジャア僕も食べたりとか出来る様になるかな。」
―其が望みなら疑似的に出来る様にはシマス。―
「・・・何かBDE‐01、Z1-Θには甘くないか?」
甘いと言うか、此が普通の対応だろうけど。
自分に対しては絶対一つ小言が入るのに、彼の言葉にはYesで返事をする。
―何デスカ嫉妬デスカ。アイがより高次の存在に上がるのがそんなに嫌デスカ。―
高次・・・然うか、BDE‐01にはZ1-Θが然う見えているらしい。
まぁ実際Z1-Θを仲間にしようとした時酷く反対したもんな・・・。彼は嫉妬の表れだったのだろう。
成程、此はZ1-Θに媚びているとか、彼に取り入って彼女自身も成長したいみたいだ。
然う言う欲と言うか、感情があるのは何だか意外だ・・・興味深くはあるけど。
でも然うと分かっては、一切自分に其の情を分け与える気が更々ない事が露見してしまったのでより胸中が悪くなる。
「まぁ・・・分かった。一先ず問題はなさそうだし、やって貰おうか。」
―全く、最初からYes丈言っていれば良いんデスヨ、型落ちの分際で。ではZ1-Θ、此を中に入れてクダサイ。―
凄いなぁ、吐き捨てる様に言った傍でごろっと口調が変わったぞ。
其の無駄な切換え能力に労力を割かないで欲しい。
「ウン分かった!」
途端Z1-Θは卵が割れる様にぱっくりと開く。其処へ向けBDE‐01は石を投げ込んだ。
そんな扱いで良いんだ、と思った傍からZ1-Θが不思議な明滅を繰り返す。
そしてBDE‐01は宛ら怪しい呪文を唱える魔女の様にZ1-Θへ手を翳したり、踊ったりと動き回った。
「・・・此、大丈夫かな。」
つい口を突いてしまう。何だか見ていると不安になる儀式だ。改造の仕方が独特過ぎる。
でも暫くすると一度Z1-Θは曦を収め、緩り地に落ちた。
「・・・まさか壊した?」
全く動く様子がない。ハラハラ見詰めていたらBDE‐01は額の汗を拭った。
勿論ホログラムなので汗なんて掻かない。レパートリーは無駄に豊富だ。
―フフ、此でアイが此の肉体を支配する準備は整いマシタ・・・。―
ゆらりと彼女は振り返り、不敵な笑みを零す。
「な、Z1-Θに何をしたんだ。」
支配、まさか此奴ポンコツの分際でZ1-Θを掌握したとでも言うのだろうか。
然う言えば抑Z1-Θは魔力であって機械に意思がある訳ではない。でもBDE‐01は機械其の物に意志と言うか、プログラムが為されている。
此は・・・如何なるんだ?まさかZ1-Θが乗っ取られでもするのだろうか。
然うなったら手を付けられない。BDE‐01は戦闘能力を殆ど持っていなかった。其がZ1-Θなんて手にしたら・・・。
頭を過るは彼のZ1-Θが時々放つビームである。あんな物喰らいでもしたら御仕舞いだ。
―サァ目醒めなさいZ1-Θ、貴方は生まれ変わったのデス!―
BDE‐01が仁王立ちして命じると、まるで鞭の様に撓る曦の帯が伸ばされた。
其が束ねられ、まるで華の様に先を広げる。
真直ぐ此方に向け、開かれた其はより強い曦を帯びて行く。眩しさに薄ら目を閉じそうになるが・・・。
身構え、息を詰める。一体何を仕出かす気か、念入りに頭を働かせる。
すると曦の帯は緩りと回転し始めた。華の萼を中心にくるくると回り出し、其の回転は速くなって行く。
「・・・っ、」
けれども構えていた割には何も起こらなかった。只回転が速くなった丈で、何か飛んで来る様子もない。そよそよと凱風が吹く丈だ。
―此ぞ新機能、扇風機形態デス!―
「扇風機、ダヨ!」
「最新機器で遊ぶな御前達!」
つい突っ込んでしまったじゃないか。何だよ扇風機って。
Z1-Θは得意そうに光っている。・・・うわー光る扇風機だ。
まぁ確かに凱風は来るけど、別に熱くもないし、寧ろ寒がりな自分としては有難迷惑だ。
何だか回転の割に冷たく感じるしな・・・。少し寒く感じて来たのでレインの胴を掴む。
するとくるりとレインは身をくねらせて、マントの様に包んでくれた。噫、完璧だ・・・。
―如何デスカ型落ち、どうせ其の頭では理解出来ないでしょうが、微細な水蒸気を含ませる事で体感気温すら下げマス。此が最新型の扇風機デスヨ!―
「此方は寒いんだ。其すら察せなくて何が最新型だ!」
―フゥ、文句の多い型落ちデスネ・・・。扇風機にすら成れない身分で何を喚きマスカ。―
扇風機に成りたくないので全く構わない。よりギュッとレインにしがみ付く事にする。
レインの手触りは独特だ。宛ら巨大な水風船の様なのだ。
つるつるもちもちしていて、冷たくも温かくもない、だから彼女に包まれるとまるで無風の中立っている様だ。
モフモフでなくったって素晴しい。流石レインだ。
「そっか・・・。御免ね、僕未だ温かいとか分からないから・・・。」
「噫悄気ないでくれZ1-Θ、悪いのはこんな場違いな変形をさせたポンコツBDE‐01何だから。多分其は・・・ハリーとか鏡が喜ぶんじゃないかな・・・。」
想像すると何とも穏やかな風景が浮かぶ様だ。うん、楽しそうだな。
「然う?分かった、今度やってみる!」
「其の意気だ。出来れば私は暖房の方が嬉しいな。」
別にZ1-Θを然う言う機器にしたい訳じゃないけれども。もっと可能性は無限大なのだから頑張って欲しい。
まぁ一応・・・扇風機って前世では高級品ではあったので使ったのは初めてだが、何か斯う・・・夢が無いんだよな。
悪いとは言わないけれども、態に彼にさせたい事じゃあないな。
「分かった!今度は其の暖房について調べるね。」
―聞き捨てなりまセンネ・・・。適応力が乏しいのを此方の過失みたいに言うなんて。―
「御前もあんな啖呵切って置いて扇風機で満足しないでくれ。」
悲しくなるだろう。屹度フォードも草葉の影で嘆いているぞ。
何と言うかポンコツ具合がBDE‐00を彷彿させるんだよ。頼むから彼丈は止してくれ。
―先から扇風機に許り注目しているのが気に入らないんですよ。此は本の一部、でも伝わったでショウ。アイの手に掛かれば此の様にZ1-Θは新たなステージに立てるんデス!アイの御蔭で!―
「ウン凄いよBDE‐01!」
BDE‐01のとんでもなく肥大した自己肯定欲に真っ向からZ1-Θは応えてくれている。良い子過ぎて涕けて来た。
此以上奴を付け上がらせたくはないのだが・・・まぁ良いか。
「分かった。今度はもっと凄い事が出来る様になるって事だな。じゃあ期待してるぞ。」
「ウン、見ててね。僕頑張るから。」
何とも素直で良い子だ。此の儘成長してくれたら良いな・・・。
一応BDE‐01もZ1-Θに付いたと言う事はもっと頑張りたいと言う事なんだろう。当初フォードが如何言う想定で設計したが皆目不明だが、其の心意気は悪くない。
「因みに特に変わりはないのか?一応改造された訳だし。」
「・・・ウーン、多分何も変わらないよ?」
―アイもZ1-Θの中で勝手に水流等から動力を得ているので問題ないデス。―
「然うか。じゃあ一先ず問題なさそうだな。」
さらっと然う言う事が出来る辺りの性能は流石と言いたい所なのに。
何だろう、何か惜しいんだよな。手放しで喜べない。
そんな風に思っているとノックの音が響く。
大分躯も馴染んで来たし、そろそろ立てるだろう。然う思い立ち掛けた所でさっとレインが扉を開けてしまう。
凄い此の子、何でも出来る。猫の方がずっと優れているじゃないか。
何処迄も躯が伸びるので此位彼女にとって朝飯前なのだろう。座っている丈で全て片付いてしまう。
「セレー・・・え、えっと此は・・・、」
入って来たのはガルダだった。そして入口で固まってしまう。
序で目前で扉を開けてくれたレインの手?が振られて面食らった様だった。
「ア、ガルダだ。喰らえー!」
そんな彼は恰好の的だった。Z1-Θは次に彼に向け、扇風機を披露する。
「え、何々⁉え、涼しい⁉」
突然光るプロペラが迫ったら構えるだろう。ガルダは手を掲げて様子を見る。
でも攻撃でないと悟ったみたいでゆるゆると手を下げてまじまじと彼を見ていた。
「此、何が起きてるんだ?セレは玉座だし、えっとBDE‐01、だっけ・・・?」
「ククッ、噫、一から説明しないとな。」
ガルダの惚けた顔を見られてセレは一頻り笑うのだった。
・・・・・
「ふーん・・・セレ、本当に大丈夫なのか?」
「もう其五度目だぞガルダ。」
「っ、そ、然うだけど。」
其でもちらちらと彼は上目遣いに自分を見ていた。余っ程心配している様だ。
彼はしっかりとBDE‐01が壊れた時を目撃しているしな。うぅ、懐い出すな彼の事は。
然うした事の積み重ねで彼が疑り深くなってるのも分かる。
「確かに前はBDE‐01がいたから助かった事が、助からなくなるかも知れないしな。」
「其は普通に不味いだろセレ、念の為にあって悪い事はないと思うけど。」
―でももうアイは戻りまセンヨ。型落ちの所なんて。―
「何でフォードはこんなAI採用したんだ・・・。」
BDE‐00もあるし、何か然う言うの、彼は下手だったりしたのだろうか。
何がってのははっきりしないけど・・・性格的な物?
因みにもう何度もセレの事を型落ちと呼ばない様指導をしたんだけれども、一向に其のコマンドを実行する気は無い様だった。
「一応話は分かったけどさ。何かあったら直ぐ言うんだぞ。前より気を付けないと。」
「噫、勿論だ。」
しっかり返事はするけど、此で中々彼女は強情だ。素直に言うとは思えない。
分かっては・・・くれていると思うけど、うーん。
「其でガルダ、如何したんだ?何か用があったんじゃないか?」
じっくりBDE‐01とZ1-Θについての説明を聞いてくれたので其処迄急いでいる訳じゃあないだろうけれども、すると彼は困った様に頭を掻いた。
「えっと・・・その、一緒に次元行こうかなって思ったんだけど、こんな事があったならセレは休んだ方が良さそうかな。」
「いや、行けるぞ。そんな軟弱そうに言わないでくれ。」
「レインの玉座に座っていて良く言うよ。」
彼は苦笑いを浮かべるが何て事はない、もう立てるぞ。
「何方かと言うとZ1-Θは少し休んでくれ。色々慣らさないといけないし。」
「ウン、然うだね。」
―見違える程成長させマスヨ。―
何だかBDE‐01がやる気に満ち溢れている。変な方向に暴走しないと良いが。
「そっか、じゃあ分かった。其なら無理しない程度に行ってみるか。」
「噫、分かった。」
レインの椅子から勢い良く立ち上がる。
うん、大丈夫だ。もう元気一杯だ。
言い換えればもう元通りの自分、有りの儘の自分と言う事、だったら何も心配要らない。
「キュ、キ、リュ。」
「有難なレイン。済まないが留守番を宜しくな。」
「リリィ!」
元気良くレインは鳴き返してくれるのだった。
・・・・・
世界を占めるは余りのも眩しく主張の強い石竹色。
其の中心で二つの影が降り立った。
「おぉ、何ともカラフルな次元だな。」
軽く見渡してセレは小さく息を付いた。
着いた次元は二柱を歓迎する様に鮮やかに染まる。
「うわ、此・・・若しかして碧樹?嫩草なのか?」
ガルダも気圧される様に見渡していた。彼等が降り立ったのは蕭森の様だった。
只見た事も無い植物に囲まれている。何もショッキングな程眩い石竹色なのだ。
自分の知る蕭森の翠の葉が全て其の色に染め上げられてしまった具合だ。
だから何となく蕭森と言うよりは滄溟の中に居る心地だった。
物語で出て来る様な、珊瑚や菟葵の蕭森の様なのだ。
只其の反面地面は真黔だ。其の対比がより視界を鮮やかにさせるのだろうか。
如何も目がチカチカする。波紋でも然う見えてしまうなんて相当だ。
「観光するのは楽しそうな次元だな。」
「然う・・・だけど、如何だセレ。何か見えるか?」
苦笑して彼が見詰めて来る・・・ばれているな。
「噫、早速暴れるぞ。」
軽く地を蹴る。大きく跳び上がり、一回転して波紋を広げる。
すると真直ぐ此方へ走り寄る影が見えていた。
速い、可也速いが此は、
ガルダも気付いていた様で、振り返りじっと鬱蒼とした蕭森を見詰める。
そして僅かに樹々が揺れ、葉の色が陰った刹那、
「っわっと‼」
ガルダ目掛けて漆黔の影が躍り掛かった。
彼を追い隠す程大きな影だ。だが彼の姿が其に完全に隠れる前に、
セレは其の影へと跨った。
「っわぁああ!」
すると影は大きく跳び上がり暴れる様に跳び回った。
そんな背から振り落とされない様セレは尾を出して影の胴に巻き付けた。
落とされたら次の標的は自分だろう、ガルダから逸らさないと。
影は巨大な四足の獣と思われた。其の割には可愛らしい声が漏れた気はするが。
獣であれば背に居れば手は届かない、此の儘疲れさせても良いけれども。
「つ、捕まえないでっ!嫌だ、助けてぇ!」
「え、口利けるのか・・・?」
大きく避けていたガルダは目をぱちくりとさせた。彼からすれば非常に獰猛そうな一頭の獣である。
其の姿は自分より遥かに大きい、全長6mはありそうな巨大な獅子だったのだ。
真黔の立派な鬣を生やした獅子である。そして其の鬣はまるで燃えている様に時折絳い毛を覗かせる。
目もぎら付き、伸びた牙や爪は鋭そうだ。人なんて簡単に喰い殺せそうな姿である。
そんな獅子が、背に乗るセレを振り下ろそうと必死になっていた。加えて其の声には何処か怯えの色が見える。
何の道止めないと、此の儘じゃあセレも危ない。
「ストップストップ!捕まえないから大人しくしてくれよ!」
「ほ、本当・・・?」
大きく手を振ると目に付いたらしく、四肢の運びが緩やかになる。
「本当だ。其に恐らく問題は、」
ちらとセレも視線を上げる。獅子が来た方向、踏み分けられた嫩草が揺れる。
「彼奴等だ。・・・然うだろう?」
「っ見付け、っ⁉御前達は、」
嫩草を掻き分け現れたのは二つの影だった。
だが此方は先より幾分小さい。そして現れたものの、様子を見る様に距離を取る。
「も、もう来ちゃった・・・。」
「此は・・・暴れざるを得ないなセレ。」
ガルダは小さく息を付いた。彼女の目当ては此奴等だったのだ。
胸元の十字に見覚えがある。・・・クルスティード尖塔の奴だ。
出て来たのはまるで三毛猫が鎧を着込んだ様な姿をした者と、駝鳥を思わせる立派な脚を持った鳥だった。
何方も似通った造形の鎧をしている。全く姿は違うが同族だろう。
緩りしようと思って直ぐ此とは、嫌な出会い方をした物だ。
何故なら今自分が抑えている獅子、此奴は恐らく次元の主導者だ。
其を神が追い掛け回しているとなると、穏やかじゃないな。
其に向こうの反応を見るに、此方の正体に一発で気付いたのだろう、少し面倒だ。
「良し、じゃあ彼奴等を追い払うから大人しくしてくれるか?」
「え、う・・・そ、其なら。」
キョロキョロと獅子はガルダと追っ手の奴等を見遣ったが、一つ頷いて足を止めた。
そっと巻いていた尾を放して降り立つ。どうせ異形だらけなんだ。隠す必要もないだろう。
「さて、何でクルスティード尖塔の奴等がこんな所で出しゃばっているのか聞きたいな。」
「・・・、終末の化物め、御前達には此の次元なんて関係ないだろう。さっさと手を引け。」
毛を逆立てて猫の神は鼻を鳴らした。相変わらず此処の奴等は退く事を知らない。
「然うも言っていられないな。御前達は私の邪魔ばっかりするし、こそこそ何をしていたか位は気になって仕方がないからな。」
Z1-Θの件もあるし、見付けたからには野放しには出来ない。
こんな方法で次元を救えるとも思えないしな。明らかに今の自分達と目的は違うだろう。
「どうせ滅ぶ次元なら、価値ある物を護る丈だ。御前の所為で滅ぶ世界を我々は救済しようとしているのだ。」
一歩前に出て、見下ろす様に駝鳥の神は睨め付けた。
「価値って、まさか此奴等榔と同じ事しようとしているのか・・・?」
「成程、捕まえて塔へ幽閉する気なのか。」
果たして価値ある物がどんな基準なのかは知らないが、なくはない話だろう。
次元の主導者を護ると丈聞けば聞こえは良いが、矢張り行動が伴っていない。
どうせ滅ぶ次元とはっきり言ったしな。次元は最初から見捨てる気なんだろう。
「俺を捕まえて変な事しようとしたんだ、だから俺、」
数歩獅子は下がって様子を見ていた。其は嘸恐ろしい目に遭っただろう。
つい同情しそうになる。何も分からずに弄られる恐ろしさは知っているからな。
「然うとなっては見過ごせないな。」
ちらとガルダを見遣るが、苦々しそうに頷いた。
もう此は避けられない、彼だって気持は同じだろう。
「然うだな。此方は引けなくなったし・・・話し合いも無理、」
「御前等と話す価値もないっ!」
突然猫が後ろ足に一気に力を込めて跳び上がった。
ガルダ目掛けて真っ直ぐ飛び掛かる、無手に見えるが己の爪が武器なのだろう。
「っ未だ話中だっただろ⁉」
慌ててガルダが手を構えると、彼の前に皓い障壁が張られる。
其を思い切り猫は引き裂いた。詠唱も無しの術なので強度はない、あっさりと壁は砕けてしまう。
曦の破片が飛び散る中、ガルダは己が腕を巨大化させた。生命力を解き、獣の腕へと変わる。
そして迫る猫の胴に向け、思い切り拳を叩き込んだ。
視界が眩くなった猫にとって其は不意打ちで、諸に喰らう事になる。軽々と吹き飛ばされて樹にぶつかった。
「おぉ、ガルダ、中々豪気だな。」
「話し中はルール違反だろ。先にやって来たなら俺も手段は問わないさ。」
手を出したくない相手だなんて、正直言ってられない。逃げ続ける訳にも行かないなら迎え撃つ丈だ。
「じゃあ御前は少し先に逃げてろ。片が付いたら直ぐ追い付くから。」
「お、御願いします。」
此の場に居ては邪魔になると彼も察したのだろう、直ぐ様嫩草を掻き分け、獅子の姿は見えなくなった。
早くても波紋外迄は然う着けないだろう。此でやり易くなった。
「助けたつもりですか。化物の分際で。」
「御前達の御蔭で事が上手く運びそうな点は感謝するよ。」
「く、良い様に利用されて堪るか。」
「ククッ、じゃあ如何する?此処で私を殺さないと御前の多大な失態として刻まれるな。」
「セレ、然う言う事は言っちゃ駄目だって。」
凄く良い顔しているけれども、斯う言う挑発をしている時の彼女が一番生き生きしている・・・。
「減らずぐ、」
駝鳥が何か言い掛けた所で固まってしまう。
言える訳なんてないよな。・・・もう首が無いのだから。
自分だって悠長に話し合うつもりはない。片を付けると約束をしたのだから実行する丈だ。
奴の意識が己の口へ向いている内に尾で首を刎ねた丈。たった其丈で黙らせる事は簡単だ。
ガルダと猫が揃って唾を呑む。そして揺れる尾の先を見詰めていた。
其の間に駝鳥は頽れ、其の姿は掻き消されてしまう。
「さ、御仲間はあっさりいなくなってしまったが、言い残す事はないかな。」
「っ、化物め・・・話す事なんか、」
猫はすっかり腰が引けたのか屈んでしまう。既に一撃貰っているので下手に動けないんだろう。
「噫、仲間の数とか教えてくれたら先に其方を狩るんだがな。」
セレが、セレが完全に悪役ムーブだ・・・。
一歩前に出て不敵に笑う彼女を見、ついガルダは苦笑してしまう。
斯う言うのは頼もしいけれども、でも彼女に頼って許りじゃあいけない。
此だから悪名許り伸びてしまう。セレの切るカードに問題があるのだ。
「ならん!私は絶対に、」
「じゅあ要らないな。」
脳天真直ぐに尾を突き立てた。
たった其丈、其丈で終わる。
真の姿に成られても面倒だからな。息付く間もなく止めを刺す。
目を見開いた儘固まり、あっさりと猫も描き消えて行った。
大層な鎧をした所で関係ない、剥き出しの弱点許りなのだから。
「セレ・・・。」
僅かに目を伏せて彼に向き合った。
ま、こんなあっさり殺したんだ。説教の一つ位は聞くが。
「セレ、矢っ張何かあったか?その、元気がなさそうだからさ。」
思わず口を噤んでしまう。瞬きも忘れて見ていると彼は頭を掻いた。
「あ、いや、無理に話さなくて良いからさ。只何時でも話は聞くからさ。」
「・・・有難う。」
知らず促される儘に言葉が漏れていた。
矢張り彼には隠せないな。全部御見通しか。
自分は普段通りだと、変わらないと思っていたのに。
話す・・・然うだな。そんな気は更々なかったけど。
「時間が出来たら話す・・・かも知れない。」
「うん、其で良いよ。じゃあ行こうか。」
「噫、結構遠く迄行ったな。直ぐ追い掛けるか。」
「あ、でもセレ一個丈。」
先導しようと足を向けた所で呼び止められる。
そんな彼は少し丈口を尖らせていた。
「次はあんな挑発するなよ。俺も一緒に戦うからさ。」
「ククッ、其は頼もしいな。」
流石に言われてしまったか。でもこんなの可愛い物だ。
一つ頷き合うと二つの影は蕭森の中へ姿を消したのだった。
・・・・・
「あ、来た!」
ぐるぐると歩き続けていた影は旻を見上げた。
すると蕭森の樹々の擦れ擦れを二つの影が飛んでいたのだ。
「追い付いたぞガルダ。」
「結構遠かったな・・・あれ、何か居るけど。」
蕭森が途切れ、更地となった所に一点の人影を見付ける。
蕭森が無くなると漆黔の大地だ。其の影も溶け込んで直ぐに判別は出来なかった。
翼を出した儘二柱は其処へ降り立つも、ガルダはきょろきょろと見渡していた。
此処迄セレの波紋に頼って連れて来て貰ったけれども、肝心の獅子が見当たらないのだ。
あんな大きな影なら直ぐ分かるのに。否其よりも、
ガルダが視線を上げると一人の少年が居た。彼も又黔く、幼さの残る大きな瞳を此方へ向けていた。
其の少年は服の代わりか毛皮を纏っていた。腰や腕、足元と豊かな黔い毛皮だ。
時折其の中に絳い毛も混ざっていたので、僅かに彼の獅子を思わせるけれども。
・・・ん?って事は・・・?
「本当に彼奴等、追っ払ってくれたのか?」
「噫、私の手に掛かればあんなの朝飯前だ。」
「え、え⁉先のって此の子だったのか・・・?」
流れる様にセレは話しているけれども、未だに信じられないガルダはまじまじと少年を見てしまう。
でも其の声は聞き覚えもあったし、何より気配が次元の主導者の其だ。
余りにも姿が違うので見逃し掛けたけれど、同一人物の様だ。
「あ、そっか。然うなんだ・・・。先はその、襲っちゃって御免よ。」
上目遣いに少年はガルダを見遣った。其にしてもまさか・・・。
「まぁガルダ、私達も姿は変えてるし、其位はな。」
翼だとかを出しているので然うなんだけれども、でも此は驚かずにはいられない。
屹度セレは波紋で先に彼が変身か何かするのを見ていたのだろう。だからこんなに普通で居られる。
其なら其で俺に教えてくれても良かったけど・・・。
「まぁ分かったけど・・・何があったんだ?何で彼奴等に追われたか心当たりあるか?」
あんな直接神が次元の者に干渉するなんて普通は有り得ない。
彼奴等は価値ある物、って言ってたけど此の少年に何を見出したんだろう。
でも少年は困った様に首を左右に振った。
「其が俺、良く分からなくて・・・。その、此処最近と言うか、記憶が・・・無くて。」
記憶が無いなんて余っ程だ。一応其の経験のある二柱はじっと彼の話に耳を傾ける。
「気付いたら彼奴等に捕まって、変な注射されそうになったから逃げて来たんだ・・・。俺帰りたい、家に帰りたいよ。」
「其は酷い目に遭ったな。彼奴等は節度も何も無いからな。」
目覚めて行き成り其なら相当の恐怖だったろう。記憶も、其のショックで失くしてしまったのかも知れない。
其か・・・何らかの事をされてしまったのか。
「でもあの、若しかしたら姉さん達も同じかと思って・・・翼とかあるし、知らないかな、何か。」
「ん、如何言う事だ?」
同じと言うのは何だろうか・・・黔い位しか共通点が見えてないが。
すると少年は罰が悪そうに目を伏せた。
「あ、ち、違うのかな・・・。俺、元々人間だったんだよ。でも奴等の所為であんな獣みたいな姿に変えられちゃったんだ・・・。だから姉さん達も彼奴等に鳥に変えられたのかなって。」
「えぇ、人間だったのか?」
人間と言っても此の次元の人間を正しくは知らないので難しい所になるけれども。
少なくとも彼の獅子の姿は違うと言う事か・・・。てっきりそんな変身能力を持つ種なのかと思ったら。
「何だか可也きな臭いな・・・。彼奴等そんな事もしてるのか?」
実験、と言う事だろうか。捕まえて行き成りそんな目に遭わせるなんて余だ。
姿を変えられるだなんてそんなの・・・神だから赦される事も無いだろう。
ガルダも黙って考え込んでしまった。此は思ったより闇が深そうだ。
「まぁ一応、私のも似た物・・・かな。」
ちらとガルダを見遣ると、小さく頷いてくれた。話を合わせてくれる様だ。
厳密には全然違うけれども・・・弄られたと言う点は一緒だ。
完全に彼奴等を利用した上での選択をしよう。仲間がいるのは心強いからな。
記憶も無くて、姿も変えられほっぽり出されるなんて、其の心情は計り知れないだろう。元人間だからって其で手を引く程薄情じゃない。
「家か・・・良し、じゃあ其処迄付いて行こうか。」
次元の主導者が帰りたいと言うんだし、其の通りに取り敢えずした方が良さそうだ。
果たして家が無事か如何か、家族が居るのか、将又変わり果てた彼を受け入れるかは別問題だが。
「え、そんな悪いよ。俺屹度未だ追われてるし、危ないよ。」
「彼の程度の奴等なら如何って事はない。其に私達は色んな所を旅して回ってるんだ。だから其の道すがら付いて行こうって丈だ。」
「だな。ま、俺達も彼奴等とは色々あるし・・・。」
然う言うと少年は目を大きく見開いた。心做し力が籠り、輝いている様に見える。
「あ・・・有難う。俺、正直一人で如何したら良いか分かんなかったから、宜しく御願いします。」
急いで少年は何度も頭を下げた。
うんうん、あんな礼儀知らずな奴よりずっと良い。彼の為なら仕事も頑張れるだろう。
「良し、じゃあ先ずは自己紹介か。私はセレ、此方はガルダって言うんだ。御前は?名は憶えているか?」
「セレとガルダ・・・うん覚えた。俺は蕾って言うんだ、宜しく。」
「蕾だな、宜しく。其で早速だが蕾って家の事、何となくでも覚えてたりするか?」
自分達だって此の辺りの地理はさっぱりだが、指針は欲しい所だ。
正直、クルスティード尖塔の拠点か何か此の近くにあるなら先に潰したい気もするが、蕾を護り乍らじゃあ厳しいだろう。追い追い対処は考えよう。
「えと、何となくは・・・。此処よりもっと絳い蕭森に囲まれてて・・・然うだ、大きな湖があったんだよ。」
「な、成程・・・。」
小さくガルダは頷くが、少し苦い顔をしてしまう。
情報としては乏しいが・・・うん、無いよりはましかな。
「然うか。取り敢えず目の前の大きい所にするか。」
然う言いセレは数歩先へ行く。
情報は少なくても問題ないだろう。何故なら此の次元は中々特殊な景色をしているからだ。
「あ、セレ其方は危ないよ!」
透かさず蕾も彼女の後を追う。
と言うのも、蕭森が途切れた先は・・・切り立った崖になっていたのだ。
だから蕾も此処より先へ行けずにうろ付いていたのだ。でも其の先から旻を見遣る。
問題ない、波紋だから見えているのだ。此の先は・・・。
「大きい所ってセレ、何か見えるのか・・・?」
ガルダもそっと彼女に並ぶ。そして崖から下を覗き込んだ。
すると其処には・・・旻があった。
何処迄も広がる旻、ずっと見ていたら上下感覚が狂い然うな。
「え、え⁉ど、如何なって、」
つい大声を上げそうになるのをセレの手で静止させられる。
そ、然うだった。俺達は旅人なんだから驚いちゃいけない。此の次元の常識を受け入れないと。
「何?ガルダ何か見付けたの?」
「い、いや何か光った気がしたけど、気の所為みたいでさ・・・。」
蕾も何食わぬ顔で眼下の旻を見詰めていた。其の視線の先には・・・まるで瀛海に浮かぶ島の様に、大小様々な島が浮かんでいたのだ。
如何やら今居る所は可也高い様で島々は全て下へ疎らに広がっている。
でも目に入るのが全て島であり、此処も崖になっていると言う事は、此処もそんな島の内の一つなんだろう。
島は何も形等は違えど、蕭森が一つか二つはある様だった。小さな浮島が斯うも漂っていると、カラフルなのもあって何だか現実感が伴わない。
石竹色の島々は緩りと動いている様だったが、ずっと見ていられそうな不思議な光景だった。
其の中で比較的大きい島が眼前にある。屹度セレが言っていたのは彼の島だろう。
「セレ、彼の事だよな?」
「噫、如何だ蕾、見覚えのあるのがあったら。」
「うん・・・此処等の蕭森は皆色が薄い気がするよ。もっと別の所だと思う。」
「然うか。取り敢えず飛んで行きたいが。」
もっと上から島を見て行きたいが、然うすると又クルスティード尖塔の奴等に見付かるかも知れない。
撒く為にも島を転々とした方が良いだろうか。
「蕾、彼奴等から離れる為にも先ずは島を転々として、後から一気に飛んで探そうか。」
「うん分かった。でも如何やって行くの?俺飛ぶのなんて出来ないし・・・。」
「俺に掴まれば大丈夫だろ。」
人一人掴んで飛ぶ位だったら何でもない。自信満々に胸を叩くとパッと彼の表情が明るくなった。
「良いの?重くない?」
「先ずは練習からだな。」
「じゃあえっと・・・如何飛んだら良いかな・・・。」
両手を持ってみたり抱いてみたが如何もしっくり来ない。最終的にガルダの背に負される様に蕾は乗った。
少し顔が赤い。こんな事で恥ずかしがるなんて可愛い物である。其でもしっかりとガルダの両肩を掴んだ。
「其なら大丈夫そうか蕾。」
「う、うん・・・。」
緊張しているのがはっきりと分かる。そんな彼を見遣ってガルダは苦笑した。
「良し、だったら私が前を行こう。ガルダは緩りで良いからな。」
「わっ、緩り、緩りだよガルダ!」
少し羽搏いた丈でギュッと蕾は猶の事しがみ付いた。
一瞬ガルダの顔色が曇る。爪が肩に刺さってしまっているのだ。
でも落ちてはいけないし、其位しっかり掴まっている方が良いかも知れない。
緩りと羽搏いて遂にふわりと其の躯は浮いた。
蕾一人位なら難なく飛べる。少しずつ眼下の島に向けて降下する。
其の際周りを見遣ったが、何とも不思議な感覚だ。
いざ旻へ出れば、視界のずっと先迄旻と島は続いていた。
下を見ると良く分かる。石竹色の島が、果ては零星の様になって小さく見えるのだ。
何の島も少しずつ変化があって興味深い。此の島の何処かに蕾の仲間が居るのだろうか。
ぱっと旻から見た丈では判別は出来ないけれども、一先ずは目の前の島だ。
折角の景色だが、蕾は片時も動かず、只じっとしていた。今の彼に景色を楽しむ余裕等ないのだろう。
特に凱風に煽られたりする事もなく、緩りと二柱は着地する。
上から見ていたが、此の島は中々に大きい。全面こんもり蕭森に囲まれている様だったが・・・。
「さ、もう大丈夫だよ蕾、ほら立てるか?」
そっとガルダが屈むと急いで蕾は彼の背から離れて地面に座り込んだ。
「す、凄い、着いた・・・。」
地に足が付いた事を喜んでいる。僅かに足は震えてしまっている様だった。
「よ、良かった。俺一人じゃ絶対他の島なんて行けなかった・・・。」
そしてキョロキョロと新たな島を観察する。僅かに鼻が動いた。
「何か甘い様な・・・ね、其方に行っても良いかな。」
「ん、大丈夫だろう。行こうか。」
一先ず蕭森に入って隠れてしまおう。一応波紋で何も居ない事は分かっているが、念の為だ。
蕾の嗅覚は随分鋭いらしく、真っ直ぐ蕭森の中を目指して歩き始める。
足の震えより、匂の出所が気になるらしい。若しかしたら腹でも空かしているのかもな。
此の島も一見大きい丈で先のと似ている気はした。相変わらず濃い石竹色の蕭森が続いている。
食べ物の事となると、確かに気を付けないといけないかも知れない。何も食べようと言う気にならない色なのだ。
何より植わっている土が真黔である。別に腐葉土と言う具合じゃあない。砂漠の様に乾いた砂だ。
選り好みをしようって訳じゃないが、毒がありそうであれば又別である。
波紋を少しずつ広げて行っているが・・・うん、特に目ぼしい物はないか。
危険がなさそうなのは良い事である。いや、でも一応前に何か居るか・・・?
蕭森の中ともなると、波紋は通るのだが、如何せん情報が多過ぎるのだ。小さな違和感位だと見逃してしまう。
でも・・・居る、気付いてしまえば間違いなく其の形を理解出来る。
「アラ珍しいこんな所迄。」
パタパタと小さな影が蕾へ近付いた。
「えあっ、何、君達は。」
蕾が首を傾げていると他にも数羽同じ影が彼の傍へ集まる。
其は掌サイズ程の小鳥の様だった。ヒラヒラと揺れる翼を広げ、頭には目印となる飾り羽根が刺さっている。
そして首元を一巡するは数珠の様になった瓊だ。其が淡く発光する。
「此処に棲んでる鳥ですよ!」
然う言ってカラカラと鳥は笑うが・・・勿論只の鳥じゃない。
ガルダも気付いてちらと自分を見遣った。
「ラットラーだな。宜しく。」
「アラ、アララ、まさかばれてしまうとは。」
然う此の鳥達は龍族のラットラーだ。でも今みたいに友好的な種だから問題ないだろう。
好奇心が強く、他の者や物を利用する力に長けているので、次元毎に結構繁殖しているらしいが。
早速ラットラー達はセレ達にも興味を持った様で飛び回っては此方を見る。
「何だか最近神の皆さんが良く来られますねぇ。」
「其なんだが・・・他の奴等に私達が此処に居た事は秘密にしてくれるか?」
少し下がって小声で伝えて置く。こんな形でばらされたくないからな。
「アラ、秘密って何かあったんです?」
「実は彼奴を捕まえようとしているんだ。私達は家へ帰す手伝いをしているんだが。」
ラットラーはちらと蕾を見遣ると何度か頷いた。
「成程・・・事情は何となく分かりましたよ。私も此の次元が好きなので協力しましょう。」
「噫助かる。後もう一つ御願いして良いか?」
「セレ、モフモフは駄目だからな。」
ひぐぅ、と喉から変な声が出る。何故分かったんだガルダ⁉
流れる様に御願いしようと思ったのに何て鋭い。そんな彼は只苦笑を浮かべていた。
「流石だ・・・良く分かったなガルダ。」
「いや然うだったのかよ。」
「・・・あ!見付けた!」
先を行く蕾の声が弾む。彼の目の前には一本の大木があった。
幹迄見事な石竹色だが、良く見ると真蒼な実が幾つも付いている。
此処迄近付くと確かに甘い薫はしたが・・・まさか彼を食べる気なのだろうか。
何と言うか形も色も毒々しい、馬鈴薯に瘤が沢山生えている様な歪な形をしているのだ。
「御昼でも一緒に召し上がりますか?上の方が甘いですよ。」
ラットラー達は羽搏いて天辺にある実を幾つか啄んで持って来てくれた。
うぅ、折角の好意、無駄にはしたくないが・・・。
「わぁ甘い!御中空いてたんだ!」
ついガバッと見遣ってしまったが早くも蕾は其の毒々しい実に齧り付いていた。
実に美味しそうに食している、気に入っているのなら良いが・・・。
ラットラー達も無邪気にがっつく蕾に気を良くしたのか次々実を運んで来てくれる。
微笑ましいが、果物がなぁ・・・。
ガルダも手が止まっているが、此以上は不審がられるだろう。
大丈夫、梅干にしか見えなかったウメーだってあんな美味しかったんだ、此だって。
思い切ってセレも其に齧り付いた。
途端口中に広がるねっとりとした味、思ったより弾力があって噛み切り難い。
でも一度噛み切れるとどろりと崩れて舌に残る。此は・・・、
「ガルダ、今直ぐ其を捨てろ。」
「あ・・・うん、有難なセレ。」
全てを察してガルダはそっと其の毒物を近くのラットラーへ渡した。
そしてこっそり二柱は時空の穴から取り出したウメーを食べる事にする。うん、口直しには最適だ。
勿論味音痴な鳥や蕾には与えない、此は貴重な食糧だ。
まさか本当に不味いとは・・・斯う言うのは普通見た目は彼だけど美味しいと言うのがセオリーじゃないだろうか。見た目と味が同じなら其は只の毒である。
「ふぅ・・・御中一杯になっちゃった。有難う皆。」
「イエー、喜んで貰えて良かったです!」
すっかりラットラーと蕾は仲良くなったらしくセルフモフモフを楽しんでいた・・・。
羨ましい、が自分は同じ釜の飯を食べられなかったんだ。其の資格は無いな。
「如何だ蕾、直ぐ食べたけれども、前も此を食べた覚えはあるか?」
「あ・・・然う言えば、うん、何か懐かしい味がするね。」
「成程、一応手掛かりにはなるか。」
こんな毒物を食して大きくなったのだろうか。
いやまぁ全く食べられない訳じゃあないが、彼を食べる位なら自分は絶食を選ぶ。
前世でだって屹度然うしただろう。其位不味いと言うか躯に悪そうな味がしたのだ。
「アラ、若しかしてそろそろ行ってしまうのですか?」
「うん、俺の家探して貰ってるから。其に此の島だと彼奴等に近いし・・・。」
思い出してしまったのか僅かに蕾の背が震える。もう捕まりたくないと大きく首を左右に振った。
「じゃあ行くか。休めたし、結構行けそうだな。」
「噫、ラットラーも有難う。一応気を付けてくれ。」
「エェ、皆さんも良い旅を!」
何度か鳴き交わしてラットラー達は飛び立って行った。其の背をじっと蕾は見遣る。
「あんな風に飛べたら俺ももっと早く行けるのに・・・。」
「ククッ、今から又ガルダに乗って貰うぞ。思う存分飛び回れるな。」
「う、乗せて貰うのは違うんだよ!其に慣れていないし。」
適当に話していると又蕭森の端に出た。用は済んだので早く次の島へ行く丈だ。
「取り敢えずはもっと降りて行くか。」
「だな。ほら彼方の島とか如何だ?」
ガルダが指差すは、小さな山がある小島だった。
「へぇ、面白そう。俺も彼方が良い!」
食べて元気でも出たのか蕾は随分活発になっていた。目を輝かせて島を見詰める。
「じゃ俺に乗ってくれ。緩り飛ぶからさ。」
「う、うん。」
でも飛ぶとなると又小さくなってしまう。未だ慣れるには時間が掛かるのだろう。
其でもしっかりとガルダの背に手を掛ける。
「良し、じゃあ行くぞ!」
二つの影が飛び立ち、少し先にある島を目指す。
此処からでも分かるが島全体が一つの山であり、豊かな蕭森を形成している様だ。
少しずつ羽搏き、旻を目指す。足が浮き、緩やかに旻へ。
幽風が無いので飛び易い、此の様子なら・・・、
「っガルダ下がれ!」
少し前へ行っていたセレが急に鋭く声を上げる。
「⁉何だセレ、」
言われた通り一度羽搏いて下がるが、蕾の事もあるので余り大きくは動けない。
だが下がった所で目の前を一つの影が過った。
旻から落ちて来た其を目で追えるか如何かの内にもう一つの影が過る。
其の影は、何とセレと激しくぶつかり合ったのだ。
瞬きの間に随分と事が起き過ぎてつい固まってしまう。
何が起きた、一体何が、
ぐらりとセレの翼が傾ぎ、影と一緒に落ちてしまう。
いけない、此の儘じゃあ、でも俺も下がる訳には、
「ガルダ!此処は私が喰い止める。だから先に行け!」
落ち乍らしっかりとセレは俺の目を見ていて、其処で初めて何が起きているのか俺は理解した。
「ガルダ、まさか此奴等って、」
蕾がギュッと爪を立てる。緊張しているのが伝わって来た。
然う、落ちて来た影は鳥の様だったのだ。
二羽の大きな怪鳥、でも恐らく只の鳥じゃない、もう追って来たのか。
「早く行けガルダ!」
「っ分かった、セレ気を付けろよ!」
流石に蕾を連れてじゃあ無理だ。一度離れて態勢を整えないと。
「蕾、一寸スピード上げるぞ、掴まってろよ。」
「え、セ、セレ気を付けてっ!」
「噫、後で合流しよう。」
然う言う間にもセレはどんどん下へ落ちて行く。
駄目だ、今は兎に角逃げないと。
少し翼を傾け一気に島へ向けて加速する。
実際セレは追っ手を抑えてくれたらしく、追撃される事はない。
急ぎガルダは蕭森へ隠れる様に飛び去った。
「そんなに彼の子が欲しいか。」
翼を傾げ、一気にセレは旻へ戻った。其処には自分達を急襲した二柱の神が居る。
でも最初の一撃を躱されてしまい苦しい状況の様だった。
見た所二柱は隼に似た姿をしていた。先も翼を畳んで急降下して襲って来たのだろう。だから波紋外から攻撃された。
見事と言わざるを得ないスピードだったけれども所詮出来るのは不意打ちの其の一撃丈だ。
蕾は護れたから十分と言えようか。自分も彼の鋭い爪で斬られ掛けたが、何とか此の腕で応戦出来た。
二対一だろうが関係ない、狩る丈だ。
「くっ、落とせはしないか。」
「代わりに御前の翼を捥いでやろうか。」
同じクルスティード尖塔の奴等だ。胸元を覆う鎧をしているので直ぐ分かる。
そんな鎧一つで何を護れる。只重い丈だろうに。
「もう一度丈聞こうか。如何して蕾を狙うんだ。」
僅かに二柱は顔を見合わせて少し下がった。
分かる。此奴等・・・自分に怯えているんだ。
舌舐りしたくなる感情だ。其が漂って来る、意識をすると見えて来る。
成程・・・自分に向けられた感情が読めるのだろうか、表情で分かり難くても関係がない。
此が精霊、感情を司る精霊の感覚と言う物だろうか。
ノロノロにも其の辺り聞かないとな。もっと有用性がありそうだ。
「次元が滅ぶなら、貴重な一族を護ろうとするのは当然だろう。」
「貴重か。御前達の所為で酷い目に遭ったと彼奴は困っていたぞ。」
「先に酷い事をしたのは御前だろうに。」
キッと睨まれてしまうが、うん其は否定出来ないな。
此の次元で何をしてしまっただろうか・・・何となく憶えはあるが、はっきりとしない。
其か下手をしたら景色が変わってしまう位激しく暴れてしまった可能性は否定出来ないが。
「其は然うだが、将又此処で変な実験でもしているんじゃないか?例えば・・・神を創るとか。」
此は只の鎌かけだ。蕾が獣になんてされたので適当を突いた丈。
でも二柱は言葉に詰まって僅かに首を傾げた。
動揺している風だが此は・・・知らない?本当に的外れと言う可きか、そんな反応か?
「神だと。一体何のつもりだ。」
「何か企む気なのか。」
二柱の声が小さくなる・・・此は明らかに知らないな。
実験其の物にも難色を示した風にも見える。本当に只蕾が欲しいのか。
其にしても今回の奴は割と話してくれるな。まぁ自分がずっと逃げない様牽制しているから動けないのもあるだろうが。
向こうも邪魔に入って来た自分達の目的が分からず様子を見ているのかもな。まさか次元を救いに来たとは思っていないんだろう。
自分なんて只の化物にしか見えないだろうし、そんなのと正面から向かい合わされているのだから。
何にしても時間が稼げたのは大きい、後は此奴等を消す丈だ。
隼だなんて生かすと厄介極まりない。上から狙われ続けるのは勘弁だからな。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
自分の詠唱に二柱は顔を上げる。そして飛び立とうと翼を広げた。
「慈紲星座。」
まさか彼の気高き塔の奴等が逃げる気か?そんな勝手は赦さない。
両手に蒼い曦を集める。零星達が煌めく。
さぁ此は御前達にとっての凶兆だ、昼の零星だなんて面白くない物はない。
武器化させても良いが・・・今は其処迄求めないな。其より有効的な使い方をしようか。
いよいよ奴等は空気を察してか飛び始める。
速い、が先程じゃない。矢張り急降下が優れている種なのだろう。
最初の一撃、其が失敗すれば後は只の鳥だ。自分の敵じゃない。
只蕾をコレクションか何か連れ帰りたい丈、其で襲って来た丈なら対処はし易い。
将又実験絡みは勘弁だからな。魔力抑制剤なんて持っていたら。
飛び立つ鳥の背を追い乍ら手を伸ばす。其の先へ零星を沿わせる。
然うだ、今小腹が空いている。丁度良い餌じゃないか。全て奪ってしまおうか。
唱える迄もなく零星が黔く染まる。そしてあっさりと鳥の足へ絡み付いた。
「っ⁉ギャァアアアア‼」
足を掴まれた丈で一羽が叫び出し激しく羽搏いた。だが其以上舞う事は出来ない。
透かさず追い付いた別の零星が其の翼へ喰らい付いたからだ。
零星が走ったと思えば肉は引き裂け、血は溢れる。でも其すら闇に吸われて見えなくなる。
喰らえ、喰らい尽くしてしまえ。
忽ち闇が全てを覆う。今迄みたいに只斬るのではない、零星が喰らっているのだ。
魔力も血も肉も細胞の一つなら、自分の意志が及ぶなら求める丈。
魂も全て奪ってやるさ。自分の前に立つと言う事は然う言う事だ。
相方があっさり喰われ、無残な姿へ変えられて行く様をもう一柱は後ろ目で見ていた。
そして悲鳴を背に益々飛び上がる。
神であれど恐怖は持つ物だ。間近であんなにも死を見せ付けられたなら。
加えて彼等は聞いた事があったのだ。彼の化物に殺されると、次元であっても死ぬのだと言う。
存在を否定される、消されてしまう。如何言う訳か全て破壊されると。
だからおかしかったのだ。何故次元へ行った仲間達が戻って来なかったのか。
此奴が・・・殺して回っているからだ。こんな風に殺し尽くして次元の迫間への道すら絶たれて。
そして屹度永遠に、奴の中で繋がれてしまうのだ・・・。
其の考えが頭を過ってぶるりと鳥は震えた。
だが無情にも彼の視界の端で瞬く物がある。
其を確かめる間もなく、闇が覆い尽くして・・・、
「こんな物か。随分あっさりしていたな。」
軽く羽搏くと神を平らげた零星達が集う。
其を回収するが、大した腹の足しにはならない。まぁ並の神ならそんな物だろう。
今はガルダ達も居ないのでそっと時空の穴から小瓶を取り出した。
直ぐ様中身を煽る。・・・噫、此の味だ。
全く違う、只の血の一滴でもこんなはっきり差が出るなんて。
此の様子なら他にも絡まれそうだから補給はしたが、其でもガルダの血丈は違い過ぎる。
矢っ張り、此を手放すのは無理なのだろうか、今更足掻くのは無駄なのだろうか。
でも抗う事其の物に意味はあると信じたいけれどな。
零星を落ち着かせて全て自分の内へと収める。
・・・追撃は来ないか。彼の二柱丈だったのだろうか。
纏めて来てくれたら全て潰してやるのに。相変わらず様子見が好きな奴等だ。
一応ガルダ達とは少し後に合流するとしようか。自分の存在はばれているだろうし、少し丈別の島へ行って誘い出そう。
一度口元を舐めるとセレは適当な島へ向け羽搏くのだった。
・・・・・
はい、前からそろそろやっときたいなぁと思っていたBDE‐01とZ1-Θの融合、遂に果たせましたね。
正直ぼちぼちセレには必要のない物になりつつあったので良い機会かなと、けれどももう一回位彼女をぶっ壊してあげたかった野望はあります。
だから多分何処かで無理矢理捻じ込みます。君の零落れた姿が見たいのよ…フフフ。
見返すと中々激動な感じの次元ですが、彼等の活躍や如何に?と言う事で後半もガツガツ行ってみましょう!




