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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
90/140

64次元 生贄の血が誘う黔の迷宮の次元

 今晩は、校正さぼって遅くなりました-Sare-です。

 と言うのも今作出したら今年は終わりかな、と思ったらまさかの次のも書き終わってしまって、じゃあ出すか!となりました、やったね!

 だから次週も出します。今年最後に、一番胸糞ストーリーを御届けします。

 さて、今回の御話ですが、大分役者が揃って来た感じです。

 (大分脱落もしたけれど。)

 其をしっかり実感できて良かった、そんな話ですね。

 り気、伏線漏れがないかドキドキしていました。適当に書いたのがばれる前に修正しないと。

 ではでは、キャストの多い今回も御楽しみに!

裏切り者 裏切り者

噫、私を待たずに行った御前は裏切り者だ

信じれば、信じた分丈堕とされて

頼れば、頼った分丈遠くへ行く

もう其の(ヒカリ)も此の無限の闇の中では見えまいよ

残るは此の(アカ)

貴方の裏切りの証である此の刃丈

   ・・・・・

「ん・・・う、」

薄く目を開け、ガルダは小さく伸びをした。

 躯が重い、いや原因ははっきりしてるけど。

 気怠そうに起きた彼は一つ溜息を付く。

 此は面倒な事になった。無視したいけど、でも然う言う訳にも行かなくて。

 ベッドから起きると、彼はさっと窓掛(カーテン)を閉めてしまった。

   ・・・・・

「ん、ガルダ御早う。」

「噫御早うセレ。」

部屋を出るとセレが朝餉の準備をしていた。

 俺より早く起きて準備しているのは一寸(チョット)珍しい。けれども此処数日の彼女はこんな具合だ。

 と言うのも何でも先日行ったモフモフランドの御蔭だとか。

 眉唾物の話だけれども、彼女はモフモフランドで十分癒された影響で生活が少し改善されたらしい。

 加えてずっと上機嫌だ。そんな彼女を見ていると此方も嬉しくなって来る。

「キュムリ、イィ!」

俺の気配に気付いたみたいでレインが窓から顔を覗かせた。

 其の口には魚が銜えられている。朝食用に捕って来てくれたみたいだ。

 最近レインは俺にも懐いてくれているみたいで、良くこんな風に手伝ってくれる。

「お、有難なレイン。」

「キュ、キュキュ。」

「はい、じゃあ此朝御飯だ。」

魚を四匹受け取ると、セレは自分の甲を一つ抜き取った。

 するとレインは其の甲を銜えて呑み込んでしまう。

「・・・え、」

「良し、活きが良い魚だな。(アサ)から魚なんて贅沢だなガルダ。」

「え、セレ待って、今の何、何したの。」

思わずセレとレイン二柱の顔を交互に見遣る。でもレインの表情はその・・・分かり難い。

「何って、レインに甲を食べさせたんだが。」

「ナチュラルにとんでも風景流すなよ!」

思わず大きい声を出すと彼女は耳を下げて魚をキッチンへ持って行ってしまう。

 勿論後を追うけど、頭が働かない内に今のは反則だと思う。

「別にレインにも御飯をあげないといけないだろう。私達と食料が違うって丈で。」

「だからって何で甲あげちゃうんだよ・・・。」

其別に換金アイテムじゃないからな?良く最近の彼女は其を交換材料に持ち出すけど。

 甲も立派な彼女の一部なのでもっと大切にして欲しい。(ソモソモ)(アレ)は彼女の血だ。

 何だか自分の家族に血を飲ませるのも・・・なぁ。

「何でってレインは(クロ)い物を食べるからな。私も最初は戸惑ったが、ほら、美味しそうに食べてくれているだろう。」

ちらと見遣ると確かに、レインは飴か何か転がす様に口を動かしていた。

 す、凄い()の甲食べられるんだ。堅くて棘々してるけど大丈夫だろうか。

「元々私の抜け落ちた甲を撮み食いしていたらしくてな。すっかり味を覚えてしまったらしい。害は無さそうだし大丈夫だとは思うが。」

「う、うーん。」

何だか、何だかなぁ。

 受け入れられない(ママ)に俺は魚を捌き始めた。

 セレは此の心得は無いので俺に任せている。其の間に何かスープでも作ってくれるだろう。

「何だガルダ。言って置くが、やってる事はガルダと一緒だからな?」

「え?俺別に変な物レインに喰わせてないぞ?」

「変って・・・私に食べさせてる癖に。」

苦笑されて初めて合点が行った。う・・・其処を突かれると痛い。

 確かに其を変な物呼ばわりするのは良くないな。

 いやでもセレとレインの一件は一寸(チョット)違うと言うか・・・レインは他の物も食べられるし・・・。

 俺の納得行かない顔を見たのだろう、彼女は小さく笑っていた。

 機嫌が良いのは、今日もみたいだ。モフモフの力って凄い。

 話に聞いた時は驚いたけれども、モフモフランドと言っても何と其処はローズの故郷、古獣の国だったと。

 聞けば聞く程一緒に行きたかったと思う(バカ)りだ。結構荒ぶっているセレが見られたらしい。火鼠が然う報告してくれたんだ。

 千代に上手くやられた具合だけれども、うん、まぁ然う言う事なら良かったんじゃないかな。

「・・・良し、悪いがガルダ味見してくれるか?」

「ん・・・良いんじゃないかな、うん。」

さっぱりしたスープにサラダと焼き魚とフルーツもあるし、十分だろう。

 良い(アサ)の始まりの予感だ。・・・あんな事が無かったらだけど。

 まぁでも取り敢えずは(ユック)り話して其で・・・、

「然う言えば、そろそろ次元行って来るよ。折角誘われたし、飃達と行こうと思うんだが。」

「え、誰と行くって?」

思わず皿を運んでいた手を止める。まじまじと彼女を見詰めたが、頸を(スク)めて笑われてしまった。

 いやあの、笑われても困るんだけど。

「別に普通に次元にだぞ?」

「い、いや前何があったか忘れた訳じゃないんだろ?」

つい重ねて確認してしまう。だって・・・だってなぁ、

「別に彼奴は仕事に私情を挟まないだろう。其は分かっているよ。まぁ弱点を知られない様気を付けないといけないがな。」

一体何処から来る信頼なのだろうか。裏切られた(バカ)りの筈なのに彼女は其でも信じていた。

 凄い本当に。勘なのか知らないけれども、自分で何言ってるのかちゃんと分かっているのか気になってしまう。

 ()うなったら・・・無理にでも切り出すか?

 唸り乍らもガルダは配膳を進めて行く。一寸(チョット)遅く起きてしまったのか、皆食べてしまっているのかも知れない。一応二柱分丈・・・、

 皿を置き掛けた所で視線を感じた。スーだ。スーが床下の自室から顔を覗かせている。

 ・・・彼の分も準備して置こうか。

「・・・言いたい事があるなら今の内だぞガルダ。」

喉の奥で笑い乍ら彼女は席に着いた。伸ばされていた尾が焦らす様に振られる。

 そっとスーも席に着いた。匂に誘われたのだろう。

「えーっと・・・、」

はっきり行くなと言うのは簡単だけれども、其じゃあ彼女は折れないだろう。もっと彼女の気を引く話題が必要だ。

 でも果たして()を言う可きか如何か・・・。

 えぇい、先ずは言ってしまおう。

「あのセレ、其に行くよりは一寸(チョット)用事を御願いしたいんだけど。」

「用事、何だ?店の事とか二柱に任せっ切りだし、頼まれ事なら。」

ちらとスーもガルダを見遣ったが、焼き魚に(カブ)り付いた。

 食前の挨拶を促すのを忘れてしまった。まぁ今其所じゃない正念場だからな。

 因みに彼は案外魚が好きらしい。嬉しそうにがっついている。

「その・・・丗曦が、セレと話してみたいってさ。」

何度も躊躇いつつも然う言うとピンとセレの耳が立った。

 如何やら此の話題は随分と彼女の心を掴んだ様だ。

「丗曦って彼奴か?一体如何言う風の吹き回しだろうな。」

―応じる事も無いだろうそんな奴の事。―

余りにも丗闇が冷たい。余っ程嫌われてしまっている様だ。

 まぁ・・・(ムシ)ろ好かれる様な事もしていないしな。

「俺も良くは分かんないけどさ。夢に彼奴が出て来て、まぁ色々確認したいから御前と話してみたいってさ。」

夢ではあるけれども本当の事だろう。

 前出て来た時と良く似た夢だった。多分彼奴が創った(シロ)の空間なんだと思う。

 久々に出て来た気がするけど、変わらず用件丈言うんだよな。

 黙って置こうかとも思ったけど、そんな事したら何されるか分からないし、でもセレに言ったら・・・、

「良いじゃないか。じゃあ其方を優先しようか。」

ほら矢っ張り、あっさり安請け合いをした。

 分かっていたから言いたくなかったけど、ううん・・・。

 飃と次元に行くのと丗曦と会うの、危険度は変わらない気がする。(ムシ)ろ丗曦の方が手に負えないかも。

 でもセレは嬉しそうな(ママ)で、警戒しているかも怪しい。

 分かってはいたけれど、複雑な気持だ。

 ガルダが溜息を付くとセレは苦笑を浮かべた。同時に丗闇の弥次(ヤジ)が飛ぶ。

―御前は何で然う、自ら危険の芽を育てるんだ。―

「そりゃあ楽しそうだからに他ならないよ。こんなイレギュラーは大歓迎だ。」

「うーん・・・まぁ勿論俺も同席するからな。」

「ん?然うか。其なら心強いな。」

―・・・・・。―

「・・・丗闇は駄目だぞ?」

―何故だ。御前丈で如何にかなる奴じゃないだろう。―

「でも彼奴は変わらず丗闇とやり合いたいんだろうし其を態々(ワザワザ)会わせるのもな。」

丗闇も心做(ココロナ)し喧嘩腰だし、絶対良からぬ事が起こるのは必至だ。

「私と丗曦が話して、何とか平たくなりそうなら出ても良いが・・・。」

―・・・・・。―

何だか煮え切らない様な沈黙だ。

 心配してくれているのは嬉しいけれど、矢っ張り丗闇が出るのは不味い気がするな。

「其に丗曦は私と話したいって言ったんだろう?流石に御喋りと殺し合いを同列に語る奴じゃないだろう。」

「俺も然うだとは思うけどさ・・・。」

其でも何する奴か分からないからな。安心は一寸(チョット)出来ない。

 まぁでも・・・んー・・・。

「・・・ん、此は。一寸(チョット)意外な客かも知れないな。」

「誰か来るのかセレ。」

「噫、フリューレンスだ。遊びに来たんだろうが。」

こんな直ぐ来るなんて随分可愛い奴である。

「キュ、キュムル、」

「やぁセレ、御邪魔するよ。」

レインがドアを開けてやるとひょっこりと顔を覗かせて来た。

「噫良く来たな。早速遊びにか?」

「うん、然うだけど・・・御飯時だったみたいだね。」

「然うだな。悪いが一寸(チョット)待ってくれないか?其にしても・・・御前店の中入れるか?」

顔丈扉から覗かせているが、此奴は随分大きしい、大丈夫だろうか。

 折角来てくれたのに外に居させるのも悪いしな。

「其なら大丈夫だよ。僕は心の龍だよ?」

然う言うとフリューレンスの全身から仄かな(ヒカリ)が放たれた。そして其の(ヒカリ)が収まって行くのと同時に彼の姿も小さくなって行く。

 暫くして掌サイズ迄縮んだフリューレンスは机の上へと降り立った。

「っ⁉え、あっ、リュ、龍しゃんがっ!あ、あっ、」

何故小さくなってもスーが怯えているのか分からないが、フリューレンスは我が物顔で首を伸ばしていた。一応御客さんなので御茶位は出してあげて欲しいんだが。

「そんな事も出来るんだな。」

「勿論、僕は此の(タマ)が本体だからね。」

中心に輝く(タマ)を反らす様に見せてくれる。

 相変わらず中々特殊な龍だ。まぁ心の中だなんて物に入れるんだし、彼も概念に近い所で存在しているのかも知れないな。

 ガルダもすっかり彼に見入ってしまっている。不思議な存在である事に変わりないからな。

 其処ではっと弾かれた様にスーが席を立った。慌てて茶と菓子を持って来てくれる。

「わぁ、歓迎してくれるんだ。有難ね。」

「ゆ、(ユック)りして・・・く、くださいね。」

じっとフリューレンスは未だ怯える彼を見詰めていた。

 又候(マタゾロ)心でも見ているのだろうか、其は一寸(チョット)止めないと。

「フリューレンス、分かってると思うが、」

「大丈夫心の中迄は見ていないよ。只君も変わった形をしているなって思った丈だよ。」

「え、え?心の・・・中?」

「フリューレンスは心を司る龍だから心を覗き見たり出来るんだ。」

神聞(ヒトギ)き悪いけど、ま、其の通りだね。でもこんな風に家の中へ招いてくれるのは珍しいから何だか新鮮だよ。」

然う言ってフリューレンスは紅茶に口を付けていた。一応飲む事は出来るみたいだ。

「ん、然うなのか。色んな奴の中に入ったりしたんだろうし、家に入る機会は其処其処あったんじゃないか?」

「僕は何方かと言うと夢に出たりとかして実体を現す事は(ホトン)ど無いからね。招かれても其は・・・例えば神格化されたりとかが多いよ。だからこんな風に御茶とか出るのは(ホボ)初めてだよ。」

「神格化・・・ふーん、龍ってのも大変なんだな。」

「少し榔に近い物があるかも知れないな。」

「え、噫確かに。然う言う特別扱いも大変だよな。」

神格化、と言うと祀り上げられたりしたのだろうか。確かに彼なら有り得るだろうな。

 彼は次元の歴史の節目に出て来る事で有名だ。人を導き、革命や勝利を(モタラ)したりすれば神格化されるのも不思議ではない。

 事実力の(ツヨ)い龍なんだし、()落龍の詠(ルル フィス)も彼が止めた様な物だからな。

 焼き魚を口に運ぶ。うん、前世では考えもしなかった豪華な食事だ、つい嬉しくなる。

「・・・何だか今の君は随分と機嫌が良いね。何か良い事でもあったのかな。」

「別に何時もこんな具合だ。決してモフモフの御蔭ではないぞ。」

思わず口を滑らせてしまった。ガルダが苦笑してしまっている。むぅ。

「モフモフね。分かったよ。所で・・・、」

キョロキョロとフリューレンスは首を伸ばしている。小さくなった為か何処かあざとく見えるな。

 誰かを探しているのだろうか、ん、でもフリューレンスの知り合いなんていただろうか。

「あの、丗闇漆黎龍は居ないかな?僕()の神に会いに来たんだ。」

「ん?然うだったのか。丗闇か、でも何で、」

然う言えば一度会っているんだったか?確か落龍の詠(ルル フィス)で自分の心に入って来た時に。

 丗闇やアティスレイが出て来て色々凄い事になっていたらしいが、如何(イカン)せん自分は知らない事だからな。

「うん、前一寸(チョット)会ってね。何だか話してみたいなって思ったんだ。」

へぇ、此は珍しい。いや()う思うと丗闇に失礼だろうか。

―・・・取り敢えず御前が然う思った事自体には腹が立ったな。―

 おぉ、相変わらず丗闇は繊細だ。其にしても丗闇と・・・か。

 何にしてもガルダだって固まる程驚いているし、(アレ)(アレ)で失礼だろう。意外な指名に彼も固まってしまったに違いない。

「まぁ丗闇が良かったら私は構わないけれど・・・別に心を盗ろうとかはしないな?」

「フフッ、もう心配要らないってば。そんな事はしないよ。只、話してみたい丈だよ。」

―・・・と言う事だが如何だ丗闇?―

―然う言う約束はしたからな。我は構わない。―

「おぉ丗闇もOKか。じゃあ丁度良いじゃないか。」

「え、丁度良いって、何かあるのかセレ。」

ガルダからしたらOKが出た事も少なからず驚きだっただろうが、そんな顔すると丗闇に怒られるぞ。

「ん、ほら丗曦と話すのに、私とガルダ、丗闇とフリューレンスで丁度良いかと思ってな。」

「何か用事があるのかな?だったら僕は日を改めても良いけど。」

「いや、丗闇と少し離れなきゃいけない事があったから(ムシ)ろ良いタイミングだと、」

―我を厄介払いみたく扱うとは良い度胸だな。―

「そんな事はないぞ丗闇、丁度良いと言っているじゃないか。」

「まぁ・・・然う、かな。」

少し苦い顔をしたがガルダも頷いてくれる。ほら完璧だ。

 丗闇とフリューレンスが一体何を話すのか興味はあるがプライバシーはあるからな。

―・・・・・。―

又煮え切らない様な沈黙が流れているが、まぁ良いだろう、うん。何も言わないと言う事は了承してくれたんだ。

「じゃあフリューレンス、少し丈待ってくれるか。此食べたら場を整えるから。」

「うん勿論だよ。フフ、宜しくね。」

然う言って彼は菓子を頬張るのだった。

   ・・・・・

「新しい次元着いたよ!」

転がる様に出て来たZ1-Θが(ユック)りと宙に留まり辺りを見遣る。

 其処へ遅れて飃と鏡もやって来た。少し高い所からの顕現だった丈に軽くジャンプする様に現れる。

「着いた、でも(クラ)い。見えない。」

鏡が言う通り辺りは本当に暗闇で自分達の足元だって怪しい。

「ア!ジャア僕が明かりになるよ。」

くるりとZ1-Θが一回転すると眩しく中心から光り始めた。

 薄く卵型の殻が透ける様で、ぷかぷか宙に浮かぶ様はインテリアの様にも見える。

「あ、有難う御座いますZ1-Θさん、此で何とか・・・、」

如何やら飃は(アサ)の彼らしい。座り込んでいたので(ユック)り首を振る。

「後は・・・あれ、ベールさんは・・・っ⁉え、あっ!御免なさいベールさんっ!」

辺りを見ようとして慌てて飃は跳び起きた。そんな彼の下でベールは伸びてしまっていたのだ。

 (ウツブ)せの(ママ)動かない彼に取り敢えず飃は手を差し伸べる。其処で初めて鏡も彼の事に気付いたらしくそっと彼の胴を掴んだ。

「う・・・あ、す、済みません。」

起き上がった彼は一応無事の様だ。苦笑を漏らして頭を押さえた。

「ア、僕が最初に潰しちゃったかも、御免ね。」

「大丈夫だよ。踏まれるの好きだから。」

「す、好きなんですか・・・?」

確かZ1-Θさんは途轍もなく重いと聞いた気がするのに良く無事だったと思うと同時に先の返答は聞かなかった事にしよう。

 ・・・うん、其の方が良いと良く分からない勘か予感が働いている。

 今一度辺りを見遣る。Z1-Θさんの御蔭で可也見え易くなった。

 でも見えた所で余り景色に変化が無いと気付いてしまう。何故なら四方を(クロ)い壁に囲まれていたからだ。

「・・・天井低い、飛べない。」

ちらと見上げて鏡も降りて来る。一気に閉塞感が込み上げて来た。

 一体此処はどんな次元なのだろう。何かの建物内の様にも感じるが。

 良く見ると通路はある様なので完全に囲まれた訳ではない。只何処も真黔マックロなので可也視認し難いのだ。

「セレなら波紋で見えたけど、残念だったね。」

「然うですね。でも用事なら仕方ないですよ。」

何やら彼女は大事な用が入ったらしくて誘ってはいたがキャンセルされてしまった。

 (ヨル)の彼が誘った訳だが、自分からしたらあんな事があったのに良く誘ったと思うし、彼女も彼女で良く受けたと思う。

 自分は後から事情の全てを記憶として受け取った丈だが、其でも今日は彼女と行かなくて良かったかも知れないと思ってしまった。

 こんな風に自分に変わってしまうなら、何もしていないとは言え気負いしてしまっただろう。其程の大怪我を負わせてしまったのだから。

 普通に接しようとしても如何しても()の記憶がちらつくだろうし、何処かぎこちなくなってしまっていただろう、其位なら。

 小さく息を付いて飃は首を振った。

 いや、そんな風に考えたりしてはいけない。兎も角彼は彼なりに頑張ったんだ。(アレ)は彼の目標なのだから応援は出来なくても否定をしてはいけない。

 僕も僕で頑張れる事をしないと。勝手に思ったり考えたりして落ち込んでいる暇はない。

 取り敢えず皆の無事は確認出来たので状況把握だ。

 そっと壁に触れてみる。滑らかでひんやりとした感触だ。

 矢っ張り人工物っぽくは見える。幽風(カゼ)も無いが、此の先は如何なっているのだろうか。

「何があるかな~。」

「あ、Z1-Θさん待ってください!」

好奇心が抑えられずにZ1-Θは先へと行ってしまう。彼が光源なので離れてしまったら御仕舞いだ。歩く事すら間々(ママ)ならなくなってしまう。

 何とか手を付いて一歩ずつ確実に。Z1-Θも余り先へ行き過ぎずに待ってくれた。

「御免ね。僕にしっかり付いて来てね。」

「はい、宜しく御願いします。」

通路を進んでいたが直ぐ曲がり角に行き当たる。其処を曲がるが・・・如何やらうねる様に通路は続いている様だ。

「ウーン(クラ)いね。真直ぐ進んで良いのかな。」

「然うですね。一体此処は何なのでしょうか。」

次元の主導者(コマンダー)の気配は先から感じる。此の(ママ)進んで行けば会えるだろうか。

 不図気になったので振り返るとちゃんと鏡、ベールも付いて来ていた。

 静かだと思ったが、如何やら鏡は炭を齧っていた様だ。時空の穴(バニティー)に入れていた非常食なのだろう。

 暗闇から炭を食べ乍らやって来る彼についぞっとしなくもないが、(ワザ)に其を止める事も無いだろう。

「・・・ア、何方行く?」

少し先に行っていたZ1-Θがくるりと回る。確かにきっちり左右に分かれ道が出来ていた。

「此は・・・一寸(チョット)見てみましょうか。」

次元の主導者(コマンダー)の気配は丁度壁の向こう側だ。一体何方へ進めば良いだろう。

 ちらと其々の道を見てみるが・・・余り違いはない様に感じた。何方も少し先で曲がってしまっているのだ。

「ンー・・・照らしても駄目だね。」

Z1-Θが中心丈でなく前方へ向けライトの様に(ヒカリ)を発したが、其でも先迄は見えない。

「・・・何も、居ないですよね・・・?」

「・・・ワッ!」

「ヒィイイイッ⁉」

恐々角を覗き込むベールの背後でZ1-Θが瞬いた。

 一瞬でも視界が闇に包まれたら驚きもするだろう。ベールの叫びが気に入った様で、Z1-Θは彼の周りを旋回する。

「ベール恐がりなんだー。」

「でも急に怪物とか出たら危ないですよ・・・うぅ。」

「でもでも、今出て来たら一番に喰われるのはベールだよ?」

「だとしても驚かせちゃ駄目ですよZ1-Θさん。」

「ハーイ。」

何処かZ1-Θは嬉しそうだ。しっかり反応してくれるベールを気に入っているのかも知れない。

 でもベールの不安も最もだ。怪物でないにしても何か居る可能性は十分あるだろう、気を付けないと。

「Z1-Θさんも気を付けてくださいね。ぱっくり食べられたら一溜まりもありませんよ。」

「ウン、でも前食べられた時一寸(チョット)楽しかったから大丈夫だよ!僕が前を歩いてあげる。」

「た、食べられた事があるんですか・・・。」

「Z1-Θ(ツヨ)い、食べられても平気。」

確かに彼はロボットだし、耐久はありそうだが、壊れたら自分達じゃあ直せないのは事実だ。

 其にそんな怪物が出たら・・・自分達だって無事ではないだろう。

 いざと言う時は此の(ツエ)(ツッカ)え棒の様にするか・・・そんな事したら彼に怒られ然うだが。

「じゃ、じゃあZ1-Θさん宜しく御願いしますっ。」

食べられた事があると言う経験が如何強みになるか今一分からないが、ベールはしっかりと彼の後ろに付く様だ。

「ウン!いざとなったら水鉄砲で倒してあげるよ!」

然う言って彼は宙へ向け水鉄砲を吐き出す。

 何だか可愛いけれども果たして攻撃にはなるのだろうか。

「・・・此方行きたい。」

暫く通路を見詰めていた鏡が一方を指差した。

「あ、分かりました。皆さんも良いですか?」

特に異論もなく其の道へ進む事にした。兎に角今は進むしかないのだ。

 其に鏡は幸運の神とも聞いたし、若しかしたら早速効果があるかも知れない。

 暫く其の通路を進むが、変わらず(クラ)くて狭い一本道だ。

 でも誰も引き返そうだとかは思ったりしないだろう、戻った所で大差はないだろうから。

 只()うも曲がったりを繰り返すと何だか・・・。

「・・・若しかして此処は迷路なのでしょうか。」

もうすっかり平衡感覚は狂ってしまっている。何処かの建物ならこんな入り組む必要もないだろう。

 只通路が続く丈なら此は立派な迷路と思われる。

「迷路、確かに。こんな迷わされたら其だとは思うけど、初めてだから何とも。」

「大きな炭の中みたい、楽しい。」

「ジャア出口に御宝あるかも!」

二柱は随分とポジティブだ。一寸(チョット)見習わないといけないかも知れない。

「然うですね。然う思って進んだ方が楽しそうですね。」

先ずは次元の主導者(コマンダー)探しだけれども、気配は近付いている気もするし前進しているんだ。

「っ!皆ストップ!」

突然のZ1-Θの声に背が伸びる。

 慌てて視線を上げると、少し先の床が変化していた。

 思わず生唾を呑み込む。其処にあるのは鋭利な棘の山だった。

 足の踏み場もない位びっしり並んでいる。歩いて渡るのは無理だろう。

「う・・・此は、」

「僕一寸(チョット)見て来るよ!皆待ってて!」

Z1-Θは元から浮いているので気にする事なく棘の上を渡って行く。そして数mもしない所迄行って戻って来た。

「ウン、そんなに長くないけど、如何する?渡る?」

「引き返す位なら行きたいですが・・・。」

渡るにしても飛べるのはZ1-Θと鏡丈だ。自分とベールは渡る事が出来ない。

「?飃は(ツエ)に乗って飛べば良いんじゃないの?」

「今の僕は此の(ツエ)が使えないんです。魔術が得意ではなくて・・・。」

魔力の感知だとかは出来るが、扱うのは苦手だ。自分の本来の属性が分からない程希薄になっていたのだから。

「魔力だったら僕手伝えるよ。仲間も居るから、一緒に飛ぶ?」

「そんな事が出来るんですか?」

然う言えばZ1-Θさんは機械と言う訳ではなく、元々魔力だったか。

 魔力が喋っているのも不思議な感じだけれども、試してみる価値はあるだろうか。

 自分が飛べたらベールさんも後ろに乗せられるし・・・一寸(チョット)頑張ってみようか。

 試しに(ツエ)(マタガ)ってみる。不思議な感覚だ。彼の見様見真似だけれども。

一寸(チョット)集中しててね!皆に聞いてみる!」

然う言うとZ1-Θは独特な明滅を繰り返す。

 (アレ)で魔力と交信しているのだろうか・・・。

 因みに(アサ)の飃は魔力だとかの声は聞こえない。(ヨル)の彼程感覚は鋭くないのだ。

 記憶も何も無いのだから確信すら得られないが、術を使った経験すらない様に思う。手に残る感触だとかも真新しいのだ。・・・勿論躯も次元も異なるから猶の事だろうが。

 何とか練習自体は繰り返して時空の穴(バニティー)位は創れる様になったので、全く魔力が無い訳じゃないだろうけど。

 矢張り()うして意識して術を使うのは慣れない、今からでもしっかり覚えないと。

 意識を(ツエ)へ向ける。彼みたいに飛び回るイメージを持って。

 するとちりちりと髪が揺れた気がした。

 感じる、魔力が集って行く様を。自然の幽風(カゼ)とは違う。

 其の(ママ)ゆるゆると(ツエ)は浮かび始めた。足が地から離れて思わず飃はつんのめる様に揺れてしまう。

「す、凄い飛べてる・・・っ。」

不思議な高揚感に包まれて躯が熱くなる。

 しっかりと手から伝わる魔力、此の(ツエ)を本来の意味で使ってあげられる。

 思わず生唾を呑み込んで手に力を込める。飛行は安定した様で、宙に静止する事が出来た。

「ウン大丈夫だよ!皆も慣れたみたい、手伝ってくれるって。」

「あ、有難う御座います。」

口で言って伝わるかは分からないが、でも此が魔力の力なんだろう。

 今にして初めて実感出来た。声は聞こえないが確かに魔力は傍に居るのだろう。

「ジャアベールは僕の上に乗って!此で皆で行けるよ!」

「え、あ、僕其方に乗るんだ・・・。」

「あ、あの僕の方も(ツエ)、空いてますよ。」

「大丈夫だよ。前ベール練習したもんね。」

「う、うん行ける大丈夫・・・。」

全く安心出来ないが低くなったZ1-Θの上へベールは腕を回し、抱き付く様に掴まる。

 一応前の経験が活きてかZ1-Θの出っ張りに手を引っ掛けて掴まっている。

 Z1-Θも転がらない様慎重に浮かび始めた。もうベールはギュッと目を瞑っている。

 飃も何か声を掛けたいが何ともハラハラする光景だったので固唾を呑んで見守る事にする。

 手助けはしたいが此方も手一杯なのだ。少しふら付いたので今一度集中して安定させる。

「じゃあ皆行くよー!」

(ユック)りとZ1-Θが進むので其に合わせて(ツエ)を滑らせる。

 そんな自分の頭上を何とも自由に鏡は飛び回っていた。彼処迄扱える様になるのは何位(ドレクライ)先だろう。

「・・・ウン!棘無くなったよ!皆降りて来て。」

「わ、わぁあああっ!って、」

着いたと(バカ)りにくるりとZ1-Θが一回転してしまったのでベールは振り下ろされてしまう。一応棘は無かったので尻餅程度で済んだ様だ。

「ア、然うだった。御免ねベール。」

「ベール、此、元気出る炭。」

「う、うん、有難う。」

良く分からない(ママ)にベールは差し出された炭を受け取る。そして促される(ママ)口に銜えていた。

 ・・・美味しくはないと思うけど、其の(ママ)にしてあげようか。

「・・・ふぅ、無事付きましたね。有難う御座います。」

そっと(ツエ)から降りてみる。其でも不思議な感覚が手に残っていた。

 此が魔術、何時も彼は()うして飛んでいるのか。

 じんわりと熱くなる掌を見詰める。何だか足が未だ浮いている様な。

 屹度・・・此の感覚はずっと忘れないだろう。

「皆楽しかったって。又頼んだら乗せてくれると思うよ。」

「はい、其の時は宜しく御願いしますね。」

今の感覚を忘れなければ、何時かちゃんと飛べる様になるかも知れない。出来て損はないのだから練習しても良さそうだ。

 何とか関門は抜けた。渡った先も通路が続いている様だが。

 飃が見上げると、又ベールは先の角を恐々見遣っている様だった。

「ッ⁉うばぁあああぁあっ⁉・・・っ、ぐ・・・ゲ、ゲホゲホッ‼」

恐らく悲鳴を上げようとしたのだろうが、咥えていた炭を呑んで転がり乍ら()せてしまう。

「ベール!何か見付けたの?」

明らかに近付いたら駄目そうな声だったのに無邪気にZ1-Θは彼に近付いた。

「ア、怪物居た!ネ、皆来てよ!」

然う誘われたら行きたくないが、逃げる訳にも行かない。(ツエ)を構え直して飃も近付いてみる。

 慎重に角を曲がると、其処には確かに見慣れない者が居た。

 其は・・・羊に似た、でも明らかに別の者で。

 立派な巻き角を有した羊の頭、豊かな首元の毛に包まれているが、其より下は触手が無数に生えていた。

 其が絡まり合って手足の様に見えなくもない。此の暗闇の中で其の躯はぼんやりと翠の(ヒカリ)を放っていた。如何やら角と触手の先の吸盤の様になった所が光っている様だ。

「か、か、怪物って・・・、」

笛の様な声が羊の口元から漏れる。そして一同を認めて一歩下がった。

 良く見ると足は別である様で、蹄の鳴る音が響く。

「?怪物じゃないの?君は誰?」

無邪気にもZ1-Θは近付いてみる。

 向こうはZ1-Θを見遣って首を傾げつつも更に一歩下がった。如何やら警戒している様だ。

 此の様子なら直ぐ襲っては来ないかも知れないけれど。

 つい視線を触手に向けてしまう。何故なら其の手には・・・ナイフが握られていたのだ。

 恐らく其は使用済みらしく、(アカ)く濡れてしまっている・・・血痕と思しき跡が付いているのだ。

 流石に其で自傷をしたとかではないだろう、何かへ攻撃をした証だ。

「っZ1-Θさん一応下がってください。」

「エ?ウ、ウン分かった。」

大人しくZ1-Θは怪物と自分達の中間で立ち止まる。

 食べられはしなくても、攻撃される可能性は十分あるのだ。気を付けないと。

「君達は・・・一体、何なの?」

又笛の様な声、矢張り此の怪物から発されている様だ。

 見た所相手は一体、此方は数も多いし、Z1-Θなんて異色の者も居る。(ムシ)ろ怯えさせているのかも知れない。

 だったら此方から話す可きだろうか。話が通じれば可也の前進だ。

「僕はZ1-Θだよ!」

「あ、僕は颪 飃と申します。此方が鏡さん、ベールさんです。」

「私は・・・カリオン。」

名前があった様だ。カリオンと名乗った彼は少し覗き込む様にZ1-Θを見遣る。

 話せた事で少し丈安心出来たのかも知れない。

「カリオン、此処詳しい?迷ってる、出口分からない。」

「迷ってる・・・何だ然うだったのか。」

目を(シバタ)かせ乍ら言う様は何処か気落ちしている風でもあった。

 恐らく此の反応は・・・、

「私もずっと迷ってるんだけど、出口は見付からなくて。」

「一緒、迷ってる?」

如何やら然うらしい。同じ此の迷路に迷わされていたみたいだ。

「ジャアカリオンも一緒に出口捜す?」

Z1-Θがクルクル回って飃達とカリオンを見遣る。

 未知の場所で得体の知れない存在と行動するのは、例え目的が一緒でも少し難しい所だ。

 加えて相手は武器を持っている。でも、

 ・・・此の気配は恐らく次元の主導者(コマンダー)の其で。

 だったら離れるのは得策ではないだろう、行動を共にする事で見える事があるかも知れない。

 ()うして迷路の中で出会えたのは鏡さんの(モタラ)した幸運かも知れないのだ。無駄にする可きではないだろう。

「・・・若し差し支えなければ一緒に出口を探してみませんか?其の方が互いに良いでしょうし。」

ちらと二柱を見遣ったが、黙って頷いてくれる。異論はない様だ。

「一緒に・・・ふーん・・・。」

カリオンは触手を揺らめかせて組む様に眺める。

 一応向こうからしても警戒はしてしまうのだろう。自分達が彼を然う判断した様に。怪物に見えるのは御互い様だ。

「・・・良いね。行きましょうか。暫く宜しくと言う事で。」

一歩踏み出し、カリオンは一際角を光らせた。

 真似してZ1-Θも光ってみる。色も真似られる様で同じ翠に染まった。

「宜しくカリオン、頑張る。一緒出る。」

「宜しく御願いします。・・・その、あの、怪物なんて言って済みません。」

「本当だよ。此方だって驚いたのに。」

矢張り向こうも可也警戒していた様だ。未だ完全には打ち解けていないだろうが、然う互いに見る位なら問題はなさそうだ。

 後問題は・・・手にしている得物についてだけれども。

「あの・・・一緒に行く前に一つカリオンさんに伺っても良いですか?」

「互いに気になる所は沢山ありそうだけど・・・どうぞ。」

「はい、あの、其のナイフ一体・・・如何されたんですか?」

「ナイフ?・・・噫此か、」

ちらと視線を下ろし、そっと其の背へ触手を這わす。

 ぽたりと一滴血が零れて床を濡らした。

「此は道標、()うすれば一度行った道は分かるでしょ?」

「然うですね。・・・えぇ確かに分かり易いですね。」

「でも其って・・・血、なんじゃあ・・・。」

然うベールが呟くとぎょろりとカリオンの目玉が動いた。

 ちらと彼を見遣って、再び視線はナイフへ注がれる。

「血、血・・・えぇ然う。此は彼の、全然止まらない。裏切り者の血。(ユル)せない、私を置いて。こんな物、こんな物なんて・・・、」

急にぶつぶつと笛の音から一転して(クラ)く響く様な重い声になる。

 其の目は何処か血走っているみたいで、もう自分達は見えていない様だった。

 此は、聞いてはいけなかったのでは、

 唾を呑み込んで一同はカリオンから漂う様な(クラ)い気配から遠ざかる様に一歩下がった。

 此の迷宮より(クラ)く深い物が口を開けた様で・・・。

   ・・・・・

「さて、来たは良いが如何するんだガルダ。」

ガルダの部屋に入れて貰い、くるりと一度セレは見渡した。

 勿論そんな事をしなくても彼女は波紋で見ている。此は只の確認だ。

「えっと然うだな・・・まぁ此処に普通に出て貰って、其で話そうか。」

「まぁ、然うだろうな。」

丗曦を呼ぶに当たって、もう丗闇は退席して貰っている。今はフリューレンスと一緒に自分の部屋に入って貰っている。

 何かあったら呼べ、いや(ムシ)ろ分からせてやる可きだ。出て来た瞬間に封じろ等と丗闇とは思えない冷静さを欠いた捨て台詞を残して行ったけど。

 もう完全に天敵の域である。余りの物言いにガルダもぽかんと口を開けてしまっていた。

 まぁ彼女を呼ばなくて済むのが一番だ。然うなる様努力しよう。(ソモソモ)彼女は彼女で大事な御客さんが来ている訳だし。

 矢っ張り何の話をするのか気になるけれども・・・此方に集中しないとな。

 話したい事って何だろうか。流石に前の謝罪とかではどうせないだろう。

 彼奴の所為で魔力を失ってあんな姿を晒す羽目になった訳だが。今更(ツツ)かれても困る、もう(アレ)は忘れたい懐い出なのだ。

 ・・・まぁ勿論、自分が弱かったのも原因なので自分も如何()う言いはしない。でも考えるとガルダに二敗しているのは何とも言えない心地だな。

 丗闇も(ツヨ)いし、ロードも勝てる気がしない。うん、もっと精進しよう。

 でも謝罪と行かない迄も()の時引っ掛かっている所はあったみたいだった。

 何か独り言を言ったり、ぼーっとしている時があったのだ。若し(アレ)が何か意味しているのだとしたら。

 其の真意位は、聞きたいよな。一体彼が何を懐ったのか、何を見ていたのか。

 然う言う話を出来れば聞きたいけれども・・・。

「・・・ガルダ、うろうろした所で奴は出て来ないぞ。」

先からガルダが忙しない。椅子を勧められたので自分は大人しく座っているが、彼は中々並ぼうとはしなかった。

「然うだけど、何か・・・やらなくて良いのかなって。例えば・・・結界とか。」

「其は流石に警戒し過ぎじゃないか?」

其の扱いは一寸(チョット)可哀相な気もする。

 自業自得とは言え、仮にも未来の自分である。もう一寸(チョット)信じてあげて欲しい。

 此じゃあ囚神(シュウジン)みたいじゃないか。其の面会に似た気分になる。

「いや、万が一を思って、次元へ行っても良い位俺は思ってるぜ。」

其は死に戻りを意識してか。何だか其の心構えは在りし日のアティスレイみたいだな。

 話す丈で命を賭けないといけないみたいな。うーん、殺伐としている。

「大丈夫だよ。私は信じてるよ。だから始めようガルダ。」

「セレにはもう一寸(チョット)警戒して欲しいけどな。・・・まぁ分かったよ。」

頭を掻いてガルダは薄く目を閉じた。

 すると目の前に(ヒカリ)が集って行く。突然の(ヒカリ)に思わずフードを被ってしまう。

 丗曦は本当に、光が勁過(ツヨス)ぎる。御蔭で躯が勝手に反応してしまう。

 偸閑(アカラサマ)な警戒なんてして欲しくないんだがな。此(バカ)りは仕方ないか。

「ったく、やっと御呼びか。」

小さく悪態を()くのは間違いなく彼だ。(ヒカリ)が収束して長身の影が残る。

「一応、久し振りと言って置こうか丗曦。」

声を掛けると直ぐに視線を寄越した。其の目をじっと見る。

 ・・・うん、此の目は問題ない。

 自分の勘が告げる。危害を加えようと今の彼は思っていない。

 態度は相変わらずだけれども、少なくとも自分と話そうとは思っている。

 丗曦も又、今回は買い言葉も無しにじっと自分を見詰めていた。

 ・・・何だか試されている様な視線だ。別に武器なんて持ってないが。

「取り敢えずは二柱共座ったら如何なんだ?」

自分丈が座っているのは何とも居心地が悪い。椅子はちゃんと三脚用意しているので使ってあげて欲しい。

 二柱共黙って其の(ママ)席に着いてくれた。でも変わらず(ダンマリ)だ。

 一応彼から用を持ち掛けられたんだし、話してくれるのを待つ可きだろうか。

 ちらと丈ガルダに(メクバ)せをし、暫し黙ってみる。

 小さく伸びをして、様子を見てみるか。

 ・・・・・。

 ・・・中々、話し始めないな。

 ちらと見遣るが未だ(ダンマリ)だ。うっかり眠っているんじゃないかと思う位。

 起きているよな?・・・うん、しっかり此方を見ている。

 流石に居心地が悪いぞ。別にテレパシーとかをしている訳でもないし。

 丗闇の方は如何だろう、此方よりは弾んでいるだろうか。其の図も想像出来ないが、でも睨めっこをしている訳でもあるまい。

 そんな風に思いを馳せるが・・・未だ喋らないな。

 一寸(チョット)困った様にガルダも視線を寄越した。先からアイコンタクト(バカ)りが進んでいるが。

「丗曦、何か言ってくれないと私としても挨拶に困るんだが。」

「・・・っ、然うだな。」

はっとした様に視線を上げるが、何だか向こうは上の空だ。

 明らかに今迄と違う。まさか彼もアティスレイみたいに現れる度に性格が変わるなんて事はあるまい、如何したのだろうか。

 何かはあったんだろうが、其(バカ)りは奴の口から直接聞かないとな。

 丗曦は今一度部屋を見渡した。そして目を(スガ)め、何か考え始める。

「・・・一寸(チョット)、確認をしてぇんだが。」

「勿論、質問なら受け付けるぞ。」

確認、何とも下手な聞き方だ。矢張り今回の彼は色々と違う。

 果たして此の変化は良い兆しか如何なのか・・・。

「此処が、元々は吾の部屋って事で間違いねぇ筈だよな。」

「まぁ、御前は未来から来たガルダなんだし、然うだろうな。矢っ張り懐い出せないのか?」

「・・・何となく(オモカゲ)はあるが。」

目元を押さえ、一つ彼は息を付いた。歯切れが悪い、彼も困惑しているのだろうか。

「ずっと手前等を見ていたが、確かに昔吾は此処に居た気が・・・する。思い過ごしじゃなきゃあな。」

「未だ其の位しか懐い出せないのかよ。」

何だかガルダは不満気だ。自分としては大きな前進と思ったのに。

 其程彼にとって忘れてしまった事はショックだったのだろう、未だ受け入れ切れていない風にも見える。

「セレとか、皆の事。未だ何も懐い出せないのか?」

「全くじゃねぇよ。只、断片丈見える気がすんだよ。」

「良い事じゃないか。然うして何時かちゃんと懐い出せたら嬉しいけれどな。」

断片でも十分だ。零と一は全く違う。其の変化が私は嬉しい。

 其の点が何時か繋がれば、見える物もあるだろうし。

 未来の話は恐くはあっても矢っ張り聞いてみたい。未来から来るなんて有り得ない事と丗闇は言っていたが、折角其が起きたなら有効活用しようじゃないか。

 (シカ)も其が自分の想像も出来ない形の未来なんだし、其を変える為に態々(ワザワザ)彼が来てくれたなら。

「前会った時も何か懐い出したっぽかったな。其の事とかもか?」

思わずガルダが此方を見詰める。然う、ガルダは其の時の事を知らないからな。

 明らかに様子がおかしかった事に自分も気付いていた。でも其を聞いてやる余裕は残念乍ら()の時はなかった。

 でも()の時に彼ははっきり言ったんだ、敵じゃないと。

 自分の敵ではないと言ってくれた。其を私は信じたい。

 随分暴れん坊になったが、其でも彼はガルダだと信じたいんだ。

「まぁ、一応其もある・・・。から吾は考えていたんだ。」

ちらとセレとガルダ、二柱を見比べて彼は又溜息を付いた。

「何処か吾の記憶に違和感はあったが、恐らく其は未来の吾が過去に行くなんてイレギュラーが、吾の時には起きていないからなんだろうとは思ったんだが。」

「つまりはややこしいが、御前の記憶に其の丗曦が居なかったって事か?」

「噫然うだぜ。何て言うんだ。タイムパラドックスとかは詳しくねぇが。」

(アレ)って何だっけ、過去を変えたら未来が変わるから例えば・・・その、変わり様に因っては丗曦が消えるって事だったりするよな。」

「おい何物騒な事言ってんだよ。」

ぎろりと睨まれるが、ガルダは真っ向から向き合った。

 彼も思う事があるのだろう、確かに此は難しい話だ。

 ()う言うのは丗闇が詳しかったりするんだろうが・・・知っているからこそ有り得ないと言っていただろうし。

 実際は如何なんだろうか。丗曦の目線で見れば、未来で何か起こって独りになった。

 だから其の未来を変える為に過去に戻っている。其の流れで見れば其の丗曦の記憶の中に別の丗曦が居ないと言うのは当たり前とも取れる。

 そして仮に過去である此方へ来て未来が変わったとすれば、(ソモソモ)ガルダが丗曦となって過去に行く事もなくなる訳で、でも然うなると丗曦が消えると言ったガルダの話も理解出来る。

 (ムシ)ろ丗曦が残っていると言う事は未来は変わっていないと言う事にもなって・・・噫、自分も混乱して来た。

「然う言えば丗の神の啓示(アポカリエスト)だったか、一応其で未来は決まってるんだよな?」

「え、あ、噫クリエーターが創った奴だよな。神の使命だとか全部其で決まっているから、世界全部は其のレールの上で動く筈なんだけど。」

「ハッ、あんな糞っ垂れな神の決まりなんざ、本当に其の通りに動いてんのか?」

「ん、随分強気に言うじゃないか。まぁ御前の行動は正に其か。」

此の運命が正に気に入らないから過去に行っているんだ。だったら彼がクリエーターを嫌うのも当然か。まぁ其の行いすら丗の神の啓示(アポカリエスト)に載っているかは分からないがな。

「噫然うだろ。吾の力は知ってるだろうが。其で変えられねぇ訳がねぇ。」

「其で、其の変えたい未来と言う奴が、此の店の消滅と解釈して良いんだな。」

途端苦い顏をされた。半目で睨みはするが手は出して来ない。

 随分可愛くなったじゃないか。

「・・・其を今回確認してぇんだよ。」

心底嫌そうに彼が言うので思わず口端が上がる。

 (ツクヅク)性格が悪いのは折り紙付きだ。如何しても然う言う顔を見るとな。

 大きく溜息を付かれるが、其の原因は自分の顔だろう。

「吾には未だ自覚もねぇし、信じらんねぇが、手前は此処に居てぇんだろ。」

ついと視線をガルダへ向ける。本当に嫌そうだ。信じられないのは御互いだろうが。

「そりゃあ勿論、御前みたいに成るなんて・・・。」

「ほらガルダ、自分と喧嘩しないでくれ。」

苦笑するとガルダからも半目が返って来た。うん、良い顔だ。

「・・・クソ、何だよ。本当に此が吾なのかよ。」

「で、ガルダがこんな嬉しい事を言ってくれているんだから、当然御前も其に尽くしてくれるって事で良いんだな?」

「セ、セレ、でも其って、」

一寸(チョット)挑発的に出過ぎただろうか。でも此の確認は大切だ。

 彼が如何したいかは此処ではっきりしないと。

「御前本当に、ほんっとーに!此奴が居て良いんだな?こんな所に居たいんだな?」

セレを指差し、今迄になく声に力が籠る。

 ククッ、そんなに嫌か。そんな嫌われる様な事をした覚えはないのに。

「・・・い、良いって言ってるだろ。後セレの事そんな風に言うなよ。少なくとも御前より性格は良いし。」

僅かに頬を染め、口早にガルダが言うと途端に又むっとした顔をされる。

 うんうん、矢っ張り話して良かったな。此は中々有意義な時間になりそうだ。

「嘘だろ。ぜってー我の方が真面だろ。」

「其こそ有り得ないだろ。出る度出る度暴れる奴が真面かよ。」

「まぁ自分も、自分が真面とは(チッ)とも思ってないがな。」

「セレ、ややこしくなるから其処は否定しちゃ駄目だって。」

然うだな、揶揄(カラカ)うのは此の位にしようか。有耶無耶にはしたくないし。

「兎に角、話が(マト)まりそうだからちゃんと御前の口から答えを聞きたいな。店の為に頑張ってくれるって事で良いんだな?」

「・・・っ、手前の為じゃねぇぞ。飽く迄も吾の為だ。此奴が心変わりしたら其迄だから覚悟しろよ。」

おぉ恐い、然う凄まれると忍び笑いが漏れてしまう。

「心変わりって・・・御前変な事は考えんなよ。」

「うん、良いじゃないか。此でもうガルダに酷い事は出来ないな、精々気を付けるとしよう。」

「・・・御前、此奴に変な弱味でも握られてんのか?」

「そんな事ないしセレも変な言い方するなよ・・・。」

酷い事って何だ、(ソモソモ)何をする気だったんだ。

 其を言うなら俺としては先に丗曦に謝って欲しいんだけど。

 セレは蒸し返す気もないのか何も言わないけど、酷い事なら此奴の方がしている。

 二回もセレに大怪我を負わせているんだ。此奴の方がやらかしている。

「如何だ?私としては中々悪くない話になったが、他にも確認したい事でもあるか?」

「・・・まぁ一応良いけどよ。」

何だか未だ不満そうではあるが、彼もやる可き事が定まるのは良い事だろう。

 取り敢えず過去の世界に来たものの、其の記憶もないなら動き難かったに違いない。

 其でも今の此の世界へ彼も馴染める様になれれば其で良いだろう。

 折角今回出て来てくれたし、話せそうなら色々聞いてみたいんだが・・・。

「じゃあ丗曦、私の方からも色々聞いてみたいんだが、良いか?」

「何だよ。手短にしろよ。」

自分の事嫌いな癖に話してくれるなんて良い奴じゃないか。

 此方だって確かめたい事は色々あるし・・・な。

「何となく気になってたんだが、御前の使命って何なんだ?」

「使命?そんなの・・・分かんねぇよ。」

「え、あれ、分かんないなんて事あるのか?」

暫し丗曦は目を(スガ)めて息を付くが、(ユック)り首を左右に振った。

「考えた事もねぇ。何だよ御前にはあるのか?」

「まぁその、セレを護るのが俺の使命だし。」

「はぁ⁉こんな奴の事護ってんのか手前⁉」

心底信じられないと(バカ)りに見詰め返して来る。嘘ではない様だ。

「使命が分からないのか。ガルダははっきりしてるのにな。」

「でも然う言えばおかしくないか?未来でセレが居ないなら俺の使命は終わってるって事だし、じゃあ何で御前は居るんだ・・・?」

使命を終えた神は消える筈。其がどんな形であれ達成されれば。

 其なのに此奴は独りになったのに存在し続けている。

「知らねぇよ。ま、若しかしたら未だしぶとく生きてんのかも知れねぇけどな。」

「ふーん、其すら分からないのか。」

確かに其は引っ掛かる。然うか、一緒に居ない丈で自分も生きている可能性は一応あるのか。

 でも矢張り一緒には居ないんだな。其は切ないけれども。

「まぁでもガルダも使命変わってるんだろう?又変わったのかも知れないな。」

「う、うーんそんな事あるのかな・・・。」

「ん、何だそんな事があったのか。」

僅かに彼の興味を引いたらしい。自分の事も憶えていないなら気になるだろうな。

「噫、元々は私を殺す使命だったよな、ガルダ。」

「あ、噫・・・本当、嫌な使命だよな・・・。」

ガルダは悄気(ショゲ)てしまったが、対する丗曦は何処か嬉しそうだ。意地が悪いのは彼も同じらしい。

「へぇ、其奴は良いじゃねぇか。変わる前にやっちまえば良かったのによ。」

「っ滅多な事言うなよ!俺は絶対嫌だからな。」

「でもこんなに長生きするとガルダは中々の大命を背負っているな。」

御負けに力も(ツヨ)い。本当に凄い事だと思う。

「ヘッ、使命か・・・。ま、考えといてやるよ。吾も忘れっ放しは癪だからな。」

「別に丗闇を殺したいのも使命でも何でもないんだろう?」

はっとした様にガルダも此方を見遣る。

 今は別室に居る訳だけれども、彼女も気が気じゃないだろう。だからちゃんと聞いて置きたいんだ。

 彼が執拗に丗闇を狙う理由を。其が絶対記憶の鍵だとは思うんだ。

「・・・違ぇけどよ。彼奴は居ねぇのか。」

・・・目の色が変わった。別に未だ其を諦めたつもりはないらしい。

 今迄の何処か面倒臭そうにしていたのから獲物を探す目へ変わる。

「今は席を外して貰ってるよ。部屋を汚されたら堪った物じゃないからな。」

「其に御前セレに言う事あるだろ。」

「あ?んだよ。彼奴に会わせろっつったら良いのか?」

「暴れなかったら検討するんだがな。」

「全然違うって、御前何回もセレの事襲いやがって。其で其の態度なのかよ。」

「ん、ガルダ。もう其は良いじゃないか。一応(アレ)は終わった事なんだし。」

何か一寸(チョット)苛々(イライラ)しているなと思ったがまさか其の事が引っ掛かっていたのだろうか。でも、今更だしなぁ。

 其で負い目を感じて協力してくれたら嬉しいが、然う言う質では彼はないだろう。

「ハッ、其奴が良いっつってんなら良いだろ。(ソモソモ)弱ぇのが悪いんだよ。」

む、其は一寸(チョット)聞き捨てならないぞ。

 僅かにセレの尾が持ち上がったのを察してガルダはさっと丗曦の前に立つ。

「いや御前が勝手に暴れたのをセレが止めてくれたんだろ。其に御前から戻ったんだし、セレに退(シリゾ)いたのは其方じゃないか。」

「んだよ。嘗めて掛かったのは其方だろうが。其に(アレ)は御遊びだろ。其の気になったら何時だってこんな、」

「其処は相変わらずか。でも過去のガルダの話は聞かないといけないんじゃないか?結局は其が御前の為にもなる筈なんだろう。」

「記憶さえしっかりすれば御前なんてな・・・。」

何とも不満そうだが、手は出さないらしい。

 彼なりに考えて来たんだろう、そんな風に考えてくれている分は良い。

「其にしても何でそんなに丗闇を狙うんだ。其の理由は教えてくれないのか?」

謝罪とか何より其方だ。自分は未来の話をしたいんだ。

 其処の不安材料さえ解消すれば可也楽になるんだけど。

 ちらと見遣るが彼は鼻を鳴らす丈だ。中々此処が難しい。

 話せる奴だって分かったのに前進しないな。

「理由なんてねぇよ。只吾が其丈憶えてたからやりてぇ丈だよ。」

「其丈明確に覚えているってのも不思議な話だな。」

別に丗闇がどんな奴なのかだとか、其の辺は彼も良く分かっていない筈だ。

 其とも、其さえ達成すれば未来は変わると絶対の確信があるのか。

「念の為確認するけれどもガルダは(チッ)ともそんな事思っていないんだろう?」

「勿論だって。(ソモソモ)手なんて出したくないし、其にセレを助けてくれてるし。」

「然うなんだよな。前も言ったと思うが、丗闇が死ねば私も恐らく死ぬぞ。だから其は控えて欲しいんだが。」

「其、本当なのか?彼奴と御前は別物だろ。」

「丗闇の魔力で生かして貰ってるんだよ。丗闇が居ないと私の存在は消えてしまうからな。」

丗闇が封印を解いて取り戻した分の闇や魔力を自分へ充ててくれているんだ。

 恐らく其の所為だろう。封印が解けたからって丗闇が離れて行く感覚は無い。(ムシ)ろ近付いている様な気配がある。

 屹度契約と似た様な作用が起こっているんだと思う。丗闇の力とガルダの血肉で生かされているんだ。

 自分が何も持っていないから。奪う事しか、壊す事しか出来ないから。

 丗曦は如何(イカ)にも面倒そうに舌打ちをした。

「面倒臭ぇ躯してんな。神の癖に自分の存在すら保てないのかよ。」

「矢っ張り今も丗闇の力を使ってるんだよな。俺の丈じゃ駄目なのか?」

「然うだな。恐らく丗闇の力が無くなったら四六時中ガルダを食べないといけなくなりそうだ。」

「ハッ、じゃあ良いじゃねぇか。消えねぇなら其も良いだろ。」

「いや、在る丈じゃあ何の意味もないからな。」

其はガルダだって嫌だろう。(ソモソモ)然う迄して生きたくない。

 ずっと喰らい続けるなんてそんなの・・・何にもならないじゃないか。

()の道、メリットと言うか、理由が私には見えないんだよ。丗闇を殺した所で何になるんだ。今のガルダと丗闇は仲良しなのに。」

「な、仲良し?」

思わず首を捻ってしまう。普通に嫌われていると思うけど。

 仲が良いのは(ムシ)ろセレの方だ。

「謙遜する事も無いだろうガルダ。ガルダは丗闇にオーバーコートをプレゼントしたし、二柱で結託して私を見張ったりするし、十分仲が良いと思うぞ。」

「お、御前そんな事してんのか・・・。」

未来の彼に引かれている。何だか新鮮だな。

「見張りって、(アレ)は御前が怪我してるのに次元に行くからだろ。」

確かに其の時は協力してくれたけど、()の状況なら誰だって手を貸してくれただろう。

 中でも特に丗闇はセレの中に居ると言う意味では一番の適任だったし、何方かと言うとセレと仲が良いから手を貸してくれた感がある。

 看病したり手合わせしたり相談に乗ってくれたりと何かとセレに手は尽くしてくれている。

 まぁ時々異様に冷たかったり、厳し過ぎて説教が長い事はあるけれども・・・。

「弱ぇ癖に脱走するとか馬鹿かよ。」

「馬鹿は余計だ。仕事熱心だと言って貰いたい。」

然う言って彼女は胸を張るが、()の道怪我をしているのに出るのは仕事馬鹿だ。其処はもう少し反省して欲しい。

「丗闇は()のオーバーコートを(イタ)く気に入っているし、二柱が話しているのを見るのは楽しいし、仲が良いのは間違いないぞ。」

「あ、(アレ)、気に入ってくれてるんだな。」

其なら良かった。(アンマリ)俺の前に丗闇は出て来ないので確認の仕様がないのだ。

 結構綺麗好きらしいし、大事にしてくれているなら俺も嬉しい。

 ・・・まぁ確かに(アレ)をプレゼントした時喜び過ぎて一寸(チョット)おかしくなってたもんな。今でも()の丗闇は幻だったのではと思う程に。

 セレもニコニコと嬉しそうだ。こんな状況でも可也の上機嫌らしい。

「マジかよ・・・。ったく何暢気(ノンキ)に仲好し小好ししてんだか。」

「だから益々御前の動機が不明なんだ。一体今のガルダと御前との間に何があったんだろうな。其を知るのは互いの為になると私は思うが。」

「然う、だよな。俺も見当も付かないし・・・。」

知りたいかと言えば然うでないけど、でも(イズ)れ然うなる未来なら、知って何とか回避はしたい。

 俺だってそんな事はしたくない。そんな、又誰かを手に掛けるなんて。

「・・・然う言われたって分かんねぇよ。でも手前が怒る事を彼奴が為出かしたとかじゃねぇのかよ。だったら理由は明確だと思うがな。」

「決め付けは良くないと思うぞ。取り敢えずちゃんと其の辺りが分からないと少なくとも御前と丗闇を会わせる訳には行かないな。」

明確な理由・・・恐らく丗曦が指しているのは前丗闇が言ったのと同じだろう。

 丗闇が自分を殺したからガルダが復讐しようとしている、然う言いたいんだろう。

 でも本当に然うだろうか。そんな答えで良いだろうか。

 其なら今度は丗闇が自分を殺す理由を探さないといけなくなる。

 ・・・はぁ、こんな事、したくはないな。

 だからって思考放棄はしない。丗曦にもちゃんと誠実に向き合いたいし。

 考えられるとしたら何だろう。例えば丗闇が封印を解き過ぎて自分が耐えられずに死んだとか。

 一応なくはないか?結構な調整が必要だって言っていたし、其に失敗して・・・。

 でも其だって丗曦が丗闇を殺す理由には繋がらない。

 丗闇が封印を解いているのは今の所全て自分の為だ。彼女自身は封印された(ママ)でも構わないなんて言っている。

 黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)に利用された様な形なのに、彼女は全て受け入れてしまっている。

 其は飽く迄も全て自分の為だ。中立を彼女は好むが、取っている形は自分からしたら甘受で、寛大だ。

 つまりは丗闇は自主的に、自身の為に其の手段を取るとは考え難いと言う事だ。()の道今の丗闇が居なくなれば其の未来は回避出来るとして、同時に其処に自分は居ないのだ。

 自分も一緒に滅びてしまっているし・・・矢張り成り立たない。

 後は何だろう。自分が丗闇に殺して欲しいと懇願したか。

 ()の時みたいにか?・・・全く無いとは言い切れないけれども。

 でも其も介錯を御願いするのに近い形だろうし、今一現実感が無い。

 後は丗闇の・・・例えば使命とか、其等の影響で自分を消さなければいけなくなったとか。

 はっきりと自分は彼女の使命を知らない。でも随分永い神なんだし、然う思うと大体予測は付く様な気もする。

 店の活動が彼女の使命と通じているとも言っていたし、静寂を好む彼女の使命は恐らく、

 其に、自分が反する可能性は・・・一応ある。

 店の方針に納得はしても、自分が鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)を破壊したのは是としなかった。

 止めはしないが、余りして欲しくないと言った具合か。自分の意志を尊重してくれたけれども。

 だから道を違えてしまった・・・一応其の線はあるだろうか。

 難しいな、此(バカ)りは未来の丗闇の話を聞かない限り分かり様がない。

 其にそんな風にも丗闇を見たくはないけどな。

「・・・駄目だな。考えたけれども全部憶測の域を出ないな。」

(ソモソモ)丗闇が自分を殺したとも限らないし、別の考え方が必要かも知れない。

 別に丗闇と言わず、殺される原因や理由は無数にあるのだから。

「然うだよな。()の道今は駄目だろ。どんな理由でも丗闇が居なくなったらセレだって・・・そんなのは絶対駄目だろ。」

「何だよ。結局彼奴を殺して、御前を生かす方法を考えねぇといけねぇのかよ。」

「例えあっても前提条件を呑めないから却下だな。」

偸閑(アカラサマ)に機嫌を悪くするが仕方ない。此(バカ)りはな。

「如何してもって言うなら、矢っ張り先ずは懐い出して欲しいな。他の手段もあるだろうし、必ずしも其が正解じゃないだろう。折角やり直せる機会なんだから。」

「・・・然うやって高括って手遅れになっても知らねぇからな。」

「然うならない様御互い頑張りたいな。」

外方を向かれたが、まぁ十分だろう。収穫はあったのだから。

一寸(チョット)話し込み過ぎたか。・・・悪いがガルダ、茶を入れて貰っても良いか?然う言えば持て成してやってなかったな、折角来てくれたのに。」

「良いけど・・・。」

ちらとガルダは丗曦を見遣った。其の目が雄弁に物語っている。

 絶対に何もするなと凄い圧を感じるな・・・ガルダ、そんな目も出来るんだな。

「んだよ、うぜぇな。さっさと吾の為に茶を入れて来いよ。気が利かねぇのかよ。」

「別に御前の為じゃないからな。えと御免セレ、一寸(チョット)待ってくれよ。」

「いや悪いな、こんな事頼んで。じゃあ宜しく。」

軽く手を振る彼女に振り返してガルダは部屋を後にするのだった。

   ・・・・・

 此処は漆黔(シッコク)の迷宮。

 其の中を歩き続ける一同の姿があった。

 手にしていたナイフを指摘するとカリオンが豹変してしまい皆警戒してしまったが、けろっと彼は元に戻り、大人しく一同に付いて来た。

 ナイフを手放す気はない様だが、もう(アレ)には触れまいと静かに一同は誓い合う。

 暫く歩いてはみたが、如何やら所々(アカ)い印が地面に付いているのを見付けた。

 印と言っても・・・血痕だ。一方の通路から続いた其は角を曲がって点々と続いて行く。

 言う迄もなく此はカリオンのナイフから落ちた血の様だった。如何やら血は出続けているみたいで延々と続いているのだ。

 現に今も跡を残している訳だが、確かに()う見ると道標として中々優秀だと分かる。

 此の跡がなければ又迷わされていただろう、一行は血の無い道を選び続ける事が出来た。

 出口はあると信じている。でも血の跡を見付けると言う事は、同じ所を彷徨(サマヨ)う可能性もある訳だ。進み続ければ出られる訳でもないと言うのは精神的に来る物がある。

「・・・皆ずっと一緒に此処迄来たの?」

不意に呼び止められてついと飃は視線を動かした。

 変わらず血の跡を付け乍らカリオンも飃を見詰めていた。羊の独特な横筋の瞳が煌めく。

「はい、然うですよ。一緒に旅をしている仲間なので。」

「然う、其は良い事ね。・・・私はもう居ないから。」

「カリオンも誰かと居たの?」

Z1-Θの不躾な質問につい飃の喉がひくつく。

 絶対に触れる可きじゃないと警告が頭の中で鳴り響いていたのに、恐い物知らずだ。

「・・・居たよ。」

角の(ヒカリ)を少し弱めてカリオンはそっと視線を下ろした。

「ずっと一緒に居たけど、もう居ないよ。彼奴は裏切り者だから。」

「?(ハグ)れたの?」

水で作った疑問符を頭に乗せてZ1-Θは変わらずグイグイ来る。

(ハグ)れたんじゃないよ。裏切ったんだよ。」

今一理解が出来ずにZ1-Θは少し斜めに浮遊した。恐らく首を傾げているつもりだろう。

「聞きたいの?あんな奴の事。」

「ウン、聞きたい!」

「えっと、差し支えなかったらで良いですよ・・・?」

只ならぬ気配を察して随分と控え目にベールも声を掛ける。

 気にはなるが、でも果たして聞いた(ママ)生きて此処から出られるかは別問題なのだ。

「ふーん、然う。ま、只歩くのも面倒だしね。」

カリオンがナイフを振ると血がぱたりと散った。

 不思議だ。未だ血は乾いていない。(サナガ)らナイフ自身が怪我を負っている様に出続けているのだ。

 ・・・若しかしたら(アカ)い丈で血ではないのかも知れないのではとつい思ってしまうが、でも彼ははっきり言っているのだ。

 (アレ)は誰かの血。そして其の相手は(ホボ)間違いなく、

「私も気付いたら此処に居てさ。其で暫く歩き続けたら、君達みたいに突然現れたんだよ。」

「どんな風だった?」

「どんなって、少なくとも君達みたいな変梃(ヘンテコ)なんじゃなくって、私と一緒だよ。」

変梃(ヘンテコ)と言われてしまったが、まぁ向こうからしたら当然然うなんだろう。

 自分もカリオンみたいなのが複数出て来たら驚いて警戒してしまうだろう。

 恐いのは御互い様だけれども、彼の風貌は正に此のダンジョンとも言う可き迷宮のモンスターとして相応しい気がした。

 其が徘徊して居たら・・・一柱だったら逃げ出していた可能性はある。

 勿論そんなんじゃあ駄目だけれども、仕事にならないけれども、弱い自分は直ぐに逃げの一手を取る。

 屹度(ヨル)の彼やセレが果敢に他種族とも関われるのは・・・(ツヨ)いからだ。

 何があっても自分で対処出来る自信があるから。だから冷静でいられる。

 ・・・うん、矢張り今後の為にも、自分ももっと力を付けたい。せめて(ツエ)位は扱える様にならないと、折角のチャンスとかも逃さず済む様にしたい。

 機会があったら又教えて貰おう、自分ももっと手助けとかはして行きたい。

変梃(ヘンテコ)って・・・若しかして僕の事?」

「君が一番変だけど皆変わってるよ。」

「はは、然う言われると不思議な感じですね。」

「まぁ私は、皆が裏切らなかったらそんな事如何でも良いよ。一緒に出口探してくれるんでしょ?」

「そりゃあ勿論、バラバラになったら其こそ、」

思わずギュッとベールは目を閉じる。今迄の経験から彼は察しているのだ。

 屹度(ハグ)れたら自分は一柱で野垂れ死ぬと。然も(ロク)でもない死に方で。

 其の様を想像すると震えてしまう。何とか出口には辿り着きたい。

「一緒、大丈夫。皆気を付ける。」

「然うですね。皆で協力しないと屹度出るのは生半可じゃあないので。」

「ネ、裏切るって如何言う事なの?」

無邪気にもZ1-Θは聞いて来る。折角話題が逸れ掛けたのにと飃は思わずにはいられない。

 何だかハラハラしてしまうのだ。そんな芯に触れそうな所に真直ぐ突っ込めない。

「裏切るってのは最悪の事だよ。一緒に行くって言ったのに一体で先に行ったんだよ。」

「約束を破るのはいけない事だよ。」

Z1-Θから伸ばされた(ヒカリ)の帯を一寸(チョット)丈カリオンは突いた。

「然うだね。うん、Z1-Θ君は良く分かってるね。」

「エヘヘ、褒められちゃった。」

能天気にもZ1-Θは回転しているが、一応は理解してくれたのだろうか。

 でも今のは一体如何言う意味だろうか。カリオンの言う裏切りとは、彼を置いて行ったと言う事なのだろうか。

 (ハグ)れたとは違って明確に置いて行ったと。

 置いて行ったって何だろう、若しかして出口でもあったのだろうか。

 其なら聞いてみたいけれども・・・如何しても其の一歩は出せない。だって()のカリオンが手にしているナイフは、血は、裏切り者の物で。

 つまりは・・・カリオンは恐らく其の裏切り者を、

 其処迄考えた所で背が震えたのでもう考えない事にする。

 大丈夫、自分達はそんな気なんて無いし、協力して皆で出れば良い丈だ。

「ん・・・今何か光った様な・・・。」

少し先を見遣って一足早くベールが様子を見に行く。

 確かに通路の先で光った物が見えた気がしたが、

「・・・(アレ)は不味いんじゃないかな。」

「え、ベールさん!気を付けてください!」

「え、何・・・っわぁあああ!」

又彼の悲鳴が響き、尻餅を着いてしまう。

 急いで近付くと僅かに頬に幽風(カゼ)を感じた。此は・・・、

 目線を上げると光る物が駆け抜けて行く。闇の中で浮かぶ此のシルエットは、

 振り子の様に揺れる刃、ペンデュラムだ。

 明らかな罠に思わず背が震える。今は兎に角ベールさんを助けないと。

 でも此は・・・一体何が起きてるのだろう。

 然う、ペンデュラムはベールの目の前で振られていた。でももう一つベールと飃、二柱の間でも振られていたのだ。

 つまりベールは其の中間に取り残された形になる。前後で刃が動いているなんて彼も気が気じゃないだろう。

「ベールさん!大丈夫ですか?」

「う・・・ん、だ、大丈夫だけど、ひぇ・・・。」

「ベール動く駄目、危ない。」

皆も集まって繁々(シゲシゲ)とペンデュラムを見遣る。

 自分達よりずっと大きい鎌だ。上から鎖で繋がれているが、(アレ)を斬るのは難しそうだ。

 刃も曇りなく、触れればあっさり斬られそうな様子だ。容易には近付けない。

「あれ?一つ目は潜ったの?やるね。」

「え、えぇ・・・全く気付いてなかった、た、助けてくださいぃ~。」

情けない声を上げて彼は座り込んでしまう。此は動けそうもない。

 目の前で真っ二つになんてされたら堪った物じゃない、何とか助けないと。

「駄目鎖持っても止まらない。」

逸早く鏡が少し飛んで鎖の根元を引っ張るが、動く様子はない。

 潜る事も出来そうにないし、如何する可きか・・・。

「・・・壁を壊すとかって矢っ張り難しいですかね。」

軽く小突いてはみるが、石で出来ているのだろう硬質な音を立てる。

 曲がりくねった迷路みたいになっているので壁は薄そうだが。

「此でも傷一つ付かないね。」

カリオンもナイフで斬り付けるが、血の跡が付いた丈で欠けてはいない。

 此は何とかして躱さないといけないだろうか・・・。

「僕ビーム出せるよ!」

言うや否やZ1-Θの中心が其迄と輝きを変える。

 そして(ヒカリ)が収まったかと思うと一筋のビームを壁に向けて放った。

 只浮遊している所為か反動でぐらつき、直ぐ転がってしまう。

「っ!Z1-Θ、危ない!」

転がった衝撃でビームが乱れ皆少し身構えたが、其の間Z1-Θはコロコロ転がってペンデュラムへ近付いてしまったのだ。

 素早く鏡が手を伸ばそうとするが間に合わない。刃がZ1-Θ目掛けて無慈悲に振り下ろされる。

 思わず飃は目を閉じてしまう。其処で鋭い金属音が鳴り響いた。

「っ・・・?」

そして恐る恐る目を開けるが・・・如何やらペンデュラムは止まっている様だった。

 何が起きているのか理解出来ず見遣るが、ペンデュラムの刃はしっかりとZ1-Θを捉えていた。

 只其の鋭い刃でも彼を割る事は出来なかったみたいだ。しっかりと受け止められ、鎌は止まっている。

「あ・・・す、凄い、Z1-Θさん止まってますよ!」

「エ?・・・ワァ!吃驚した!」

Z1-Θはしっかりと刃に挟まれて転がった(ママ)だが、目前と言うより接触してしまった刃を見て光り始めた。

「大丈夫?痛くない?」

「ウン、僕すっごく固かったの忘れてた。」

「・・・へぇ、凄いね。(アレ)で無事なんだ。」

一体離れて見ていたカリオンは感嘆の息を付く。

「じゃあ此の(ママ)進む?戻っても迷う丈だし。」

「然うですね。危ないから一柱ずつ通りましょうか。Z1-Θさんは本当に大丈夫ですか?」

「ウン、エヘヘ、僕の方が(ツヨ)かったの。」

「う・・・有難う御座いますZ1-Θさん!」

今にも()き出しそうな声でベールはZ1-Θへ手を合わせる。屹度感謝の印なんだろう。

「じゃあ先ずはベールさんから、次のもZ1-Θさん止めてくれますか?」

「ウン!任せて!」

Z1-Θが其の(ママ)転がるとペンデュラムは動き出した。此を受け止められるなんて流石の耐久力だ。

 怪物でなくてもすっかり助けられてしまった。Z1-Θが転がる度にペンデュラムが止まり、皆安全に進む事が出来る。

「ハイ!無事に進めたね!」

「Z1-Θ凄い、良い子。」

鏡が彼へ秘蔵の炭を渡すと、(ヒカリ)の帯で摘んで不思議そうにZ1-Θは眺めていた。

「此、何時も鏡が食べてる奴?」

「是、色、艶、手触り、完璧!」

如何やら彼の一級品をくれたみたいだ。自信満々に頷いている。

「ヤッタ、食べる練習頑張ってるから今度試してみるね。」

「一応壊れない様気を付けてくださいね。」

外は頑丈だが、中は然うとも言えないだろう。一体如何やってZ1-Θが食べているか気になる所だが。

「ウン、今は大事に此処に入れておくの。」

然う言ってZ1-Θは時空の穴(バニティー)へ炭を入れてしまった。飃もやっと何とか使える様になった技なので、目の前で披露されて思わず声が漏れた。

 凄い、魔力丈の筈のZ1-Θさんもこんな事が出来るなんて、此は益々頑張らないと。

「凄いね君達は。此なら私の行けなかった所も行けるかもね。」

「他、罠一杯?」

「ん、罠の事かな。此処には他にも色々あるよ。私は然う言う所避けてたから新しいルートが見付かりそうだね。」

「うぅ、他にもあるんですか・・・?も、もう僕はZ1-Θさんと一緒に居ますっ!」

「ウン任せて!」

元気良く光るZ1-Θへベールは抱き付いた。悪戯のつもりか顔に水鉄砲を掛けられてしまう。でも其の程度の責め苦で怯む彼ではない。

「其じゃあ出発ー!」

一際輝き始めたZ1-Θを先頭に、一行は闇の中を進むのだった。

   ・・・・・

「・・・あ、此方も来ていますね。」

曲がった角に血の跡を見付け、飃は少し下がる。

 一応カリオンのナイフの血とは限らないのかも知れないが、只一方へ転々と続いている丈なら問題ないだろう。

 何とかペンデュラムの罠を抜けた一同だが、其の先は全く新しいルートと言う訳ではなかったみたいで、所々で血の跡を見付ける事になった。

 未だ何度か分かれ道もあったので引き返す事にはなっていないが、本当に無数に通路は続いている様だ。

 一応罠の危険性を考えて通路を進んで行くが・・・。

「此方、未だ行ってないね。大丈夫そうだけど如何する?」

「はい、では其方に行きましょうか。」

歩き続けていると時間間隔も分からなくなって来る。ずっと此処が(クラ)いのもあって気が滅入りそうだ。

 良く此の中をカリオンはずっと独りで彷徨(サマヨ)えた物だ。血の跡からして結構な時間迷っていそうなのに。

 其にしても此処は一体何なのだろうか。罠しかない迷宮なんて、其の先に何が待っているんだろう。

 其こそ宝でもないと割に合わない様な所だ。意味もなく造られているとは思えないけれど。

「あの・・・カリオンさん。此処に来る前は何処に居たんですか?」

何とはなしに尋ねてみた。只出られたら良い訳でもないかも知れないし、矢っ張り彼の情報は欲しい。

「来る前?ん・・・もう結構前だし・・・んー・・・。」

何度か触手を絡ませてカリオンは宙を見詰めていた。

 其の間器用にもナイフは色んな触手を渡り歩いて其の刃をひらめかせる。

「・・・あれ、如何だっけ。彼奴の事ばっかり考えていたから自分の事なんて・・・私、何してたっけ・・・。」

「何も懐い出せない?」

「だね。何で今迄何とも思ってなかったんだろう。変だよね、こんなの。」

「でも出口を探しているなら屹度外から来たんですよね・・・?」

「うん然うだよ。じゃないと・・・彼奴が裏切った理由も分からなくなるし・・・。」

考え込む様にカリオンは何度も触手を合わせた。

 其の面からは読み取り難いが、混乱してしまっているのだろう。僅かに歩みも遅くなる。

「大丈夫ですよカリオンさん。其は出てから考えたら良いんです。其に未だ時間もありますし。」

考え込み過ぎるのは良くない事だ。自分も其の傾向があるから良く分かる。

 同じ思考に囚われると考えもどんどん沈んでしまい勝ちだ。鏡界内に居た自分が正に然うだったのだから。

 段々自分が溶けて混ざって、考える事すら出来なくなって、

 気付いたら全てを失っていた。もうあんな風に戻りたいとは思わない。

 然う、魄すら失った仮初の神でも、一度手にしてしまったら其の価値に気付かされたんだ。

 其の上で分かる。思考の檻は危険だ。思考丈じゃなく躯も動けなくなるから。

 カリオンのナイフに触れた時、彼の中に危うさを見たんだ。

せめて(アレ)からは遠ざけないと。

 そんな風に考えていた飃の肩が誰かに小突かれる。

「っあ、はい、如何しましたか?」

いけない、うっかり自分も考え込んでしまったらしい。慌てて飃は振り返ったが、

「え、飃さん如何かしましたか?」

「あれ、何方か僕の事呼びませんでしたか?」

キョロキョロと見回す彼の肩を又誰かが叩いた。其処で初めて彼はもっと視界を広げた。

 今のは一体、天井か、其とも、

―アノー一寸(チョット)、宜しいデスカ?―

「え、な、うわぁああっ、でっ、」

テレパシーに驚いたベールが二、三歩下がると何かに頭をぶつけてしゃがみ込んだ。

 良く見ると彼が頭をぶつけたのは何らかの金属棒の様な物で、其は天井へと続いている風だった。

「っZ1-Θさん、天井を照らしてくれませんか?」

「エ?ウン分かったよ!」

前を照らし続けていたZ1-Θの(ヒカリ)が上へと向けられる。

 すると其処には明らかに異質な物が張り付いていた。

 金属で出来た触手の様な物が六本生え、其の先には鋏か手の様な物が取り付けられている。

 其の内二本は天井に喰い込む様に刺さり、他四本を垂らしてはいたが、如何やら其の一本が飃の肩に触れ、ベールにもぶつかったらしい。

「っ新手の罠っぽいね。早く下がった方が良いよ。」

「待ってください。今恐らく声が、」

良く良く観察すると、其等の触手は箱の様な物から四方へ生えている様で、触手の内一本はまるで顔の様に見えなくもなかった。

 全身金属なので良く(ヒカリ)を反射する。若しかして此は、

 慌てて飃は時空の穴(バニティー)を創り出した。一つ創る丈でも可也の集中が要る。そして中から目当ての物を取り出した。

 早速其を目元に掛けて、じっと天井を見遣る。

「・・・ロンドラー、龍、ですね。」

スカウターに文字が並んで行く。早くどんな生物か見極めないと。

「え、えぇ、此も龍なんですか・・・。」

そっとベールは伸ばされていた触手に触れると、ひんやりとした感触が返って来た。

―然うデス。・・・アノー一寸(チョット)眩しいので、―

「ア、御免ね。此で良い?」

Z1-Θが照明を下ろすと、金属の触手は天井へと戻り、思い切り天井を蹴った。

 そして一回転させて金属の巨体を地へと叩き付ける様に伸ばす。其処で初めて其の全体像が良く見えた。

 ロンドラーと言う其の龍は全長3m、全身金属で出来た四足の龍だったのだ。

 頸や手足も細いので、全て触手の様に見えていたが、頭と思しき方は鋏の様に先が上下に分かれ、小さな目も備わっていた。

挿絵(By みてみん)

―驚かせて、済ミマセン。然うデス、私はロンドラー、龍です。―

「何だい此、罠じゃないのかい。」

確かに一見ペンデュラムに近い罠の様にも見えるが、ロンドラーはゆるゆると首を振った。

―イエ、自分も此処から出られず、困っていた所デシタ。でも皆サンの御蔭で、出られ然うデス。―

ロンドラーは見た目とは裏腹、中々友好的な龍族の様だった。

 龍古来見聞録(カリグローズ)にも、基本温厚で大人しいとある。問題なさそうで良かった。

 一応特徴として、罠の様にじっとして、通り掛かった獲物を捕食するらしいけれども・・・獲物認定はされなかった様だ。

 此処に居たと言う事は元々彼も罠の一種として居たのかも知れないが、今は其の気もないのだろう。

「出られるかもって、私達も正に迷っている最中だけどね。」

其を聞き、ロンドラーは首をクルクル回転させてカリオンと一同を見遣った。

 飃達の事を神族と気付いているのだろうが、彼の目に此の一行は奇妙に写ったのだろう。只取り敢えずは様子を見てくれているみたいだ。

―皆サンは一緒に、此処を歩いているんデスカ?―

「ウン、一緒に居るの。」

―・・・成程、少しは事情が分かりマシタ。―

彼もZ1-Θの事が気になるのか、何度か匂を嗅ぐ様に顔を近付けた。

 そして伸ばされていた尾で弧を描き、金属の擦れる重々しい音を立てる。

「君も迷ってるなら一緒に行くかい?・・・いや、一寸(チョット)多過ぎちゃうかな。」

ロンドラーは大きいので、彼が居ると通路が塞がってしまう。同行するなら又天井に貼り付いて貰う様になりそうだが。

―屹度邪魔になってしまいマス。ダカラ自分は、先に戻りまショウ。―

「え、迷ってたんだろうに戻れるのかい?」

カリオンに然う尋ねられ、ロンドラーは困った様に口を開いたり閉じたりする。

 屹度彼が次元の主導者(コマンダー)と理解して、何処迄話そうか悩んでくれているのだろう。何とか後を引き継がないと。

「屹度彼は此処の罠として居たんでしょうし、僕達とは別の帰り道があるんですよ。」

「噫成程ね。私達は其処から出られないのかな。」

―エー・・・出られる、訳ではないので、難しいデス。―

何とか話を合わせようとロンドラーも必死だ。頭を回転させてテレパシーを送ってくれた。

「君達の巣みたいな物か。じゃあ私達に用事はないね。」

―ハイ、其処への道を思い出せたのデス。―

如何にか話は繋がったと(バカ)りにカリオンは尾を振った。事情を察して気を遣ってくれたみたいで助かった。

「あの、戻る前に良かったら・・・此処の事とか知ってたら教えて貰っても?」

そっとベールが近付くと、何度かロンドラーは頷いてくれた。協力してくれるらしい。

「然うですね。折角なら、此の先の事とか如何なっているか知っていますか?」

―少しは歩き回ってマスガ、此の先も暫くは迷路デス。罠もあるので、気を付けて。―

「罠、他にもあるんだね。何があるの?」

―落とし穴デス、自分も何度か落ち掛けてしまって・・・。ダカラ跡が残っている、デス。―

「其は良い事聞けたね。一応落とし穴があっても通れるんでしょ?」

―ハイ、中心丈避けたら、歩けマス。―

「有難う御座いますロンドラーさん。ロンドラーさんも気を付けて御帰りください。」

―此方コソ、助かりました。有難う御座いました。―

挨拶代わりか手の爪を開閉させるとロンドラーは元来た道を戻り始めた。ある程度去ってから次元の迫間(ディローデン)へ戻るのだろう。

「龍、こんな所居た。」

「ですね。偶々でしょうが、会えて良かったです。」

仕事の一つが片付いて良かった。一応順調と言えるだろうか。

 好き好んでこんな迷宮へ入る神も少なそうだし、助けられるなら良かった。

「ね、先から気になってたけど、其の龍ってのは何?」

「先のだよ。あんな変わったのが一杯居るの。」

「君も十分変だけどねぇ。へぇ、初めて見たな。他にも迷ってたの居たんだ。」

「情報も貰えましたし、若しかしたら他にも居るかも知れませんね。」

そっとスカウターを仕舞って置く。早速此の術を使う様になるとは。

 此は本当にもっと練習しないと。龍の判別は然う簡単じゃないし。

「君達は先みたいなのに詳しいの?」

「色々会ってる、知ってる。」

「然う。じゃあ又出て来た時は宜しくね。こんな所だし、先みたいに皆仲良く出来るとは限らないからね。」

「っ、が、頑張ります!」

「ベールは仲良くより、食べられない様にね。」

彼の不幸体質を気にしてか中々不穏な注意である。思わずベールは唾を一つ呑んだ。

「気を付けま、うわぁっ、び、吃驚した!」

言うや否や彼の足元が崩れて大きな穴が開く。

 何とかベールは直ぐ様Z1-Θに掴まって事無きを得たが、余りにも不幸が早過ぎる。

 未だ落ちなかった丈ましと取る可きなのか、怪我がなくて良かったけれども。

「・・・此、落ちたら助からないっぽいね。気を付けてね。」

ちらと穴を覗き込んだカリオンは直ぐ首を引っ込めた。

 穴は床所か其の壁迄びっしり棘が生えていたのだ。引き上げた所で助かりそうもない。

「ワ、本当だ。落ちなくて良かったねベール。」

「ヒィイ!ちょ、ジ、Z1-Θさん近付かないで!危ないから!」

Z1-Θがそっと穴を見遣るのでしがみ付いていたベールは猶の事強く抱き締めた。

 只でさえZ1-Θは丸くて掴まり難いのだ。ひょんな事で滑りでもしたら・・・。

「此がロンドラーさんの言っていた穴ですね。此は気を付けないと・・・。」

確かに先を見遣ると所々穴が開いているのが分かる。

 (ドレ)も中心部が大きく開いているので其処を避ければ大丈夫そうだ。

「では壁沿いに皆さんで並んで、一寸(チョット)ずつ進みましょう。」

一歩ずつ確実に飃達は此の迷宮を攻略して行くのだった。

   ・・・・・

「へぇ、此処がセレの部屋なんだ。」

「妙な真似をしたら直ぐ摘み出すぞ。」

丗闇が後ろ手で扉を閉めるとフリューレンスは忍び笑いを漏らした。

「もう、大丈夫だってば。僕は君と話をしたい丈なんだから。」

「奴にしか興味はないと思っていたが・・・。」

適当な椅子に丗闇が腰掛けるとフリューレンスはベッドの上に留まった。

「勿論セレの事は大好きだし、興味もあるよ。でも君も、随分と特異な神だと思って。」

「我が然うだと言いたいのか。」

途端丗闇は半目になった。余り機嫌を損なわせると追い出されそうだ。

「だって、僕は昔の君を知ってるよ。だから断言出来る。丗闇漆黎龍と呼ばれた神は君とは別神(ベツジン)だった。」

「・・・・・。」

腕を組んで丗闇は考え込む様小さく唸った。

 彼は心の龍である。其の言葉に嘘偽りはなさそうだが・・・。

 昔の我の事なんてさして興味もなかったが、()(アカ)の化物が言った言葉は妙に引っ掛かってはいた。

 我自身について良く考えろと、彼奴は言っていた。

 ()の口振りはまるで、我自身にも忘れている事があると言う風で。

 只我に揺さ振りを掛けようとした丈だと()の時は思ったが、妙に(アレ)が引っ掛かる・・・。

 我自身について考えろと言っていたが、此奴の知る昔の我と何か繋がりか、糸口位でも見えないだろうか。

 じっと丗闇が考え込んでいるとフリューレンスは何度か首を傾げる様にしてそんな彼女を見詰めていた。

「あの・・・黙られちゃうと僕も挨拶に困るんだけど・・・。ほら、僕セレと約束してるから今心は見ない様にしているし、心が見えないのって不便だねぇ。」

「御前の知っている昔の我は如何違ったんだ。」

心の龍ともなれば他と違った見方が出来るかも知れない。

 如何して我が奴に封じられているのかも未だ良く分かっていないし、其の辺りを知られるならば。

「然う来なくっちゃ。」

フリューレンスはにっこり微笑むと帯を何度か揺らめかせた。

「はっきり言うと、昔の君には心なんて無かったよ。謂わば入れ物丈だった。只世界を見る丈の闇の器でしかなかったんだよ。」

「心が無かった、か・・・。」

我が昔の事をはっきり憶えていないのは其の為だろうか。丗を見続けた記憶はあるのに中身は無い様で。其が心の有無に因ると。

「矢っ張りクリエーターが最後に創っちゃったから然う言う風になったのかと思ったけど。」

「っ、然うなのか。然うか奴は確か最後、」

闇を・・・創ったんだったか。

 其が我と。成程、なくはないか。我は闇其の物で、だから此の使命を負ったのも頷ける。

「然うだよ。そんな大事な事も忘れちゃった?矢っ張り其は違和感があるよ。クリエーターは最期、凄く・・・疲れていたんだ。見るも無残にぼろぼろだった。でも僕達には何も出来なくてね・・・。」

目を細めてフリューレンスは淡く発光する。

 遥か古の記憶を其の(マブタ)に写して。

「彼女はハートレスだった。心を持ち合わせていなかったんだ。だから僕には助けられなかった。其が凄く悔しくてね。そんな彼女が最後に創ったのが君だから、心が無いのも仕方ないかと思ったんだよ。もう彼女がちゃんと創れるとは僕も思わなかったし。」

でも、と続けてフリューレンスは今一度丗闇を見遣った。

 鏡の様な瞳が此以上ない程開かれて、しっかりと彼女の姿を映す。

「でも・・・ね。今の君を見ていると、君にも心があったと知ると、僕にも彼女の為に何か出来たんじゃないかって思っちゃうんだよ。彼女はハートレスだって言って誰も寄せ付けなかったけれど、本当は・・・如何だったんだろうってね。」

「・・・今更後悔した所で奴はもう戻って来ないぞ。」

「ハハッ、君は中々厳しい事を言うね。」

厳しくなんてない。こんな所で下手な慰めをする奴の方が如何かしている。

 後悔している暇があったらやる可き事を考えなければ、又繰り返す丈なのだから。

「うん、矢っ張り君は変わった。本当に同じ神なのか疑う位に。ね、僕がもう随分前になるけど、何度か声を掛けていたのも憶えてないんでしょ?」

「・・・憶えがないな。」

懐い返してみたが、我がはっきり懐い出せるのは矢張り奴との記憶のみだった。

 黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)から始まる幾つもの繋がった記憶、鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)で奴と魂と魄、共に混ぜられた様に狂わされたが、彼処からの記憶ははっきりしていた。

 ・・・如何だろうか、若し我に本当に心が無かったとして、()の折に其に目醒めたなんて事は。

 心が一体全体如何生まれるか等は知る由もないが、()の時に生み出された、若しくは奴の一部を受け取っただとか、そんな影響はあったのかも知れない。

 ・・・矢張り自分の事を考えるのは苦手だ。如何にもむず痒い心地になってしまう。

 自分が何なのか、誰なのか、本来は悩む筈もない話の筈なのに。

 丗闇が黙っていると気遣う様にフリューレンスは鼻先を寄せた。

「君も随分苦労してるね。セレの事色々と助けてくれてるそうだけど。」

「彼奴は手が掛かり過ぎる。事ある事に問題を起こして。」

溜息混じりに愚痴が零れて行く。幾ら言った所で言い足りないだろう。懐い出す丈で溢れて来るのだ。

 そんな彼女の様子を見てフリューレンスは忍び笑いを漏らした。

「其でも()の子と一緒に居られて君は楽しそうに見えるけどね。」

「・・・下らない話を続けるなら帰って貰うぞ。」

「下らなくなんかないよ。少なくとも何も反応してくれなかった昔よりずっと楽しい筈だよ。」

丗闇に睨まれた所で彼は怯む様子もなかった。其の辺の図太さは心の龍故だろうか。

「好き勝手言ってくれるな。闇は畏怖や恐怖と言った感情で支えられるのだからそんな馴れ馴れしくされたら力が落ちてしまうだろう。」

「其は力が落ちたら()の子を護れなくなるからかい?」

途端心迄凍らされそうな程睨まれてしまう。ガルダ相手なら失神していたかも知れない。

「でも実際君は()の子に随分力を貸してるでしょ?見ていたら分るよ。君の魔力を()の子から感じるし。」

「彼奴が死にたくないと抜かすから貸してやった迄だ。」

「うん、矢っ張り君は優しい神だね。セレを助けてくれて有難う。僕からも礼を言わせてよ。」

「優しいとか優しくないとか、御前達は其ばっかりだな。」

ついと目を(スガ)める。

 話をしたいと言うから聞いてやったら全く此奴は。

 心の龍だからと期待した我が浅はかだっただろうか。此奴も此奴で、彼奴を気に入る余り何処となく雰囲気が似ている気がする。

 此なら彼奴等の方に同行した方が良かったんじゃないか。偉く静かだが、ちゃんと話し合いは出来ているだろうか。

 話し合いも何も出て来るなり暴れる様な奴だったし、有益な話し合いは望めそうもないが・・・。

 でも特に危険信号も予感も来ていない内は問題無しと捉える可きか。何にしても我抜きで奴と会う等、本当如何かしている。一体何度死に掛けたら彼奴は、

「・・・今、セレの事考えてたでしょ。」

上目遣いにフリューレンスは丗闇を見遣ったが即睨まれた。

「又節操もなく心を読んだか、全く此の卑しい、」

「君は読む迄もなく目で語るタイプだね。」

でも今卑しい龍って言い掛けなかった?誉れ高い神の割に随分口が悪い様だ。

 と言うよりは何だか感情が初々しい気がする。

 僕も永い事色んな心を見て来たけれども、此の神も神で色々と特殊だね。

 本神(ホンニン)は屹度普通だって思い込んでいるんだろうけれど、神としての実績と心が釣り合っていない気がする。

 一応他にも後天的に心を会得した神だとかは居たけれども、其の(ドレ)もがこんな機敏な心は持っていなかった。

 矢張り何処かぼんやりとしていて、只世界を見て、時々ほんのり反応を示す様な具合で。

 若し仮に昔から心があったとしても、永く生きたら矢張り心も其の影響を受ける。今の彼女みたいな反応を返すのは可也珍しいと思う。

 此はずっとセレと一緒に居るからこその変化なのか、何にしても気になるね。

 何かが此の神の中でも起きている、其は間違いないんだけれども。

 其を指摘すれば流石に怒りそうだ。今は見守る丈にしよう。

「そんなにセレが気になるなら切り上げるかい?」

「・・・別に切り上げた所で奴は我を入れんだろう、構わん。」

気になるのは否定しないんだね、とは流石に言わないよ、うん。

「フフ、然うかい?君と会わせたくないなんて、一体誰と彼女は話してるの?」

ちらと丗闇は目を(スガ)めた。彼に話しても良いか迷ったのだろう。

「・・・タイムトラベラーだと言ったら御前は信じるか?」

「え?其は何処かの次元の話かい?」

矢張り然う言う反応をするか、と小さく零して丗闇は息を付いた。

「否、未来から来たとほざく神だ。先御前も会った()の男の未来の奴だと。」

「ん、セレと一緒に居た()の神かな・・・?ガルダリューって言うんだよね。・・・へぇ、未来からだなんて面白い事言うね。」

「我も只の法螺だと思ったが、如何やら此が真らしいから面倒なのだ。」

「おや、でも其は有り得ないでしょ。丗の神の啓示(アポカリエスト)に反していると思うけど。有り得ないと言うよりは意味が分からないが正しいかな。」

「・・・・・。」

一つ頷いた限丗闇は黙ってしまった。随分と彼女の中で引っ掛かっている様だ。

 あり得ない筈の事が起こっているのか・・・此は如何した物かな。

「此は・・・僕の読み過ぎかも知れないけれど、君の使命にも通じる事案じゃあないのかい?」

ちらと彼女が此方を見遣った。異論はなさそうだ。

「はっきりとは知らない迄も、()のクリエーターが最後に創ったんだ。君の使命は凡そ想像が付くよ。其から考えたらそんな良く分からない存在は邪魔だと思うけど。」

「矢張り御前も然う考えるか。・・・奴も如何やら我の事を(ウト)ましく思っている然うだからな。」

「おや、此は穏やかじゃないねぇ。」

此の店では皆仲良くやってるんだと思ったのに案外揉め事も多そうだ。

「使命が為に争うのはもう神として仕方ないのかな。」

「否、(ソモソモ)は違ったのだ。突然奴の方から仕掛けて来たからな。」

懐い出したくもないのに勝手に頭の奥でちらつく影がある。

 本当に、余計な事をしてくれたな。

「我を殺したくて仕方がないそうだ。其の為に過去へ来たんじゃないかと思う程にな。」

「成程、未来の改変か。ん、でも先の話だと、其の未来から来たって言うのは今此の店に居る彼でしょ?そんな野蛮そうな奴には見えなかったけどね。」

只まぁ、心迄然うとは迚も言えなかったけれども。

 ()の心は・・・ある種危険かな。何かを成し遂げたいなら何でも犠牲にするタイプの、

 ・・・狂信者の、其だ。

 僕は嫌いじゃあないけれども、今迄に幾度となく導いて来たタイプの心だけれども、(アレ)が彼女の傍にあるのは如何なのか一寸(チョット)考えちゃうよね。

 然うか、見えないとは言ったけれども、彼が然うならある意味納得も出来るのかな。

「因みにどんな未来かは聞いたのかい?」

(ソモソモ)御前は信じるのか、時間移動を。」

「屹度セレだって信じてるから今話してるんでしょ?じゃあ僕も信じるよ。其がどんなにあり得ない話でもね。」

「・・・未来については憶えていないそうだ。其程遥か未来から来たと言っていたな。」

「ふーん、其は都合が良い様な悪い様な・・・。若しかして今セレは其を確かめる為に話してるのかな。」

ちらと丗闇が此方を見遣るが、如何やら間違いはない様だ。

 一応、心の龍である事は自負しているからね。其位の見当は付くよ。

 ()の子のやりそうな事だ。危険も顧みずに未知に突っ込むだなんて。

「成程ねぇ、憶えてないか。僕が見たら何か分かるかも知れないけどね。完全に忘れちゃったら難しいけど、糸口さえ見付かれば、時間を掛けて記憶を引っ張り出す事も出来るけど、彼女が許可しないだろうね。」

何だか心に関して随分身持ちが堅いし、手伝えるならやってやりたいけど。

 心と記憶は連動し易いから僕の専売特許なのにね。

「だろうな。だから考えている訳だが。何故奴が我を殺したいのか、其の真の理由を。」

「未来に関する事、君が生きていたら何らかの不都合が彼に起こるんだよね。」

不都合ねぇ。丗を支える闇の神が必要とあれ、不要になる事なんてあるのかな。

 其こそ大罪を犯す奴だよ。(ユル)されざる事をするから彼女と言う目を潰す類の。

「僕は其の彼の事、未だちゃんと見ていないから予測になっちゃうけど、()の神ってそんなに何かに執着してるのかな。」

分かってはいるけど、此は確認だ。

 セレにも言われたからね。心ではなくて声を聞けと。

「・・・彼奴に依存し過ぎている嫌いはあるな。」

彼奴に喰われている所を幾度か見てはいるが・・・正直普通ではないと思っている。

 互いに受け入れつつあるかの様だ。其位当たり前で、自分が入る余地もない位。

 前奴が死に掛けた折なんて正に・・・狂気に近かっただろう。

 今懐い出しても、一体此の神は何処へ進んでいるのだろうと思わずにはいられない様子だった。

「彼奴って、セレの事で問題ないかな。」

小さく頷き返してくれる。まぁ当然なのかな。

「となると・・・安直だけれども、君がセレを殺しちゃうから其を彼が止めに来たって思っちゃうね。」

「・・・矢張り御前も然う考えるか。」

然う返す彼女は何処か気落ちしている様で。

 ・・・矢張り此の反応、此の神の心は何処か異様だ。

 丗を統べる闇の神がする様な類じゃない。其こそ闇の神が何かに執着するなんて。

 此の変化も、君の所為なのかなセレ。

 彼女の心も少し危ういね。本来僕の付け入る隙なんてないだろうに。

 こんな僕に話してくれると言う事は、勿論彼女の事とか心配なのもあるだろうけど。

 其丈彼女が執着している事の表れでもある。

 其を憐れと嗤うか、愛しく思うか、だね。

「別にだからって僕は如何も思わないよ。僕は彼女を見護る丈だ。其の周辺に渦巻く物を引っ掻き混ぜはしない。其が僕が彼女の傍に居る為の条件だからね。」

「我だって御前の手を借りようとは思っていない。」

「うん然うだね。其に今のは凄く安直な予測だよ。心はもっと複雑だ。言葉じゃあ言い表せない物だ。未来にも似た物だね。今の君には全く其の気もないんでしょう?」

「・・・噫。」

「けれどもあるとすれば・・・矢っ張り使命かな。君の使命に彼女が反すれば、其の可能性はあるのかな。」

「然う・・・だな。使命の為なら我は、」

「うん、闇の神たる者、正に其の姿勢は素敵だね。其が()いては丗の為、然うでしょう?」

「・・・否定はしないんだな。」

「僕は龍だからね。セレも大好きだし、話してたら君の事も好きになって来ちゃったよ。君の心は素敵だ。僕の導きなんか必要としない、気高い(クロ)其の物だ。そして世界も愛しているから全て全て、大いなるクリエーターの事も愛してるよ。」

「御前は正に()の神の力を得ているな。其の言動は真に似ている。」

「其はおかしいね。彼女はハートレスだったんだ。僕が愛しこそすれ、愛される事なんてなかったよ。世界も、然う言う物でしょ?」

鰭をひらめかせ、フリューレンスは目を細めた。

「うん、然うだね。でも不思議だよ。落龍の詠(ルル フィス)って呼ばれてるんだっけ。()の時は正に世界の意志を感じたんだよ。有り得ない筈なのにね。」

「其は本当なのか。」

彼女は(ニワカ)に顔を上げる。先の話題より此方の方がずっと気に掛かるらしい。

 使命に純粋な所も良いね、丗に通じる神らしい。

 只如何せん心と釣り合わないのが気になるけど。一寸(チョット)心配だよ。此の危うさはうっかり壊れちゃいそうで。

「本当だよ。今迄生きて来て初めての感覚だったからね。あんなに(ツヨ)く丗を感じたのは初めてだよ。」

「龍に丈伝わる感覚か・・・。でも何故そんな物が。」

丗から意志でも感じただと?そんな事が有り得るのか。

 意味が分からない。(アタカ)も丗を一つの事象として捉えると言う事か、理解に苦しむ。

 其じゃあまるで、奴が言っていた様じゃないか。魔力に意思があると。

 正に・・・其の(ママ)だ。(アレ)も有り得ないと思った矢先に覆り、今では店の一員に迄なっている。

 若しかして何か起きているのか?我の眼に写らない所で何かが起きようとしている?

 でも起きるとして何の前触れなんだ。意思無き物に意思が宿る。其処に繋がりなんて・・・。

 考えが(マト)まらない、幾ら考えた所で其の先が見えて来ない。

 何かが丗に起こっているのなら其を見極めないといけないのに。判じないといけない筈なのに。

 一歩先が見えない、我の眼はそんなに曇ったか。

「何だか随分考え込んじゃってるみたいだね。君からすると余り良くない事なのかな。」

「良くないか如何か分からないから悩んでいるんだ。」

「まぁ確かにね。其で前みたいな混乱が起きても困るだろうし。」

困る・・・然う。(イタズラ)に丗を引っ掻き回す可きではないのだ。

 丗が動けば、変化すれば、丗の神の啓示(アポカリエスト)(ヒビ)を入れてしまうだろう。

 然うならない為に我は在るのだから。

「そんなに悩むと言う事は心当たりも無いのかな。」

「・・・無い。否、全く無い訳ではないが。」

如何しても(ヨギ)るは矢張り奴か。彼奴が話していた魔力達。

 勿論魔力が其の(ママ)丗と言う訳ではない。(アレ)も丗を動かす一部だが。

「彼奴は最近魔力とコミュニケーションを取る様になった。強いて言えば其位か。」

「セレの事かな。へぇ、中々面白い言い方するね。」

魔力と話すだなんて何だか御伽噺と言うか、非現実的、ファンタジーだ。

 そんな言葉が闇の神から発されたのも吃驚だね。

 確かに最近の()の子は妙な魔力を(マト)う様になったけど、成程然う言う事か。

 言葉は分かっても全く具体性はないけどね。何となくって丈で。

 僕もうっかり有り得ないと頭から笑いそうになるけど、彼女の目は本気だ。事実なんだろう。

 龍達所か魔力とも御友達になるだなんてやるね。

「其って結構な事じゃないかい?コミュニケーションって、(ソモソモ)魔力は話すのかな。」

話すも何も何も持っていない存在の筈なのに。うん、面白いね。

「話さない・・・筈だが、最初は奴にしか聞こえないテレパシーから入り、段々偸閑(アカラサマ)な力の介入を感じる様になったと思えば、今では肉体を得て此の店に入る奴も出る始末だ。」

「え、肉体?其って如何言う事だい?」

何だか思ってもみない話になった。

 冗談にしては飛躍し過ぎるし、笑うに笑えない。

 まさか此の僕が翻弄されるとは。こんな突飛な話、聞いた事もないからね。

「丁度良さそうな機械があったから、其の中へ魔力を宿らせた然うだ。其からは勝手に話して動いているな。」

「凄い、魔導機になる訳でもなく話しちゃってるの?一体どんな心なんだろう。」

「確かに。心は持って然うに見えるが。」

「魔力の心なんて見た事も聞いた事も無いよ。矢っ張り此の店は面白いねぇ。」

頷いていたけど何やら彼女は不満そうだ。そんな簡単な話じゃあないんだろうね。

「まぁ其の分、君の心労は凄そうだけどね。」

「全くだ。塔は壊すわ丗を乱すわ。随分好き勝手やってるからな。」

「ふーん、君としては矢っ張りもう一寸(チョット)大人しくして欲しいんだね。」

「然うだが、だが果たして其で奴が生き残れた保証もないから強くは言えん。」

難しい顔をしている。多分いっつもこんな事悩んでるんだろうなぁ。

 丗に通じる神は大変だね。僕達とも又考え方が違って来るし。

 僕達、例えば龍なら丗が変われば其に従うだろうし、どんな形でも丗を丗と受け入れて愛して行く。だから変容もして行くんだろうけど。

 クリエーターに創られた者達は然うは行かないからね。神達は特に丗を残す為に安定を求める。

 其の筈なんだけど・・・其の神の中からセレの様なのが出たら頭も抱えちゃうよねぇ・・・。

「何だか君を見てると何かしたくなって来ちゃうな。前助けてくれたし、僕に出来る事って何かないのかな?」

「フン、変な横槍さえしなければ其で問題ない。」

「然う?君の事も好きになっちゃったし、僕に出来る事なら頑張るよ?」

途端パッと彼女の頬が染まった気がした。

 あれ?何其の反応。若しかして・・・、

「無い!そんな気安くベタベタするな。」

口調も荒くなってしまったが、此は心を見ずとも分かる。

 若しかして此の神・・・結構 初心(ウブ)なのかな?褒めに弱いとか?

 いやまさかね・・・幾ら新鮮な心だからって闇の神なんだし。・・・うん。

 ま、然う言う反応も可愛くて僕は良いけどね。

「じゃあほら、今度は御茶会とか何か又話をしてくれないかな?僕はクリエーターの事も丗の事も良く知ってるし、君の助けにはなれるかも知れないよ?如何?」

少ししつこ過ぎたかな。一寸(チョット)目を眇められたけれども、怒ってはいない様だった。

「茶か・・・。まぁ其位なら良いだろう。然う言うからには次はもっと有益な話を聞かせろ。」

「うん分かったよ!君は如何やら忘れてしまってる事もあるみたいだし、其の辺話してあげるよ。」

案外話には乗ってくれた。此は嬉しい前進だね。

「其の時はもっと君の話も聞かせてよ。其の方が僕も話し易いし、ね。心を読まない代わりにさ。」

「我の事、か・・・。」

少し目を逸らされたけれども悪くはなさそう。良かった。

 もうそろそろ御開きだろうし、次回への約束が出来たのは上々だね。

「然うだ。今回話した事、御前が得た事は誰にも話すな。」

「セレにも?」

「絶対だ!」

直ぐ睨まれてしまった、一寸(チョット)揶揄(カラカ)い過ぎちゃったね。

 ふーん、丗闇漆黎龍、中々可愛い所のある神だね。

 セレも意地が悪いと言うか、悪戯する所があるし、若しかしたらこんな風に彼女を揶揄(カラカ)ったりしているんじゃないだろうか。何だかやりそうだ。

 偉大な闇の神だからって畏れる様な質じゃなさそうだしね。

 其も含めて彼女の心労になって然うだけど、うーん如何だろう。

 然うは言っても彼女はセレの事助けてくれているし、今見ても満更じゃあなさそうだ。

 楽しんでいるんだと思う。何だ()だ言っても、矢っ張り昔と彼女は違う。

 僕が羨んでしまう位には、良い変化だと思うよ。

 良し、今度は反対にセレに彼女の事を聞いてみよう。屹度面白い話が聞けそうだ。

「うん、今日は有難う丗闇漆黎龍。昔の話が出来て楽しかったよ。()う言う話が出来る神ってもうそんな居ないからねぇ。」

鰭を揺らすと、変わらず丗闇はじっと其の先を見詰めていた。

(ソモソモ)御前自体然う神と話す事も無かっただろう。」

「ん、然う言えば然うだね。心を見れば一発だったし。でも良いね。()う言うのも。一寸(チョット)もどかしくも思っちゃうけど、話すのも楽しいね。」

「我は御喋りは好かん。次も程々にしろ。」

「フフ、セレも結構御喋りだと思うけど。大変だね。」

「御前に心配される様な事じゃない。」

丗闇の返事は取り付く島もない具合だが、其でもフリューレンスは笑みを絶やさなかった。

 嫌と言いつつも反応してくれるなんて、闇の神がこんな優しいなんて知らなかった。

 此は明らかな変化。此を楽しめる様になれば、屹度彼女はもっと楽になれるだろうに。

 問題は山積みだろうけれど、僕はもっと此の店を見ていたい。はっきり然う確信出来て良かった。

「うん、じゃあね。君にも水精の詠が(コダマ)する様に、セレにも宜しくね。」

鰭を手の様に振ると、器用にも口元で鍵を開け、窓からフリューレンスは飛び立って行った。

 本当に只話しに来た丈だった様だ。長く伸びて行く尾の先を見詰めて丗闇は大きく一つ息を付いた。

 今回は・・・話し過ぎた。そんな口が軽い性分ではないのに。

 心を見せる様な隙も与えなかったのに、何だか釈然としない。

 でも古い神、か。

 確かに我も然う他の神々と接してはいない。(ソモソモ)干渉を然うする物でもない。

 今直ぐ思い浮かぶとすれば、大神位か。()の神も丗に通じてはいるが、魂を分けられた姿となっては何処迄定かな存在なのかも怪しい。

 クリエーターの時代を正しく憶えている者はもう少ないだろう。我も、忘れてしまっていた様だからな。

 今迄疑問にも思っていなかったが・・・其の辺りも含めてまさか彼奴は・・・?

 いや、()(アカ)の化物がこんな事を知っていたとも考え難いか。

 其でも、今現界している()の小癪な神について考えるなら必要なのだろうか、

 我が何者で、如何して彼奴に命を狙われなければいけないのか。

 奴が戻り次第話を聞きたいが、其迄は我も考えて置こうか。

 クリエーターが創った闇、其が我だと()の龍は言った。

 ・・・言われてみれば然うだろうが、でも其の自覚も、憶えもまるでなかった。

 疑問に思う事も勿論なかった訳で、でも其は確かに少々おかしな気もする。

 然う言えば我の中にクリエーターに関する知識はあっても、奴自体を見た憶えはない。

 此も、忘れてしまったのだと言うのだろうか。

 ずっと丗を見て、そして奴に封印されて今に至るのか。

 ・・・だから我は何も持っていないのか・・・?

 持っていない、否、何だ此の感覚は。如何しても妙な(シコリ)がある。

 持っていないんじゃなくて、此の喪失感は・・・奪われたとしか思えないのに。

 でも其が何かも分からない。漠然とした穴丈が残っていて、元々其処に何があったのか。

 大きく息を付いて丗闇は目を閉じた。

 ・・・矢張り自分の事について考えるのは苦手だ。思考が渦を巻いて吐き然うになる。

 でも、屹度もう目を逸らす事は出来ない。否、然うしているつもりはない。其でも見詰めないといけないんだろう。

 彼奴の事(バカ)り見て来たが、我が又判じなければいけない時は近付いているだろう。

 若しかしたら、誰が我を奴へ封じたのかも、我が忘れている丈で何処かに糸口があったのかも知れない。

 ・・・奴が戻る迄しっかり考えるか。せめて向こうも何か建設的な話が出来ていれば良いが。

 丗闇は扉をちらと丈見遣ると、再び目を閉じるのだった。

 ・・・・・

 そんな目蓋の裏より猶(クラ)いであろう迷宮を進む五柱はと言うと・・・、

「おぉおおぉおおっ‼」

何処からともなく転がって来た大玉に追われて迷宮を駆け回っていた。

 大玉は金属の塊かの様に質量感があり、カリオンの(ヒカリ)を反射して無機質に輝く。

 まるで大玉は意思を持っているかの様に一同を追い続けた。ピッタリ通路を塞ぐ程の大きさなので避ける事は出来ない。

 失速する事もなく走り回っているので体力的にも厳しい。そろそろ如何にかしないといけないが・・・。

「っ此の(ママ)だったら別の罠に挟まれるかもね。」

「ですね、脇道でもあれば良いんですが。」

「うぅ、僕が変な(イト)に引っ掛かった(バカ)りに済みません・・・。」

当然と言う可きか此のトラップはベールが起動させてしまったのだ。床に張られていたピアノ線らしき物を彼が触って、其から此の大玉に追い掛けられてしまっている。

 飃も一所懸命に頭を働かせるが、何も思い付かなかった。

 其よりも・・・急な走りに、もう足が・・・。

 元々(ヨル)の飃の躯なので鍛えてはいるのだろうが、何分使っているのは他神(タニン)である。

 勝手が難しいと言うか、パフォーマンスを発揮出来ていないのだろう。魔力だって然うなのだから(シカ)りだ。

 其の上考える事が彼は少々苦手だった。元が曖昧だった分、気疲れてしてしまう。

 考え乍ら走るだなんてそんなの、今にも目が回りそうだ。

 少し丈飃がふら付いてしまうと気遣う様に鏡がそっと支えた。彼は飛んでいるので其の辺の自由は利き易いのだ。

「不味い、皆、疲れてる。」

「っジャア僕頑張ってみる!」

只逃げても無理だと悟ったのだろう。くるりと振り返ったZ1-Θは大玉と対峙した。

「Z1-Θさん、無茶は駄目ですよ!」

「ウン、皆下がってて。」

瞬きの後にZ1-Θはレーザーを大玉に向けて発射した。其が正面からぶつかり合い、大玉の動きが鈍る。

 思わず息を呑んで一同が見守る中、徐々に大玉の勢いは失われ、遂にはピタリと止まった。

「・・・と、止まったのでしょうか。」

「ホント?止まった?」

Z1-Θのレーザーも止まり、仄かに点滅し始める。

「うん、上出来だね。やるじゃん。」

「凄い、凄いですよZ1-Θさん!」

腰が抜けてしまったが、如何にかなったみたいだ。誰彼ともなく座り込んでしまう。

 流石に疲れてしまった。誰も怪我もなくて良かったが。

 あんな物で潰されたら一溜りもなかっただろう。ほっと胸を撫で下ろす。

「良かったね。僕も一寸(チョット)疲れちゃった。」

Z1-Θが(ヒカリ)を抑えて低く浮遊する。可也エネルギーを使ってしまった様だ。

「噫Z1-Θさん、えっと、何か食べたり出来るんだっけ・・・。」

食べる練習中と言っていたし、食べ物は無理かも知れない。(ソモソモ)如何動いているのかすら今一理解出来ていないのだ。

「水があったら回復は早いけど、休んだら又元気になるよ。」

「水、う・・・えっと、汗なら掻いてるけど流石に、」

流石に其の案は無いだろう。つい苦笑を返してしまう。

「まぁ此処休めそうだし、大丈夫でしょ。御疲れ様って事で。」

「然うですね。一寸(チョット)休憩しましょう。」

本当今回はZ1-Θさんが居てくれて良かった。

 でも頼り切っちゃあいけない。出来る事、自分も考えないと。

 (ヨル)の彼だったら(ソラ)も飛べたし、こんな大玉も例の刀で斬っていただろう。

 自分も然う言う力を何か引き出さないと。

「うぅ、皆さん済みません。僕の所為でトラップが動いちゃって。」

(ソモソモ)何してたの。」

「何か光る物が落ちてると思って触ったら(イト)だったみたいで、其が斬れた途端に。」

如何やら態々(ワザワザ)作動させてしまったみたいだ。若しかしたら彼は目敏い分、余計に然う言うのを見付けてしまうのかも知れない。

「もう、自分から危険に首突っ込まないでよ。」

「ベール、悪くない。誰罠踏んでも、おかしくない。」

「う、鏡さん、有難う御座いますっ!」

ひしとベールが彼に抱き付いた。そんな彼の頭をポンポンと鏡は叩いてやる。

「其にしても皆優しいね。誰も見捨てずに一緒に居てあげてさ。」

「当然!一緒の方が楽しいよ!」

「僕なんてずっと助けて貰ってますので。皆さん有難う御座います。」

「ふーん、仲良いねぇ本当。」

ちらとカリオンは手元のナイフを見遣った。あんなに走ったのに取り落とさなかった様だ。

 最初は末恐ろしく思っていたナイフだけれども、今ではすっかり此方の罠に怯えてしまっているのでもう余り目に付かなくなっていたけれども。

 血は出続けているので直ぐ様彼の足元には小さな血溜りが出来てしまっていた。

「・・・でも、優し過ぎるのも危険だよ。彼奴みたいに裏切っちゃうかもでしょ?」

「?其って如何言う事ですか?」

優し過ぎて裏切るって何だろう。其は(ソモソモ)裏切る前提で優しくしていたと言う事だろうか。

 若しかしたら彼から見て僕達一行が然う見えているとか。

 偶々迷宮内で出会って妙に優しくしてくれると思われているなら・・・一寸(チョット)複雑だ。

 別に裏切るなんてそんな事するメリットも何も無いと言うのに。

「っ!あれ、奥に何かあるかも?」

「ア、ベール動いちゃ駄目!僕が直る迄動かないで!」

「あ、は、はい!分かりました!」

Z1-Θに指示され、ピンとベールの背が伸びる。

 酷い指示だけれどもZ1-Θも察したのだろう、此以上彼を動かすと危ないと。

 ベールも壁に背を預け、一つ息を付いた。其の瞬間に天井から格子が落ちて来て彼は閉じ込められてしまった。

「・・・・・。」

暫し一同は固まって互いの顔を見遣る。如何やら時間は止まっていない様だ。

 でも頭は(チッ)とも働かない。何が起きたのか理解出来ないのだ。

 え、何だ此は。動いていなかった筈なのに如何して此の神は檻の中に居るんだろう。

「うわぁああぁん、皆さん助けてくださいー!」

格子を掴んだ所でびくとも動かず、ベールは声を上げた。其の様は完全に囚神(シュウジン)である。

「・・・まさか動かなくても罠を踏むとはねぇ。」

「何が起きたの?何でベールは檻の中に居るの?」

改めて全体を見てみるが、檻は2m程の小型の物で、ベールは中心で屈んでいなければいけない位の大きさだった。

 檻に触れてみるが、大玉と同じく金属らしい。素手では到底無理だろう。

「壁あるの、スイッチ?」

「あ、屹度此で檻が落ちて来たんです、皆さんも気を付けてください!」

確かに彼の傍に一つの小さな出っ張りがあった。

 (アレ)を押したと言うのは成程、恐らく先程休もうと頭を預けた所が其処だったんだろう。

 一応他にも罠がないか見遣るが、其らしき物は見当たらない。何ともピンポイントな罠に掛かってしまった様だ。

「うーん・・・頑張ったら斬れるかな、一寸(チョット)離れててよ。」

檻に近付いたカリオンがナイフを振り回して斬り付け始めた。

 高い金属音が鳴り響き、何度も同じ所へ正確に刃が振り下ろされる。

「っ、カ、カリオンさん頑張って!」

間近での気迫にベールは少し怯んだ様だが、そっと声を掛ける。

 カリオンの無数の触手をナイフが何度も行き来するので、自分達では到底出来ないナイフ捌きとなっていた。瞬く間に何度も斬られる事だろう。

 流石と褒めたくなる一方で、其の様は少々恐ろしくも見えた。あんな風に襲われたらとちらと考えてしまう。

 屹度成す術もなく斬り刻まれてしまうだろう・・・つい身震いしてしまう。

 其は余りにも様になっていたからで、実際に然うして若しかしたら・・・、

 駄目だ。其は考えてはいけない。今彼はベールさんを助けようとしているのだから。

 暫くして不図カリオンはナイフを下ろした。其の拍子に血が一滴零れる。

「・・・難しいね。一寸(チョット)傷は付いているから何時かは斬れそうだけど。」

「うぅ、カリオンさん有難う御座います、済みません。」

「皆ずっと頑張ってるし、私も何か出来ないか一寸(チョット)手貸した丈だよ。」

表情は分かり難いが、僅かにカリオンは笑った気がした。だが直ぐに鼻から息を吐いて首を振った。

「僕のビームで壊せるかな・・・もう一寸(チョット)待ってて、連発は出来ないの。」

「此の(ツエ)でも難しいですかね。」

(ツエ)の刃を檻に当てて擦ってみる。

 僅かに削れる感覚はあるが・・・時間は掛かりそうだ。

 かと言って諦めるのも・・・自分も何かしないと。

 然うだ、()う言う時に向いていた武器があった。()の刀を借りよう。(ヨル)の彼には悪いけれども、仲間の為なら仕方なく貸してくれるだろう。

 時空の穴(バニティー)を何とか集中して創り出し、中から一本の刀を取り出す。

 魔力を込めれば何でも斬れる刀と彼が言っていた。僕の魔力で何処迄斬れるか分からないけれども。

「あ、飃さんそんな武器があったなんて、」

「はい、僕に扱えるかは分かりませんが、一寸(チョット)試してみますね。」

持ってはみるが、刀なんて初めてだ。如何しても一寸(チョット)ぎこちなくなってしまう。明らかに慣れていない持ち方である。怪我しない様気を付けないと。

 一つ息を付いてそっと魔力を流してみる。

 彼は(ツエ)と同時に此を扱っていたけれども、そんな芸当は無理だ。此方に丈集中しないと。

 息を詰めると(シロ)だった刀身が(クロ)へと染まる・・・魔力が伝わって行くのを肌で感じた。

 後は此を振るって何丈(ドレダケ)斬れるかだが。

 横薙ぎに刀を斬り払う。一瞬重い感覚が走って刃は駆け抜けた。

「っ・・・あ、す、凄い!斬れてますよ飃さん!」

ベールが指差すと確かにしっかりと檻の格子は斬られていた。下辺りを斬ったので、次は上側を斬れば彼を出してあげられそうだ。

 此の感覚なら、大丈夫そうだ。もう一度構え直して斬ってみる。

 弾かれる事なく刃はすんなりと格子を斬った。遅れて外れた格子がばらばらと落ちる。

「・・・ふぅ、何とか斬れましたね。」

「飃さん!有難う御座います!」

檻を跳び出してベールが抱き付いて来る。余りの勢いに少しふら付いてしまった。

「わっと、ぶ、無事で良かったです。」

刀は元の(シロ)い刀身に戻ったが、危ないので下げて置く。

 何とか出来る事があって良かった。何となく力を使い易く感じたけれども、若しかしたら先程飛んだ時に感覚を得て来たのかも知れない。

「やったね飃!こんな細いので斬れるんだ。」 

「変わった刀、(ツヨ)い力感じる。」

繁々(シゲシゲ)と二柱も刀を見遣る。貴重なマジックアイテムなので気になる様だ。

「うーん、皆凄いねぇ。此も突破しちゃったか。」

「はい、何とか僕にも出来て良かったです。」

そっと刀を仕舞って置く。(ツエ)丈で手一杯なので又必要があったら使わせて貰おう。

「うぅ、助けて貰って(バカ)りで、本当に有難う御座います。」

「ベール、頑張る。大丈夫皆居る。」

彼が頑張ると下手したら不幸が加速しそうだが、其処は見守る事にしよう。

「其ではもう少し休憩しましょうか。あ、然う言えばベールさん先何か見付けましたっけ。」

檻から出すのに必死だったが、何か彼が言っていた覚えはある。

 又候(マタゾロ)罠かも知れないが、其なら其で見極めて置きたい。

「えっと、あ、ほら向こうで何か光ってる気がして。」

ベールは通路の先を指差した。そっと其の先を目で追って行く。

 長く伸びた通路の先、曲がり角に目を凝らして見る。

 確かに仄かに何か光っている様な・・・?

「何か、光っています・・・かね。」

其でも言われて初めて気付くレベルだ。見付けたのは素直に凄いけれども。

 ()の角の先に光源があるのか。でも此処に来て以来初めて目にするんじゃないだろうか。

 (ヒカリ)なんて聞くと然う悪い気はしない。罠か、然うじゃなかったら若しかしたら出口かも知れない。

 其の考えが一瞬頭を(ヨギ)って思わず背が伸びる。

 此は・・・彼が反応したのも頷ける。ずっとこんなに(クラ)かったんだ。(ヒカリ)を見付ければ如何しても気になってしまう。

 其にしても罠に掛かったのは別の要因だから何とも言えなくなってしまうけれども。

「?(ヒカリ)?見えない。」

「鏡は眼鏡外した方が見えるんじゃないの?」

「・・・あ、見えた。」

「何で外したら見えるの其。」

軽く眼鏡を上げて凝らすと、鏡は又掛け直した。

 満足はしたらしい。今更だが彼は此の(クラ)い中、視界もより不明瞭な(ママ)進んでいた様だ。

 其なのにベール(バカ)り罠を踏むのは運の差なのか何なのか・・・。

「私は自分が光ってるから見えないけど、何かありそうなのかい?」

「はい、角に何かあるかも知れません。もう少し休んだら行ってみましょうか。」

「ア、でも動いてるみたいだよ。ホラ、何か居るよ!」

Z1-Θが手を伸ばすと確かに通路の角から何か見えた気がした。

 其は小さな狗の顔の様で、此方の様子を窺っている風にも見える。

 只頭の大きさの割に位置が高い。自分達と同じ位の視点がありそうだが、

―・・・其方、行っても大丈夫?―

「ウン!君は誰?御話しよ!」

全く怯える事も無くZ1-Θが声を掛けると(ユック)りと其は姿を現した。

 其の姿を目にした途端、飃は何となく正体を察して時空の穴(バニティー)を創りに掛かる。

 其はまるで(ミカヅキ)に狗が一匹座っている様な格好だった。

 銀に仄かに輝く(ミカヅキ)の舟には刺青が彫られ、其に寝転ぶ様に乗る獣は(シロ)く、足が無い代わりに大きな尾が棚引いている。

 先が霞みになっている様な尾で、様々な色を写しては形を変える。

 (ミカヅキ)を含めて全長30㎝位の獣は(ユック)り浮遊し乍ら此方へ近付いて来た。

挿絵(By みてみん)

 其の間に飃はスカウターを取り出して掛けてみる。矢っ張り、該当する龍がいる様だ。

 此は・・・ツキの獣、ムーンアリアと呼ばれる龍らしい。

 飛と宙属性。如何やら攻撃的な種じゃない様だけれども・・・。

「成程、()水鏡(ツキ)みたいなのが光って見えたって訳ね。」

近付くに連れ、カリオンも彼の(ヒカリ)を識別出来て来た様だ。そしてちらと此方を見遣る。

「・・・(アレ)も、君達に任せて大丈夫かい?」

「はい、彼の事は存じてますから。」

「では龍って事なんですか・・・?」

「はい、恐らく問題はないと思います。」

然う()う話しているとツキの獣も可也此方へ近寄って来た。

 其の瞳は真黔(マックロ)(アカ)の筋が入った、心の底迄見透かす様な目だ。

 でも向こうも少し怯えている様だ。距離を取って窺う様に見詰めている。

 安心させる為にも飃は透かさず自己紹介をした。

 名前と、迷っている事を伝えると向こうも多少警戒を解いてくれた様だ。尾を一つ振って頷いてくれる。

―然うなんだ。じゃあ朗報だね。出口は近いと思うよ。―

「ほ、本当ですか⁉でも近いと思うって・・・?」

―そんな気がするんだよ。此処は然う言う所だから。―

「は、はい、その、分かりました。」

若しかして此はツキの獣の特殊な力なのだろうか。

龍古来見聞録(カリグローズ)に不思議な書き方をされていたのだ。ツキの獣は自分達と違う世界を見ていると。

 物質ではなく、イデアを、其の存在を見詰めている。

 だから予言めいた事を屡々(シバシバ)告げるが、物事の本質を見ているから、純粋な導きを施すと。

 屹度此は吉兆だ。出口は本当に近いのかも知れない。

「君も此処で迷ってるの?」

―いや違うよ。此処が好きだから此処に居る丈。―

「此処が好きだなんて物好きだね。」

するとじっとツキの獣はカリオンを見詰めた。

 不思議な程静かに澄んだ目だ。本当に全て見透かされてしまう様な(クロ)い水面。

―・・・君にはツミがあるね。其が出口を曇らせている。―

罪、と聞いて思わず飃の喉がひくついた。そして思わず彼の握るナイフを見詰めてしまう。

 未だ血が出続ける先を。其が一体何処で使われたのか。

「罪だって?私は被害者なんだけど。裏切られた所為で彷徨(サマヨ)ってるんじゃないか。」

―然う、君は裏切られた。でも君は其の裏切りを無駄にした。―

「無駄?裏切り、良く分からない。」

今迄何となく触れずにいた所をばっさりとツキの獣は言及した。

 此は・・・如何なんだろうか、聞いて良いのか其とも、

「間怠っこい言い方は止してくれよ。はっきり何が言いたいのさ。」

「カ、カリオンさん少し落ち着いてください、ね。」

―君は出口を知ってるね。けれども出なかった。然うでしょう?―

「そんなの無いよ。出口なんて見てない。」

激しくカリオンは首を左右に振った。其の間もナイフが触手を行き来する。

 其の刃からじっと皆目を離せずにいた。

―然う信じるなら此の先に行きなよ。然うすれば、はっきりする。今君がしているみたいに血の跡が続いているからね。―

「っ血の跡が・・・。」

カリオンが付けていた血の跡、其が此の先にもあるのか。

 若し其が本当なら、自分達はずっと迷わされていたのかも知れない。血の跡は避けて進んでいたのだから。

 でも此の先の道は、敢えて進めと言っているのか。

「じゃあカリオンさんは出口の方から来たんですか?」

「・・・・・。」

途端ふつりと黙ってしまう。何か考え込む様に手元のナイフを見詰めた。

「?皆如何したの?出口があるなら行こうよ!」

Z1-Θ丈は嬉しそうに(ヒカリ)の帯で皆の肩を叩いた。少し元気が出て来たみたいだ。

「然う、ですけど。Z1-Θさんはもう大丈夫ですか?」

「ウン、其に出口があるなら早く行った方が良いよ。デショ?」

彼が言う事は最もだが、直ぐに頷く事が出来ない。

 其の出口は何か問題がありそうなのだから。

 てっきり自分は彼と一緒に居たであろう誰かが、彼を裏切って出てしまったから()のナイフで・・・やってしまったのだと。

 いや、でも其の可能性は未だ否定出来ないのか。其にしても()の道疑問は多く残る。

 カリオンが出口へ辿り着いたのなら、如何して出ていないのか。

 如何して態々(ワザワザ)又迷う事を選んだのか、其が謎だ。

 彼は(カタク)なに出口は知らないと言っていたけれども果たして・・・。

 疑問で頭が一杯になってしまう。考え過ぎるのは良くないけれども、此の答えが出ない(ママ)出口へ向かうのは危険な気がする。

 同じ答えに行き着いているのかベールや鏡も黙ってしまう。そんな彼等の背を不思議そうにZ1-Θは見ていた。

「・・・カリオンさん、出口について聞いても良いですか?分かる事丈で良いんです。」

「フフ、私が嘘を()いていると思ってるのかな?」

「嘘ではありません。勘違いとかもあるでしょうし、只無暗に行くのは危険だと思ったんです。」

何とか刺激し過ぎない様に飃は慎重に言葉を選んだ。

 もう出口が近い、其なら此の辺りが最後なんだ。

 僕達は彼の事を知らな過ぎる。其で良いとは矢張り思えない。

 折角ツキの獣も教えてくれたんだ。多少強引でも、詰めた方が良いかも知れない。

―・・・風向きが変わった。折角だから一寸(チョット)見て置こうかな。―

此の空気の原因を作ったツキの獣は何とも涼しい顔をして少し下がってしまう。

 飃は唾を呑み込んで、(ユック)りと瞬きをした。

「然うだね。此処は罠が多いし、出口には何かあるかも知れないね。」

「憶えていない?罠、知りたい。」

「言いたくないね。あんな裏切り者、忘れてしまいたいから。」

「・・・?罠と裏切り者って、関係があるの?」

Z1-Θが水で作った疑問符を頭に浮かべた。其を見てカリオンは薄く笑った。

「嫌な質問ばっかり。若しかして君達も・・・裏切り者なのかな。」

「っち、違いますカリオンさん、嫌なら答えなくても構いません。気を悪くさせたなら謝ります。」

慌てて中腰になって下がった。此の反応は・・・不味い気がする。

「謝らなくて良いよ。私は何方か知りたい丈だから。」

「ぼ、僕達は裏切ってなんてないですよカリオンさん!」

「然う?でも若しかしたら君が罠に掛かってたのも(ワザ)とだったりしない?」

「掛かりたくなくても勝手に罠に掛かっちゃうのが僕なんですー!」

悲しい告白をベールは必死になってしていた。彼も自覚は大いにあるのだろう。

「然うかな。ペンデュラム潜ったり、大玉動かしたり檻に入ったり、何、罠で皆やられてから自分丈出ようとしたのかな。一柱丈安全な檻に入ってさ。」

()の道其じゃあ僕も檻から出られなくなって餓死しちゃいますよ!お、落ち着いてくださいカリオンさん、僕が愚図で鈍間な所為でっ!」

いけない、矛先が完全にベールへ向いている気がする。

 じりじりと彼はベールへ(ニジ)り寄っていた。すっかり腰が引けてしまったベールは座った(ママ)下がって行く。

「ベ、ベールさんそんな卑屈にならないで。カリオンさんも、彼は(ワザ)とじゃないんです。だからその、」

言い掛けた所でベールとカリオン、二柱の間に一本の鉄製の矢が刺さった。

 幸い怪我はない様だが、何の事かと一同の足が止まる。

「あ・・・若しかして此のスイッチ?あ、危な、」

「矢っ張り(ワザ)とじゃないか!」

「ヒィイイイッ!ち、ちち、違うんですぅ!」

下がった拍子にベールは床のスイッチを踏んでしまったみたいだ。降って来た矢は一本丈だったが、其の一本が彼のある疑惑を確かにしてしまう。

 全く、何てタイミングで起きてしまったんだろう。此のフォローは厳しいか。

 彼の不幸がこんな形で発揮されるなんて。正直嘗めていたんだろう。不幸の申し子の名は伊達じゃあなかったんだ。

「カリオン、如何しちゃったの?ネ、早く出口行かないの?」

「裏切り者が居る状況で行く訳ないでしょ。良いよ、一柱ずつ刻んであげるから。」

「わ、わぁああ、た、助けてくださいー!」

急ぎ飃は(ツエ)を構えて彼の傍に寄った。

 恐い、恐いけれども自分が彼を護らないと。

「カリオン、喧嘩駄目、皆で出口行く。」

「然うですよ。今迄皆さんで来れたじゃないですか。一柱じゃ此処迄来られなかった筈です。もう少し協力して、」

「其方は協力してるけど、其処に私も入っているとは思えないんだよ。だから、裏切られる前にやらなきゃ。」

カリオンの角が激しく明滅し、触手が活発に揺らめき始める。

 そしてカツン、と大きく蹄の音をさせて一歩近付いた。

 手にしたナイフが触手の間を行き来する。()の血に、自分達のも混ざるのだろうか。

 ()うなる位なら無理にでもナイフを彼から取り上げる可きだったか。いや、そんな事をした所で(ソモソモ)信用を得られなきゃあ意味がない。

 何とかしないと、彼も次元の主導者(コマンダー)なんだ。如何にか打開しないと此の次元は終わってしまう。

 (オモムロ)にカリオンはナイフを振り下ろして来た。咄嗟に(ツエ)を掲げて受け止める。

 激しく金属音を響かせて二つの刃が交差した。

 少し(ツエ)を傾けて何とか去なす。でも、思ったよりナイフが重い。

「う、あ、飃さんっ、」

「っベールさんは下がっていてくださいね。」

正面からなら怯まなければ此位は対処出来る。でも先の様に檻を斬ろうと繰り出された(アレ)を喰らったら、(ツエ)一本では受け切れないだろう。

「何で庇っちゃうかな。君も其方側なの?何方にも良い顔してるけど。」

カリオンの口調に変化はなく、()も当たり前の様にナイフを揺らす。

 躊躇がないんだ。慣れていると言う点では分が悪い。

「何方とかじゃないんです。僕は只、皆で一緒に行きたい丈ですよ。」

「ネェ如何したの。如何してカリオンは攻撃してるの?止めようよ。」

(ウルサ)いなぁ、口動かす位なら態度で示してよ。どうせ分かり切ってるんだから。」

ナイフを振り回され、思わずZ1-Θと鏡は下がってしまう。

 獲物は小さな一本のナイフだが、振るう彼の姿に気圧されてしまったのだろう。

 一先ず取り押さえたいけれども、()の触手の動きが読めない。

 一応対抗出来る武器を有しているのは自分とZ1-Θ位だろう。

 如何にかしないと、其の重圧(プレッシャー)に軽く眩暈がする。

 でも、逃げる訳には行かない。何とか丸く収まる方法を考えないと。

 (ツエ)を構えていると突然カリオンの触手が揺らめいた。其に気を取られた途端、ナイフの姿が隠れてしまう。

 触手の中に紛れ込まされてしまった様だ。一見だと何処に仕舞われているか分からない。

 一つ息を付いて反らす様に(ツエ)を握り直す。

 飽く迄も此方から手は出さない。受けて、タイミングを計る。

 敵ではない事の証明を。言葉で駄目なら仕草で如何にか伝えたい。

「・・・掛かって来ないの?」

「僕はカリオンさんを傷付けたくないので。」

「あっそ、何時迄其の面出来るかな。」

「っナイフ見えた!」

カリオンの触手の影から刃が覗いたのだろう。Z1-Θが(ヒカリ)の帯を伸ばし、ナイフに触れる。

 何とかナイフを奪い取ろうと考えたのだろう。思わぬ不意打ちに大きくカリオンは一歩下がった。

「何なんだよ。其の手退()けなって。」

「危ないよ。駄目、傷付けちゃ駄目!」

猶もZ1-Θの手が迫る。(ヒカリ)で出来た手なので自在に動くのだ。カリオンを囲む様に手が伸びて行く。

 其を邪魔臭く思ったのだろう。透かさずカリオンはナイフを払った。

 斬られた訳ではないだろうが思わずZ1-Θは手を上げてしまう。

「っ危ないですよ。Z1-Θさんも下がってください!」

「もう邪魔しないでよ皆してさぁ!」

カリオンがナイフを振り上げ、其の(キッサキ)を飃へと向けた。

 突然の事に反応が遅れる。Z1-Θの手を払い退()け、刃が迫る。

 急ぎ(ツエ)を突き出したが、透かさずカリオンはナイフを持つ触手を変え、隙間を縫って斬り付けてきた。

 此は、反応が間に合わないっ!

 せめてと庇う様に手を上げると、薄くはあるが腕を斬られてしまった。

 遅れて(アカ)い筋が入り、血が一滴零れる。

「っカリオンさん、落ち着てくださいっ。」

直ぐに(ツエ)を払って下がった。彼も一度足を止めて様子を覗っている様だ。

「っあ・・・飃、さん手を、」

「だ、大丈夫ですよベールさん。こんなの掠り傷なので。」

少し斬られた丈で冷汗が浮かんでしまった。如何しても戦いは慣れない。

 其に此の躯は借物だ。然う思うと傷付けてしまった事に酷い罪悪感が走る。

 遅れてずきんと小さな痛みが走った。痛みも忘れ掛けていた感覚だ。嫌悪感が噴き出して来る。

 嫌だ、恐い。でも此処で逃げる訳には、

 何とか負の感情を抑え込んで目の焦点を合わせた。

 今は向き合わないと。此上先手を打たれる訳には、

「ベールさん、もう少し下がって・・・ベ、ベールさん?」

ちらと振り返ると彼は固まってしまった。

 真っ白になって微かに震えている気もする。随分怯えてしまったのだろう。

 そんな彼の目はカリオンではなく、飃の腕に注がれていた。

「あ・・・こ、此の(ママ)じゃあ皆、」

「っ僕が何とかしますから、大丈夫ですよベールさん。」

何とか励まそうとしてはたと気付く。

 何だか、彼の気配が冷たい様な・・・妙な感覚が胸を(ヨギ)った。

 兎に角彼を逃がさないと。そして、

「グログロgrotesque中毒発作症候群・・・発症。」

「・・・え、」

聞き慣れない単語に思わず彼を見遣ってしまう。

 けれども其処に彼の姿はなかった。

 凱風(カゼ)が頬を掠めたと思えば、飃の前に一つの影が降り立つ。

「え、あれ、ベールさん?」

つい何度もキョロキョロしてしまう。目の前にカリオンが居るのに彼への関心が逸れてしまった。

 ベールは静かにじっとカリオンを見遣る。まるで飃を庇う様に前に立っていた。

「ベール、(ツヨ)くなった。飃下がる。」

「え、え?如何言う事ですか。無理しちゃ駄目ですよベールさん!」

声を掛けるが彼から反応はない。

 佇まいが随分と変わってしまった。でも此は一体・・・、何が彼に起きたと言うんだろう。

 然う言えば(ヨル)の彼が言っていた様な・・・。ベールさんは実は(ツヨ)いとかって。

 けれども(ツヨ)くなる条件?が独特だったから、協力を仰ぐのは諦めたとか何とか。

 若しかして此の状況が何か彼に作用したのだろうか、まるで覚醒みたいな。

 良くは分からないけれども、此処は彼に任せる可きなのだろうか。今の彼の背は冷たい半面、迚も頼りになる様な気がした。

「何、怒っちゃったの?そんな目も出来るんじゃん。矢っ張り先迄のは演技かな。」

無言で見詰められてもカリオンは鼻を一つ鳴らした丈だった。

 でも其すらベールは反応を示さず、床に刺さった(ママ)になっていた矢を抜き取る。

 そして其を(サナガ)らナイフの様に構えた。如何やら其を得物として使うらしい。

 大きくカリオンが一歩踏み出し、ベールへ斬り掛かった。

 咄嗟に声が出そうになるが、堪えて見護る。もう自分には見護る事しか出来ない。

 でも今の彼なら、或いは屹度、

 其迄動きを見せなかったベールだが、ナイフが迫った途端、大きく身を屈めた。

 そして先を突き上げる様に振り上げ、ナイフを弾いてしまう。

「っやるね。」

弾かれた所で触手がうねり、直ぐ様ナイフの向きを変えて繰り出される。

 其の刃の背に沿わす様に矢を突き立て、明後日の方向へと弾いて行く。

 あんな細くて今にも折れそうなのに良く対応出来ている。屹度最小の力で去なしているのだろう。

 素神(シロウト)の自分の扱い方と明らかに違うので良く分かる。只構え、弾くのではなく、相手の力も利用して先の動きを呼んで動いている。

 一挙一動が先を見据えているのだ。場当たりな対処ではなく、其の先の目的を見ている。

 其が何なのかは今の僕には分らないけれども、其の動きは明らかにプロの其だ。

 (ヨル)の彼と近しい物を感じる。此が経験の差。

 其にしても変わり過ぎな気が如何してもしてしまうが、何が如何なって彼は変わってしまうのだろうか。

 まるで自分みたいに全く別神(ベツジン)へ入れ替わってしまったかの様だ。こんな本性を普段の彼が隠していたとは思えない。

 隠していたとかではなくて別物、明らかに癖や立ち姿が違う。

 見れば見る程不思議だ。一体如何なっているんだろう・・・。

 任せ切りにはしたくないけれども、如何サポートすれば良いかも不明だ。

 其程迄に差がある。彼とカリオンの間に入る事なんて出来ない。

 固唾を呑んで二柱の事を見詰める。一進一退と言うより、カリオンが其以上踏み込めない様子だ。

 カリオンのナイフを彼は只黙々と弾いていた。勿論只弾く丈なので進展はないが。

 其でも状況が変わってしまった事にはカリオンも気付いていた。変化を起こせない(ママ)に時が過ぎて行く。

 でも次第に、明らかにカリオンの動きが鈍って来た。今迄全体で一つになって動いていた触手が段々と動きを止めて行ったのだ。

 カリオンの意思に、躯が追い付けていないのだ。此は疲労か、少し上体もぐらついて来た。

 其の隙を今のベールは見逃しはしなかった。カリオンの躯が傾ぐのに合わせて彼も上体を下げ、掠める様に彼へと肉薄した。

 反撃に出ると思ったのだろう、カリオンは初めて迎撃の体勢を取る。

 だが彼の狙いは別にあった。低く迫った彼は、カリオンが掲げていたナイフの柄を叩いたのだ。

 其丈でカリオンはナイフを取り落としてしまう。あっと言う間の事だった。その刃が落ち切る前にベールはキャッチし、一歩下がる。

 そしてちらと飃を見遣るとナイフを手渡した。無言だが、受け取れと言う事だろうか。

 其の時初めて飃はベールの目を見たが、予想通り其の色は冷たく澄んでいた。

 でも敵意は感じない。只淡々と作業を(コナ)す様な、何も感じていない目だ。

「あ、有難う御座いますベールさん。」

一先ず、武器を奪ってくれたと言う事なのだろう。しっかりナイフを握り締めて改めてカリオンを見遣る。

「やってくれたね。もっととろくさい奴だと思ってたのに。」

「カリオンさん、僕達は戦いません。だから、もう一度話し合うチャンスをくれませんか?」

「フン、武器も取られちゃあ拒めないよ。君達からしたら裏切ったのは私だろうし。」

荒く息を付いてるが、思ったより疲れが溜まってしまっていた様だ。

 突発的にナイフを振るったのもあるだろうし、精神的に疲れてしまったのかも知れない。

「僕は然うは思っていませんよ。だから大丈夫です。未だ話す余地はある筈です。」

「・・・っ⁉わ、わぁあああっ!な、なな、そ、然うだ飃さん大丈夫ですか⁉」

突然はっとした様にベールの背が伸びるとガバリと振り返って来た。余りの勢いについ身構えてしまう。

 涙目になって遠慮もなく近付いて来る様は間違いなく何時もの彼だった。

 彼は自分の手に矢があるのに気付き、次いで飃の手にナイフがある事にも気付いた。

 すると如何言う訳か・・・ガタガタと震え始める。

「え、ど、如何しましたかベールさん⁉」

若しかして発作とかだろうか。先も病名みたいな事を口走っていたし。

 急ぎ詰め寄ろうとしたが、ベールは更に一歩下がってしまった。

「も、若しかして僕、飃さんを・・・?其とも飃さんが僕を処分しようと・・・。」

何だかとんでもない勘違いをしている気がする。まさか記憶がないのだろうか。

「ベールさん落ち着いてください。大丈夫ですよ。此のナイフは使わないです。」

「でも其の怪我は僕の所為で・・・っ、噫、御免なさい飃さん、僕が不甲斐ないばっかりに処分しようと、」

「・・・如何しちゃったの、彼。」

「若しかして記憶、無い?」

「エ、ベール先凄くかっこよかったよ。ネ、忘れちゃったの?」

「え、え、僕がかっこよく・・・?」

本気で分からないらしく彼は何とも間の抜けた顔をする。

「然うだよ。君が私からナイフを盗ったんじゃないか。」

「・・・あ、ま、まさか又僕やっちゃったんですか?」

少し整理は出来たみたいで彼は目を(シバタ)かせた。

良かった、一応思い当たる所はあるらしい。

「はい、あの、僕は余り詳しくは存じ上げませんが、何やらベールさんが(ツヨ)くなるタイミングがあるとか。屹度其だったんですよ。」

「グログロ・・・?」

「あ、其、グログロgrotesque中毒発作症候群です。う、やっちゃったぁ・・・。」

何だか頭を抱えてしまっているが、彼の御蔭で自分は助かったので感謝こそすれ、困る事はない。

 只、若し副作用とか反動があってもいけないので其の辺は聞きたいけれども。

 勿論カリオンさんの事も気になるけれども、彼が困っているみたいだし、一つずつ整理しよう。

「具体的に其がどんな物なのか伺っても良いですか?」

「うぅ、はい勿論、僕もちゃんと話していなかったので。えっとグログロgrotesque中毒発作症候群、此はまぁ病気みたいな物で、一時的に殺人鬼みたいになっちゃうと言うか・・・。」

頭を掻き、彼は困った様に息を付いた。

 殺人鬼、思わず(ヨル)の彼を連想してしまう。其の姿とベールは余りに懸け離れているが、先のを見てしまっては・・・。

「殺人鬼、矢っ張り(ツヨ)い。」

「いやいやいや、僕如きがそんなっ!其に実際に殺した事なんて一度も、一度もないので!」

目をキラキラさせる鏡に全力で首を左右に振る。

 其の様を見てカリオンは大きな溜息を付いた。

「何かそんな奴にしてやられたと思うと腹が立つね。」

「っひぃ!そんな、普段はこんななので(ユル)してくださいぃ・・・。」

直ぐ土下座モードに入ってしまった。そんな彼の頭をツンとZ1-Θは(ツツ)く。

「御蔭で無事収まったんです。凄い事ですよベールさん。」

ちらと顔をあげると彼は照れる様に笑った。

「でも如何して先急になったの?いっつも其ならかっこいいのに。」

「いっつも、失礼。今のベール、好き。」

「え、えとその、発作が起こるのは例えばグロテスクな物を見たりとか、血とか、然う言うの考え過ぎちゃうとふっと意識が無くなって・・・。」

「何其の変梃(ヘンテコ)能力、病気なの其。」

「うぅ、僕は生まれ付きなので何とも・・・。でも、何だか殺人鬼の魂が乗り移ってるとか、色々怪しいのは確かだし。」

彼も其の辺ははっきりしていないみたいで急に口籠る。

 まさかそんな奇病があったなんて。世界は広いと飃は思わずにはいられなかった。

「分かりました。教えてくれて有難う御座います。因みに何処か痛いとか、反動や影響は大丈夫ですか?」

「其は・・・其の間の記憶が無い位だから特には何も。」

きょとんとしている辺り、本当に大丈夫な様だ。だったら良かった。

 でもグロテスクってそんな酷い事にはなっていなかった筈だけれども、丁度のタイミングで起きたのだろうか。

 一応加減を知って置きたいし、少し聞いてみる可きだろうか。

「あの、ベールさんもう一つ丈済みません。先其が発症したのって、何が原因なんですか?そんな強い発作が起こる様な事にはなっていなかったと記憶しているので。」

「其は・・・あの、ほら、飃さんが怪我をしちゃったから、皆やられてしまうのかと想像すると・・・恐くなっちゃって。」

如何やら想像丈でなったらしい。そ、其は其で凄い。

「失礼しちゃうね。結局返り討ちされた訳だし。」

「す、済みません。僕想像力は豊かだって良く言われるから・・・。」

でもベールが止めてくれなければ其の想像通りと迄はならないにしても、近い事は起こっていたかも知れない。

 何はともあれ、助かったのは事実だ。彼ももっと自信を持って欲しい。

 其に言い方は悪いけれども、ちゃんと其をコントロール出来れば彼は凄く(ツヨ)くなれる気がする。

 殺人鬼と言っても先の彼はカリオンを傷付けようとはしなかった。ナイフを奪い、彼の戦闘意識を削ぐ事のみに注力してくれたのだ。

 とすると理性は働いている訳で、純粋に戦闘能力が上がったと思えば・・・。

 一点問題があるとすれば、発作が起こる前に彼はショッキングな経験をしないといけない点だけれども。

 ・・・うん、此については又何処かで彼に聞いてみよう。初めて其の現場を目撃したけれども、すっかり僕は助けられたので、彼の力になってあげたい。

 残る問題は・・・彼の事だけれども。

 ちらとカリオンを見遣ると彼は別段何とも思ってなさそうだった。

 只疲れていた為に座って休んではいたが、触手の動きも戻って来たみたいである。

「カリオンさん、御待たせしちゃって済みません。もう大丈夫そうですか?」

「ん、まぁね。話位はしてあげるよ。」

「もう、喧嘩しない?」

「分かってるよ好きに聞いてよ。此処から出たいって点では一緒なんでしょ私達。」

「はい、もう一寸(チョット)ですので頑張りましょうカリオンさん。」

掠り傷程度で済んで良かった。彼はもう落ち着いたみたいで頷いてくれる。

 一時は如何なる事かと思ったから・・・喜ばしい事だ、本当に。

 只、矢っ張り()の事について聞かないといけない問題は残っているけれども。

―ふーん、やるねぇ君達。中々変化に富んだ面白い場面だったよ。―

「モウ、君の所為で屹度カリオン怒ったんだよ。もう意地悪しないでね。」

Z1-Θが小さく水を吐くと、慌ててツキの獣は少し高めに浮遊した。

 其でも尾の先に水が掛かったらしく、軽くツキの獣はZ1-Θを睨んでいた。

―もう止めてよ八つ当たり。只済んだ事を其の(ママ)伝えた丈だよ。話し合っていない君達の問題でしょ。―

「其も然うだけど、そんなズカズカ入り込む君も、良い性格とは言えないよ。」

―そんな事はもう良いから話しなよ君達。―

如何やら彼は只事の成行きを見ていたいみたいだ。確かに其は良い趣味とは言えないが。只ごたごたがあったので存在を忘れ掛けていた訳だけれども、ずっと彼は其処から見ていた様だ。

 話せと言う事なら其の通りにしよう。カリオンさんの事を分かっていないのは変わりないのだから。

「其ではあのカリオンさん、蒸し返す訳ではないですけど、出口についてとか伺っても良いですか?」

「まぁ・・・良いけど、でも正直言って、私出口の事はちゃんと知らないよ。」

「え、えぇ、そ、然うなんだ・・・。」

「先あんな風に聞かれたから、若しかして(アレ)が然うだったのかなって気付いた位で、確証はないよ。()の道、嫌な事だから言いたくなかった丈。」

如何やら嘘はない様に思える。触手を絡めて、まるで腕を組む様にすると彼は鼻息を荒くした。

 疑うのは簡単だろうが、先の事は一度忘れて彼と向き合う可きだろう。

「其なら僕達裏切り者じゃないんだし、攻撃しなくて良かったのに。」

「・・・フン、まぁ其は悪かったよ。裏切り者は言い過ぎたけど、私が其丈聞かれたくないって事は分かったでしょ。」

「でもナイフ危ない、駄目。」

「はいはいもう良いよ、其は君が持ってたら。出口の事は軽く話すから。」

触手でナイフを指差したので、言われた通りにする。危ないのは事実なので自分が持っていよう。

「・・・言っても出口は多分罠なんて無いよ。あんな罠一つで十分だろうし。」

「然う、なんですか・・・?」

彼が出て行かなかった事が如何にも引っ掛かるけれども。

 でも罠自体は一つあった様だ。でも其がもう何か分かっているのなら。

「罠、もう無い?」

「・・・彼奴が起動させちゃったからね。」

急に声を潜めてまるで独り言の様に呟いた。

「彼奴って若しかして、」

「そ、()の裏切り者だよ。」

其は若しかして・・・彼が裏切り者と呼んだ理由は其処なのだろうか。

 何となく然う思えば裏切り者の意味が見えなくもない。

 罠が何なのか分からないけれども、例えば一度出たら其の出口は使えなくなるとか。

 カリオンさんを裏切って彼が出てしまったからカリオンさんは迷わされた、なんて。

 一寸(チョット)飛躍し過ぎな気もするけれども、可能性はあるんじゃないだろうか。

 じゃあ今自分達が出口を目指す意味は無くなってしまうけれども、如何言う物かは見極めないと分からないか。

「今、僕達が出口の方へ行っても大丈夫と言う事でしょうか?」

「・・・・・。」

途端又口を噤んでしまう。考え込む様に横筋の目は細められた。

「・・・然うだね。一先ず安全ではあると思うけど、保証はしないよ。」

「で、でも行くしかない、でしょ?」

恐る恐るベールは一同を見遣るが、頷くしかない。

 どんな罠なのかは・・・見てみれば良いだろう。其の言い振りだと彼は語りたがらないだろうし。

「皆行く、もう大丈夫?」

「はい、では行きましょうか。」

手にしたナイフの冷たさが如何にも慣れないけれども。

 すっかり血は溜まってしまって所々に血溜まりを作ってしまっている。其が何だか急かしているみたいで足を動かす。

―もう行くんだね。じゃあ左様なら。君達の変化、楽しみにしてるよ。―

 然う言うとツキの獣は通路の奥へと消えてしまった。

「何だい、言う丈言って行っちゃったよ。」

「然うですね。でも一応、出口の事が知れて良かったです。」

「如何だかね。まぁ・・・見たら分かるよ。」

ツキの獣が通って来た道なのだろうし罠はもう(ホトン)ど無いだろうが、ベールの事もある。

 一同は慎重に角を曲がって進んで行った。

 すると確かに途中の曲がり角から今ではもう見慣れた血の跡が覗いたのだ。

「此って若しかして、」

「・・・然うだね。此の(ママ)真直ぐで良いと思うよ。」

ツキの獣の言う通りだ。カリオンは此の先に行っている。

 今迄なら此の跡を見付ければ引き返していたけれども。

 出口は近い。でも何だろう此の胸の閊えは。

 此の(ママ)進んで良いのか、其を目にして良いのか、嫌な予感が(ヨギ)る。

 其を何とか振り切って一同が足を向けると、終に視界が開けた。

 其処は此迄通った通路とは違う、大部屋に繋がっていたのだ。

 確かに今迄も時々大部屋の様な所に出た事はあったが、其の時は決まって罠があった。

 其処には確かに例に漏れず何かはあったのだ。

 一同は其処に釘付けになってしまう。もう逸らす事なんて、見なかった事には出来ない。

 其の先から・・・(ヒカリ)が漏れていると言うのに。

 壁には見慣れない扉があったのだ。重々しく金属で出来た両開きの扉が。其が本の少し開いていて、眩しい(ヒカリ)が漏れ出ている。

 こんな闇の中の一条の(ヒカリ)、其なのに誰も其方には注目していなくて。

 視線が注がれた大部屋の中心、其処にあったのは、所謂ギロチンだった。

 大きな刃を備えた台。無慈悲な、でも偸閑(アカラサマ)な処刑器具。

 でも其は既に刃が降りてしまっていた。役目を終えて台は沈黙している。

 そして其処に横たわるは(クロ)い大きな躯。冷たい床に四肢を横たえ、ピクリとも動かない。

 そんな姿に何処となく既視感を覚える。

 全身を覆う触手、僅かに蹄が覗いている。

 でも其の先にある物は無く、少し離れた所に転がっていた。

 立派な巻き角を備えた羊の頭だ。(アカ)い血を滴らせて、もう其の開き切った目は渇いてしまった様に見える。

 其の姿は見比べる迄もなくカリオンそっくりだった。明らかに彼と同種だ。

 もう死体は幾らか其の(ママ)にされていたみたいで、血も渇きつつある。何処となくした死臭に思わず顔を(シカ)めた。

「・・・もう動いていないの?」

そっとZ1-Θは近付いたが、触れはせずに見詰めていた。

「然うだよ。自分から其に掛かるなんて大馬鹿でしょ。」

「如何してこんな事に・・・。」

ギロチンなんて罠とは系統が違う。

 自ら首を乗せると言うか・・・置かないと斬られない訳で。

 其とも先の罠みたいに何らかのスイッチでも押すと行き成りギロチンが現れて斬られでもするのだろうか、だとしたら恐ろしいけれども。

 そんな見ていたい物でもないのでそっと目を逸らす。そして其の先の扉を見遣った。

 少し開いているけれども(アレ)が出口じゃないだろうか。明るい(ヒカリ)が懐かしく感じる。

「此方が出口でしょうか。其らしき(ヒカリ)が出ていますよ。」

「・・・みたいだね。其の時は其所じゃなくて気付かなかったけど。」

まぁこんな所で仲間に死なれては気も動転するとは思う。

 只何があったのかは見た丈では何とも言えない。恐らく此処の死体がカリオンの言う裏切り者だろうけれども。

 思っていた状況と違ったから頭に入って来なかったのだ。てっきりカリオンが此のナイフで・・・。

 いや、でも然うだ。ナイフでなくても、もし彼をギロチンに掛けたのが・・・カリオンだったら、

 一瞬其の考えが(ヨギ)って思わず身震いした。

 ない、ないとは思う、信じている。でもずきんと、斬られた所が痛んだ気がした。

「此の出口って出ても大丈夫、なんですかね。」

如何しても今迄の流れから素直に喜べないのだろう、罠の可能性を考えて扉へ飛び付く者はいない。

 死体もあるのだから猶の事だ。生々しい被害を見てしまった。今迄無事対処は出来て来たが、一歩間違えたら()うなってしまっていたのかも知れない。

 其の思考が足を鈍らせる。如何しても直ぐには動けない。

「流石に、もう罠は無いと思うよ。」

「此、どんな罠?」

「ん・・・ほら此処、何か書いてるでしょ。」

カリオンはずかずか死体へ近付いて行く。流石に気後れしたので遅れて見ている事にした。

 カリオンが指差すはギロチンの足元だった。其処に小さな傷の様な物が刻まれている。

 流石に其は近付かないと見えない。慎重に付いて行って覗き込む。

 如何やら先の傷は文字の様だった。一部血で汚れているが、何とか読む事は出来る。

 でも此の内容は・・・、

「・・・犠牲(イケニエ)を捧げれば出られる、ですか。」

少し特異な文体で書かれていたので読み難いが、恐らくは然う読み取れるだろう。

 犠牲(イケニエ)、と言う事は此の死体は・・・、彼が死んだから扉が開いたとでも言うのだろうか。

「然う言う事。最初私が来た時はぴったり閉まってたし、別に出口の確証もないし、だから無視したんだよ。だのに其奴が。」

目を細め、カリオンは小さく溜息を付いた。其の間も飃の手にあるナイフから血が滴る。

「もう此しかないからって自分から首突っ込んだんだよ。頭おかしいよ。自分は死んで出られるし、私は扉から出られるって。そんなの勝手に決めてさ。」

「じゃあ此の方は自ら此の台に・・・?」

「然うだよ。流石に私も最初は冗談かと思ったら本気だったみたいで、だから前に出てナイフで脅したんだけど。彼奴、刺さってでも突っ込んで来て、此の様だよ。」

堰を切った様にカリオンは口早になって語り続ける。

 目の前の、もう聞こえもしない死体を責める様に。

「其って、じゃあナイフは其の時に・・・?」

彼が刺した事には変わりなかったが、其は余りにも違う物語の様に感じた。

 自ら断頭台へ赴く彼を止める為にナイフで脅して。

 其で刺したと言う事なら、彼の腹の方だとかに傷があるのだろうか。

 其でも止められずに結局彼は此処で・・・。

 出口をカリオンが認識出来なかったのも頷ける。こんな事が起こった後に正常な判断は難しいだろう。

 でも其の生贄(ギセイ)の御蔭で出口は・・・開かれている。

 改めて自分の手に握られていたナイフを見遣った。

 未だに血が止まらない其の先を。

 此の血は如何なのだろうか。止まらない血なんて一見呪いの様に感じるけれども。

 でもカリオンが此の血を道標として来た様に、此の血には随分助けられて来た。

 漆黔(シッコク)の迷宮に唯一彩を付けた物。此が無ければもっと自分達は迷い続けていただろう。

 其の果てに此処へ辿り着いた。其の意味を如何捉えるだろうか。

「・・・此の血は僕達を此処へ導いてくれようとしたのかも知れませんね。」

ちらとカリオンが此方を見詰めた。其の視線の先でぽたりと一滴零れた。

「はは、何其。君結構ロマンティックなのも行けるんだ。」

「何となく今の話を聞いたら然う思った丈ですよ。彼は約束を護ろうとしていたかも知れません。」

そっと飃はナイフをカリオンへ向けた。慎重に持ち直して柄の方を彼に向ける。

「?何、返してくれるの?」

「はい、此は貴方が持つ可きだと思いましたので。」

触手が伸び、ナイフを絡め取る。

 此で良い、此の方が屹度。

 勿論今してくれた話の全部が全部本当とは限らないんだろう。其こそ自分が怯えた様に、真相は真逆かも知れない。

 ナイフの血だって、僕が勝手に解釈した丈だ。根拠も何もない。

 もっと別の意味、現象が起きていたのかも知れない。考え出したら限がないだろう。

 其でも・・・自分は信じていたい。

 彼の迷い続けた意味を。彼の言葉を。

 カリオンが自分の代わりに犠牲になった彼の事を裏切り者と呼んだ理由は何となく分かった気がしたから。

 誰かと一緒に居る事を彼は何度か求めていた。離れるのを嫌ったんだ。其なら、

 ・・・うん、僕は今の言葉を信じたい。一度違え掛けたけれども、其でも。

 ちらと振り返ったけれども、誰も異論は無い様だった。カリオンがナイフを持っても怯える事はない。

「・・・本当君ってば皆に良い顔するねぇ。でも此処迄其を貫けたのは流石だよ。」

一度ナイフの背を眺めると、カリオンは其を触手の中へ仕舞った。

「ネ、此出口かな?皆行ってみる?」

「うぅ、僕、本当に生きて出られるなんて・・・皆さんの御蔭ですぅ!」

膝を着いてベールは(ヒカリ)を仰いでしまっている。余っ程生還が嬉しい様だ。一番生の実感を得ているのだろう。

「皆頑張った、偉い。」

「然うですね。大丈夫ですよ。此がずっと探していた出口です。」

胸の(ツカ)えはすっかりなくなっていた。今なら分かる、此の先へ進めば、此の次元が呼んでいると。

 何があるのかは分からない。でも此の(ヒカリ)に嘘はないと信じられた。

 屹度、自分達も此の迷宮に迷わされたのだろう、躯丈でなく心も、懐いも。

 でも共に出口を見付けた今なら・・・迷いはない。

「・・・フン、私を裏切った事、絶対に忘れないから。」

一度振り返ってカリオンは見送る乾いた眼を覗き込んだ。

「でも、君を裏切り者だって言った私も、裏切り者だったんだね。」

薄く(ワラ)うとカリオンは蹄を鳴らす。

 (ヒカリ)の方へ一歩ずつ、ナイフをしっかり離さずに。

 一同の姿は扉の先へと消えて行った。

 残るは只の闇、もう彷徨(サマヨ)う者はいない。

   ・・・・・

(ヒカリ)の先に貴方は居ない

何故なら貴方は裏切ったから

貴方が待つ所に私は居ない

何故なら私も裏切ったから

其でも約束は此の胸に、懐いと共に引き連れようか

其が裏切り者同士の約束だから

 はい、今回もある意味御茶会×2の再来でしたね。御喋り会!

 不思議と前より穏やかになりましたね。ホトンど血も出ない綺麗な御話です。

 やぁっと丗曦も出せて本当に良かった…もっと彼には頑張って貰わねば!

 因みに今回の迷路の御話は、中学時代に書いた黒歴史満載の詩から抜粋しました。

 裏切りとは如何言う意味なのか、其を考えて書いた作品です。大分曲解して書き出してみました。

 何となく最近、次元のストーリーが一寸チョットもやっとする感じで終わるのが増えましたね。良いと思う、全部藪の中に隠れてしまえば良いと思う。

 其を掻き分けて進もうとする者が咬み付かれる様な話を書きたい、其丈です。(趣味が悪い)

 次回は正にそんな御話です。書いていてこんなに楽しかったのは久し振り!

 と言う事で今から頑張って校正しようと思います、来週縁がありましたら御会いしましょう!

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